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ゼロと電流-11

「第十一話」

 港町ラ・ロシェール。
 アルビオンとトリステインを結ぶ港である。街そのものの規模は小さいが、そこはアルビオンとの往来の要衝ということもあり、人の出入りは非常に盛んで、住人の十倍以上の人間が常にたむろしている。
 治安を預かる者にとっては頭の痛いことだろうが、商売をする者にとってはこれほど嬉しい街もないだろう。ただし平和ならば、という注釈がつくが。
 今の港町は、アルビオンの争乱を反映してか物騒な雰囲気の男たち……傭兵をはじめとする流れ者、脛に傷持つ者……であふれかえっている状態だ。
 そのため、街の者にとっても多少の妙な風体はすでに見慣れていると言っていいだろう。『桟橋』の切符売りもその例外ではない。
 だとしても、その夜やってきた男はその中でも飛び抜けて奇妙だった。

「アルビオン行きの船はいつ出る?」
「客かい?」

 品定めするように男を見る。
 見るからに訳ありの格好。
 頭の先から足の先までをマントとフードで隠し、声までが何処かおかしい。確かに聞こえてはいるのだが、何となく声の出所が奇妙なのだ。
 まるで、男の口元ではなく胸元から聞こえてくるように。

「金は?」

 そう尋ねたのも仕方がないだろう。
 男は、無言で厚手の手袋に包まれた掌を開いてみせる。そこには、金貨が数枚。

「二人分だ」
「悪いが、船は出ないよ」
「足りんか?」
「いや、ま、あんたが風石も全部出すってんなら別だろうが」

 時期が悪い。数日後にはアルビオンが最も近づくのだ。その日ならば風石の消費も格段に抑えられるというのに、ノコノコとこの時期に船を出す馬鹿はいない。

「わかった。また来る」
「宿の当てはあんのかい?」

 それには応えず、男は振り向くと歩いていく。
 全身鎧を着込んでいるようなぎこちない歩き方に、切符売りは首を傾げた。
 騎士か? それにしては従者も連れていないが。
 いや、全身鎧を着た騎士が一人でこんな所を彷徨いているなどと不自然以外の何者でもない。
 そもそも、鎧を着ているのならどうしてその上からマントとフードで隠しているのか。鎧姿よりも目立つではないか。
 肩を竦めるとそれ以上の詮索は止め、切符売りは再び自分の仕事に戻ることにした。男にそれ以上構う義理も理由もない。

 男は『桟橋』を出ると、そのまま町中へと歩いていく。そして、街一番の宿屋『女神の杵』亭へと。
 一見してわかる、貴族や金のある平民相手の酒場兼宿屋である。
 その一階の酒場で食事をしていた少女が男の帰りを認めて手をあげる。

「お帰り」

 それはルイズだった。真っ赤なヘルメットを被った姿は、酒場の中で妙に目立っている。

「どうだった?」
「船は出ねえってよ」
「出ないって……あ、そうか」
「なんでぇ、知ってたのかよ」
「忘れていたのよ。月で決まるのよね、確か」
「ああ、『桟橋』の兄ちゃんもそう言ってたわ」
「ご苦労様、デルフ、ザボーガー」
「じゃあ」
「ちょっと待って。それを脱ぐのは部屋に戻ってからよ。どちらにしても、私が脱がせるんだし」
「早くしてくれ、嬢ちゃん。どうもこういうのは好きじゃねえ」
「考えてみれば、貴方、普段は服なんて着ていないものね」
「裸だな。ま、相棒だってそこは同じだと思うぜ。さ、部屋だ部屋」
「ご飯は?」
「いらね。わかってて言ってるだろ、嬢ちゃん」

 食事の間預けていた鍵を受け取ると、ルイズは男の手を引くように階上の部屋へと向かった。
 怪しい風体で喋りが粗野な男と、育ちの良さそうな美少女。
 さらには脱ぐだの脱がせるだの裸だの。
 周りの客の目が微妙に妖しいものになっていたのだが、勿論ルイズは気付いていない。

「美女と野獣に違いない」
「羨ましい」
「いや、でもあの子、飯食いながらなんか兜に手かけてぶつぶつ呟いてたけど」
「うわ」
「ちょっと、可哀想な子?」
「それであの男が騙して連れ回してる?」
「なんと羨ま……いや、けしからん」
「つか、変な者同士のお似合いじゃね?」

 それらの視線や呟きを一切無視して部屋に入る二人。
 ルイズは目立つのを避けるために行動しているつもりだったが、はっきり言って裏目である。

「脱がしてくんね?」
「ええ」

 男のフードやマントを脱がせる、というより剥がすルイズ。
 その下から現れたのはザボーガーである。そして、ザボーガーの胸元にくくりつけられているデルフリンガー。
 よく見ると、ザボーガーの頭が少し開いていて、そこからヘリキャットが機体の鼻面を覗かせている。
 ヘリキャットの集音マイクや小型カメラと視覚聴覚を繋いだルイズが、ザボーガーに命令して身体を動かしていたのだ。勿論、ザボーガーの口代わりになっていたのはデルフリンガーである。

「しかしなぁ、嬢ちゃん。俺っちは剣なんだが。あんまりこういうのは柄じゃねえ」
「今は剣の出番じゃないもの」
「ま、嬢ちゃんのためって事なんで、相棒も嫌がってなかったけどよ」
「どうでも良いけどさっきから、相棒って誰の事よ」
「ザボーガーに決まってるだろ」
「ザボーガーの気持ちがわかるの?」

 ゴーレムの癖に気持ちなんてあるのか、とはルイズも言わない。
 なんと言っても、ザボーガーは使い魔である。使い魔なのだから、どんな形にせよ心はある。ルイズはそう信じている。

「なんとなくわかる。多分嬢ちゃんがザボーガーの主人で俺の使い手だから、どっかで繋がってんだろ」
「それも、ルーンの力なの?」
「さあ、どうだろねぇ。主がそのまま使い手になってるなんて、初めてだからねぇ」
「じゃあ、他の人はどうだったのよ」
「忘れた」
「あのねぇ……」
「それで、どーすんだ? 船が出るまでは足止めだぞ」
「ザボーガー、さすがに飛べないわよね」
「そりゃあ、無理だろ」
「いいわ、待ちましょう。色々やってみたいこともあるし」

 この機会に、ザボーガーの性能をもう一度検証してみよう、とルイズは決める。
 そのときルイズは気付いていなかった。一階の客の中に、自分と旧知の者がいたことを。



 これは一体?
 タバサは首を捻った。
 どうして自分は学院長に呼ばれているのだろうか?
 横を見るとキュルケ。

「知らないわよ?」

 反対側にはギーシュとモンモランシー。

「僕も知らない」
「私も知らない」

 知らないのについてきているのはどういう事か。
 タバサについていくわけではない、と三人は言う。

「私たちも呼ばれたのよ」
「僕もだ」
「私も」

 タバサは一同を見渡して気付いた。

「ルイズ?」

 頷くキュルケ。

「そうね、どう考えても、この四人の共通点って、ルイズよね」
「いや、僕たちはそれぞれ魔法属性のトップクラスじゃないか。いわば魔法学園の四天王」
「ギーシュはドット」
「う」

 トライアングルのキュルケとタバサは良いとして、ギーシュとモンモランシーはドットである。
 とは言っても、それぞれゴーレム操作と秘薬造りに特化している状態なので、総合的に考えると並みのドットは遙かに超えているのだが。

「やっぱりルイズ絡みかしら」
「今更、あの決闘のことだろうか」
「闘ったのはギーシュ」
「そうね、ギーシュね」
「だからどーして君たちはいつも、僕にばっかり面倒を押しつけるんだね!」
「頑張ってね、ギーシュ」

 それでもモンモランシーに言われると頑張ってしまう自分が、ギーシュは少し恨めしかったりする。

 ギーシュのどことなく嬉しそうでもある溜息を聞きつつ、先頭になっているタバサは学院長室のドアをノックする。

「ミス・タバサとミス・ツェルプストー、ミス・モンモランシじゃな? 入りたまえ」

 ノックだけでわかったのか、それとも予想していたのか。
 しかし、ギーシュは慌てている。

「あの、学院長、僕は」
「男を部屋に誘い入れる趣味など持っておらんわい」
「え」
「早く入ってきなさい。お客様もお待ちかねじゃ」

 お客様? と訝しげな顔になりつつも、四人はドアを開けて中へはいる。
 途端に、直立不動となるギーシュとモンモランシー。
 オスマンの隣で微笑んでいる客の姿に気付き、優雅に礼をするタバサ。一瞬遅れて、キュルケも。

「ここでの私はオールド・オスマンの客人に過ぎません。皆、楽にしなさい。」

 四人が想像もしていなかった第三者アンリエッタはそう言うが、ギーシュとモンモランシーはそうはいかない。二人とも、学院内では変わり者に分類されてはいるが、曲がりなりにも、いや、誇り高き生粋のトリステイン貴族なのだ。突然王族を目の前にして、普通でいろと言う方が無茶である。
 それに引き替えキュルケはゲルマニア貴族、タバサはガリア……隠してはいるが王族……貴族である。アンリエッタに対する敬意はあっても畏怖はない。

「これこれ、ミス・モンモランシ、楽にしなさい。そこまで緊張しては却って失礼じゃよ?」

 そしてこの期に及んで勘定に入ってないギーシュ。

「お前さんがたに聞きたいことがあってな」
「姫殿下が、私たちに、ですか?」
「いやいや、儂も聞きたいことがある」

 モンモランシーは少し考え、ある事実を思い出す。

『ルイズは、姫殿下の幼馴染みかもしれない』

 忘れていた。というか、普段考えることなど無かった。
 しかし、トリステインでも屈指の名門ヴァリエール家の娘である。さらに年齢もちょうど良い。幼い頃の遊び相手とされていても何の不思議もない。
 そして膨らむモンモランシーの想像。

『ルイズが、姫殿下にあることないことチクった』

 いや、さすがにそれはない。それはないとモンモランシーは自分に言い聞かせる。
 しかし、だ。
 ただでさえモンモランシ家は、現当主であるモンモランシーの父親が代々続いた水精霊との交渉で大ポカをやらかし、睨まれているのだ。ここで自分が姫殿下に嫌われようものならば……
 さらに膨らむモンモン想像。 

『私のお友達に何をしてくれたのかしら?』

 何もしてません。私は見てただけです。やったのはギーシュ。唆したのはキュルケです。
 いや、駄目だ。それは駄目。ギーシュが罪に問われてしまう。それは嫌。ギーシュは大切なお友達。
 キュルケはいい。いや、良くはないけれど。最悪、ゲルマニアの貴族なんだからトリステインの王族に嫌われるのは諦めてもらおう。
 うん、それがいい。キュルケに全ての罪を……
 モンモン想像は広がる。

『なんですって、ゲルマニアの成り上がり貴族の分際で。戦争よ、戦争』

 駄目ーーーー。駄目、姫殿下、落ち着いてください。
 戦争はいけません、駄目です。個人的には水の秘薬の価値が上がるので嬉しいですけれど、実家の財産を殖やす機会ですけれど、でも、それはそれとしてやっぱり戦は駄目です。
 お願いですから落ち着いてください。
 この場合、落ち着くべきはモンモランシーである。

 それでも、モンモン想像は続く。

『止めなかった貴方達も同罪よ。そっちのチビッ子、貴方は誰? ガリア? ガリアなの!? わかったわ、戦争よ、戦争よぉぉぉ!!』

 大変なことになってしまった。2カ国相手の大戦争が始まってしまう。
 モンモランシーは心から後悔していた。
 こんなことになるなんて……どうして、こんなことに……
 どうして……
 どうして?
 …………?
 よく考えると、まだ何も起きてない。
 顔を上げると、全員が自分を不思議そうに眺めている。

「どうしたんだい、モンモランシー。顔色が悪いようだが」

 ギーシュが心配そうな顔で尋ねていた。

「あ、えっと……」
「良いかね? 三人とも」

 オスマンが一同に尋ねた。相変わらずギーシュは員数外である。

「ミス・ヴァリエールのことなんじゃが」

 はうっ。
 その言葉で、モンモン魂は再び想像へと飛んだ。



 ワルドはルイズを“見て”いた。
 妙な男と一緒にいるが、あれが例の使い魔たるゴーレムだろうか。
 フーケのゴーレムを手もなく打ち砕いたゴーレムである。警戒が必要だろうが、ワルドとて油断はしていない。
 マザリーニの密命によりアルビオン探索を請け負ったのは、自分からそのように仕向けようとしていたとはいえ、やはり幸運だった。命じられることがなければ、立案し志願するか、あるいはトリステインとの縁切りを予定より早めなければならなかっただろう。
 本当に自分は運が良い。これも、自ら選んだ正しき行いへの祝福か。
 ルイズの存在はそこに付け加えられたさらなる幸運、ちょっとしたボーナスのようなものだ。
 使い魔などは二の次でいい。
 どれほど強力な使い魔だろうが、ルイズの真の力が目覚めればそれどころの騒ぎではないのだから。
 そして、その力は自分が使う。ルイズには、いや、トリステインの貴族の娘には勿体ない力だ。
 ルイズならば、自分の言うことを聞くだろう。それが叶わないとしても、聞かせることはできるだろう。
 なに、最悪の場合は身動きできない状態にしてしまえばいい。
 足を失えば勝手に身動きはできまい。
 手を失えば抵抗はできまい。
 呪文の詠唱さえできればいい。杖はどうにでもなる。喉と舌さえあればいい。
 自由意思など、時間と手間さえかければいくらでも変えられる。

 ワルドの目に映っているのは、ルイズという名の少女ではなかった。
 ワルドの目に映っているのは、ルイズと呼ばれる魔法装置に過ぎない。




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