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疾走する魔術師のパラベラム-09


第八章 波紋が広がる

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メイジ/[Meiji]――系統魔法を扱うことができる人間。四の段階に分かれており、それぞれドット、ライン、トライアングル、スクエアと呼ばれる。スクエアに近づくほど魔力が多く、強力な魔法が使える。

パラベラム/[Parabellum]――自分の殺意や闘志を、銃器の形にして物質化することが可能な特殊能力、およびその能力者。

   1

 体が微熱を帯びるのをキュルケは感じた。
 食堂でルイズが起こした一連の騒動を見て思ったのは『面白そう』。
 あの『ゼロ』があんな啖呵を切ったのだ。あの『ヴァリエール』があんな喧嘩を売ったのだ。

――ぞくぞくしちゃう。

 キュルケにとってルイズは特別な存在だ。単にヴァリエールだから、というわけではない。
 もちろん、ヴァリエール家だというのも興味を引く一因ではある。だが、それはきっかけに過ぎない。キュルケの興味を引くのは、ルイズのその精神だ。

 魔法が使えない。
 ハルケギニアの貴族という立場において、それは致命的といってもいい。だが、それでもルイズは杖を振るのをやめない。
 初めての授業でルイズの『失敗魔法』を見た時は驚いたものだ。肩透かしを食らった気分でもあった。
 キュルケは飛び出た存在だった。その胸。その身長。その魔法。全てにおいて同年代では比べられる存在すら、なかなか見つからない。
 だからこそ。『ヴァリエール』の存在はキュルケの好奇心を刺激した。退屈な日常に刺激を与えてくれる存在かもしれない、と感じたのだ。
『ゼロ』の意味を知り、キュルケはやや落ち込んだ。だが、それは杞憂だった。
 ルイズは挫けなかった。諦めなかった。

――面白いじゃない。

 キュルケはそんなルイズのことが嫌いじゃなかった。
 だからこそ、魔法に失敗する度にからかって火に油を注いだのだ。そうすればルイズは燃え上がった。
 使い魔召喚の儀式の時だってそうだ。ルイズならば何かやらかしてくれると思っていた。そしてルイズはその期待に見事に答えて見せた。
 あんなに面白そうな物を召喚したのだ。それも予想を上回るマジックアイテムだという。ルイズが『ゼロ』じゃなくなるのだ。

 こんなにも楽しいことはない。心が昂ぶるのが抑えられない。
 どんな騒動を起こしてくれるのかと思えば、失敗。ルイズの様子は満足気だった。明らかに弱まった爆発の威力を見て、その期待が間違いではないと感じた。
 ルイズは爆発の威力をコントロールしたのだ。面白い、それに『使い魔』を使ったのだ。これだけじゃないだろうと思い、ルイズに誘いをかけてみればこれにも期待通りの反応を示した。
 そしてあの食堂の騒動。
 正直、ギーシュなどはどうでもよかった。
『決闘よ』と、ルイズはそう言い放ったのだ。堂々とその力強い瞳を爛々と輝かせながら。

――まったく、飽きないわね。あの言い方、まるでツェルプストーじゃない。

『恋と炎はフォン・ツェルプストーの宿命』、今のルイズは勢いよく燃える炎のようだ。たまらない。
 キュルケの二つ名は『微熱』、つまりは情熱だ。燃え上がるようなその気性と気位がツェルプストーの誇りと証。
 宿敵ともいえるヴァリエールがあんなにも魅力的な熱を帯びている。負けていられるわけがない。
 親友であるタバサを誘い、ヴェストリの広場に駆けつける。
 そこで見たものは、キュルケを燃え上がらせるのに十全なものだった。

「『錬金』」
 ルイズがそう唱える。爆発は起きずに、ルイズの『魔法』が何かを形作っていく。閃光が起き、ルイズの右手を鎧のような何かが包み込んだ。
「な、なんなんだ・・・・・・それは?」
 ギーシュの滑稽にも思える問い掛けに、ルイズは右手の巨大な何かを触りながら答えた。
「九〇口径シールド・オブ・ガンダールヴ」それが何を意味するのか、キュルケにはわからなかったが一つ、確かなことがあった。
 ルイズはキュルケの好敵手になったのだ。

 決闘は圧倒的だった。ルイズは『使い魔』によって手に入れた力を使い、ギーシュのゴーレムを打ち破った。
 だが決闘の内容よりも語るべき点がある。
「『力』は・・・・・・貴族の誇りである杖は、守る為にある。傷つける為では無いわ。私の目指す『貴族』はそんなものでは、決して無い! だから大切な人が傷つこうというのならば、私は守る為に戦うわ! それが『力』を持つ者の義務であり、責任よ。・・・・・・貴方はどう思う? 『貴族』を、『力』を、『誇り』を、貴方はどう思う? 『青銅』のギーシュ、ギーシュ・ド・グラモン。考えるのは貴方で、答えを出すのも貴方よ」
 その言葉を聞き、体が熱を帯びるのをキュルケは感じた。

――そうよ、それでこそ、よ。

 やはり、ルイズはキュルケの期待に答えてくれた。
 強大な力を手に入れてなお、ルイズは『貴族』だ。力に溺れる事無く、気高く誇り高いその姿はルイズの覚悟の現れだ。
 それでこそ。キュルケはルイズのことを気に入っていたのだ。
 そして、それでこそ、この『微熱』のキュルケの好敵手に相応しい。

   2

 シエスタはヴェストリの広場にいた。
 他意は無かったとはいえ、この決闘騒ぎの原因に自分が関わっていることぐらいわかっている。本来は逃げ出すべきだったのだろう。
 貴族であるギーシュの興味が逸れたのだ。また同じような騒動になる前にどこか適当なところで、ほとぼりが冷めるのを待つべきだ。
 頭では理解できている。しかし感情が、心がそれを許しはしない。
 食堂でルイズの笑みを見た瞬間から、シエスタは自分の気持ちに気づいてしまった。
 胸の高鳴りは、未だに収まっていない。
 ルイズのことが好きだ。愛している、という紛れも無い恋愛感情。性別など関係無い。
 好きなのだ。どうしようもないくらいに。
 それならば逃げるわけにいかない。

――ミス・ヴァリエールは私を守ろうとしてくださった。それに。

 逃げたくない。もう逃げたくは無い。
 シエスタは一度、逃げた。ルイズの姿を始めてみたあの夜、なぜか胸が閉めつけられるように苦しくなって思わず逃げ出した。今、思えばあれは好きな人が傷つくのが嫌だったからだったのだろう。
 今度は、自分の心の昂ぶりを理解した今ならば。
 シエスタは逃げるわけにはいかないのだ。
 たとえルイズが傷つくことになっても、目を背けるべきではない。たとえ傷つき、血を流したとしてもその瞳の輝きだけは決して衰えないだろう。手出しも口出しも無用。ルイズはそれほどまでに、誇り高い。シエスタはそんなルイズに惹かれたのだ。

 そして。
 決闘はあっという間に終わってしまった。
 ルイズは自分の『魔法』で、圧倒した。ルイズは傷の一つさえ負わず、心配は杞憂に終わった。
『ゼロ』ではなかった。ルイズはもう『ゼロ』などではなかったのだ。広場には一人の気高い貴族の少女が一人立っている。

「全く、私が何の為に戦ったと思ってるのよ?」
 シエスタにはなんとなく、その答えが分かる気がした。
「違うわよ、私は守るために戦ったの。いい? あんたが謝るべきなのは三人。あのケティ、だっけ? その一年生。あんたが裏切ったモンモランシー。そして、あんたが侮辱したシエスタ」
 トクンと、心臓が大きな音を立てた気がした。

――ああ、やっぱりあの方は。

 ルイズはシエスタを守る為に戦ったのだ。
「ギーシュ、あんたはシエスタに杖を向けたわ。シエスタには何の非も無いにも関わらずにね。あんたは貴族の誇りをシエスタに向けたのよ。ギーシュ・ド・グラモン」
 ルイズはそこで言葉を区切り、一言ずつを噛み締めるように言葉を紡ぐ。
「『力』は・・・・・・貴族の誇りである杖は、守る為にある。傷つける為では無いわ。私の目指す『貴族』はそんなものでは、決して無い! だから大切な人が傷つこうというのならば、私は守る為に戦うわ! それが『力』を持つ者の義務であり、責任よ。・・・・・・貴方はどう思う? 『貴族』を、『力』を、『誇り』を、貴方はどう思う? 『青銅』のギーシュ、ギーシュ・ド・グラモン。考えるのは貴方で、答えを出すのも貴方よ」
 シエスタは、ルイズのその言葉を聞いて自分が間違っていないことを確信した。
 ルイズは素晴らしい人だ。惚れ甲斐のある最高の女性だ。きっと、ハルケギニア中を探したって、あんな女性はいない。
 ルイズの言葉は、ゆっくりとシエスタに沁みこんで行く。それは心地良い熱を持って、シエスタの体を巡った。
 シエスタは祖父の事を思い出す。
 祖父は生涯で一度だけ。たった一度だけ、本当に人を愛したと言っていた。その相手は戦友であり、恩人であり、親友だった、と。
 祖父は戦いの中で死んだと言っていた。あの時、自分は一度死んだ、と。その大切な、大好きな人を助ける為に死んだ、と。どこか誇らしげに、でも悔しそうに、悲しそうに祖父はゆっくりと幼いシエスタの頭を撫でながら語った。
 幼いシエスタには、祖父のそういった愛だとか恋だとかはよく分からなかったが、今なら分かる。
 少し早いリズムを刻む心臓がそれを教えてくれる。体を巡る血潮が熱と共に教えてくれる。なによりも息をするのもつらいほど想いの詰まった胸の奥が教えてくれる。
 これが。今、シエスタの抱く想いこそ、きっと『愛』なのだ。

 ギーシュがシエスタを呼んでいる。返事をしなくては。ルイズが勝ち取ったものを、シエスタは受け取らなければならない。
 わずかに火照った体を震わせ、シエスタはギーシュの言葉に大きな声で返事をした。

   3

「・・・・・・勝ちましたね」
「うむ」
 オスマンが杖を振り、『遠見の鏡』はその機能を停止させる。
 コルベールとオスマンは、遠見の鏡を通して決闘のほとんどを見ていたのだ。
「ギーシュは一番レベルの低いドットメイジですが、それでも力量は高い方です。青銅製のゴーレムをあれだけの数、それも同時に操れるドットも少ないでしょう。しかし、それあそこまで圧倒するとなるとやはり『使い魔』でしょうか」
「うむ」
 オスマンはコルベールの話を聞いているのかいないのか、ずっと髭を撫でて考え事をしていた。
 コルベールの思考も混乱から抜け出してない。
 あのルイズの『使い魔』。名前は『シールド・オブ・ガンダールヴ』と言ったか。意味はガンダールヴの盾。どこかで聞いた覚えのある名前だ。あとで図書館で調べよう。
 いや、今はそうではない。重要なのはアレが『なんなのか』。
「・・・・・・オールド・オスマン。あれは一体、なんなのでしょうか?」
 初めはギーシュの言うとおり槍かとも思った。しかし、アレはそんな生易しいものではない。おそらく弩やバリスタに近い機構を持った『銃』。それもハルケギニアに出回っているマスケット銃などとは比較にならないほど精密なものだ。
「・・・・・・わからぬ」
 オスマンはしばしの沈黙を保った後、そう告げた。その目から感情は読み取れない。
「オールド・オスマン、私の予想ではアレは――
 オスマンが手を差し出し、コルベールの言葉を遮る。
「ミスタ・コルベール。『わしら』にはあの『使い魔』が何か『見当もつかぬ』」
「オールド・オスマン?」
 コルベールにはオスマンの意図がわからない。オスマンには確かに『アレ』が何かわからないだろう。だが見当ぐらいはつく。
 形は随分と違うが、ルイズは『アレ』からジャベリンを打ち出し、ギーシュのゴーレムを破壊した。そこから大砲、または攻城弩を連想するのはそう難しいことではない。たとえ真相がそれとは違っていても、『見当』くらいはつくのだ。

「のう、ミスタ・コルベール。もしも。もしもの話じゃ。『もしも』、どこかのメイジの少女が、一人で城門を破壊できるかも知れぬほどの魔法を使えるようになったとして。『もしも』、それが王宮に知れたら。『もしも』、戦争で人が死ぬことで、懐に金貨が入ってくるような人間がそれを聞いたら、少女はどうなると思う?」
「・・・・・・オールド・オスマン。それは」
 オスマンが言わんとしていることが、コルベールには理解できてしまった。
「少女は気高いかもしれぬ。国からの命令とあれば、少女は従うかもしれぬ。・・・・・・だが、『もしも』そうなってしまった時、少女はどうなる? 自らの魔法で数多の人間の命を屠り、少女の心はどうなってしまうのじゃ? それは、君が知っておるじゃろう」
 人の命は重い。あまりに重くて押し潰されてしまう。それをコルベールはよく知っていた。その苦しみは、まるで炎の蛇に巻きつかれるようだ。焼かれど、焼かれどその炎は決して消えはしない。
 言葉を発することができないコルベールの様子を見て、オスマンは続きを話す。
「のう、ミスタ・コルベール。わしは、わしらにはミス・ヴァリエールが召喚した使い魔について、見当もつかぬ。話はミス・ヴァリエール本人に聞くが、この話はそれでおしまいではいかんかね?」
 コルベールが顔を上げると、そこには優しい光を宿した瞳を持った一人の老人がいた。それは紛れも無く、長い歳月を生きた賢人であり、幼子の心配をする好々爺の姿だった。
「・・・・・・しかし、いつかはその『少女』の力も知られてしまうのでは無いでしょうか?」
 秘密というものは存外、知っているものの多いものだ。
「それでも」
 オスマンは立ち上がり、窓の外を眺める。ちょうどその窓の下はヴェストリの広場だ。
 コルベールも窓の傍に寄る。そこでは、風系統の教師であるギトーに怒られるルイズと観客たちの姿があった。
「それでもせめて、この学院にいる間くらいは。自分の信念を見つけ、その為にどうするか、考えられるほどに成長するまでは。わしら大人は見守ってやれんかのう?」
「・・・・・・ええ、私もできることならば」そして、それが許されるのならば。

――私も、彼女たちが育っていくのを見守りたい。

 オスマンの言葉にゆっくりとコルベールは頷いた。

   4

 ルイズは学院長室にいた。
「あー、ミス・ヴァリエール?」
「何でしょう?」
 部屋にはルイズとオールド・オスマンとなぜかコルベールがいた。簡単に今の状況を説明すると、呼び出されたのだ。名指しで。
「自分のしでかした事、わかっておるかのう?」
「ええ。食堂で一騒ぎしたのち、ヴェストリの広場で騒動の中心人物であるミスタ・グラモンと決闘しました」
 ルイズは堂々と言った。もちろん、誇れることでないのだが、嘘をついてもしょうがない。どうせ事情は誰もが知っているのだ。
 まだルイズは知らないが、決闘の結果は、波のように学院中に広まった。『あのゼロのルイズが、青銅のギーシュに決闘で勝った』と。
 ルイズは良くも悪くも有名人である。ルイズの実家、ヴァリエール家はハルケギニアでその名を知らぬ貴族はいないほどの名門であるし、『ゼロ』の二つ名は前述の立場もあり、その特異性から学院では有名な話だ。
 ギーシュもその女癖の悪さから、学年を問わず有名である。影では『好色』の二つ名で呼ばれているとかいないとか。
 そんな二人の決闘が話題にならないはずもなく、半日と経たずに噂は尾ひれをつけてあらゆる人間に伝わっていた。それもルイズの勝利という結果で終わったのだ。決闘は裏で賭けまで行われたらしく、一部の生徒を除いて何人もの生徒が小遣いを失ったという。
「もちろん、貴族同士の決闘が禁じられているのも知っておるな?」
「存じております」
 決闘はルイズの勝利で終わったが、そんな結果に関係なく決闘自体が禁止されているのだ。あの後、すぐに教師の一人が駆けつけて来て広場の片づけを観客たちに命じた後、ルイズは説教され学院長室に行け、と伝えられた。というわけでルイズは学院長室に呼び出されたのだった。ちなみにギーシュは魔力を使い切っていたのであの後気絶し、今はモンモランシーに医務室にて介抱を受けている。

――ま、しょうがないわね。

 おそらく何らかの罰を受けるだろう。それは仕方ない。食堂でギーシュに手袋を投げた時からわかっていたことだ。
 それに、そこまで重い罰を受けることもないだろう。禁止されているとはいえ、こういった生徒同士の決闘というのは年に何度か起きるのだ。確かキュルケも一年の時に決闘騒ぎを起こしていたし、罰といっても何日かの謹慎処分といったところだろう。
「わかっておってあの騒ぎか。まったく・・・・・・話を聞く限り非はミスタ・グラモンの方にあり、本人もそれを認めておるようじゃが、もうちと穏便にできんかったのかのう」
 耳が痛い。確かにちょっとやりすぎた、とはルイズも思っているのだ。これでも一応、反省してるのである。
「まぁ、良いわ。ミス・ヴァリエール、規則に背き、決闘を行ったということで謹慎五日間を言い渡す。入浴以外は基本的に自室で過ごすことじゃ」
「・・・・・・わかりました」
 謹慎五日間。まぁ、妥当だと思う。ギーシュもおそらく同じか、少し長いくらいだろう。それよりも、だ。

「ところで。ミス・ヴァリエール。君が召喚した使い魔について、いくつか聞きたいことがある」
 来た。
「なんでしょうか?」
 質問が来ることは分かっていた。問題はどう答えるかだが、それも既に考えてある。そうでなければ無計画に《P.V.F》を展開したりしない。
「あの『錬金』。それに使い魔について。そして、その左手のルーン。とりあえずはこの三つじゃな」
 この質問も予想通り。
「・・・・・・杖を振っても?」杖を取り出し、オスマンに訊ねる。オスマンは静かに頷いた。
「『錬金』」ルイズは決闘の時と同じく、ルーンを読み上げる。
 右手を伸ばし、杖を軽く振ってから《P.V.F》を展開する。光の粒子がルイズの右手を包み、半透明の装甲を形成していく。何も無かった空間から生じた装甲は無機質な音を立てて、機関部を形成。三本の長く優雅な銃身と巨大な盾を併せ持ったルイズの《P.V.F》、シールド・オブ・ガンダールヴだ。
「ほう」
「これが・・・・・・」オスマンは静かに、コルベールは目を見開いて驚いていた。オスマンの落ち着いた態度は生きた年月がそうさせるのかもしれない。大したものだ。
「まず一つ目の答え、これが私の『錬金』で作った特殊な弩、シールド・オブ・ガンダールヴです」
 本当は『錬金』なんて使わないで、展開することができる。もちろん杖もいらない。第一、ルイズが『錬金』を使えば爆発してしまう。決闘の時にわざわざ『錬金』を唱えていたのは、この言い訳に真実味を持たせるためだ。
「ふむ、見事じゃ。それだけ精巧な弩を作り出すとはのう。遠見の鏡で見ていたが相当な威力を誇るようじゃな。その上、連射までできるとは・・・・・・『土』のトライアングルはあるかの」
 遠見の鏡。ルイズも噂では聞いたことがあった。曰く、その鏡には遠見の魔法の力が込められており、魔力を通うわせることで遠く離れた風景を見ることができるという。
 なるほど。それでシールド・オブ・ガンダールヴの性能まで知っていたのか。
「ありがとうございます。それでは、二つ目の質問に答えましょう。私の召喚した使い魔は東方のマジックアイテムです。錠剤といって、ポーションを固形にしたものと考えてください。素質のある者がそれを飲むことで、私のこのシールド・オブ・ガンダールヴのような《P.V.F》と呼ばれる武器を作ることができるようになります」
 これが私の用意した言い訳だ。嘘はほとんどついていない。
「ふむ、P.V.Fというのですか。ミス・ヴァリエール、失礼ですが少し見せてもらっても構いませんか?」
「ええ、どうぞ」
 ルイズがそう返事をすると、コルベールは喜んだ様子で調べ始めた。
「ふむ」とか「これがこう動くのか」とか言っているコルベールを尻目に、オスマンは質問を続ける。
「それにしても随分と大きいのう。こんなものよう振り回せるものじゃな?」
 オスマンの言葉には、疑いが感じ取れた。できれば気づかないでいて欲しかったが、それは流石に無理か。
「ええ、本来は相当な重量があるのですが、術者である私はほとんど重さを感じないのです。どうやら《P.V.F》を展開すると、体内の水の流れが活性化するようですわ。今の私はかなり力が出せますよ? 東方の魔法とは凄いものですね」
 東方の地について知るものは少ない。広大な砂漠を越え、さらにエルフの住む土地を越えなければいけないからだ。誤魔化すのに、これほどいい材料は無い。
「そして、これがマジックアイテムを使った証のルーンです。私はルーンの刻まれた錠剤を飲みましたから」
 これだけは嘘をついていない。この左手のルーンは、ルイズの魔法が成功した証であり、使い魔との絆だ。
「ふむ・・・・・・なるほどのう。・・・・・・わかった。下がってよろしい。ほれ、ミスタ・コルベール、いい加減にせんか」
「あ、すみません。ではミス・ヴァリエール、謹慎期間はおとなしくしているのですよ」

――なんとか誤魔化せたようね。

「では、失礼します」
 軽く腕を振り、シールド・オブ・ガンダールヴを解除する。
 部屋に戻ろう。しばらくは暇だろうが、仕方ない。
「おお、そうじゃ、ミス・ヴァリエール」
 部屋を出ようとしたところで、オスマンに声を呼び止められた。
「なんでしょう?」
「新しい二つ名を考えねばならんな。もう誰も『ゼロ』とは呼ばんじゃろうて」
 そんなオスマンの言葉を聞いて、胸がカァと熱くなるのを感じた。オスマンは静かに目を細めて微笑んでいるだけだったが、それだけで十分だ。
「・・・・・・ありがとう、ございます」
 やっとのことでそれだけを言うと、ルイズは学院長室を出た。視界が歪んでいるのに気づいて、初めて自分が泣いていることに気がついた。

 ルイズは誰かに『ゼロ』じゃないと言って欲しかったのだ。




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