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疾走する魔術師のパラベラム-11


第十章 デルフリンガー

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ガンダールヴ/ [Gandalfr]――勇猛果敢な神の盾と伝えられる始祖ブリミルの使い魔。詠唱の時間、主人を守るために特化したとされる。あらゆる武器を扱ったと謳われ、左手に大剣を、右手に長槍を掴み戦ったという。

魔法/[Magic]――メイジが扱う技術。四つの系統があり、それぞれの得意分野が異なる。杖が無いと使えない。火、風、水、土の四系統から成り立つ。


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 結局、シエスタはルイズが個人的に雇った使用人として、これまで通り学院にいることになった。
 住む場所も今までと同じように学院のメイドたちの宿舎に住んでいる。一応、学院の建物なので借りている形になっているので、食堂での手伝いなどほかの学院のメイドの仕事を行うことで手を打ってもらった。
 つまり、全て元通りになったのだ。変わったところといえば、ルイズの身の回りの世話を一貫してシエスタが行うようになったことぐらいである。学院のメイドと同じ仕事をしているとはいえ、シエスタが働いているのは家賃分なので、ほかのメイドよりも仕事量は少ない。その分開いた時間はルイズのメイドとして紅茶を入れたりしている。ほかにも人の良いシエスタは、ほかの仕事の手伝いをしたりもしているようだった。

「どうぞ、ルイズ様。今日はクッキーです」ルイズが雇ってから、シエスタはルイズのことを家名ではなく、名前で呼ぶようになっていた。なんだか距離が縮まったようで嬉しかったり。
 昼休みにはシエスタの入れてくれた紅茶を楽しむことが、日課になっている。ルイズの好みに合わせて、入れてくれた紅茶は美味しい。美味しいのだが。
「あら、このクッキー、美味しいわね。ほら、タバサも食べてみなさい」クッキーを口に入れ、美味しさに頬を緩めるキュルケ。
「ん」サクサクと音を立て、クッキーを頬張るタバサ。
「だからなんでキュルケがいるのよ・・・・・・」
 どこで聞きつけたのかなぜかシエスタとのお茶会には、キュルケがよく同席する。最近はほぼ毎回だ。なぜかキュルケとよく一緒にいるタバサという少女も一緒だった。
 ルイズよりも小柄な体躯と赤い眼鏡、その背丈よりも長い杖が印象的な少女。眼鏡の奥にある氷のように青い瞳と青みがかった髪が、タバサがガリア出身であることを示している。ルイズが実際に見たことのある青い髪はタバサが初めてだ。
 変わった髪の色はハルケギニアの貴族にはよく見られる。ルイズの桃色がかった髪もそうだし、青みがかった髪もまたしかり。案外、タバサは有力な貴族の娘なのかもしれない。
 タバサはあまり喋らない。というかほとんど喋らない。騒がしいキュルケと正反対だ。どうしてキュルケなんかと友人なのだろうか。
「あら、いいじゃない。美味しいものを独り占めしてると・・・・・・太るわよ?」
「うっ、そんなことないもん!」
 実は思い当たる節がある。シエスタを雇ってから、こういうお茶会を開くことが多くなったのだ。そして、その度にコック長のマルトーが腕によりをかけたお菓子を作ってくれる。これがまた例外無く美味しい。
 ルイズは何度もチップを払おうとしたが、決して受け取ろうとしない。曰く『シエスタの恩人だ。チップまで受け取ってたら申し訳が立たねぇ』だそうだ。そんなつもりは無かったのだが、せっかく作ってくれたお菓子を無駄にするわけにはいかないし、我慢することもできないほど美味しい。結果として間食が増えてしまっていた。
「美味しい」タバサは小さい身体に似合わずよく食べる。クッキーを頬張る姿は小動物みたいだ。
「ほら、タバサもこう言ってるじゃない。ね、お願い」
 ちなみに今日のお菓子はサンドイッチクッキーである。サクサクとした食感と間に挟まれたマシュマロのふわふわとした食感が絶妙だ。焼きたてのクッキーは仄かに暖かく、いい香りがする。中にはジャムを挟んだものあり、苺や林檎の甘さがクセになってしまいそうだ。ジャムもマルトーの手作りで、口に入れれば甘い果物特有の香りがふわりと広がっていく。少し濃い目に入れた紅茶が、これが良く合うのだ。マルトーのやたらいい笑顔が目に浮かぶようだった。
「しょ、しょうがないわね! タバサまで追い出すのは可哀想だし、あんたも特別に許してあげるわ!」
「もう、素直じゃないわね」
「ありがとう」
「ふふ、ルイズ様、紅茶のおかわりはいかがですか?」
 シエスタと二人きりのお茶会も楽しいが、キュルケやタバサたちがいるのも楽しい。ルイズは『ゼロ』の二つ名のせいで孤立していた。友達と楽しく過ごすなんて経験が無かったのだ。そんな日常が楽しいとルイズは初めて知った。

「そうそうシエスタ、明日の虚無の曜日は街へ行くわよ」
「街ですか?」
「あら、何か買いに行くの? 私たちもついて行こうかしら」
「ちょっとシエスタの杖を買いにね」
 シエスタもパラベラムとして目覚めた以上、メイジとして偽装しなければならない。メイジとして偽装するためには杖が必要だ。シエスタはメイジではないので、いざという時のことも考えて軍人よろしく、武器を杖にしようと思っている。
「シエスタは平民」タバサが首を傾げ、訊ねる。
 問題はそこなのだ。シエスタは平民であり、平民には魔法が使えない。ハルケギニアの常識であり、貴族の地位を支えている最も大きな要因である。
「実は私の祖父は平民のメイジだったんです。ルイズ様の『使い魔』の力で、私も同じように魔法が使えるようになったのですよ」
 貴族だけが魔法が使える。それはつまり魔法の素質は遺伝するということを示している。ルイズが魔法が使えないのは本当に例外中の例外だ。
 それにシエスタの祖父がメイジというのも全てが嘘というわけではない。シエスタがなぜ、いきなり拳銃型の《P.V.F》を扱えたのかどうか聞いてみたが、祖父が似た魔法を使っていたのを見ていたからだという。

 祖父はシエスタの故郷であるタルブ村にある日、ふらりと辿り着いたそうだ。その頃、祖父はまだ若く十六歳ぐらいだったとか。そんな少年がなぜ一人でいたのか。少年だった祖父は混乱していて、自分は『異世界の人間だ』と言っていたらしい。タルブ村の人たちは放って行くわけにもいかないので、村長の家に泊めていたのだが、ある日、村の近くにオーク鬼の群れが現れた。
 オーク鬼は二本足の豚のような姿をした亜人。五メイルほどもある体長とその重い体重から繰り出す一撃は、人を簡単にひき肉にするほどだ。知能は低いが、それを補うほどの筋力がオーク鬼の恐ろしさである。熟練の戦士が五人でようやく互角というこの亜人は、とてもではないが村人の手に負えない。
 とりあえず領主に兵の要請をしたが、いつになるかはわからない。その話を聞いた少年は、村人に黙って単身でオーク鬼の住処に乗り込んだ。村人たちは少年がいなくなったことにすぐに気づいたが、どうすることもできない。
 オーク鬼は、人間の子供を好んで食べるという習性もある。村人たちが少年の無事を半分諦めていると、少年が腕に見たこともない巨大な槌のようなものを右腕に纏って帰ってきた。
 話を聞くと少年はメイジだったらしい。右腕の槌は少年の魔法らしく、それを使ってオーク鬼を退治したという。恐る恐る村人が住処に向かってみると、確かに生きたオーク鬼は一匹もいなかった。少年は村人たちに感謝され、タルブ村に住み着くことになる。
 やがて結婚し、子供が生まれ、シエスタが生まれた。祖父は村を守る用心棒のようなことをしていたそうだ。シエスタは幼い頃は気が強く、祖父によくついていき祖父が戦うのを傍で見ていたそうだ。
 祖父が話してくれた異国の英雄譚の中でも、『拳銃』はよく物語の主人公が使っていたという。
 ルイズはそれを聞き、一つの仮説を立てた。
 おそらくシエスタの祖父は《パラベラム》。使っていた魔法というのは《P.V.F》だろう。ルイズの錠剤と同じく、何かの魔法でこちらの世界に召喚されたのかもしれなかった。

「へえ、そうだったの。じゃあ、もしかしてその黒髪もお祖父さんの?」
「ええ、そうなんです。良く祖父に似ていると言われました」
 シエスタの黒髪も、この話に信憑性を与えるのに一役買っている。ハルケギニアで黒髪は珍しい。
「系統は?」
「ルイズ様と同じ土系統です」
 シエスタにはあの夜に全ての事情を教えてある。シエスタも《パラベラム》になった以上は一蓮托生だ。《パラベラム》がどんな存在か、《P.V.F》はなんなのか。ルイズの知っている知識は全て教えた。それでもルイズについていくとシエスタは言ってくれた。

――いい使用人に恵まれたわね。

「そういうことなら私も行くわ。タバサはどうする?」
 キュルケもついてくるつもりらしい。
「行く。欲しい本がある」
「決まりね。足にはタバサのシルフィードを使いましょ。荷物なんかも楽だし」
 シルフィードというのはタバサの使い魔の風竜だ。まだ幼生だが、その身体は大きく、飛ぶスピードも馬などとは
段違いである。シルフィードで行けるなら随分行き帰りが楽になる。買い物に行くつもりだった城下町までは結構、距離があるのだ。馬で行くつもりだったが、疲れない、早い、楽、と三拍子揃った風竜で行けるのは有難い。
「しょうがないわね。じゃあ、みんなで行って何か美味しいものでも食べましょう」

   2

 翌朝、待ち合わせしていた場所にいつもの顔が揃う。ルイズ、シエスタ、キュルケ、タバサの四人だ。
 タバサが小さく口笛を吹くと、空に影が現れた。影はあっという間に大きくなり、やがてその姿が竜の形になる。耳をすませば、力強い羽ばたきが聞こえてきた。その緑色の瞳は宝石のように輝いていて、エメラルドを連想させる。
 タバサの使い魔、風竜のシルフィードだ。その鱗は空の青さをそのまま形にしたような深さを湛えていた。美しく空を翔る姿は壮観だ。風竜を使い魔するというのは優秀な証。もっとも、その優秀なメイジはなぜかキュルケに頭を撫でられているが。人は見かけによらないというが、 タバサも将来はスクエアクラスに成長したりするのかもしれない。
「いつ見ても、あなたのシルフィードは惚れ惚れするわね」
「私、風竜に乗るのなんて初めてです」
 シエスタが目を輝かせている。平民にとって風竜は雲の上の存在だ。ちなみに町へ出かけるので、シエスタは茶色のスカートに、木の靴、そして草色の木綿のシャツという素朴な格好している。シエスタのふんわりとした雰囲気によく似合っていた。
「それじゃ、行きましょうか」
「乗って」
 タバサが先頭に座る。キュルケも慣れているのか、颯爽とタバサの後ろに座り、ルイズもそのすぐ後ろに。シエスタが恐る恐るといった様子でシルフィードに跨る。
「つかまって」
 全員がシルフィードの背びれにつかまったことを確認し、タバサが「城下町」とシルフィードに目的地を告げる。シルフィードは返事をするように「きゅい!」と一声鳴き、翼を広げる。幼生とはいえ、迫力のある大きな翼で力強く羽ばたく。離陸独特の浮遊感を感じた次の瞬間には地面を離れ、空を舞っていた。
「わ、わぁ! 凄いです!」さっきまで怯えていたシエスタも空を飛ぶという体験に興奮しているようだ。
 シルフィードは背中に乗せた四人の体重など感じさせない優雅な飛行で、上昇気流を器用に捕らえ一気に高度を上げた。あっという間に地上の学院は小さくなる。
 目指す目的地はトリステインの城下町、ブルドンネ街。

   3

 馬ならば三時間かかる距離も風竜ならばあっという間だ。四人はシルフィードを町の門の近くにある駅に預け、ブルドンネ街を歩いていた。
 石造りの町並みは、日の光を浴びて白く輝いている。大通りは露天商や屋台で賑わっており、果物や肉、変わったところでは酒などを担いだ商人たちが行きかっていた。
 民がここで生き、暮らしている。それを実感できる場所だ。露天商は声を張り上げて客を呼び込み、屋台から美味しそうな肉の焼ける匂いと油の滴る音が聞こえ、人々の隙間を縫って走り回る子供たちは、笑い声を上げて町を駆け抜けていく。
「とりあえず、服屋に行きましょう」
「いいわね、明日は『フリッグの舞踏会』だし、ドレスは決めてあるけど見てみようかしら」
 フリッグの舞踏会は毎年、この時期に行われる舞踏会だ。女神の名前がつけられたこの舞踏会は、生徒や教師の枠を超えて、互いの親睦を深めるのを目的としている。社交の演習などの側面も持ち合わせており、ダンスの相手に誰を誘おうかと期待や不安で授業が疎かになるのもこの時期ではよくある光景だ。
「タバサも着飾らないとダメよ~?」
「シエスタもよ?」
「え、ええ!?」
「当たり前じゃない。舞踏会には私の従者として出てもらうんだから、相応の格好をしないとね」
「あら、面白そうじゃない? 私にも一枚噛ませなさいよ」
 女が三人寄れば姦しい。誰が言った言葉が知らないが、全くその通りだ。一名喋らない者もいるが、ルイズたちは貴族のドレス向けの店へと辿り着く。ハルケギニアで手広くやっている商業組合の店舗なので、品質も保証済みだ。
「おや、これは珍しい。本日はどんなドレスをお探しでしょうか?」
 ルイズたちが店に入ると帳簿になにやら書き付けていた店主が顔を上げる。整った顔立ちに貴族のように艶のある金髪。まだ若さの残る顔立ちだが、その年で店主を勤められるというのは、それだけやり手だということだろう。
「ちょっと舞踏会のドレスを探しにね。この子に似合うそうなのをお願い」
「ふむ、それでしたら・・・・・・アルビオン風の良いものがあります。取ってきましょう」
 シエスタのちょっとした着せ替えショーが始まった。キュルケには、負けていられないとルイズも急いで加わる。シエスタは断るわけにも行かずに、されるがままにされる。タバサはいつも通りだった。

 シエスタが着替えている間、キュルケがなぜかニヤニヤしながら話しかけてきた。ちなみにドレスなど着た事の無いシエスタを女店主は手伝いに行っている。
「ねぇ、ルイズちょっと」
「何よ?」何度かキュルケのこのような笑いは見たことがある。たいてい、色恋関係で誰かをからかう時だ。
「あなた、もうドレスは決めた?」
「まだだけど?」
 ルイズはまだ、どのドレスを着るかは決めていない。実家から持ってきたドレスが何着かあるので、そのどれかにしようとは思っているが。新調するとなるとドレスは結構高い。気にいったドレスが無ければ、無理に新調する気はなかった。
「それじゃあ、こんなのはどうかしら?」
 キュルケがニヤニヤ笑いで耳打ちした内容は、なかなか面白いものだった。

「あ、あのどうでしょうか?」
「とっても良く似合っているわ、シエスタ」とルイズ。
「うんうん、平民とは思えないわ。これなら玉の輿だって狙えるわよ」とキュルケ。
「キレイ」とタバサ。
 試着室から出てきたシエスタはどう見ても貴族の令嬢だった。ふわりと花びらのように広がるスカートに、細やかなレース。白を基調としたパーティドレスは、シエスタの髪の黒をうまく引き立てる。水仕事で荒れた手は肘まである長い手袋が包み、開いた胸元からは女性的な色気を発散させている。
「どこか変じゃないでしょうか? 私、こんなキレイなドレスを着るなんて初めてで・・・・・・」
 もじもじとした仕草で恥ずかしがっているようだが、シエスタは世辞抜きに美しかった。キュルケの言ったことも的を得ている。これほどの美しいならば、貴族からだって交際のお誘いが来るだろう。モットは趣味は悪かったが、女を見る目はあったようだ。
 シエスタの分とルイズの分の会計を済ませ、学院に送り届けるように手配する。結局、キュルケは気に入ったのが無かったらしい。タバサは実家から持ってきたドレスを着るとか。
「ありがとうございます。ルイズ様」
「お礼なんてすること無いわ。アレは私からのプレゼントよ」
 そんなやり取りをしながら、次の目的地へ。

「私たちは武器屋に行くんだけど、あんたたちはどうする?」
「武器屋? 何しに行くのよ?」
「言ったでしょ、シエスタの杖を買いに行くのよ」
《P.V.F》は『錬金』という建前を通す以上、メイジとして偽装する為の杖が必要だ。だが魔法を使えないシエスタが持つのならば短剣などの方がいいだろう。軍人や傭兵は近接戦闘のことも考え、刀剣やメイスなどを杖にしているメイジも少なくない。
「へぇ、ナイフか何かにするの?」
「そのつもりなんですが、店頭で実際に触ってから決めようと思っていまして」
「ふ~ん、どうする? タバサ」
「本屋」どうやらタバサの本命は本屋だったらしい。かなりの読書家らしくいつも本を抱えているし、そういえば図書館で自習する時は本を読んでいる姿を良く見かけた。
「じゃ、私はタバサについていくわ」
「そう。それじゃ、買い物が終わったら中央広場で待ち合わせね」

   4

 ルイズたちは大通りから狭い路地裏に入る。目的の武器屋は平民向けを意識してか、あまり貴族が通るのを避けるような場所に構えているらしい。まぁ、武器屋に用があるような人間は、お世辞にも行儀が良いとは言えないのだろう。
 軍属のメイジがレイピアなどを杖にすることはあるが、そのような貴族の客を専門とする店がある。決闘の時にギーシュが作り出したロングソードがいい例だ。貴族は見栄を張りたがる損な生き物なのだ。となると武器に用がある人間は、平民の傭兵か、犯罪者か、それぐらいなものだろう。
 大通りは活気に溢れ清潔だったとしても一歩、道を曲がれば街は見せる顔を変える。シエスタと二人で歩いているこの道に関しても、ゴミや汚物が道端に転がっていた。悪臭が鼻の奥を刺激するが仕方がない。
「ええっと、この辺りのはずだけど・・・・・・」
 四辻に出たルイズは辺りを見回す。普段、街に出かけてもこのような裏路地に入った事は無いので、油断すると迷ってしまいそうだった。
「ピエモンの秘薬屋の近くでしたよね? それだったら、えーっと・・・・・・あ」
 シエスタが指を指す先には、銅製の看板が揺れていた。
「あれじゃないですか?」
 一振りの反り返った剣。一般的にシミターと呼ばれる刀の形をした看板は、ルイズの探していた武器屋のものに違いなかった。刀身の部分には『獅子の尾』と店の名前が彫られている。
「うん、シミターの看板、間違いないわ」
 ルイズとシエスタは、石段を上り、羽扉を開き、獅子の尾亭に入っていった。

 昼間だというのに店内は薄暗く、ランプの灯りがゆらゆらと揺れている。壁にはクレイモアやフランキスカなどが掛けられて、棚には兜やナイフが並ぶ。隅には大きく立派なプレート・アーマーまで飾ってあった。
周りを見渡せばほかにもパイクやトライデント、ルイズのシールド・オブ・ガンダールヴよりもずいぶんと小さく貧相だがラウンド・シールドも置いてある。品揃えは悪くなさそうだ。
「おや、お嬢様方。こんな汚い武器屋に何の御用で? うちは細々とやっていますので、後ろ暗いことなどありゃあしませんぜ」
 店の奥でパイプを加えていた五十ぐらいの男が、ルイズたちに気づいて顔を上げる。この男が亭主だろう。耳を覆うような帽子をすっぽりと被り、丸眼鏡を掛けている。出っ歯と細い顎が印象的だ。
「客よ」
「こりゃあおったまげた。貴族が剣を! おったまげた!」
 やけに驚く亭主。なんだか芝居がかっており、鬱陶しい。

――まぁ、そりゃそうね。

 ハルケギニアにおいて剣は、あまり脅威ではない。もちろん、刺されれば致命傷になりうるし、斬られれば肉が裂ける。だが、それ以上にメイジの使う魔法は強力だ。
 弱点が無いわけではないが、魔法の使えぬ戦士がメイジを相手にするのは難しい。
「使うのは私です」
「そちらのお嬢さんが?」亭主が怪訝に思うのも無理は無い。シエスタはどこからどう見ても華奢な平民の少女だ。
「最近、魔法が使えるようになってね。でも、あんまり多くの魔法は扱えないから、杖を武器にしようかと思って」
「なるほど、なるほど。杖をお探しですか。少々、お待ちを」
 亭主が奥から出してきたのは長さ一メイルほどのレイピアだった。レイピアは斬るという動作よりも突くという動作に特化した片手剣である。亭主の持ってきたレイピアの鍔の部分は派手な装飾が施されている。
「如何でございましょう?」
 シエスタは色々握ってみたり、構えてみたりして剣の具合を確かめる。
「そういや、昨今は宮廷の貴族の方々の間で、下僕に剣を持たせるのが流行っておりましてね。その際にお選びになるのが、このようなレイピアでさあ」
 なるほど、貴族の好みそうな剣だ。シエスタでもこのぐらいの剣ならば扱え得るだろう。
「貴族の間で、下僕に剣を持たせるのが流行っている?」
 学院は王都から離れているのもあり、あまりこういった噂話は集まらない。生徒の中にはこういったゴシップの類を集めるのを趣味としている生徒もいるが。
「へぇ、なんでも、最近このトリステインの城下町を『土くれのフーケ』とかいう盗賊が荒らしておりまして・・・・・・」
「ふぅん」
「ルイズ様、この剣どうでしょうか?」そういってルイズにレイピアを渡すシエスタ。
 ルイズがレイピアを握った瞬間、体が軽くなった。まるで内観還元力場を展開した時のようだ。そして『武器』の情報が頭に流れ込んできた。
「・・・・・・亭主、これはどういうつもりかしら?」
「と、というと?」
「この剣、見た目が良いだけのナマクラじゃない。こんな剣、牛肉でも突き刺せばすぐに折れるわ」
 それがルイズの頭に流れ込んできた情報。これは儀礼用の剣なのだ。実用性は最初から度外視して作られた剣である。それにしても、この能力はいったい何なのだろうか。
「こ、これはとんだ失礼を! どうかお許しを!」
 どうやらこの亭主、こちらが武器に詳しくないと見抜き、ふっかけようとしたようだ。思い返せば、確かに亭主は剣の性能については何も言っていない。だが貴族相手にそんな詐欺紛いのことをやるとは、見た目は冴えないが商売人としての肝は据わっている。
「ハッハッハッ! ざまぁねぇなぁ親父! ナマクラなんざ売りつけようとすっからだ!」
 どこからか低い男の笑い声が聞こえてきた。
「うるせぇ、デル公! 黙ってろって言っただろ! 商売の邪魔すんな!」
「へっ、何が商売だか。物事の知らない貴族だと思ってナマクラを売ろうとするなんざ、商売人の風上にも置けねぇぜ!」
 シエスタが声のする方へ歩み寄るが、そこにあるのは乱雑に詰まれた剣の山だけだ。どうやら粗悪品ばかりのようで、どの剣も曲がっていたり、錆が浮いていたりしている。酷い物はひびまで入っており、今にも折れそうなものもあった。
 シエスタはそんな中から一本の剣を取り出す。長さは百五〇サントほど。両手で握られるように柄は長めで、細身の刀身をしている。ほかの剣と同じく、表面には錆が浮き、見栄えは良くない。
「け、剣が喋ってる?」
「・・・・・・インテリジェンス・ソード?」
「そうでさ、若奥様。意思を持つ魔剣、インテリジェンス・ソード。剣を喋らせるなんていったい、どこのメイジが始めたんだか・・・・・・」
 インテリジェンス・ソード。剣の他にもナイフなど様々な武器があるらしいが、それらには共通の特徴がある。その『インテリジェンス』の名の通り、知性を持ち言葉を発するのだ。ルイズも実物を見たのは初めてである。
「とにかく、コイツはやたら口は悪いわ、客にケンカは売るわで迷惑していまして・・・・・・。デル公! お前、これ以上失礼をするようなら、貴族様に頼んで溶かしてうちの新しい看板にしてやるからな!」
「面白ェ! やってみやがれ! どうせこの世にもそろそろ飽き飽きしたところだしな! 溶かしてくれるんなら、上等だ! 親父の間抜け面も見なくて済むしな! それだけでも甲斐があるってもんだ!」
 売り言葉に、買い言葉。亭主とインテリジェンス・ソードの喧嘩は傍から見ていて、なかなか面白かったがこれでは話が進まない。
「あーもー、やめなさい!」ルイズの一喝で、とりあえずは口を閉じる一人と一本。口といってもインテリジェンス・ソードの方は鍔をカタカタと鳴らすのをやめただけだが。どこから声が出ているのだろうか。
「え、え~っと、デル公、さん?」シエスタが恐る恐るといった様子で話しかける。
「違うぜ、嬢ちゃん。俺はデルフリンガーって名前がちゃんとあんだ」
 インテリジェンス・ソード――デルフリンガーはようやく自分の名前を名乗った。
「名前だけは一人前でさ」亭主が忌々しげにそう呟く。
 デルフリンガーはいきなり黙ってしまった。その沈黙はまるでシエスタをじっくりと観察しているようだ。
「・・・・・・おでれーた。嬢ちゃん、『担い手』か? いや、アイツとは少し違うな。今度はこういうのってことか」
「担い手?」聞きなれぬ言葉にシエスタも首を傾げる。
「シエスタ、ちょっと私にも貸して」
 シエスタからデルフリンガーを受け取ると、例のあの感覚が体を満たすのを感じた。ようやくわかった。身体能力が上がっているのだ。まる《P.V.F》を展開した時のようだ。そうでなければ、デルフリンガーのような長剣をルイズが構えられるわけがない。
「・・・・・・なるほど、こっっちの娘っ子が『使い手』か。まぁいい。俺を買え」

――どうやら何か知っているみたいね。

『使い手』『担い手』、言葉は違うがたぶん《パラベラム》の事だろう。
「シエスタ、この剣どうかしら? 喋る剣なんてなかなか面白いじゃない」
「そうですね。ちょっと大きいですけど、このぐらいなら何とか振れると思います」
 デルフリンガーはパラベラムについて何か知っているようだ。下手にこんな武器屋に置いて、誰かに喋られると少々まずい。シエスタも察したのか、話を合わせてくれている。
 それにしても、一応でもデルフリンガーのような長剣を振れるとは、メイドというのは力持ちだ。シエスタが特別なのかもしれないが。
 あくまで杖の偽装に使うので、構えることさえできればそれでいい。性能は最初から考えていない。
「おいくらかしら?」
「デル公なら新金貨百で結構でさ」
「あら、安いですね」
「こっちにしてみりゃ、厄介払いみたいなもんでさ」亭主は手をひらひらと手を振りながら言った。
 ルイズが財布を取り出し、金貨をカウンターに並べる。亭主が一枚一枚を慎重に数え、頷く。
「毎度。これはサービスでさ」カウンターの下から鞘を取り出し、シエスタに渡す。革紐がついており、背中にかけられるようになっている。
「どうしてもうるさいなら、鞘に入れてやればおとなしくなりまさぁ。・・・・・・じゃあな、デル公。捨てられねぇように、せいぜい気をつけな」
「おうよ。言われるまでもねぇ。・・・・・・達者でな」
 なんだかんだ言って仲は良かったらしい。最後くらい素直になればいいのに。男という生き物はわからない。
 ルイズとシエスタはデルフリンガーを購入し、獅子の尾亭をあとにした。
 シエスタの背中にはデルフリンガーが背負われている。




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