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ウルトラ5番目の使い魔-98b



 それは、リュウが照準機の中に拡大されたドラコの右肩に、針の穴のように
かすかに見える傷跡を捉えて、意識をトリガーに集中したその一瞬の隙の
ことだった。メビウスとヒカリに両腕を、エースに首根っこを押さえつけられて
動けないでいたドラコの、その昆虫型の赤い複眼だけは接近してくるガンローダーの
姿を克明に捉えていた。奴はガンローダーがなにをしようとしているのかを瞬時に
把握すると、身動きできない状況からも右腕だけを上に向かって振り、
鎌を手先から外して飛ばして、ガンローダーに襲い掛かからせたのである。
「なにっ!?」
 思いもよらぬ攻撃に、リュウはとっさに回避しきることができなかった。回転して
飛んでくるドラコの鎌はガンローダーの左上面をなめるようにすれ違っていくと、
グドンの皮膚をも切り裂いた鋭さでガンローダーの装甲をたやすく切り裂いた。
「うわあっ!」
「ぐあっ!」
 被弾の衝撃で左翼から煙を吹き、コクピットの内部にも激しく火花が散って
リュウと才人に襲い掛かる。
「リュウ!」
「サイト!」
 GUYSクルーやキュルケたちの絶叫が響き、損傷したガンローダーは煙を吹きながら
墜落していく。
「リュウ、機体を立て直せ!」
「ああ、ぐっ! 腕が」
 リュウの利き腕は被弾のショックで負傷し、とても操縦桿を握れる状態では
なくなっていた。このままでは地面に激突して粉々になってしまうだろう。
そのとき、才人は自らも火花で負った火傷をおして操縦桿を手にした。とたんに、
もう二度と使うこともあるまいと思っていたガンダールヴのルーンが輝き、
ガンローダーの操縦方法が頭の中に流れ込んでくる。
「操縦切り替え完了! 上がれぇぇぇっ!」
 渾身の力で操縦桿を引いた才人のルーンの輝きに応えるように、ガンローダーは
地面とほんの数メートルのところで機首を立て直し、地面をはいずるようにして
機体を持ち直させた。しかし、才人の力をもってしてもそこまでが限界で、メビウスと
ヒカリと、エースを弾き飛ばしたドラコは今の投げナイフのように使えるようになった
鎌をさらにガンローダーに向けて投げつけてきた。
「くそぉぉっ!」
 ちょっとでも操作を間違えばすぐ失速してしまう状態で、才人はなんとかドラコの
左腕からの鎌を回避することに成功したが、それすら予測していたらしい右腕からの
鎌は一直線にガンローダーのコクピットに向かって飛んでくる。

「サイト!」
「リュウ!」

 シルフィードの背から、ガンウィンガーとガンブースターからの仲間たちの声が
響くが、もはやどうしても間に合わず、才人も自分に向かって回転しながら
飛んでくる鎌を振り返って、見つめるしかできない。
”ああ……草刈りで、すっぽ抜けた鎌が飛んでくるのってこんなもんなのかな”
 死神が肩を叩きに来るときまで来ているというのに、才人の脳裏にはそんな
つまらないことしか浮かんでこなかった。ちくしょう、おれは結局最後までみんなに
迷惑かけっぱなしかよ。
 だが、最後の瞬間に才人に届いたのは、死の宣告ではなかった。

「サイトーッ!」
「っ!? ルイズ?」

 耳にではなく、頭の中に直接響いてきた声は、才人にとって忘れようとしても
忘れられなかった彼女のものに、間違いはなかった。
 そして、眼前に迫った死神の鎌の前に立ちはだかってさえぎった銀色の影。

「グアアッ!」

 あの瞬間、ただ一人エースだけが驚異的な瞬発力を発揮して、跳ね飛ばされた
状態から起き上がり、ドラコの鎌からその身を盾にして、ガンローダーを守ったのだ。
そう、その身を盾にして。

「ウルトラマンA!」
「エース兄さん!」

 人間たちと、メビウスの絶叫が響いたときエースはゆっくりと前のめりに倒れた。
その背には、ドラコの鎌が深々と突き刺さっている。ガンローダーの身代わりと
なったエースは、彼らの死を自らを犠牲にして防いだ代わりに、その力を全て
使い果たして、カラータイマーの点滅を消した。

「あっ……あああ!」

 才人の、皆の見ている前でエースの体が透き通っていき、やがてその巨体が
空気に溶け込むように消滅したとき、そこには草原の上に倒れているルイズの
姿だけが残っていた。
「ウルトラマンAが!」
「エネルギーを、使い果たしたんだ……」
 ジョージの、テッペイの悲嘆にあふれた声がガンフェニックスに、さらに
フェニックスネストに流れ、CREW GUYSに絶望が流れる。
「エース兄さん!」
「エース……くっ、おのれえっ!」
 カラータイマーの点滅を早めさせ、息苦しそうにひざを突くメビウスとヒカリも
自分の無力さをなげく。
「ル、ルイズ? な、なんであの子が!」
「まさか……ルイズが」
 キュルケとタバサも、目の前で起きた信じられない出来事に自分の目を疑い、
そして……

「ルイズ……ばかやろうが……」

 涙で襟元まで濡らしながら、才人はルイズへの感謝と、自らへの怒りで
身を焼いていた。あの瞬間、ウルトラマンAが飛び込んできてくれなかったら、
自分たちは間違いなく死んでいた。けれど、力を失っていたはずのエースが
発揮したにしては信じられない速さ、それを呼び起こしたのはあのときの
ルイズの声に違いない。
「ちっきしょうおっ!」
 ドラコの急所を狙った瞬間、奴の鎌攻撃を、照準に集中していたリュウは
ともかく、自由だった自分は気づくことができたはずだ。もしも半瞬早く気づいて、
リュウに知らせていたら、結果は逆だったかもしれない。結果的に勝利を
逃してエースとルイズに迷惑をかけたのは、おれのせいなんだと、才人は
自分を責めた。
「おい! 悔しがるのはあとにしろ、まだ戦いは終わってねえぞ」
 無理矢理止血して、我を取り戻したリュウが才人を激しく叱咤して、はっとした
才人はどうにかコントロールをある程度回復させたガンローダーを上昇させた。

 しかし、残酷なヤプールは倒れ消えたエースに歓喜の声をあげるだけでなく、
勝利と、復讐をより完璧なものにするために、さらに残虐な命令をドラコに下した。

「ふっはっはははは! 勝った、とうとう我らはエースを倒したぞ。だが、
まさかそんな小娘に憑依していたとはな! さあ、ゆけ怪獣ドラコよ、その小娘を
踏み潰し、エースに完全にとどめを刺すのだぁーっ!」

 異次元からの凶悪な思念波がドラコを動かし、ドラコはヤプールの命令に
従って倒れ伏しているルイズを、その巨体の下敷きにしようと前進を始めた。
「まずいっ!」
「行かせるか! ウィングレッドブラスター!」
 ドラコの意図を悟ったGUYSは阻止しようと正面から攻撃を加えるが、やはり
まったく通用しない。
「ルイズ! 起きるんだ、ルイズーッ!」
 才人の必死の叫びが、喉も枯れんとばかりにコクピットに響く。普通に
考えたら、そんな声が届くはずは無く、二人だけに通じていたテレパシーも
今はない状態では、才人の叫びも無駄でしかなかっただろう。なのに、
奇跡は起こった。
「う、ううん……サイ、ト? ひっ!?」
 ルイズは、すぐそばまで迫ってきていたドラコの巨体を見上げたとき、
奴から明らかな自分に対する悪意と殺意を感じて、全身を貫く寒気に襲われた。
「逃げろぉ! ルイズ」
「サイト? ひっ、ひゃぁぁっ!」
 聞こえるはずのない才人の声に突き動かされたように、ルイズは眼前に
迫ったドラコから逃げ出した。それこそ、泥にまみれて、涙と鼻水を垂れ流して、
無様に、みっともなく。
「助け、たすけてぇぇっ!」
 嬉々として蟻を踏み潰す幼児のように迫り来るドラコから、ルイズは何度も
転びながら、それでもときには四つんばいになりながらも逃げ続けた。
死にたくない、死にたくない、死にたくない! 生への純粋な渇望が、
ひたすらに彼女を突き動かしていた。
「ヘヤァッ!」
「セアッ!」
 メビウスとヒカリが特攻同然で体当たりをかけ、押しとどめようとしても
ドラコは軽々と彼らを退け、一時の時間稼ぎにしかならない。だが、その
わずかな隙をついて、キュルケとタバサがルイズを救い出そうと、シルフィードを
急降下させた。
「ルイズ! 今助けるわ」
「キュルケ、タバサ!」
 そのときのキュルケには、いつものルイズをからかって遊ぶ小悪魔的な
雰囲気は微塵もなく、タバサとともに友達を助けたいという一心のみがあった。
降下するシルフィードからタバサの杖が伸び、ルイズに『レビテーション』を
かける用意に入る。しかし、複眼でシルフィードの姿を捉えたドラコは、
口を大きく開くと、そこから壊れたスピーカーの音を数百倍にしたような
破壊超音波を放ってきた。
「きゃぁぁっ! あ、頭がぁっ!」
「うぁっ! いゃああっ」
「いっ!? ああぐっ!」
 キュルケとタバサは耳を押さえてもだえ、シルフィードも頭を万力で締め上げられる
ような激痛に耐えられずに、きりもみしながら墜落していった。
「やろう、まだこんな隠し技を!」
 宇宙空間でも飛行できるガンフェニックスの各コクピットの中はまだ無事だが、
常人がこれを聞き続けたら聴力を失ってしまうかもしれない。最後の希望が
打ち砕かれたルイズは、耳を押さえて苦しみながら、あと数歩で間違いなく
自分を踏み潰して跡形もなくするであろうドラコの足を、地面にあおむけに倒れて
眺めていた。
「あ……ぅ、た、た」
 あと二歩、ドラコはぼやける風景の中でゆっくりと迫ってくる。舌ももつれて、
悲鳴さえもまともに発音することはできない。なのに、ルイズの心はある一点に
集中して恐ろしいまでに研ぎ澄まされて、確実にやってくる死にあらがうかの
ように、たった一つの言葉を吐き出させた。

「助けて、サイトぉ!」

 それが、メイジと使い魔につながるという魔法のせいなのかはわからない。
 分離したとはいえ、長期間ウルトラマンAを通じてつながっていたなごりが
あったのかもわからない。
 いや、無粋な詮索をやめて一言でそれを表現するのならば、『奇跡』と、
人は呼ぶだろう。

「ルイズーッ!」

 はじかれたようにガンローダーの操縦桿を握りなおした才人は、リュウの
静止も聞かずに機体をドラコにめがけて降下させていく。なぜなら、才人は
聞いたのだ、ルイズが助けを呼ぶ声を、ルイズが自分を呼ぶ声を。
 そして、才人はコクピットの下にある黄色いレバーを手に取った。けれど
それを握り締めたとき、一瞬のとまどいが才人の心をよぎった。
”父さん、母さん、じいちゃん、ばあちゃん、みんな……”
 才人の家族や地球の友達の顔が脳裏をよぎる。会いたい、会って「ただいま」
と言ってやりたい。しかし、これを引いてしまえば、それはもうかなわない
夢になってしまう。
”でも、ごめん。おれには、どうしても守りたい人ができたんだ!”
 意を決してレバーを引いたとき、ガンローダーの風防が吹き飛び、才人の体が
空中に投げ出される。
「ばっかやろーう!」
 リュウの叫びを背中にわずかに聞いて、空中に飛び出た才人の体は重力に
引かれてまっすぐに舞い降りていく。そう、彼が引いたのはガンローダーの
脱出レバーだった。
 猛烈な風圧が全身を襲い、等加速度直線運動の法則に従って、才人は絶対に
助からない速度にまで加速しながら頭から落ちていく。なのに、背中に背負った
パラシュートを才人は開かない。いや、あえて開かずに、ガンダールヴの力で
計算されて飛び出した彼の体の行く先には地面ではなく黒い壁が聳え立っていて、
そしてパラシュートから、ロープがからんだときにそれを切断するためのナイフを
取り出した才人の左手にルーンが輝き。
「でぇぃやぁぁっ!」
 ナイフは深々と、ドラコの肩にほんの五センチだけ残されていた傷口を貫いていた。
とたんに、激痛が全身を走ってドラコは苦しみだす。当然だ、人間とてつまようじで
刺しただけでも痛い。
「よくもルイズをやりやがったな、この野郎」
 ガンダールヴで強化された肉体でドラコの肩口にナイフを握り締めてとりついた才人は、
なおも傷口をえぐる。しかし、猛毒を持った蜂の一刺しは大熊を絶命させることもあるが、
才人のそれはまったくの自殺行為でしかなかった。
「あの馬鹿! なんてことを」
「サイト、やめて、逃げて!」
 ジョージとキュルケの悲鳴が響いたとき、まとわり付く害虫に怒りを燃やした
ドラコの鎌が、才人の前に迫っていた。
「えっ……?」
 空中に投げ出されたとき痛みはなかった。ただ、自分の体を妙な無重力感が
包んだかと思ったあとで、目の前が空の青から真っ赤に染まり、その後全身の
骨が砕ける不快な感触が伝わってきたあとで、彼の世界は真っ黒になった。
「サイト……? い、いゃああーっ!」
 引き裂くようなルイズの悲鳴がすべての惨劇を物語っていた。
 ルイズの目の前に落ちてきた才人の体は、両手両足がありえないところから
曲がって、愛用してきたパーカーとズボンの一箇所たりとも、赤く染まっていない
場所はないと見えるほどに、鮮血に彩られていた。
「畜生! おれたちがついていながら」
「なんて……こと」
 GUYSクルーたちや、超音波攻撃からようやく起き上がってきたキュルケたちも、
才人の惨状にがっくりと肩を落とした。彼らからは、二人は小さな人形のようにしか
見えないが、六〇メートルもの高さから転落して助かる人間などいない。
 いない、はずだった。
「ル、イズ……か?」
「はっ? サイト、サイト!」
 わずかに漏れた頼りなげな声を聞き取ったルイズは、才人の手をとって顔を
覗き込んだ。
「お、まえ……そこに、いる、のか?」
「そうよ、わたしはここにいるわ! わかる、聞こえてる?」
 生きている、才人はまだ生きているという喜びにルイズは才人の手を握り締めたが、
才人の手からぬめりとした生暖かい感触が伝わってきて、それがルイズのひじから
袖に達して、白いシャツを真紅に染めていく。
「ああ……お前の、手の、感触だな……けど……わりい、もう、目が見えねえんだ」
「バカ! なんて無茶をするのよ。ああ、血が、血が止まらないっ!」
 無駄とわかっていながら、ルイズはハンカチを取り出し、制服をズタズタの布切れに
しながらも才人の傷口に当てていくが、簡易の包帯は吸血鬼のように才人の血液を
吸い上げるだけで、いっこうにおさまる気配を見せない。
「やだ、やだやだ。止まって、止まってよお!」
 とび色の瞳から涙をこぼれ落ちさせながら、ルイズはこのときほど魔法の力が
ほしいと思ったことはなかった。百万の敵を倒すような、誰よりも速く空を飛ぶような、
黄金を錬金するようなものでなくていい。ただ一つ、才人の傷を治せる魔法があれば、
もう一生魔法なんて使えなくていい。
 けれども、もうどんな治療をしても手遅れと悟ったのか、才人は数回血反吐交じりの
せきを吐き出した後で、さっきより弱弱しい声でルイズに語りかけていった。
「もう……いい、それよりも、早く、逃げろ」
「バカッ! あんたをおいて逃げられるわけないじゃない。なんでよ……なんで、
故郷に帰って家族と平和に暮らせるはずだったのに、なんで戻ってくるのよ!」
「そりゃ……お前が心配ばっかり……かける、からだろう。だ、第一……た、
助けてって、言ったのは誰だよ?」
「うう……でも、そのせいであんたは……なんで、なんでここまでするのよ! 
死んだら、死んだら意味ないじゃない!」
 それは、半年前のルイズならば絶対に出てくるはずのない言葉だった。
 才人はルイズが、命の大切さに気づいてくれていたことに、しびれていく
顔の筋肉をわずかに動かして微笑を浮かべたが、あえてそれを否定する
言葉をつむいだ。
「命より、大切なものが……ある、からな」
 するとルイズは涙で顔をずぶぬれにしたままで、烈火のごとく怒った。
「なによそれ! ウルトラマンとの誓い? 平和を守る決意? ばっかじゃないの! 
誇りのために死ぬなんてバカらしいって言ったのはあんたじゃない! 誇りより、
命より大切なものってなによ! 答えなさい、このバカ犬ーっ!」
 そのとき、ふっと才人は悲しげな表情を見せて、ゆっくりと答えた。
「お前が……好きだから」
「えっ!? 今、なんて……」
 思いもかけない才人の言葉に、ルイズの心音が高鳴っていく。
「ルイズ、おれは……お前が好きだ……それじゃ、だめかな?」
「えっ! ええっ!?」
 それが、才人の最後に出した答えだった。
 ルイズが好きだ、だから守りたい。
 どんなにわがままを言われようと、どんなにつらくあたられようと、それでも
守ってやりたいという単純で純粋な願い。
 何もかも捨てても、これだけは手放したくないというどうしようもない思い。
 ただ、その気持ちにはずっと前から気づいていたが、告白する勇気だけが、
この土壇場にくるまで、情けないが湧かなかった。
「サイト、あなた」
「あーあ……とうとう、告っちまった……がっ! で、でも……おかげで、
なんかすっきりしたぜ」
 肺から血と、口の中で折れた歯を混ぜ合わせたものを吐き出す才人の
命が急速に失われていっているのは、誰の目から見ても明らかだったが、
意外にも才人の心はこれまでにないくらい晴れやかだった。
 はじめから、こうしておけばよかった。なんでこんな簡単なことが、いままで
できなかったんだろう。まったく自分はどうしようもない臆病者だ。おかげで、
もう誰にも会えないところに行っちまう。でも、ルイズを助けられたんだから
まあいいか……あと、思い残すことがあるとしたら。
「サイト、サイト……」
 才人は、どう答えていいのかわからずに、顔をぐしゃぐしゃにしながらあたふた
しているルイズの気持ちが、握られた手から伝ってくるのを感じると、心の中で
苦笑しながら、全身を覆う寒気と、急速にやってくる眠気に耐えて口を開いた。
「ルイズ」
「なに? なによ」
「答え……聞かせて、くれねえかな?」
 ルイズの心音が最大規模になるのと同時に、心を押し付けるような圧迫感が
包んでいく。
「そ、それは……」
「なん、だよ……おれにだけ、告らせといて、ずるいぜ……」
 不愉快そうに才人はつぶやいたが、ルイズにとってその言葉は、これまで
絶対に言ってはならない禁忌であった。貴族と平民、メイジと使い魔、
体裁、意地、家名、誇り、ルイズにとって捨て去ることのできない様々な
ものが強固なダムとなってそれを押さえつけ、本当の思いが流れ出すのを
せき止めてきた。
「わたしは、あんたのことを最高の……」
 使い魔だと言おうとしたところで、ルイズははっと気づいた。
「サイト……?」
 今まで荒い息を続けていた才人が、いつの間にか静かになっていた。
「ねえ、サイト……」
 返事はなかった。
「冗談でしょ、ねえ」
 肩を揺さぶると、横向きに転がった才人の口から大量の血が吐き出された。
「あたしをからかってるんでしょ。ねえ、起きてよ、起きなさいよ。ねえ、ねえ、
起きなさいって! 起きなかったら殺すわよ!」
 どんなにルイズが揺り起こそうとしても、もう才人の口から息が吐かれる
ことなかった。そして、涙と血で赤黒く汚れた才人の左手の甲から、
契約の日以来ずっと存在してきたガンダールヴのルーンが、一瞬鈍い
輝きを放って消えたとき、ルイズはその意味を知った。
「ルーンが……そんな」
 使い魔のしるしが消えるとき、それは主人か使い魔か、そのどちらかが
死んだときしかありえない。
「いや……いゃぁーっ! サイトぉーっ!」
 平賀才人は死んだ。
 彼のなきがらを抱いて、ルイズの慟哭が遠く響いても、もう才人の心臓に
鼓動が蘇ることはない。
 しかし、泣き叫ぶルイズにまでも彼のあとを追わせようと、悪魔の手は
残酷にも迫りつつあった。
「ルイズ! 逃げてぇ!」
 キュルケの声がルイズに届いたとき、ルイズの姿は才人ごと暗い影に
覆われた。才人によってルイズの抹殺を妨害されたドラコが、今度こそ
その命を餌食にしようとやってきたのだ。
 巨大な足が頭上に迫り、キュルケの血を吐くような叫びが響くが、もうルイズの
耳には届かない。
「ばか、ばかばかばかサイト……いくらあたしを助けても、あんたが死んだら
意味ないじゃない……あんたのいない世界に、わたしの生きる意味なんて
ないじゃない……だって、だって」
 確実に迫ってくる死など、もうどうでもいい。ようやくわかった。失ってようやく。
 こんなことになるくらいなら、言えばよかった。
 自分は、なんてバカだったのか、誇りや名誉など、才人とてんびんにかける
価値自体、ありはしなかったのに。
 涙といっしょに、自分の中のどろどろしたものが流れ出していくようにルイズは
感じた。もう、ほかのことなどどうでもいい。全部捨ててしまってかまわない。
 そのかわりに、今なら言える。
 才人に伝えたくて、伝えたくて、何度も胸をこがしたあの言葉を。
 もうどうしようもなく手遅れだが、今ならそれが言えた。

「わたしも、サイトのことが好きなんだからぁーっ!」

 その瞬間、ルイズと才人ごと、ドラコの足がすべてを踏みにじっていった。
 翼を広げ、両腕を広げたドラコの勝利の雄たけびが残酷に学院にこだまする。
「ふっはっはっははは! 勝った、とうとう我らは勝ったのだぁ! 見よ、
人間どもよ、ウルトラ戦士どもよ。ウルトラマンAの死を! さあドラコよ、
あとはメビウスどもと、目障りなものどもにとどめを刺すのだ」
 ヤプールの狂気に満ちた哄笑が、これほど残忍に人々の心を打ちのめした
ことはなかっただろう。メビウスもヒカリも、GUYSも、キュルケたちも、絶望と
悲嘆に打ちのめされていた。

 しかし、どんなに絶望の闇の中が深く濃く世界を覆い尽くそうとも、人がいる限り
どん底からでも、希望の光は生れ落ちる。

 それに、最初に気づいたのはメビウスだった。ルイズを踏み潰したはずのドラコの
足の下から、木の葉の隙間から木漏れ日が森の中に降り注いでくるように、
はじめは鈍く、やがてだんだんと金色の光があふれ出してくる。
「あの、光は……」
 金色の輝きは、急速に膨れ上がると、まるで足元に太陽が出現したように
ドラコを照らし出し、さらに輝きを増していく。
「これは……いったい!?」
 ドラコもヤプールも、何が起こったのかわからない。
「テッペイ、いったい何が!?」
「わかりません! 分析不能です」
 GUYSのスーパーメカニックをもってしても、解析結果はエラーを出すばかり。
「な、なんなの! なにが起こってるの?」
「わ、わからない」
 キュルケもタバサも、うろたえるしかできない。
 ただ、メビウスとヒカリだけはその輝きに確かな希望を見始めていた。
「メビウス……?」
「はい……あのときと、同じです」
 マイナスエネルギーが人間の心の闇の象徴ならば、この光はそれと
対を成す希望の光、かつてエンペラ星人との決戦のとき、フェニックスブレイブの
奇跡を生み、そして時空を超えた闇との決戦で、超八大戦士に究極の力を
もたらした輝き、それは!

「ウルトラ・ターッチ!」

 二つの声が一つに重なり、爆発した光芒がドラコを吹き飛ばす。
「なんだっ!」
「ジョージさん、見てください、あれは!」
 それはたとえるならば、古き星が滅び、新たな星の始まりを祝する超新星爆発。
「ウルトラマン……エース」
「生き返り、やがったのか」
 思いはめぐり、とまどい、やがて答えにいきつく。
「ルイズ」
「サイト……」
 仲間の思いを背に受けて、迷いを断ち切った願いは一つ。
「エース兄さん」
 闇を打ち払い、未来をつかむために、今こそ蘇れ光の戦士!

「ショワッチ!」

 光よ輝け、闇よ怯えろ!
 心の光と共に、超戦士立つ。

『ウルトラマンA・グリッターバージョン!』


 続く



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