あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロと電流-07


「電人ザボーガー! GO!」

 マシンザボーガーの両脇から内蔵されていた腕が伸び、同時にタイヤの動きと内部重心の移動によりフロントが持ち上がる。
 そのまま立ち上がったザボーガーの胸部と腹部に、両輪が折りたたまれ、縮小されながら格納されていく。
 開く両足はしっかりと大地を踏みしめ、ザボーガーの両腕が気合いを入れるように眼前でクロスする。
 初めて見るゴーレムの動きに、フーケは警戒をあらわにする。彼女が確認していた段階では、ザボーガーはただ立ち上がるだけの存在に過ぎなかった。このような動きは記憶にないのだ。

「ザボーガー! チェーンパンチ!」

 ザボーガーの右拳がアクションと共に手首から離れ、弾丸となってフーケを襲う。
 咄嗟に避けたフーケの背後で、拳の命中した巨木が音を立ててへし折れ、フーケに向かって倒れてくる。
 チェーンパンチの威力に驚いたフーケは、思わずタバサとキュルケとは逆の方向へと逃げてしまう。

「今よ! チェーンパンチ!」

 その隙に、残った左腕のチェーンパンチがタバサとキュルケへと向けられる。絶妙に狙いを外した拳が開き、二人を縛り付けていたロープを掴む。
 ザボーガーの腕と拳を繋ぐチェーンが内蔵のモーターにより巻き戻され、二人の身体が引き寄せられた。
 即座にルイズは二人を確保し、自分の背後へと横たえる。

「器用な真似をするじゃないかいっ!」

 奪われた人質を深追いせず、逆に離れるように弧を描いた軌道の末、フーケは自らのゴーレムの掌に飛び乗った。そしてそのまま肩へと上げられる。

「だったら正面からっ、力比べといこうかい!」

 見下ろすフーケの視線をはね返すように、ルイズは毅然と顔を上げる。
 負けない。
 キュルケとタバサを護るために。大事な友達を護るために。
 ザボーガーの力を示すために。
 そして、“人でなし”の言葉を否定するために。

「ザボーガー! ファイトっ!」

 ゴーレムの拳が、高い位置から振り下ろされる。
 それを正面から受け止めたザボーガーの足下が沈み込む。衝撃がザボーガーの身体を伝わり、地面へと届いているのだ。
 受け止めたこと自体には満足しているものの、ルイズはこの状況に危機を感じていた。
 ゴーレムとの体重差は、予想以上にザボーガーの不利となっている。
 右拳を全身で支えるザボーガー。このまま左拳の一撃が横殴りに襲ってくれば、避けるためには受けた右拳を捨てて一旦退くしかない。
 かといって、下手に受けている拳を離せばそのままゴーレムの体重をかけられる。それだけでザボーガーが破壊されるとは思えないが、今以上に地面に足がめり込めば、抜くまでの間は無防備に攻撃に晒されることとなる。
 さらに、ザボーガーとルイズの後ろにはタバサとキュルケがいる。今の状態ではルイズはフーケから目を離すことはできない。つまり縄を解くことはできない。
 二人を護るためには、ルイズとザボーガーはこの位置から動けないのだ。
 一方、フーケもこの攻防に焦りを覚えていた。
 相手は、ゴーレムの一撃を正面から受けているのだ、しかもこのサイズ比で。いったいどれほどのパワーを秘めているというのか。
 左腕こそ自由に動かせそうだが、下手に殴りに行ってバランスを崩せば、先ほどのチェーンパンチを真正面から受けることになる。
 一見フーケのゴーレムが押し込んでいるように見えるが、実際は膠着状態なのである。
パワーとスピードは明らかにザボーガーのほうが上。しかし、二体の圧倒的な質量差は、能力差を埋めるには充分すぎるほどなのだ。
 フーケは、ゴーレムの肩の上からルイズを見る。
 対するルイズは、デルフリンガーを構えた。ガンダールヴの力で剣を使いこなすことはできるが、それでもルイズ自身は素人である。はたして百戦錬磨のフーケに何処まで通用するか。

「……嬢ちゃん、気付いてるか?」

 デルフリンガーが低く抑えた声で呟いた。
 今のデルフリンガーは、ルイズのガンダールヴのルーンによってザボーガーとも繋がっている。ルイズやザボーガーの見えるものは、デルフリンガーにも見えているのだ。

「ええ。だけど、多分、タイミングは貴方のほうが確か。その経験、信じるわよ」
「失望はさせねえよ」

 デルフリンガーを構えたまま、ルイズはじりじりと足を滑らせる。
 一方のフーケも、ザボーガーへのプレッシャーをゴーレムに命じながら、ルイズから目を離さない。

「嬢ちゃん!」
「ザボーガー、下がって!」

 デルフリンガーの合図と共に叫ぶルイズ。ゴーレムの拳を突き放し、飛び下がるザボーガー。辛うじて体勢を崩さないゴーレムの、左の拳が動いた。
 ザボーガーが避ければタバサとキュルケに直撃する位置へと拳が唸る。
 拳が当たる寸前、二人の身体を掴む爪。そして、ゴーレムに吐きかけられる炎。ゴーレムは右腕でフーケへの直撃を防ぎ、空振った左拳を抱えるように一歩下がる。
 二人を引き上げたのは追いついてきたシルフィード、フーケを牽制したのはその背に乗ったフレイムによる攻撃である。

 きゅいきゅい
 きゅるきゅる

ヘリキャットの視界から使い魔の到来を知ったルイズとデルフリンガーの機転だった。
 ザボーガーだけならまだしも、予想外のフレイムの攻撃から主を庇ったゴーレムが後方へよろめいた。

「ブーメランカッター!」

 ザボーガーの頭部横、耳を模したような飾りを外し、手早く投げつける。
 飾りの周囲に発生した力場が高周波の刃となり、触れるもの全てを切り裂くカッターとなるのだ。そして攻撃後は再びザボーガーの手元に戻ってくる仕組みである。
 それが、ザボーガーの武装、ブーメランカッター。
 舌打ちと共にフーケは土の障壁を作り上げるが、カッターは易々と壁を貫き、ゴーレムの両肩を切断する。
 だが、ゴーレムは本来の意味での生き物ではない。切れた両肩とて魔力ある限りは再生するのだ。
 その隙を狙い、ルイズは叫ぶ。

「速射破壊銃!」

 口元のシャッターが開き、指より一回り太いくらいの銃口がせり出した。
 連続する射撃音。一撃事に削られていくゴーレム。

「ちぃっ!」

 フーケのゴーレム再構成は間に合わない、そのうえ、逃げようと土ゴーレムの遮蔽から出れば自分が銃のえじきになってしまう。
躊躇の数瞬でまさに土塊となり、爆発散開する土ゴーレム。同時に、フーケの魔力も限界を迎えていた。ゴーレム破壊のダメージが、精神ダメージとなって術者であるフーケにフィードバックされたのだ。

「なんて力だい、あのゴーレム」

 逃げるが勝ち、と言わんばかりに駆け出そうとしたフーケの進路を塞ぐように空から着地する二人。

「よくもさっきはやってくれたわね」
「逃がさない」

  キュルケとタバサだった。その後ろには、フレイムも火の舌を覗かせて控えている。さらには上空にシルフィードが。
 立ち止まり周囲を探るフーケは、ザボーガーをバイク形態に戻して跨っているルイズに気付いた。
 この場を逃げたとしても、追う準備は万端ということだ。
フーケは背中に背負ったままの破壊の杖を構えなおす。
 キュルケが即座に言った。

「この距離でその杖を使う気? あの威力じゃあ、貴方も巻き込まれるわよ」
「少なくとも、あんたたちの一人はまともに爆発して身体がバラバラになる。あたしは足が残れば走ることはできる。三人いっぺんに相手にするよりはマシさ。賭けてみる価値はあるだろ?」
「ない」

 唐突に一言。そして、タバサが一歩進む。

「タバサ!」
「何考えてんだい、このちびっ子は! 人の話はよくお聞き!」

 タバサはキュルケの制止を気にせず、フーケの怒声を無視してさらに一歩進む。
 きゅい、とシルフィードが啼いた。

「貴女は殺さない」
「面白いことを言うねえ。まさか、新手の命乞いかい?」

 キュルケはフーケの動きを見逃さない。隙が見えれば、その瞬間に最も早く発動できる魔法を放つのだ。しかし、破壊の杖はタバサにしっかりと向けられている。動くことはできない。

「キュルケとルイズを、殺さない」
「タバサ……?」

 ルイズとキュルケの呟きが重なった。

「殺すのは私だけ」

殺すのは“人でなし”だけ。
 だから、殺されるなら自分。
 フーケが殺すのは自分だけ。
 ルイズとキュルケは、フーケには殺せない。
 二人は“人”だ。自分とは違う。

 「フーケ!」

 ルイズがその場から動かず、声を上げていた。

「貴女が本当に私たちを殺す気なら、どうして最初に爆発させなかったの!?」

 最初の一撃では、爆風により三人が飛ばされただけ。誰一人とて身体のどの部分も爆発していない。
 そして、キュルケとタバサを人質に取る意味もなかった。仮に人質とするにしても、一人いれば充分なのだ。
 この場合、身体が小さく簡単に運べそうなタバサさえいれば、極端な話、キュルケは必要ない。その時点で殺されていてもおかしくないのだ。

「身代金さ」

 フーケは答える。
 ルイズの問いかけに応えること自体が敗北だと悟っていた。
 応える必要などない。ただ、破壊の杖を振るえばいい。破壊してしまえばいい。
 しかしフーケは、ロングビルとして見てしまったのだ。
 魔法を使えない貴族がいた。己の境遇に潰されかけ、それでも足掻こうとする少女がいた。醜い足掻きと蔑まれても、それでも足掻いている少女がいた。
 異国の貴族がいた。激励ではなく、叱咤でもなく、甘言でもなく、同情でもなく、それでも、魔法を使えぬ貴族を“微熱”のように温かく見守る少女がいた。
 それに寄り添うように佇んでいた少女は、二人には救われる価値がある……そして自分にはない……と断言する。
 彼女らは紛れもなく貴族だった。フーケの、いや、マチルダ・オブ・サウスゴータの知っている“貴族”だった。
ならば、手を下すことができようか。
 マチルダの知る貴族に、フーケが手を下すことなどできようか。
 ああ、そうさ。とフーケは心の中で答えていた。
 殺す気など無かった。身代金を取るだけでいい。
 顔を見られても構わなかった。記憶は、義妹の力で消せるのだ。
 三人は“人”である。それならば、自分に殺せる相手ではない。
 “人でなし”となった自分が、それでも唯一縋るものがある。自分を謀らないために誓っていることがある。義妹に“人”として接するために護っているものがある。
 だから、自分には三人は殺せない。

「ああ、そうかい」

 フーケは自分に向けられている視線の中身に気付いた。

「あんたも“人でなし”なんだね」


  あの子の前で自分が“人”であるように、タバサはキュルケたちの前では“人”であろうとしているのだろう。

「あんたとサシなら、殺し合っていたんだろうねぇ」

 微かに頷くタバサに、フーケは破壊の杖を下ろした。
そして、ルイズに向き直る。

「あたしの負けだ。好きにしな」




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 光一つ無い独房に、フーケは転がっていた。
 両手足はきつく縛られ、身体を起こすのが精一杯だ。
 しばらくの間、ここにいろ。それが自分をここに運んだ看守の言葉だった。
 他に何ができるわけでもなく、フーケは別れ際のルイズの言葉を思い出していた。

「あんたたちもいずれ、人でなしの貴族になるのさ。その時は、殺しに行ってあげるよ」
「私は人になるわ。必ず、貴方が殺せない貴族になってみせるわ」

 だから、その時が来たら会いに来なさい。そして貴女が失望したなら、私を殺しなさい。私は喜んでこの首を差し出すわ。

 喉の奥で小さく、フーケは笑う。
 なんて事を言うのだろう、あの能天気な世間知らずは。
 そんな貴族がいるのか。たかが盗賊に過ぎない自分に誓うような、戯言で人生を左右されるような、そんな愚かな貴族が。
 なんて愚かな。
 こんなことでは自分は……
 自分は、また夢を見てしまうではないか。
 ああ、夢を見ようじゃないか。
 もう一度、あの子と光の中へ出ていく夢を。
 そのためなら、たとえ地獄に落ちても這い上がって見せよう。
貴族に刃向かった自分が牢獄でどうなるのか。これからまともに扱われるとは毛ほども思っていない。
 自分に面目を潰された貴族たちは、これを機に容赦なく槌を振り下ろすだろう。
 手間などかからない。刑務官にただ一言、「フーケをよろしく」と言葉を届ければいいのだから。
 だから、折を見て抜け出すだけ。その手筈は、半ば整えられている。

「物思いに耽っているところ、申し訳ないが」

 男の声。

「ここからすぐに出たいと思わないか?」

 フーケは答えない。

「音に聞こえた土くれのフーケだ。黙って牢に入る気などないだろうが、簡単に出て行けるとも思ってはいまい?」
「それは認めるよ」
「条件次第ではすぐに出してやる。悪い話じゃない。君の嫌いな貴族の世界を破壊し尽くす話だ」
「そうかい」
「その足がかりとして、手始めにアルビオンを征服しようと思っているんだが」

 頭の逝かれた類か、とフーケは警戒する。
 それでも、利用しない手はないだろう。

「ああ、安心したまえ」

 男の声が笑いを含む。

「君が望むなら、サウスゴータは荒らさないようにしようじゃないか」

 フーケは答えず、闇の中に目を凝らした。
 正体は知られているということか。
 しかし、それとはまた異なる、ひどく危険な気配をフーケは感じていた。

「あたしには、もう関係ないことだね」
「確かに」

 男の苦笑が聞こえる。

「ところで、ウエストウッド村のことだがね」

 自分に選択肢がないことを、フーケは知った。



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