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萌え萌えゼロ大戦(略)-21


「申し上げます!先程ニューカッスル城に再び翼人が舞い降りました!」
 ニューカッスル城郭を睥睨する巨大戦列艦『レキシントン』号の指揮所に
伝令が飛び込んだ。プープデッキ(船尾楼甲板)にある指揮所は、旗艦設備を
有する『レキシントン』号だけあって並のフネの数倍の広さを誇る。
伝令に真っ先に反応したのは、艦長のサー・ホレイショ・ネルソンだった。
「また翼人か……王党派は先住魔法にすがるつもりかね?」
 そう言ってネルソンはそのでっぷりとした腹を揺らす。ネルソンは
もとより貴族派に心酔しているわけではない。ただ単に上官が貴族派に
寝返り、それに従って彼も『レコン・キスタ』の三色旗の下で戦うことに
なったに過ぎない。レキシントンの戦いにおいて本国艦隊の巡洋艦の
艦長だった彼は、その戦略と勇気をもって空を駆け抜け、今の地位に
上り詰めたのだ。
「さてね。司令官どのを起こすかい?ぼくは夜明けのニューカッスルに
流星のように舞い降りた翼人を見てから嫌な予感が消えないんだ」
 そう言ったのは、ネルソンの副官を務めるサー・ヘンリ・ボーウッド。
彼もネルソンと同じ艦隊に所属する巡洋艦の艦長だったが、同じような
経緯でここに立っている。巡洋艦艦長時代に敵艦を2隻撃破する功績を
立てており、この『革命戦争』(『レコン・キスタ』側のこの叛乱の呼び名)
終結後の『レキシントン』号改装の際に艤装主任に命じられることが
内定している。ちなみに艦隊司令長官であるサー・ジョンストンは、
その聞き覚えのない音を立てる流星――つまり舞い降りたふがく――を
見て寝込んでしまっていた。
 ネルソンやボーウッドの感覚、いや一般的なハルケギニアにおいて
翼人はエルフと並んで先住魔法の使い手とされている。だが、この圧倒的な
劣勢で、たった二人の翼人の力で何ができるというのか……そう考えたとき、
二人の考えを打ち消す声がした。
「……あれはそんなものじゃないわ。ルーデルよ♪」
「そうそう。フガクに続いてルーデルまで……楽しいことになりそうだね♪」
 それは指揮所に舞い降りた二人の銀の翼。片翼の鉄の翼と風車がついた
奇妙な冠のようなものをかぶり、藤色の長い髪をその脇で結んで背中に
なにやら背負っている――というところまでは同じなのだが、それ以外は
すべて対照的な双子の少女。左手をすっぽりと覆う銃を持ち、右脚に
太ももまで覆う白銀の脚甲、左脚に同じ丈の黒いオーバーニーソックスを
履き、黒を基調とした、腹部を隠さない水兵服にワインレッドのスカートを
はいた少女と、対照的に右手をすっぽりと覆う銃を持ち、左脚に太もも
まで覆う白銀の脚甲、右脚に同じ丈の藤色のオーバーニーソックスを履き、
白を基調とした、こちらはワンピースの水兵服に似た格好の少女。
目の前に現れたこの二人を、ネルソンもボーウッドも生理的に受け付けられずに
いた。二人とも、元の世界では『双胴の悪魔』、『悪魔の双子』と
呼ばれていた、その少女の姿からあふれ出す昏い狂気を感じていたのかも
しれない。
「……きみたちはいったい誰かね?」
 ネルソンの問いかけに、双子が答える。
「ボクはP-38ライトニングのクラレンス。こっちは妹のアリス。
アンタたちのボスに頼まれて手伝いに来たのさ♪」
「そうそう。行きがけにフガクに銃撃して……しばらく待っていたら
変なフネがあのお城の中に入っていくところも見ちゃったわね。くすくす♪」
「何!?まさか、きみたちは……」
 アリスの言葉に反応したのはボーウッド。アルビオン空軍でも一部の
士官しか知らず、今まで見つけられずにいたニューカッスル秘密港の
入り口を見つけたというのか……。それに、この二人はあの翼人について
何かを知っているようだと、ボーウッドは嫌悪感を表に出さないように
気をつけながら二人からさらに情報を引き出そうとする。
「あー無理無理。アンタたちじゃ止めた方が身のため。死にたいなら
止めないけどね♪」
「そうね姉さん。レーダーも装備してないこんなぼろ船、雲に隠れた
岩に当たって粉々ね。くすくす♪」
 いちいち癇に障る……ネルソンはそう思いつつも、とにかく双子が
今の装備と人員では無理だと言っていることは理解した。
「ところで、きみたちはあの翼人……『フガク』と『ルーデル』だったか?
その二人を知っているようだが、いったいどの程度の戦力になるのかね?」
 ネルソンの言葉に奇妙な薄ら笑いを浮かべる双子。そして……
「死にたくなかったら今すぐしっぽ巻いて逃げることだね。くすくす♪」
「そうね姉さん。でも、そうなっちゃうとおもしろくないわね。くすくす♪」
「ば、バカにしているのかね?きみたちは!」
 思わず声を荒げるボーウッド。その目の前にクラレンスの左手の銃が
突きつけられる。その顔は愉悦に歪んでいる。
「ボクたちは別にアンタたちがどうなろうと知ったことじゃないんだよ。
 ただボクたちを起こしたシェフィールドがアンタたちのボスを手伝って
やれって言うから、仕方なく顔を出したに過ぎないんだ。アンタたちを
無視してあんな城ぶっ潰してもいいんだよ?くすくす♪」
「そうね姉さん。むしろそっちの方が簡単。フガクが動き出すとやっかい
だもの。ルーデルもだけど。くすくす♪」
「わ、わかった。貴重な情報を提供してくれたことに感謝する。とにかく、
きみたちは我々の指揮下に入る、ということでいいのかね?」
「ボクたちの前に立たなければね。くすくす♪」
「そうね姉さん。お話くらいは聞いてあげてもいいわね。戯言はごめん
だけど。くすくす♪」
「わかった。部屋を用意しよう。艦長、それで?」
「あ、ああ。かまわない。司令官どのにはあとでぼくから話をしておくよ」

 そうして従兵に案内されて艦内に消えた双子。その後ろ姿が消えてから、
二人は深く溜息をついた。


 そうしたやりとりを知らぬニューカッスル城にも夜の帳が降りて――
パーティは城のホールで行われていた。上座に簡易の玉座が置かれ、
その玉座にはアルビオンの王、年老いたジェームズ一世が腰掛け、
集まった貴族や臣下を目を細めて見守っていた。
 最後の晩餐――そう呼ぶのがふさわしいのに、誰の顔にも悲壮感は
かけらもない。明日の総攻撃で自分たちは滅びるというのに、ずいぶんと
華やかなパーティ。王党派の貴族たちはまるで園遊会のように着飾り、
テーブルの上にはこの日のために取っておかれた様々なごちそうが
並べられている。
 ふがくとルーデルは、大急ぎで正装して参加したルイズやギーシュと
離れて会場の隅に立ち、この華やかなパーティを見つめていた。
「みんな覚悟を決めているのね」
 ふがくがそう言うと、ルーデルは頷きながら言った。
「そうねえ。終わりだと思っているからこそ、あんな風に明るく
振る舞えるのよ。
 でも私好みの女の子が少ないのが、お姉さんちょっと残念」
 その言葉にふがくががっくりと肩を落とす。そうしているうちに、
会場にウェールズ皇太子が現れる。貴婦人たちの間から歓声がとんだ。
若く凛々しい王子は、どこでも人気があるもの。彼は玉座に近づくと、
父王に何かを耳打ちする。
 ジェームズ一世は、すっくと立ち上がろうとして――かなりの老齢で
あることがたたり、よろけて倒れそうになった。ホールのあちこちから
屈託のない失笑が漏れる。
「陛下!お倒れになるのはまだ早いですぞ!」
「そうですとも!せめて明日まではお立ちになってもらわねば我々が困る!」
 ジェームズ一世はそんな軽口に気分を害した風もなく、にかっと
人懐こい笑みを浮かべる。
「あいやおのおのがた。座っていてちと、足が痺れただけじゃ」
 ウェールズ皇太子が父王に寄り添うようにして立ち、その体を支える。
王がこほんと軽く咳をすると、ホールの貴族、貴婦人たちが一斉に直立した。
ふがく、ルーデルもこれに倣う。
「諸君。忠勇なる臣下の諸君に告げる。
 いよいよ明日、このニューカッスル城郭に立てこもった我ら王軍に、
叛乱軍『レコン・キスタ』の総攻撃が行われる。この無能な王に、諸君らは
よく従い、よく戦ってくれた」
 そこで老王は言葉を切り、ホールを見渡す。多くの貴族に裏切られ、
敗走を続けた自分に、最後まで従ってくれた忠臣たちの顔をまぶたの裡に
焼き付けるかのように。そして、ホールの隅に立つふがくとルーデルの
姿を見ると、意を決したように言葉を続ける。
「だが、偉大なる始祖はまだ我々をお見捨てにはならなかった。
トリステインより大使殿を運んだフガク殿、そして義によって我らに
力を貸してくれることを約束してくれたルーデル殿の二人の鋼の乙女が
明日の戦いの参加してくれることとなった!」
 『ハガネノオトメ』?なんだそれは?――ざわめきに包まれるホール。
老王はそこに力強く言葉を発した。
「朕はかつて、あの忌まわしきレキシントンの戦いにおいて孤立し、
しかる後に無傷で皆と合流したことは覚えておろう。あの絶望的な戦場に
おいて、朕を助けたものこそ、鋼の乙女と自らを呼びしもの。たった
一人で数千の兵を相手に引けを取らぬ鋼の乙女が二人も助力してくれると
あらば、朕はここに一つの決断をしたことを伝えよう」
 ホールのざわめきが大きくなる。ふがくも、ルーデルも、老王の一挙
一動に注目していた。
「明日、我らは叛乱軍の追撃を断ち、しかる後に、この忌まわしき大陸を
離れ、トリステインへ亡命する!」
 ざわめきは最高潮となった。老いたる王はそれを手をかざして抑える。
「これは栄光ある敗北であり、そして、やがてつかみ取る勝利への第一歩と
なるのだ!
 我らは始祖より続く王家、そして朕に仕える真のアルビオン貴族を
絶やさぬため、この地を離れる。しかし、いつの日か、そう、いつの日か
必ず、この地へ還ってくることを約束する!」
 一人の貴族が、大声で王に告げる。
「では陛下。その殿、是非ともこの私に命じられますよう」
「あいや待たれよ。いかにマールバラ公といえどもこの名誉は譲れませぬぞ!」
 その勇ましい言葉に次々と名乗りを上げる貴族たち。老王は目頭を
ぬぐい、ばかものどもめ……、と短くつぶやくと、杖を掲げた。
「よかろう!しからば、この王に続くがよい!しかし、決して死ぬことは
許さぬぞ!
 さて、諸君!今宵は遠路はるばるいらしたトリステインからの大使も
同席されている。重なりし月は、始祖からの祝福の調べである!よく、
飲み、食べ、踊り、楽しもうではないか!」
 ホールは喧噪に包まれる。こんなときにやってきたトリステインからの
客が珍しいらしく、王党派の貴族たちが、代わる代わるルイズたちの元へと
やってきた。貴族たちはルイズとギーシュのみならずふがくとルーデルにも
明るく料理を勧め、酒を勧め、冗談を言ってきた。
「大使殿!このワインを試されなされ!お国のものより上等と思いますぞ!」
「なに!いかん!そのようなものをお出ししたのでは、アルビオンの恥と
申すもの!このハチミツが塗られた鳥を食してごらんなさい!うまくて、
頬が落ちますぞ!」
「まあ、どう見ても人間そっくりね!ささ、このタフィーを召し上がれ。
お国のキャラメルと違い、アルビオンの長き伝統の味がしますわよ」
 そして皆最後に必ず『アルビオン万歳!』と高らかに宣言して去って
いくのだ。それは消えゆく祖国への愛着の念か。それがこの上なく悲しく、
しかもそれが自分の言葉に端を発していると知っているルイズは、顔を
振ると、この場の雰囲気に耐えきれず、外に出て行ってしまった。ふがくは
ギーシュを促してその後を追わせる。ルーデルがその美貌と胸にぶら下げた
多くの勲章を貴族たちから賞賛されている(ルーデル本人は男と話すのを
いやがってはいたが)のを見て、溜息をつくとその輪から離れた。
 ふがくがそんな風にしているのを見て、座の真ん中で歓談していた
ウェールズ皇太子が近寄ってくる。
「ふがく……この発音で良かったかな?東方の発音は難しくてね。
ラ・ヴァリエール嬢から訂正を求められたよ」
 ウェールズ皇太子はそう言うと、笑った。
「明日の戦い、あなたたちの出る幕はないでしょうね。私たちだけで
すべてが終わる」
 ふがくは疲れた声で言う。
「だろうね。パーティが始まる直前、父王にきみたちのことを話したとき、
そう思ったよ」
 ふがくはウェールズ皇太子とまっすぐ向き合うと、尋ねる。
「失礼ですが……国王陛下を助けた、という鋼の乙女は?」
「やはり気になるかな?」
 ふがくが首肯すると、ウェールズ皇太子はゆっくりと話し始める。
「私も詳しいことは知らない。だが、2年前、『レコン・キスタ』が蜂起して
最初の戦いとなったレキシントンの戦いで、王立陸軍を指揮していた
父王が突然の近衛部隊の裏切りで孤立するという最悪の事態が発生した
とき……離反した軍の包囲から脱して何とか集結した生き残りが少し
離れた丘の上で花火が上がったの見た。王軍がその丘に到着すると、
そこには無傷の父王がしっかりと大地を踏みしめ丘の向こう側を
見つめていた、ということだ。
 今まで父王はそれを『始祖の加護』だとしか言わなかったが、きみたちの
ことを聞いてようやく真実を話してくれた、ということさ」
「名前は聞かなかったのですか?国王陛下は」
「それが、こう答えたそうだ。

 ――ボクは、本来ここにはいないはずの鋼の乙女。陛下は、ご自身で
危機を脱せられたのです――

 その姿は、父王が言うには大輪の薔薇を模したヘアバンドと萌えるような
若草色のエプロンドレスを着た乙女、だったそうだ。戦場を駆けるためか
スカートの裾を詰め、駿馬の速度で走る鉄のブーツを履き、鉄の背嚢を
背負い、左手をすっぽりと覆う丸い鉄の盾と、そこに取り付けられた
戦列艦の主砲以上の威力を持つ銃をもって、父王を抱えて戦場を単騎で
突破したそうだ。なるほど、父王が『始祖の加護』と言うのも分からなくも
ない」
 それを聞いてふがくはそれが戦車型の鋼の乙女だと理解した。だが、
エプロンドレス――メイド服を着る鋼の乙女はイギリス軍。ふがくが
知る中でイギリス軍の戦車型鋼の乙女でメイド服を着ている者は記憶に
なかった。

(歩兵戦車マチルダIIのマチルダは胸元が大きく開いたドレスだし……誰?)

 そう考えるふがくに、ウェールズ皇太子から紅い羅紗の小箱を手渡される。
ふがくがそれを開けると、そこには切れた鎖が修理された金の額飾りが
入っていた。
「きみに返さなければならないものだからね。
 修理を頼んだ我が軍のメイジが驚いていたよ。それほど高純度な黄金は
見たことがない、とね。『錬金』でつないだため元の黄金より質は落ちるが、
許してほしい」
「いえ……それよりも良かったのですか?
 私が聞いた話では、黄金の『錬金』はスクウェアメイジでも難しいと」
 戦の前に無駄な疲弊を招いたのではないか――そう言いたげなふがくに、
ウェールズ皇太子は笑ってみせる。
「案じてくれているのか。私たちを。きみは優しいな。きみのような
優しい心を持ったガーゴイルを制作したメイジも、さぞ心優しい人物
だったのだな」
 ウェールズ皇太子は、そう言うと、遠くを見るような目で語り始めた。
「我々の敵である貴族派『レコン・キスタ』は、ハルケギニアを統一
しようとしている。『聖地』を取り戻すという、理想を掲げてな。
 理想を掲げるのはよい。しかし、あやつらはそのために流されるで
あろう民草の血のことを考えぬ。荒廃するであろう国土のことを考えぬ」
「だから、せめて勇気と名誉の片鱗を見せつけるために、全滅するまで
戦うつもりだった?」
「そのとおりだ。ハルケギニアの王家は、決して弱敵ではないことを
示さねばならぬ。やつらがそれで『統一』と『聖地の回復』などという
野望を捨てるとは思えぬが、それでも我らは勇気を示さねばならなかった」
「『高貴なる者の義務』、ということですね」
 そうだ、とウェールズ皇太子が頷くと、ふがくはそれに言葉をつなげる。
「……私が本来なすべきことは、祖国に仇なす敵を滅ぼし、天皇陛下と
臣民を安んじること。
 将兵は、それこそこちらでいうところの平民の一兵卒から貴族どころか
皇族まで、祖国を守るために戦い、多くの血が流されました。だから
私は、絶対に戦うべきではなかった敵国を破壊し、勝利するために
生み出されたのです。国家予算に匹敵する開発費と資材を投じて」
 それだけのものが一人の貴族の子女の使い魔として存在していることの
意味が分からぬウェールズ皇太子ではない。始祖の奇跡であり、
トリステイン王国では魔法学院において学生の進級条件としてある意味
軽々しく行われている『サモン・サーヴァント』の罪深さを見たような
気がしていた。
「きみは、帰りたいかい?」
 ふがくは無言で首肯した。
「私も今の話を聞いて、きみはここにいるべきではないと思った。
 ……しかし、私もきみたちを元の国に返す魔法は聞いたことがない。
すまない」
「お顔を上げて下さい。殿下。私は兵器。そのようなことをするべきでは
ありません。
 それよりも、明日の戦いの後をお考え下さい」
「……そうだな。
 我々が亡命すれば、トリステインは……アンリエッタは、戦いの矢面に
立たされる。彼女は可憐な花のようだ。できることなら、彼女の悲しむ
顔は見たくない。
 本来なら、私は本当にここで勇敢に戦い、そして勇敢に死ぬべきなん
だろうがね……」
 ウェールズ皇太子の顔には苦悩の影が浮かぶ。ルイズに押し通された
結果、ふがくとルーデルが叛乱軍を退ければ亡命すると約束してしまった。
ふがくもそれは間違いだと思っている。ルーデルが協力すると言わなければ、
ルイズの頭を冷やさせることができたかもしれない。しかし、それらは
すべて結果論だ。
「だが、それよりも私は心配していることがある。
 きみたちが五万の叛乱軍を退けたとき……ラ・ヴァリエール嬢はその
現実に耐えられるのだろうか、とね。きみたちの戦いとは、そういう
ものではないのかな?」
 ウェールズ皇太子はそう言ってふがくをまっすぐ見つめた。彼は戦略
爆撃を知らない。そのような概念はまだハルケギニアには芽生えていない
からだ。それは同時に戦略爆撃が持つ非情な側面を知らないと言うことに
なる。しかし、ウェールズ皇太子のその言葉は、ふがくに明日起こるで
あろう現実を予想しきっていると理解させた。
「……ルイズ……いえ、ご主人様には、自身の言葉が呼び寄せた結果を
理解してもらいます。たぶん、『こんなはずじゃなかった』と、言うと
思います……けれど……」
「『こんなはずじゃなかった』、か……。世界は、いつだってこんなはず
じゃなかったことばかりだよ。それが現実だ。
 だが、王族であれ、貴族であれ、一度口にしたことの責任は果たさ
なければならない。それが義務だ。逃れることのできぬ、最後まで
課せられる義務なのだ」
 毅然と言い切るウェールズ皇太子。その直後、その表情が唐突に陰った。
「……明日の戦いは、きっと歴史に残るだろうね。私たちが死ぬにせよ、
生き残るにせよ。きっと……」
 それだけ言うと、ウェールズ皇太子は再びパーティの座に戻っていく。
その顔には、先程の陰りは見えない。残されたふがくは、懐から
デルフリンガーを取り出し、ホールの立派な窓から夜空を見上げる。
「ぷはあ。もうあれっきりお蔵入りかと思ったぜ。相棒の懐は広くて
暗くて暖かいからな。物騒なものも多いし」
 久しぶりに話せるのがうれしいのか、鍔をカタカタと鳴らしてしゃべり
始めるデルフ。ふがくはそれをそっと壁に立てかけた。そして、自分も
翼を痛めない程度に壁により掛かる。
「……話し相手になってくれない?デルフ」
「んあ?どした?相棒?」
「………………」
 満天の星空。そこには重なった双月が冷たくふがくを見下ろしていた。



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