あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロのロリカード-64

 ウォルターは夜の明けた空に照らされるアーカードを仰ぐ。
大の字に倒れ、決着を噛み締めていた。

「強い・・・・・・な」
勝てると思っていた。
今までのアーカードとの戦闘経験から、おおよその強さは把握していたつもりだった。
30年もの間、常にアーカードと戦うことを頭でシミュレートし、戦術を練り続けてきた。
杭などの弱点も用意し、大尉にも勝った今の自分ならば、勝てる・・・・・・と。
しかし充分な勝算で以て挑んだ筈であったが、完膚なきまでに叩きのめされ敗北した。

「そりゃ30年間遊んでいたわけじゃないしの。今まで吸ってきた者達とひたすら戦ってきたのだ。
 膨大過ぎる数と充分過ぎる時間、嫌でも錬磨されるというものよ。少々長くなり過ぎたが・・・・・・な」

 ウォルターは「ふふっ」と子供っぽく笑った。本当に敵わないと、素直にそう思った。

「・・・・・・なんだ、負犬の癖に随分と満足そうだ喃」
「全てを懸けた・・・・・・悔いはない」
本気だった、全力の上で負けた。恐らくこれ以上は望めないという確信。
だからもう・・・・・・これ以上ジタバタしない、無様に足掻かない。

 アーカードは小馬鹿にするように、ウォルターに告げる。
「戯け、そんなだからお前は私に勝てないんだよ。だから、アンデルセンに負けた私を打ち倒せない」
「・・・・・・なに?」
ウォルターの顔が歪む。
勝てない理由もそうだが、何よりアンデルセンに負けたと、今アーカードは言ったのだ。

「諸々あって生きてはいるがの・・・・・・私は負けた。アンデルセンは強かった。老い衰えた体で、お前よりもな。
 肉体も、技術も、ウォルター。お前の方が、年老いたアンデルセンより上だったと言えるだろう。だが結果はこの様だ」

「・・・・・・」
  「それは何故か・・・・・・。人間だけが『倒す』事を目的とするからに他ならない。
 化物を打ち倒す。戦いの喜びの為ではなく、それこそが人間の成すべき義務だからだ」

 ウォルターは目を閉じる。考えないようにしていた。
アーカード――――化物――――を打ち倒す為に最も重要なこと。
そう・・・・・・化物を倒すのは、いつだって人間。人間でなくてはならない。
それは肉体的な意味だけではない。倒すという意志を持ってこその理。
初代ヘルシング卿然り。少佐然り。アンデルセン然り。
『人間として化物を打ち倒す』という意志こそが、何よりも大事なこと。

「・・・・・・ああ、わかっていたさ。だがそれでも私は、お前に"勝ちたかった"んだ」
「全く・・・・・・本当にお前は、いつまで経ってもガキのままなのだな」


 アーカードは溜息を吐く。心底呆れ返ったという表情で。
「まっ、そんな甘ちゃんは殺す価値も無い」
「・・・・・・だが私には・・・もう、生きる意味は無い」

「そうかそうか、それは好都合。それならばもう裏切るまいな」
アーカードは見た目相応の少女らしい笑みを作り、ウォルターは眉を顰める。

「我が主が・・・・・・、ルイズが優秀な執事を大層欲しがっていてな。なぁに衣食住には困らん。
 城は広いし掃除し甲斐もある。それに・・・・・・お前にとっても、仕えるに値するだけの主だろう?」

「私を雇おうと言うのか」
「んむ、その通りだ。給金は・・・・・・そうさの、帰ってきた時にまた気が向いたら闘ってやろう」
「なっ・・・・・・!?」
ウォルターは思わず目を見開くと、弾かれたように上半身を勢いよく起き上がらせた。
アーカードは「おっと」と、ウォルターを見下ろしていた体勢から数歩退く。

「尤も、30年前の約束は既に終えた。次に命を懸けて闘えるのは、インテグラとルイズが死んだ後になるが・・・・・・」
アーカードはウォルターが選ぶ選択を見越した上で、小悪魔のような含みで微笑みかける。  
「長生きしないといけない理由が出来た・・・・・・な?」

 ウォルターもつられて笑う。本当に敵わないと思った。



「終わったかな?」
30年経っても変わらない少年姿で、シュレディンガーが現れる。

「覗き魔か」
アーカードは半眼でシュレディンガーを見る。
「ヒドいなあ」
「事実だろうに」
「こっちの世界の最後の楽しみだったんだ、それくらいいいでしょ。ボクなりに気を遣って隠れてたのにさ」
「あぁ、別に咎めているわけではない。・・・・・・お前にはこれから世話になるわけだからな」
アーカードの肩口から顕現した影が、腕ごと巻き込んで狗となる。
黒犬獣バスカヴィルは顎を大きく開けると、シュレディンガーを丸呑みにしようと迫った。

「へっ?犬に食われるの??」
素っ頓狂な声をあげたシュレディンガーは、アーカードへと問う。
アーカードから、今日の日のことは聞かされている。

 アーカードが・・・・・・自分の中に存在する、全員の命を殺し尽くす日。
アルビオンでの零号開放によって全てを飲み込んだあの時を最後に、アーカードは血を一滴も口にしていない。
同時に膨大過ぎる命のストックを例外なく消していく"作業"。
それを完遂した時、シュレディンガーを改めて喰うという約束事。

 アーカード唯一ツの命を以て、『どこにでもいてどこにもいない』という性質と同化する。
それであれば幾百万の意識と命の中に融けることはなく、自分で自分を認識できる。
虚数の塊としてただ消えゆくだけの存在ではなく、シュレディンガーの性質を自分の血肉として扱える。
それこそがアーカードが出した結論。確実に元の世界へと帰り、同時にハルケギニアにも戻ってこれる唯一の方法。


「無論だ。この30年の飢餓。待ちに待った今。最初に飲む血は、30年前から既に決めてある」
その言葉に、ウォルターは思わず吹き出しそうになる。それが"誰"なのか、簡単に予想がついてしまう。
そしていざ飲まれる瞬間、"彼女"が一体どういうリアクションをとるのか、想像するだけでおかしかった。

「え~・・・・・・でも、僕がワン公に食べられて大丈夫なの?」
アーカードと共に行くことは、ずっと前から納得している。
少佐はとっくに死んでいるし、そして大尉も死んだ今、アーカードこそが最も興味深い対象でもある。
そもそもなんだかんだで古い付き合いである。長い人生の一時をアーカードと過ごすのも悪くないと思った。

「なにも問題はない。犬も私の一部、お前の能力を使うのに差し支えはない」

 黒犬獣バスカヴィル。
吸血鬼アーカードが支配する使い魔であり、同時にアーカードの一部でもある存在。
故に例えば、バスカヴィルが死んだ場合などは一時的に支配率が変わる。
アーカードの支配力が弱まることで、喰われたまま未消化だった者は、ルーク・バレンタインのように顕現することも出来る。
そして完全に消化されれば、アーカード自身の支配下に置かれる形になり、その能力を引き出して使うことも可能となる。

「ふ~ん・・・・・・、まぁなんでもいいや。痛くしないでね」
アーカードは表情を変えないまま、バスカヴィルをけしかける。
一瞬の内にシュレディンガーは飲み込まれた。

 アーカードはバスカヴィルを元に戻す。
両手の平を見つめながら、アーカードは何度か開いたり閉じたりを繰り返す。
己が中に融けたシュレディンガーの性質をモノにしたという実感を得て、最後にギュッと握り締めた。
確信こそあったが、実際に虚数と化して消えなかったことに僅かな安堵が浮かぶ。

 尤も・・・・・・万が一消えたところで、一応の保険はかけておいた。
とりあえず一年。一年経過しても、ルイズのところへと帰って来ない時。
その時には今一度使い魔召喚の儀をやってもらい、自分をまた召喚してくれと頼んでおいた。
そうすれば仮に消えた状態であっても、最初の時のように再度分離して召喚される可能性がある。


 そんな思惑も杞憂に終わり、アーカードはウォルターへと視線を移す。

「何か・・・・・・伝えたいことは、あるか?」

 当然ウォルターは一緒には戻れない。戻れたとしても裏切り者を会わせるつもりはない。
しかし――――――ほんの一言くらいなら、土産に持っていってやっても良いとアーカードは聞いた。

「そうだな・・・・・・」
ウォルターは少しだけ考える。謝罪か、感謝か、労いか。

「・・・・・・ああ、『ファイトですぞ、お嬢さま』。とでも、伝えておいてくれ」

 そんなものでいい。
謝罪なんて今更どのツラ下げて言えば良いのか。
かと言って感謝というのもしっくりこない。
ただ一つだけ。アーカードが帰ることで増えるだろう心労に対し、その一言を送りたい。

 アーカードは笑みを浮かべながら音もなく消え、ウォルターも笑って見送った。
最早ハルケギニアのどこを探そうと、アーカードを見つけることは出来ないだろう。


「さて・・・・・・」
ウォルターは立ち上がる。
体のダメージは癒えていないが、休むのはもう少し後で良い。

 早朝の空を背に歩き出す。
目指すはトリステイン領。アーカード伯爵の城――――――ドラキュラ城。

(また・・・・・・鍛え直さないといけないな)
   何十年先になるかはわからない。
インテグラも、ルイズも、きっと長生きするだろう。
肉体はもとより、精神も鍛え直す必要がある。

 ウォルターは一歩一歩を、力強く踏みしめる。

(次こそ打ち倒してやるさ・・・・・・人間として、な)




「なんだここは・・・・・・?」

 ハルケギニアから消えた先。
地球へと戻る為に、シュレディンガーの特性を利用して世界間移動をした――――――その結果。

 辿り着いたのは――――――そこは、どこか建物内の廊下のようであった。
しかし素直にそうは思えない理由があった。何故なら通路の終わりが見えぬほど、彼方まで続いていた。
幅は狭く、縦に長い廊下に加え、左右にひたすら並び続ける、様々な意匠の扉、扉、扉。
それは手前にも奥にも、延々と短い間隔で並べ立てられ、どこか無機質感の漂う空間。

 そしてそんな異質な空間とは、場違いな人間が一人。
髪をピッチリと分け整えて眼鏡を掛けた、パッと見では極々普通の人間。
ワークデスクに向かい、新聞を読んでいる。
例えばそれが普通の世界の、普通の公共機関の中などの風景であったなら違和感は感じない。
非常識の中に在る常識が、逆に非常識に見える感覚。

 男が顔を上げてアーカードを見つめる。
(アイランズ・・・・・・?)
一瞬見知った人物の若い頃の風貌かと思った・・・・・・が、よくよく見るとそれは他人の空似であった。
その顔つきにはどこか険があり、瞳はさながら伽藍堂のようで、見透かすことも不可能に思えた。

 アーカードが問おうとした瞬間、先に男が口を開く。
「お前は・・・・・・」
何かを逡巡しているのか、そこから先の言葉は紡がれない。


 ふと、アーカードは背後からの気配を感じる。
「駄目よ、紫。その人はこっちだから」
突如として侵食されたかのように黒く染められた背後の空間に、ポッカリと浮かぶように佇む新たな人間。
生意気そうな吊り目をした黒髪の少女。

「EASY・・・・・・」
感情の見て取れなかった男に、初めて色が浮かぶ。
アーカードは蚊帳の外に置いて、二人は暫し睨み合う。

 続けざまの意味不明な状況にアーカードはやや気怠さを感じつつ、頭の中で情報を整理をする。
とりあえず男の名は紫、女の名はEASY。さらに二人の仲が思わしくないことはわかった。
アーカードをそっちのけで、二人は熱烈に睨めつけ合っていた内。
女の方が笑みを浮かべると、アーカードへと視線を向ける。

 一体何を思っているのか、ほくそ笑むようなEASYという女。
わけのわからない現状と、自分を無視して進められる状況。
気付くとアーカードは、冷めた半眼で女を睨み付けていた。

 EASYはアーカードの眼光に無言でたじろぐ。
逆らってはならないという強制感が、全身を支配していた。

「説明せい」
「えっ・・・・・・あ・・・はい、すみません」
EASYは妙な威圧感に気圧されると、思わず謝っていた。


「なるほどのォ」
EASYに丁寧に説明させる。とりあえずは納得がいった。
これがシュレディンガーがかつて言っていた、世界間移動は面倒臭いという理由なのだろう。

 説明を終えたEASYは恐る恐る、ご機嫌をうかがうように口を開く。
「それで・・・・・・あのう、ヴラド公で廃棄物ワクあいてるんですけど来ません?」
「やだ、オマエとキャラかぶるじゃん」

 廃棄物枠だろうと漂流者枠だろうと、応じるつもりは毛頭ない。
今の自分の目的は唯一つ、"帰ること"。
それが無ければ、長い人生の手慰みとして参戦しても面白かったかも知れなかったが・・・・・・。

「バーさまが待ってるから行ってくる」
そう言ってアーカードは掻き消える。

 そしてEASYは紫の目も気にせず、どっと疲れた息を吐いた。




 ――――――2030年、ロンドン。
ヘルシング家、厳重に封印され閉ざされた部屋。
そこに安置してある棺桶に、ポッと血の滴りが浮かぶ。

"The Bird of Hermes is my name Eating my Wing make me tame"

"私はヘルメスの鳥 私は自らの羽根を喰らい 飼い慣らされる"

 棺に書かれた血文字の文句。そして世界に顕現する影。

「ふむ・・・・・・」
棺桶に座ってアーカードは見渡す。懐かしい雰囲気、そして匂い。
今度こそ間違いない。オリジナルの棺桶があることもそれを示している。
ようやく帰って来た古巣に、フッとアーカードの顔が綻ぶ。

 アーカードは立ち上がりながら、青年へと姿を変える。
インテグラには、少女姿よりもこちらの方が都合が良く、そして相応しい。

 ゆっくりと靴音を立てずに屋敷内を歩く。
窓から外を見れば、満月が"一つだけ"浮かんでいた。
ようやく帰還出来たことを噛み締めるように、アーカードは一歩一歩を踏みしめる。
そして――――――導かれるように一つの部屋へと辿り着く。

 扉を開けずに静かに壁を抜けると、ようやく視界に捉える。私だけの愛しいあるじ。
その姿には老いを感じるが、美しさはまるで変わっていない。
むしろより洗練されていると言って良い。

 暗闇の中、月夜に照らされる無防備な寝姿、その官能的な首筋へと顔を近付ける。
待ちに待った食事。30年抑え続けてきた食欲。これ以上ない甘美であろう血液を少しだけいただくとする。
もし・・・・・・吸血鬼になってしまっても・・・・・・それはそれで良い。

 アーカードが口を開き、牙を突き立てようとした瞬間。
銃声が静かな屋敷に木霊した。何度も、何度も、弾倉が空になるまで。
何発も銃弾を受けて端まで後退し、アーカードは壁を背もたれに座り込む。


 程なくして、扉が勢いよく蹴り開かれた。
愛しい下僕が恥ずかしげもなく、大股開きで駆け込んで来て電灯のスイッチを入れる。
  「ク・・・・クハッハハッ」
笑いがこみ上げてくる。ただ愉快で痛快。
「手洗い歓迎だ。それに相変わらずやかましい」

「マスター!!」
セラスが感情を隠すことなく、破顔一笑で叫んだ。
本当に五月蠅い。30年経っても相変わらず良く響く。割れ響く歌の様に・・・・・・。

 一方でインテグラは、ベッドに座って足を組み、咎めるように口を開く。
再会を喜び抱きついてくるようなこともなく、驚いた様子もなく、ただ毅然とした態度で。
「遅い帰陣だな、アーカード。何をしていた」

「殺し続けていた。私の中で、私の命を」
語りたいことはいくらでもある。
消えた先で新たに得た、かけがえのない者達。
――――――だが、それはまだいい。
もう時間を気にする必要はない。ゆっくりと話すことが出来るのだから。
故に今は端的に報告だけを済ませる。

「三百四十二万四千八百六十七。一匹以外は、全員殺して殺し尽くしてきた」
それを聞いてインテグラは納得する。途方も無い作業。
なるほど、それは時間も掛かるというものであった。

「遅い、遅すぎる。遅いよ、アーカード」
ようやく、インテグラは万感の想いを込めて、絞り出す様に言う。
他にもまだまだ言いたいことはあったけれど、それ以上言葉が出てこなかった。

「すまない」
たった一言、アーカードの謝罪の言葉。
だがそんなことを素直に言われてしまえば、全てを許してしまいたくなる・・・・・・。
きちんと帰って来てくれたという事実が、何よりもインテグラの心を満たす。
そう・・・・・・許すしかない。もうそれ以上何も言えない。


 アーカードとインテグラの瞳が、情熱的に絡み合う。

「血を吸う気だったのか、私を」
「ああ、そうだ。30年間何も食ってない。腹がへった」
――――――あの日、地下の封印を解いてから全てが始まった。

「私はもうおばあちゃんだぞ・・・・・・私は」
「それがいい」
――――――思えば少女は、あの時から焦がれていたのかも知れない、想い続けてきたのかも知れない。

 インテグラは「フン」と笑って右手薬指を噛む。
傷口から滴り落ちようとする血液が、闇夜に煌く満月に照らされる。
そしてアーカードの目の前で立つと、インテグラはその指を中空に差し出した。

「おかえり伯爵」

「ただいま伯爵」


-THE END-


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