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ご立派な使い魔-16


翌日は何事もなく過ぎた。
てっきり、ワルドがマーラに決闘を挑むかと思っていたルイズには肩透かしである。

「準備が必要だからね。僕は無謀な戦いを挑むつもりはない」
「準備? 一体どうするつもりなの、ワルド」
「まずもっと精力をつけないといけない。それからは……後のお楽しみさ」

そう言って、とにかく精の付きそうな料理ばかりを食べているのだ。
これにはルイズもがっかりしたが、しかし考え方を変えれば、それだけワルドが真剣ということにもなる。

「マーラとの戦いそのものは行うの……?」
「ああ。君の期待に応えてみせるさ、なんとしてでもね」

まだ見放されていない。
その事実に、ルイズはなんとか胸を撫で下ろした。

「せめてこちらの旦那が使い手だったらな。俺も手助けできたのによ」
「……それって、アレを斬るってこと? この間は嫌がってたのに」
「そりゃ俺だって覚悟は決めるよ。娘ッ子のひょろひょろ剣じゃどうせ斬れねーし、パスしたけどさ。
 こちらの旦那だったらな、そりゃ、やれるかもって思うじゃねーか」
「そう……よね。ワルドなら、ワルドならきっと……」
「ああ、畜生。ほんと使い手だったらよ」
「……ところで使い手って何よ? なんか前にも言ってた気がするけど」
「え? ……あれ? 俺んなこと言ってたっけ?」
「……いいわよ、もう。貴方にはそういうの、期待してないし」
「ひでーや!」

剣としてはあまり役には立たなかったけれど。
これでも、ルイズはデルフリンガーに感謝しているのだ。
一人では耐え切れなかった、この生活。もし彼がいなかったらきっと自分も、ギーシュなどのように……
ルイズは首を振った。まだ、終わった訳じゃない。

「ワルドが勝ったら、その時は……デルフ、きっとわたし、貴方を使うのに相応しい使い魔を召喚してあげるから」
「お? おいおい、なんだよ気味悪りーな」
「ううん……なんでもない」

ルイズは、ただ、静かに待ち続ける。

一日暇だったわりに、夜になってもマーラを中心にしてギーシュとキュルケが盛り上がっていた。
一応、タバサもいるが、話には加わらず隅で本を読んでいる。まあ、いつも通りらしい。
それにしても聞こえてくる単語がいかにもな単語ばかりなので、ルイズは素通りしようと思ったが。
けれども、言わなければならないこともあると思いとどまる。

「マーラ。貴方に言わなきゃいけないことがあるわ」
「ほう。なんじゃな」
「わたし、ワルドと結婚するわ」

すると、マーラの様子はいつもとさして変わらなかったが、横のギーシュとキュルケが目を丸くした。
タバサも、本から顔を上げる。

「おめでとうミス・ヴァリエール! お似合いだよ!」
「そうね。どう見ても、あなたには不釣合いなくらいだけれど」
「……おめでとう」

級友はいずれも率直に祝福してくれる。まあキュルケはいつも通りだ。

「やはり、昨日の一夜で虜になったのかい? 衛士隊長のテクニックは大したものだな」
「いくら婚約者って言ったって、たった一晩でルイズを夢中にさせちゃうなんてね。
 魔法衛士隊ってそんなとこまで鍛えられてるのね」

セクハラまがいのことを言うこの二人も、最近としてはいつも通りだ。
……だからルイズも拳を握り締めてプルプルと震えさせたが。我慢である。

「めでたいわな。小娘が望むならば、女の妙技を伝授してくれようぞ」

こやつがこうなのもいつも通り。
ルイズは、叫びたい気分を堪えて話を続け……

「まあ、殿方はそんなものまでご存知なの!? ぜひ、あたしにも教えて頂けませんこと?」
「グワッハッハ。なに、お主のレベルではとうに習熟していようが、小娘は初心であろうからのう。
 それに対する程度のモノよ。お主が期待するような高度な技については、自力で学ぶ方が良い具合であろう」
「それもそうですわね。まあルイズのレベルでは……」
「ツェルプストーほんっきで自重しなさいよぉ!」

我慢したかったのだがつい声が出た。

(いけないわ。そうやってこいつらのペースに乗せられるからいつもおかしくなっちゃう。
 ここはクールにならなきゃ……クールになるの、頑張れわたし)

なんとか呑み込んで、ルイズは本題を告げる。

「でも結婚する前にね、ひとつ条件を出したの」
「条件? 一体全体、それは何なんだい?」
「あらまあ贅沢ねルイズ。そうやってお高くとまってると、お子様体型なのに行き遅れちゃうわよ」
「だからぁぁぁ……だ、だから、貴方達は黙ってて。
 マーラ。……その条件は貴方に関わるわ」

ルイズの視線が、マーラと交錯する。
刃と刃を打ち合わせたような冷たい緊張感が場を支配した。

「ほほう。あやつとの結婚にワシが関わるとな?」
「貴方を倒したら結婚する……そう、約束したわ」
「なんだ。ミス・ヴァリエール、それじゃあ君は結婚する気がないんじゃないか」
「体のいい断り方ね。男殺しよね」

今注目すべきは、マーラのみだ。
ギーシュとキュルケはとりあえず放置しても問題ない。
そのマーラの反応は……ニヤリ、と笑ったように見えた。

「面白いわな。小娘の旦那として相応しきモノを持つかどうか見極めてくれようぞ」
「じゃあ……受けるのね?」
「小娘は我が主であろうに。ならば小娘の決めたことに従うまでよ」
「そ、そう……物分りのいい使い魔を持って、わたしは果報者な主人だわ……」

ワルドは……勝てるのだろうか。
いや。勝てるはずだ。きっと、勝つ。
ルイズはそう信じる。信じなければ、ならないのだ。

「何時になるかはまだ決まってないけど……きっと、近いうちになるはずよ」
「うむうむ、ならばワシも己をいきり立たせて待つとするかのう」

賽は投げられた。
ルイズは、ワルドの勝利を祈るしかない。

夜半になっても、これといって事件は起こらなかった。
襲撃など受けそうな気もしていたのだが……どうなったのやら、である。

「結局、あの賊はただの物取りだったようですね」
「らしいな。あるいは事情でも出来たのかもしれない。
 例えば、強敵との戦いが控えているので、無駄に体力、魔力を消耗できないだとか……
 遍在ひとつの魔力も無駄に出来ないような感じで」
「随分と具体的な例ですね?」
「いやなに。賊の心境というのを慮っただけだよ」

相変わらず、ワルドは物を食べている。
今食べているのは爬虫類か何かの干物のようだが、妙な代物だ。
それを見るギーシュは、確かあれは絶倫の妙薬と言われるトカゲだったか、と記憶をめぐらせる。

「子爵、どうしたのです? そんなに精ばかりつけて」
「……君も聞いたのだろう? 僕はいよいよあれと決闘する訳だがね」

ワルドは、陰のある笑いを見せた。
その笑いにギーシュは感じるところがある。あの笑いは、そう。
いつかの自分と同じなのだ。

「お気持ちは理解できますよ。僕もあの方と一度、杖を交えたことがありますからね」
「それはなんとも……随分と勇ましいな、ギーシュくん」
「若気の至りですよ。しかし貴重な経験でもありました」

さて、それにしても何故ギーシュがワルドと語らっているのだろうか。
それはまさに、今のギーシュの言葉にこそ理由がある。

「経験者として忠告しますが、あの方に小細工を使っても無意味ですよ」
「だろうね。アレとは正々堂々と戦わなくてはいけない。それくらいは理解できるさ」

マーラと対峙したことのある一人としての、助言であるのだ。

ギーシュは今やマーラを師と仰ぐ人物である。
しかし、師を越えようとしない弟子など、そうはいない。
自らもご立派の道を究め、いつかはマーラ以上になろうと、そんな野心はギーシュにもある。
だからこそ、こうしてマーラに挑もうとするワルドに、言葉をかけにも来るのだろう。

「安心していてくれよ、ギーシュくん。僕とて勝算がなくて決闘を受けた訳ではない。
 それに勝てた時に得られるものを思えば、この勝負、賭けのしがいもあるってものだろう」
「なるほど……流石は子爵」

ワルドは、干物を食べ終わると次にヘビが漬け込まれた酒瓶をあけた。
つくづく精力尽くしである。

「このままなら、恐らくは目的地で雌雄を決することになるだろう。
 つまり明日、明後日ということになるかな……
 姫殿下からの依頼とルイズからの願い、この二つを同時に果たすという訳だ。光栄すぎて身が引き締まるよ」
「男冥利に尽きるというものですね」
「まったくだな……」

いかにも強烈そうな匂いのする酒を、ワルドはぐびぐびと飲み干す。
これにはギーシュも目を剥いた。ここまでやるとは。

「勝つよ、僕は。そうでなければ今後、胸を張って男でいられる自信がないからね。
 ……はは、すまないなギーシュくん。君のような少年にまで心配されるとは」
「子爵。無理はなさらないように」
「心得よう」

窓の外に目をやる。
そこには一瞬、フードの人物がいたように見えたが……
すぐに、消えてしまった。

翌朝、枝が伸びる桟橋から、つつがなく船は出港する。
硫黄を運ぶ船に同乗する形なった訳だが、まあ、このご時世、客船などはそう出ていないものだ。
貨物船でも出られるだけマシだろうと、それは諦めることにする。

「なんだか、順調すぎて怖いくらいだね」
「まったくね。てっきり昨夜あたり、襲撃でもあるかと思ってたのに」

ギーシュとキュルケは呑気にそんなことを言っていた。
ただ、これはタバサも不思議そうな顔をしているから、この二人だけの認識ではないらしい。

「うん……いや、確かに本来ならば昨夜に……
 ……まあ貴族派にも色々と事情があるのだろうね」
「そうなの、ワルド?」
「あ、ああ。やっぱりこう、なんだね。大変だ」

意味のない笑いを浮かべてワルドがぶつぶつと呟く。
その目がはっきりと充血しているのを見て、ルイズは少しいたたまれない気持ちになった。

「眠れなかったの?」
「まあその、色々緊張することも多いからね。
 ……ニューカッスル。あそこへ行って、そこで……決着をつけるだろう」
「そう……」

両手で、ルイズはワルドの右手を握り締める。

「ルイズ?」
「頑張ってとしか言えないのが、もどかしいけど……頑張って、ワルド」
「……はは。一万人の味方を得た気分だよ」

こけた頬のまま、それでも目つきだけはギラギラとさせながらワルドが微笑んでみせる。
その微笑に、不意に影がさした。
何も、ワルドの表情が曇ったというのではない。

「な、なんだ……」

船員達が慌てている。
これは、どうやら……

黒くタールを塗られた船が、じわじわと近づいてきている。
船員達は最初、貴族派の船と思った様子で、それはルイズも変わらなかったのだが……
轟音とともに砲弾が飛んでくると、まったく違うことに気づく。

「まずいな。空賊か」

船員達は不安そうに黒船を見ている。
改めて周囲を見渡すに、空中で戦えそうなのは、まずワルド。
それからタバサもいるし、キュルケも炎を飛ばせばそれなりに戦えるだろう。
ギーシュは、まあ、砲弾の盾でも作らせておけばいい。
後は……

「……マーラ、あんた空の相手に戦えるの?」
「温い温い。やろうと思えば容易きことよ」
「でも……」

今まで肉弾戦しかしていなかったのではないだろうか。
ルイズは不安を覚えたが、しかし、どうしたものか。

「戦えないことはない。しかし……あまり騒ぎを起こしたくもないな。
 貴族派に目をつけられては困ったことになる」

ワルドの逡巡は、しかし、長くは続かなかった。
予想外に黒船の動きは早く、たちまち隣接されてしまったのだ。
ここから砲弾の雨を受ければ、嬉しくない結果が待っていることだろう。

「仕方ない、ここはワルキューレを……」

ギーシュがそう言って薔薇を振りかけたが、ワルドが静止する。
更にキュルケ、タバサにも、目線を送って動きを止めさせた。

「騒ぎすぎてもしょうがない。ここは交渉に賭けるしかないだろう」

この船の船員達も、ワルドに頷く。
貴族が五人、更に立派な使い魔がいるのだ。
彼らの指示に従った方が、結果として損害は少なくなるだろう。
そう思っての行動であった。

やがて空賊達が乗り込んでくる。
頭らしき、粗野な男が真っ先に進み出てきて、ルイズ達と船長をにらみつけた。

「船長はどこでえ」
「わ、わたしだが」

震える船長に、男は威圧を込めて問う。

「船の名前と、積荷は?」
「マ、マリー・ガラント号。積荷は、硫黄だ」

硫黄と聞いて、賊達はため息を漏らす。

「そ、それから……」

船長がルイズ達を見た。
積荷という訳でもないのだが、客であるし。判断に迷っての行動だろう。
しかしその船長の目線を男が追った時に、変化が起こった。

「ん、なんだ、貴族かよ……って」

ルイズ、ワルド、キュルケ、ギーシュ、タバサと眺めて……そして。

「お……おい、アレも積荷か?」
「あ、あれは、お偉い貴族様の……」

男がよろよろと近づいてくる。
ルイズは、咄嗟に声を張り上げた。

「下がりなさい、下郎!」
「下郎……確かにシモだが……」

その言葉にルイズはまた頬を赤く染める。
またかよ。最近このパターン多いな、と。

「……あんたは」
「ワシは魔王マーラなり。この小娘の使い魔なるぞ」

ああ……どうせきっと。この後はアレなんだ。
ルイズは泣きたくなった。
ご立派ご立派ってなんでそんな大きさにこだわるんだろう。誰も彼も。

「ワルド……わたし、泣きたい……」
「いや、泣く必要はないかもしれないよ」

優しく言うワルドの声に驚かされて、ルイズはもう一度男を見た。
すると。

「……なるほど。これは失礼した」

男が、頭に手をやると、その髪が剥がれ落ちる。
コルベールがつけそうな代物、つまりカツラだったようだ。
更にヒゲまで外す。
粗野だった男が見る見るうちに姿を変えて、金髪の美男子になってしまった。

「ど、どういうこと……?」
「貴方の評判はアルビオンにも伝わっている。『ご立派なルイズ』……
 トリステインに並ぶもののない魔法使いとね」
「……違うわよぉ」

そして男は、静かに敬礼する。

「私はアルビオン王立空軍大将、本国艦隊司令長官。
 ……アルビオン王国皇太子。ウェールズ・テューダーだ」
「え……ええ?」

物凄い展開の速さである。
ルイズも、目を丸くするばかりだ。

「あ、あの……え? 皇太子さま?」
「そうだよ、ミス・ヴァリエール。噂どおりにご立派な方だな」
「いや、あの、それは……違いますけど……」

ウェールズは、改めてマーラを眺めた。

「やはり……噂どおり、いや、噂以上だ。
 皆、見るがいい。この方を」

空賊達は、直立不動になってマーラに目を向けている。

「この方のこの姿。貴族派のようなモノどもでは、到底得られない滾りがあるとは思わないか。
 最早疑うまでもなく、我らの味方だろう」
「確かに……」
「間違いありませんな」

話が早くて助かるが、それでいいんだろうか。

「歓迎するよ。ミス・ヴァリエール。
 ……で、何の用事でアルビオンに?」

そっちを先に聞けよ!
嘆くルイズ。やっぱりこんなんばっかか。
ワルドはああ言ったが、でも泣きたい気分は変わらないルイズである。


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