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五月蠅いゼロの五月蠅くない使い魔-08



  第8夜
  銀の竪琴


 マルモがフーケのゴーレムを倒した後。
「ルイズ」
 ぼけーっと立っていたルイズにマルモは呼びかける。その声に気付いたルイズは、マルモの身体を掴んだ。
「大丈夫、マルモ?! 怪我してない?!」
「ルイズこそ……」
 念のため、マルモは回復呪文ホイミをルイズにかける。淡い光がルイズを包み、疲れた身体を癒した。
「盗賊捕まえられなくて、ごめんなさい」
「もう! マルモの無事が一番よ。ほら、先生も来たんだから説明しないとね」
 タバサとキュルケに連れられたコルベールが、ちょうど今駆けてきた。
「ミス・ヴァリエール! ミス・マルモ! 怪我はありませんか!」
「大丈夫です、ミスタ・コルベール」
 ルイズが毅然として答えた。
「それなら幸いです。ここは他の先生に任せますので、あなたたちは学院長室まで来るように。事件の始終を説明してもらいます」
 そう言ってコルベールが火の塔の方に目配せすると、何人か教師の姿が見えた。
「わかりました」
「私も後から行きますので、先に行っておいてください」
 言い終わると、コルベールは急いで新たに来た教師たちに宝物庫の襲撃を伝えにいった。

 ルイズたち四人が学院長室に入ると、中にはオスマン学院長一人だけだった。
「まったく、すごい衝撃じゃったの。おかげで目が覚めてしもうたわい」
 宝物庫は学院長室の一階下である。当然、壁が殴られたときの揺れが学院長室にも伝わっていた。
「さて、事の次第を話してもらおうかの」
 ルイズが代表してあらましを語った。中庭で涼んでいると唐突にゴーレムが現れたこと。ゴーレムが壁に穴を開けたこと。
マルモがゴーレムを倒したこと。賊がおそらくは『フライ』で逃走したこと。
 もちろん、ルイズの失敗魔法で壁にヒビが入ったことは伏せた。
「ほお……ミス・マルモの魔法で巨大なゴーレムを退けたとは……」
 巨大なゴーレムは、その質量から単独での対処が難しい。巨大ゴーレムを破壊するときは数人で行うのが通常である。
 ルイズは、マルモが感心を受けているので薄すぎる胸を張っていた。
 そのとき、ミスタ・コルベールが扉を素早くノックして入ってきた。
「オールド・オスマン! 宝物庫に賊が侵入しましたぞ!! 至急現場にいらしてください!!」
「もう聞いたわい。さて、ワシも行かねばならんからの。君らは今日は部屋に戻って休みなさい。
明日の朝食後にまた来てもらわにゃならんがのう」
「わかりました」
 ルイズたちは一礼すると部屋を出ていった。
 オスマンとコルベールは一階下の宝物庫へと向かう。鍵はオスマンが持っているからだ。
 二人とも、この時は事件に囚われていてミス・ロングビルの姿が見えないことに気付かなかった。
 さて、女子寮に戻ったルイズ、マルモ、キュルケ、タバサの四人はというと。
 一同はルイズの部屋にいた。ルイズはキュルケを部屋に上げたくはなかったが、「すぐに出ていく」とのことで押し切られた。
 話題はもちろん今夜の事件についてである。もっとも、この部屋の四人の少女はあの程度で傷心になる繊細な心の乙女でもなく、
むしろ胆力が普通の少女よりも備わっているので、今夜のことでお互い慰めるとかそんな類の話ではない。
「あの魔法はなに」
 口火を切ったのは、珍しくもタバサである。普段の彼女を知る者ならば、積極的に話をしようとする姿に驚くであろう。
「なにって、マルモの魔法のこと?」
 ルイズの問いかけに、タバサは小さく頷く。
 巨大なゴーレムが出現したことを教師に伝えに走ったタバサであったが、使い魔の風竜シルフィードの目を通してその後のことも
知っていた。当然、マルモが土ゴーレムを粉々にしたことも。
 あんな威力の魔法は、トライアングルである自分の全精神力をもってしても不可能だろう。スクウェアメイジだとしても、
かなりの精神力を消費するに違いない。
 それをマルモという少女は事もなげにやってのけた。見たところ、精神力の消費による疲れもなさそうである。
 今のタバサは、マルモに対して興味よりも警戒が先にあった。
「……あれは氷系呪文の最上級呪文、マヒャド」
 マルモはタバサの警戒心に感づきながらも、素直に答えた。
「マヒャド?」
「ああ、マルモは東方から来たメイジなのよ。だから、ハルケギニアの魔法とは違うの」
 前もって用意していた嘘をルイズは口にした。異世界だの何だの言うよりは、比較的信じられることである。
 もっとも、タバサは昼間『異世界』に行っているので『異世界から来ました』と言ってもよかったが、わざわざ言う必要もないと
ルイズは判断した。嘘を突き通してもしなくてもこの状況は変わらないのである。
「あの移動呪文も、東方の魔法?」
 マルモはコクリと頷いた。
 タバサはこの場で知っておけるものは知っておこうと、矢継ぎ早に質問する。
 マルモの使う魔法の体系、分類、種類、用法などなど。それらにマルモは簡単に答えていく。
 そしてタバサが特に関心を示したのが回復系の呪文についてである。上級回復呪文ベホマは、対象者が生きている限り
どんな傷でも瞬時に癒すという。その効果は系統魔法の『ヒーリング』を遥かに超えている。
 また、解毒呪文キアリーや麻痺治療呪文キアリク、そして破邪呪文シャナクについても同様だ。タバサの個人的な事情から、
この手の魔法について並々ならぬ関心を抱いている。破邪呪文というのはよくわからないが、系統魔法での『水』による束縛から
解放するようなものだとマルモは説明した。
 今、タバサの心は揺れ動いている。即ち自分の境遇を告白してマルモの力を乞うか否か。
 もしかしたら、マルモの魔法ならば現在の状況を打開してくれるかもしれない。しかしそれはルイズとマルモをあらぬ危険に
巻き込む恐れがある。また、たとえ懇願したとしても請け負う可能性はかなり低い。たかが同級生の厄介事、
しかも国家レベルの事を助けようとする人間はまずいない。
 それでもタバサは、一条の望みの光から目が離せずにいた。
「……あなたにお願いがある」
「お願い?」
「そう。今はまだ……言えないけれど。その時が来たら力を貸してほしい。私にできることならなんでもするから」
 タバサの出した結論、それは保留。本来のタバサなら、こんな曖昧な言葉で他人に頼んだりはしない。悩んだ末の答えである。
 だが、マルモは。
「わかった」
 タバサの気持ちが、心の震えが、痛すぎる程に伝わってきた。誰かを助けたい、だが自分の力ではどうしようもない、
それ故の苦しみ。似たような感情をマルモもかつて味わっていた。だからこそ、である。
 キュルケは今まで見たことのないタバサの様子に面食らっていたが、黙って見守ることに決めた。
「……ありがとう」
 タバサは小さく頭を下げ、部屋を出ていこうとしたので、キュルケも後に続いて出ていった。
 そしてルイズはというと。
 マルモがギーシュに構ったときに発生した感情が、ぶり返してきた。
 わたし以外に、優しすぎるんじゃない? メイドにしても。ギーシュにしても。タバサにしても。
「マルモ」
 どうしてわたし以外にも優しくするの?
「なに、ルイズ?」
 マルモのエメラルドグリーンの瞳が、ルイズの目を覗き込む。
「…………」
 その目は、わたしだけのもの。
「ルイズ?」
 その声も、わたしだけのもの。
「ねえ、マルモ」
 マルモは、わたしだけのもの。
「今日はもう寝ましょう、ね?」
 マルモは、誰にも渡さない。
「明日も早いし、ね」
 鳶色の瞳が、輝いていた。
「わかった」
 今のルイズには『魔神』デスタムーアの如き邪気が宿っているのだが、それに気付いているのかいないのか、
マルモはあっさりとルイズと共にベッドに入った。
「おやすみなさい、マルモ」
「おやすみ、ルイズ」
 二人はすぐに夢の世界へと旅立った。
 ルイズの夢は、マルモといえども知ってはならぬ。知ればどうなるかは誰にもわからぬが、間違いなく今のままではいられない。
 二人の安全はルイズの胸三寸なのだ。

 翌朝。
 トリステイン魔法学院では昨夜から蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。
 突如として現れた巨大なゴーレムが宝物庫の壁を破壊して秘宝『銀の竪琴』を盗んだことは一晩で学院中の知るところとなり、
貴族も平民も教師も生徒も口にする話は一つである。
 生徒は朝食の席で口々に噂しあい、食堂はいつもより騒がしくなっていた。
 教師はもう食堂にはいない。軽い朝食を済ませたらすぐに宝物庫に集まることになっていたのである。
 宝物庫の壁には、『土くれ』のフーケのお馴染みの犯行声明が刻まれていた。
『銀の竪琴、確かに領収いたしました。土くれのフーケ』
 教師たちは土くれのフーケを罵り、衛兵を蔑んで、とうとう昨晩の当直だったミセス・シュヴルーズに言が及んだ。
「ミセス・シュヴルーズ! 当直はあなたなのではありませんか!」
 ミセス・シュヴルーズは蒼白となり、震え上がった。本来なら夜通し門の詰め所に待機しておかなければならないものを、
自室で眠り込んでいたのである。
「も、申し訳ありません……」
 泣き崩れるミセス・シュヴルーズに更なる追及が迫ろうとしたとき、オスマン氏が現れた。
「これこれ。女性をいじめるものではない」
「しかしですな!」
 と、ミセス・シュヴルーズを問い詰めていた教師が、オスマン氏にミセス・シュヴルーズの非を訴えた。
 オスマン氏は長い口ひげをこすりながら、口から唾を飛ばして興奮するその教師を見つめた。
「ミスタ……、なんだっけ?」
「ギトーです! お忘れですか?」
「そうそう。ギトー君。そんな名前じゃったな。君は怒りっぽくていかん。さて、この中でまともに当直をしたことのある教師は
何人おられるかな?」
 オスマン氏が辺りを見回すと、教師たちはお互いに顔を見合わせ、恥ずかしそうに顔を伏せた。名乗り出る者はいなかった。
「さて、これが現実じゃ。責任があるとするなら、我々全員じゃ。この中の誰もが……、もちろん私を含めてじゃが……、
まさかこの魔法学院が賊に襲われるなど、夢にも思っていなかった。なにせ、ここにいるのはほとんどがメイジじゃからな。
誰が好き好んで、虎穴に入るかっちゅうわけじゃ。しかし、それは間違いじゃった」
 オスマン氏は、壁にぽっかり開いた穴を見つめた。
「この通り、賊は大胆にも忍び込み、『銀の竪琴』を奪っていきおった。つまり、我々は油断していたのじゃ。
責任があるとするなら、我ら全員にあるといわねばなるまい」
 その後感動した面持ちのミセス・シュヴルーズがオスマンに抱きついたので、場を和ませるためにオスマンは尻を撫でたのだが、
誰も突っ込んでくれなかったのでこほんと咳払いをした。
 皆一様に真剣な目でオスマン氏の言葉を待っていた。
「で、犯行の現場を見ていたのは誰だね?」
「この三人と、使い魔の少女です」
 オスマン氏の声にコルベールが前に進み出て、後ろに控えていたルイズ、マルモ、キュルケ、タバサを示した。
「ふむ。では皆に詳しく説明したまえ」
 ルイズが少し前に出て昨日オスマン氏に説明したのと同じ内容を語った。
「ふむ……後を追おうにも、手がかりはなしというわけか……」
 それからオスマン氏は、気付いたようにコルベールに尋ねた。
「ときに、ミス・ロングビルはどうしたね?」
「それがその……朝から姿が見えませんで」
「この非常時に、どこに行ったのじゃ」
「どこなんでしょう?」
 そんな風に噂をしていると、ミス・ロングビルが現れた。
「ミス・ロングビル! どこに行っていたんですか! ……ミス・ロングビル、大丈夫ですか?!」
 見ると、ミス・ロングビルの服は所々破れ、そこから血のにじんだ傷痕が覗いている。
「もうしわけ、ありません。昨日から急いで、調査を、しておりました、の」
 喘ぎながらミス・ロングビルは答えた。身体は壁に寄りかかっている。
「誰か治療を!」
 急いで水メイジの教師たちが『ヒーリング』をミス・ロングビルにかけ、傷を癒していく。いつしか傷痕も目立たなくなった。
「ありがとう、ございます」
 呼吸を整えながらミス・ロングビルは謝礼を述べた。
「それでミス・ロングビル、調査というのは?」
「はい。昨晩、寝ていたら強い衝撃で目覚めまして。部屋を出たら騒ぎがするのでそちらに行くと、宝物庫の壁にフーケのサインを
見つけました。そこですぐに調査をしたのですが……」
「休みますか? ミス・ロングビル」
 言い澱んだミス・ロングビルをコルベールが心配して声をかけた。
「大丈夫ですわ、ミスタ・コルベール」
 ミス・ロングビルは気丈に答えた。
「それで私は近くの森を捜索していたところ、途中でコボルドや狼の群れに襲われました。おかげで調査の甲斐なく、
学院まで戻ってきたのです」
 ミス・ロングビルは言い切ると、目を潤わせ身体を震わせた。
「ようやってくれたの、ミス・ロングビル。後は我々に任せて、ゆっくり休むんじゃ。誰か彼女のベッドまで運んでやりなさい」
 三人程の女教師が『レビテーション』を唱えてミス・ロングビルを運搬していった。
「さて、困りましたな。未だ手がかりはゼロ。ここは早急に王室に報告し、王室衛士隊に頼んで……」
「それには及ばんよ、ミスタ・コルベール」
 オスマン氏が、コルベールの言葉を制した。
「なぜです? オールド・オスマン。犯行の現場からは追跡の手がかりもなく。ミス・ロングビルの追跡も芳しい結果は……」
「そのミス・ロングビルの追跡のおかげで手がかりが掴めたんじゃよ。これからワシは『遠見の鏡』で『銀の竪琴』の在り処を
探すので、ワシが戻ってくるまで皆ここで待機しておるように。生徒たちはワシが送っていこう」
 オスマン氏は言い終えるとルイズたちを押しやるように宝物庫を出た。
「すまんが事件を最後まで目撃したミス・ヴァリエールとミス・マルモはワシに付いてきてほしい。
ミス・ツェルプストーとミス・タバサは戻ってよろしい」
 キュルケは不満を言い表そうとしたが、タバサがキュルケを引っ張っていったのでそれはなかった。
 ルイズたちが学院長室に入ると、マルモを含めた三人は壁にかかった大きな鏡の前に立った。『遠見の鏡』である。
「さて、君ら二人を残した理由じゃが……、ミス・マルモ。君は『銀の竪琴』が何か知っておるね?」
 大した感慨もなくマルモが頷いたので、ルイズは驚いた。
「ど、どういうことですか、オールド・オスマン」
「なに、ミス・マルモが『銀の竪琴』という言葉に反応したのを憶えていただけじゃよ」
 オスマン氏が『銀の竪琴』という言葉を使ったのは二回。一回目は教師たちの騒ぎを収めたときに用いたのであるが、
そのときマルモがわずかに反応したのをオスマン氏は見逃さなかった。
マルモたちは注意を払わねば表情もわからぬ位置にいたのだが、それをさり気なく用意もなしに看破したのは年の功というべきか。
「ねえマルモ、『銀の竪琴』ってどういう効果があるの? 見たことはあるんだけど……」
 ルイズが宝物庫を見学したとき、『銀の竪琴』はガラスでできた箱の中にあったので悪戯好きの生徒も触れなかったのである。
「モンスターを呼び寄せる効果がある」
「ええっ?!」
 マルモの簡潔な答えに、ルイズは仰天した。
「だから、悪用されては困るんじゃ。人のいる村や町では効果がないようじゃが、街道なんぞで使われたら末恐ろしいわい」
「……それで、どうしてマルモがここに? 『銀の竪琴』を知っているからだけではないのではありませんか?」
「もちろんじゃ。恥ずかしながら、今回の事件はミス・マルモの力を借りなければ解決できん」
「マルモの力?」
「そうじゃ。『銀の竪琴』を探すためには『遠見の鏡』を使わねばならん。じゃが、この『遠見の鏡』は……」
 と、オスマン氏はちらっと鏡に目をやった。
「普段は学院内までしか映すことはない。もっと遠くのことまで見られるかもしれんが、そのように使ったことはないのでな」
 ルイズはハッとした。
「それでマルモの力……『ミョズニトニルン』が必要なんですね!」
「その通りじゃ。あらゆるマジックアイテムを使いこなしたというミョズニトニルン……ミス・マルモならばこの鏡を十二分に
使えるじゃろうて。ミス・マルモ、お願いできるかの?」
 マルモは頷くと、鏡に手を触れた。すると、以前に魔法小人形やオスマンの指輪を触れたときのように額のルーンが輝きだす。
 普通『遠見の鏡』は特定の空間を映し出すために使われる魔道具であり、探索には向いていないのだが、
神の頭脳ミョズニトニルンならばそれを難なく可能にする。
 数秒もすると、鏡面には学院長室の様子ではなく、違う場所の光景が映っていた。そこに広がる映像とは……。
「きゃっ!」
 ルイズは悲鳴を上げた。オスマンも息を呑む。マルモだけが変わらずにいた。
 それは、森の中に広がる死骸。コボルドらしきもの、狼らしきもの、熊らしきものなど、部分部分で判断できるものだった。
 その死の領域の中に君臨していたのは、灰色の巨大なワイバーン。通常のワイバーンはドラゴンよりも一回り小さいが、
その巨体は優に二十メイルはあろうかという、規格外のものだった。
 そのワイバーンの口元には血がべったりと付いており、何が起こったのかを物語っていた。
「まさか……ここまでとは…………」
 オスマン氏は唸った。おそらくは森の動物が『銀の竪琴』を鳴らし、次々と集まってくるのだろうとは思ってはいたが……。
 ワイバーンは、ドラゴンまでとはいかないが恐ろしい幻獣である。一流のメイジでも正面から倒すのは困難であり、
ましてやあれ程の大きさとなると、スクウェアメイジでも太刀打ちできるかどうか。
「……これは、マジで王室に報告せねばならんのう。口惜しいが、学院では解決できまい」
 魔法学院に勤める教師はメイジとしては優秀だが、実戦で活躍できるかと問われれば、否である。
しかも、あのワイバーンを相手するとなると、絶対に複数で戦わなければならない。連携するどころか、
互いの邪魔になることは簡単に想像できる。
 オスマン氏とて命は惜しい。殺されるとわかって教師を差し向けるわけもない。
 王室に干渉されたくなかったが、これしか解決の手段はなかった。
「ミス・マルモ。『銀の竪琴』はどこに?」
 オスマン氏の問いかけに、マルモは淡々と答える。
「ふむ、そこなら徒歩で二時間程か……」
 これは早期に解決しなければならない問題だ。もしワイバーンが学院にでも飛んできたら、何人かは犠牲になる。
「手間をかけさせてすまんかったの、ミス・マルモ、ミス・ヴァリエール。もう戻ってくれい」
 マルモは『遠見の鏡』から手を離し、帰ろうとしたが、ルイズは動かなかった。
「ルイズ?」
 マルモが心配して声をかけると、ルイズは口を開いた。
「だ、大丈夫よ、マルモ」
 ルイズは動けないでいた。
 あの凄惨な光景を目にしてルイズは失神しそうになり、持ち前の意地でなんとか堪えたが、足がすくんでしまった。
 マルモがルイズの肩を軽く叩くと、ルイズは動いた。
「あ、ありがとう。……あの、学院長はどうなさるおつもりですか?」
「今からはワシは王都に使いを出し、魔法衛士隊にあのワイバーンの討伐を依頼せねばならんのでな。
ワイバーンがこの学院に来ないともかぎらんから屋外の授業はしばらく中止になろう」
「王都に使いを? あ、それでしたら……マルモ!」
「なに?」
「ほら、あなたの魔法で、すぐにトリスタニアに行けない?」
「トリスタニア?」
「ええ、トリステインの王都なんだけど……」
「ちょ、ちょっと待てミス・ヴァリエール。ミス・マルモの魔法とは?」
 ルイズが勝手に話を進める中、オスマン氏が割り込んだ。
「あ、その、マルモは遠く離れたところに一瞬で移動できるんです。それで昨日は異世界に行ってきました」
 照れくさそうにルイズは身をよじらせた。
「なんと、そんな魔法もあるのか……。ふむ、それなら連れて行ってもらえるかの?」
 オスマン氏が頼むと、マルモは首肯した。
「おおっと、その前に下の者どもに説明しておかんとな」
 オスマン氏が階下に向かうと、ルイズは力が抜けて崩れそうになる。だが、床に着く前にマルモがルイズを手で支えた。
「ごめんね、マルモ……もう少し、こうさせて」
 そう言うとルイズはマルモに身体を預けた。マルモに触れると、沈んだ気持ちも高揚してくる。
 オスマン氏が戻ってくる前にルイズは復活した。
「さて、それでは行こうかの。頼ってばかりですまんが、ミス・マルモ、お願い申す」
「その前に。私はトリスタニアを知らないから……、二人がトリスタニアのことを思い浮かべてほしい」
 マルモは瞬間移動呪文ルーラを使うつもりである。ルーラは術者が行ったことのある場所でなくとも、
パーティの誰かが経験しているならばそこに移動できるのだ。
 二人がトリスタニアの情景を頭に浮かべたのを確認したマルモは窓を開け放ち、素早くルーラを唱える。
 途端に三人は青い流星となり、瞬く間に王都トリスタニアの入り口に着いた。
「旅の扉以外でも、こんな魔法があるんだ……」
「いやはやたまげたわい。まさかこの年でこんな体験ができるとはのう」
 驚く二人であったが、目的を思い出し、三人で魔法衛士隊本部に急いだ。魔法衛士隊の本分は王族の護衛であるから、
必然的に向かう先は王城となる。
 ルイズは城下を走る中、魔法衛士隊に勤める婚約者のことを思い出していた。
 ひょっとしたら会えるのだろうか。それとも自分の名を出せば、案外顔を出してくれるかもしれない。
 逸る気持ちを抑えつつ、ルイズは王都を行く。



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