あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

オレンジ色の使い魔-03


翌朝、トリステイン魔法学院、食堂の裏手。
 職員と生徒向けに朝食を用意し終え、使用人のひとりが肉や野菜の端切れを満載した台車を押して使い魔の餌場へ
と向かう。
 毎年のことだが、新しく召喚された使い魔がどれほど餌を食べるのか事前に見積もるのは難しい。
 だからこの日は料理長と経理長が使い魔の餌にまで配慮する。
 貴族子女の食べ残しを与えれば安く上がりそうなものだが、残飯を与えることは使い魔ばかりかその主をも侮辱す
ることであるとして禁止されている。
 だから、肉も野菜も使用人の賄い料理に使うのと同じもの、良い部分を貴族用に切り分けたあとの残りが用意されている。
 餌場につくと、すでに使い魔たちはその食性に分かれて集まっていた。
「ふむ……殺したてとは言いがたいな」
 ふいに背後から声を掛けられ、使用人は驚いて餌やりの手を止めた。
 振り向くと、毛皮に覆われた壁があった。使用人は二度驚き、すぐに思い出した。あの可哀想なミス・ヴァリエール
の使い魔だ。
 ヴァリエール公爵の三女が「魔法成功率ゼロのルイズ」と仇名され生徒たちから馬鹿にされていることは使用人の間
にも知れ渡っていたし、その彼女が昨日初めて魔法に成功して立派な使い魔を召喚した噂は昨日の夕食の配膳と片づけ
中に聞いたことだ。
 なるほど大きい。しかも人の言葉をしゃべるとは珍しい。
「に、肉で良いのかい、ミス・ヴァリエールの使い魔さん?」
「俺は少なくとも今のところ、使い魔ではない。ヴァリエールの客と言うのが今の立場だが、人間の食事は口に合わぬと
 言ったらこちらへ行けと言われたのだ。さておき、殺したての新鮮な肉が良い。俺だけでなく、あの竜や火トカゲ
 どももおそらくは同じ意見であろうよ」
 大猫はじろりと使用人の頭から爪先までを眺め回し、付け加えた。
「おぬしの意見によっては、自分で殺したての肉を用意しても良いのだが」

「美味いか?」
 きゅいきゅい。きゅるきゅる。がうがう。
 ハミイーが食事の手を止めて問うと、新鮮な肉塊に群がった肉食の使い魔たちが一斉に返事をした。
 最初に食事係の人間が持ってきた、殺してから時間が経った肉を前にしたときとは勢いが違う。
 地球でもこの惑星でも、人間は新鮮な肉をわざわざしばらく放置してから(そして火に掛けるあるいは湯につけて)
食べる奇妙な習慣を持っていることは変わらないようだ。
 これも不自然な一致だ。
 食性ばかりではない。
 昨日から目にした生き物はどれもハミイーが地球に赴任していたころに目にしたものばかりだ。
 地球に実在しない生き物も居る。たとえば、そこで肉を骨ごと噛み砕いている竜や火トカゲがそれだ。
それ以外にも地球で目にした人類向け娯楽映像に出てくる生き物がこの場所には実在している。
 遺伝子工学を駆使すれば作れるであろうし、進化のきまぐれの中から自然に発生してくることもあろう。だがそれら
の姿がどれもこれも皆、地球で目にしたものとあまりに似通っているのは何故だ?
 しかし、それらの不思議もここの人類が流暢な人類共通語(インターワールド)を話すことに比べればいかほどの
ことでもない。
 クジン人の間でも人類の間でも、交流なく孤立した社会では時間と共に言葉が変化してゆく。再会するまでの断絶が
数世代に及べば、ちょっとした会話にさえ苦労することになる。
 だが、この惑星の人類は流暢な共通語で会話をしている。
 昨日ルイズが語ったことが事実であれば、このハルケギニアは少なくとも6000年に渡って恒星間文明から孤立している。
 地球の人類が恒星間航行技術を手にする遥か以前からだ。
 恒星間航行どころか、昨日の日没後に観察したところでは周囲に街道の照明さえ見当たらず、建物の中にはディス
ポーザーひとつ、電灯のひとつも見当たらない。
 昨夜は夜空も観察してみたが、軌道上に施設がある様子も宇宙船が航行する様子も無く、二つの月の表面を観察し
ても都市の灯りは見当たらなかった。
 さきほど、この食事場まで歩く途中で観察したがガレージに収まっているのは馬(これも地球のものそっくり)に
引かせる車両だ。
 まるで宇宙進出以前の文明、それも機械を普及させるに至っていない文明のようだ。その一方で個人用の重力制御装置
や電灯に相当する器具あるいは能力は存在している。
 どうにも理解しがたい。
 仮に、文明の証拠を秘匿または偽装していると考えよう。では何ゆえに、奴らは人類共通語で会話し既知宇宙(ノウンスペース)
との交流があることを誇示しているのか。
 ルイズが語ったところによると使い魔には言葉を聞き取る能力が付与されるということだが、その言葉さえ人類共通語だ。
 今しがた、人類共通語で話しかけたところ使い魔たちは一斉に返事をした。
 そして、このハルケギニア地域で使われる度量衡の単位はノウンスペースの人類、クジン人が知る範囲の人類が使う
単位系に酷似している。
 あまりにもあからさまにノウンスペース文明圏との繋がりを誇示し、そして何かを隠している。
 ふたたび、ハミイーは骨付きの肉をかじりはじめた。
 腰に下げ、たっぷりの毛で覆い隠した携帯通信機を試すのはそれなりに調査を進めてからのことだ。
 何も判らぬに等しい今の状況で救助や増援を求めることは、ハミイーの誇りと立場が許さない。
 嘘、謎、未知。何かを突き止めてからでなくてはなるまい。

 生徒と使い魔がそれぞれに朝食を終え、新学期最初の授業が始まった。
「みなさん、春の使い魔召喚は大成功のようですね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に、様々な使い魔たちを
 見るのがとても楽しみなのですよ」
 教壇から教室を見渡し、おっとりした声でシュヴルーズが言う。進級したばかりの新二年生たちはそれぞれに使い魔を
従えている。
 大きすぎて同じ席につけない使い魔は教室の後ろに、さらに大きな使い魔は教室の外に。
 ルイズは思わず身を縮めた。自分は確かに召喚には成功したが、まだ使い魔は持っていないのだ。進級試験の条件は
「召喚成功」と明記されている。
 これまで召喚に成功して契約できなかった例は記録にないらしく、自分は条件の隙をついて進級したことになる。
 にも関わらず、今日は今の所は周りの生徒から嘲笑を浴びせられてはいない。視線の多くは相変わらず非好意的だが、
一応は魔法に成功するところを見せたのだ。
 これから他の魔法も成功してゆけば良い。両親も姉たちも、最初に魔法を成功してからは次々に他の呪文に成功したと
言っていた。自分に同じことが出来ないはずがない。
 なにより、父も母も高位のメイジ。その血を受け継ぐ自分はどの程度のことが出来るようになるのだろう?

「ミス・ヴァリエール!授業に集中なさい」
「はっ、はい!」
 授業そっちのけで空想にふけっていたルイズは教師の鋭い声によって現実に引き戻された。
「ちょうど良いでしょう、ミス・ヴァリエール。錬金を用いてこの石を金属に変えてご覧なさい」
 シュヴルーズがどこからともなく小石を取り出し、教卓に載せる。
「はいっ!」
 ルイズは勢い良く立ち上がり、教壇へ歩み寄る。周囲からは非難と抗議の声。
 早速機会がやってきた。『錬金』のスペルは諳んじている。いつか使えるようになる日の為に、読める限りの呪文は
暗記してあるのだ。
『錬金』にはこれまで一度として成功したことは無いが、これが最初の機会だ。
「先生、危険です!」
 女生徒の高い声、たぶんモンモランシ。
「なぜです?」
「ルイズの魔法は爆発するんです」
「それは私も聞いておりますが、昨日サモン・サーバントに成功したとも聞いております。みなさんも最初に魔法に成功した
 時のことを思い出してごらんなさい」
 その言葉に生徒たちは不平を唱えつつも口を閉じ、腰を下ろす。
 ああ、先生も級友--というには親しくはないものばかりだが--も同じなのか。
 これが二つ目の魔法、何をイメージしよう?
 金?銀?高望みはやめておこう、少しずつ上手くなって行けば良いのだ。見渡すと、失礼にも級友たちのほとんどが机の
下に隠れている。使い魔を教室の外へ避難させているものまでいる。
 ルイズは銅のささやかな粒をイメージし、よどみなく呪文を唱えた。
 杖を振り下ろす。
 爆発は教卓を叩き潰してルイズとシュヴルーズを吹き飛ばし、さらに数列の机をなぎ倒した。

「おぬしの魔法はなかなかの出来だ」
 授業が中止になった教室をルイズと共に片付けながらハミイーが言った。ハミイーが軽々と起こして並べなおした机に
雑巾を掛けていたルイズの手が止まり、震える。
「ば、馬鹿にしてるの?」
「なにを言う。これだけ規模の爆発をその小さな棒切れひとつで狙った場所に起こせるとなれば、暗殺でも決闘でも思い
 のままではないか。物質変換などより役に立つ場合もあろうよ」
 狙いどおりの場所には起こせないと言いかけて、ルイズは肩を落とした。ため息をつく。やはり人間とはメンタリティ
が異なるのだろうか。
 しかし、何故使い魔でもないのに自分の手伝いをしているのか?
 ふと気になり、ルイズは尋ねて見た。
「なに、昨日の寝床と今朝の朝食の代償だ。使い魔契約はしておらずとも、利益供与と返還は行えるというわけだ」
「……ありがとう」
「む?まあ良い。聞きたいことがあるのだがな」
 最後の机を並べなおし、ハミイーが問うた。
「わたしに判ることなら」
 雑巾を掛けながらルイズが答える。
「昨日、地図を見ながら説明を受けたところによるとおぬしらの魔法はいろいろなことが行えるようだ。それによって
 社会を支えておると考えてよいのか」
「ええそうよ、でも私は何もできない。サモン・サーバントに一回成功しただけで、相変わらずゼロのルイズ」
「おぬしは物質変換に成功しておるではないか」
 ハミイーはルイズの手元を指して言った。
「このどこが『錬金』に成功してるって言うのよ!」
「その煤はどこから発生したのだ?」
 ルイズは息を飲んで雑巾を見つめた。確かに……チリひとつなく掃除が行き届いていたはずの教室を黒く汚し、
今は自分の手元で雑巾を黒く染めている煤は、いったいどこからやってきたのか?
 しばらく考え、ルイズは掃除を再開した。
 もし自分が煤の錬金が得意なのだとしても、「煤のルイズ」と呼ばれるのは嫌だ。だからこれは錬金の成功ではない。
 しばらく無言で机を拭いていたルイズはふと気づいた。
「ねえハミイー、あなた本当に魔法を知らないの?」
「作り話ではなく実際に目にしたのは昨日が初めてだ」
「でも、『錬金』を物質変換と言い換えたり、概念を知ってるように思えるわ」
 ルイズは考え込みつつ言った。
「うむ、魔法ではなく技術によって同じことを行う事例を知っておるのだ。多少の金と手間を投じれば、物質変換装置
 という機械でいろいろな物質を作り出すことが出来る」
「じゃあ、猫の国クジンでは職人を抱えていれば『錬金』できるの?他にもあるわ、昨日サモン・サーバントで召喚
 されたとき、あなたは『転移』と言う言葉で表現した」
「むむ、これはうかつであったな。まあよい、転移ボックスと言う装置が我々の街のあちこちに用意されておるのだ。
 それを用いることで、瞬時に場所から場所へ移動することが出来る」
「それで……その装置を使って誘拐したと考えたのね」
「そうだ。ただし、普通は転移ボックスで移動できる距離には限界がある。おぬしが俺に対して行ったように光年単位の
 距離を飛び越えることは出来ぬな」
 ハミイーはなぜか探るような視線を向けてきたが、ルイズは気のせいだと思うことにした。猫の表情を人間の自分が
解釈できるはずがない。
 掃除を終えて、ルイズはふと聞いてみた。
「コウネンって何リーグくらい?」


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