あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロと電流-05


 ルイズがザボーガーに乗って出かけた日。ギーシュとケティに出会った日。
 その様子を空から見ている者がいた。
 タバサとシルフィードである。

「きゅい。あのゴーレムとっても早いのね、お姉さま」
「貴女より?」
「お空は邪魔なものがないからまっすぐ飛べるのね。だからシルフィは負けないのね」

 裏を返せば、単純な直線距離での勝負では勝ち目がないということ。
 地上を走る限り、何処までも一直線に走り続けるには限界がある。
 さらにもう一つ、乗り手の問題だ。
 乗り手がタバサならば、シルフィードが多少無茶な飛び方をしても平然と乗り続けるだろう。巡航速度程度なら本を読んでいる余裕があるのだから。
 同じ真似は、多少鍛えているとはいえルイズには無理だ。シルフィードでなく、ザボーガーが高速を出してもあっさりと振り落とされるだろう。
 もっとも、ヘルメットを被りガンダールヴの能力を得ている彼女ならばこの限りではないのだが、これはタバサもシルフィードも知らないことである。
 自分なら、ザボーガーの地上での機動力を最大限に生かすことができる、とタバサは考えていた。
 くわえて、自分にはそれが必要なのだ。
 空のシルフィード、地のザボーガー。二つを手にすればどれほど戦術の幅が広がるか。
 だから、ザボーガーが単なるアイテムであればいい、とタバサは思った。
 自我を持たない単なるアイテムであれば、譲ってもらう、あるいは奪うことが可能だからだ。
 タバサは、今のところルイズが苦手だ。
 キュルケはルイズをかなり買っているようだが、タバサは違う。
 確かに努力家だろう。それは認める。
 良い意味での貴族たらんとしている。それも認める。
しかしタバサにとっての
「魔法が使えない貴族」
「魔法を使える者が貴族と呼ばれる国の、魔法が使えない貴族」
 それが何を意味するか。
 ルイズを見ていると嫌でもある男を思い出してしまう。
 魔法が使える者に囲まれた、魔法が使えない者。
 高貴の出に生まれ、魔法が使えない者。
 それでも、ルイズは貴族として気高く生きようとする。それは、あの男にはできなかったこと。
 だからタバサは考えてしまう。
 あの男が彼女のようであれば、と考えてしまう。
 夢を見てしまう。
 魔法を使えなくても気高く生きようとする兄と、その兄の持つ魔法以外の才を尊敬する弟。そんな兄弟を夢見てしまう。
 兄弟が力を合わせて、王国を盛りたてる姿を夢見てしまう。
 兄弟それぞれの娘が、仲良く笑い合っているところを夢見てしまう。
 だから、タバサはルイズが苦手だ。
 いつか、彼女もそうなるのかもしれない。いずれ、醜く捻れてしまうのかもしれない。
 ヴァリエールの家系が、血塗られるのかも知れない。
 決してそれを望んでいるわけではない。
 しかしそれは、タバサの「悪夢」だった。


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 マシンザボーガーを停めると、ルイズはひらりと飛び降りた。
 キュルケは呆然と辺りを見回している。

「これ……本気で凄いわ」

 一言ぽつり、とキュルケは呟いた。
 ルイズはふふん、と唇を釣り上げている。

「どう? わかった?」
「確かに早いわ」

 学院から城下町まで、こんな短時間で到着できるなんて。
 キュルケはマシンザボーガーのスピードに心底驚いていた。
 早い早いとは思っていたが、実際自分が乗ってみるとそのスピード感は半端ではない。正直、タバサのシルフィードに初めて乗ったときよりも怖かった。
 ちなみに、途中で食料などを積んで学園へ向かう荷馬車と正面衝突しそうになったのはご愛敬というものだ。

「ま、メイジの実力を見るには使い魔を見ろって言うけれど」
「でも、フレイムは火を吐くわよ?」

 キュルケの言葉でルイズは止まる。

「言うことも聞くし、何より可愛いわ。きっと冬はベッドに入れると暖かいと思うのよ」

 ザボーガーはさすがにベッドに入らない。そもそも手触りは金属っぽい。
 温かくはないだろう。どちらかというと冷たそうだ。
 ザボーガー超ひんやり。

「使い魔は湯たんぽじゃないんだから」
「そうね、寒い夜はやっぱり人肌よね」
「あ、あんたねぇ」
「あら。お子様ルイズには刺激が強すぎたかしら?」
「ふしだらキュルケには言われたくないのだけど」

 突然キュルケの足が止まり、後ろについて来る形のルイズに呼びかける。どうやら話している内に二人は教えられた道を行きすぎてしまったらしい。
 あらかじめ、学園の門番衛兵に場所を聞いておいたのだ。

「剣が欲しいんでしょう? だったら一本こっちの路地よ」
「そうだったかしら」

 慌てて戻り、小汚い路地を抜けて二人は武器屋へ向かう。
 ルイズを呼び止めて振り向いた瞬間、キュルケは見覚えのある青い髪を見たような気がしたが、さすがに見間違いだと判断する。彼女の知る青髪娘は、虚無曜日は読書三昧で町に出てくることなどないのだから。
 二人が店に入ると、店の主人は貴族の世間知らずお嬢さま相手の商売を始めようとした。つまりは、ぼったくりである。
 キュルケが冷たく言うと、単なる貴族相手に。
 ルイズが一言付け加えて、ようやく普通の商売になる。

「それじゃあ、こいつなんてどうです」

 と言われても、剣の質などルイズにはわからない。キュルケも似たようなものだ。もっとも、キュルケは装飾品としての剣ならある程度はわかるのだが。
 店主の並べたいくつかの剣は実用品ではなく装飾品だと見抜いて、キュルケは脇に寄せる。
 そしてルイズが注文を出す。

「華美なものはいらないわ。多少見た目が悪くてもまともな剣が欲しいの。それからナイフと」
「ナイフですか?」
「ええ、こんなやつよ」

 ルイズはタバサから借りたまま持っている、ワルキューレと戦ってダメにしてしまったナイフを取り出した。

「ああ、もうがたがたじゃありませんか。こりゃ研いでも無駄ですよ。いったい何をお斬りになったんで?」
「青銅」
「はい?」
「だから、青銅の鎧を力任せに斬ったの」
「このナイフでですかい?」
「馬鹿じゃねえか。そんなナイフで」

 馬鹿、その言葉にルイズはキッと店主を睨みつける。
 慌てて首を振る店主。
 違うわよ、と言うようにルイズの肩を叩くキュルケが、周りを見回した。

「今の誰よ。失礼ね」
「馬鹿は馬鹿じゃねえか。そんなちんけなナイフで青銅の鎧だぁ? 嘘も大概にしろや、嬢ちゃん」
「おい、デル公! いい加減にしやがれ! 貴族のお嬢さまがた相手に何てぇ口利きやがる! しまいにゃあ、川ン中投げこんじまうぞ!」
「誰と話してるの? 貴方。デルコーって?」

 キュルケが尋ねると、さらに大きな声。

「ここだよ、ここ!」
「あ」

 話に参加せずに声の主を捜していたルイズが、一山いくらの剣が差し込まれた樽の中から一本の剣を取り出す。

「貴方ね」
「よぉ、嬢ちゃん。よくわかってんじゃねえか」
「ふぅん。喋る剣か」
「インテリジェンスソード、いや、デルフリンガーと呼んでくれ」

 確かに面白そうではあるけれど、剣としては正直どうなのだろう。
 そこでルイズは気付く。
 ワルキューレとの戦いでメットを被ったときに、ナイフの使い道が突然わかったこと。
 あのヘルメットには何かがあるのだ。
 ルイズはデルフリンガーを一旦戻すと、ヘルメットを被ってからもう一度握りしめる。
 握った剣から、驚いたような気配をルイズは感じた。 

「こりゃあ、おどれーた。嬢ちゃん、『使い手』かよ」
「『使い手』って何よ」
「いや、『使い手』とはちょっと違う? 『主』で……『使い手』? はて?」
「どうしたの?」
「あ、いや、なんか、変だぞ」
「何が変なのよ」
「……嬢ちゃん、『使い手』だよな?」

 『使い手』が何のことかはわからない。しかし、ヘルメットを被るとなにやら妙な感覚が生じることは経験でわかっている。

「よくわからないけど、何かがあるみたいよ?」
「……ま、いいか、どうせここにいたってしょうがねえんだ。嬢ちゃん、俺を買いな」
「なにそれ。もしかして今のやりとりって、買わせるための口八丁じゃないでしょうね?」
「だったらもっと上手くやるだろさ。『使い手』なんて意味不明なこと言わずに」

 それもそうだ、とルイズは思う。

「だけど貴方、剣としてはどうなの? 別におしゃべり相手を捜しに来た訳じゃないわよ? そういうのは間に合ってるから」
「そりゃ嬢ちゃん次第だろ。俺ぁ喋れたって所詮剣だ。使うのは嬢ちゃんの腕だ」

 ほう、とルイズは息を吐いた。
 これもやっぱり、その通り。いくら剣自体がいいものであっても、使う側がへっぽこならそれなりの成果しか上げられない。剣がなまくらでも、一流の剣士ならばそれなりの戦果を上げるだろう。

「私たち、気が合いそうね」
「そりゃあ、結構。というわけで、とっとと身請けの代金よろしく」
「身請けって」

 キュルケが呟いたが、ルイズは気にせず店主に向き直る。

「さっきのナイフとこれ。それから、もう少し軽いナイフがあったら何本かいただくわ」
「軽いというと、投げナイフで?」
「そう、それ」

 一つ、思いついたことがあるのだ。
 自分の唯一使える魔法、爆発。そして不思議なヘルメットの力。
 後者で投げナイフを扱えるなら、そして、投げナイフに爆発を仕込むことができるなら。
 ルイズ垂涎の、魔法の遠距離発動の誕生である。
 代金を払ったルイズは、足取りも軽やかに店を出る。
 そこでキュルケが、ザボーガーに乗せてもらった礼にお茶を奢ると言い始めた。
 ルイズとしても断る必要はない、というか、乗せた礼なのでもらう気満々である。
 話がまとまり、キュルケはルイズを先導する。と、そこでキュルケは何かを見つけて突然駆け寄った。

「なんだ、やっぱり来てたのね」

 振り向いたのは見慣れた青髪。
 本を小脇に抱えたタバサだった。

「珍しく出てきてると思ったら本の買い出し? あら、新しく出たやつ。それは学園の図書室にもないわねぇ」

 ルイズも追いつき、タバサを確認する。

「タバサ、帰ったらこの前のナイフちゃんと弁償するから」
「ナイフはいい。お願いがある」

 ルイズとキュルケは顔を見合わせた。

「ザボーガーに乗ってみたい」
「いいわよ」
「キュルケ、どうして貴女が決めるのよ」
「別にいいじゃない。減るものじゃなし」
「勝手に決めないで。ザボーガーは私の使い魔なのよ」
「じゃあ、お返しにフレイムに乗っても良いわよ」
「別に乗りたくないわよ、第一、それはタバサのお返しにならないでしょう?」
「シルフィード」

 タバサが前に進む。
 その言葉の意味を理解したルイズは少し考えた。
 風竜シルフィードは、確かに魅力だ。なんと言っても竜なのだ。世界でも一二を争う高位の存在、竜なのだ。
 が、しかし。
 空にいる自分を想像する。……ちょっとルイズの膝が笑った。
 今朝の経験が未だに尾を引いている。高いところがほんの少し怖くなっているのだ。
 だからルイズは首を振った。

「い、いらない。空いらない。シルフィードいらない」

 キュルケが呆れたような目で見ている。
 タバサは困ったように首を傾げていた。
 ルイズは視線を辺りに迷わせている。

「仕方ないわね。ルイズ、私は帰りも乗せてくれるんでしょう?」

 ここで置いて行かれては帰る方法に困る。つまり、連れてきたと言うことは帰りも責任を負うと言うことだ。
 常識に近いことだが、それでもキュルケは確認した。

「勿論」
「私の代わりにタバサを乗せてあげて」
「貴女はどうするの?」
「私がシルフィードに乗るわ。それで良いでしょう、タバサ?」

 タバサは頷き、町の外へと歩き始める。

「ちょっと待ちなさい」

 キュルケに呼ばれて立ち止まり、振り返るとタバサはまた首を傾げた。

「折角ここまで来たんだから、お茶ぐらいはしていきましょうよ」


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 馬鹿馬鹿しい。
 ロングビルは宝物庫のある塔を見上げ、心の中で大きな溜息をついた。
 どう見ても、個人で何とかできるようなレベルではない。
 これほどの強力な固定化……それも多重がけなど、それこそ王室宝物庫にでも行かなければ見ることなどないのではないだろうか。
 塔の五階、宝物庫のある位置を見上げ、ロングビルはもう一度大きな溜息。
学院長の秘書である“ロングビル”としてなら、中を覗くことはできるだろう。ただし、欠片一つとして持ち出すことはできまい。
 持ち出すことができるのはロングビルではなく、“土くれのフーケ”のみ。
 しかし、フーケでは中に入ることはできない。

「なんとか……ならないものかねぇ」

 時間さえかければ何とかできる。誰にも見られず数日間、練金をかけ続けることができるなら。
 つまり、無理だ。学院でそんな条件が満たせるわけもない。
 世を騒がせている、貴族相手専門の泥棒“土くれのフーケ”、それがロングビルのもう一つの名。
 これまでにも貴族の屋敷を襲っては金品を強奪している。そして今回標的にするつもりだったのがトリステイン魔法学院の宝物庫である。
 学院長オールド・オスマンは王室とのコネを持ち、本人は300歳すら超えるのではないかと言われている大メイジである。
 さすがに300歳は眉唾だとフーケは思っているが、そう言わせるだけの実力を持っているのは間違いないだろうとも思っている。
 その宝物庫であり、これだけの固定化が厳重にかけられているのだ。その中身が一体どれほどのものなのか。

「破壊の杖」

 それこそが、フーケが一番に狙っている宝の名前だった。
 大きさや形は、それを見たことのある教師陣から既に聞き出している。宝物庫の掃除の時にチラッとだが、現物も見たことがある。
 名前から考えるに、魔法に関連した何らかの武器なのだろう。
 武器は、相手さえ間違えなければ宝石以上に高く売れる。もっとも、フーケは武器を使う相手に売るつもりはない。どちらかと言えば売る相手はコレクターだ。
 奪った物自体がどうなろうと知ったことではないが、それによって平民が傷つけられるのは避けたい。貴族相手ならば同じく知ったことではないのだが。
 とりあえず、今はチャンスを待つだけである。
 狙うとすれば宝物庫の扉しかない。壁とは違い開閉の必要があるので、多少は脆いはずだろう。
 幸いなことに、ロングビルとしての学院長秘書の報酬は決して悪いものではない。充分ではないがそこそこの稼ぎはあるのだ。金に困って急ぐ必要はない。今回は、ある程度腰をすえてじっくりと取りかかることができる仕事だ。

「ま、気長にやろうかね」

 フーケはもう一度宝物庫を見上げると、ロングビルの仮面を被りなおした。



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