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帝王(貴族)に逃走はない(のよ)!-12


ラ・ロシェールから距離も高さも遥かに離れた場所に浮かぶ巨大な大陸。
通称『白の国』とも呼ばれるこの地こそ、遥か昔から続くハルケギニア三本の王権の一つアルビオン王家が治める地。
そのアルビオンも突如として起こった内乱により、最早王家としての対面を保っていないというのは周知の事実。
アルビオンが誇る王立空軍も王党派が保有する艦は僅かに一隻。
唯一残された拠点も、岬の先に造られたニューカッスル城を残すのみで、たかだか三百の貴族が守る城を、五万の軍勢が取り囲むという絶望的な様を迎えている。
そんな絶望的な状況に反して、城の中のホールの一角では、最後までアルビオン王家に付き従ってきた貴族が全て集まった華やかなパーティが行われていた。

「諸君。忠勇なる我が臣下の諸君に告げる。いよいよ明日、このニューカッスルに立て篭もった我ら王軍に反乱軍『レコン・キスタ』の総攻撃が行われる。
  この無能な王に、諸君らはよく従い、よく戦ってくれた。
 しかしながら、明日の戦いは、戦いではない。恐らく一方的な虐殺となるであろう。朕は忠勇なる諸君らが、傷付き、斃れるのを見るに忍びない」
老齢の王。アルビオン最後の王となるであろうジェームズ一世が、ホールに集まっていた最後の臣下に向けて演説を行いっている。
途中何度も咳き込んだが、足取りと言葉は揺ぎ無い物がある。
もう一度、臣下を見回すと再び演説を続けた。

「したがって、朕は諸君らに暇を与える。長年、よくぞこの王に付き従ってくれた。
 明朝、巡洋艦『イーグル』号が、女子供を乗せてここをはなれる。諸君らも、この艦に乗り、この忌まわしき大陸を離れるがよい」
五万対三百の篭城戦。
ニューカッスルに立て篭もる三百が全てメイジだったとしても、五万という物量の前には全滅は必死。
命に従い、離脱者が出てもなんら咎められるような事は無いのだが、この場の貴族達は誰も返事をせず、逆に一人の貴族が大声で王に告げた。

「陛下!我らはただ一つの命令をお待ちしております!『全軍前へ!退く事なく敵を討てと!』
 今宵、美味い酒のせいで、いささか耳が遠くなっております!それ以外の命令が、耳に届きませぬ!」
その言葉を皮切りに、次々と貴族達が杖を掲げ追従する。
皆が皆、この城で王家と共に滅びる道を選んでいるようだ。
まるで、燃え尽きる寸前の蝋燭のように、明るい宴だった。


第拾壱話『天翔十字鳳』


パーティ会場から少し離れた、真っ暗な廊下。
廊下の途中にある窓が一つ開いていて、そこから見える月を眺めている少女が一人居た。

「どうして、姫様が逃げてって……、恋人が逃げてって言ってるのに、どうしてウェールズ皇太子は死を選ぶのよ……」
空に向け呟くと、その横顔を真珠のような涙が伝う。
アンリエッタの手紙には、ウェールズに亡命を勧めるような内容が書いてあるであろう事ぐらい、いくらルイズでも想像が付く。
なのに、あの皇太子は、決して敵わぬ敵と戦い果てていく道を選んだ。
いや、皇太子だけではなく、この城に残る全ての貴族がそうだ。
それなのに、明るく振舞う様子がとても悲しくて、ルイズは半ば逃げ出すようにして、パーティ会場から走り去ってしまっていた。

「敵に後ろを見せない者を、貴族と呼ぶ……分かってた、分かってたのに、なんでこんなに悲しいのよ……」
あれだけ、常日頃から自分でも思っていた事なのに、いざこうなると、このザマだ。
敵と戦い死んでいく道を選んだ貴族の心情は、分かるはず、分からなければならないはずだった。
だけど、こうしてみれば、直視する事もかなわず、涙が止まらなかった。

「あいつなら……、こんな時どうするのよ……」
遥か彼方。
今頃はトリステインの魔法学院で、一人偉そうに食事をとっていそうな男の事を思い浮かべる。
あの、傲岸不遜の男は、こんな時どうするのだろうと。
敵に背を向けないという所までは同じだろう。
だが、最初から死ぬ事を前提として戦うようなイメージが一切沸かない。
ただ単に、死にに行くのではなく、例え0.1%でも勝機があれば、それを力づくでも奪い取りに行く。
恐ろしいまでの執念と力によって、0.1%を無理矢理にでも何倍、何十倍、何百倍にもする事の出来る男。
それが、ルイズの見た、サウザーという名の帝王の姿だった。

「こんな所に居たのか。急に居なくなる物だから、料理た酒が気に入らなかったのかと、皆、不安がっていたよ」
蝋燭の燭台を手に、冗談めかして話しかけてきたのは、ルイズが涙を流す原因になっているウェールズ皇太子その人。
微笑みながら言う姿を見て、またルイズの目から大粒の涙が零れ落ちた。

「……なんで、明日死ななくちゃならない戦いに出る前なのに、笑っていられるんですか!
 殿下だけじゃなくて、この城の貴族みんなが楽しそうに笑ってる。殿下は、死ぬのが怖くないんですか……?」
ウェールズを見て耐え切れなくなったのか、子供のように泣きじゃくりながらルイズが言う。
さすがに、大使とは言え、可憐な少女に泣かれて少々気まずくなったのか、ウェールズがルイズの頭を撫でると諭すように言った。

「ラ・ヴァリエール嬢。君が私たちの身を案じてくれているのは、よく分かっている。正直に言うと、私たちだって死ぬ事が怖くないわけじゃない」
「だったら!」
「守るべき物があるからこそ、我々に死の恐怖を忘れさせてくれるんだ」
「名誉?それとも王族としての義務ですか?それは、殿下を想う姫様より大切な物なんですか!?」
相手がウェールズである事も忘れ、感情のままルイズが言葉を吐き出す。
それでも、ウェールズはルイズが自分たちの身を案じてくれているからだと思い、優しい笑みを浮かべながら続けた。

「そうだな。大使としてではなく、アンリエッタの友人としての君には言っておこう。確かに、アンリエッタの手紙には亡命して欲しいと書いてあった。
 私の気持ちは昔から、ラグドリアン湖で、君がアンリエッタの身代わりをした時から変わっていない。だからこそ、亡命なんて事はできないのだよ」
「どうして……、姫様も殿下もお互いに愛し合っていらっしゃるのに……」
「私が亡命したりすれば、それはハルケギニア統一を掲げるレコン・キスタがトリステインに攻め入る口実となる。
 もし、私の存在のせいでトリステインとゲルマニアとの同盟が御破算になってごらん?君たちは一国で、奴らの相手をしなくならなければならない。
 トリステインが滅ぶかもしれない、アンリエッタが奴らに捕らえられてしまうかもしれないのに、亡命しようとは思わないのさ。分かってくれるかな、ラ・ヴァリエール嬢」
誰よりも、愛しているが故に、滅びる道を選ぶ。
そんな事を言われては、ルイズとて何も言えなくなる。
ぐしぐし、と涙を袖で拭うとウェールズの顔をただ見つめると、さっきとは違う不安がルイズを襲った。

それは、ウェールズの事ではなく、アンリエッタが背負う哀しみの重さ。
愛が深ければ深いほど、それを失った時の哀しみは深く重い。
あの誰よりもウェールズを愛しているアンリエッタが、それを失った時、哀しみに耐え切れるかどうかルイズは不安だった。

――こんなに苦しいのなら……悲しいのなら……!愛などいらぬ!!

誰よりも愛深かった少年が、非情の帝王へと至った第一歩。
サウザーは、己の手で師を斃してしまったが故に愛を捨てた。
ならば、レコン・キスタによってウェールズを斃されてしまったアンリエッタは、その復讐をするためだけに生きるようになってしまうかもしれない。
あの白百合と評された可憐なアンリエッタが、そんな生き方を選んでしまったら見ていられない。
考えすぎと言えば考えすぎかもしれない。
だが、ルイズにはどうしても、そんな事になるかもしれないという不安が、いつまでも頭の中をよぎっていた。


「さて、私はもう戻ろう。いつまでも席を離れていては、一人逃げ出したと言われてしまっているかもしれないからね」
一応、泣き止んだルイズを見て、幾分か安心したのかウェールズが言うとそう言えば、ワルド子爵に頼まれていた事を言っておくべきだろうと思い、続けた。
「ラ・ヴァリエール嬢。君たちの婚姻の媒酌は、私が努めさせてもらう事になったよ。だから、そんな顔を……?」
婚姻というルイズにとって大切な言葉を聞いても、何故かルイズは窓の外を見続けている。
不思議に思ったウェールズがルイズの顔をよく見ると、不安や悲しみを背負ったような表情ではなく、ただ一心に驚いた顔をしていた。

「で、殿下!あ、ああ、あれは!」
震える声で指刺すので、何事かとウェールズも窓の外を見たが、あまりの出来事に息を飲んだ。
「馬鹿な……!今まで、こんな近くまで近付いてこなかった、いや、攻撃は明日の正午からだったはずだ!]
思わず声を出した先には、一つに重なった白い月を背景にして浮かぶ巨大な戦艦。
レコン・キスタ旗艦『レキシントン』がニューカッスル城の目と鼻の先に遊弋し、無数の砲塔を城に向けているところだった。

攻撃は明日の正午から。
五万という大軍を生かし、数で押してくると思っていた。
だからこそ、最後の華を飾るように盛大な祝宴を行っていた所への完全な奇襲。
この時ばかりは、ウェールズも己の迂闊さを呪った。
通達はあくまで、レコン・キスタが王党派のみに伝えた物。
約定を破ろうが反故にしようが皆殺しにしてしまえば、そういった不名誉な行いが諸外国に漏れる心配は無い。

「おのれ叛乱軍め!そこまでして勝利を得たいか!!」
そう叫び、手から血が滲まんばかりにレキシントンを見つめるウェールズだったが、何か様子が違う事に気付いた。
いつまで経っても砲撃は行われず、高々と掲げられているはずの、叛乱軍の旗が上がっていない。

その変わりに別の旗が靡いており、月明かりに照らされ見えた紋章は、文字どおり血で赤く染め上げられたブラッティクロス。
ルイズとウェールズは知る由も無いが、かつて世紀末において、南斗六聖拳の一人。
KINGこと南斗孤鷲拳のシンが、一人の女のためだけに創り上げた、サザンクロスという街で用いられていた物と同じ。
それは極星・南十字星を意味する、いわば南斗の紋章だった。

突然の来襲に、今まで静かだったニューカッスル城が一気に騒がしくなる。
城にも砲は備え付けられているが旧式ばかりで、最新式の物が積まれているレキシントンとか数も質も違う。
それにこの至近距離だ。
城壁は簡単に砕け、被害はあっという間に城の中へと及ぶだろう。
ウェールズが後ろに居るルイズの手を掴むと走り出し、ホールへとたどり着くと、さっきまでの陽気な様子とは打って変わり、剣呑な雰囲気になっていた。

「父上!ロイヤル・ソヴリンが!」
「分かっておる。女子供はイーグル号と大使殿の船に乗り込むように、と伝えよ。我らは、脱出までの時間を稼ぐ」
言うまでも無く、その事はジェームズ一世に伝わっており、老齢とは思えない指揮ぶりを発揮している。
敵わぬのなら、女子供、せめてトリステインからやってきた勇敢な大使達だけでも逃がさねば、アルビオン王家の沽券に関わる。
盾になる事も辞さない覚悟で命令を下すと、何人もの衛士が青褪めた顔をしてホールに飛び込んできた。

「へ、陛下!正門が破られました!!」
「何だって!?やはり最初からそのつもりだったのか!敵はどのぐらいだ!私自らが陣頭に立ってでもラ・ヴァリエール嬢を逃がさねば、トリステインに顔向けができん!」
「そ、それが……、敵はたったの三人!」
「ば、馬鹿な……!」
あまりの出来事に、ホールに居た貴族全員が言葉を失った。
ニューカッスルは岬の先の小城とは言え、王党派が立て篭もる最後の拠点として、それなりに防衛を整えている城である。
地形の関係上、大軍が動かし辛く、攻めにくく守り易いという立地のため、今まで持ちこたえてきたのだが、それを三人で落としに来たとなれば、声も出なくなる。
あっけに取られていると、扉が紙切れのようにブチ破られ、その残骸の向こうからはルイズがよく見知った男が悠然と歩いてくる所だった。

「な、ななな、なんで、なんであんたがこんな所に居るのよ!」
扉を細切れの木片にし、白いマントを靡かせ歩く近付くのは、聖帝サウザー。
その後ろからは、フードを目深に被った女が二人付いてきている。
一人は、辺りを見回すと探している人物を見つけたのか、薄く笑いながらフードを取った。

「久しぶりだね、ジェームズ一世陛下。モード大公を投獄した時からご尊顔を拝聴していなかったけど、随分と老いさらばえたみたいでなによりだよ」
「貴公は……、そうか、サウスゴータ家の恨みを晴らしに着たか」
ぽつり、とジェームズ一世がそう漏らすと、視線がマチルダに集中する。
見知った者が多く居たのか、随所で声があがっているが、今のマチルダにとっては、そんな事はどうでもいい事で、吐き捨てるかのように続けた。

「勘違いしないで欲しいね。あたしは、あんた達をどうこうしようって気は無いよ。この国が滅びるのを見られれば満足さ。
  この国を新たに治めるのは、アルビオン王家でもなく、レコン・キスタの連中でもない。アルビオンを力で捻じ伏せる事の出来る真の王は、聖帝サウザー陛下ただ一人」
言い終えると、マチルダが方膝を付いてサウザーの前に傅く。
その場にいた貴族全ての視線がサウザーへと向かうが、意に介した様子も無く、相変わらずの薄笑いを浮かべている。
そんな中、怒りの表情を露にしたウェールズが呪文を詠唱を始めた。
しかし、ルイズは、それが何の効果も持たない事を知っている。
まして、武器を向けた者が、全てどうなったかという事も。

「だ、駄目!殿下、逃げて下さい!」
「よすんだ、ルイズ!」
今にも飛び出しそうなルイズの肩をワルドが押さえる。
不思議な事に、口元がほんの少しつり上がっているようにも見えたが、今それに気付いた物は居ない。
杖が向けられ、呪文の詠唱が終わろうとしてもサウザーは指一つ動かそうとしなかったが、詠唱が完成すると同時に、雷のような怒号がホールに響いた。

「驕るな!」
サウザーの一喝。
それだけで、空気が震え、ビリビリと振動が肌に伝わってくる。
サウザーの顔からは、何時もの余裕を浮かべた笑みは消え、どこか怒りすら感じられる。
「うぬら如き痩せ犬を、この俺自らが討ちに来たなど考えるとは、身の程を知れ!!」
凄まじいまでの気迫が辺りを包むと、半ば呆然となったウェールズが杖を落とす。
そして、悟った。
目の前の男には王党派は映っておらず、その先にある物を見据えている。
全てを奪い尽くされ、滅びを待つばかりの王家など、わざわざ手を下すまでも無いという事かと。

先ほどまでの高かった士気はどこへやら。
サウザーは、拳を振るうわけでもなく、ただ一声浴びせるだけでウェールズの心を折ってしまった。
これで士気を維持できる兵が居るなら、是非とも見てみたい。
絶望にも似た雰囲気がホールを支配すると、もう一人の女がウェールズの前へと進み出て小さく言った。

「風吹く夜に、水の誓いを」
「! まさか……アンリエッタ、君なのかい?」
その言葉にウェールズの顔色が変わる。
昔、ラグドリアン湖で、二人だけの密会を行う為に用いた秘密の合言葉。
それを知っている愛しい人物は、遠く離れた所に居るはず。
震えた声で言いながら、フードに手をかけると、アンリエッタの顔が露になった。

「ああ、ウェールズ様!またお会いできるなんて、夢にも思っていませんでした!」
人の目も憚らず、アンリエッタがウェールズの胸の中へと飛び込んだ。
ウェールズはというと、飛び込んできたアンリエッタを抱きしめると、だいぶ困惑しているのか、どもりながら言った。

「ア、アンリエッタ、君がなぜこんな所に……。君はゲルマニアの皇帝と結婚するはず……
  だからラ・ヴァリエール嬢に手紙を返してくれるようにと任務を託した物だと思っていたのに……」
トリステインを守る方法は、ゲルマニアとの同盟を結ぶほかには手が無い。
それが分かっていないはずもなく、同盟の鍵となるアンリエッタがニューカッスルに居る理由が分からなかったのだが
アンリエッタはしっかりとした声で、周りの貴族全てに聞こえるように告げた。

「わたくしは、ゲルマニアとは同盟を結びません」
「アンリエッタ!何を!?」
「わたくしがここに参ったのは、この方の聖帝軍とトリステイン王国が同盟を結んだ事を、皆様にお伝えするためです」
あの時、サウザーが提示した事は、聖帝軍とトリステインとの間に不可侵条約を結ぶこと。
互いに領土を侵さず、共通の敵あれば協力してそれを討つ。

一見、トリステインには何のメリットも無いように見えるが、そうではない。
その理由は、レコン・キスタの目的がハルケギニア統一による聖地回復である以上、遅かれ早かれ戦う事になる。
ゲルマニアとの同盟を結ばず、聖帝軍を選んだのは、サウザーがアルビオンで軍を動かせば、レコン・キスタがトリステインに侵略してくる可能性が少なくなる事が一つ。

ただでさえ先王が死んでから空位が続いているトリステインである。
王位継承権第一位であるアンリエッタがゲルマニアに嫁げば、王位を巡っての争いが起きかねない。
そうなれば、国は荒れ、結局のところ一番の被害者は民になってしまう事が二つ目。

そしてなにより、アンリエッタの個人的感情による物が大きいのが三つ目。
元より、ゲルマニアの皇帝との婚姻はマザリーニが勝手に話を進めたような物で望むところではなかった。
聖帝軍との同盟を結べば、全てが手に入る。
そう考えたからこそ、サウザーの提案を呑んだのだった。

もちろん、この条約はサウザーにとっての利の方が大きい。
その理由の一つとして、将来的に見た聖帝軍の戦力比率の悪さが原因である。
地上は、聖帝サウザーという唯一絶対的な戦力が存在するのだから、野戦なら四倍五倍は当たり前。
拠点攻撃という限られた環境なら、極端な話、一人でも十分過ぎる程なのだ。

だが、空となると話が違ってくる。
レキシントン……、今はまた名を変え、サザンクロスと言う名になったが、それを手に入れても
レコン・キスタが保持する空軍戦力から見れば僅かな物で、空から砲撃を受け続ければ、いかな聖帝軍でも占領した都市の維持が難しくなる。
そこで、地上は聖帝軍が受け持ち、ある程度の補給や空はトリステインが受け持つ事により互いの穴を埋める。
仮に聖帝軍が空軍戦力を揃える事が出来たとしても、それはそれでアルビオン支配が早まるだけであって重畳極まりない。

唯一問題があるとすれば、この軍事同盟はアンリエッタの独断。
トリステイン上層部をアンリエッタが御しきれるかどうかは、執念次第。
どちらに転んだところで、聖帝軍には大した被害は出ないのである。

「同盟って……どういう事か説明しなさい!」
ワルドの静止を振り切ってルイズがサウザーに詰め寄る。
「俺はこの国の全てを奪いに来た。その為には手段は選ばぬ。例え、大した力も持たぬ小国と手を組むことになろうともな」
さりげなく、トリステインを貶しているが、こればかりは事実なので大した反論もできず黙っていると、サウザーが続けた。
「俺の星は将星、南十字星。生まれながらの帝王の星。ならば、帝王という名に相応しい座に付くのが宿命ではないか」
あまりにも風格たっぷりに言うので、ルイズもどこかで納得してしまう。
それでも、言いたい事が山ほどあるのか、ルイズが喚いた。

「なんでよ……!あんたは、わたしが呼んで、召喚して……それなのに、なんでこんな勝手ばかりするのよ!」
「忘れたか?俺を従わせたいのであれば、力で捻じ伏せてみろ。例え俺がこの国を征服した後でもな」
「……わたしには、そんな力なんて無いわ。な……な、南斗爆殺拳……とか呼ばれるようになったけど、結局は何も変わってない、ゼロのままよ」
珍しく、しおらしい事を言うルイズを見て、ほんの一瞬驚いたような顔をするとサウザーが笑った。

「な、何が可笑しいのよ!」
「ふはははは……、見くびられた物だな。この俺が、単に無能なだけのやつを気に入るわけがなかろう」
ルイズはその力から目を背けているので気付いていないのだろうが、その身に眠る力は、少なくとも魔法に興味の無いサウザーには測る事ができない程に大きい。
惜しむべきは、同じような力を持った先人が居ない事。
師事する事が出来なければ、己の力のみで道を切り開くしかない。
なればこそ、時間がかかる。
時間がかかるだけならまだ良い方で、生きている内に力が目覚めるかどうかすら分からない。
だが、もし、力に目覚めれば。ルイズの力が失われているとされる虚無だとすれば、名実ともに聖帝と対等な立場になる時がくる可能性もある。
それを期待しているのだろうかなどと、少し考えたらまた笑った。

毎度の事ながらよく笑うなぁ、なんてルイズが思っていると、なんだかどうでもよくなってきた。
というより、ずっと前から、学院の食堂で顔を合わせた時から分かっていた事を、今になって再認識したにすぎないのだが。
使い魔だとか、そういう枠に収まるようなやつではないと分かっていたはずなのに、何度も挑んでいたのは、ただ単に、純粋に乗り越えたいと思ったから。
超えるべき壁という物を遥かに通り越して、山脈のような絶壁を少しでも登ることが出来れば、何かが変わるかもしれないという淡い期待。
つまるところ、ルイズ自身はサウザーが使い魔になろうがなるまいがどうでもよかったのである。
どこか上の空でルイズが視線をアンリエッタに移すと、二人はなにやら悲しそうな表情で言い合っていた。

「だが……、我らは勝てずとも、勇気と名誉の片鱗を貴族派に見せつけ我らが王家が弱腰ではなかったという事を示さねばならぬ!
  それが、今まで王家に忠誠を誓い、散っていった兵達に対しての義務。王家に生まれたものの義務。内憂を払えなかった王家に、最後に課せられた義務なんだ、アンリエッタ」
「……ウェールズ様は、わたくしよりも名誉の方が大事なのですか?」
「君が大事だからこそだ!愛するがゆえに、知らぬ振りをせねばならぬ。愛するがゆえに、身を引かねばならぬ時がある。
  僕がトリステインへ亡命しても、君の立場が悪くなるだけなんだ。それに、彼らがレコン・キスタを相手にすると言っても、勝てる見込みがあるかどうかすら分からないんだ」
至極、もっともな事を言い、アンリエッタを説得にかかるが、アンリエッタも退かない。
お互いがお互いの身を案じるあまり、議論は平行線を辿っている。
そんな二人を見て、サウザーは、一歩踏み出し、二人に向けて過去を思い出すかのように語った。

「愛ゆえに、人は苦しまねばならぬ」
愛する者を失った者の苦しみは、他人には計り知れない。
「愛ゆえに、哀しまねばならぬ」
愛が深ければ深いほど、それを失った時の虚無感と哀しみは深くなる。
「それを知って、なお勝てぬ戦いを続けるというのか」
ほんの一瞬だけサウザーの表情が、最初に召喚した時のようになっていたのをルイズは見逃さなかった。
ルイズはサウザーに、そんな師との別れがあった事は知らない。
知らないが、何とも言えない、底の見えないような深い物を背負っているような気がする。
サウザーの問いにウェールズは杖を持ち直すと、高々と掲げ宣言するかのように言った。

「我らアルビオン王家の者は、勇気と名誉がある限り、敵に屈したりはしない!」
それを聞いて、サウザーの顔には何時もの人を見下したような笑みが浮かぶ。
よく通る含み笑いがホールに響くと、肩に手をやった。

「ふっふふふ……ふはははは!いいだろう!ならば、その勇気と名誉、根こそぎ奪い取ってくれるわ!」
メイジと違い、サウザーが戦う前にはマントを外す事を知っているマチルダは、巻き添えを恐れ二歩下がる。
サウザーがマントを投げ捨てると、拳を二度鳴らした。

「どう足掻いても埋められぬ格の違いという物を、この俺自ら教えてやろう。一人づつでも纏めてでも好きにかかってくるがいい!」
南斗十人組み手ならぬ、メイジ三百人組み手。
このニューカッスルに残った王党派全てのメイジをサウザー一人で倒すという。
傍から見れば何と無謀な事か、と人は思うだろう。

だが、少なくとも、ルイズとマチルダはそうは思っていない。
その身一つで巨大なゴーレムを砕き、レキシントンを制し、
たった数人でニューカッスルへと乗り込んできた男から発せられる重圧が、決して無謀な事ではない事を示している。

言い換えれば、これは継承の儀。
かつて、そうしたように、新しき者が古き者を打ち倒す。
そうする事で代々鳳凰は生まれ変わってきた。
この国もどうせ滅びるなら、精々派手に滅びた方が時代の節目としては相応しい。

「貴様達に相応しい滅び方を用意してある」
最後まで名誉の為に戦い死ぬというのであれば、それもいいだろう。
圧倒的な力で捻じ伏せ、跪かせるのみ。
これだけの数のメイジ、今のところ絶対数が少ない聖帝軍に組み込む戦力としては申し分無い。
アルビオンを獲るにあたって、障害となる相手を憎んでいるのも御しやすく覇道に役立つ。
このままでも、暗殺という形で敵の首魁を倒し、支配することはできるだろうが、その時に使える手駒が少なければ
その支配を維持する事は極めて難しくなり、結局は群雄割拠のような世紀末状態になりかねない。

本来、敵を対等と認め、虚を捨て立ち向かねばならぬ時に用いる奥義。
三百でも、まだ対等と呼ぶには不足すぎるぐらいではあるが、今はあえてそれで応えよう。
滅びる国への手向けとして、そして何より、極星として輝く為に必要な第一歩を踏み締めるために。

その場から跳躍すると、ブリミル像の頭へ着地する。
ハルケギニアの人間にとっては、不敬極まりない行動であっても、サウザーが気にする事はなく、両手を下げ、そしてゆっくりと構えを取り始める。
すると、ルイズ達でも目ではっきりと分かるぐらいに、サウザーの身体が黄金色に輝き始めた。

「あ、あれは……!サウザーが光に包まれて……」
「聖帝様の姿がまた……!」
ルイズが見るサウザーの全身は闘気で包まれ始め、段々と光の輪郭が鳥のような姿を取りはじめている。
その姿は一種の神々しさすら感じられ、流れるような一連の動作に誰もが思わず目を奪われてしまう。

天空の鳳凰は墜ちぬ。

構えを持たぬ南斗鳳凰拳唯一にして最強の構え。
これこそが、南斗聖拳百七派を以ってしても南斗鳳凰拳ただ一つに決して立ち向かえぬという証。
将星を携えた鳳凰が、再び天空の高みへと昇るべく、遂にその両翼を広げた。


      南斗鳳凰拳奥義

『天 翔 十 字 鳳』



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