あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

アノンの法則-16


「ルイズ、ルイズ、どこに行ったの? ルイズ! まだお説教は終わっていませんよ!」
厳しい母の声が聞こえる。
幼いルイズは、いつもできのいい姉たちと魔法の成績を比べられては、物覚えが悪いと叱られていた。
「ルイズお嬢様は難儀だねえ」
「まったくだ。上の二人のお嬢様はあんなに魔法がおできになるっていうのに……」
使用人たちにまで、そんなことを言われる。
悲しくて、悔しくて、ルイズはいつものように『秘密の場所』へ逃げ込んだ。
ラ・ヴァリエールの屋敷の、あまり人の寄りつかない中庭にある池。
そこに浮かべた小船の上で、毛布に包まる。そこはルイズが唯一安心できる場所だった。
「泣いているのかい? ルイズ」
優しい声に毛布から頭を出すと、そこにはつばの広い、羽根つき帽子にマントを羽織った立派な貴族の青年がいた。
帽子に顔は隠れていたが、それが誰かはわかる。
彼は親同士が決めた、婚約相手。ルイズの憧れのひと。
「子爵さま、いらしてたの?」
みっともないところを見られてしまった。
ルイズは慌てて顔を隠す。
「今日はきみのお父上に呼ばれたのさ。あのお話のことでね」
「まあ」
ルイズは頬を染めて、うつむいた。
「いけない人ですわ。子爵さまは……」
「ルイズ。僕の小さなルイズ。君は僕のことが嫌いかい?」
「いえ、そんなことはありませんわ。でも……。私、まだ小さいし、よくわかりませんわ」
憧れの子爵様は、手をそっと差し伸べた。
「子爵さま……」
「ミ・レィディ。手を貸してあげよう。ほら、つかまって。もうじき晩餐会が始まるよ」
「でも……」
「また怒られたんだね? 安心しなさい。僕からお父上にとりなしてあげよう」
大きな手。憧れの手。
ルイズがその手を握ろうとしたとき、風で彼の帽子が飛んだ。
「あ!」
現れた顔は、憧れの人などではなく、自分の使い魔のアノンだった。
「な、なによあんた」
当惑するルイズに、アノンが言った。
「なにって、ボクと踊りたいんだろ?」
いつの間にか、ルイズは髪をバレッタで纏め上げて、白いパーティドレスに身を包んでいた。
『ブリッグの舞踏会』で着たドレスだ。周りの景色も、ラ・ヴァエリエールの屋敷から、華やかなダンスホールへと変わっている。
アノンはいたずらっぽい笑みと、芝居がかった仕草で、
「喜んで。レディ」
とルイズの手を取った。

「う~~~~~~~~~」
珍しく早い時間に目が覚めたルイズは、枕に顔をうずめて、悶絶していた。
(ありえない、ありえないわ。なんであんな夢見たのよ。舞踏会から一週間も経つのに、これじゃまるで、あの時のことが忘れられないみたいじゃない!)
パタパタと両脚をバタつかせるルイズ。
(大体あいつは使い魔よ、使い魔。私とそんな風になるわけ無いじゃない。確かに使い魔って言えばメイジのパートナーだけど……パートナー!?)
「ち、違うわ! そう言う意味じゃなくって……!」
「なにが違うんだ、娘っこ」
突然の声に、がばっと飛び起きるルイズ。
声の主は、鞘に収められ、相棒の枕にされているインテリジェンス・ソードのデルフリンガー。
「わわ、私声出てた? ききき、聞こえてたの?」
「ああ、ばっちり聞こえてたぜ。なあ、何が忘れられないんだ? そんな風になるって、どういう風になるんだ? ん?」
「う、うるさいわよ、このボロ剣」
表情があれば、絶対にニヤニヤしているだろうインテリジェンス・ソードに、顔を赤くしてルイズは言った。
「つれねーなあ。そう言わず、ちょっと俺っちにどんな夢見てたか教えてくれよ」
「黙りなさい、ガラクタ。溶かすわよ」
「ひでえ言い草だ。娘っこがそんな事言うんなら、俺は怒鳴る。ああ、怒鳴る。そして目を覚ました相棒に、今聞いたを独り言を包み隠さず話して聞かせるぜ。さて、鈍感な
相棒は、果たしてその意味に気づくだろうか」
「こ、この……」
ルイズは枕を握り締め、ベッドから飛び降りると、いやらしい性格のボロ剣に詰め寄る。
「ん……」
アノンが寝返りをうった。
藁の上で、気持ち良さ気に眠る使い魔を見て、ルイズの怒りの矛先が変わった。
「そそそ、そうよ。こここいつが勝手に私の夢に出てきたのよ。ぜぜぜ、全部こいつが悪いの」
「おいおい、娘っこ。そりゃ理不尽ってもんだぜ」
「うるさいうるさいうるさーい!」
ルイズは、眠っているアノンに向かって、枕を振り上げた。
今日、アノンの一日はご主人様による枕の爆撃で始まった。

今朝は、ルイズがアノンより早く起きたことと、妙にルイズの機嫌が悪く、デルフに溶かすの何のと怒鳴っていたこと以外は、いつも通りの朝だった。
フーケの事件から早一週間。その間に、ルイズのアノンへの待遇は、いくらかの向上を見せていた。
まず、あの神経質すぎる拘束は無くなった。
用があれば、アノンは特にルイズに断ることなく外出できるし、いちいち行き先を報告させられることも無い。
こっそり尾行されるようなことも無くなり、厨房での食事も黙認されている。
アノンも大した文句も言わず、日々の雑用をこなし、以前と比べると、二人の関係はずいぶん穏やかなものになっていた。
「ルイズ、いつの間にデルフと仲良くなったんだい?」
ルイズが早起きしただけに、早めに教室に着いた二人は、雑談に興じていた。
ここでもアノンはもう床ではなく、ルイズの隣の椅子に座っている。
「あれのどこが仲良く見えるのよ! ったく、あのボロ剣…わ、私の恥ずかしい、ひひ、独り言を……」
「その独り言ってナニ?」
「…知らなくていいことよ。ええ、一生知らなくていいわ」
「? ……それにしてもいないね、他の使い魔」
アノンが辺りを見回す。二人が早めに入ったとは言え、そろそろ授業始まる時間だ。
生徒達も教室に集まっているというのに、使い魔達の姿が見えない。
初授業からしばらくは、生徒達は自分の使い魔を教室に連れてくるものなのだが。
「ああ、なんかあんたに使い魔を見せると、遠くにぶん投げられるって噂が流れてるみたいよ?」
「なんだそれ」
どうもアノンは、動物に嫌われる質らしい。
毎回アノンが教室に入る度、使い魔たちが騒ぎ出すので、学院内には妙な噂が流れるようになっていた。
そんな風に話していると、教室の扉が開き、黒ずくめの教師が現れた。
風の系統の授業担当の、『疾風』のギトーだ。
ギトーは教卓から、一度教室を見回すと、おもむろに、
「最強の系統は知っているかね? ミス・ツェルプストー」
と言った。
指名されて、キュルケが答える。
「『虚無』じゃないんですか?」
「伝説の話をしているわけではない。現実的な答えを聞いてるんだ」
引っかかる言い方のギトーに、キュルケは眉をしかめる。
「『火』に決まってますわ。ミスタ・ギトー」
キュルケは不敵な笑みを浮かべて、言い放った。
「ほほう。どうしてそう思うね?」
「すべてを燃やしつくせるのは、炎と情熱。そうじゃございませんこと?」
「残念ながらそうではない」
ギトーは杖を抜く。
「試しに、この私に君の得意な『火』の魔法をぶつけてきたまえ」
ぎょっとするキュルケ。いきなり生徒相手に、魔法を撃って来い、とは。
ましてや、ここは屋内である。
「どうしたね? 君は確か、『火』系統が得意なのではなかったかな?」
戸惑うキュルケに、挑発するようなギトーの言葉。
キュルケが、表情を引き締め、杖を抜いた。
「火傷じゃすみませんわよ?」
「かまわん。本気できたまえ。その、有名なツェルプストー家の赤毛が飾りではないのならね」
今度はあからさまな挑発。
流石にカチンときたキュルケは、たっぷりと精神力を練りこんで、呪文の詠唱を始めた。
現れた小さな火の玉は、みるみる大きくなり、直径一メイルほどの大きさになった。
生徒達は慌てて、机の下に避難を始める。
だが、アノンは隠れず、じっとその光景を見ていた。
大きな火球がギトーに向かって、撃ち出される。
だが、ギトーが杖を剣のようにして振るうと、巻き起こった烈風が火の玉をかき消し、キュルケをも吹き飛ばした。

悠然と、ギトーが言い放つ。
「諸君、『風』が最強たる所以を教えよう。簡単だ。『風』はすべてを薙ぎ払う。『火』も、『水』も、『土』も、『風』の前では立つことすらできない。残念ながら試したことはないが、『虚無』さえ吹き飛ばすだろう。それが『風』だ」
キュルケは立ち上がって、不満そうに両手を広げたが、ギトーは気にした様子も無い。
二人の魔法を熱心に見ていたアノンは、隣のルイズに尋ねた。
「あれ、ホント?」
「…確かに、『風』は『火』と並んで、最も戦闘に向いてる系統って言われるけど。でも、あれじゃ、ミスタ・ギトーがキュルケより強いって証明にはなっても、『風』が『火』より強い証明にはならないわ」
若干不愉快そうに、ルイズは言った。
「なるほど、戦闘は『風』と『火』か…」
「目に見えぬ『風』は、見えずとも諸君らを守る盾となり……」
「失礼」
さらにギトーが『風』について、講釈を始めようとしたとき、教室の扉が開かれ、コルベールが現れた。
彼は実に珍奇な格好をしていた。
頭に大きなロールの金髪のカツラを被り、ローブの胸にはレースの飾りやら、刺繍が施されている。
「なんだアレ?」
アノンが、教室にいる人間全員の心を代弁した。
「おっほん。今日の授業はすべて中止であります!」
コルベールが重々しい調子で告げた。
喜ぶ生徒達。コルベールはその歓声を両手で抑え、
「えー、皆さんにお知らせですぞ」
と胸を張った。その拍子に、頭のカツラがとれて、床に落ちた。
それを見てタバサが、コルベールの禿げ上がった頭を指差し、ぽつりと呟いた。
「滑りやすい」
教室が爆笑に包まれる。
コルベールは、顔を赤くして怒鳴った。
「黙りなさい! ええい! 黙りなさいこわっぱどもが! 大口を開けて下品に笑うとはまったく貴族にあるまじき行い! 貴族はおかしいときは下を向いてこっそり笑うものですぞ! これでは王室に教育の成果が疑われる!」
その剣幕に、とりあえず静かになった教室で、コルベールは改めて重々しく話し始める。
「えーおほん。皆さん、本日はトリステイン魔法学院にとって、よき日であります。始祖ブリミルの降臨祭に並ぶ、めでたい日であります」
コルベールは横を向くと、後ろ手に手を組んだ。
「恐れ多くも、先の陛下の忘れ形見、我がトリステインがハルケギニアに誇る可憐な一輪の花、アンリエッタ姫殿下が、本日ゲルマニアご訪問からのお帰りに、この魔法学院に行幸なされます」
姫殿下、という言葉に、教室がざわめいた。
「したがって、粗相があってはいけません。急なことですが、今から全力を挙げて歓迎式典の準備を行います。そのために本日の授業は中止。生徒諸君は正装し、門に整列すること」
生徒たちは、緊張した面持ちになると一斉に頷いた。
「諸君が立派な貴族に成長したことを、姫殿下にお見せする絶好の機会ですぞ! 御覚えがよろしくなるように、しっかりと杖を磨いておきなさい! よろしいですかな!」

魔法学院の正門をくぐって、王女の一行が現れると、整列した生徒たちが一斉に杖を掲げた。
本塔の玄関に立ち、王女の一行を迎えるのは、学院長のオスマンである。
「トリステイン王国王女、アンリエッタ姫殿下のおな────り────ッ!」
最初に馬車から降りてきたのは、枢機卿マザリーニ。
鳥の骨とあだ名される彼は、一手に外交と内政を引き受ける苦労人であったが、貴族、平民ともに人気が無い。
向かえる生徒達の歓声もまばらだった。
続いて、王女がユニコーンの馬車から姿を現すと、生徒の間から、今度は大きな歓声があがる。
王女はにっこりと微笑みを浮かべて、優雅に手を振った。
「あれがトリステインの王女? ふん、私の方が美人じゃないの」
トリステインの姫君を見て、キュルケがつまらなそうに呟いた。
「ねえ、ダーリンはどっちが綺麗だと思う?」
そう尋ねられたアノンだったが、その視線はすでに王女から外れていた。
アノンが見ているのは、羽帽子をかぶった、凛々しい貴族。
その貴族は、鷲の頭と獅子の胴体を持った見事な幻獣に跨って、王女の護衛をしていた。
「…強そうだね」
「どっちが?」
王女の訪問の騒ぎなどどこ吹く風と、今日も黙々と本をめくっていたタバサが、珍しく自分から口を開いた。
「どっちもさ。あの鳥みたいなの、彼の使い魔かな?」
「あれはグリフォン。乗りこなし方からして、恐らくは彼の使い魔」
「よくわかるね」
アノンは感心した様に言ったが、タバサはすでに本の世界に戻っており、返事はなかった。
ふとルイズとキュルケを見ると、二人とも凛々しい貴族に見とれている。
ふむ、とアノンは顎に手を当てた。
「彼は『火』かな? 『風』かな?」

その日の夜。
アノンは退屈だった。
ルイズが全くしゃべらないのだ。
昼間に、あの羽帽子の貴族を見て、すぐにルイズは部屋に篭った。
それからずっと枕を抱いて、ぼんやりと宙を眺めている。
「ルイズ?」
アノンは、ルイズの髪の毛を軽く引っ張ってみた。
反応なし。
ならば、と頬をつねってみる。
これも反応なし。
何をしても反応が無い。アノンは首をかしげた。
「あーこりゃ、アレだな。恋の病ってやつだ」
ルイズをつつきまわしているアノンを見ていた、デルフが言った。
「恋の病?」
「そうさ。相棒の話だと、その貴族の男を見てから娘っこはそうなったんだだろ? ならもうこれは恋だね、恋」
「ふぅん?」
剣のくせに、一丁前に恋を語るデルフリンガー。
「あーあ、今朝は完全に相棒の方にキてると思ったんだがな。その貴族、相当な男前と見える」
いつもは話し相手になるこの剣も、今日はこの話ばかりでつまらない。
アノンが、もう夜だし、寝てしまおうかと考え始めた時、ドアがノックされた。
ノックは規則正しく、初めに長く二回、それから短く三回。
ずっとぼんやりしていたルイズは、はっとして、急いで立ち上がり、ドア開けた。
そこに立っていたのは、真っ黒な頭巾で顔を隠した、一人の少女だった。
少女は辺りをうかがうように首を回すと、そそくさと部屋に入ってきて、後ろ手に扉を閉める。
「……あなたは?」
ルイズは驚いたような声をあげた。
頭巾の少女は、口元に指を立ててルイズを黙らせると、杖を取り出して軽く振った。
光の粉が、部屋に舞う。
「……『ディティクトマジック』?」
「どこに耳が、目が光っているかわかりませんからね」
そう言って少女は頭巾を取った。
そこに現れたのは、昼間見た、アンリエッタ王女だった。
「姫殿下!」
ルイズが慌てて跪く。一方、アノンはぼけっと藁の上に座っていた。
地獄界にも、長と呼ばれるまとめ役がいたものの、王族と言われてもピンとこないアノンには、これがどういう事態なのか良くわからないのだった。
アンリエッタ王女は、感極まった表情を浮かべて、膝をついたルイズを抱きしめた。
「ああ、ルイズ、ルイズ、懐かしいルイズ!」
「姫殿下、いけません。こんな下賤な場所へ、お越しになられるなんて……」
「ああ! ルイズ! ルイズ・フランソワーズ! そんな堅苦しい行儀はやめてちょうだい! あなたとわたくしはおともだち! おともだちじゃないの!」
「もったいないお言葉でございます。姫殿下」
「やめて! ここには枢機卿も、母上も、あの友達面をしてよってくる欲の皮の突っ張った宮廷貴族たちもいないのですよ! 
 ああ、もう、わたくしには心を許せるおともだちはいないのかしら。昔馴染みの懐かしいルイズ・フランソワーズ、あなたにまで、そんなよそよそしい態度を取られたら、わたくし死んでしまうわ!」
「姫さま……」
それからしばし、二人は思い出話に華を咲かせた。
アノンが横で聞いていると、ルイズは幼い頃、アンリエッタ王女の遊び相手を務めていたのだという。
いわゆる幼馴染だ。
だがアノンは、そんなことよりも、あのルイズが他人に跪いたり、礼を尽くしている姿に驚いていた。
楽しげに話していたアンリエッタが、ふと、ため息をついた。

「姫さま?」
ルイズが心配そうに、顔を覗き込む。
「結婚するのよ。わたくし」
「……おめでとうございます」
ルイズはそう言ったが、アンリエッタの表情は暗く、どう見ても結婚を喜んでいるようには見えない。
そこでアンリエッタは、初めて、藁の上のアノンに気がついた。
「あら、ごめんなさい。もしかして、お邪魔だったかしら」
「お邪魔? どうして?」
「だって、そこの彼、あなたの恋人なのでしょう? いやだわ。わたくしったら、つい懐かしさにかまけて、とんだ粗相をいたしてしまったみたいね」
「姫さま! あれはただの使い魔です! 恋人なんかじゃありません!」
慌て首をぶんぶん振りながら、ルイズはアンリエッタの言葉を否定した。
「使い魔? 人にしか見えませんが……」
「一応、人です。姫さま」
「アノンです」
とりあえず、アノンは立ち上がって頭を下げておく。
「そうよね。はあ、ルイズ・フランソワーズ、あなたって昔からどこか変わっていたけれど、相変わらずね」
そう言って、アンリエッタは再びため息をついた。
「姫さま、どうなさったんですか?」
「いえ、なんでもないわ。ごめんなさいね……、いやだわ、自分が恥ずかしいわ。あなたに話せるようなことじゃないのに……、わたくしってば……」
「おっしゃってください。あんなに明るかった姫さまが、そんな風にため息をつくなんて、なにかとんでもないお悩みがおありなのでしょう?」
「……いえ、話せません。悩みがあると言ったことは忘れてちょうだい。ルイズ」
「いけません! 昔はなんでも話し合ったじゃございませんか! 私をおともだちと呼んでくださったのは姫さまです。そのおともだちに、悩みを話せないのですか?」
ルイズがそう言うと、アンリエッタは嬉しそうに微笑んだ。
「わたくしをおともだちと呼んでくれるのね、ルイズ・フランソワーズ。とても嬉しいわ」
アンリエッタは頷き、
「今から話すことは、誰にも話してはいけません」
と言って、語り始めた。

それは、ハルケギニアの政治情勢。
アルビオン王国の貴族たちが反乱を起こし、今にも王室が倒れそうなこと。
反乱軍が勝利を収めれば、次にこのトリステインに侵攻してくるであろうこと。
それに対抗するために、トリステインはゲルマニアと同盟を結ぶこと。
同盟のために、アンリエッタがゲルマニア皇室に嫁ぐこと。
そのアンリエッタの婚姻を妨げる材料を、アルビオン貴族が血眼になって探していること。
そして、その材料となってしまう手紙が、アルビオン王家のウェールズ皇太子の元にあること。
つまり、アンリッタの悩みとは、誰かにその手紙を回収してもらわねばならない、ということだった。
「姫さまの御為とあらば、何処へなりと向かいますわ! 姫さまとトリステインの危機を、このラ・ヴァリエール公爵家の三女、ルイズ・フランソワーズ、見過ごすわけにはまいりません!」
話を聞くなり、ルイズはそう言って立ち上がった。
「このわたくしの力になってくれるというの? ルイズ・フランソワーズ! 懐かしいおともだち!」
「もちろんですわ! 姫さま!」
ルイズがアンリエッタの手を握って、熱い口調でそう言うと、アンリエッタはぼろぼろと泣き始めた。
「姫さま! このルイズ、いつまでも姫さまのおともだちであり、まったき理解者でございます! 永久に誓った忠誠を、忘れることなどありましょうか!」
「ああ、忠誠。これが誠の友情と忠誠です! 感激しました。わたくし、あなたの友情と忠誠を一生忘れません! ルイズ・フランソワーズ!」
アノンは抱き合う二人の様子を、ぽかんとした表情で見ていた。
まるで何かの芝居のようだ。だが、二人に何かを演じている様子は無い。
お互いの言葉に酔う王女と侯爵家令嬢は、まったくアノンの理解の外であった。
ふと、アノンは部屋のドアに目をやった。
「あ。……ちょっといいかな」
「あによ」
二人の時間を邪魔され、不機嫌になるルイズ。
「これって、ひとに聞かれちゃいけない話なんですよね?」
アノンはアンリエッタに尋ねた。
「はい。しかし、メイジにとって使い魔は一心同体。あなたはルイズの使い魔ですから……」
「じゃあ、ちょっと待っててください」
アンリエッタの言葉を遮って、アノンが立ち上がる。
「ちょっと、アノン!」
姫殿下のお言葉を遮るなど、無礼千万。
ルイズが怒った声を上げたが、アノンはそれを無視してデルフリンガーを掴み、ドアの方へ歩いていく。
歩きながら、鞘からデルフリンガーを抜き放つ。
「お? なんだ相棒」
「あ、アノン!?」
室内で剣を抜いたアノンに、ルイズもアンリエッタも驚きを隠せない。
ドアの前まで来ると、アノンはいきなり、ドアの真ん中にデルフリンガーを突き立てた。
ドアの向こうで、固いもの同士がぶつかる音が響く。
アノンは、素早くデルフリンガーを引き抜き、ドアを蹴り開けた。
「酷いな。いきなりドアごと串刺しとは」
廊下には、薔薇の杖から伸びた『ブレイド』の刃を構えた金髪の少年、ギーシュ・ド・グラモンが立っていた。



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