あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

アノンの法則-18


一行はラ・ロシェールで一番上等な宿、『女神の杵』亭を今夜の宿と決め、一階の酒場で食事を摂っていた。
キュルケが、隣で鶏肉をほおばっているアノンの腕をつついた。
「ねえ、ダーリン。ギーシュってずいぶん雰囲気変わったと思わない?」
そう言われて向かいの席のギーシュを見ると、ギーシュはワイングラスを手に、なにやら真剣な表情をしている。
「さっき襲撃してきた奴らの尋問のときなんか特に。あんなギーシュ見たこと無いわ」
横で聞いていたタバサも、ハシバミ草のサラダで頬を膨らませたまま、こちらに視線を移した。
「なんでも実家で鍛え直してきたらしいよ。実際、凄く強くなってる」
アノンは嬉しそうに答える。
「多分ギーシュくんは、フーケよりも強くなるんじゃないかなぁ」
「フーケよりぃ?」
キュルケは信じられない、といった風にギーシュを見た。
「ねえ、ギーシュ。さっきから何見てるの?」
「ん? いやね、あそこのご婦人。なかなか美人だと思わないかい?」
キュルケとタバサはアノンを見る。アノンはすっと視線を逸らした。
そこに、『桟橋』へ乗船の交渉に行っていた、ワルドとルイズが帰ってきた。
ワルドは席につくと困ったように、
「アルビオンに渡る船は明後日にならないと、出ないそうだ」
「急ぎの任務なのに……」
仕方が無いこととは言え、ルイズは不満そうだ。
「私はアルビオンに行ったことないからわかんないんだけど、どうして明日は船が出ないの?」
キュルケの問いに、ワルドが答える。
「明日の夜は月が重なるだろう? 『スヴェル』の月夜だ。その翌日の朝、アルビオンが最も、ラ・ロシェールに近づく」
近づく、と言うことは、アルビオン大陸は浮島のようなものなのだろうか、とアノンは一人考える。
「さて、じゃあ今日はもう寝よう。部屋を取った」
ワルドは鍵束を机の上に置いた。
「キュルケとタバサは相部屋だ。そして、ギーシュとアノンが相部屋。……ルイズは僕と同室だ」
ルイズがはっとして、ワルドを見た。
「そんな、ダメよ! まだ、私たち結婚してるわけじゃないじゃない! それに…」
ルイズはちらりとアノンを見る。アノンは特に気にした様子も無く、テーブルの料理をパクついている。 
何か不愉快なものを感じて、ルイズはぷいっと視線を逸らした。
ワルドは、真剣な眼差しでルイズを見つめた。
「大事な話があるんだ。二人きりで話したい」
ルイズは黙って頷いた。




「ねえ、本当にやるつもりなの? 今は、そんなことしているときじゃないでしょう?」
ルイズがワルドに言った。
「そうだね。でも、貴族というヤツはやっかいでね。強いか弱いか、それが気になるともう、どうにもならなくなるのさ」
「いいじゃない。ダーリンがスクウェアメイジ相手にどう戦うのか興味あるわ」
「僕も同意見だ」
顔に痣を作っているギーシュが賛同し、タバサもこくこくと頷く。
「あら、ギーシュ。その顔は?」
「今朝方、朝食前に子爵と手合わせした」
「ああ、なるほど」

次の日、ワルドは朝食の席で、アノンに立会いを申し込んだ。
介添え人に指名されたのはルイズ。
手合わせを申し込まれたアノンは喜んでそれを受け、ルイズの制止になど耳を貸さない。
形だけとは言え、介添え人を置くとなれば、決闘だ。
となると、キュルケたちが放って置くはずが無く、結局今は物置と化した練兵場に旅の一行が集まる形となった。
「では、始めようか」
ワルドは腰から、レイピア型の杖剣を引き抜き、フェンシングのように構える。
アノンも背中のデルフリンガーを抜いた。
すでに馴染んだ、ルーンが光り体が軽くなる感覚。
だが、いきなり飛び掛るような真似はせず、形だけの構えでワルドの出方を伺う。
「どうしたね。来ないなら……こちらから行くぞ!」
ワルドが大きく踏み込み、鋭い突きを放った。
(へえ。杖を剣のように使うのか)
杖の切っ先は、真っ直ぐにアノンの眉間に向かう。
(太刀筋も鋭い)
アノンは半歩横に移動、
(突きに迷いが無い)
半身になって体を逸らし、
(うん)
突きをかわす。
(見事だ)
さっきまでアノンの頭があった空間を、ワルドの杖が貫いた。
一撃目をあっさりと避けられ、ワルドは慌ててバックステップを踏んで距離をとる。
(紙一重でかわしただと?)
「避けた…!」
少しでも技を盗もうと、食い入るように二人を見ていたギーシュが思わず声を出した。
「完全に見切っていた。でなければあれを紙一重でかわすのは不可能」
「ああん、さすがダーリン!」
タバサの呟きに、キュルケが嬌声を上げる。
一方、ルイズは気が気ではなかった。
大事な任務の最中だというのに、怪我でもしたらどうするのか。
「あーもう!」
こんなときに手合わせなど始める二人が分からず、ルイズはじだんだを踏んだ。
今度はアノンが一足飛びで距離を詰め、ワルドに斬りかかった。
「うおっ!?」
ワルドは辛うじて杖で受け止める。
これほどまでに早いとは。『風』でなければ対応は至難だ。
しかも、攻撃が重い。頑丈な鉄ごしらえの杖剣が軋み、手がしびれた。
普通の身体能力ではない。人間離れしている。
だが、突出した身体能力などに遅れをとっては、メイジの名が廃る。
“本物”のメイジは、接近戦もこなせてこそなのだ。
再び後ろに飛びずさったワルドは、ゆっくりと息を吐き出し、油断を捨て去る。
ようやく本気になったか、とアノンは身構えた。
「魔法衛士隊のメイジは、ただ魔法を唱えるだけじゃないんだ」
ワルドは羽帽子に手をかけて言った。
「詠唱さえ、戦いに特化されている。杖を構える仕草、突き出す動作……、杖を剣のように扱いつつ詠唱を完成させる。軍人の基本中の基本さ」
再びアノンが斬りかかる。
ワルドは猛スピードで振るわれた剣を見切り、今度は杖で受け流した。
体勢の崩れたところに、柄じりでの一撃を叩き込むが、アノンは凄まじい身体能力で持って飛び上がり、それをかわしてみせる。
「君は確かに素早い。ただの平民とは…いや、人間とは思えない」
身を捻って着地するアノンを狙い、ワルドは風を裂く音と共に、何発も刺突を繰り出す。
一撃目よりも速く、鋭く、力強い。
「しかし、それだけでは本物のメイジには勝てない」
それでもまだ、アノンの方が速い。だが、的確に避けづらい場所を狙ってくる攻撃が、攻めに転じることを許さない。
ワルドはアノンの“超身体能力”を、卓越した“技”で押さえ込んでいた。
「デル・イル・ソル・ラ・ウィンデ……」
杖が風を切る音の中に、アノンは何かの呟きを聞いた。
「! コレは…」
「相棒! いけねえ! 魔法がくる!」
デルフリンガーが叫んだと同時に、アノンの目の前の空気が跳ねた。
巨大な空気の塊に殴り飛ばされ、宙を舞ったアノンは、積み上げられた樽に突っ込んだ。
派手な音を立てて、樽の山が崩れ落ちる。
「つまり、君ではルイズを守れない」
崩れた樽に埋まったアノンに、ワルドはそう言い放った。
慌ててキュルケたちが、樽を退けてアノンを掘り出しにかかる。
「アノン!」
「待つんだルイズ」
ルイズも駆け寄ろうとしたが、ワルドに止められた。
「こういうとき、男には声をかけないほうがいい」
「でも…!」
「今君に慰められたりなどしたら、それこそ彼は立ち直れなくなる」
ルイズはぐっと黙り込んでしまう。
「とりあえず、そっとしといてやろう」
ワルドがルイズを諭す。
「ダーリン、大丈夫!?」
「あ、待つんだキュルケ! そこを退けたらまた……」
向こうでは、『レビテーション』で樽を退けようとして、さらに崩れてきた樽にキュルケたちがきゃあきゃあ言っている。
ルイズはしばらく躊躇っていたが、やがてワルドに引かれて去っていった。
「自分で出られるよ」
樽山の中から、アノンの声がした。
ガラガラと山を崩しながら、アノンが自力で這い出してきた。
「よく無事だったな」
「ダーリン、怪我は無い?」
「平気だよ」
服の埃を払いながら、アノンは答える。
「しかし、いくら君でも魔法衛士隊隊長の相手は荷が重かったようだな」
「でも、平民であれだけやれれば十分よ」
「けっ! ガキどもが。どこ見てもの言ってやがる!」
いきなり野太い男の声が聞こえた。声の主は、アノンのインテリジェンスソードだ。
その柄は、アノンの手にしっかりと握られていた。
「見ろ、相棒はまだしっかり俺を握ってる。武器を手放さないうちは負けじゃねえ」
アノンは必死に訴えるデルフリンガーを鞘に戻し、柄をぽんぽんと叩く。
「ただ魔法を唱えるだけじゃない、か……。この世界の『魔法』…まだまだ奥が深そうだ」
決闘の結果など気にもせず、アノンは新しいおもちゃを見つけた子どものように、瞳を輝かせて嬉しそうに笑った。


その夜、アノンは一人部屋のベランダから、重なり一つになった『スヴェル』の月を見上げて、思考に耽っていた。
ワルド子爵。
相当な腕の持ち主だ。速さだけなら、あの李崩以上。
そこに魔法の力と実戦で鍛えられた技術が加わり、まさに『閃光』の二つ名に相応しい実力だ。
それに、今日の戦いが彼の全力ではない。
デルフが言うには、ワルドは最高クラスのスクウェア・メイジ。
もっと強力な魔法が使えるはずだ。
彼が本気になれば、今日とは比べ物にならない戦闘力を発揮するだろう。
だが、アノンが重要に考えていることは他にあった。
本物のメイジと戦ったことで新たに知った、メイジの戦い方。
すなわち、剣と魔法の併用である。
杖を武器とし、杖で攻撃しつつ詠唱を完成させ、魔法を撃ち込む。
魔法を使うための限定条件、“杖を手に持つ”と“ルーンを唱える”の二つをクリアしながら、攻め手を緩めず、魔法攻撃に繋げられる有効な戦術だ。
ワルドは、それを完全に使いこなしていた。
そして、それは『軍人の基本』と言った。
モット伯の魔法に加えて、更なる魔法の力を得ようと考えていたアノンだったが、今はそれ以上に、魔法を使いこなす技術に興味を持っていた。
「何たそがれてんのよ」
後ろからの声に振り向くと、そこにルイズが立っていた。
「ワルドはスクウェア・メイジよ。負けたって恥じゃないわ」
ぶっきらぼうに言うルイズ。
どうやらアノンが、ワルドに負けたことを気にして、落ち込んでいるのではないかと心配してくれたらしい。
「別に落ち込んでるわけじゃないよ」
アノンは答える。
「ただ、ボクもまだまだだなって思ってただけさ」
「べ、別に心配したわけじゃないわ」
ルイズはぷいっとそっぽを向いた。
「子爵様がいれば、この任務も心配ないね」
アノンの何気ないその言葉に、ルイズは急に不機嫌になった。
「なによ。全部ワルドに任せる気? あんたは私の使い魔でしょ。ちゃんと私を守りなさいよ」
「わかってるよ。でも凄い腕だったし。実際、今回の任務くらい一人でこなせちゃいそうだよね」
なぜだか分からないが、ルイズはアノンのその態度に酷く苛立った。
自分の心配が、空振りに終わったからだろうか。
それとも、アノンが決闘に負けた事を、全く気にしていないからだろうか。
とにかく、ルイズは今のアノンが気に喰わなかった。
「わかったわ。いいわよ。私はワルドに守ってもらうわ」
「?」
ルイズの怒った様な言い方に、アノンは不思議そうな顔で、うん、とだけ答えた。
それがさらにルイズを苛立たせる。
「あの人、頼りがいがあるから、きっと安心ね。別に使い魔のあんたに言うことじゃないけど、言うわ。今、決心したわ。私、ワルドと結婚する」
何かの気持ちを込めてルイズは言ったが、アノンは、一体なんだ、とでも言いたそうだ。
「ワルドと結婚するわ」
もう一度、ルイズは繰り返した。
「ああ、キミたちは婚約してるんだっけ? 別にいいんじゃないかな」
「…!」
特に驚いた様子も無いアノンに、ルイズのプライドは傷ついた。
「あんたなんか一生そこで月でも眺めてればいいのよ!」
そう怒鳴って、ルイズはアノンに背を向けた。
その時、巨大な影がベランダを覆った。
見上げると、月光を遮り、影を作っているのは巨大なゴーレム。
「な、なによこれ!」
「このゴーレムって確か…」
「久しぶりね、お二人さん!」
ゴーレムの肩から、長い髪の人物が二人に向かって言った。

「フーケ!」
ルイズが叫ぶ。
「感激だわ。覚えててくれたのね」
「たしか、牢屋に入れられてたんじゃなかったっけ」
言いながらアノンは背中に手をやり、デルフリンガーを背負っていないことに気がついた。
一人で考え事をしたかったので、あのよく喋る剣は、部屋の中に置いて来ていたのだ。
「親切な人がいてね。私みたいな美人はもっと世の中のために役に立たなくてはいけないって、出してくれたのよ」
嘯くフーケ。その隣に、黒マントを着て、顔を仮面で隠した男が立っている。
(アレがフーケを脱獄させた犯人か?)
黙り込んでいるため、どういった人物なのか分からないが、どうにも不気味な感じだ。
「素敵なバカンスのお礼をしてあげるよッ!」
フーケが叫び、ゴーレムが拳を振り上げた。
「ルイズ!」
「きゃあ!」
アノンはルイズを部屋の中へ突き飛ばし、自分も部屋に転がり込む。
ゴーレムの拳が、ベランダを抉った。
「何事だ、相棒!」
アノンは喚くデルフリンガーを引っつかみ、ルイズを引っ張って一階へと駆け下りる。
しかし、そこもすでに修羅場と化していた。
街中の傭兵たちが、宿を襲撃してきたのだ。狙いはもちろん、ワルドたち。
石のテーブルを倒して盾にし、反撃もしているが多勢に無勢といった状況だ。
破られた店の扉から、フーケのゴーレムの足が見える。
どうやらフーケも店ごと潰すつもりは無いらしい。
アノンたちもテーブルの影に滑り込んだ。
「ギーシュくんがいないね。どこ?」
「え、上にいたんじゃないの?」
アノンの問いに、キュルケが驚いたように言った。
首を振るアノン。ギーシュの姿は夕食の後から見ていなかった。
「では外か。参ったな」
「ただでさえ多勢に無勢だっていうのに、分断されるなんて」
キュルケは忌々しげに外に見えるゴーレムの足を睨んだ。
「あのフーケがいるってことは、アルビオン貴族が後ろにいるということだな。ギーシュ君は最悪、見捨てることになるかもしれん」
ワルドのその言葉に、ルイズが声を上げる。
「そんな!」
「この状況じゃ、探しにもいけないよ」
アノンにそう言われても、ルイズは納得していないようだ。
話している間も、矢は飛んでくる。
キュルケはテーブルの盾から身を乗り出し、反撃の火球を放つも、すぐさま討ち返された矢に、慌てて頭を引っ込める。
「それより、このままじゃいずれ精神力が切れるわ! そしたら連中、一斉に突撃してくるわよ。どうすんのよ!」
「こうするのさ!」
突如、勇ましい声が酒場に響いた。
それと同時に、厨房の方から大きな鍋が、突入を図ろうとしていた傭兵達に向かって投げつけられた。
派手な音と共に、鍋の中にたっぷり入っていた油がぶちまけられる。
「ギーシュ!?」
ルイズたちが声の方を見ると、趣味の悪いシャツを血で汚したギーシュと、鍋を投げたワルキューレが立っていた。
「キュルケ! 炎だ!」
「言われなくても!」
傭兵達が怯んだ隙に、キュルケはテーブルから乗り出し、火球を放った。
火球は撒かれた油に引火し、火の海を作り出す。
「ルイズ! ここは任せろ! 君たちは船へ!」
タバサがこんな時まで読んでいた本を閉じ、自分達を指して、
「囮」
と呟く。
「聞いての通りだ。裏口に回るぞ」
「行くよ、ルイズ」
「え? え? ええ!?」
戸惑うルイズを急かし、ワルドとアノンはテーブルの影から飛び出した。
三人めがけて矢が放たれたが、タバサの風が全て防ぐ。
三人は裏口から、桟橋へと急いだ。


キュルケの炎をタバサの風が煽り、陣形の崩れた傭兵達に青銅のゴーレムが突進する。
突然のギーシュの参入で、傭兵達は動揺し、形勢は一気に逆転した。
あれだけいた傭兵達は、すでにほとんどが逃走を初めている。
「あんたどこ行ってたのよ」
逃げ出した傭兵達に一仕切り勝ち誇った後、キュルケはギーシュに尋ねた。
戦闘が一段落し、床に座り込んでいたギーシュは顔を上げて答える。
「ちょっとトレーニングさ。そしたら急に宿の方が騒がしくなったからね。急いで戻って来たってわけだ」
「傭兵の中を突っ切ってきたわけ?」
「連中、後ろはまるで気にしてなかったからな。厨房の窓に飛び込むまで、ほとんど無傷で走り抜けられたよ」
「へえー…」
キュルケは意外そうにギーシュを見た。
あの軟派なドットメイジがえらく変わったものだ。
伊達に武門の出ではないということか。
「しかし…傭兵とはいえ、人を殺すというのはあまり気分の良いものじゃないな」
ギーシュは今回初めて、本格的な命のやり取りを経験したのだ。
戦いの興奮が冷めてそれを実感したのか、青い顔で体を震わせた。
「まだ終わっていない」
タバサが二人に言った。
その直後、轟音と共に宿の入り口がなくなった。
「あちゃあ。忘れてたわ。あの業突く張りのお姉さんがいたんだっけ」
ゴーレムの肩ではフーケが、目をつりあげてこちらを睨んでいる。
「どうする?」
「ルイズたちは行ったし、もう戦う意味が無いような気もするが……」
「調子にのるんじゃないよッ! 小娘どもがッ! まとめてつぶしてやるよッ!」
フーケの怒鳴り声が響く。
「……そう簡単には逃がしてくれなさそうよ?」
タバサが、ギーシュを見て言った。
「さっきと同じ。油と炎」
「あの巨大なゴーレムを焼けるだけの油がどこにあるんだね」
「あなたが作る。まずは花びら、それもたくさん」
それでギーシュは、タバサの意図を察する。
「…ああ、了解。今度は相手がゴーレムなだけ気が楽だ」
よっこらしょ、と腰を挙げ、ギーシュは薔薇の杖を振った。
無数の花びらが生まれ、それをタバサが風に乗せてゴーレムへと飛ばす。
花びらが、ゴーレムにまとわりついた。
「うん。あの無骨なゴーレムも、僕の薔薇でずいぶん見栄え良くなったじゃないか」
勝ちが見えたからか、それとももう恐怖が麻痺したか。
ギーシュはあのフーケを前にしているにもかかわらず、なんだかのん気な気分だった。
「なによ。贈り物? 花びらで着飾らせてくれたって、見逃してなんかやらないよ!」
フーケがせせら笑ったが、ギーシュは冷静に『錬金』を唱えた。
ゴーレムの表面に張り付いた花びらが、ぬらりとした油に変わる。
「これは…」
フーケは、敵たちの能力と照らし合わせて、すぐにその目論見に気づいた。
(やばい!)
フーケがゴーレムから飛び降りると同時に、キュルケが『ファイアーボール』を放った。
ゴーレムは一瞬にして炎に包まれる。
燃え盛る炎を振り払おうと、ゴーレムはしばらく暴れていたが、やがて力尽きたように崩れ落ちた。
雇い主の敗北に、わずかに残っていた傭兵達も散り散りになって逃げていく。
「やったわ! 勝ったわ! 私たち!」
ぴょんぴょん跳ねて喜ぶキュルケ。
タバサは座っていつものように、本のページをめくり始める。
逃げ去っていくフーケと傭兵を見送り、ギーシュは大きく息をついて、地面に大の字に寝転んだ。
空には、重なり合った双月が輝いている。
「ルイズたちは無事に船まで行けたのか…?」
今は考えても仕方ない。
ギーシュは襲ってきた疲労に任せて、目を閉じた。

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