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萌え萌えゼロ大戦(略)-22



 パーティも終わり、夜も更けたニューカッスル城郭。夜明けもまだ遠く、
重なった双月と星明かりだけが頼りの天守に、3人の人影があった。
「それでは殿下、これをおあずけします」
 そう言って信号銃を取り出したのは、ルーデル。ハルケギニアの最新型
火打ち石式短銃よりも小型でありながら堅牢かつ精緻なドイツ製信号銃に、
ウェールズ皇太子は目を見張る。
「……ここをこう動かして、この信号弾を装填して下さい。装填が
終わったら、ここの安全装置のレバーを動かして。準備ができたら空に
向けて撃つ。これだけですわ」
 ルーデルがそう説明した後、装填済みの信号銃と一緒に信号弾1発を
手渡す。それを受け取ったウェールズ皇太子は、動作を確認しながら
言った。
「分かった。それでは攻撃開始時には1発、中止時にはもう1発。
しかし、本当にこれが空の上から見えるのかい?」
「問題ありません。私は高度15000で待機。本当なら偏西風の下の8000に
いたいところだけど……」
 ふがくはウェールズ皇太子の心配を打ち消すように頷く。だが、
ふがくも投弾時の風の影響はなるべく減らしたいと考えていた。
「高度が低いと敵に見つかっちゃう可能性があるわ。ふがくちゃん。
ここが高度3000メイルの浮遊大陸だって忘れちゃ駄目よ?それに、一度
攻撃されてるんでしょ?13000付近で。
 第一、ふがくちゃんだったらそれくらいの計算楽勝でしょ?」
「まぁ、そうだけど……
 あ、忘れるところだった。ルーデルにも、これ1本あげる」
 そう言ってふがくは懐から油紙とコルク栓の上からさらに『キケン』と
ハルケギニア語で刻印してある蝋封までされた、彼女の腕ほどのガラス瓶を
取り出す。中には緑の透明感のある液体が入っており、それはルーデル
だけでなくウェールズ皇太子の興味も引いた。
「ガソリンよ。作戦行動だし、ルーデルもこっちに来てから一度も補給
してないんじゃないかな?って」
「ガソリン?何だね?それは?」
 聞き慣れない言葉に首をかしげるウェールズ皇太子。対照的にルーデルが
喜色を浮かべる。
「嘘!?本当に?お姉さんうれしいわぁ。ありがたく、いただくわね」
 そう言うが早いか、ルーデルは鋼の乙女の膂力でジュースの栓でも
抜くかのように苦もなく封蝋ごと栓を抜き、中の液体でのどを潤す。
「はぁ。いいわぁ。合成だけど、どこか懐かしい味ね。オクタン価も
結構いい感じだし。アルコールよりずっと体のキレがいいわ。
 ね、ふがくちゃん。これ、どこで手に入れたの?」
「それは内緒。もらい物だし」
 ふがくはそう言って出所を明らかにしなかった。シエスタからもらった
木箱の中に大量のおがくずに埋もれるように4本入っていたので、嘘は
ついてない。それに、何故かタルブの村のことをルーデルに話す気が
起きなったのだ。その様子を見たウェールズ皇太子が、不思議なものを
見るような目で二人を見ていた。
「……それは、東方の飲み物なのかい?ルーデル君が封を開けたとたん、
かいだこともない刺激臭がしたが……」
「駄目です。殿下。これは私たち航空機型鋼の乙女や飛行機械の燃料です。
人間が飲んだら鉛中毒を起こします」
「そ、そうなのか?」
 強い口調でいさめるふがく。それに気圧されるウェールズ皇太子。
さらにそれに続くようにルーデルも楽しそうに言う。
「そうねぇ。こっちのワインにはサパみたいな危ない甘味料は使って
ないみたいだし。殿下の前で飲んだのはちょっと軽率だったわ」
「ぜんっぜん反省してないでしょ?アンタ」
 ジト目でルーデルをにらみつけるふがく。だが一向に意に介さない
様子のルーデルに、ふがくは溜息をついた。
「はぁ。まぁいいわ。
 とにかく、私は敵が私を視認しにくいうちに上空待機。日の出とともに
国王陛下から叛乱軍に降伏勧告を行い、従わない場合は攻撃開始……
これでよろしいですね?」
「ああ、それでかまわない。ふがく君の攻撃が終了後、ルーデル君による
艦船攻撃、それでも残っている敵を我々が掃蕩する……わけだが、
たぶんそこまで残っている敵はいないだろうね。
 しかし……高度15000メイルか。かつてガリアの竜騎士が高度8000
メイルに挑んで始祖の罰を受けたと聞いたことからすると、まさに雲の
上の話のようだよ」
 ウェールズ皇太子はそう言って、笑った。


 その頃、大使としての役目を終えつつあるルイズは、包囲された戦場と
いう緊張よりも強い疲労感に負け、深い眠りについていた――

 ――あれ?

 ふと気がつくと、ルイズは制服姿で見慣れぬ場所に立っていた。
いや、それは正確ではない。ルイズはこの場所に一度来たことがあった。

(ここ、ふがくの元いた場所……)

 そこは、前にふがくともう一人の女性がいた部屋。だんだんと音が
聞こえるようになってくる。最初に飛び込んできたのは、聞き慣れた
乙女の怒鳴り声だった。
「なんで出撃できないのよ!レイたちの攻撃で、ミッドウェー島そのものが
罠だって分からないの?
 敵は機動部隊、いいえ、あかぎを狙ってる!アタシが出撃すれば、
あんな奴ら、一気に爆砕してやるわ!」
 それは鋼の乙女、ふがく。その顔は怒りに震え、今にも爆発しそうな
勢いだ。彼女の前には、真っ黒い眼鏡をかけて白いつば付きの帽子を
かぶり白い上着とズボンの制服を着た、黒髪に白髪交じりの男がいた。
「落ち着け、ふがく!おめえさんの出撃は、司令官殿から禁止されてるんだ。
未完成のおめえを、今出すわけにはいかないんだよ!」
 熟練した雰囲気をまとったその男は困った顔をするが、それでもふがくの
怒りは収まらない。
「アタシはもう完成してる!
 今ならミッドウェー上空に間に合う!時間との戦いなのよ!整備長も、
あの司令官も、それを分かってるの!?」
 整備長と呼ばれたその男は、ふがくに指をびしっと突きつけられても
動じる気配はない。
「落ち着け!確かに機体的にはおめえさんは問題ないが、一度でも戦闘
訓練やったのか?おめえは秘密兵器で決戦兵器だ。ここはこらえろ!」
「そんなの関係ない!アタシは……!」
 肩をつかむ整備長の手を振り払い、外に出ようとするふがく。そのとき、
部屋に置かれた奇妙な鉄の箱が耳障りな雑音を発し始めた。
『……ちゃん。ゆきかぜちゃん、聞こえる……かしら?』
「あかぎ!?」
 雑音の後に聞こえたそれは以前聞いたことのある声。だが、それは
ひどく苦しそうで……『ゆきかぜ』という知らない名前を呼ぶ声は、
今にも消えてしまいそうだった。
『この声……あかぎさんですか?!』
 箱の中から波の音をバックに聞いたことのない少女の声がする。これが
『ゆきかぜ』なんだろう。ゆきかぜはあかぎをとても心配しているのが
手に取るように分かる。ふがくも、その箱にかじりつくように声に耳を
傾けていた。
『そう、よかった……その声なら、無事そうね』
『あ、あかぎさん、何があったんですか……?!』
 あかぎの声に混じって何かが飛び去るような音や爆発音が聞こえる。
これはルイズにも分かる。戦場であかぎが危ない目に――いや、死ぬ
ような目に遭っているのだ。
『こっちは、大変だけど……そっちには、敵はいないみたいね』
『はい……!私たちは大丈夫です。あかぎさん、私、今そちらに……!』
「……アタシも出る!レイやゆきかぜだけに任せておけない!」
 箱から聞こえるあかぎとゆきかぜの会話に業を煮やしたふがくが
飛び出そうとする。だが……

『ダメよ』

 その言葉にふがくの足が止まる。その否定の言葉は短くて、とても
強い響きを持っていた。ゆきかぜもそれにあらがうことができずに息を
のむ音が聞こえる。
「……どうして……あかぎ、どうして……」
 箱の中からはまだゆきかぜ以外の、他の知らない鋼の乙女たちのあかぎを
呼ぶ涙混じりの声が聞こえている。さっきふがくが言っていた罠に、
あかぎたちが絡め取られてしまったのだ。
「……くっ!」
 涙がこぼれそうになるのを振り切って、ふがくは外に出ようとする。
しかし、その前に一人の男が立ちはだかった。
「……困るな。きみは最強の鋼の乙女となるためにここにいるんだ。
まだ改造も始まっていないのに、どこに行くつもりだね?」
 以前見かけた高官たちが着ていた制服ではなく、整備長の着ているような
制服でもなく。ここの誰とも違うフォーマルな印象の服装の上から白衣を
まとい、眼鏡をかけた、金髪の長身の男。妙に偏執狂的な雰囲気を漂わせた
その男は、冷たくふがくを見下ろしていた。
「え、M博士。どうしてここに?」
 整備長がふがくをかばうようにM博士と呼ばれた男の間に立つ。黒髪の
人間ばかりのこの場所で、金髪のM博士は非常に異質に見えた。
「ミッドウェーの趨勢は決した。このまま日本は敗北の坂道を転がり
落ちるだろう。無能なる上層部が己の無能に気づくことはあるまい」
「それはちょっと……聞き捨てなりませんな。司令官殿の許可はお取りで?」
 言葉の端に怒りをにじませながら整備長はM博士と向き合う。だが、
彼はそんなことは意にも介さなかった。自分はこの男よりも偉いのだ、
という傲岸不遜な態度だ。
「あんな男の許可を得る必要はない。私は大本営の懇願でこの大日本帝国を
勝利へと導くため、ドイツからやって来たのだからな!……そうとも!
アメリカを、世界を灰燼に帰し、勝利するのだ!
 さあ、フガク。こっちに来るんだ!」
 そう言ってM博士はふがくの手を強引につかむ。ふがくは……ふるふると
頭を振り、彼女にはあり得ないほど珍しくおびえた表情を見せる。
「い……いや……。助けて……あかぎ。あかぎぃ!」

 ルイズはベッドから飛び起きる。体中を嫌な汗が濡らしている。
激しい動悸を抑えつつ、ルイズは荒く息をついた。
「はぁっ。はあっ……」
 ようやく息を整えたルイズは、窓から外を見る。まだ夜明け前。
しかし、夜明けとともに王軍が反撃を開始することは、昨日ルイズも
聞いている。ルイズは脇机に置かれた金銀銅のベルに目をやった。
 『固定化』でもかかっているかのようにサビどころかシミひとつない
それは古いマジックアイテムで、それぞれのベルを鳴らすとベルに呼応した
メイドが呼び出されるという。一日に一つのベルしか使えないということ
だが、一揃えしかない貴重なもので、普段は体の弱った国王ジェームズ一世が
使っているものを、大使であり、公爵家令嬢であるルイズに貸し与え
られていた。
 ルイズは何となく手にした銀のベルを鳴らした。澄んだ音が響き、
程なくしてドアがノックされる。
「入って」
 ルイズが入室を許可すると、ルイズと同い年くらいの、長い金髪に
青いリボンを結んだ、緑色の瞳の勝ち気な感じのメイドが現れた。
昨日のパーティや、寝る前までは見なかったメイドだ。
「お呼びですか?」
「体を拭きたいの」
「かしこまりました。大使さま。しばらくお待ち下さい」
 そう言ってにこやかに微笑むとメイドは一度部屋を辞した。だが、
それも数分。再びドアがノックされ、失礼します、との言葉に続いて
開けられたドアから、先程のメイドが湯が張られた銀の洗面器とタオルや
香油などを載せたワゴンを押して入ってきた。
「それでは、失礼します」
 ベッドの上で背中を向けるルイズに、メイドはそう断ってからゆっくりと
汗を拭き始める。本来は準備してもらうだけで後は自分でするつもり
だったのだが、さすが国王陛下のお世話をしているだけある。最初は
そこまで気にしなかったが、メイドというより侍女……いや女官と呼んだ
方がしっくりくるようなその気品と手さばきに、気がつくと全身の汗を
拭かれたばかりか香油まで塗られていた。
「あー。わたしはここまでしてもらうつもりはなかったんだけど……」
「ご迷惑でしたか?」
「ううん。そんなことはないんだけど……」
「?」
 ルイズが指定した、学院の制服を着付けるメイド。そのきれいな声は
ルイズの心の奥までしみ通り、その顔は終始にこやか。公爵家令嬢であり、
こういう待遇には慣れているはずのルイズが、何故か、本来やらせては
いけない相手にこんなことをしてもらっているような……たとえれば、
アンリエッタ姫殿下にメイドのマネをさせているような……そんな居心地の
悪さがつきまとっていた。
「はい。終わりました」
 そう言って、メイドは鏡を持ってルイズの前に立つ。髪を梳き、薄く
化粧まで施された自分の顔は、はっきり言って普段自分がするより
かわいらしくきれいに見えた。
「あ、ありがとう」
「それでは、失礼します。また御用の際にはお呼び下さい」
 メイドはにこやかに言うと、ワゴンを押して部屋を辞した。メイドが
いなくなってから、ルイズはあのメイドの名前を聞き忘れたことに気づいた。
「……国王陛下のお世話をするんだから、それなりの貴族の令嬢ってことも……」
 だが、ふがくの様子を見に行く傍らそのメイドのことを通りがかった
メイドに聞いても、どういうわけか皆曖昧な答えしか返さなかった。


 ニューカッスルから少し離れた丘に広がる森の中。貴族派が陣を展開する
最後尾に近いところに、小さな集落があった。ニューカッスルで生産される
毛織物のボタンや装飾に使うガラス職人が暮らす集落で、彼らは王党派にも
貴族派にも荷担せず、日々の自分たちの暮らしを精一杯生きていた。
「……ねえお父さん。これから、どうなっちゃうの?」
 自宅に併設された工房の窓から、少女が父親に話しかける。夜中から
今まで聞いたこともないような低いうなりのような音が空から聞こえ、
窓の外には、『レコン・キスタ』の三色旗を掲げた貴族派の軍勢が
ニューカッスル城郭を包囲しているのが見える。
 娘の問いかけに、父親は窯から目を離さず答える。
「何も変わらないさ。王様がいなくなっても、神聖皇帝とか名乗ってる
王様みたいなのがそこに座るだけ。俺たちには何の関係もないのさ」
 娘は父親の言葉に「ふうん」と頷いてみせる。そうして、また窓の外の
景色に目を移した――


 ルイズがニューカッスル城の天守に上がると、そこにはすでに国王
ジェームズ一世とウェールズ皇太子、それにギーシュとルーデルがいた。
城下に目を移すと、城門の前に王党派の最後の軍団がすでに杖を並べて
いつでも出撃できる体制を整えつつある。自分が一番遅かったと気づいた
ルイズは、恥じ入るように顔を赤くした。
「あ……と、おはよう、ルイズ。今日は、一段ときれいだね……」
 最初にルイズに話しかけてきたのはギーシュだった。あのメイドの手に
よる今日のルイズはいつもと勝手が違うのか、ギーシュの顔も心なしか
赤いような気がする。モンモランシーには悪いが、異性にほめられて
悪い気はしない。
「国王陛下のメイド……っていうか女官?に寝汗を拭いてもらおうとしたら、
こうなっちゃったのよ。
 ところで、ふがくは?」
 ルイズが辺りを見回すが、ふがくの姿はない。ルイズの問いかけには
ルーデルが答えた。
「ふがくちゃんはもうお空の上よ。ルイズちゃんたちがここにいるって
バレないように、服を着せた藁束を抱えていったん東に飛んで見せてね。
今は上空待機で合図待ちよ」
 言われてみれば、ここに上がったときから空から低いうなりのような
音が聞こえていた。ふがくがいったん東に飛んだというなら、敵はルイズたちが
用を済ませて帰ったとだまされてくれたのだろうか?
「ルーデル君の言うとおり。ラ・ヴァリエール嬢とド・グラモン君は
あまり前に出ないように。敵に見つかると良くないからね」
 ウェールズ皇太子が言葉を継ぐ。だが、「よく眠れたかな?」との
言葉には、ルイズはごまかすことしかできなかった。
 そうしているうちに太陽が東の空から顔を出し――ジェームズ一世が
城郭を取り囲む叛乱軍を射貫くようににらみつけた。


「……降伏勧告だと?」
 『レキシントン』号の指揮所は騒然となった。夜明けとともに行われた、
王党派による貴族派への降伏勧告――魔法で拡声された老王ジェームズ一世の
確固とした声は布陣した貴族派の隅々まで響き渡り、動揺と憶測を呼んでいた。
 ニューカッスル包囲軍総司令官であり、艦隊司令長官でもある
サー・ジョンストンは、それを一蹴した。同時に艦隊の左砲戦および
隷下の五万の陸上戦力に総攻撃を命じる。
ここに、歴史に残る『ニューカッスル攻防戦』が開始されたのである――

「……やはりこうなるのか……」
 敵艦隊の動きを見て、ウェールズ皇太子は懐から信号銃を取り出す。
事前に確認したとおりにセーフティロックを外し、高く掲げた状態で
引き金を引いた。
「……始祖ブリミルよ。せめて、彼らに安息を与え給え」
 『レキシントン』号指揮所で、ネルソンとボーウッドは夜明けの空に
おいても光り輝く、天高く上げられた花火を見た。それは二人には
あのレキシントンの戦いにおいて見た花火を連想させ……同時に背筋を
駆け上る悪寒に、総司令官を差し置いて命令を発していた。
「……いかん!全艦退避!」
 二人はあの双子の姿が見えないことに気づかなかった。

 そして、信号弾を確認したふがくは……瞑目した後、眼下に広がる
軍勢をその両目にとらえた。
「目標確認。投弾弾種収束焼夷弾。これより爆撃を開始する」
 ふがくは懐から大きなドラム缶のような爆弾を取り出した。そして、
自分自身に言い聞かせるようにもう一度瞑目してそれを投下する。
「ルイズ。これが……アンタの命令の結果よ!」


 その頃。トリステイン魔法学院――

 夜明けのテラスで、ワルドが1冊の雑誌に目を通している。
そこにエレオノールが現れた。
「やあ。早いね」
「ジャンこそ。……何を読んでるの?」
 エレオノールはワルドが手にしている雑誌を見て……眉間にしわを
寄せた。
「アンタねぇ……」
「僕が『MoreMoe』を読んでいるのがそんなにおかしいかい?」
 ワルドが読んでいた雑誌『MoreMoe』とは、トリスタニアで発行されて
いる青年向け雑誌。常備軍や王立機関で働く若い貴族の女性を、出版社
お抱え絵師が場合によっては当人の許可を得ずに隠し撮り的に描いた絵を
中心にして特集する雑誌なのだが、誇張はあっても嘘やでっち上げが
一切ないためか主な読者層の青年貴族以外に、決まった特集に限り何故か
平民の少女たちにも売れていることで知られる。エレオノールは読んだ
ことはなかったが、ワルドが愛読者だとは知らず思わず溜息を漏らしたの
だった。
 ――だが、エレオノールが知らなかったことは幸運なのかもしれない。
毎号行われる読者アンケートで、現在エレオノールは二冠を達成している
のであるが……それが『知的美女』はいいとして『踏みつけられたい
理想の委員長』でもダントツのトップ。現在集計中の『冷たい目で
見下ろされながら蔑みの言葉を浴びせられたい美人秘書』でもアニエスと
激しいトップ争いのデッドヒートの真っ最中だったのだから……
「それで、どうしたのかな?」
 ワルドは『MoreMoe』をエレオノールの視線から外すように閉じて
まっすぐ向き合った。エレオノールがテーブルにつくと、エレオノールの
お付きを命じられているシエスタがやって来て素早く二人分の紅茶を
淹れた。
「ちょっと、ね。胸騒ぎがするのよ」
「胸騒ぎ?」
「ええ。おちび、これ以上余計なことに首を突っ込んではいないかしら、
と思ったのよ」
 そう言ってエレオノールは西の空を見る。ルイズの行き先は聞いて
いなかったが、鋭い姉の勘は見事に妹の居場所を見据えていた。


 そして……異世界大日本帝国製の地獄が、ここアルビオン王国
ニューカッスルに顕現した。

 それは最初は小さな光だった。薄雲が浮かぶだけの晴れ上がった空に
いくつもの光輝が出現し、それがばあっと広がって炎の雨となった。
炎の雨は瞬く間に五万の軍勢を覆い尽くし、城郭の外の草原を炎の海に
変える。
「火がっ!火が消えねぇ!」
 ある傭兵は30メイル向こうで起きた爆発から飛び散った炎が、自分の
右肩にへばりついたまま、地面に転がっても消えないことに悲鳴を上げた。
その横では、炎の雨に首筋を直撃された哀れな民兵が生きたまま松明に
なっている。水メイジが『凝縮』(コンデンセイション)や『ウォーター・シールド』の
魔法で火を消そうと躍起になるが、ふがくが投下した油脂焼夷弾、
エレクトロン焼夷弾、黄燐焼夷弾のどれも、その程度で消えるような
代物ではない。ただ、『ウォーター・シールド』がかけられた草原には
火が燃え移らなかったため、少しでも被害を減らそうと懸命な努力が
続けられたが……その上からさらに無慈悲な炎の雨が降り注ぎそれらを
炎の海に消し去った。
「水ではダメだ!土を!土砂で埋めてしまえ!」
 水メイジに代わって土メイジが『アース・ハンド』で焼夷弾を包み込み
無力化を図るが、温度が高すぎてぼろぼろと崩れていく。中には『錬金』で
焼夷弾ごと泥の海に変えてしまい無力化に成功した者もいたが、それらすら
次々と投下される炎の雨に消えていく。城壁に伝わる劫火の熱と立ち上る
黒煙、外から聞こえる阿鼻叫喚は、突撃の号を待つ王党派の戦意すら
挫きかけていた。

「これは……焼夷榴散弾か!?完成させていたのか……」
 猛烈な回避運動を取る『レキシントン』号の指揮所から、ボーウッドは
うめくような声を上げる。それはロサイスの王立空軍技術廠で開発が
進められていた『人道にもとる兵器』。木造船であるフネを艦隊単位で
焼き払うことを目的として開発された砲弾だが、対地攻撃に使えばメイジ、
平民の区別なく焼き払うことが可能だと当初より言われていた。
 もっとも、当時巡洋艦の艦長だった二人はそこまでは知り得なかった。
そして技術廠は貴族派がロサイスを占領した際には真っ先に接収された
施設だったが、王党派が脱出する際に『イーグル』号と搭載された
新型機関や新型砲、そして『イーグル』号を拡大発展させた計画中の
新型艦の資料とともにこの砲弾に関する資料もほとんどが持ち去られていた。
「あの石炭を『錬金』した油を詰めた砲弾か……。ニューカッスルには
造船所や新型機関を製造する工廠がある。ぼくたちは、王党派を追い詰め
すぎたのかもしれないね……」
 ネルソンは回避運動を指示しながら言う。そう。今までニューカッスルは
包囲するだけでほとんど攻撃が加えられなかったのは、貴族派がここに
しかない施設を可能な限り無傷で確保したかったというのが大きい。
しかし、二人は知らなかった。ふがくが投下した焼夷弾は、それらを
遙かに上回る凶悪な兵器だったのだ。
「そんなことはいい!それよりもこの砲撃を行っているフネはどこだね!?
早く見つけて撃沈しないか!」
 遠慮仮借なしの三次元回避運動に船酔いしたサー・ジョンストンが、
口元をハンカチで押さえながら二人を叱責する。所詮、この男は軍人では
なく、政治家でしかない。この攻撃に砲撃の音が伴わないことに気づかず、
またフネの姿すら見えないことが理解できていない。見張りが望遠鏡や
巨大な据え付け式の最新式双眼鏡で上空を探しているが、いまだそれらしき
ものは発見できずにいた。
 そこに上空から急降下を仕掛ける影があった。それは誰であろうルーデル。
急降下爆撃機Ju87スツーカの特徴であるダイブブレーキからのサイレンの
ような音をかき鳴らしつつ、『レキシントン』号に肉薄する。
「本艦直上!急降下ぁ!!」
 カンカンカンカン!攻撃を知らせる鐘が鳴り響き『レキシントン』号が
ゆっくりと進路を変える。その様子を、ルーデルは舌なめずりをする
猛禽のような視線で見下ろしていた。
「ふふっ。もう遅いわよ。悪魔のサイレンの二つ名は伊達じゃないのよん♪」
 ルーデルの両目は、自分と目を合わせておびえた表情の貴族派水兵の姿を
とらえていた。その姿にルーデルは満足し、爆撃を敢行する。
 ルーデルの必殺技『ゼクスィグラナーテ』――かつて、地中海のマルタ島を
巡るエクセス作戦において、イギリス王立海軍が誇る装甲空母イラストリアスを
一撃で大破せしめた、本来は空ではなく海の艦船に行う攻撃を、
『レキシントン』号は余すところなく受ける。10発を超える爆弾が全弾
直撃したことにルーデルは満足したが、その表情がとたんに一変する。
「じゃあね、バイバ~イ♪……って、あら?ひょっとして本当にナカまで
全部木造だったの?」
 爆発の大半は『レキシントン』号を突き抜け、地上で起こっていた。
対艦攻撃を想定した徹甲爆弾だったため、装甲材が存在しないフネを
最上甲板から船底まで突き抜けてしまったのだ。爆撃は大地を揺らし、
炎の海から逃げ惑う哀れな将兵を吹き飛ばした。
「ああん。ふがくちゃんみたいに焼夷弾の持ち合わせはないのよねえ。
こんなんじゃ爆弾はもったいないし……仕方ないか。ふがくちゃん、
悪いけど逃げた艦隊に一発お見舞いできない?」
『了解。まかせて』
 ふがくの声が通信機から届くのを待たず、ルーデルはそう言って
重機関銃を構え後続のフネに向かっていく。その姿を見上げつつ、
『レキシントン』号の破壊された指揮所でネルソンとボーウッドは
命拾いしたことを始祖に感謝し天を仰いだ。
「……撤退する。全艦に通達。すべての艦艇は速やかに当戦域を離脱し
後方の補給艦隊に合流せよ!」
「陸兵は……。救助は……どうする?」
「何ができる?ボーウッド?あの陸兵を覆い尽くす炎の海と、艦隊を
高速で襲撃する悪魔のような鉄の翼を持つ翼人……今のぼくたちに、
撤退以外の何ができる?!」
 ネルソンの問いかけにボーウッドは答えを持たなかった。だが……
「このままおめおめと逃げ帰る?そんなことができるか!艦長、突撃したまえ!」
 サー・ジョンストンは口から泡を吹きながらニューカッスル城郭を
指さす。ネルソンは従兵に静かに命じた。
「総司令官どのは錯乱された。お休みいただけ」
「は、放せ!くぁwせdrftgyふじこlp!」
 従兵に取り囲まれ指揮所から連れ出されるサー・ジョンストンを横目に、
ネルソンはつぶやいた。
「すべての責任はこのぼくにある。化け物どもめ……」
「……ホレイショ……。きみは……」
 そうして、メインマストに損傷を受け、甲板から船底まで大穴がいくつも
開いた『レキシントン』号は、艦体のあちこちから炎と煙を噴き上げ
ながらゆっくりと戦線を離脱していった――


「……陛下!これは、貴族の名誉も何もありませぬ!袂を分かったとは
いえ同じアルビオン貴族。これはあまりにも不憫でございます!」
「そのとおり!これでは……。どうか攻撃を中止させ、せめて我らと
杖を交える名誉を彼らにお与え下さい!」
 ニューカッスル城郭の中。城門の前で貴族たちは国王に懇願した。
今も城門の外からはうめき声や城門を叩き、爪を立てる音が聞こえる。
ふがくたちの攻撃終了後、残敵を掃蕩する手はずだが、かつて経験した
ことのない惨状に老王も判断を迷っていた。
「……こ、降伏する!だから城門を開けてくれ!開門!開門!」
「た、助けてくれ……助けてくれ……火が……火が!!」
 ガリガリと城門を叩き、爪でひっかき、懇願する声。だが、それは
唐突に連続して発生した爆風と爆発音にかき消された。
「な、なんということを……」
「城壁に迫る炎を、爆発で吹き飛ばしたというのか……。しかしっ……!」
 ニューカッスル城郭への類焼を防ぐため、ふがくが上空から連続爆撃で
消火を行ったことに王党派の貴族たちは言葉を失う。ふがくが爆風消火を
行った場所には、炎の海から逃げ城門を叩いていた貴族派将兵たちが
いたのだ。彼らから見て火の秘薬で消火を行うということも前代未聞なら、
降伏しようとしていた敵まで巻き込むこともまた、彼らの想像の埒外だった。
ただ、ふがくには、白旗も掲げずに城門に取り付く将兵が降伏しようと
していたとは分からなかったのだ。
 事ここに至り、老王ジェームズ一世は天守に立つ皇太子ウェールズに
顔を向ける。ウェールズ皇太子の横ではルイズが口元に手を当て震えが
止まらないまま立ち尽くしている。その体を、ギーシュが自身も震えながら
何とか支えていた。
「……もう、十分だ。ラ・ヴァリエール嬢。攻撃中止を命じるが、いいかね?」
 ウェールズ皇太子の問いかけに、ルイズはただ頷くことしかできなかった。
ウェールズ皇太子は新しい信号弾を装填し、信号銃を空に向けて引き金を
引いた。

「……な?!」

 ――何も起きなかった。信号銃から信号弾が発射されることはなく。
銃は沈黙したまま。
「不発だと?!こんなときに!」
「それじゃ……ふがくを止めることは……」
「できない。予備の弾がなく、所定の合図ができない以上、当初の計画通り、
二人とも敵を殲滅するまで攻撃の手を休めることはないだろう。
なんということだ……」
 ウェールズ皇太子は天を仰いだ。ルイズもギーシュも、燃え盛る草原と、
炎が迫りつつある森から目が離せなかった。


「こりゃまずいな。火の手がこっちに迫ってる。母さんを呼んできなさい。
逃げる準備をするぞ」
 森の集落で、ガラス職人の父親が娘に命じる。そして娘が工房の扉を
開けるのと、その遙か上空で一人の乙女が「しまった!」と悲痛な叫びを
上げたのは、ほぼ同時だった――


 ――そうして、空からの炎の雨が降り止んだ……


 攻撃開始からから現在まで、たった1時間も経っていない。
だが、その短い時間で、ニューカッスル城郭の外の景色は一変した。
脂が燃える臭いは消えず、黒煙を噴き上げる炎は依然として衰えず。
炎の海の向こう側には墜落し焼け落ちたフネが搭載した弾薬の誘爆を
起こしながらさらに燃え盛り、墜落の衝撃で暴走した風石がそれに拍車を
かける。城郭に流れる河にも川上から焼けた水死体が流れ着き始め、
ふがくの爆風消火で消火帯ができた城郭城壁周辺がそのまま残っているのが
逆に嘘みたいに思える光景に、王党派はことごとく言葉を失った。
 ニューカッスル城の天守で、ルイズたちもまた言葉を失っていた。
「……これが……ふがくたちの本当の戦いなんだね……」
 ギーシュが絞り出すように言葉を口にする。思えば、あのとき決闘なんて
馬鹿なマネができたものだと今更ながらに思う。ふがくがその気になれば、
魔法学院などいつでもこんな風にできたのだと思い知り、ぞっとした。
「敵国を破壊する……か。確かに、五万の軍勢と2隻のフネを1時間で
焼き尽くせるならば、このアルビオン浮遊大陸全土を焼き尽くすには
3日とかからないだろう。加えて迎撃不能なあの高度……アンリエッタが
このことを知れば、ゲルマニアとの同盟など無用になるな……」
 ウェールズ皇太子の言葉にも諦観が混じっている。昨夜のパーティでの
言葉に嘘はない。だが、現実は予想を遙かに超えていた。
 そして、ルイズは唇をかみしめ無言のまま炎の海から視線を離せずにいた。
黒煙に包まれた空は曇り、今まで見たことのない黒い雨が降り始める。
そこにルーデルとふがくが舞い降りた。
「ゴメン……誤爆した……。それに敵艦も3隻逃したし、敵兵もごくわずか
だけど逃げたのがいるみたいだから、追撃の必要が……」
「……らない」
「え?」
「いらないって言ったのよ!」
 黒い雨が降る中。申し訳なさそうなふがくの報告を遮り、ルイズは
ふがくの千早の袖にしがみついた。
「……こんな……こんなはずじゃなかったのに……。こんなはずじゃ
なかったのにぃっ!!」
 堰を切った涙の中で赦しを請うように。『こんなはずじゃなかったのに』
『ごめんなさい』と何度も口にしながら。
 ギーシュはルイズに手をさしのべようとして……触れることも声を
かけることもできなかった。
 そしてふがくもまた、すがりつくルイズを払いのけることも、抱き
しめることもできず、その場に立ち続ける。

 降り続ける黒い雨は、そんな3人の涙を覆い隠してはくれなかった――



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