あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

萌え萌えゼロ大戦(略)-23b



「ルーデル!?ルーデル!?」
 呼び続けるふがく。だが、応答はない。そのとき、背中に背負った
デルフリンガーが叫んだ。
「相棒!上だ!!」
「え?」
 デルフリンガーの叫びに体ごと上を向くふがく。そこに銃弾の雨が
襲いかかった。
「うああっ!」
「ふがく?!」
 『イーグル』号の艦橋でふがくが銃撃されるところを目の当たりにした
ルイズが叫ぶ。そのまま甲板に銃撃する何か。その姿は……服の色以外を
鏡写しにしたような双子の少女――
「バ~~~カ!くすくす♪」
「あら?まだ飛んでるわ。さすがフガクね、姉さん。くすくす♪」
 それはニューカッスル攻防戦開始直前にひそかに『レキシントン』号から
離れていた、クラレンスとアリスのライトニング姉妹だった。
一航過でふがくを『イーグル』号から引き離すことに成功した双子は、
そのまま『イーグル』号へ攻撃を開始する。甲板に攻撃を知らせる鐘が
鳴り響き、メイジたちの魔法、そして主砲の砲撃が加えられるが、
それらはハルケギニア最速の風竜の倍以上の速度、時速650リーグで
飛び回る双子をかすめることもできなかった。
「あはは、泣き顔、だーいすき♪」
「くすくす、歪んだ顔、だーいすき♪」
 クラレンスとアリスの銃撃を受けたメイジが血煙となって消える。
全金属製の航空機さえ墜とす12.7ミリ機銃をまともに受ければ、
人間など形も残さない。だから、双子は愉悦に顔を歪ませながら
ぎりぎり体が残るように攻撃を仕掛けていた。
「ああ、ひとつ教えてあげようか?君には足りてないことが、ある!」
 一度距離を離したクラレンスが冗談でも言うように、
「頭脳、性能、正確さ、そしてなによりもぉ……速さが足りない!……なんてね」
 その横にぴったりと寄り添ったアリスが、遊び飽きた人形を投げ捨てるかのように。
「「さあ、いくよ!ジョーカー・ペア!」」
 その言葉を合図に、双子が高速で位置を入れ替えながら『イーグル』号へ
銃撃を行う。攻撃は装甲が張られていない甲板と、甲板で双子を狙っていた
メイジへ。艦尾から艦首まで撃ち抜いた後、きりもみをするように上昇し……
クラレンスの左手の銃と右脚の尾翼、アリスの右手の銃と左脚の尾翼を
合体させる。文字どおりの『双胴の悪魔』となった双子の銃から、
『ライトニング・クラウド』以上の電光が発生し、『イーグル』号の
煙突めがけて打ち込まれた。
 『イーグル』号の艦橋の窓ガラスをすべて砕くほどの大爆発。
マストが折れ、黒煙を吐きながら高度を落とし始める『イーグル』号に、
双子の顔が愉悦に歪んだ。
「楽しいねぇ♪面白いねぇ♪」
「痛いかなぁ♪痛いよねぇ♪」
 双子の合体技『ジョーカー・ペア』を決めてもなお、子供が
虫をいたぶるようにさらに銃撃を加えようとする。それを遮るように
ふがくが叫んだ。
「アンタら……いいかげんにしなさいよね!」
 ふがくが上昇しつつ懐から3本の銃身がついた両手持ちの巨大な銃
――散弾機銃――を取り出す。ふがくが引き金を引くと、銃身が
高周波音を立てて高速回転を始めた。鋼の乙女であるふがくでさえ
反動をもてあますほどの銃から発射されたその銃弾は、双子の目の前で
破裂する。
「っ!いたーい!」
「アリス?アリス!」
 ふがくの銃弾はアリスの腕を貫いていた。赤いオイルが飛び散り、
クラレンスの瞳が怒りに染まる。瞳の先にいるふがくに向けられる言葉は
冷たく響いた。
「遊びはお仕舞い!お代は……わかるよね?」
 クラレンスの銃から弾丸ではなく金色の星形のものが5つ撃ち出される。
それはふがくを囲み、クラレンスが左手を振り上げるのに合わせて天から
落ちる雷をまとった。
「やべぇぞ!相棒、俺を構えろ!」
 デルフリンガーが異常事態に声を発する。ふがくはとっさに散弾機銃を
格納し、背中からデルフリンガーを抜いた。その様子をクラレンスは
冷笑する。
「そんな剣で何ができる?あははは!地獄へおちろー!」
 クラレンスが腕を振り下ろすと、5つの星から電撃の五芒星が生み出される。
それはクラレンスとアリスの必殺技『ライトニング・ボルト』――電撃が
嵐となり、周辺空気まで電離を始める。
「遊んだおもちゃは片付けなきゃ」
 クラレンスの手から小さなドクロの形の石が投げ込まれる。それを
合図に電撃の嵐はふがくを巻き込んで天を逆巻き、『イーグル』号
艦橋からその様子を見ていたルイズが悲痛な叫びを上げる――だが、
電撃の嵐が消えたとき、ふがくは輝くデルフリンガーを天高く掲げ、
全く損傷を受けぬままそこにとどまっていた。
「そんなバカな!ボクの『ライトニング・ボルト』が直撃して?!」
 驚くクラレンス。そこに帯電したままのデルフリンガーが声を発した。
「……いい心の震えだぜ、『ガンダールヴ』。ぎりぎりで思い出せて
よかったぜ。俺の力は魔力吸収。この技が先住魔法に近い感じがした
からよ、賭けてみた」
「そんなのインチキだ!」
「……何?まだやる気?」
 クラレンスの叫びを無視し、同高度まで上昇したふがくが、
デルフリンガーの切っ先をクラレンスに向けたまま双子と対峙する。
「ダメよ、姉さん。私は……大丈夫だから」
「くっ……。まぁ、ボクたちの目的は果たしたし、こんなところで
フガクと遊んでる暇なんてないしね。ここは退いてあげるよ。
慈悲深いボクたちに感謝するんだね。くすくす♪」
 そう言うとライトニング姉妹は急上昇してその場を離れる。ふがくは
双子を追おうとしたが、『イーグル』号の損害の方が気がかりとなり、
追撃を諦めた。

 そして……『イーグル』号は地獄の様相を呈していた――

 『ジョーカー・ペア』の衝撃から最初に行動したのは老王ジェームズ一世。
彼は艦橋にいた他の人間と同様に衝撃で簡易の玉座から投げ出されると、
臣下が助けようとする手を払いのけ、風石室へ向かう。
その姿に立ち上がったばかりのウェールズ皇太子が叫ぶ。
「被害報告!状況知らせ!」
 そして次々と舞い込む報告――それは絶望的なものだった。
「風石損壊!高度、維持できません!」
「第一主砲塔、沈黙!」
「右舷舵翼全壊!」
「……ふがくっ?!」
「機関室……ごほっ……機関員のほとんどが戦死ぃ……。第1罐損壊……
蒸気圧管破損のため主砲塔旋回不能……。左舷プロペラシャフトに損傷あるも、
推力に問題なし……。これより機能復旧に全力を尽く……」
 最後にそう報告してきたのは、機関室のサー・スチーブンソン。
伝声管を伝わるその声は、彼自身が酷く傷ついていることを物語っている。
そのとき、爆発音とともに艦が大きく揺れた。
「ルイズ!」
 そこに、破れた艦橋の窓からふがくが入ってくる。その姿を見て、
ウェールズ皇太子は安堵の溜息をついた。
「……きみだけでも無事だったか。さあ、ラ・ヴァリエール嬢と
ド・グラモン君を連れて脱出しなさい」
「そんな!」
 その言葉にルイズが悲痛な声を上げる。だが、ウェールズ皇太子を
はじめ、艦長や艦橋にいるすべての人間が二人に早く脱出するように
告げる。そのとき、ギーシュが頭を振った。
「ぼくは一緒には行けない。ルイズ、きみだけでも早くここから脱出するんだ」
「ギーシュ!?」
「ルイズとぼくを抱えれば、ふがくは武器を持つことができなくなる。
もし、さっきのがもう一度襲ってきたら……?
そんなことは、ぼくにはできない」
 ギーシュはそう言って頭を振る。
「ギーシュ……」
 その顔に覚悟を見たルイズが心配して声をかける。だが、ギーシュは
きっぱりと言った。
「ぼくはボートで脱出するよ。だから、先に行ってくれ」
「分かった。
ギーシュ、アンタもルイズと一緒に生きて帰らなきゃダメなんだからね。
私は近くにいるフネを探す。だから……」
「ああ。分かってるよ。ふがく。ぼくはモンモランシーのところに帰るんだ。
絶対に。だから、行ってくれ」
 ギーシュの言葉にふがくは軽く頷き、ルイズを抱えて窓から外に飛び出す。
その直後、伝声管から国王ジェームズ一世の声が聞こえた。
「……これより、朕の持てる力すべてを残った風石に注ぎ、高度を維持する。
その間に、全員この艦より脱出せよ。よいな、ウェールズ。総員退艦じゃ。
お前も、艦を離れよ」
「父王……」
 ウェールズ皇太子はうつむき、肩を震わせた。だがそれもつかの間。
しっかりと顔を上げると、帆船時代の船乗りらしい大きな声で宣言した。
「総員最上甲板!総員退艦!」
 その声に従兵たちが伝令に走る。連呼される『総員退艦!』の声が
遠くなる中、ウェールズ皇太子以下、艦長も、ギーシュも、いやこの場に
残った貴族の誰も、そこから離れようとはしなかった。

 総員退艦により脱出を開始した『イーグル』号のカッター(短艇)には、
婦人が優先して乗せられた。もとより定数を満たしていない今の『イーグル』号、
しかもライトニング姉妹の急襲でマールバラ公を筆頭に多くの貴族や
水兵が命を落としており、全員の脱出は可能かと思われたが……右舷に
搭載されていたものが全滅しており、残ったカッターでは足りず、攻撃で
穴が開いただけで奇跡的に機関部が無事だった長官艇を『錬金』で応急修理し、
砕けた風石は攻撃で使い物にならなくなったランチ(長艇)のものを持ち出して
使用することにした。
 風石で浮かび、起倒式のマストを立て、ヨットのような帆に風を受けて
カッターが次々と『イーグル号』を離れていく。その様子を見る艦橋で、
ウェールズ皇太子がギーシュに声をかける。
「ド・グラモン君。さあ、きみも早く脱出したまえ」
「ぼくは殿下とご一緒させていただきます。ルイズ……
いや、ミス・ヴァリエールが殿下をトリステインへお連れするために、
自分の使い魔を戦わせました。それなのに、ぼくだけ脱出する訳には
参りません」
 ギーシュの決意は変わらない。そこに艦橋から張り出したブルワークから
周囲を見張っていた掌帆長から報告が入る。
「本艦に接近する船舶あり!発光信号確認!
『ワレ『マリー・ガラント』。本船ニ救援ノ用意アリ』
以上です!」
「……これで救助は頼めるな。返信。
『我『イーグル』。航行不能。救助を頼む』
以上だ」
 ウェールズ皇太子の言葉を受けて、掌帆長がブルワークに立って
力の限りの『ライト』の魔法で発光信号を送る。
『フライ』では届かないほどまだ距離が遠いが、メイジが乗っていなければ
大型のカンテラと大きな鏡を使う発光信号も、それなりのメイジが
いれば魔法で事足りる。そこに、舷側から大きな声が上がった。

「……あと一人!あと一人いけるぞぉ!!」

 その声にウェールズ皇太子が真っ先に反応する。ブルワークに身を
乗り出し、言った。
「あと一人、いけるんだな!?」
「……殿下?!はい!いけます!」
 その言葉にウェールズ皇太子は艦橋に身を翻す。そしてギーシュの
両肩に手を置いた。
「ド・グラモン君。行きたまえ」
「……お言葉はありがたく。ですが、ここは殿下が……」
 ギーシュはその言葉を最後まで言えなかった。いきなりウェールズ皇太子が
「歯を食いしばりたまえ!」と言うが早いか、ギーシュを殴り倒していたからだ。
「……失礼。きみがあまりにも寝ぼけたことを言うものでね。
僭越ながらアルビオン空軍魂を叩き込ませてもらった」
「で、殿下…?」
 艦橋の床に敷き詰められた鉄のグレーチングに転がったまま、
ギーシュがウェールズ皇太子を見上げる。その瞳は怒りの色を帯びていた。
「きみは昨夜なんと言ったかね?『ぼくたちは本来はここにいないはずの人間だ』と
言ったのではないか?それならば、ラ・ヴァリエール嬢も、きみも、
ここで死ぬことは許されない」
 そう言った後、ウェールズ皇太子は優しくギーシュを助け起こす。
そして、微笑みながら左手の薬指から『風のルビー』を外すと、
ギーシュに手渡した。
「きみに任務を与える。この『風のルビー』を、アンリエッタに、渡してくれ。
 ウェールズは最後まで勇敢に戦い、勇敢に死んでいった、と伝えてほしい」
 ギーシュは『風のルビー』を両手で押し頂くように受け取ると、うつむいた。
床に涙がこぼれる。
「ヴァルハラで待っている。きみはできる限りゆっくりと来るといい。
そして、人生という名の戦果を添えて、任務達成を私に報告してくれ」
「は、はい……」
 ギーシュの声は涙に震えていた。
「さあ、行きたまえ!」
 ギーシュは振り返らなかった。その後ろ姿が消えてから、
艦長がウェールズ皇太子に話しかける。
「ギーシュ・ド・グラモン……でしたか。さすが、かつてトリステインに
この人ありと謳われたあのグラモン元帥の息子ですな。だが、任務の
優先度を取り違えるとは、まだ若い」
 そこに掌帆長が笑いながら言う。
「しかし、殿下直々にアルビオン空軍魂を叩き込まれるとは……我々は
そのような名誉に与ったことはありませんぞ」
「はは。違いない。願わくば、ともに舳先を並べて戦いたかったですな」
 艦長はそう言うと、思いを馳せる――トリステインで建造された、
全長300メイルの威容を誇る鋼鉄の竜母艦『ヒューリアス』の、帆走装備を
持たない全通甲板特有の艦影からわずかに突き出る煙突と一体化した艦橋から、
併走する自分に敬礼する若き艦長の姿に。だが、それは夢でしかない。
「そのためには、生き残らなければな。『イーグル』号を着水させる。
掌帆長、風石室に行き、父王の助けとなってくれ」
 ウェールズ皇太子の命令を受けて風石室に向かった掌帆長。血みどろの
通路を抜け風石室にたどり着いた彼は……思わずその場に立ち尽くした。

「……これは……」
 小さな劇場ほどの広さがある風石室。そこには部屋の空間のほとんどを
占める巨大な風石が収められ、過重なこの『イーグル』号に必要な浮力を
稼いでいた――はずだった。
 しかし、今この部屋に風石の姿は見えない。いや、床一面に広がった、
きらきらと輝く砂と、老王と、彼を囲むように力を注ぎ続ける貴族たちの
姿に隠されていたが、風石はあった。その姿を、大人の背丈くらいに減じて。
 老王は掌帆長の姿を見つけると、絞り出すように言う。
「……ウェールズは……皇太子は、脱出したか……?」
「……はい。先程、最後の艇が出ました」
 掌帆長がついたとっさの嘘。その言葉に、老王はふっと笑う。
「ばかものが……」


 ルイズとふがくは、飛び出して程なく見つけた『マリー・ガラント』号に
着艦し、その甲板から燃える『イーグル』号を見つめていた。
『マリー・ガラント』号は接近しつつ、自船に近寄るカッターを拾っている。
乗っているのは貴族婦人とその侍女がほとんど。カッターを操る下士官と
水兵以外の男の姿はほとんどなかった。
「船長!急いで!」
 フネの指揮所では、金髪を少年のように短く切った女性、シンが船長を
急かしている。同時に甲板では拾い上げたカッターを処分する水夫の声が響く。
救助する人間が多いため、甲板を開けるべく引き込んだカッターから
風石を抜いてそのまま空から海に投げ込んでいたのだ。
「ギーシュ……」
 ルイズは、まだ姿の見えないギーシュを心配していた。
ウェールズ皇太子の姿も見えない。
まさか、二人ともまだあの艦にいるのだろうか……そのとき、ふがくと
シンが同時に声を発した。
「プロペラを回して……フネ?」
「長官艇……?アレは帆走じゃない!捕まえるときには注意して!」
 それは『イーグル』号を小さくしたような、風石で浮き上がり小型の
内燃機関とプロペラで推進するフネ――『イーグル』号に搭載された
長官艇だった。長官艇は『マリー・ガラント』号に接触すると、プロペラを
停止させて艇内に格納すると引き込み用のロープを受け入れる。
やがて甲板に固定された長官艇から、婦人や傷ついた貴族と一緒に
ギーシュの姿が現れる。
「ギーシュ!」
「やあ……ルイズ」
 ルイズはギーシュの顔を見て驚いた。
煤にまみれた顔に涙の跡が残り、酷い疲労感が見て取れたからだ。
「陛下は?皇太子さまは?」
 ルイズの言葉に、ギーシュは『イーグル』号を指さした。
「そんな……!」
「『イーグル』号が……沈むわ……」
 ふがくがそう言うと同時に、舷側に動ける貴族たちが集まる。
彼らに看取られるように、『イーグル』号はゆっくりと、徐々に速度を
増しながら高度を落とし……海上に巨大な水柱を立てる。
その直後、『マリー・ガラント』号を揺るがすような轟音が響き、
爆炎が立ち上った。まだかろうじて生きていた罐に水が入り、
同時に弾薬庫の主砲弾と装薬が衝撃で誘爆したためだった。
 ふがくはその様子を敬礼で見送った。その横で、ルイズは力なくへたり込んだ。

 ――こうして、世に言う『ニューカッスル攻防戦』は、夜明けとともに
王党派が旗艦『イーグル』号の新型砲による超遠距離砲撃により貴族派に
大打撃を与えるも、夜半のニューカッスル沖空域にて行われた艦隊戦により
貴族派艦隊が『イーグル』号を撃沈。国王ジェームズ一世、皇太子ウェールズら
王党派全員が艦と運命をともにしたと歴史書に記録されることになる。
 だが、夜明けの戦いにおいて貴族派は戦列艦『コンステレーション』、
巡洋艦『バッファロー』を失い、旗艦『レキシントン』以下、戦列艦
『ロードアイランド』、巡洋艦『ファーゴ』ともに大破したともされており、
滅亡寸前の王党派にそれだけの戦力があったことと、そして誰が
『イーグル』号を葬ったのかが、歴史の謎となることになった……


 その頃、トリステイン王国のタルブの村――

 村に近い森の中を、一人の銃士が走っていた。その手には、布に包まれた
棒のようなものが大事に抱えられている。
「待ちなよ。それ、そこに置いて原隊復帰しな。そうすれば見なかったことに
してあげる」
 突然背後から声がかかり、銃士は足を止める。10メイル以上離れた
森の木陰から声は聞こえた。
「だ、誰?」
 銃士の声に応えるように、木陰から姿を現したのは……同じ銃士の格好を
した女だった。自分より年上、二十歳くらいだろうか、緑の、銃士隊では
禁止されているはずの長い髪にネコのような目で自分を見るその銃士は、
黄色の鎧下の上に布鎧を身につけ、自分と同じカーキ色のマントを
まとっている。だが、動物の耳がついたふわふわとしたファーの耳当てだけが
異様に浮いていた。
「あたしのことはどうだっていいさ。けどね、それ、まだ外に出す訳には
いかないんだよ」
 女の言葉に、布包みを抱えた銃士はふるふると首を振った。
「仕方ない……ねっ!」
 それを見た女が身を屈めたかと思うと……次の瞬間には銃士の目の前に
蹴り足が寸止めされていた。一瞬遅れて風が銃士の頬をなでる。
10メイル以上あった距離を一瞬で詰め、その気であれば今ので自分を
殺せたかと思うと、銃士は布包みを放り投げ、腰が抜けたまま這々の
体で逃げ出す。女はそれを追わなかった。
「やれやれ。連中の手、こんなとこまで伸びてたか……」
 女は愚痴りながら布包みを手に取る。そこに真横の木陰から声がかかった。
「こっちも終わったわ。ハーマン」
「シーナか。で、『食事』の前に情報収集したんだろうね?」
 ハーマンは木陰から出てきた青く長い髪の同じ銃士姿の女、シーナと
向き合う。シーナは言われなければ気づかないようなやや尖った耳を
わずかに垂れ、肩をすくめる。
「ガリアの北花壇警護騎士団よ。さすがに、ものがものだけにあちらも
相応のを出してきたみたいだわ」
「はぁ。そりゃそうだろうねぇ」
 そう言ってハーマンは布包みから布を取り去る。そこには今までの
ハルケギニアのものとは一線を画した長銃があった。黒光りする銃身の
基部には十六八重菊紋章と並んでトリステイン王家の百合の紋章が彫金され、
磨かれたボルトアクションのレバーにハーマンの顔が映り込む。
「……サンパチ……だっけ?こいつが本格的に量産されたら歴史変わるよ」
 そう言ってハーマンは鎧下の尻ポケットからスキットルを取り出し、
アルビオン産のエールを一口飲んでから天に向けて長銃を構える。
その照準に映った影が、二人の前に舞い降りた。
「カルナーサ……貴女、どうして?」
 驚くシーナに、カルナーサと呼ばれた銃士姿の女は連結式三節棍(ロッド)状の
杖を折りたたんでしまい込み、二人に向き合った。
「姫様からの命令だよ。アタシら3人、直ちにラ・ロシェールに向かって
小隊長と合流せよ、だって。今回の件の報告も後回しでいいそうだよ」
「シンと?ってことは、またこの前のワルド子爵の時みたいな?
……勘弁してよねぇ」
 そう言ってハーマンは溜息をついた。

 物好きな貴族と獣人の妾の間に生まれた酒好きのハーマン、千年以上前の
物好きなメイジが自分の血を吸わせたというスキルニルのカルナーサ、
それに物好きな吸血鬼のシーナ――彼女たちはシンと同じく『ゼロ機関』の
エージェントだった。
 そして、翌朝目覚めた銃士隊隊長アニエスの枕元に公にされないはずの
新型長銃が置かれていてちょっとした騒動になったことと、ある選り抜きの
銃士が歩哨の途中で物陰から覗いていた野良猫を見て発狂したことは、
彼女たちの知るところではなかった……



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