あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロと電流-06


 マシンザボーガーのスピードに驚いた三人目はタバサだった。
 学院に着くとタバサは、やや固まった、それでもいつも通りの無表情で、ザボーガーから降りる。
 足下が少しふらついているのは、調子に乗ったルイズが左右に揺れながら走ったためだ。

「凄い」
「凄いでしょう」

 キュルケに続いて二人目。学園では希少なトライアングルメイジである、タバサの度肝を抜いたのだ。ルイズの機嫌が悪いわけがない。
 タバサは少し俯くようにして体制を整えると、姿勢を正してまっすぐルイズに向き直る。

「できれば、被らせて欲しい」

 ルイズは、タバサが自分を指さしているのかと思って驚くが、よく見るとその示す先は自分の頭、すなわちヘルメット。
 タバサは、ヘルメットを被りたいと言っているのだ。

「これ?」

 ルイズは自分の頭を指さす。
 被らせること自体に否はない。ただ、自分にも少し大きいような気がするヘルメットである。タバサだとぶかぶかではないだろうか。

「別にいいけど、前が見えないかも」
「構わない」

 ルイズの差し出したヘルメットを受け取るタバサ。
 一瞬タバサは、「本当にいいのか?」とでも言いたげに首を傾げた。
 それでもルイズは素直にヘルメットを差し出しているので、タバサも素直に受け取る。
 そして、被る。
 そして、インカムを下げた。

「ザボーガー、来て」

 ザボーガーは動かない。

「ザボーガー、来なさい」

 やっぱり、動かない。
 タバサはルイズを見上げた。
 ルイズはタバサからヘルメットを脱がせると、自分で被り治し、インカムをキュピンと下げる。

「来なさい、ザボーガー」

 自走して、ルイズの横に止まるザボーガー。

「面白そうなことしてるわね、私もいいかしら?」

 シルフィードからフライで飛び降りてきたキュルケも参加する。

「はぁい、ザボーガー。こっちに来て」

 来ない。
 何度か試した後、ルイズの部屋で話し合って出した結論は、ルイズがヘルメットを被っているときだけ、命令に従う、と言うものだった。
 ルイズの命令でも、ヘルメットがなければザボーガーは動かない。

「もしかしてルイズの使い魔って、ザボーガーじゃなくて、このヘルメットとかいう兜のほうじゃないの?」
「ヘルメットがないとザボーガーは動かないんだから、似たようなものじゃない」
「それともあれかしら、ほら、なんだっけ」
「“怒りの電流”?」
「そう、それ。その正体がわかれば何か変わるのかしら」

 正直、ルイズもそれを期待している。
 確かにザボーガーは面白い使い魔だが、それだけなのだ。
 地上を走る速さ、ヘリキャット、マウスカー、シーシャーク。それだけだ。特殊ではあるが、非常に際だった、と言うレベルでもない。
 そもそも、現状では人型に変形する意味がない。実際には意味があるのだが、人型を動かすには“怒りの電流”が必要なのだ。
 因みに、試しにとデルフリンガーに話を振ってみたところ、あっさりと「電流? なんだそりゃ」と返される始末。
 これらのことはタバサにとって、今のままではザボーガーが殆ど使えないことを意味している。
 個人での戦闘能力を持ったメイジがザボーガーを駆るのは恐ろしい。高速移動に策敵、それらを魔法の助け無しでこなすのだ。しかし、ザボーガーを使いこなすことができるのは主であるルイズだけ。それも技量の問題ではないので訓練も意味がない。
 だからタバサはその場を静かに去ろうとした。
 しかし、

「タバサがザボーガーに乗れたら凄いわね」

 キュルケが余計なことを言うのだ。

「シルフィードにザボーガー。空の機動力と地の機動力、両方を兼ね備えたトライアングルメイジよ」

 自分はフレイムを手放すつもりはない。そしてフレイムだと機動力は望めない。
 自分は相手を燃やし尽くす炎であり、敏捷さは必要でも機動力はさほどいらない、とキュルケは言う。
 ルイズは逆らった。

「だったら、タバサがザボーガーじゃなくて、私がシルフィードに乗っても良いんじゃない?」
「ゼロとトライアングルは比べられないと思うけど」
「……爆発は使えるわよ」
「だからゼロ」

 ルイズはキュルケを睨みつけた。

「なによ。どうせ爆発は失敗魔法だけど」
「あ」

 キュルケはいきなり頷いた。

「そうか、まだ知らなかったのね」
「何をよ」
「貴女、ゼロのルイズじゃない」

 今更何を言うのだ、とルイズの目はさらにキュルケを睨みつける。

「やっぱり知らなかったのね」
「だから何をよ」
「成功確率ゼロじゃないのよ?」
「は?」
「ゼロ距離魔法、ゼロ距離攻撃のゼロよ」
「何それ」
「ギーシュが名付け親よ」

「確かに失敗は失敗だが、あの破壊力は戦闘という一面に置いては捨てがたいと思う」と、ギーシュはある日、雑談の中でそう言ったのだ。
 雑談相手のマリコルヌたちは笑っていたが、考え込んだのがキュルケ、タバサ、モンモランシーである。
 キュルケは実用本位のゲルマニア貴族として、タバサはその年齢とは不釣り合いなほどの戦闘を経験した者として。
 そしてモンモランシーの場合は、「他のことならいざ知らず、ギーシュが戦闘に関して言ったのだから」という理由で。
 それ以来、少なくとも四人にとっては「ゼロのルイズ」は「魔法成功確率ゼロのルイズ」ではなく、「ゼロ距離攻撃のルイズ」なのである。
 ルイズ本人にとっては文字通り「いつの間に」なのだが。

「だから、近づかないと何もできない貴女と、魔法で攻撃できるタバサ。どちらが有利かは言うまでもないでしょう?」
「できるわよ」

 ルイズは投げナイフを取りだした。

「少なくとも、もうすぐできるようになるわよ」

 確かにルイズの爆発は強力だが、命中率は悪い。遠くの標的に狙って当てるなどまず無理だ。
 だから、ナイフに呪文をかける。そして、投げる。うまくいけば爆発魔法で遠距離攻撃となる。

「じゃあやってみる?」

 売り言葉に買い言葉でルイズは承諾し、夕食後に三人は再び集まることになる。
 場所は本塔裏。三人は知らないがそこは、ロングビルが“土くれのフーケ”として宝物庫を観察している場所であった。

「で、どうしようって言うの?」


 フライで飛び上がったキュルケとタバサは、本塔の天辺に木製の的をぶら下げていた。
 これを、ルイズに狙わせるのだと。
 当然、投げナイフの届く範囲ではない。
 だから、ルイズはシルフィードに乗ってもいい、とキュルケは言い、タバサも頷いた。
 しかし、ルイズは断った。シルフィードは自分の使い魔ではない、と。
 自分にはザボーガーがある、と。

「飛べる?」

 ルイズの言に首を傾げるタバサに、

「見てなさい」

 ナイフを差し込んだベルトを巻き、ザボーガーに跨ってヘルメットをしっかりと被る。
 そしてルイズは高さを確認すると、ハンドルを握る。

「行くわよ! ザボーガー!」

 充分な距離を離れ、マシンザボーガーが飛ぶ。
 ルイズはスペックを受け取っている。出てくる数値はよくわからないが、ルイズの中に流れ込むイメージが可能だと告げていた。
 充分な加速と助走距離、そして適切な角度。それらが重なった大ジャンプ。その頂点からナイフを放てば……

「行っけぇっ!!」

 ナイフに呪文を流し込むイメージ。そして、素早く投げる。
 一瞬、ナイフと自分、そしてザボーガーが繋がったようなイメージがルイズの中に生まれた。
 当たる、と確信する。
 落下するザボーガーを操りながら、しかしルイズは見た。的に投げナイフの柄の部分が当たるのを。
 そういえば、投げナイフの練習なんてやってない。それに、どうせ爆発させるのだったら、ナイフの必要はあったんだろうか? 
 無いような気がする。
 結果として、ナイフは的に当たったが刺さらず、爆発もしてない。
 してない?
 うつむきかけたルイズは慌てて空を見る。
 少し遅れて、爆発。
 このタイムラグは一体。これも、ヘルメットの力だろうか。

「あ」

 キュルケが爆発した場所に驚いていた。
 地面に無事着地して、爆発した場所を振り仰ぎ再確認したルイズも気付く。
 宝物庫の壁に爆発をぶつけてしまったのだ。しかも、あろう事が壁にビビが入っている。

「あそこって宝物庫よね」
「固定化が多重にかけられているはず」

 タバサの言葉に、キュルケはこの出来事の無茶さを確認する。。

「あの子の爆発ってどんだけ凄いのよ……固定化の魔法がかかった壁に一撃でヒビなんて……」

 ザボーガーを停めたルイズは、惚けたようにヒビの入った箇所を見上げていた。

「……ねえ、キュルケ、タバサ」
「……なに?」
「私たちは、今夜は部屋でおとなしくしてた」
「え?」
「宝物庫のヒビなんて知らない。そうよね」
「ちょっと、ルイズ?」
「知らない」
「タバサまで!?」

 しかし、そうは言ってもキュルケにも良いアイデアはない。
結局三人は、こっそりとルイズの部屋まで戻っていく。
部屋で待っていたデルフリンガーにも良いアイデアはない。
 こうなったら、もう黙っておくか。幸い、先ほどの光景に目撃者はいない。
 でも、とルイズが言う。

「ごめん。やっぱり正直に言うわ。嘘つきたくないし」

 それでペナルティがあるというのなら素直に受け入れるだけの話だ。
 キュルケとタバサはそこにいただけ、爆発の責任は自分だけが負うべきだと。

「はあ?」

 そのルイズの言葉に、キュルケは真っ向から異を唱える。

「何言ってんのよ。こんなくだらないことでヴァリエールに借りなんて作ったら、実家に二度と顔が出せないわよ。今回は私も同罪、いいわね」
「私も。同席は同罪」
「何言ってんのよ、二人とも。爆発させたのは私の魔法よ。貴方達の魔法じゃ、あんな凄い爆発は無理なんだから」
「ほら、そうやって」

 キュルケはニヤリと笑う。

「固定化のかかった宝物庫の壁にヒビを入れた、なんてある意味凄い成果を独り占めする気ね」
「ずるい」
「まったく、さすがはヴァリエール、油断も隙もないわね」
「やらずぶったくり」

 さすがにここまで言われるとルイズも黙ってはいられない。

「な、な、な、何言ってんのよっ! そんなわけないでしょう!」
「じゃあ同罪ね、三人とも……えーと、タバサは抜けても良いのよ?」
「仲間外れは嫌」
「ん、御免。可愛い事言うんだから」

 タバサを抱きしめて、キュルケは謝った。
 こうなると、キュルケを翻意させるのは難しいことをルイズはこれまでの経験から知っていた。せめてタバサがこちら側に賛成していれば何とかなるのだが、今回はキュルケ側だ。
 とりあえず三人は、再び犯行現場に戻ることにした。
 どちらにしろ、的や爆発の破片は片付けなければならない。
「嬢ちゃんの力、見せてくんな。何かわかるかもよ」と言ったデルフリンガーを、鞘に半分だけ入れた状態でザボーガーにくくりつけ、三人は本塔裏へと向かう。
 道すがら、

「なあ、この妙なゴーレムって何だ?」
「ルイズの使い魔よ。名前はザボーガー。仲良くしなさいよ、デルフ」
「おでれーた。使い魔がゴーレムかい。しかしなんか、他人って気がしねえなぁ」
「もしかして、ザボーガーのこと知ってるの?」
「いや、全然覚えてねぇ。多分、知らねえとは思うんだが……なんか引っかかるんだよなぁ」
「あら、大きな口を叩いた割には記憶力は大したこと無いのね」
「いや、でっかい嬢ちゃん。俺が幾つだと思ってんだ。百や二百、それどころか千どころの騒ぎじゃねえんだぞ。多少は物忘れもするわさ」
「老人ボケ?」
「……ちっこい嬢ちゃんは口数少ねえ癖に、きついこと言うね。まさに寸鉄だねぇ」
「嫌よ? ボケたインテリジェンスソードなんて」
「嬢ちゃんも酷いね、年寄りは労りなよ?」

 だったら、鞘の中にいれば? と答えかけたルイズの身体が揺れる。
 否。ルイズだけではない。全員の身体が、地面が揺れたのだ。
 その原因は探すまでもない。
 二つの月の光を遮るような巨大な人影が塔を殴りつけている。
 キュルケが呟く。「ゴーレム」と。
 宝物庫の壁を殴りつける巨大なゴーレム。
 タバサはすぐに思い当たる。
 貴族専門の盗賊。巨大なゴーレムを操る盗賊。

「フーケ」
「え? フーケ? ……って、土くれのフーケ!?」
「二人とも、知ってるの?」
「知ってるも何も、貴族専門の盗賊って有名じゃない。トリステインの貴族なら知らないわけないでしょう? 家は警戒してないの?」
「……ウチに入る気なら、必要なのは盗賊というより傭兵部隊だけどね」
「どんな家よ」
「知ってるでしょう? ツェルプストー家と長年争える家よ?」

 キュルケは少しだけ考えて、納得した。
 それくらいの家でないと困る。争っている我が家にも格があるのだ。

「それで、どうするんだい。嬢ちゃんがた」

 デルフリンガーが問うた。
 その言葉を待っていたかのように砕ける塔の壁。ルイズの爆発による劣化によって、フーケのゴーレムの拳撃に耐えられなくなっていたのだ。
ゴーレムの肩に乗った人影が塔の中へと入っていくのが見える。
 タバサが口笛を吹いた。

「シルフィードを呼んだ。キュルケは炎で援護して、ルイズはザボーガーで気を惹いて」
「わかった」
「ちょっと待って!」

 キュルケが悲鳴のように鋭い声で制止する。
 その示す先に、二人は見た。
 塔の中に差し込まれたゴーレムの腕が戻されたところ。
その腕の先に握られた人影。
 そして、いつの間にかゴーレムの肩の上に戻っている術者。

「すぐに、学院長に連絡を! ぐっ……」

 聞き覚えのある声はゴーレムに握られた身体から。力が強まったのか、声はすぐに途切れる。
 三人は顔を見合わせた。  
今の声は紛れもなく、学院長の秘書であるミス・ロングビルのものだ。
 ゴーレムは、ぐったりとしたロングビルの身体を三人に見せつけるように腕を伸ばし、歩き始める。
 三人は動けない。どう見ても、ロングビルは人質だ。
 ルイズはキュルケとタバサを見、頷く。頷き返す二人。
 そのまま、三人は動かない。
 やがて、ゴーレムの姿が見えなくなったとき、初めてルイズが口を開いた。

「ヘリキャット、マウスカーを追って」

 ザボーガーの頭部が開き、小型偵察ヘリコプター・ヘリキャットが離陸した。
 ヘリキャットはフーケに見咎められる危険がある。そこで密かにマウスカーを向かわせ、それを探す形でヘリキャットを送る。
 これなら、フーケにヘリキャットが視認される危険は少ない。そして、地中に潜ることすらできるマウスカーならば姿を隠すのは容易だ。

「追うわよ」
「先生には知らせないの?」
「そんなにことしてる間にフーケは離れていくのよ? 今はゴーレムのスピードだからギリギリ追えているけれど、馬でも使われたら追えなくなる。それに、ミス・ロングビルのこともあるわ。早く助けないと」
「シルフィードとザボーガーなら追える」
「シルフィードは駄目。空からは向こうも警戒しているはずよ。速度は出しにくくなるけれど、ザボーガーに三人乗るわよ」

 言いながらヘルメットを被り、三人で乗るためにくくりつけたデルフリンガーを外そうと、柄に手をかけるルイズ。
 次の瞬間、デルフリンガーを握った手に高熱を感じたルイズは慌てて手を引っ込める。

「なに? 今の」
「思い出した……。今のが使い手の証だ。嬢ちゃん、結構怒ってんな」
「どういう意味?」
「実際に熱かった訳じゃないってわかってるよな? 今のは、俺と嬢ちゃんの心の震えが繋がったんだよ……そうだ、思い出したぜ、ガンダールヴ」
「ガンタールヴ?」

 タバサが思わず身を乗り出し、キュルケは絶句していた。

「いいか、ガンダールヴってのは、手にした武器を何でもつかいこなしちまう、始祖を護るための力だ。そして、その心が震えれば震えるほど、その力は強くなる」
「震えるって言われても」
「普通は主の危機に対して震えるんだが、嬢ちゃんの場合特例で主とガンダールヴが同じ人間だ。つまり、嬢ちゃんの気持ち次第でどうにでもなるってこった。嬢ちゃんの気持ちがそのまま力になるんだよ」
「私の気持ち……」
「フーケを捕まえたいか? あの姉ちゃんを助けたいか?」
「……捕まえたい。助けたい!」
「本当にそう思ってんなら、ガンダールヴのルーンが力を与えてくれる。俺を正しく使うこともできるはずだ」

 それから、とデルフリンガーは続ける。

「このザボーガーとやらも関係あるはずだが、これはよくわかんねぇ」
「それだけ聞けば充分よ。行きましょう」

 ルイズとキュルケがタンデムで。さらに、その間に挟まれるようにタバサ。
 三人は出発する。
 フーケは何故か止まっていた。
待ち受けているのだろうか、あるいは隠れ場所か。
 森の中では見通しが悪く、さらに月明かりの下ではヘリキャットと視覚を共有したルイズでもフーケの確認はできない。それでも、さすがにあれほどの大きさのゴーレムを見失うことはなかった。
 灯りのついた小屋の横で、ゴーレムは止まる。そして、ロングビルと何かの木箱を下ろした。
 縛られている状態のロングビルは転がされたまま、木箱がその横に置かれる。
 そして、ゴーレムは消えた。
 周囲を哨戒するヘリキャットとマウスカー。しかしフーケらしき姿はなく、ルイズは二機を小屋と自分たちの周囲に展開させる。これで、誰かが近づけばすぐにわかるはずだ。
 フーケがいなくなった理由はわからないが、ロングビルをそのままにしておく訳にはいかない。罠を仕掛ける暇があったとは思えない。
 躊躇いながらも、三人は小屋に近づいた。

「ミス・タバサ、ミス・ツェルプストー、ミス・ヴァリエール!」

 小屋の中からロングビルの声。

「縛られて動けないんです、罠の気配はないようですけれど」

 良かった、と呟いて歩き始めるルイズとキュルケをタバサは止めた。

「駄目、逃げ……」

 皆まで言う前に、小屋の戸が開いた。そこには、破壊の杖を三人に向けるロングビルの姿が。

「ミス・ロングビル!?」
「残念、あたしゃあ、フーケって名前でね!」

 くぐもった音、直後に爆発音、そして衝撃。
 先頭にいたキュルケは爆風をもろに受けて失神。その背後のタバサもキュルケの身体をぶつけられて倒れ込む。唯一、ルイズだけがザボーガーが楯となって無事だった。
 しかし、もうもうと上がる煙が晴れたとき、ルイズが見たのはキュルケとタバサの喉元にナイフを突きつけるフーケだった。
 二人の杖は取り上げられ、遠くに放り投げられている。そして、タバサは足元を土の魔法で固められていた。
 ルイズを牽制しながら、フーケはタバサの足をさらに頑丈に縛り上げ、魔法を解除した。

「さて、お友達が無事でいて欲しかったら杖を捨てるんだね」
「ミス・ロングビル……」
「なんだい、魔法がゼロかと思ったらおつむもゼロなのかい? あたしはフーケだって言ってるだろ?」
「なんで……」
「ん? 破壊の杖を売りさばこうと思ったら、ついてくる馬鹿がいてねぇ。ツェルプストー家とヴァリエール家から身代金をふんだくる方が割が良いだろ?」

 破壊の杖の使い方は知っていた。かつて杖の使い方を見たオスマン。彼の話を聞いたコルベールから、フーケは聞き出していたのだ。
 そして話しながらもさらに、タバサとキュルケを雁字搦めに縛り上げている。

「その子は実力本位のゲルマニア出身よ? 盗賊に捕まるなんて馬鹿な子、見捨てるんじゃない?」

 ルイズの言葉にフーケは笑った。

「人質の価値があるのは自分だけだから、他の子は離せってかい? 感心はするけど賛成はできないねぇ」
「おとなしく捕まるつもりはないわよ」
「別に暴れてもいいさ、トライアングル二人がこの有様で、ドットでもないアンタがどうするつもりだい?」

 フーケが杖を振るうと、ルイズの背後にゴーレムが生成される。

「そんなデカ物に殴られたら、アンタ死ぬよ?」
「早いか遅いかの違いでしょ?」
「おや」
「身代金だけ奪って返すつもりなら、正体なんて見せないわよね」
「あは、やっぱり頭は良いんだねぇ。残念、もう少し頭が良かったら追いかけてなんて来なかったろうに」
「人殺しに褒められても嬉しくないの」
「そりゃ誤解だね」

 フーケは冷たい目でルイズを見据えていた。

「あたしが殺すのは“人”じゃない。“人でなし”の貴族どもだけさ」
「嬢ちゃん! 逃げろ!」

 背中に背負っていたデルフリンガーが叫ぶ。
 ルイスが咄嗟に身を捻ると、昨期まで立っていた場所をゴーレムの足が踏みしだく。
 踏まれれば、確実に死ぬ。そう考えると奇妙に気持ちが涼しくなる。

「逃げたきゃ逃げな。お友達二人とはお別れだからね」
「二人を放して! 私の身代金なら、二人の分なんて目じゃないわよ! ヴァリエール家よ! 公爵なのよ!」
「嬉しいねぇ、さらに上乗せかい。お礼に、最後に殺してあげようか」

 タバサの頬に触れるナイフ。

「駄目!」

 ルイズは叫ぶ。このうえなく、みっともなく叫んだ。

「殺すなら、私を最初にしなさい!」
「いいねぇ。貴族にしとくにゃ勿体ないよ」
「嬢ちゃん!」

 デルフリンガーが再び叫ぶ。

「俺を持て! 構えろ! 心を震わせろ! 助けたいんだろ! 死にたいわけじゃねえだろ! 嬢ちゃん! 俺を、いや、自分を信じろっ!」

 フーケは笑みを消さず、一歩前に出る。背後には身動き一つとれないタバサとキュルケ。
 相手がただのメイジなら、ルイズにも勝ち目はある。ルイズのゼロ距離爆発を当てれば勝てる。
 しかし、相手は百戦錬磨の盗賊なのだ。そのうえ、ルイズの爆発のことを知っている。簡単に近づけはしないだろう。第一、ルイズと直接戦うのはゴーレムだ。
 それでも、ルイズは負けられない。
 自分のため、キュルケのため、タバサのため。
 二人を巻き込んだのは自分。それなら、二人を助けるのも自分。
 助けなければならない。フーケを倒さなければならない。ゴーレムを倒さなければならない。
 ルイズは怒っていた。フーケに、そして自分に。弱い自分に、その弱さをフォローできない自分の愚かさに。
 共に戦おう。ルイズは、デルフリンガーを握った。
 これでお別れかも知れない。余った手で、ザボーガーに触れる。

「おどれーた! 嬢ちゃん! これだっ!」

 デルフリンガーが叫ぶ。理解したのだ。ルイズと自分、そしてザボーガーを繋ぐものを。

ルイズは知らない、かつてザボーガーのいた世界を。秘密刑事大門豊と共に悪の宮博士率いるΣ団、魔神三ツ首率いる恐竜軍団に挑んだ戦いを。
 ザボーガーの起動に必要なのは“怒りの電流”だが、動力源はダイモニウムと呼ばれる物質のエネルギーである。
 ダイモニウムが尽きたザボーガーは最大の宿敵魔神三ツ首の前に為す術なく破れようとしていた。しかし、大門豊の“怒りの電流”によって再起動、ダイモニウムのないザボーガーは“怒りの電流”を動力源として最終決戦に勝利したのだ。
 その後、最終決戦での過負荷により爆発したと思われたザボーガーは、ハルケギニアに召喚されたのである。
 つまり、ザボーガーの動力源は二つ。
 ダイモニウム、あるいは“怒りの電流”
 “怒りの電流”とは、大門豊の胸に埋め込まれた特殊電極回路により発生するものである。
 それは、怒りの感情を力に換えるもの。
 それは、正しき怒りによって生まれる力。
 “怒りの電流”
 それは、ハルケギニアではこう呼ばれている。

 虚無 と。

 そしてルイズも理解した。
 ルイズは、知ったのだ。

「電人ザボーガー、GO!」



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