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三重の異界の使い魔たち-03


~第3話 今日から使い魔、道連れ2名~

 魔法学院内にある、30メイル四方の空き教室。階段状になっている他の教室とは異なり、8脚の長机が
2列に同じ高さで並んでいるだけの小さな部屋。その真ん中辺りの席に座りながら、キュルケ・アウグスタ・
フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーは頭を悩ませていた。おいてきぼりを喰らって拗ねている
フレイムの頭を撫でてあげながら、親友であるタバサの召喚した使い魔たちを見比べていく。

 そう、使い魔ではなく、使い魔「たち」だ。
 普通、何らかの生物を1体召喚するのがサモン・サーヴァントである。それにも関らず、彼女の青い髪の
友人は、3名――人格を有する存在のため、体と呼ぶのははばかられる――もの使い魔を呼びだして
しまっていた。

――友達ながら変わったコとは思うけど、こんなところまでやらかさなくてもねえ

 ちょこんと隣に座る小さな少女に視線を移し、思わず苦笑が漏れる。それに、向かい合って席について
いる――といっても、実際に座っているのは1名のみだが――その使い魔たち自身も、かなり奇妙な存在だ。

 まずは、光の塊に羽が生えたような姿の、1番小さな使い魔を見る。ナビィと名乗った、口調から恐らく
少女と思われる彼女は、これまでキュルケが見てきたどんな生き物とも違った。
 そのトンボとチョウの中間のような羽だけを見れば虫のようだが、じっと見てみればすぐに違和感に
気付く。この羽、まるで羽ばたいてるという気配がないのだ。完全に停止しているというわけではない。
ちゃんと動かしてはいる。しかし、それは精々揺らしている程度の域を出ておらず、とても浮力を生み出せる
ような動きとは思えなかった。
 それに、その身にまとう輝きも無視できなかい。眩いわけではなく、むしろ穏やかな優しい光。森の木々の
木漏れ日のような、美しく、それでいて神秘的な煌めき。どんな高価な宝石でも、この幻想的な輝きを
模することはできまい。
 そしてなにより、彼女は自分を妖精だというのだ。このハルケギニアでは、妖精とは架空の存在、絵本や
おとぎ話で語られるだけのもののはず。それなのに、彼女は自分を「コキリの森の妖精」と称していた。
まるで、森の妖精という存在が、それだけで人間に理解してもらえると言わんばかりに。
 神秘的な、そして不可解な少女。いささか頼りな気ではあるものの、ミステリアスで色々と謎の多いタバサの
使い魔としては、ある意味似合った使い魔といえなくもない。

 次は、ヒラガサイトと名乗った平民の少年だ。聞き慣れない響きの名前に見慣れない服装、黒い髪に瞳、
黄色がかった色の肌、造りは平凡なものの自分たちとはどこか印象を異にする顔立ち。それらの比較的珍しい
要素を除けば、何処にでもいそうな男の子。仮にもしルイズに召喚されていたのなら、いつもの失敗の一種と
でも思ってそれほど注意深く見なかったかもしれないが、親友であるタバサが召喚したとあってはそうも
いかない。そして、よくよく観察してみれば、彼の格好がただ珍しいだけのものではないことに気が付く。

 キュルケの生まれであるゲルマニアは、他の国々とは違って資金や能力があれば魔法が使えない者でも貴族に
なりあがることができる国。そのため、他国からは野蛮だなんだと揶揄されることも多いが、その分各方面で
有能な人材が登用されており、技術力だけを見るならば大陸でもトップクラスを誇っている。
 しかし、サイトの着ている服は、そのゲルマニア出身の彼女の眼から見ても未知のものだった。来る途中、
少し触らせてもらったが、木綿とも麻とも、ましてや絹とも違う、見たことのない質感を持つ生地。靴の方も、
柔らかそうでいて固くあるべきところはきちんと頑丈そうな、皮とは違う奇妙な素材でできている。
 特に驚かされたのは、あの板状の道具だ。耳障りな音がし始めたと思えば黒一色だった部分に光が灯り始め、
なにやら美麗な絵や光がそこに映っていったのである。そして、あろうことかそれは、月が1つしかない
絵とは思えないほど鮮明な絵を映し出し、その上に魔法が一切使われていない機械なのだという。
 技術先進国であるゲルマニアを始め、他のどの国家でもこの道具はもちろん、彼の衣服でさえ複製することは
不可能だろう。外見は平凡、しかしその実、驚くほど技術が進んだ土地から彼が来たことは明白だった。

 最後は、見るからに1番底が知れない、異形の仮面である。なにせムジュラの仮面というこの仮面、自律的に
行動し、会話することを可能としているのだ。
 ハルケギニアにおいて、そういう仮面が存在することそれ自体はおかしなことではない。魔力によって動く
人形であるガーゴイルはある程度の自由意思を以って行動するよう作られているし、知性を宿された魔道具で
あるインテリジェンス・アイテムもざらにある。
しかし、これらは普通無機的な印象が付きものだ。
 どんなに精巧に作られたガーゴイルでも、所詮人間によって作られた感情である以上、やはり喜怒哀楽の中に
生命を感じさせる温度を持ちえない。インテリジェンス・アイテムは人間が使う系統魔法に加え、異種族が使う
様な先住の魔力を用いていることがあるために意思の面ではガーゴイルに優るが、やはり物や道具に吹き込まれて
いる以上生き物とは明確に区別される。
 しかし、この仮面はそれらのどれとも違っていた。いかにも人工的な道具然とした外見をしているにもかかわらず、
まるで生きているかのような生々しい気配を放っている。ましてや、あの肥大化して触手をうごめかせた姿。あの
不気味なまでに命の脈動を感じさせる姿は、間違っても人の手で生み出せるような代物ではない。その上、
系統魔法でも先住魔法でもない魔法を操り、被った者にその力を貸し与えるマジック・アイテムなど、聞いた
ことがなかった。

 それぞれがそれぞれの理由でキュルケの理解を超えており、キュルケは僅かばかりの警戒を以って親友が
呼び寄せた3名の話を聞いていく。

「つまり、貴方たちはみんな異世界の、それもそれぞれ別の世界の住人だってわけ?」
 そして、彼らの話を聞き終わってみれば、キュルケは溜息交じりにそう聞き返すこととなった。理解できない
部分も多々あるが、まとめてみるとどうやらそういうことらしい。それにサイトたちの方は揃って頷いているが、
キュルケとしては半信半疑というのが本音だ。確かに、彼らがハルケギニアで生まれ育ったと考えるには無理が
あるとは思う。しかし、いくらなんでも違う世界というのは流石に絵空事にしか聞こえなかった。とはいえ、
嘘をついている風ではなさそうだし、こんな突拍子もない妄言を使う理由もないだろう。
 キュルケは彼らの言葉を自分なりに整理しようとするが、やがてさじを投げる。知恵に関しては自信がある
ものの、知識量の方は生憎と人並み。異世界とやらの存在の如何については、はっきりと言及することは
できなかった。

 そこでと、キュルケは隣のタバサを見やる。この小柄な少女は読書が好きで、その知識の量は膨大という
言葉でさえ表わしがたい程だ。彼女なら、なにか彼らのいたという世界について心当たりがあるかもしれない。
そう思って視線を向けてみれば、キュルケは僅かに眉をひそめた。

 沈黙し、表情なく座っているタバサ。それだけを見るなら、いつもと同じだ。タバサと親しくない者ならば、
特に気にすることさえないだろう。雪風のように冷たい雰囲気で、人形のように無表情、無感動、無口な少女。
それが周囲の人間のタバサに抱いているイメージだったからだ。
 しかし、キュルケの眼には、それが「いつものタバサ」には見えなかった。表情自体は、ほとんど動いて
いない。けれど僅かに、本当にごく僅かに、タバサのまとう空気が、普段と違うように感じられた。暗いような、
重いような、固いような雰囲気。それは、いつも彼女が持っている静かな、それでいて落ち着く空気とは、絶対に
違うものだ。

「あの、さ」
 キュルケが訝っていると、やがてサイトが声を掛けてくる。
「それで、俺たちがタバサさんに召喚されたってのは判ったけど……」
 何処か不安がっているような声でサイトは言葉を続けていき、やがて意を決したように問いを投げてきた。
「俺たち、帰れるのかな? 俺、親に何にも言えずこっち来ちゃったし、せめて連絡取りたいんだけど……」
 その言葉を聞いた瞬間、タバサの体が小さく震える。それにもやはりキュルケは驚くが、同時になんとなく
タバサの様子に察しが付いた。

 タバサは、きっと彼らに負い目を感じているのだ。
 考えてみると、他人に対してタバサに全面的な非がある事態を、キュルケは目にしたことがない。この少女と
友人となって1年近くになるが、問題があったとしても精々つまらない言いがかりの類で、彼女が後ろめたく
思う必要があるものは皆無だった。元々彼女がほとんど他人とかかわろうとしないのだから当然ともいえるが、
今回のように相手の人生にかかわるようなことをしてしまったことは、キュルケの知る限りで初めてだった。

 キュルケは溜息を1つつくと、タバサに代わって説明しようとする。しかし、それは当のタバサの手で制された。
「私がすべきこと」
 僅かに辛そうに、けれど毅然と短く答える親友。その小さな頭を軽く撫でてあげ、キュルケは頷き返した。

「正直に言うと、私では貴方たちを元いた場所へ帰してあげることはできない」
「なっ!?」
 タバサの言葉に、サイトとナビィが悲鳴じみた声を上げる。ムジュラの仮面は、まるで意に介しない様だったが。
「サモン・サーヴァントは、あくまで使い魔を呼び出すだけの呪文……反対に、使い魔を送り返すという呪文は、
聞いたことがない。それに、異世界へ移動する方法なんて、それこそあるかどうか判らない」
「そんな……」
「マジかよ……」
 愕然とした様子で、うなだれるのは羽のある少女と黒髪の少年。それを見て、タバサが震える声を出した。
「ごめんなさい……」
 タバサが、苦し気に謝罪の言葉を口にしていく。
「こんなことになるとは、思っていなかった……」
 心底からのものだろう、申し訳なさが滲みでた声音。それを横で聞きながら、キュルケは内心驚愕の声を上げて
いた。タバサが、自分の親友がこれほど感情を見せたのは、初めてのことだったからだ。日頃キュルケがどんなに
話しかけても、ろくに眉1つ動かさずにいたというのに。
「あ、いえ……」
「わざとじゃないんだし、ええと……」
 一方、謝られた側はというと、気まずそうに視線を泳がせていた。無論、帰れないということは簡単に納得できる
話ではないだろうが、こう素直に謝罪されては責めるに責められないのだろう。その様子に、キュルケは少なくとも
この2名が相当なお人好しであることを理解した。

「まあ、どちらもそう悲観的になる必要もないだろうよ」
 そこへ、1名だけ落ち着いた風のムジュラの仮面が話に入ってくる。
「直接送り返す呪文がないにせよ、異界へ通じる方法に心当たりがないにせよ、現にオレたちはこの場へこの世界の
魔力でやってきた。既に道ができているなら、再び開く術も何かしらあると見た方が自然だろう」
 その言葉に、俯きがちだったタバサ、サイト、ナビィは顔を上げた。

「確かに、一理ある」
 考えるように間をおいた後、タバサは自分が召喚した3名を真っ直ぐに見つめて言う。
「貴方たちを召喚したのは私の責任。貴方たちを返す方法は、見つけてみせる」
 抑揚のない声で、それでいて鋭い程に真剣な声で誓いの言葉が放たれた。一種迫力さえ感じられるその宣誓に、
思わずキュルケは息を飲む。そして、直接それを向けられた者たちはといえば、ムジュラの仮面を除いてやはり
気圧されたような感を漂わせていた。
 張り詰めたような空気が流れる中、仕切り直すように咳ばらいをしたのはサイトだ。
「まあ、事故みたいなもんだし、そうしてくれるなら俺はそれでいいよ」
「ええ、ワタシも」
 受け入れるようなサイトの言葉にナビィも続き、少しその場の空気が和らぐ。それとともに、タバサも少し
気持ちが浮きあがってきたように、キュルケには見えた。

「にしてもよ」
 と、そこでサイトが不思議そうにムジュラの仮面に声を掛ける。
「お前、やけに落ち着いてるよな? 帰れないかもしれないって聞いて、全然驚かなかったのか?」
 その質問に、ムジュラの仮面は余裕あり気に答えてみせた。
「オレたち魔族は、社会とやらに縛られている人間や、精霊どもの眷族である妖精とは違う。自分がどんな
世界に所属しているかなどに対して興味はない」
 だから一歩引いた目で現状を認識できるのさ、と付け加えてムジュラの仮面は笑う。
「それから」
 言いながら、ムジュラの仮面はタバサの方に向き直った。
「お前は、オレを自分の使い魔とするために呼んだのだろう?」
「そう」
 ――正確には、もうしてるじゃない
 既に使い魔の契約を済ませてある仮面の疑問に短く答える友人に、キュルケは内心つっこんだ。その間にも、
ムジュラの仮面は得たりとばかりににやりと笑う。無論、仮面なので表情は動いていないが、眼の光の変化で
なんとなくそうと判ったのだ。

「この世界の人間が使い魔に何を担わせるかは知らんが、オレはそれを受けてもいいぞ」
 その言葉に、タバサは意外そうに聞き返した。
「……それでいいの?」
 無表情に聞き返すタバサに対して、ムジュラの仮面はますます笑みを強める。仮面のようにポーカー・
フェイスなタバサと、仮面のくせに表情を感じさせるムジュラの仮面、なかなか対称的な2名であった。
「さっきも言ったが、以前いた世界に未練はない(なにせ自分で滅ぼそうとしてたからな)。それに召喚される
直前行っていた計画も失敗に終わって、特にやりたいこともないんでね。この世界の魔法にも興味があるし、
人間の寿命分程度なら仕えてみるのも悪くはないさ」
 途中小声で聞き取れない部分もあったが、あっさりとムジュラの仮面は言い切った。聞こえなかった部分を
タバサに尋ねると、彼女も首を横に振る。聴覚に優れた風のメイジであるタバサにも聞き取れない声となると、
どうやら今聞こえてる声も何らかの魔法の類なのかもしれない。そもそも、口もないのに発声していること自体
おかしいとも言えるのだし。

 そんな彼――仮面をこう呼ぶべきか否かはおいておく――に、ナビィが言う。
「人間に使役されるモンスターはいるから意外とは言わないけど、魔族がよく簡単に人間に仕える気に
なったね?」
 不思議そうな様子で聞く彼女に、ムジュラは少し間を置いてから言葉を返した。
「少し戦いがあってな、それで人間というものを、じっくり見ていきたくなったんだよ」
 どこか物憂げにムジュラの仮面は答え、次いでサイトとナビィを見比べる。
「それはともかくだ。お前たちの方は? どうするんだ?」
 そう問われると、サイトたち2名は顔を見合わせ、やがてどちらともなく頷き合った。
「俺も、使い魔ってのをやってみようかな。地球に帰れるまではお世話になるわけだし、ちょっと興味も
あるしね」
「ワタシもそうね。やりましょう」
 召喚された3名全員から同意の言葉が出されると、タバサは大きく息をつく。これもまた彼女にしては
珍しいことで、キュルケはそんな珍しい様子の親友に温かな視線を送った。

「それで、具体的に俺たちは何すりゃいいの?」
 感情をいつもよりもずっと見せてくれる友人を嬉しく思っていると、サイトの疑問がそれを遮ってきた。
僅かに水を差されたという苛立ちが湧くが、彼の疑問も当然ではある。それに対し、いつもの涼しげな
態度を取り戻したタバサが答えていった。
「基本的に、使い魔の役割は3つある」
 言いながら、タバサは片手を上げ、指を1本立てる。
「1つ目は、主の目と耳となること」
「目と耳に?」
「諜報活動という意味か?」
 聞き返すナビィとムジュラの仮面に、タバサは首を横に振った。
「メイジは使い魔に刻んだルーンを通じて、使い魔の視覚と聴覚を共有することができる」
「つまり、ワタシたちが見ているものや聞いているものを、タバサ様も見聞きできるということですか?」
「凄いな……って、そんなプライバシー無視な!」
 ナビィが感心したように、サイトが焦った風で言えば、再度首を横に振るタバサ。それにサイトたち、
そしてキュルケが首を傾げる前に、タバサは言葉を続ける。
「3名も召喚されたせいなのかは判らないけれど、貴方たちとは感覚共有ができない」
「そうなの?」
 キュルケは思わず声を出していた。確かに複数召喚された例は聞いたことがないとはいえ、コモンマジックで
ある使い魔との契約でタバサが正しい効果を発揮できないとは思わなかったからだ。
――ルイズならともかく、タバサに限って……
 この眼鏡の少女の優秀さはよく心得ているだけに、尚更タバサの発言は信じがたい。そしてそのことを
自分のことのように悩みだす羽目になってしまった。当のタバサはといえば、特に気にした風もないのだが。

「でも、目と耳になることでしたら、元々ワタシの得意技ですよ」
 そして親友の代わりに顎に手を当てて考えていると、さらりとそんな声が耳に入ってくる。キュルケが顔を
上げれば、近くまで飛んできたナビィが2人を見下ろしていた。
「お手数ですけれど、タバサ様にキュルケ様、少々ご協力いただけますか?」
 柔らかな声で丁寧になされる依頼に、キュルケとタバサはとりあえず了承する。
「では、まずお2人ともお互いに少し距離を取っていただけますか」
 妙な頼みに2人は一瞬首を傾げるが、言われた通り互いに部屋の隅と隅、30メイルばかりの距離で向かい
合った。すると、ナビィがキュルケの方に飛んでくる。体の輝きを、藍色がかった白から青一色に変えて。
「では、タバサ様はワタシが「Look」と合図をしたら、キュルケ様に普通の声で話しかけてくださーい!」
 タバサに聞こえるようにナビィが大きめの声で呼びかけると、タバサが頷くのが見えた。
「では、Look!」
 その言葉が放たれると、遠目にタバサの口が動くのを確認できる。
「キュルケ?」
 すると、その動きの通りに、タバサの声が耳に届けられる。
「え、タバサ!?」
「そう」
 驚いて聞き返すと、タバサの声がしっかり返ってきた。それなりに距離を取っているのに、まるで聞きにくい
ところがない。それに驚いていると、ナビィが笑い声混じりに言葉を挟む。
「ふふ、驚かれました? ワタシはこうやって、ヒトとヒトの会話を仲介することができるんです」
 耳と同時に口の役割もしてますね、とナビィは付け加えた。
「それから目ですが、本かなにか、字の書かれたものはございますか?」
 問い掛けてくるナビィに、キュルケは少し考える。
「本じゃないけど、手紙でもいい?」
 確か、下級生の男子から送られてきた恋の詩がつづられたラブレターがあったはずだ。受け取った恋文を他人に
読ませるなど本来無作法とされるが、キュルケの常識としては特に問題ない。読ませる相手がタバサならば尚の
ことだ。
「では、それを机の上に置いてください」
 言われた通り、取り出した手紙を開いて机に置くと、今度はナビィの色が緑色に変化する。
「ではもう1度、Look!」
 そう合図すると、教室の向こうからタバサが大きめの声でキュルケに問い掛けてきた。
「これ、キュルケ宛てのラブレター?」
「そうよー、なんて書いてあるか、読めるー?」
 同じようにキュルケが聞き返せば、タバサは頷いて答える。
「恥ずかしい文句で詩が書いてある。声に出す価値はない」
「……辛辣ね、同意見だけど」
 身も蓋もオブラートもない言い様に、キュルケは苦笑する。普段閉じてばかりの口で、開けばさっくりと毒舌が
飛び出すのが、この少女の面白い特徴の1つだ。周囲の人間から見れば、ありがたくない特徴かもしれないが。
「これは、視覚はともかく、聴覚に影響しているように思えない」
 キュルケたちの方へと近づいてきながらタバサが言うと、ナビィがそうですねと同意を示す。
「ですが、音を聞く必要があればそれを伝えることはできますよ」
 その返答を受けてみれば、タバサの眼鏡が僅かに光った気がした。
「興味深い」
「ふふ、これは『Z注目』と呼ばれる技です」
 最近では『L注目』とも呼ばれますが、と付け加えてナビィは笑った。

「Z注目使いか、では癒しの技は使えないのか?」
 そこで、ムジュラの仮面が口を挟み、ナビィがその問いに頷いてみせる。
「そうか、まあ治癒使いは力を使う度にしぼんでしばらく消えるからな。Z注目の方が利便性はあるが」
 そこで、それにしてもとばかりにムジュラの仮面がナビィに近寄る。
「お前、妖精のくせにいやに世俗的だな? 大妖精や高位の精霊ならまだしも、人間の王侯貴族に敬語を使うのか?」
「あはは……、ワタシの場合、王族やら部族の長さんやらとお会いする機会が多かったから……」
「変わった妖精だな」
 呆れとも感心ともとれる態度で、ムジュラの仮面が呟く。そして、黙って座っていたサイトが腕組みをしながら
呟いた。
「ナビィが最初からそういう能力持ってたから、ルールが狂って感覚の共有ってのがうまくいかなかったのかな?」
「わからない。けれどその可能性はある」
 サイトの疑問に答えると、タバサは指を2本立てた手を上げる。

「2つ目は、主の望むものを見つけること。秘薬の原料となる硫黄や苔等を取ってくる役目」
 それを聞き、ナビィは困ったように言った。
「見つけてくることはできると思いますけど、取ってくることは無理かしら」
「それは俺とムジュラの仮面でできるんじゃないか? 探すのはナビィで、運ぶのは俺らってことで」
 ムジュラの仮面被れば俺も飛べるしな、とサイトは笑いながら、キュルケたちの許へやってくる。

 そして全員が一ヶ所に集まると、タバサは3本目の指を立てた。
「3つ目が1番重要。その能力で主を護ること」
 そう言うと、ナビィとサイトが顔を見合わせる。
「うーん、戦闘補助はできても、ワタシは直接闘うことはできないわ」
「俺も、精々喧嘩を2、3回したことある程度だしなー」
 弱気な言葉を口にすると、2人はムジュラの仮面に視線を向けた。自然、キュルケとタバサの目も彼に移る。
4対の視線を浴びながら、色々と得体の知れない仮面は僅かな間をおいて言葉を発した。
「オレ1人では、正直厳しいかもしれないな」
 意外な言葉に一同が驚くより早く、ムジュラの仮面は先を続ける。
「さっきも少し言ったが、オレは以前の力を大分失っているんだ。なにより、オレは自分で自分の力を使うのが
苦手でね」
「どういう意味?」
 怪訝とキュルケが聞くと、ムジュラの仮面は少し恥ずかしそうに声を紡ぎ始めた。
「オレは見ての通り仮面だからな。つまり本来使われる側だ。情けない告白になるが、オレはオレを被る他者の
意思から力を使うことはできても、自分単体ではどう力を使っていいのかよく判らないのさ」
 そこまで言うと、声が自嘲じみたものに変わった。
「さもなければ、あんな子鬼を利用する意味はなかったし、あるいはあの決戦の行方も変わっていただろうに」
 独白のような呟きにキュルケたちが首を傾げれば、ムジュラの仮面はこっちの話だと苦い声で応じる。
「まあ、そういうわけでな。オレが戦うには、オレの力を引き出す被り手がいるのさ」
 言って、ムジュラの仮面はサイトを見据える。
「被り手って、俺か?」
 自身を指差すサイトに、ムジュラの仮面は頷いた。
「ふうん。まあ、お前を被った時は確かに力が湧いたけど、どこまでのことができるのかはよく判んないよ」
 不安気にサイトが言うと、ムジュラの仮面はさもありなんといった風に笑う。
「なら、表に出てオレを被れ。どこまでできるか、自分で証明してみせろ」



 ムジュラの仮面に促され、才人たちはヴェストリの広場というところに来ていた。城の中庭にあたるその場は
日当たりが悪く、景観は整えられているが雰囲気はどこか物寂しい。そのためなのか、それとも今が本来授業の
時間だからか、今その場には彼らの他に誰もいなかった。
「んで、具体的にどうすりゃいいんだよ?」
 その広場の中央辺りに立ちながら、才人は手に持つムジュラの仮面に問い掛ける。
「いいから、とりあえず被れ」
 急かすような返答に、才人は肩を1つすくめて彼を顔に押し付ける。
「デュワッ!」
「なんだ、その掛け声?」
「俺の故郷で、顔につけて強くなるものの代表的掛け声」
 ムジュラの仮面の疑問に、笑い声混じりに答えた。そういえば、タバサの眼鏡も赤フレームだな、と思い
ながら。
 それから半瞬遅れ、先程感じたのと同じ力の奔流と、同じ精神の昂りが脳天を貫き、全身を駆け巡る。
「ふう、マジこれでパワーダウンしてんのか?」
「残念ながらな」
 ムジュラの仮面を通し流れてくる力を感じながら、才人は感嘆の息を漏らした。本来の自分では到底
あり得ない、迸るようなエネルギーの流れ。これで弱体化しているとは、とても思えない強大さだ。
「信じらんねえ。元々はどんだけ強かったんだよ」
「そう感じるのは、お前がオレから力を引き出してくれているからだ。上手にな」
 賞賛の声が、顔面から耳許へと届けられる。それが昂った心に心地よく響き、元々お調子者の才人は
悦に入った。
「はは、うまいこと言って、俺をいいように使おうとか思ってない?」
 図に乗りついでに冗談めかして言うと、ムジュラの仮面は沈黙で応じてくる。
「いや、黙られると不安なんだけど……」
「ちょっとした茶目っ気だ」
「……本当か、おい」
 何やら不安が立ち上ってくるが、本当に自分をどうこうする気ならこんな警戒を煽るようなことは言わない
だろう。気を取り直して、才人は力を使おうとする。
「そんで、この後はどうするんだ?」
「好きなようにすればいいさ。思った通りに力を振るえ」
 簡単な返事に、才人は軽く頭を掻いた。
「いや、好きなようにったって、どうすりゃいいんだよ」
「とりあえず、なにか戦わなければならない場面でも想像してみろ。そうすれば、自ずと見えてくる」
 お前みたいに好奇心が強い奴は、えてして想像力もあるからな、と付け加えられた言葉を聞きつつ、才人は
両の手の平を見下ろしてみる。

――戦わなければならない場面、か……
 正直、ぴんとこない。近頃治安が悪化してきたとはいえ、平和ボケした現代日本で育った才人には、戦闘など
縁遠い言葉だ。

 しかし、と才人はタバサの方に目を向ける。才人たちから校舎側に20メートル程離れて、キュルケ、
ナビィと共に立つ青い髪の少女。自分を、突然この異世界に連れてきた人物。家から、友から、家族から、
地球から才人を切り離した者。それを考えれば、彼女は仇とも呼べる存在だ。
 けれど、才人はタバサを責める気には、あまりなれなかった。せいぜい12か13歳程度と思われる、
あどけない美少女。そんな自分より4つか5つも年下の女の子に頭を下げられて、尚恨み言を言える程、
才人は狭量なつもりはない。勝手に召喚などして使い魔になれなどふざけるな、という気持ちはないでも
ないが、召喚のゲートをくぐってしまった才人にも非はあるし、彼女1人に責任を押し付けるような真似は
したくなかった。

 それに、彼女は自分たちを帰すと約束してくれたのだ。彼女が、才人たち3名を召喚した責任として。
 立場的には被害者かもしれないが、あんな小さな少女にそんな気を遣わせてしまっていては、年上の男として
何か情けない。何か変な考え方という気もするものの、できる限り彼女の力になりたいと、そう思っていた。
彼女が危険な目にあっている時は、守れるものならば守ってやりたい。あんな小さな女の子にどんな危険が
あるのかと内心ツッコミが入るが、なにせファンタジーの世界である。先程の桃色の髪の少女が乗っていた
ドラゴンや、キュルケの召喚したサラマンダー――ナビィとムジュラの仮面は新種のドドンゴかと尋ねていた――
のような幻獣と呼ばれる存在が普通に存在しているらしいので、そういったものから守る場面はあるかもしれない。

――怪物に襲われる、うん、これだな
 そこで、才人はその方向でイメージを固めていった。角が生えて二足歩行する、特撮の怪獣じみたフォルムの
化け物。それが、タバサを追いかけている。タバサは魔法で応戦するも、効果は見られず徐々に追い詰められて
いった。鋭い牙の生え揃った顎から涎が滴り、今にも食いつかんと開かれた。そこまで想像するだけで、才人の
内に何とかしないとという気持ちが膨れ上がる。

 では、どう何とかするべきか。ムジュラの仮面のおかげで、何とかする力はある。問題は、それをどう使うかだ。
 まず考え付いたのは、武器だった。剣や槍を使うべきか、いや、もっと強力なもの、銃火器の類はどうだろう。
拳銃や猟銃程度では駄目だ。もっと強力な武器、そう、大砲の類がいい。

 そこまで考えると、我知れず才人の体は浮き上がっていた。足が地から離れた浮遊感を感じながら、イメージを
続けていく。

 大砲を使うといっても、その場にいちいち大砲を出現させるわけにはいかないだろう。そんなスペースがない
場合だってある。
 物を生み出す様な考えが普通に浮かんできたことに一瞬驚くが、すぐに気持ちが切り替わって想像を練り続けた。
これもムジュラの仮面を被っている影響なのかもしれない。
 大砲を作り出さず、大砲を使う。そうするにはどうすべきか。僅かに頭を悩ませると、すぐに答えは出た。
 その考えに、才人はムジュラの仮面の下で笑みを浮かべる。簡単なことだ、笑いながら、才人は拳を握った。
 大砲がないなら、『自分がそうなればいい』。思いながら、右手を開き高く掲げた。どうせなるなら、ただの
金属塊を撃ちだすだけの大砲とは、違うことがしたい。折角ムジュラの仮面に魔法の力を借りているのだから、
魔法の力を砲弾にする方が面白い。

 どんな魔法がいいだろう。炎はどうか、焼くことはできても打撃力に欠ける気がする。雷はどうか、あるか
どうかは不明だが、絶縁体には無効化されてしまう。しかし、どちらも悪くない。炎の熱気と、雷の速度と破壊力。
その両者の強みを併せ持っているものは何だろうか。

 思いながら、掲げた右の拳を開く。必要なものは、光だ。高熱を持ち、何よりも速く飛び、破壊力を持つ程に
凝縮された光の砲弾。その想像を固めていくにつれ、自然と右手に力が込められていった。

雷電に似たエネルギーが右手に集い、やがて飴細工のように形を為していく。イメージに従って作り上げ
られていく光の砲弾を手にしながら、才人の心は興奮と不安で渦巻いた。自分の思いのままに強大な力を
操ることができる興奮と、自分の思った通りに破壊の力が生み出せてしまう不安だ。

「恐れているのか?」
 その才人の思いを読み取ったのか、ムジュラの仮面が尋ねてくる。
「ああ、正直、ちょっと怖いよ」
 その問いに、才人はやや恥ずかし気に肯定した。何かを破壊できる力、それは好奇心を刺激するとともに、
恐怖も与える。物を壊す、傷つけるということは、平和に生まれ育った者には大きな責任に思えるのだ。
「恐れることはない」
 徐々に膨れていく不安感の中、ムジュラの仮面の声が染み入っていく。
「今のお前は強い。強さは責任に繋がるが、同時に責任を取る力にも繋がる。恐れるな、たとえ失敗したと
しても、今のお前ならばどんなミスも取り戻せる」
 諭す様な穏やかな声が、心を落ち着けていく。それとともに、影をひそめていた力への興奮が湧き興って
くる。
 その興奮のまま、才人は眼下の地面に右手を向けた。タバサたちを巻き込むようなことのないよう、
離れた地点へ照準を定める。
「うおおぉぉ……!!」
 咆哮と共に、才人は右手に握った力を解放した。その刹那、光の砲弾が迅雷さながらに手の平から飛び出す。
矢よりも早く飛ぶ一撃は瞬く間に大地との距離を縮めていき、一瞬の後には目標へと達する。そして、光の
砲弾はその威力を示した。閃光が爆ぜ、その残骸が細かな粒子となって火花と共に舞い散る。赤く焼けた土が
弾け、濛々と土煙が上がった。そして、それらが晴れたその様を見て、才人は息を飲む。つい先程までは
淋し気ながら整えられた景色を見せていた広場には、直径5メートルにも及ぶクレーターが穿たれていた。

「ふう、こんな手下の仮面に使わせていたような力を使われるとは心外だが、まあ威力は上々か」
 ムジュラの仮面が何処かつまらなそうに言い、それに才人は聞き返した。
「仮面が仮面手下にしてたのか?」
「同類を部下に持つのはおかしなことではないだろう」
 その返答に、それもそうかと頷いた。それから、改めて地上の戦果を見やる。
「しかし、ホントにすげーな、お前の力」
「正確には、オレのではない」
 才人がその言葉に首を傾げる前に、ムジュラの仮面は続けた。
「オレとお前の力だ」
 優し気なその声は、才人の自尊心を刺激した。これ程の力が、自分の成果でもあるのだと言われ、
達成感に似た感慨が湧く。次いで、僅かながら疑問も湧いた。
「失礼なこと聞くけどさ」
「?」
「なんかさっきからおだてるようなこと言ってるけど、ホントに他意はないんだよな?」
 やはり、ムジュラの仮面は沈黙で返す。
「だから、黙んなよ! 気になるだろ!」
「では、使えない道具はタダのゴミでしかないとだけ言っておく」
「意味判んねーよ!」
  顔面を覆う相手に怒鳴り返しながら、才人はとんでもない相手と手を組んでしまった予感がふつふつと
沸いてくるのだった。

 そして、まだ誰も気付いていない。
 ムジュラの仮面を被っているその瞬間、ムジュラの仮面に刻まれていた使い魔のルーンが、才人の左手に
浮かんでいるということに。
 まだ気付いている者は、誰もいないのである。

~続く~



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