あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロのロリカード-63

 タバサとシルフィードと別れ、アーカードは森の中を歩いていた。
アルビオン、ウエストウッドの森。そこが決着の地。

 そこに現れる老齢の男。
否・・・・・・最初から既にそこにいて、ずっと待っていたのだろう。
老いさらばえた肉体とは対照的に、その射抜くような眼光は少しも衰えを見せていない。
アーカードは仇敵と視線を交わすと、少女姿から青年姿へと姿を変える。
この男と・・・・・・アレクサンド・アンデルセンと戦うに、最も相応しい姿。

 かつては共闘もした宿敵。
しかし間違いなく、アーカードにとってアンデルセンは敵であり、アンデルセンにとってアーカードは敵。
その厳然たる事実は決して変わりようがない。

「我は神の代理人」
アンデルセンは両手に持った銃剣で十字を描き、聖句が如くに言葉を紡ぐ。
「神罰の地上代行者」
それは闘争の前の儀式であり、これから狩る相手への死の宣告。
「我が使命は我が神に逆らう愚者を、その肉の最後の一片までも絶滅する事」

 二人の間に語るべきことはない。
宿敵同士、そこにあるのは殺すか殺されるかのみ。
化物のアーカードと、人間のアンデルセン。

 既にアーカードに死の河はなく、アーカードという個と、アンデルセンという個。
純然たる二つの個が、ぶつかり合い、鬩ぎ合い、削り合い、斃し合う。純物でのみ構成された至高の闘争。
双月が浮かぶこの夜半に、どちらかが・・・・・・或いは両方が死ぬ。

「 A M E N 」


 アーカードとアンデルセンの周囲の空間が歪曲する。
その一撃は必殺――――相手を必ず致死に追い込む――――故に、一撃で何もかも一切合財決着がつく。
極限にまで高められた強者同士であればこそ、そこに不純物は混ざらないもの。
――――――故に、勝負は一瞬で終わる。――――――故に、これは究極の闘争。

 アーカードとアンデルセンは、それぞれ右腕に全身全霊を込め、双方が足並みを揃えるように歩を進める。
相対距離が狭まるほどに、二人を結ぶ空間は一層歪み、引力が発生したかのように、さらに引き寄せられていく。

 時が止まる――――――。
二人の間合いが重なった瞬間、時間が一気に引き延ばされる。
そう・・・・・・極限まで圧縮された重力が空間を捻じ曲げ、時の流れをも遅くするように。
アーカードとアンデルセンが生み出すそれは、もはや一種の特異点。時の停滞した二人だけの世界。

 刹那の"時"を半分に、また半分に、さらに半分に・・・・・・それをひたすら繰り返す。
切り刻み続けた"時"は、涅槃寂静の境地を遥かに超えて限りなく0に近付く――――――。
――――――無限に続く"最小の時"の中で、アーカードとアンデルセンの一撃が交差する。

 時間感覚から切り離された集中力。
時の凍り付く世界でアーカードは直感する。先に攻撃すれば負ける・・・・・・だから、引き付ける。
アーカードも、アンデルセンも、機を待ち続ける。
永劫に続くとも錯覚する時の流れの中で・・・・・・それでも確実に近付いていき、塗り潰されていく二人の間合い。


 先に反応したのは――――――アーカードだった。
意識したわけでは決してなく、アーカードの中の何かが反応した・・・・・・そこが限界だと。
アーカードの貫手の直後に、ほんの僅かに遅れてからアンデルセンの突き出される銃剣。
傍から見れば、同時に繰り出したようにしか見えない程の時間差。
だが二人にしか認識出来ないその差が、勝敗を決めた。

 アーカードの攻撃は虚空を貫く。
そして一歩だけ踏み込んで、その決死の一撃を躱したアンデルセンの銃剣がアーカードを貫く。
服を裂き、皮膚を・・・・・・肉を貫き、心臓まで一直線に刺し込まれる。
アンデルセンに打ち倒される。死を・・・・・・受け入れる。
化物は人間に打ち倒される。それは絶対の理。故に・・・・・・悔いはない。
むしろこれこそを、願い続けてきた、望み続けてきた、待ち続けてきた。

 だがアーカードの心とは裏腹に、その躯は動いていた。
アーカードは――――留まるでもなく、退くのでもなく――――前へと進む。
半歩だけ踏み込む。一歩には満たず、それが限度であった。半身を捻り、心臓を貫く銃剣をずらす。
完全な無意識であった。打ち倒されるという悲願が叶うにも拘わらず・・・・・・。
己の中の何がそうさせたのか・・・・・・アーカード自身は認識していない。

 心臓の斜め上へと突き通された銃剣。
一撃の致死だけは避けられたものの、それで終わりであった。
銃剣の刃はコンマ数mmという位置で、心臓へと向けられている。
アンデルセンが手首をほんの少し返すだけで、造作も無く銃剣は心臓を破壊する。

 そしてゆっくりと時間の感覚が戻り、時が動き出す――――――。
アーカードは咄嗟に・・・・・・アンデルセンの体を支えていた。
手は銃剣から離れ、アンデルセンは倒れるように、その身を預けるかのようにもたれかかる。

 アンデルセンの身体は、とうの昔に限界を超えていた。
精神が肉体を凌駕し、いつ死んでもおかしくない衰えた躯を支えていたのだった。


(・・・・・・勝ち逃げか)
アーカードはアンデルセンの"遺体"をその場に、ゆっくりと横たえる。

 己には目的がある。インテグラのもとへ帰るという目的。
30年の月日を費やし、それももう目前となった。
だがそれでもアンデルセンにならば、倒されても良かった。
神を肯定した化物ではなく、ただ純粋なる人間として戦うアンデルセンであれば。
打ち倒されるだけの価値があった。だからこそ、この闘争を望んだ。

 老いたアンデルセンは強かった。それまで生きてきた人生の中で一番と思えるほどに。
あとほんの少し銃剣に力が加わっていれば、己は死んでいた。確実に殺せた筈だ。
だが・・・・・・・アンデルセンの力は抜けた。その直前に・・・・・・アンデルセンは、死した。

 勝った筈のアンデルセンの寿命は尽き、負けた筈のアーカードは死なずにいる複雑な状況。
アーカードの心に、えも言われぬ感情が去来する。
到底言葉には表せない、どうしようもなく渦巻く虚しさ。
本当に偶然の時の重なりで死んだのか、それとも・・・・・・――――――。


「こんばんは」
ふと・・・・・・声の方向へとアーカードは目を向ける。
そこには一人の女が立っていた。流れるような金色の髪が月光に照らされ輝く。
色とりどりの綺麗な宝石を凝縮させ、一つに結晶化させたような美。
この世にこれ以上の美しさがあるのかと思わせるほどの女性。
それは彼女がハーフエルフだからなのか、単に若作りだからなのか。実年齢には程遠い容姿。

「ティファニア・・・・・・」
アーカードはその者の名を呟く。
ティファニアは軽く会釈をすると、アンデルセンの亡骸へと近付き、その前でしゃがみ込む。

 風もなく、虫の音も聞こえぬ静寂の空間。ティファニアは口をゆっくりと開く。
「あなたは・・・・・・化物ですか?」
「・・・・・・無論だ」
ティファニアの突然の質問。そんなことはティファニアも周知であるのに。
何を今更とアーカードは思い、そして肯定する。

「ですが、ずっと血を吸っていないあなたは・・・・・・人間と一体どこが違うのでしょう?」
ティファニアがこの場にいることからも、アンデルセンから諸々の事情を聞いていたのだろう。

 自分が己の中の命を殺し続けてきたこと。
そして今夜、己の命が唯一ツの状態でアンデルセンと決着をつけたこと。

「人間は魂の・・・・・・心の、意志の生き物だと思います。アーカードさん、あなたには意志があるのではないですか?」
アーカードは押し黙る。
己の意志、もはや自分は走狗ではなく・・・・・・帰還するという目的の為に生きている。

「血を吸わず、他者を取り込まず、自分の意志で今を生きているあなたは・・・・・・。
 人間の様な化物のあなたは・・・・・・、少なくともわたしには正真の化物とは思えません」


(それこそが・・・・・・私が死ななかった理由と、言うのか)

 心臓を貫かれる瞬間、自分は何故か前へと進んでいた。
ほんの半歩のみであったが――――諦めを踏破するように――――前へと・・・・・・。
踏み込んでいなければ、間違いなく死んでいた。打ち倒されていた。
・・・・・・何故そんなことをしたのか、何故出来たのか、自分でもわからない。

 アーカードは目を瞑る。そして胸へと刺さる銃剣を引き抜く。
刃を握る拳から血が滴り落ち、涙のように大地を濡らした。

「神父がその心に何を思っていたのかはわかりません。いずれにせよ・・・・・・安らかに逝けたようで何よりです」

 ティファニアは満足そうに微笑んだ。
アンデルセンとティファニアとの間にあった絆。それはアーカードが慮ることも出来ない。
  「そして・・・・・・あなたは生きています。どうかあなたはあなたの、為すべきことをして下さい」
ティファニアは微笑みを崩さない。慈愛の込められた女神の如きそれ。
その笑顔の前では全てを曝け出したくなるような、全てを包み込む、何者よりも優しい笑み。

「ただその前に、お墓を作りたいんですが・・・・・・手伝ってもらえますか?」
アーカードは・・・・・・静かに頷いた。



 アンデルセンの遺体を埋めた後に、アーカードは己の長剣を墓標として立てる。
アーカードとアンデルセン、宿敵同士、お互いの間にあった死の決着。
ついぞ打ち倒されることは叶わなかったが、アーカードは笑みを浮かべた。

 泣きたくないから鬼になった。
人として泣いて、涙が枯れて果てたから・・・・・・鬼になり、化物に成り果て、成って果てる。
だから笑う。傲岸不遜に・・・・・・いつもの様に笑う。

 ティファニアは墓の前で跪き、祈るように十字を切る。

「AMEN」

 ――――――そうあれかし。
アーカードとティファニアの発したその言葉が重なる。

 ティファニアがゆっくりと顔だけをアーカードへと向ける。
「あなたは・・・・・・いつまで生きねばならないのですか?」
それは哀れみを込めた言葉。
命令に従うだけの走狗でもなく、正真の化物でもなく、純なる人間でもない・・・・・・中途半端な存在。

「さて・・・・・・な」
アーカードは踵を返すと、ウエストウッドの森に立つ墓標を後にする。
もう一人の男との・・・・・・長い夢のはざまを終わらせる為に――――――。




「よお、黒いの」
アルビオン、夜明けの地平に立つ人物に少女が声を掛けた。
かつてこのハルケギニアに於いて、二人が再会した場所。
葉巻を吹かしつつ、ウォルターはゆったりとアーカードへと振り向く。

「・・・・・・葉巻か、一本貰えんか?」
「あぁ」
ウォルターは葉巻をアーカードへと投げてよこした。
アーカードはどこからか取り出したマッチで、火をつけて一服する。

「待たせたか?」
「そうだな・・・・・・長かった」
ウォルターは苦笑する。
体は若いが、既に自分は一世紀ほどは生きていることになる。
アーカードが60歳のジジイならば、まだ10歳程度ガキの計算ではあるのだが・・・・・・。

「ふむ、悪くない」
「いい葉ッパだからな」
「昔は煙草を吸っていたな?・・・・・・インテグラに倣ったのか」
「・・・・・・違う、単に葉巻の美味さに気付いただけだ」

 二人は郷愁に浸り、どこか名残惜しむかのように話し続ける。

「結局、その姿なのか」
ウォルターは少女姿のアーカードに言う。
「何度も言ったはずだ、姿形など私にとっては何の意味もないと。
 故にお前にはこちらの方が良かろうと思ってな。これはガキの喧嘩だ」  

 ウォルターは沈黙する。そして少し聞こうか否かを考えた後、アーカードに問う。
「先にアンデルセンの所へ行ったそうだな」
「うん?よく知っておるな」
「・・・・・・シュレディンガーが、言っていた。多分今もどこかで見ているだろう」
「なるほどのぉ、それで嫉妬しているわけか」

 アーカードは馬鹿馬鹿しいと笑う。
「お前みたいな餓鬼とアンデルセンじゃ比べ物にならんよ」
「・・・・・・」
ウォルターは否定しない。
アーカードにとって、己よりもアンデルセンこそが宿敵であったこと。
自分との闘争の約束があっても、尚アンデルセンを優先したこと。
悔しい気持ちもあるが、事実は事実として受け止める。
確かにアンデルセンと比べれば、己は喧嘩を欲するだけガキでしかないのだから。

 だが結果として今、アーカードはここにいる。
つまりアンデルセンをして、ついぞ勝てなかったアーカードに勝つことが出来る。
それもまた・・・・・・自分にとって、望むべきことであることに相違ない。
大尉、アンデルセン、そしてアーカード。三者の上に己こそが立って見せると。


 白み始めた夜空、双月と陽光が同居する天をウォルターは仰ぐ。
「・・・・・・始めよう」
ウォルターは吸いかけの葉巻を、地面へと捨て踏みつける。

 自分達にとっておあつらえ向きな、丁度良い頃合。
                    DAWN
「私は私の殺意を以って、この夜明けに・・・・・・アーカード。お前を切断し、殺そう」
アーカードは無言のままに笑うと、葉巻を手の中で握り潰す。
粉々になった欠片は風に流れ、アーカードとウォルターは改めて相対する。

 ガンダールヴもミョズニトニルンも使わない。
互いの命は一個、対等の闘争。


 戦いは静かに、そして苛烈に幕を開く。
それは誰が見ても、感嘆の声を上げるだろう闘争。
研ぎ澄まされた二人の強者が、完璧な舞踏をしているかのような美しさ。

 たった一人の観客であるシュレディンガーは、それを観覧する。
アーカードとアンデルセンの勝負とはまた、ベクトルの違う強者同士の演舞。
夜明けのコントラストが、より一層役者を引き立たせていた。

 二人の感情が溢れ出るように、シュレディンガーへと伝播する。
命のやり取り、殺し合いをしながらも、二人はこれ以上ない程に楽しんでいる。
いつまでも踊り続ける二人を、この世界の最後の楽しみを、シュレディンガーはいつまでも見つめ続けた。




新着情報

取得中です。