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第六話 二人の使い魔の日常 後編


午後からは授業はなく、生徒達はそれぞれ自由に時間を過ごしていた
昼食を終え、ルイズと合流したクラースは彼女に個人授業を行っている
「良いか、落ち着いてやるんだ…魔法を使うのに必要なのは精神力と集中力だからな。」
「解ってるわよ、それくらい。」
解りきった事を言われて、ルイズはクラースに向かって怒鳴る
二人から離れて、才人とタバサが見学していた…最も、タバサは本を読んでいるが
「何であの子まで一緒にいるのよ…先生はさっきまであの子と一体何を…。」
「ほらほら、文句は後で聞いてやるから…まずは、目の前の事に集中するんだ。」
クラースの言葉に話はそこまでにして、ルイズは目の前の標的に目をやった
それは、魔法練習の為にクラースが作った藁人形だ
「さあ、ルイズ…ファイアーボールを唱えてみるんだ。」
軽く頷くと、ルイズはルーンを唱えだした…落ち着いて、落ち着いて…と、心の中でも唱えている
そして、ルーンを唱え終え、目標に向かって杖を振るった
直後に爆音が響き、目標となっていた藁人形は木っ端微塵に吹き飛んだ
「おお、人形が吹っ飛んだ……で、あれってファイアーボールなのか?」
「違う。」
確かに魔法は発動し、藁人形に命中した…が、あれはファイアーボールではない
その名の通り火球を飛ばす魔法なのだから…決して爆発する魔法ではない
「ああ、もう…どうして成功しないのよ!!」
失敗した事に腹を立て、地団駄するルイズ…クラースは爆破された藁人形を見て、口を開いた
「そうだな…まあ、今のは10点といった所だな。」
クラースの評価を聞いて、ルイズは目を丸くさせた
まさか、これくらいで得点がもらえると思わなかったからだ
「確かに、ファイアーボールは発動しなかったが、目標には当たったからな…努力点というやつだ。」
今までのルイズの魔法は、目標とは見当違いの場所が爆発を起こしていた
木だったり、壁だったり、噴水だったり…今だって、周辺の土が抉られている
今のは珍しくも目標に当たった…それを評価しての10点である
「そう…ま、まあ、慰めぐらいで受け取っておくわよ。」
初めて魔法の事で褒められたのに、素直に嬉しいと言えないルイズ
ふと、ルイズはクラースの召喚術の事で疑問を浮かべた
「ねぇ、クラース先生…先生が使える魔法ってあの妖精みたいなやつだけなの?」
「シルフだ…まあ、前に話したように今はオパールの指輪しかないからな。シルフしか呼び出せん。」
召喚術の話を始めたので、興味を持ったタバサは二人に歩みよった
才人もその後へと続き、クラースは続きを話す
「精霊は多種多様に存在する…地水火風、分子、闇、光、月、そして根源を司るもの、様々だ。」
「そんなに…先生って、それを全部使役してたの!?」
「まあな…しかし、私が精霊達と契約出来たのは仲間達がいたからこそだ。」
クレス達と出会ったからこそ、彼は偉大な召喚士としてその名を残す事が出来たのだ
出会わなければ、その名が知られるどころか、召喚術が完成していたのかどうかさえ危い
「ふーん…ねぇ、私でも先生の召喚術が使えたり出来るの?」
「どうかな。私も数々の手順を踏んで使えるようになったし…簡単に使えるのはエルフぐらいだな。」
実質、前にハーフエルフであるアーチェは自分が契約した精霊を簡単に召喚してみせた
しかも三体同時召喚まで…あの時ほど、エルフとの差を実感して涙目になりそうだった事はない
「そう…なら、良いわ。先生みたいにそんな悪趣味な刺青と格好はしたくないし。」
「またそんな事を…良いか、これは私が研究に研究を重ねた末に考案した召喚士の…。」
「失礼するよ。」
そんな時、彼等の耳にキザったらしい声が聞こえてきた
振り返ると、そこにはギーシュの姿があった
「ギーシュ、何であんたが…。」
「僕はミスタ・レスターに呼ばれて来たんだ…君の力を貸して欲しいってね。」
「ああ、もうそんな時間か…じゃあ才人、始めるか。」
突然、自分が名指しされた事に驚く才人…クラースは道具袋に手を伸ばした
一体何を…そう聞く前に、クラースはロングソードを取り出した
「さあ…剣の稽古の時間だ。」

「だ、大丈夫なのかな…俺。」
ロングソードを両手で持ち、才人は目の前の相手を見つめる
そこには、ギーシュが作り出したワルキューレが一体佇んでいる
「準備は良いか……よし、始めてくれギーシュ君。」
「解りました…行くよ、才人。」
クラースの言葉に、ギーシュはワルキューレを操りはじめた
剣を構え、ワルキューレは才人に接近する
「わっ、来た!?」
向かってくるワルキューレ…一気に間合いをつめ、剣を振り下ろしてくる
咄嗟に才人は剣を構え、ワルキューレの攻撃を受け止めた
「くっ…このっ!!」
左手のルーンが輝く…受け止めた剣を弾き返し、バックステップで才人は後ろに下がった
そして、反射的に決闘の時に見せたあの技を繰り出す
「魔神剣!!!」
剣を振り払うと、剣圧がワルキューレに向かって地面をかけていく
その一撃を受けたワルキューレは、ごとんと地面に倒れこんだ
「おおっ、あれだ…あの時、僕のワルキューレを吹き飛ばした…。」
ギーシュはまたあの技を見て驚いていた…それはルイズも同じである
「あれって、一体どういう仕組みで放てるの?魔法?」
「そうだな…解りやすくいえば闘気と言う、人間の中にあるエネルギーを剣に集中させ、剣圧として飛ばしているんだ。」
解るような、解らないような…とりあえず、魔法とは違う事は理解した
その間に才人はワルキューレに接近すると、続けて技を繰り出す
「飛燕連脚!!!」
二連撃の蹴りと剣による突き…その攻撃に、ワルキューレは破壊される
「ああ、僕のワルキューレが…。」
「はぁ、はぁ、はぁ…ふぅ。」
落ち込むギーシュに対し、才人は呼吸を整えて剣を振るう
一度、二度…と剣を振り回し、最後はくるりと回して高々と掲げる
「それにしても…まさか、僕のワルキューレを使って剣の稽古とはね。」
そう、ギーシュが此処に呼ばれたのは、才人に剣の稽古をさせる為だった
クラースが帰ってきた時に、彼は彼らしい長い謝罪を行った
その全てを振り返ると長くなるので省略すると、彼は何でもすると言ったのだ
自分に出来る事でお詫びがしたいと…その結果がこれである
「ほぼ実戦に近い状況で才人を鍛えられるからな…今後の為に鍛錬は必要だ。」
この未知の世界にある脅威…それに備える為に
いざという時は、才人は自分自身でその身を守らねばならないから
「さて…ギーシュ、次を出してくれ。」
「解りました…今度は負けないよ、サイト。」
再びギーシュは才人に向かって薔薇の杖を振った
花びらが一枚、地面に落ちて新たなワルキューレを生み出す
「次か…よし、こい!!」
一体倒して自信がついたのか、剣を構えなおして才人は新たなワルキューレに挑む
相手の攻撃をかわし、慣れているかのように剣技を繰り出す
「(あの剣技、やはりアルべイン流…動きも、何処となくクレスに似ているな。)」
そんな才人の動きを見ながら、クラースは考えを巡らせる
今の彼は剣を持った事のない、素人とは思えない動きを見せている
「(まともに剣を振るえなかった彼がああなるとは…伝説のルーンの力とは凄いな。)」
クラースは左手の甲を見る…そこには、才人と同じルーンが刻まれている
同時に、オスマンから聞かされた話を思い出した

『ガンダールヴ?』
『そうじゃ、お主らの手に刻まれしルーンはかつて、伝説の使い魔に刻まれしルーンなのじゃ。』
帰って来た後、クラースはコルベール経由でオスマンに呼び出された
そこで、自分と才人に刻まれたルーンが伝説の使い魔のものである事を知らされた
『そのルーンを宿した使い魔は、ありとあらゆる武器を使いこなしたという伝説があるでな。』
『成る程、コルベール教授が言っていたのはそれか…それなら、才人の事もある程度納得出来る。』
決闘の時に見せた才人の力の源を、クラースはようやく理解した
が、すぐに新たな疑問が生まれる
『そんな使い魔のルーンが刻まれたのは…ルイズが召喚したからですか?』
『解らん…その辺の事は全く解らんのじゃ。何故ミス・ヴァリエールなのか…』
うーむ、とオスマンが唸る中、クラースはその答えの手掛かりについて考えた
爆発しか起こらない魔法、異世界人である自分達を召喚した…
そして、伝説の使い魔のルーン…彼女は他のメイジとは違った、特殊なメイジなのかもしれない
『兎に角、お主だけには伝えておこうと思ってな…じゃが、くれぐれも…。』
『解っています…時がくるまでは誰にも言うな、ですね。』
『うむ、これが公になれば色々と不味い事になるからの…当然君達もじゃ。』
この事は、ルイズと才人にも秘密にしておいた方が良いだろう
話した所で、今はまだその事実を受け止めきれないだろうから
『ところで…ミスタ・レスター、お主等は一体何処から来たのじゃ?』
『何処と言われても…私は貴方達が言うロバ・アル・カリイエから来たのですが…。』
建前上の、本来自分達の出身地ではない東の国の名を口にする
『では、君がグラモン家の息子と決闘した際に見せたあれ…あれは一体何なのじゃ?』
『あれは…東で生み出された新たな魔法のようなものです。事情により詳しい事は言えませんが。』
召喚術の詳細を言えず、そういう事で誤魔化そうとする
だが、オスマンはそれで納得したようではなく、鋭い眼差しを向け続けている
『そうなのかのぅ…ワシにはあれは魔法とは思えんのじゃがなぁ。』
『………。』
クラースは思った…この老人に、本当の事を話すかどうかを
しかし、彼は学院の最高責任者で国との繋がりもある…迂闊に話さない方がいいのではないか
そう思考を巡らせていた時、ノックの音が室内に響いた
『む、誰じゃ?』
『私です、オールド・オスマン。』
ドアが開き、ミス・ロングビルが学院長室に入ってくる
『王宮の勅使、ジュール・ド・モット伯が御出でになられたのでお伝えに来たのですが…。』
『おお、そう言えば今日じゃったな…忘れておったわい。』
そう言うと、改めてオスマンはクラースの方を見る
『すまんな、王宮からの使いが来たようでな…話はこれくらいにしようかの。』
『はい…では、これで…。』
取りあえず話が終わったので、クラースはすぐに退室しようとする
その際、ミス・ロングビルがジッと見つめている事に気付いた
『ん、何か?』
『あっ、いえ…素敵な指輪をされていると思ったので…。』
指輪…とは、クラースが嵌めているオパールの指輪の事である
唯一の契約の指輪なのでなくさないよう、クラースは肌身離さず身につけている
『これか…これは、私が魔法を使う上で重要な術具なのでね。』
『そうですか…でしたら、さぞ貴重な品なのでしょうね。』
そう言ったロングビルの目が、一瞬獲物を狙う獣のように見えた
瞬きすると、そこには普段彼女がする美しい表情があった
『ふむ……では、オールド・オスマン、それにミス・ロングビルも…失礼。』
気のせいだと思い、二人に一礼するとクラースは学院長室を退室した
しばらくして一息入れると、後ろを振り返る
『(オールド・オスマン…流石この学院の学院長をしているだけあって、鋭いな。)』
それに、普通の人とは違うオーラと言う者を纏っているような気もする
侮れない…そう思った時、扉の向こうから大きな音が響いた
『あだっ、ミス・ロングビル、年寄りをもっといたわらんかい。』
『オールド・オスマン、今回ばかりは我慢の限界です。貴方は何度セクハラすれば……。』
ロングビルの怒声とオスマンの情けない声が聞こえてくる…そこに先程の威厳は微塵も無かった
自分の勘違いだったか…等と考えつつ、クラースはその場を後にするのだった

「…生、クラース先生!!」
ルイズの声が聞こえ、クラースはそこで回想を中断して顔を上げた
「どうしたの?何か考え事してたみたいだけど…。」
「ルイズ…いや、何でもない。さて、才人の方は…。」
彼女の質問をはぐらかして才人の方を見ると、彼の周りにワルキューレの残骸が点在していた
クラースが回想している間に、既に6体のワルキューレを倒していたのだ
そして、七体目のワルキューレとの模擬戦も終わりを告げようとしていた
「魔神飛燕脚!!!」
魔神剣と飛燕連脚を組み合わせた奥義…それが、最後のワルキューレに炸裂する
前回同様、ワルキューレは奥義を受けて粉々に砕けちった
「ま、負けた……こうまであっさり倒されると、僕は自信をなくしそうだよ。」
今自分が作れる7体全てを倒された事に、ギーシュは軽くショックを受ける
「へへ、楽勝だ…ぜ?」
得意げになる才人だが、突然彼の身体を疲労感が襲ってきた
自身を立たせる事が出来ず、地面に尻餅をつく
「サイト、大丈夫?」
ルイズが心配そうに声を掛けるが、前のように気絶はしなかった
立ち上がろうにも身体が上手く動かせず、地面に座りこんだままになる
「な、何か急に疲労感が…何で?」
「無理をしたな…まだ十分な鍛錬もしていないのに、奥義なんか使うからだ。」
クラースはアップルグミを取り出して、才人に渡した
グミを頬張る才人…疲労感もある程度なくなり、立ち上がる
「あ、ありがとうございます……で、それってどういう事ですか?」
「そもそも奥義とは、元となる特技を極限まで鍛えた上で初めて使えるものだ。」
「だから、まだ鍛錬の足りない貴方にはそれを使いこなす事が出来ない…。」
クラースの言葉を理解したタバサが補足する…その補足が正しい事を、クラースは頷いて答える
「極限までって…どれくらい鍛えれば良いんですか?」
「そりゃあ、使用率100%にすれば良いんじゃないかい?」
身も蓋もない言い方をすれば、ギーシュの言うとおりである
「まあ、君に奥義はまだ早い…鍛錬を続けるんだな。」
「はーい…まあ、こうやって剣を使うのも何か楽しいし。」
剣を振るう事に楽しさを覚えた才人は、剣を振り回す
素人に比べれば上なのは確かだが、クレスに比べるとまだまだ動きが雑である
今はまだ見習い剣士…しかし、今後も鍛えればそれなりに上達するだろう
「ああ、此処でしたか。」
そんな時、本塔の方からコルベールが此方に向かってやってきた
「コルベール先生、どうして此処に?」
「いえ、ミスタ・レスターが此処にいると聞きましてね…それにしてもこれは?」
眼鏡を掛けなおしながら、コルベールは散乱するワルキューレの残骸を見る
「ああ、才人の鍛錬にとね…彼のワルキューレを使わせてもらった。」
「結果は、僕のワルキューレが前回同様全部やられましたけどね。」
「ほほう、それはすごい。流石はガンダー…モガッ!?」
危うくガンダールヴの事を話しそうになったコルベールの口を、クラースが止める
「えっ、何?ガンダー…。」
「気にしなくて良い、こっちの話だ。そんな事より…コルベール教授、私に何か用かな?」
「モガモガ…は、はい、今日もミスタ・レスターの話を伺いたいと思いまして…。」
一言一言を強調した言い方に、自分の失態に気付いたコルベールは本題に移った
彼は時折、クラースから色々と故郷の事について話を聞きにやってくる
情報交換の為、故郷の事をはぐらかしながら彼との交流を行っていった
「そうか…皆、今日は此処までだ。私はコルベール教授の所に行ってくる。」
「解ったわ…でも、この前みたいに夜遅くまでにはならないでよ。」
了解…と答えると、クラースはコルベールと一緒に彼の部屋へと向かっていく
そしてこの場がお開きになったので、4人もそれぞれの場所に帰っていった

「うーむ……遅くならないようにとは言ったんだがな。」

その日の夜、そろそろ学院の者達が眠りに着く時間……
女子寮へ向かって歩きながら、クラースは呟く
コルベール教授と話しているうちに、すっかり夜が更けてしまった
「色々興味深い話は聞けたが…これでは、またルイズに説教されてしまうな。」
頭の中で自分が説教される姿を浮かべ、苦笑するクラース
そろそろ女子寮が見える…そんな時、ドサッという音が聞こえた
「ん、何だ?」
それは女子寮から聞こえ、気になったクラースは足を速める
その間にも、小さな悲鳴と共に再び落下音が聞こえてきた
「まただ…一体何が…。」
ようやく女子寮が見え…クラースはジッと暗闇の先を見てみた
すると、女子寮の前で男が二人、黒焦げになって倒れていた
服装からして、学院の男子生徒のようである
「これは…まさか、何者かが学院に…。」
一瞬、そう思ったクラースだったが……
「キュルケ、そいつは誰なんだ!恋人はいないっていってたじゃないか!!」
突然、上空から声が聞こえ…クラースは上を見上げた
女子寮の三階付近…ある一角で三人の男子生徒が浮かんでいる
「なんだ、あれは…一体何をしているんだ?」
まさか、覗き…だとしたら、何て大胆な
その間にも押し合い圧し合いしながら何か叫ぶ彼等だが、突如炎が彼らを襲う
炎に飲まれ、魔法を維持できなくなった彼等は地面に落下した
「おおっ、落ちた…大丈夫なのか、彼等は?」
放っておく事も出来ず、取りあえず彼等の元へと駆け寄ってみる
焼かれて三階から落ちたにも関わらず、一応彼等は生きていた
ピクピクと動く5つの物体…その一つにクラースは近づく
「おい…大丈夫か?」
「畜生、キュルケの奴…やっぱり俺の事は遊びだったんだな。」
クラースの言葉が聞こえてないのか、生徒は独り言を呟く
キュルケの名が彼の口から出たので、他の四人を見てみる
「よく見れば…全員キュルケの取り巻きの男子生徒達だな。」
恋多き女性を自称するキュルケが、何人もの男子生徒をキープしているのを知っている
此処にいるのは、よく授業や食事の時などに彼女とよくいる美青年達だ
「んん…あっ、お前はゼロのルイズの使い魔!?」
その時、倒れていた生徒がようやくクラースの存在を認知した
「ようやく、私に気付いたようだな…大丈夫か?」
「くそぉ…あんたももう一人の使い魔みたいにキュルケとよろしくやるつもりなんだろ?」
「もう一人の使い魔…才人の事か?彼がどうしたんだ?」
「とぼけるなよ、さっきもう一人の使い魔がキュルケと一緒にいるのを見たんだぞ。」
彼の話から察するに、今キュルケの部屋には彼女と才人がいるらしい
こんな夜遅くに、歳若い少年少女が一緒とは…
「教育上良くないな…ルイズとの事もあるし、見過ごすわけにはいかんな。」
キュルケとルイズの家の関係を思い出し、女子寮の中へ入ろうとする
その前に、此処に倒れた五人を放っておくのは忍びない
「そうだ…君、彼等にこれを食べさせてやってくれ。」
クラースは道具袋からアップルグミを取り出し、五つ分を彼に渡す
「それを食べれば元気になる…君の分もあるからな。」
じゃあな、と後の事をその生徒に任して女子寮の中へと入っていった
この少年がギムリである事をクラースが知るのは、まだ先の話である

「さて…此処に才人がいると言われて来てみれば…。」
女子寮に入り、三階に上がってキュルケの部屋の前にクラースはやってきた
中に入ると、際どい下着をつけたキュルケ、その彼女に押し倒されている才人がいる
「あら、ミスタ・レスターじゃありませんか。」
「く、クラースさん…助けて……。」
キュルケの胸に埋もれながら、クラースに助けを求める才人
そんな彼の姿に、クラースはため息を吐いた
「まったく…見損なったぞ、才人。まさか君がそんなに節操がない男だったとは…。」
「ち、違いますよ。俺はただ、帰りが遅いクラースさんを迎えに行こうと思って…そしたら…。」
キュルケのサラマンダーに捕まり、此処に連れ込まれてしまった…
そう言おうとした時、キュルケが更に胸を押し付けた
「見ての通り、私達は取り込み中ですの…何でしたら、ミスターも一緒に如何ですか?」
「悪いが遠慮させてもらうよ。それに才人にとっても教育上良くないから連れ帰らせて貰う。」
即答すると、クラースは二人に歩み寄ってあまり乱暴にならないように引き剥がした
「さあ、帰るぞ才人…こんな所ルイズに見つかったらどやされるぞ。」
「は、はい…でも、どやされる前に手と足が出そうですけど。」
彼女が怒ると言葉より先に手と足が出る事は、才人自身が身をもって経験している
違いないな、そう言って二人はキュルケの部屋から立ち去ろうとする
「ちょっと、お待ちになって…ミスタ・レスターは読書がお好きなのですよね。」
帰ろうとする二人を呼び止めると、キュルケは近くにあった箱に手を伸ばした
がさごそと中身を探し、その中からあるものを取り出す
「でしたら、これを差し上げますわ…私には不要な物ですので。」
「ん、それは?」
「これは『召喚されし書物』と言って、我が家の家宝ですの。」
そう言って、手に持っている本をクラースに差し出す
気になったクラースはそれを受け取ると、どんなものかと見てみる
「召喚されし書物って…どういう本なんだよ。」
「何でも、魔法の実験中に偶然召喚された物だそうよ…それを、私のおじい様が買い取ったの。」
「……これは鍵が掛かっているな。」
よく見ると、これはケースになっていて問題の本はこの中に入っているようだ
だが、クラースの言うとおり鍵が掛かっているのでケースは開かない
「鍵なら此処にありますわよ。」
何時の間に忍ばせていたのか、胸の谷間からケースの鍵を取り出す
わざわざ本体と鍵を分けたという事は、単にプレゼントするというわけではないらしい
「成る程、本体はくれると言っても鍵までとは言ってないな…で、交換条件は?」
「察しが良いですわね。今宵私と付き合っていただければこの鍵を差し上げますわ。」
キュルケとしては、クラースを自分の男にしたいとの魂胆である
周囲の男子生徒や教師とは違うその知的な所と魔法、そして大人の雰囲気に惹かれたからだ
えっ、俺は…等と呟く才人を他所に、クラースは本をキュルケに突き出す
「そういうのならお断りだ…これは返す。」
キュルケに本を押し付けると、才人を連れて出て行こうとする
断られると思わなかったのか、彼女は目を丸くして驚く
「えっ、ちょっと…ミスターはこの本が欲しくないの?」
「気にはなるが、そうまでして欲しくはないな…それに、後が怖い。」
女の怒りと恨みは恐ろしい事を、クラースは32年の人生から熟知している
それでも諦めきれないキュルケは、自身の胸をクラースに押し付ける
「そう仰らずに…私、ミスターに十分すぎるほどの興味を持っておりますの。」
「だから、私は……ん?」
しつこいキュルケを一喝しようと、クラースは振り返る
だが、その時初めて彼女が指輪をしている事に気づいた
「キュルケ、その指輪は?」
「これですか?これはこの本と同じく我が家の家宝の一つ、炎のガーネットですわ。」
そう言って、彼女は指に嵌めたガーネットの指輪を二人に見せる
蝋燭の炎に照らされ、宝石は淡い輝きを放っていた

「炎のガーネット?それって唯の指輪じゃないの?」
「ええ、火の魔法の効果を高める作用があるの。普段はおめかし位にしか使ってないけど。」
自分の魔法には自信があるから…ドーピングのような真似はしたくないらしい
ふーんと何でもないように見つめる才人に対し、クラースはジッと指輪を見つめている
「それは…そのガーネットの指輪は……すまん、ちょっと見せてくれ。」
急にクラースは態度を一変させ、指輪をよく見ようと近づいた
だが、そんなクラースにキュルケは抱きつき、顔を近づける
「ただでは見せられませんわ…ねぇ、ミスター?」
「いや、だからその指輪を……。」
クラースの喰い付きに、ここぞとばかりに色気を振りまくキュルケ
先程のように振りほどこうとせず、クラースは戸惑いを見せている
「クラースさん、どうしたんですか?その指輪が一体……。」
才人が尋ねようとした時、後ろのドアが突然開いた
誰だろう…と、才人が振り返り、それを見て驚いた
「る、ルイズ!?」
入ってきたのは、ルイズだった…しかし、それだけで才人が驚いたわけではない
彼女は今、誰から見ても解る様に、どす黒いオーラを身にまとっている
クラースもキュルケも、ルイズが入ってきた事に気づいて振り返る
「ルイズ、丁度良かった。実は彼女が……。」
クラースが何か言おうとしたが、彼女の気を察知して何も言えなくなった
その間に、ルイズがずかずかと二人に近づいていく
「クラース先生…この馬鹿犬なら兎も角、まさか貴方がツェルプストーの色香に惑わされるなんて。」
「ま、待てルイズ、私は唯彼女の指輪が……。」
「物につられたってわけ!!!」
更に怒り出すルイズ…普段人の話を聞かない彼女は、怒ると更に話を聞かなくなる
取りあえずキュルケから離れると、才人に話を振った
「才人、キュルケの指輪に見覚えがないか?」
「ええっ、ちょっと…何も俺に話振らなくても。」
「そうじゃない、よく見てみろ。」
そう言われて、才人はジッとキュルケの指にはめられた指輪を見る
蝋燭の火によって淡い輝きを見せるガーネットに、才人も気付いた事があった
「あっ、そう言われると何処かで見た事が………ひょっとして!?」
「ああ、間違いないと思う…まさか、こんな近くにあったとは。」
二人の会話にキュルケは疑問を浮かべるが、相変わらずルイズは怒ったままだ
「ちょっと、サイトも先生も…この期に及んで言い逃れする気?」
「ルイズ、昼間話しただろう。私の召喚術は契約の指輪を使って行うものだと…。」
「それと今の状況が何の関係があるのよ!!」
怒っているルイズには、クラースの言葉を理解する事が出来なかった
仕方なしに、才人がルイズに解りやすく伝える
「だから、今キュルケがしてんのがクラースさんの契約の指輪かもしれないって事だって。」
「それがどうしたって……えっ、ええ~~~~~!!!!!!」
才人の言葉に、ようやくルイズも理解できたらしく、大きな声を上げる
三人の視線がガーネットの指輪に集い、キュルケ自身もそれを見つめる
「これが、ミスタ・レスターの?でも、これって先祖代々から続く品だと聞いていますけど?」
「まあ、似ているだけかもしれんが…ちょっと貸してみてくれないか?」
手を差し出し、クラースはガーネットの指輪を渡すよう頼む
だが、キュルケはそんなクラースの手から指輪をはめた手を遠ざける
「構いませんけど…タダで、というのも味気ないですわね。」
「ツェルプストー、あんた…。」
ルイズの反応を見て笑みを浮かべながら、彼女は少し考える
しばらくして、「そうだわ」という声と共に、ある考えが彼女の脳裏に閃いた
「私のお願い事を聞いて下されば、この指輪を貸してあげますわ…何、簡単な事ですから。」
「お願い事?」
「そう、明日は虚無の曜日、つまりお休みだから……フフフ。」
三人に向けて、キュルケは微笑む…蝋燭の火に照らされたその微笑は、とても艶美なものだった


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