あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロのロリカード-61

 ビダーシャルは言葉を紡ぐ。口語の呪文によって精霊と契約する先住の魔法。
すぐに契約は成され、周囲の大気がビダーシャルの味方となる。
ほぼ同時に詠唱を完了させたルイズも、左手で持った杖を振って虚無を解き放つ。

 目の前から消え失せたルイズに対し、ビダーシャルは神経を尖らせる。
既にその魔法は二度見た。一度目は上空で消え去り、二度目は奇襲された。
ジョゼフの加速に近い、瞬間移動のようなものということは類推出来る。
それに対抗する為の・・・・・・突然の出現にも察知して対応可能な、大気と反射の二重防御壁を張る。

 ビダーシャルは的を絞らせないように空中を動き回りながら、周囲を見渡す。
そして直上上空に、転々とする影をその目に捉えた。
(転移・・・・・・か)
観察すれば、一瞬で消えては全く別の空間に現れている。
自由落下を繰り返しながらも、少しずつ高度を上げているようであった。
その様子を見る限りでは、一回の転移距離に制限があるようであったが、安易に決め付けるのは愚である。
そう見せているだけの可能性も有るし、決して油断はしない。

 ビダーシャルはエクスプロージョンによる長距離砲撃にも気を払いながら、注視し続ける。
――――――そして、桃色が視界の端に映った。反射的に視線を移す。
限界距離を短いと刷り込またところで、長距離転移して虚を突く。
想定の範囲内と頭の中で思ったその瞬間、ビダーシャルの顔が驚愕に染まった。

 ルイズは――――――目の前に現れて静止していた。
そして・・・・・・その左右上下、後方にまでもルイズが存在していた。
ビダーシャルが移動する先々に・・・・・・、端々に浮いているルイズの姿。その数は10や20どころではない。
空間を埋め尽くすかのように、無数のルイズが遍在していたのだった。

 思考が止まる。どう対処するべきか迷う。
だがすぐに感じる。大気が、流れが教えてくれる。
遍在するルイズの、そのどれもに・・・・・・質量が感じられなかった。
落下もせず、完全な静止状態を保つ少女達。つまりは・・・・・・幻。
今もなお空に遊弋し続ける、トリステイン艦隊と同じ幻影。

 そうビダーシャルが悟った瞬間、圧倒的存在感を真上から叩き付けられた。


 ルイズはディスペルサーベルを、ビダーシャルの肩口目掛けて袈裟斬りに振り下ろす。 
重力を味方につけ、落下の速度を乗せた斬撃は、峰打ちでも一撃で戦闘不能に追い込めるだけの威力を持っていた。

 ルイズには飛行する魔法は使えない。
テレポートを繰り返す空中機動戦でしか、接近する術はない。
最初に奇襲したのにも拘わらずビダーシャルに回避されている以上、ただ近付いても迎撃されてしまうのは目に見えていた。
かと言って、タルブ戦で放ったほどの回避不能レベルの、超巨大エクスプロージョンならばいざ知らず。
既に相当消費した現状の魔力で爆発砲撃をしたところで、捉え切るのは難しい。

 故に選んだ戦術。
テレポートで上空高くまで移動し、落下している間にイリュージョンを詠唱。
無数の自分自身を想像し具現化する。ビダーシャルを攪乱し、隙を見出す。
相手が逡巡している間に再度テレポートで位置を調整し、一気に強襲を仕掛けた。
だが、ビダーシャルはそれすらも咄嗟に横に飛行し躱していた。

 極限まで集中し、世界の法則から解き放たれたような感覚で、ルイズの頭は冷静に回り続ける。
臨機応変に。ビダーシャルの行動から、次の一手、さらに二手先三手先と思考し読んでいく。
無想の心は、相手を詰ませるまでの行動を最適化し続け、そして導き出す。

 ビダーシャルの眼光は、本物のルイズだけをしかと見据える。
落ちゆくルイズは既に新たな詠唱を開始し、杖を振り下ろさんとしていた。

 テレポートですぐに離脱されてしまう為、反撃はなかなかに難しいものがあった。
だが所詮は人間のメイジである以上、いずれはガス欠に陥る。
防御と逃走に徹して消耗を待つだけで、この闘争は容易に終わるとビダーシャルは踏んでいた。
(そうだ、このままでいい・・・・・・)
魔力切れを起こすのも人間の弱さであり、それを打破してこその彼女が言う対等であろう。
消極的策ではあるものの、容赦はしない。確実に勝つ為には手段は選ばない。  

 ルイズが杖を振る。
間断なくビダーシャルの頭上に光球が出現し、瞬く間に膨れ上がった。
ビダーシャルは光球に逆らわず、膨張速度よりも速く真下方向へと退避する。

 チェック
「王手・・・・・・」
ビダーシャルのその回避行動を見てルイズは呟く。
その言葉と同時にルイズは、次いで既に詠唱していた呪文を開放した。

 ルイズの姿は既に消え失せ、ビダーシャルは索敵を開始する。
その間にエクスプロージョンは限界まで膨張し切り、そして収縮していく。
と、光球の収縮と同時に飛び出して来る何かを感じてビダーシャルは反射的に体を向けた。
「なっ!?」
サーベルの刃が、ビダーシャルの首元を通過する。

 メイト
「詰み」
刃を寝かせて首筋に突きつけ、杖を握ったままの左手でビダーシャルの襟首を掴む。
生殺与奪を完全に握った状態。そしてルイズはほくそ笑んだ。


 テレポートを使用すると慣性や加速度はリセットされてしまう。
よってルイズは落下を利用する為に、エクスプロージョンでビダーシャルが下に逃げるように誘導した。
直後に標的選択をしたエクスプロージョンの中へと、テレポートで転移して突っ込む。
結果、ビダーシャルの索敵範囲外から悟られない急襲を可能とした。
ビターシャルへと向かって落ちながらルイズは距離を詰め、ディスペルサーベルで反射を切り裂く。

 ビダーシャルの近距離に転移しながらも、全く気取られずに攻められる一手。
本来であれば一瞬のタイムラグが、ビダーシャルの回避行動を許してしまう。
しかし、エクスプロージョンの中であればルイズの存在を察知することは出来ず、さらに虚も突ける。

「ぐっ・・・・・・」
襟を引っ張られ、ビダーシャルは呻きをあげた。
落下するルイズの体重を急激に支えた所為で息が詰まる。
しかしそんなことはお構いなしに、ルイズはぶら下がったまま口を開いた。

「これでも認めない?」
ルイズの無垢な微笑み。してやったりといった表情がありありとわかった。
ビダーシャルは飛行も浮遊も出来ないルイズを、自分と一緒に浮かせてやる。

「・・・・・・あぁ、我の負けだ」
二人して落ち着いたところで、素直に敗北を認める。
殺し合いであったならとか。反撃していれば良かったとか。もっと大量の精霊と契約可能な場所であったならとか。
そういった無粋な言い訳をするつもりもない。もとより互いにハンデのある状態での勝負。
それは最初からわかっていたことであるし、納得ずくで受けた勝負。その上での勝敗に今更文句をつけはしない。


 回答を聞いたルイズは、サーベルを鞘へと納める。
実際的には辛勝とも言える内容であった。
テレポートを覚えてなければ、勝負にすらなっていなかった。
尤も、その時は地上で戦うようどうにかこうにか上手く誘導するつもりだったのだが・・・・・・。

「そう、良かった。でもなんか・・・・・・ちょっと納得いってない感じ?」

「・・・・・・そうだな。強いて言うのならば、我はお前個人に負けただけに過ぎない。
 お前のことは対等と認めよう。だが約束とはいえ、これで人間全てを認めるのは・・・・・・心情的には納得ゆかぬ。
 まして我らが危険視する『悪魔の力』・・・・・・お前たちの言う『虚無』に負けただけで、普通の者では相手にならぬだろう」

「でも私より強い人間もいるわよ。母さまとか・・・・・・」
「母・・・だと・・・?」
ルイズはキョロキョロと見渡し、そして指を差した。
「あれ」
ルイズの指し示す方向を見ると、多数の竜騎兵をまとめて蹂躙するマンティコアと騎士が見えた。
「・・・・・・なるほど」
傍目から見ても、恐るべき戦力ということはわかった。


「というか、止めてこないと・・・・・・」
戦線は完全に瓦解し、殲滅戦になりかけている。
アーカード、ウォルター、カリーヌ。ガリア軍が可哀想に思えるほど、三人が暴れ過ぎていた。
三者三様の戦いっぷりは、見てて惚れ惚れするほどのもの。

 それを今からすぐにでも止めに行かねばならないと思うと、ルイズは気落ちしそうであった。
既にフリゲート艦からアイス・ストームは消えている。既に決着がついていてもおかしくない。
タバサはジョゼフを必ず倒すと信じているし、なればこれ以上の戦闘は不必要な犠牲となる。
魔力もかなり消費しているが、放置するわけにはいかない。

「それじゃ、また後で」
ルイズはビダーシャルに告げると、すぐにテレポートで転移していく。

「・・・・・・たくましい人間だ。しかも我を――――――」

 ――――――・・・・・・信頼している。
こちらが約束を守ると確信し、監視はおろか釘を刺すことすらせずに行ってしまった。
「ふふっ・・・・・・」
思わずビダーシャルの口から笑いが零れた。
蛮人と・・・・・・人間と話していて、まさか笑うことがあるとは、自分に驚く。

 相手の信頼に対して、こちらも信頼で応えたくなる。
(もしかしたら・・・・・・)
本当に人間種族とエルフ種族が、分かり合える日が来るのではとすら思ってしまう。

「・・・・・・そうだな、せめて我の可能な限り協力するとしよう・・・・・・気高き虚無の少女よ」
ビダーシャルは心中ではなくはっきりとした言葉で、誰にともなく言った。




 タバサの分断された頭が転がる――――――。

 ――――――次いでジョゼフは目を疑った。
タバサの小さな顔が崩れ、見る見る内に小さくなっていったのだった。
同じように首のなくなった体までもが、縮小していく。

 それは見慣れた物というほどではないが、知っている物体であった。
『スキルニル』。血を吸った者の姿形に声、記憶や思考に、能力までも再現する魔法人形。
つまりはタバサ本人を殺したのではなく、飽くまで人形を無力化したに過ぎない。

 いつから入れ替わっていたのか・・・・・・。氷嵐の中でか?それとも最初からか?
使用者は誰なのか。シャルロット本人か?それとも裏切ったウォルターか?さらなる別の誰かか?
「"これで終わり"じゃない」と言ったシャルロットの言葉が頭の中で反芻させる。
その通り、まだ終わっていない。

 思考を回転させる最中、ジョゼフは衝撃と浮遊感を味わった。
フリゲート艦から吹き飛ばされて、気付けばそのまま地面へと落下している。
今度こそ、本当に完全な形で虚を突かれた。
急激に叩かれた勢いで持っていた杖も手から離れ、為す術もなく墜落するのみ。
ルイズと同じく、虚無の担い手は飛行や浮遊と言った魔法は使えない。

 同時にジョゼフの瞳に、タバサの姿が映った。


 タバサが用意していた二重の策。
北花壇騎士として任務をこなしていた頃、北花壇騎士団長でありジョゼフの娘でもあるイザベラから貰った物。
アーハンブラでの攻防でウォルターが使っていたことで、自分も持っていたのを思い出した。
その『スキルニル』によってこの最後の策が相成った。

 アイス・ストームを纏い、規模を拡げ、ジョゼフ加速を封じつつ逃げ場の無い艦の上で追い詰める。
氷嵐の壁によって遮った視界を利用し、すぐにスキルニルで自分をもう一人作り出す。
ジョゼフにアーハンブラ城の闘争を想起させ、エクスプロージョンを誘発させる。
その間に隙を突いてウィンディ・アイシクルを作り出して放つ。それが第一の策。

 次に第二の策に移る。
氷矢を展開した後、すぐにフライで飛び上がり、氷嵐が晴れる前に空中に退避する。
スキルニルの操作は一旦捨て置き、極限まで研ぎ澄ました集中力による同時魔法行使を行う。
飛行しながら展開させておいた氷矢を放ち、後にスキルニルの操作を再開。
そのまま精神を集中させながら待ち、空中でジョゼフの出方を窺う。
狙いは身代わりの自分が殺された時、元の人形に戻る隙を突く。
そしてウィンディ・アイシクルではなく、視認も回避も不可能に近い特大のエア・ハンマーをジョゼフに叩き付けた。

 空中に放り出されたジョゼフには、もう為す術はない。
加速を使うには地面が無ければ意味がない。加速では空中を飛ぶことは出来ない。
杖が無ければ、新たに魔法を詠唱することも不可能である。
もし杖を持ったままでエクスプロージョンを放てる状態であったなら、地面に墜落するのを待つ。
仮にルイズのテレポートのように新たな術を持っていたのなら、そのまま撤退する予定であった。


 結果として、ジョゼフは衝撃で杖を落としてくれていた。
杖が無い以上は魔法を新たに使えず、"かけ捨て"であろう加速も役に立たない状態。
それはタバサにとって僥倖なことであった。
何故なら――――――自らの手で復讐を完遂出来る。

 ジョゼフは・・・・・・空を仰ぐようにタバサを見つめ、薄ら笑いを浮かべていた。
タバサは杖にブレイドを纏い、フライによってジョゼフの落下速度よりも速く飛ぶ。
父の形見であるその杖で・・・・・・復讐者たる己がこの手で、引導を渡す。

 タバサはキメラドラゴンをジャベリンで貫いた時のことを思い出していた。
シャルロットという名を捨てた・・・・・・、タバサとなった時のことを。
ほんの一瞬の回想。あの時の自分と、今の自分が重なる。

 ――――――手応えは、感じなかった。
ブレイドによって強化された杖の鋭利さは、人の肉の硬さなど感じさせない。
腹を貫かれたジョゼフは血を吐き、そのしぶきが僅かにタバサの顔にかかった。
その手で肉を貫き殺すという感触を味わえず、呆気なく致命傷を負わせる。
それはタバサにとって幸運なことだったのか、不幸なことだったのかはわからなかった。



 迫る地面を目の前に、タバサは最後の魔力を振り絞ってレビテーションを掛けた。
タバサと、持った杖と、貫かれたジョゼフが、揃って重力から解き放たれる。
力の抜けたジョゼフの肉体は、静かに地面へと置かれる。
タバサの杖は、そのまま・・・・・・さながら墓標のように、地面に突き立てられた。

 心臓ではなく腹を刺しただけなので、ジョゼフはまだ息絶えてはいなかった。
しかし当然出血は止まらない。このまま放置すれば時を経ずして失血し、死に至る。
治療するつもりなどないし、致命傷を治療するだけの技量も、残る魔力もない。

 ジョゼフは虚ろな瞳でタバサを見る。そしてゆっくりと口を開く。
「ありがとう、シャルロット。そして・・・・・・すまなかった」
血が詰まったような声色で聞き取りづらかったが、それでもしっかりと耳に入る。

 聞いたタバサの顔が歪む。
ジョゼフがそんな言葉を発した理由が、タバサには理解出来ない。

 ジョゼフにとって、これほど心が震えることはなかった。
復讐者であるシャルロットが、美事に自分を討ち果たした。
その事実が、ジョゼフの中の虚無であった心を、何がしかで満たした。
気付けば自然と口に出ていたのだった。感謝と、謝罪の言葉。

「エルフのビダーシャルに・・・・・・俺からの最後の命令と言って薬を調合させるといい。
 それでお前の母の心は元に戻るだろう。奴が殺されずに生きていれば・・・・・・の、話だがな」

 ジョゼフはゆっくりと空へと視線を移す。
戦場は完全に瓦解していた。己の死だけでなく、ガリア軍の負けも決まった。
ついぞ地獄は見れなかったが、それでも心静かに逝けそうであった。
もとより生に執着がなかったおかげもあろうが、何よりも満たされた心地。

「良い・・・・・・戦争だった」
それを最後の一言に、ジョゼフの息が完全に止まる。


 タバサは死んだジョゼフを――――この手で殺した伯父の姿を――――見つめ続ける。
「終わった・・・・・・」
それが夢でなく現実であると確認するかのように、タバサは感慨深く噛みしめるように呟いた。

 ジョゼフの最期に・・・・・・微かな憐憫と罪の意識を覚えたが、それは朝霧のように消えていった。



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