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ゼロの黒魔道士-76


クリスタル・ワールド。
全ての、ありとあらゆる世界の記憶が、いつか帰りつく場所。
全ての、ありとあらゆる世界の記憶が、いつか生まれてくる場所。
クリスタルの結晶が道を作って、クリスタルの結晶が空を彩る場所。
不思議で奇妙で、でも懐かしくて、幻想的なそんな場所。

景色を楽しめればいいんだろうけど……
合流したボク達に、そんな余裕は無かったんだ。

「急いだ方が良い」
「え、ちょ、クジャさん!?ひっぱらないで――」

ほとんど、無言で走った。
さっき見た、吐きそうになるぐらい濃い『記憶』。
その記憶が辿りついた場所に、ボク達は走ったんだ。

……全ての始まり、『ゼロ』の場所へ……



ゼロの黒魔道士
~第七十六幕~ 久遠の影



渦巻く光の回廊を越えた先、
綺麗に六角形にそびえ立ったクリスタルの柱の上、
まるで祭壇のような独特の寒さと怖さを感じる場所。
そこに、その男の子は立っていた。

幽霊、ファントム。
第一印象は、そんな感じだった。
何て言うか……薄いんだ、存在そのものが。
放っておいたら、空気に溶け込んで消えてしまいそうに薄い。

その男の子は空を見ていた。
何かが落ちてくるのを待っているように、空を見ていた。
だけど、ボク達の足音が聞こえたのか、ゆっくりと振りかえったんだ。

ドキッとした。
綺麗だから?うん、そうかもしれない。
瞳はそれぞれ色が違うけど、どちらも宝石みたいだし、
肌は真っ白で雪みたい、髪の毛は小麦の畑みたいになびいている。
ドキッとするぐらい綺麗……というより、綺麗なのが怖いんだ。
こう、どことなく不自然な綺麗さ。
自分についた何もかもを、無理矢理にでも全部落としてしまったような、そんな綺麗さ……

「――来ました、か」

笑った。男の子が、笑った。
笑顔が、冷たい。
暖かさというものがスッポリ抜け落ちてしまったような冷たさ。
形だけの笑った顔。中身が無い、空っぽの。

「最後まで幕の裏とは恐れ入るね。行きすぎたどんでん返しの見本としては上々だ」
「フォルサテは――」

聞かなくても、分かってる。
さっき見た『記憶』が本当なら、結果は分かっている。
でも、確かめずにはいられなかったんだ。

「――命って、あっけないと思いませんか?
 永遠を望んでは散り、復活を望んでは絶望し……」
そう言いながら、男の子は自分の手をまじまじと見つめていた。
女の子を救えなかった、その手を。
フォルサテを突き放した、その手を。

「ジュリオ・チェザーレ君だったね?君がフォルサテを殺してくれるとはねぇ……」
「いいえ、僕はジュリオでもチェザーレでもありません……
 名前なんて、とうの昔に落っことしてしまいました。あの子の命と一緒に……」

きっと、この男の子は、名前も、感情も、何もかも、一緒に落してしまったんだと思うんだ。
だから……欲しくなったんだと思う。
足りない何かを、埋める何かを。


「――君は、何を狙っている?」
「単純な質問ですね。
 死の際まで長台詞を歌いあげていた死神様とは思えませんよ」

うまく言えないけど……大切なものがすっぽり抜け落ちて、
ずっとずっと空っぽだったんじゃないかなぁ。
空っぽで、何かを埋めたくて、何かが欲しくなって……

「まぁ、良いでしょう。こちらも単純に――
 綺麗な世界を作りたい、それだけです」
「ほっ、安心した。良い人じゃないか……」

欲しがり続けて、気付いてしまったんだと思うんだ。
いくら求めても、手に入らないってことが。

「――方法は?」
「腐ったこの世界を全て消し去り、この手で再生する――」
「――ゴメン、やっぱり悪い奴だった」
「ギーシュ、あんたは黙ってて!」

手に入らないから、自分には手が届かないから……

「それが可能だ、とでも?」
「今の世界は、存在そのものが罪。
 ――僕と同じですよ。欺瞞と虚言で腐りきっているんです。

 神のためと法螺を吹き、欲のために剣を取り、
 他人のためと嘘をつき、自分のために杖を手に、
 守るために振り上げた手を、奪うために振り下ろす……」

悔しくなって、辛くなって、悲しくなる。
文句を言って、酷いことを言って、空に向かって全部吐きだして。
そうやって、自分の気持ちに整理がついたら、一番良いのにね。
いつか諦めることができて、歩き出せたら、どれだけ良いことなんだろうね……
本当にそう思う。

でも……それでもやっぱり、辛いから、苦しいから……


「ふん、なんだ。
 人の醜い一面を認められないお子様か」
「そんな世界を、『彼女』には見せたくないんです。
 だから、全てを壊し、作り上げたいんですよ。
 綺麗な世界を、争いのない平和な世界を。
 死すら抱きとめてくれるほどの、慈しみの世界を」

何もかもが、許せなくなる。
自分が、みんなが、世界が。
でも、だからって、だからって……

「……そのために、壊すっていうの!?」


そんなの、絶対間違っている!そうだよね?
救うために壊すなんて……おかしいよ、そんなの!

「まさに矛盾だ!争いの種を作る側にいながら、平和の神を気取るとは!
 君こそまさに、君の言うところの『腐った世界』そのものじゃないか!」
「理解を求むるつもりはありません……
 それに、僕も消えますよ。全てを償えば――アズーロ!」

男の子が、手を振った。
指揮者のように、手を振ったんだ。
唸り声どころか、羽音すら聞こえなかった。
真っ青な竜。
シルフィードよりは幾分か小柄だけど……
ガッチガチの鱗に、鋭い爪、
それと……突き出した牙からは、真っ赤な血がまだポタポタ落ちてきていた。
それを気にする様子もなく、瞬きも無しでボク達をただ見ている。
何も考えず、ただ、どうやって壊そうか考えているっていう風に、
動物っぽさが全く無い。まるで、人殺しの武器や道具そのもの。

「うぇ!?」
「いつの間に!?」
「争いの杖を持つメイジに、死神とその人形。
 永遠を生きようとした愚剣……皆さんもどうか邪魔などせずに、
 僕と共に懺悔と贖罪を。」

ズ、ズ、ズ、と急に景色が近付く感じ。
大きな体が突進を始めると、そういう風に見えるんだ。

「デルフっ!!」
「おうよっ!!」

戦うことが止められないなら、戦うだけだ。
デルフを握り締めたまま、ルイズおねえちゃんをかばうように左へ一歩。
キィィィィというクリスタルと竜の爪がぶつかる高音。
近い。クリスタルの破片が空気に混じる。
当たったら、無事じゃすみそうにないけど、避けられないほどじゃない。
よし、反撃開始だ!

そのときだった。
変な、呪文……ううん、違う。
変な、歌?が聞こえてきたのは……

「『激しき怒りと苦き思いを胸に秘めつ』――」

「『錬金』っ!!装着っ!!」
「何、この声……」

まるで、コーラスのように、何千ものバイオリンのように重なる声。
ギーシュが青銅の剣で牙を防ぐカキンって音の裏で、
ゆっくりと、まるで水たまりが広がっていくように、
その変なメロディーががにじんでいく。

「『恐ろしく非情に、しかも何の実もなき虚しい運命よ』――」

「ヴィンダールヴ、あらゆる獣を操る力……見くびられたものだねっ!」
「相棒、頭だ、頭っ!」
「うんっ!!」

ギーシュが攻撃を防いだことで、大きな隙ができる。
狙いは、頭。
分かりやすくて大きな急所。

「『来たれ、来たれ、愛しの人よ、来ずば焦れて死のうものを』――」

「そうれっ!」
「はぁっ!!」

竜は、避けようともしなかった。
変だ。決して弱いはずでも無いのに。
ボク達を倒すことを目的としていないみたいだ。
かといって、ご主人様を守るためってわけでもない……
……まるで……死ぬことを目的としているような……

「『栄光なるものよ、高貴なるものよ』――っ!!」

そう気付いた時には、遅かった。

「ビビ、あっち!早く!あいつ何か唱えて――」

男の子が空を仰いでいた。
そして、笑っていた。
足りない何かを、やっと見つけたって、そういう笑顔だった。

「ありがとう、アズーロ。君が最後の1ピースだ……」

『ゾクッ』って、そういう音がしたんだ。
とんでもないものを、目の前にしているって、そんな感覚。
一瞬で、真冬になってしまったように寒い。
見えているのに、目を背けたい。
見てちゃいけない。聞いちゃいけない。触ってもいけない。
逃げたい。逃げなくちゃまずい。
みんなの足が自然に後ろに下がった。
それが重なって、『ゾクッ』て音になったんだと思う。
地面が、ズズズって低い振動を繰り返していた。

「い、い、い、嫌なよよか予感がが……」
「奇遇だな。おれっちもだ」

ギーシュの歯がガチガチなる音が分かる。
デルフが手の中で震えている。
震えているのは、ボクも?
地面が震えていたと思っていたけど、震えていたのはボクだったの?

「待ちわびましたよ……『憚られし使い魔』君……」

ゆっくりと、男の子の体が大きくなったって、そう思った。
男の子の影が、じわじわと広がっていったからだ。
でも、男の子の体はそのまんま。
まるで、影だけが意志をもったように……

「影が……!!」

そう、影が、影だけが、
男の子から伸びた影だけが、ゆっくりと持ち上がった。
形のない、ぶよぶよの影。
光も何もかも飲み込んで、真っ黒一色の影が、
ゆっくりとその鎌首を持ち上げたんだ。
かろうじて、人の形をしていた。
手足が妙に長くて、頭みたいに見える部分がやけに小さい。
ほとんど真っ黒。違うのは、二か所だけ……
左目の部分は、渦巻くような緑色。
胸の部分には……ルーン文字……?

「アア……ウウ……」

その唸りが、女の人のものなのか、男の人なのか、子供なのか、大人なのか、
まったく区別がつけられなかった。
なんて言うか……『全部の声がした』って感じだ。
1つの生き物が出している音じゃないみたい。
何千万って人が苦しんで呻いているかのような、そんな音だった。

「フフ、名どころか、しゃべることすら忘れましたか……
 君は僕によく似ている。愛する人を失いてなお、生きている。
 その絶望の淵で狂っている……あぁ、本当にそっくりだ」

「ウァゥ……アァ……」

男の子が斜め後ろを振り返るようにしながら、話しかける。
この状況を放っておいて良いわけがないのは分かる。
分かるんだけど……足が動かない。
震えた足に、力が入らない。
怖いって思っちゃダメなのに、震えることが止められないんだ。

「綺麗な瞳だね。
 ウイユヴェール(緑の瞳)、か……そうだ、僕達にぴったりの名が」
「……ア゛ァ……?」

影の唸りが、初めて『声』になった。
ゆっくりと男の子をその緑の左目で見降ろした。
興味深いおもちゃを見つけたって、そんな風に……

「『我は久遠の影となり、我は苦怨の主となり』
 ……『クオン』。それが君と僕の名だ」
「ク……ォオン……??」

その響きがまるで、クリスタルに共鳴するようだった。
クリスタルワールドのクリスタル全部が、『始まりのクリスタル』ですら、
その『クオン』って名前を呼んでいるかのように、一緒にうなったんだ。

「さぁ、全てを終わらせましょう。あらゆる罪を償いましょう」
「クオン……名前、クオン……クオン終ワラセ……クオン終ワル……」

影が、嬉しそうに唸る。
影が、大きくなる。
ありとあらゆる光も、闇も、
全部を飲み込むようにその手を広げて……

「いい子だ。さぁ、おいで……!!」
「終ワラセル……クオン痛イノ、クオン怖イノ、クオン終ワラセル……!!」

男の子の体が持ち上がる。
男の子の体が影の中にズブズブと沈み込んでいく。
それをきっかけにして、影の姿が変わっていく。
真っ黒な影が、飲み込んだ光を虹色に変えて、その身にちりばめた。
弾け飛びそうになりながら、影がより大きく、より禍々しくなっていく。

「――罪を抱きてなお抗う者達よ、業を背負いてなお戦う者達よ」

『絶望色』っていうのが、もしもあるなら、きっとこういう色なんだろうなって思う。
銀色と、虹色と、黒が混じった、禍々しい色。
その色に染まった巨大な体が、ボク達を見下ろしている。
目が3つ、男の子の琥珀とサファイア色の目と、影のもっていた翡翠色のもの。
胸と右手にルーン、それが傷痕のように、裂けて爛れている。
ところどころ、ボコボコと体の表面が膨らんでいた。
その1つ1つが……まるで、人の顔のようで……
その1つ1つが、唸り声をあげている。

「――ォぉぉォオォォォオオおおおオオオオオォオぉおおおオオオオオオオ!!」
って唸り声。
木のうろのように、目も鼻も口も開けて、かろうじて空気を通しているような音。
言葉も、名前も失ってもなお、悲しんでいる、苦しんでいる、
そんな唸り声を、1つ1つの顔が……


「怨嗟の交響曲か……悪趣味だね。美意識を疑うよ」
「く、くくく来るぞぉ!?あのでっかいのが来ちゃうぞぉっ!?」
「ギーシュうるさい!」
「分かってるてぇのぉっ!!  おい相棒っ!」
「う……うん!」

帽子を、ぎゅっと思いっきり引っ張ってかぶりなおす。
震えが、全然止まらない。
それでも、それでも、ボクは、戦わなきゃいけない。
ルイズおねえちゃんを、デルフを、ギーシュを、みんなを、
ハルケギニアを、この世界を……

「懺悔を、贖罪を――
 全てを滅し、清浄なる世を作り出さん……!!」

壊すなんて、そんなこと、させるもんか!!
ボクは、クオンを睨みつけた。
震えは、ほんのちょっとだけマシになっていた。


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