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ゼロの銃-01


『ゼロの銃 第一話』

世界でもっとも強い武器って何?
剣?斧?槍? ――銃?
魔法や超能力なんてのも、あるのだしたら強いだろうね。
でももっと強い武器を私達は持っているの。
それはとても揺るぎやすくて、不完全なものだけど。――ねぇ
水ほど馴染みやすく、恐ろしいものは無いんだよ。

太古の昔、人間は自分で魔力を発動させる力を持っていたという。
しかし人間は、持てる魔力を己が欲のために利用し世界は混沌の魔に包まれた。
嘆き怒った神々は、人間から魔法を発動する力を奪ってしまった。
ところが人間は知恵を働かせ、魔力を弾丸に混めて銃器で発動することを思いついた。
人は神にも屈しない力を振りかざし、次第に神は忘れられていった。
世界が、魔から解き放たれるまで――910年
物語は、915年後のある目つきの悪い男から始まる。

『ストレスが溜まるとレースが編みたくなる……』
どこかのコーヒー飲料の宣伝のような文句を呟いていたなぁとギース¬=バシリスは懐かしむように嘆息した。
ここはサンピートという山間にある小さな村で、彼はそこでレースの店を開いていた。
レース、レースだ。
1本の金のかぎ針でシルクの絹糸を静謐な模様へと紡いでいく。大輪を蕾に秘した薔薇だとか、無邪気な少女のようにこちらを覗くガーベラだとか。
そういったものに心を震わせ、繊細な技術を崇高なものだと感じる。
5年前の大海嘯が起きて炎が安定しなくなってから、レース編みの機械工業化の脅威は無くなったが――変わらずこの技術を伝えることを使命と科している。
ギースは今年で31歳になるが伴侶はおらず、職人から仕入れて小売りしているという訳でもない。勿論作って売っているのはギース本人だ。
村びとの評判は悪くなく、最近では遠く暁帝国から買い入れに来る商人も少なくない。
だが彼の心は冴えなかった。
「インスピレーションが湧かない……」
並べられた最近の『娘たち』を見て心の暗雲を濃くする。
今は亡きスラファトで親衛隊(サラマンダー)として激務をこなし、その合間に作り上げてきたレースのような新鮮さが無い、と思った。
5年前とは何もかもが違っていた。忠誠を捧げた国は滅び、人は魔法を使えなくなり、九つ目の月は姿を消した。弟を目の前で失い、沢山の人と縁を無くした。
魔銃士(クロンゼーター)は廃業。
その後は故郷の村で、かぎ針を取り、かぎ針を振るい、かぎ針を閃かせる日々を―― 只。
出世の為に国中をネズミのように嗅ぎまわっていた五年前を思うと、こんなに穏やかで良いのか?と自問してしまう。
飢え乾いているときの水の美味さは格別である。まぁ、そういうことだ。
ふと、等間隔に並べ吊るしたレースの向こうに、キラリと反射するものを見つけた。
レースを掻き分けると、それは自分と同じくらいの大きさの鏡だった。
ギースの脳裏に連日娘を売り込みに来る綿売りの男が過ぎる。
「あのおやじ……! こんなものを置いていって!」
なにかと物を都合しては恩を売ろうとする男で、今のギースの頭痛の種だった。壁から引き剥がそうと右手を伸ばすと
「うゎあっ!?」
周りの景色が暗転した。何も無いところで躓くなんて……鈍り過ぎだろう俺! 
転ばないよう咄嗟に掴んだレースかけのポールごと鏡に―― ぶつからなかった
「は?」
短い疑問はそこで切れ、店は無音に包まれた。

人は、何かを示すために生きている。
農民は作物を作るという生業を。
商人は金と引き換えに品物を与える取引きを。
貴族は領民を統べるための権力を。
相手において自分がどういう存在なのかを誇示して生きている。
「魔法があまり得意でなくとも、私はあなたの味方よ」
二番目の姉はそういって優しく頭を撫でてくれた。
でもちぃ姉様。大抵の人は私にとって敵だわ。
周りが非道なのではなく、私が弱いから。
だから見つけなくてはいけない。相手に示せる『武器』を。
「では・・・次で最後だ。――ミス・ヴァリエール 」
「はい!」
コルベール先生が私を呼ぶ。
春の召喚儀式、これをパスしなければ私は進級ができない。
「できるのかしら?」
「何を召喚すると思う?」
「何を召喚できても、家名を汚すのには間違いないさ」
心にすっと冷ややかな風が吹く。次いで胸を満たすのは焦燥。
聞こえていないわけが無い。それを否定できないのは覆すための武器が無いから。
武器が欲しい。お前は立派な貴族だと、ここにいてもいいと認められるための武器を
――届け
「わが名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ヴァリエール 」
――伝われ
「五つの力を司るペンタゴン」
――声を聞いて
「我の運命に従いし」

――わたしを『貴族』にして!!
「使い魔を召喚せよ……!」



「っ!!がァッ!」
うつぶせに倒れたところにポールの棒が倒れてきた。
がん!
「~~~~~~」
ちょうど後頭部にぶつかり、あまりの激痛にのた打ち回る。
なぜ支えに掴んだポールが彼の上に降らなかったのか?
簡単なことだ。自分の手で丹精こめて紡いだレースが埃にまみれるのを許せるほどギースは肝要では無かった。
 そもそもポールは壁のすぐ傍に置いてあったので完全に倒れることなんてあるわけが無いのだが。その事実に至りギースはがばっと体を起こす。
なぜか周りは煙が漂っていたが……突き抜ける青空にそこは外なのだと認識した。
外?
俺の店は!?
煙の向こうに人の気配があった。一人二人ではない、不特定多数のざわめく声がする。
視界が開けたとき目にしたのは愛嬌のある鳶色の双眼-
「―――プルート?」

『このせかいをあいしてるんだ。ここでしあわせになりたい』


何度も失敗したサモン・サーヴァント。
叫びにも等しい祈りを、始祖ブリミルは悉く無視した。
だから、閃光と共に爆風が起きたときはとうとう掴んだと思った。
なのに、
こんなのって

「おい見ろよ!平民の人間を召喚したぞ!」
「さすがゼロのルイズ!」
「しかも何?あれ仕立屋?さすがヴァリエール家の問題児は違うわね!」

囃し立てるクラスメイトの言葉に反論が出来ない。
だってどう見ても普通の平民・・・それなりにいい仕立ての服を着ているけど、商売物のレースなんかにまみれている姿は言うとおり・・・只の仕立屋だ。
燃えるような赤毛とは虫類を思わせる鋭い眼光。長身を灰茶のスーツに包み装飾品は銀縁眼鏡のみ。
平民と目が合った時(見てくれが悪いものでは無かったのは救いにはなるのかしら?)眼鏡の奥の神経質そうな目が驚愕に開かれ、短く何かを叫んだのを聞いたけど、その意味を理解することは出来なかった。
(平民の上に未開人!?・・・なんで!!)
「ミスタ・コルベール!儀式のやり直しを要求します!彼は人間……平民です!!」
「……私としても、経験が無いことなので判断し難い所ですが・・・・・・サモン・サーヴァントは神聖な儀式。やり直しは許可できません。」
コルベールの決定にぎり、と歯噛みする。嘲る視線が注がれていると思った。
「ただの平民に見えるかもしれませんが、運命が君にと選んだ使い魔なのですよ。君は彼を使役する義務があるし、彼は君を慕う権利が――」
「……わかりました。儀式を、続けます。」
表情を気取られないよう、召喚した平民の方を向くと・・・さっきとは打って変わった険しい眼光をこちらに向けていた。
その視線を受け、ルイズは眉を吊り上げた。
「仕える前から、いい態度じゃないの、この下僕。契約したらたっぷり躾け直してやるわ」
そう言って平民の頬に手を添えて、もう片方の手で杖を振る。
「わが名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ヴァリエール、五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」
朗々と呪文と唱え、男に顔を近づける。
初めては……好きな人としたかったのに!
ああもうなんでよりによって人間なのよ!と運命の理不尽さを非難しつつ、硬く強張った唇に触れた。


どうしてこうなったのか、理解できなかった。
「何ご主人様のこと無視してんのよ仕立屋!!」
「黙れ!勝手に呼び出しといて主人気取りなんて何様のつもりだ!あと貴様のような不躾な小娘に俺のレースは売らん!!」
「論点をずらしてんじゃないわよおおお!!!」
地団太を踏む小娘に頭痛が走る。
桃色の長髪に鳶色の瞳、顔の造作は愛らしいといって差し支えないだろう。
だが本性はといえば高慢かつ傲慢。あまり女という生き物になれていないギースには、女の子はいつも傲慢なものさと知ったかぶりをすることは出来なかった。
あの後目の前の少女に連れられて・・・待遇を含めどうするかと話し合うことになり、少女の自室に連れてこられたのだが。
「・・・で、この家畜の焼印のようなものをつけておいて謝罪もなしか?」
「かっ家畜ってなによ!それは『使い魔のルーン』! わたしの使い魔だって言う証なんだから光栄に思いなさい!」
ベッドに腰掛け(ささやかな)胸を張る少女に、これ見よがしに嘆息してやった。
誰が知らないうちに下僕にされて喜ぶものか。生憎とギースにそんな性癖は無い。
あの平原に放り出されて灼熱とともに手の甲に刻まれた意味不明の語句。それまで理解しえなかった言語が、31年間耳に馴染んだ言葉で聞こえるようになった。
意志を伝える魔法は闇魔法だろうか?それとも遠く失われた神代の古代魔法?
しかし気になる語句が出てきた。それは魔法式(ゲール)を組む際に多用される言葉だ。
「使い魔……。帰るときも思ったがこの国ではまだ魔法が使えるのか?」
草原に放り出されて――契約の儀とか、そんな名目で口付けられて、その場から去るときにこの少女以外の全員が鳥のように空を飛んだのだ。
人が空を飛ぶと言えば蒸気機関を利用した飛空挺が思い出される。
だがあの時目にした光景はそれとは別の、魔法だとしてもギースの知る魔法式にあのような力があるものは――無い
「まだ?まだって何よ。まるでもう使えなくなったみたいに」
愛嬌のある顔が怪訝に歪められる。
「使えなくなっただろう?5年前の大海嘯、9番目の月(リコーラ)が落ちたときに」
「りこーら?なによそれ?」
「9番目の動かない月だ。今は月は八つしかない。」
途端、少女が耐えられないといった体で吹きだした。
「あははははっ! なにそれ! 何で月が八つもあるのよ! 月は二つに決まってるじゃない!見なさいよ! ほら」
少女はそう言うと窓の向こうの夜空を指し示し、それを見てギースは。
「……っ!」
月の数、それに大きさに言葉を無くした。
ぽっかりと開いた穴のような大きさで、だが煌々と輝いている月が『ふたつ』
どういうことだ。ここは、あの世界と同じではないのか!?
最初はダブロベインの魔法陣――通称〈門の魔法陣〉によって新大陸か暁帝国にでも飛ばされたのかと思った。魔法陣間を自由に移動できるそれは、一種の遺跡のようなものなので移動したり描き写しただけでは意味を成さないのだが、彼の知識に合致するものが他には無かった。
同じ地上にいるなら、どこにいても月は同じように昇るものだ。星と違い、月は地球に寄り添っているのだから。
違う世界。
魔法がまだ使えるということ。
月が二つしかないということ。
5年前の大災害によって影響の無かった土地など存在しない。世界の原理が人によって塗り替えられた瞬間なのだから。
「・・・どうしたのよ?迷子になったよーな顔して。」
「・・・小娘。」
「だから小娘とか言うんじゃないわよこの平民!!仕立屋!!わたしにはルイズ・ド・ラ・ヴァリエールという神々しく気品溢れる名前が!」
「ルイズ。私を元の世界に帰せ。」
「元の世界? 何よそれ? ……どんな妄想してるのか知らないけど使い魔を帰すことなんて出来ないわよ」
「・・・何故だ?」
毒を吐くように、冷たく悪意のこもった声だと思った。
「決まってるじゃない。あんたが、わたしの使い魔だからよ。契約を交わしたらあんたはわたしに絶対服従。第一呼び出せても特定の場所に帰すなんて魔法は――」
ないわ、とルイズは最後まで続けることが出来なかった。
襟を掴まれてヒッと小さい悲鳴をあげて――射殺すような瞳と、目を合わされた。
「契約? 一方的に説明も無く交わされたあれがか? 生憎と私は力も無い、振りかざす権力も無いただ喧しいだけの小娘に屈するほど無力な存在だとは思っていない。魔法式が使えなくとも、貴様の細い首を枝のように折ることなど容易い……!」
「……ッ! 権力なら、あるわ。あんた、わたしを殺して、わたしを騙して逃げられると思わないことね。貴族を殺して、この学園で召喚されたあんたが逃げたら、うちの家とこの学園が誇りをかけてあんたを探して、殺すわよ……!」
「………」
負けんとこちらを睨み据える鳶色の瞳に虚勢の色は伺えない。生死を握られながらも冷静にカードを切れる豪胆さは感嘆に値した。
「ふ、自分が無力だという自覚はあるのか。まあ、ある程度の判断力があるのは認め――」
てやる、とギースは最後まで続けることが出来なかった。
音には聞こえなかったが、ギースにはどぐしゃあ、とかメメタァとか惨酷な音が聞こえた気がした。
「ぎゃッ……ぐぁあぁぁああ」
蛙が潰れたような声を発し、股間を押さえながら床にへたり落ちた。
「仕立屋の分際で調子に乗るんじゃない!」
寛大なご主人様に感謝しなさい!と言ったは良いが、彼にはそこまで伝わらなかった。
「……具体的に使い魔とは何をするんだ?」
「ご主人様には敬語!朝食抜きにするわよ!」
「……チッ! 私が使い魔として成すべきことをご主人様にご教授していただきたく存じます」
「思いっきり舌打ちしてんじゃないわよ。……使い魔の仕事は色々あるけど、ひとつは主人の目となり耳となり、感覚を共有する能力が与えられるわ」
それはいい能力だな。自分の姿を客観的に見て色々反省するといい。とは思うだけにしておこう。
「だけど、あんたにはその能力は与えられなかったみたいね。何も聞こえないし、見えないもの」
「それは残念だ・・・です」
「それから、使い魔は主人の望むものを見つけてくるのよ。秘薬とかね」
薬草や物質の名称をつらつらと並べられるが、世界が違うからか共通するものを浮かべることは出来なかった。
「・・・残念だが、薬学の知識はあまり・・・」
「使えないわ・・・」
ルイズは頭痛をこらえるように嘆息した。
そのとき脳裏に過ぎったのは三歳下の弟。プルート・バシリスだ。
プルートは魔力が無かった分、多種多様な知識を学び軍でも独特の地位を得ていた。彼がここにいたら、自分よりもずっと優秀な使い魔だったかもしれない。
『いたら』
「最後に、これが一番大事!主人を敵から守らないといけないのよ!呪文詠唱中、敵の攻撃に晒されないようにね!」
「………」
これだ。魔法が使えるこの世界なら。
スラファトの親衛隊に召し上げられた実力。『赤いたてがみ』として恐れられた魔銃士。ギースにとっての武器は、存在意義はこれしかない。
す、とタイを止めていた銀製のピンを外して右手に乗せる。
「な、なに?そんなのいらないわよ」
「……〈火の大王の忠実なるしもべ、その内なる口に火の舌を持つ火蜥蜴よ〉」
彼の最も得意な属性である〈火〉の魔法式を唱える。どこか詩的でさえあるそれは、空気中の魔法元素(ロクマリア)をまとい青白い閃光を放ちタイピンへと落ちる。
「わあっ!何!?」
手の上のタイピンを覗きこんでいたルイズが突然の発光に尻餅をつく。
彼の世界では自由に魔法を放てない代わりに、こうして銀を触媒に神話の時代の言葉である魔法語(ゲルマリック)を組み合わせて魔法の要素を封じ込める。
空気中の魔法元素が足りない場合は、自分の精神島と呼ばれる魔力槽から補填するのだが、自然に存在するロクマリアを沢山封じたほうが威力は大きい。
無事火属性の魔法〈火蜥蜴〉(サラマンダー)を封じたタイピンは、淡く発光する魔法式を纏っていた。
「そ、それ何?」
「魔法式を納めたカートリッジもどきだ。私の世界では魔法をこうして銀に封じて使う」
魔法、と聞いてルイズは表情を硬くする。
「あんた……魔法が使えるの?」
「まあ、このままでは使えないが……こちらの世界に銃はあるか?」
「銃?……ああ。ゲルマニアで作られた武器のこと?」
「魔法を発動するためには発火のエネルギーが必要だからな。銃無しで魔法を撃てるのは火、水、土、風、闇、光の6つの属性を血統で極めた精霊王(アルティメット)だけだ」
「………」
ふ、ふ、ふ、ふ、ふ、と地獄の魔女のような低い笑い声がする。
不気味さに怪訝とルイズを見ると、彼女は笑い声とは裏腹の、怒りとか憎しみとか悦びをシチュー鍋でぐちゃぐちゃと煮込んだような――深い顔をしていた。
「……般若!?」
「なーんか聞いてると、あんたの魔法ってスゴク効率悪いわよねぇ………」
「なっ何だと!?」
「偉そうに語るからどんな隠し玉を持ってるかと思えば……呪文詠唱をして、魔法を触媒にこめて、発火させなきゃ使えないなんて、それなら剣で攻撃したほうが早いわよ!!」
「この小娘がっ……! 魔法式の緻密な優美さを、行動の簡潔さ程度で野蛮な物理攻撃と比較するな!! 銃とカートリッジさえあれば貴様のような小娘、消し炭にしてやる!」
「銃なんて持ってるわけ無いじゃない」
「何!?」
「ここは魔法学院よ?学院単独で国の魔法師団2個分と張り合えるのに、ゲルマニアの新造武器が常備される理由がないわよ」
「…………」
ああ、異世界。故郷と同じ文化水準を期待してはいけないということ。
ギースは頭を抱えた。あの世界とどれくらいの文化的格差があるというのか!?
「あーーもう、あんたが仕立て以外何の役にも立たない平民ってことはわかったわよ! ……疲れた。もう寝る」
 ルイズが長髪を振り乱しベッドに顔を伏せる。
「そのまま寝るのか。皺になるぞ」
「……やっぱり仕立屋なんだ。そういうとこ気がつくなんて」
「っ! 仕立屋ではない! 私はレース専門だ!!」
つい口をついた言葉が、誤解を増長させたようで必死に否定する。
「なんでもいいわよ……そうだ」
ごそごそと、布に包まった新種の生き物が蠢いている。かと思ったら何かがギースに向けて投じられた。
「それ、明日になったら洗っといて」
「……ッ!! き、貴様!女としてどうなんだ!? おおオレは世の女性の為にお前のこれを否定する!!」
投げられたそれを広げて、ギースは動揺を隠せない。
レースのついたキャミソールに、白くてちいさい『さんかく』
「 ? 結構気に入ってるんだけど」
「趣味は悪くない! ではなく、貴様女の皮をかぶったバロットか!? 」
 下着の向こうに暁帝国で王子の皮を被っているだろう巨大汚れパンダが透けるような気がした。
「………何を言ってるのかサッパリわかんないけど、アンタは使い魔。んなもんに恥じらいなんか持ってられないわよ」
「的確に理解してると思うが!? 駄目だ! この小娘やっぱりバロットと同程度だ!!」
 自分の価値を暴落させるのが趣味のあの男が、鼻をほじりながら笑ってる気がする!!
「ああもう! うるさいわよ仕立屋!! さっさと寝なさいよ!!」
「どこで!?」
「毛布やるから床にでも転がってなさい」
「………」
ばふっと投げつけられた毛布に抗議の台詞を封じられる。というか、あまりにもぞんざいな扱いに絶句していた。理不尽。そんな言葉が魔法式のようにまとわりつく。
鼻につく上司だとか、七光りで軍の末席を占めるドラ息子を適当にあしらってきたが、我侭お嬢様の子守をしたことはない。
 娘を持ったらこんな感じなのだろうか?……いや、自分の娘には淑女の教育を徹底するぞと相手もいないのに固く誓う。
 一人悶々とするギースに、ベッドの上から声がかけられる。
「………一応聞いておくわ。あんた、名前は? 」
「……ギース=バシリスだ。」
「バシリス? あんた、貴族なの? 使えない魔法、使えるみたいだし」
 使えない魔法ではない!と叫びたくなる気持ちを押し殺す。
「……平民だ。故国には貴族なんてものもあったがな。近代の王が貴族制を廃止し、実力での登用を重視されたんだ。血統の統制も図られた。」
「実力」
「強力な魔銃士なら率先して高官に召し上げられる。私の兄も平民だが中将になった」
幼年学校を退学になったギースが軍にいられたのも、兄であるヨシュアの尽力が大きい。敬愛する竜王に見出していただけたことと同じ様に、彼には感謝している。
「………」
「……寝たのか? 」
 呟いたきり沈黙する布のかたまりに声をかけるが、返事はない。
 嘆息して、投げられた毛布を引き寄せる。 瞼を閉じると思いのほか睡魔が襲ってくる。
床で雑魚寝など何年ぶりだろうか。あれはユーロサットで等級狩りをしていたころ――
 丁度いい暖気に包まれ、思考が停止する。
 双月に見守られ、泥のような眠りに落ちた。


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