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三重の異界の使い魔たち-02


~第2話 見知らぬ蒼穹、月2つ~

 平賀才人、17歳。東京在住の高校生。
 学業成績、運動神経、ともに並。趣味はインターネットで好物は照り焼きバーガー。
 賞罰、特になし。彼女、いたことなし。
 性格は好奇心が強く負けず嫌い、調子が良くて人も好く、楽天的でやや抜けているとは周囲の評。
 彼、平賀才人のおおまかなプロフィールは、こんなところである。

 そんな彼だが、現在混乱の極致にあった。つい先程までは修理に出していたノートパソコンを
秋葉原まで引き取りに行き、先日登録した出会い系サイトからメールが届いているか、
もしかすると彼女いない歴17年にピリオドが打てるか等と考えていたにも関わらず、だ。

 付け加えておくと、才人も出会い系サイトというものの実態を理解していないわけではない。
そのほとんどが、実際には架空の人物になりすまし、それらしいことの書かれたメールを送って、
言葉巧みに利用者から料金を請求するものだということは、ニュース等で見聞きしていた。
 しかし、才人はそれでも中にはインチキでない本物だってあるだろうと楽観視し、登録して
いたのである。恋人ができるかもしれないという望みと、知らない人とのメール通というちょっと
した刺激を求めて。
 この時点で、楽天的だという彼に対する周囲の見方の正否は理解できることだろう。

 しかし、彼はその帰り道の途中、奇妙な光景を目の当たりにした。
近道しようと入った人気のない路地に、銀色の鏡のようなものが浮かんでいたのである。

 普通、こんな異常事態に人はどう反応するだろうか。大抵は警戒してかかわろうとしないか、
興味を持って調べてみるかのどちらかだろう。
 そして、才人はその後者だった。謎の鏡に石を投げ込んでみたり、適当にペン先を出し入れ
したりして、どうなるか実験したりした。
 すると、不思議なことに石もペンも鏡らしき存在の向こう側からは現れず、吸い込まれたように
消えてしまうのである。ちなみに、挿し込んだペン先は無事。

 ますます興味を持った才人は、ついに好奇心に負け、その鏡をくぐってしまおうと考えた、
というよりも、考えてしまった。この不可思議現象への警戒心も流石に膨れ上がってきては
いたが、それにも勝る探究心が彼の体を動かした。

 ぶっちゃけた話、後先考えないアホの所業である。

 そして、その代償は安くはなかった。鏡のような存在に身をとび込ませたところ、得もいわれぬ
痛みが全身を苛むのである。視界が白一色に支配される中、誰かの声が聞こえるような気や、
どこかに引っ張られるような気がしたからと思ったら、今度は見知らぬ草原に立っていた。
 しかも、傍には虫の羽を持った自称妖精の光る玉に、浮いて喋って変身する謎なお面という
おまけ付き。

 それからその2名――2人というと語弊がありそうだ――と幾らか言葉を交わし、青い髪の
少女と髪が寂しい男性の会話を眺めたりしていたら――

「我が使い魔となせ」

 ――どういうわけか、少女に唇を奪われたのである。

 そこまでのこともさることながら、彼女いない歴17年=実年齢である才人には、見ず知らずの
少女とファーストキッスというのはハードルが高すぎる。しかも、その少女が相当に年下らしく、
その上に映画から抜け出たような整った顔立ちをしていたのだから、尚更だ

――ってちょっと待て!! 俺、これでファーストキス喪失!? こんなわけわからん状況でか!?
初めてはやっぱり好きな子としたかったぞ!! いや、顔でいえばこの子は十分、というか俺的には
望んでも無理そうな最高レベルだけど……いやいや、こんな小さい子相手に俺犯罪じゃね!?
アウトじゃね!? あー、でも女の子の唇ってやーらけー……いやいやいや、俺はロリコンじゃない!!
人間として終わってない!!

 感情の起伏が激しく、人一倍こんがらがり易い才人の脳内は、突然の事態に大パニック真っ盛り
である。
 そして、キスの際は目を瞑るというどこかで聞いたエチケットを実行する間もなく、少女の顔が
離れていった。

 瞬間、才人はその姿に見惚れてしまう。
 身長は、140センチほどだろうか。ショートに切り揃えられた髪の毛は、細くて風に揺れて
さらさらと流れ、その深い蒼さ故に日の光の中サファイアのような輝きを見せる。
 唇は小振りで、輪郭はあどけなくも形のいいラインを描き、鼻筋もきれいに通っていた。
肌はといえば、雪のように白く、瑞々しく、木目が細かいとはこういうものかと実感させられる。
 何より目を惹くのは、彼女の瞳だった。赤いフレームの眼鏡の奥に覗けるその眼はやや吊り気味で、
幼い印象の顔立ちに怜悧な雰囲気を与えている。そして、その中心にある碧い瞳は、どこか海か
空を思わせた。清らかで、透明なようでいて、深く、遠く、底も果ても見通せない碧さ。
冷たく、それでいて温度が隠されているような、不思議な双眸。
 けれど――その吸い込まれそうなほど美しい瞳を見ながら、才人は気付く。

――なんだ、この眼?

 そこに浮かんでいた、どこか申し訳ないような、哀し気な色に――。

 あどけなくも、美貌と呼ぶべきその顔立ちを無表情に覆いながら、微かに見え隠れする悲哀の
色に、才人は動きを忘れてしまった。一方的にとはいえ、口づけを交わしたためか、何故か
彼女から目が離せず、行為の理由を問うことさえできなかった。

 一方、件の少女、タバサはといえば、自分の傍にいたナビィとムジュラの仮面にもキスをする。
才人にした時と、同じ言の葉を紡ぎながら。

 まるで理解に頭が追いつかず、茫然とそれを見送っていた才人は、ふと左手のあたりに
違和感を覚えた。
「っ!? がっ!?」
 かと思えば、それは瞬く間に膨れ上がり、強烈な痛みとなって全身を貫く。その突然な激痛に、
思わず草地に倒れ込んだ。
「グゥッ!?」
「あつっ、うぅ……!?」
 ムジュラの仮面とナビィも同じ様で、ムジュラの仮面の方は地面に墜落し、ナビィの方は浮いて
はいたが、苦悶の声を上げている。焼けつくような痛みが頭の中を掻きむしり、才人たちは悶え
苦しんだ。

「な、んだ……これっ!?」
 たまらず、才人はきれぎれに声を絞り出す。これまではとりあえず危険という感じでは
なかったため慌てる程度ですんでいたが、今度はそうもいかない。
左手を中心に走る唐突な激痛に苛まされ、才人は自身の安全に焦りを浮かべていた。

「心配ない」
 そこへ、タバサが抑揚のない、しかし微妙に申し訳なさ気な声で語りかけてくる。
「使い魔のルーンが刻まれているだけ」
「いやっんなことっいわれたって……!!」
「何故っそんなものっ、刻まれないといけないっ!?」
 僅かながら辛そうにも聞こえるタバサの言葉に、しかし才人はムジュラの仮面と一緒に
反論した。
彼女の様子が気にならないではないが、使い魔のルーンという単語は意味不明だし、そんな
ものを勝手に刻まれて、その上こんな痛い目を見る等、幾らなんでも冗談じゃない。ナビィは
何も言わなかったが、やはり相当に痛がっていた。
 1秒が数分にも感じられるほどの苦痛の時間、永遠に続くのではないかとさえ思えたそれも、
やがて終わりを迎える。
「っ……はぁ、はぁ……」
 灼熱を伴った痛みが抜け落ち、才人は息をついた。息を整えながら、特に痛みがひどかった
左手を見やる。そこには、なにやら文字のような模様が浮かんでいた。同じ様に息の荒い
ナビィたちを見やれば、ナビィは左の上羽、ムジュラの仮面の左の触手の1本にも、似た
ような模様が浮かんでいる。

「なあ、なんだこれ?」
「オレに聞いてどうする、こっちだって聞きたいんだ」
 とりあえず同じ痛みを味わったのだろう、ムジュラの仮面に尋ねるが、彼もまた自分の触手の
模様を見ながら首を――というか体を――傾げていた。それにしても、人語を解して自らの意思で
動いているらしい仮面と普通に会話しているとは、我ながら大した神経だと才人は苦笑する。
同じ苦しみを共有したらしいことで、親近感が湧いたのかもしれない。

「ふむ、君たちも珍しいルーンだね」
 そこへ、先程タバサがミスタ・コルベールと呼んだ男性が、才人たちのルーンを覗き込んできた。
「ルーン? これがさっきあの子が言ってたやつですか?」
「ああ。使い魔のルーンの話を聞いたことがないのかね? まあともかく、ちょっとスケッチを
とらせてもらえるかい?」
「あ、はい」
 よく理解できていないものの、年長の男性に頼まれてはとりあえず従ってしまう。そして
コルベールは才人たちのルーンとやらをスケッチし始めた。

 その一方で、才人はコルベールの恰好に、段々と焦りのようなものを感じ始める。ローブと
いうのだろうか、なにやらゆったりした服に、大きな木製の杖という、いかにも魔法使いと
いった姿。
 普段であれば、年甲斐のないコスプレおじさんとでも思うだろう。しかし、妖精だという
光る生き物に、仕掛けがあるわけではないらしい奇妙な仮面。そして、突然痛みと共に現れた、
この使い魔のルーン。
 どれ1つを取っても、彼の普段とは程遠い代物だった。そして、それはある可能性を示唆している。
それに気付いた才人は、それを否定するべく頬をつねった。
「いててっ!!」
「? 何してるの?」
 同じくコルベールにルーンをスケッチされていたナビィが、不思議そうな声で尋ねてくる。
「いや、これ夢かなあって」
「今の100回は目が覚めそうな痛みの後にそう思えるなら、流石に能天気じゃ済まないぞ」
 呆れたように言うムジュラの仮面に、だよなあと答えた。答えたことで、才人の焦燥感は
更に募ったが。

「ん? ……これは……」
 そこで、コルベールが何故か怪訝とした表情をする。そこへ、ムジュラの仮面が彼に問い掛けた。
「どうでもいいが、スケッチが終わったならもう戻っていいか? 図体のでかいままだと不便でな」
「ああ、構わないよ」
 コルベールに確認を取ってから彼が元の姿に戻ると、タバサが再び才人たちに声を掛けてくる。
「他の生徒の邪魔になる、こっちに」
 それだけ言うと、タバサは人垣ができている方とは離れた位置へ歩いて行った。その背中を
眺めながら、才人は両側の2名に聞いてみる。
「こっちにったって、どうする?」
「決まっているだろう。どうにも状況が判らんならば、ついていく他にない」
 言いながら、ムジュラの仮面はタバサを追っていった。ナビィもそれに肯いて、後に続く。
「……なんだかなあ」
 頭を掻きながら、才人は近くに落ちていた自分のノートパソコンを拾い上げ、タバサ達に
ついて行った。

 そして、タバサが人の集まりから適当に距離を取った位置で足を止めると、赤毛の少女が
駆け寄ってくる。
「タバサ!」
 少女がタバサの名前を呼べば、タバサも彼女に肯き返す。そこで、赤毛の少女は才人たちの
方に目を向けてきた。
「無事召喚できたみたいだけど、よく判らないことになってるみたいね」
「いや、よく判らないのはこっちこそなんだけど。てゆーか、よくを通り越してわけ
わかんないんだけど」
 苦笑気味に言う少女に才人が言えば、ナビィとムジュラの仮面もうんうんと肯く。
「あら、そう? まあ、そうでしょうね」
 すると、彼女は皮肉っぽい笑みで応えた。見れば、彼女もかなりの美貌の持ち主だ。
年齢は才人よりも1つか2つ上だろうか。ボリュームのある赤い髪は腰より長く、綺麗な
褐色の肌がどこか野性的な印象を与える。
 シニカルな笑みが浮かんだ表情は目鼻立ちが整い、蠱惑的な魅力を湛えていた。その上、
スタイルは大きな胸や、女性にしては高い身長を始めとてもグラマラスで、雑誌のグラビアモデルも
顔負けといった風情である。
 人形のようなおとなしい雰囲気で美少女のタバサとは、また違ったベクトルの美少女といえた。

「とりあえず、自己紹介すべきかしら? あたしはキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・
アンハルツ・ツェルプストー。こっちのタバサの友達よ。貴方達は?」
 そこで、少女キュルケが己の名を明かした。長い上に覚えにくい名前だと少し思いながら、
才人たちもそれに応える。
「ああ、俺は平賀才人」
「コキリの森の妖精、ナビィよ」
「ムジュラの仮面だ」

 キュルケは、何故か才人とナビィの自己紹介に一瞬眉をひそめるが、すぐに笑みを取り
戻した。
「それで、貴方達は何処から来たの?」
 そして、すぐさま次の質問を投げ掛けてくる。どうやら、タバサに代わってこちらの素性を
確かめようとしているらしい。
「何処って、俺はアキバ……東京の秋葉原から」
 才人がそう答えれば、キュルケとタバサは首を傾げた。
「トウキョウやアキハバラというのは?」
 僅かながら不思議そうな感じで聞き返すタバサ。その様子に、才人は不安になりながら答える。
「というのはって……ここ日本だろ? みんな日本語話してるし……」
 言いながら、声が段々と小さくなっていくのが判った。才人にとって、現状での心を支えて
いたものが、揺らいでいくのが判った。
 目の前の少女たちや周囲の人間は、明らかに日本人ではない。そして、今立っている風景も、
間違いなく東京近辺のそれではない。
 それでも、彼らは自分と話が通じていた。つまり、日本語を話していた。外国人が皆流暢な
日本語で話している以上、ここは日本のはずである。
 その考えが、この理解しがたい状況に対する、支柱となっていた。が、タバサとキュルケの
反応を前に、それさえも崩れそうになる。

「質問を変える」
 不安がる才人を見ながら、タバサが僅かな思案の後に言った。
「貴方達のいた、国の名前を教えて」
 ここが日本ではない――そう言われたに等しい言葉を聞きながら、才人たちは答えていく。
「……俺は、日本だ」
「ワタシはハイラル王国から」
「国じゃないが、タルミナ地方。なんという国に属するかは知らん」
 人間、妖精、仮面の順に返答されながら、タバサはまた思案顔になる。
「ここはトリステイン王国」
 聞き慣れない国名を言いながらタバサは才人たちを見比べていく。
「貴方達の言った国名と地名は、どれも聞いたことがない」
「あ、うん。正直、俺もどれも知らない」
 才人がそう言えば、残りの2人も同じ答えを返した。
「まじで、どういうことだよ……」
 茫然と呟きながら、才人は頭を抱える。彼女たちが嘘を言っているとは思えない。
というよりも、嘘で片付けるには説明不可能なことが多すぎる。
 先程からちらついている懸念から逃れようと、才人はなんとなく天を仰いでみた。
刹那、その目を大きく見開くことになるとも知らずに。
「なっ!?」
 本日何度目かの驚きの声を上げると、才人は目にしたままの事象を叫ぶ。
「月が……2つある!?」
「え……あぁ!?」
「ほう、確かに」
 才人の言葉に反応して、ナビィとムジュラの仮面も空を見上げ、それぞれ違った反応を見せた。
 しかし、才人は2人の反応に興味を示すことができない。月が2つ。幾らなんでも、これは
あり得ない。地球上に、こんな景色が存在するはずがない。
 しかし、それでも頭上に浮かぶのは、赤と青の大小2つの月。その現実は、才人の頭に浮かぶ
ある考えを、はっきりと肯定していた。
「俺、魔法の世界に、迷い込んじまったのか……?」
 小さく漏れたその言葉は、誰の耳にも拾われることはなかった。

 一方、タバサとキュルケは、月に驚いている才人たちをきょとんとした顔で見つめている。
「月が2つって、それがどうかしたの?」
 不思議そうな様子で尋ねてくるキュルケに、才人は猛然と言い返した。
「どうしたもなにも、月は普通1つだよ! どこの世界に2つあるんだよってここの世界なんだ
ろうけど! なんなの、ここ!? なんなの、あんたら!? 俺なんでここにいるわけ!? ここなんて
世界!? これファンタジー!? それともSF!? 地球何処よ、日本どっちよ!?」
 とうとう疑問の許容量に限界がきた才人は、感情の赴くままに言葉をぶつけていく。
そんな才人に、ムジュラの仮面が呆れた声を掛けてきた。
「ヒラガといったな? 少し落ち着け。傍で聞いていて、意味判らんから」
「落ち着けって、落ち着けるかよ!」
 ムジュラの仮面に怒鳴り返すと、今度はナビィが溜息交じりに言う。
「Listen! なら落ち着かなくていいから、そちらのお2人の顔を見てみて?」
「へ?」
 言われて、キュルケとタバサに視線を戻す。2人の視線は、温度にこそ差があったが、ある
一点において全く同じ色をしていた。
 即ち、可哀想なものを見る眼という点で。

――いや、ちょっと待て! なにそのイタい人見る眼!? 俺そういう認識か!?

 それに気付いた才人は、さっきまでとは違った意味で慌てふためいた。年下だろう美少女と
年上と思わしき美人に、脳みそ的な意味で哀しそうな眼差しを送られるなど、切ないにも程が
ある。
「ちょっ、ちょっと待っててくれ!」
 なので、とりあえず才人は自分が月が1つしかない場所から来たと証明することにした。
手早くノートパソコンを開き、電源スイッチを押す。
「……っ」
「へえ、なにこれ?」
 モニターに起動画面が表示されていくのを見て、タバサとキュルケが驚いた反応を示すが、
才人は気にせず操作を続けた。サンプル画像から月夜の画像を選択し、デスクトップをそれに
変える。
「ほら、これ見て! 月1つだろ!」
 画面を彼女たちに向けながら叫ぶ。

 しかし、彼女たちの興味は、その画像に向いていないらしい。才人が怪訝としていると、
タバサが何事か呟きながら、手にしている大きな杖の先を、パソコンの上で振っていた。
「……マジック・アイテムじゃない」
「え?」
 タバサの言葉に、キュルケが疑問の声を上げる。
「ディテクト・マジックに反応がない。少なくとも、系統魔法で動いてはいない」
「ちょっと待って。それじゃあ、こんなのが魔法を使わないで動いてるって言うの?」
 幾らか驚いた風に言うキュルケ、自分の持ち物に思案するタバサを見ていて、なんとなく
気持ちが落ち着いてきた才人は、それに答えた。
「いや、そりゃ魔法じゃなくて、科学的っつーか工業的に作られてるから」
 その言葉で、タバサとキュルケが顔を見合わせる。やはり程度に差はあれど、驚いていると
いう点では同じ表情だ。
「工業的、ということは、これは機械の類なの?」
「ああ、そうだけど」
 タバサの疑問にそう答えると、彼女はまた何やら考え出す。数秒そうしたかと思えば、彼女は
ノートパソコンを指差した。
「貴方は、この絵のように月が1つの場所から来たの?」
「うん。だから、そう言ってるじゃん」
 どうにか納得してもらえそうな流れになってきて、才人は安堵の息をついた。これで、
哀しい脳の人扱いは避けられそうだ。心配することが違う気がしないでもないが。

「タバサだったな。オレからも1ついいか?」
 そこで、ムジュラの仮面が会話に加わってくる。才人のパソコンを興味ありげに見つめて
いたタバサが、それに答えた。
「なに?」
「あれのことだ」
 言いながら、仮面の顎をしゃくって方向を示すムジュラの仮面。そちらの50メートルほど
先には、ぽっちゃりした体型の少年が杖を片手に声を上げていた。
「我が名はマリコルヌ・ド・グランドプレ! 5つの力を司るペンタゴン、我の運命に
従いし、“使い魔”を召喚せよ!」
 言葉が終わった瞬間、才人は目を見開く。マリコルヌと名乗った少年の前に現れたのが、自分が
くぐった鏡のようなものとそっくり同じだったために。
 驚き、それをまじまじと見ていたら、やがて鏡が消え、後には1羽のフクロウが残されていた。
「うおっ、フクロウが出てきたぞ!?」
「さっきは、金髪の娘がカエルを1匹出していたぞ」
 才人が驚いていると、ムジュラの仮面が教えてくる。
「カエルって、この距離でよく判ったな」
「伊達にでかい目をしてはいない。それでタバサ」
 ムジュラの仮面はタバサに向き直ると、質問を続けた。
「あの小僧、使い魔がどうとか言っていたが、お前もオレたちにそのルーンとやらを刻んだと
言っていたな?」
 そこで、才人もはっとなってタバサを見つめる。
「もしや、オレたちはああしてお前に呼ばれたのか?」
 その質問に対し、タバサは肯いてみせる。
「マジですか……」
 今現在の自分の状況を端的に、程があるほど端的につきつけられ、才人は開いた口が
塞がらなかった。
「時の神殿のせいじゃなかったのね……でも、なんでワタシたちを?」
 よく判らない単語を交えつつ、ナビィもそこで声を発した。そして、才人もその言葉に同意する。
 自分たちは、それぞれ全く別の場所から来たようだし、種類というか存在自体もまるで
異なる。何故こんな妙な選択肢で自分たちをこの異世界に招いたのか、理由が見えなかった。

 そして自らが呼び出した3名の視線を浴びつつ、タバサはゆっくりと話し始める。
「使い魔の召喚、サモン・サーヴァントは、行うのは自分の意志でも、何を呼ぶかまでは
メイジの自由が利かない」
「メイジ?」
 才人が聞き返せば、タバサは答えてくれた。
「私たち、魔法を使う者のこと」
 魔法使いということかそういえば英語の辞書にそんな単語あったっけか、と才人は納得すると
ともに、やっぱここ魔法の世界かファンタジーな等とも考えていた。
 そして、それをよそにタバサはナビィへの返答を続ける。どことなく、暗い声音で。
「今言ったように、私の方では何を召喚するかまでは選択できない。私も、貴方達が召喚
されるまで、何が現れるか判らなかった」
「マジですか……」
 再び唖然のセリフを才人が呟いていると、タバサの方は、今度はムジュラの仮面の方に杖を
向けた。
「少し、ディテクト・マジックをかけてみていい?」
「ディテ……なんだって?」
 その単語が判らないのだろうムジュラの仮面に、タバサは教えた。
「どういう魔法が使われているのか、調べる呪文」
「ほう、別に構わないが」
 許可をもらうと、早速タバサは呪文らしきものを呟きだす。それを聞きながら、才人はそれが
自分のパソコンに対して使っていたのと同じ言葉であることに気付いた。

 すると、タバサは微妙に眉をひそめ、ムジュラの仮面に問い掛ける。
「……貴方も機械なの?」
「? いや、俺は魔道の呪物だ。歯車仕掛けや電気仕掛けのような、無粋な代物ではない」
――電気仕掛けの概念なんてあるんか
 呪物と名乗っている割に近代的な発言をするムジュラの仮面を、才人は奇妙な眼で見つめた。

 彼が機械の獣を手下にしていたこと等、才人には知る由もない。

「どういうこと?」
「? どうしたの、タバサ」
 何故か訝し気な声を出すタバサに、キュルケが問い掛ける。
「ディテクト・マジックに、反応がない」
「え、嘘!?」
 ノートパソコンの時より明らかに驚いた表情で、キュルケはムジュラの仮面を見た。そして、
タバサのものより細く短い杖を取りだすと、タバサが唱えていたのと同じ呪文をムジュラの
仮面に向ける。
「本当……貴方、魔法を使わないで浮いてるの?」
「いや? この浮遊は魔力によるものだが」
 何を言っているんだとばかりに答えるムジュラの仮面に、少女たちは不審気な眼差しを送る。
「魔法を使っているのに、ディテクトできない?」
「確かに、どういうことかしら?」

「Hey!」
 タバサとキュルケが腑に落ちないでいると、ナビィが声を上げた。
「少し、ワタシの考えを言っていいかしら?」
 その言葉に全員の視線を集めながら、彼女は続ける。
「さっき、才人君が持っていた機械にタバサさんは系統魔法で動いていないって言ってた
わよね。今の呪文は、その系統魔法って種類の魔法に反応するものなの?」
「そう」
 タバサが答えると、ナビィは推論を言い切った。
「それなら、彼はそれと違う魔法を使っているってことじゃない?」
 はっとした表情で、2人はムジュラの仮面に向き直る。ムジュラの仮面も、ナビィの考察に
肯いてみせた。
「それが妥当な考えだな。かけられて判ったが、確かにオレの魔法とは異なるらしい」
「貴方は先住の魔法を使うの?」
「なんだ、それは?」
 タバサの疑問に、ムジュラの仮面は質問で返す。
「私も詳しくはないけれど、精霊の力を借りて行う魔法と聞いている」
 そうタバサが言えば、何故かムジュラの仮面は笑い声で応えた。
「ハハハ、ならばそれも違うな。オレは魔族、精霊とはむしろ敵対関係だ」
「あ、やっぱり魔物だったんだ」
 ムジュラの仮面の言葉に、ナビィが反応する。
「まあな。やっぱりということは、見当はつけていたのか?」
「モンスターでもないのに生きている仮面なんてそうそうないし、物や道具が魔物化することはそう
珍しくないわ。石像のアモスとか、氷像のフリザドとか」
「……そうか、オレは連中と同系統なのか」
 ムジュラの仮面は複雑そうに言うが、そんな2名に才人は問い掛けてみた。
「なんか話が合ってるけど、お前ら同じ様な所から来たのか?」
 ナビィとムジュラの仮面は一瞬顔を見合わせるが、やがて互いに首――というよりもやはり
体――を横に振る。
「違うと思うわ。タルミナって地名を聞いたことがないのもあるけど、なんていうか魂の質が
ハイラルの魔物と違ってる気がするもの」
「同感だ。お前もオレの知る妖精たちとは、羽音や輝きが異なって見える」
 つまり、この2名は互いに似た世界ではあるが、やはり異世界の住人ということらしい。
それも、才人がいた地球とも、今彼らがいるこの世界ともどうやら違う世界からだ。
 3名が3名とも違う世界から違う世界へやってくるとは、なんともスケールの大きな話だった。

「なんだかなあ……それで、呼ばれた俺たちはどうすりゃいいんだ?」
「それは……」
「では、全員使い魔を召喚できましたね」
 才人の疑問に答えるタバサの声を、コルベールの声が遮る。才人たち5名の視線がそちらに
向けば、コルベールは手を叩いて周囲の者たちに指示を出していた。
「それでは、これにて春の使い魔召喚の儀式は終了とします。皆さん、教室に戻りますぞ」
 言いながら、コルベールが杖を振って何事か呟くと、その体が宙に浮かび上がる。見れば、
周りの少年少女たちも同じ様に飛び上がり、桃色がかったブロンドの少女などは翼がある青い
ドラゴンにまたがったりしていた。

「マジでファンタジーなんだな、ここ……」
 その非現実的な光景に、もはや精神がまいるどころか感心してしまう才人だった。そろそろ
感覚が麻痺してきたのかもしれない。才人の神経が元々図太いことも一因しているだろうが。

「ミスタ・コルベール」
 そこで、同じく浮かび上がったタバサとキュルケが、コルベールの許へ飛んでいく。
「ミス・タバサにミス・ツェルプストー、どうしたのかね?」
「はい、私とタバサなのですが、次の授業を公欠させていただきたいのですが」
「公欠? 何故かね?」
 首を傾げるコルベールに、キュルケは言葉を続けた。
「はい。彼女が召喚した使い魔たちですが、通常召喚される使い魔とは異なり、皆明確な
自意識を持っています。その上、彼らは使い魔の存在すら存じていないようです」
「なるほど、そういえば、使い魔のルーンのことも知らないようだったな」
「ええ、ですので、まずは彼らに状況を説明することから始めた方がよろしいかと思いますの。
けれど、私の小さな友人は言葉が多くありませんから」
 言いながら、キュルケはタバサを後ろから抱き締める。
「そこで、私が彼女のフォローをしたいと思いまして」
「ふむ、君の言う通りだろうね。判った、公欠を認めよう。君たちは彼らとの交流に
努めたまえ」
「ありがとうございます、ミスタ・コルベール」
「ありがとうございます」
 タバサとキュルケはコルベールに一礼すると、才人たちの許へ戻ってきた。

「待たせた」
「いや、いいんだけど」
 短く言うタバサに答えると、続けて才人は質問する。
「さっき授業とか公欠とか言ってたみたいだけどさ、2人って学生なのか?」
「ええ。ほら、あそこに建物があるでしょ? あれがトリステイン魔法学院。で、あたしたちは
あそこの生徒ってわけ」
 タバサの代わりにキュルケが答えると、才人、ナビィ、ムジュラの仮面は揃ってなんとも
いえない表情――というか雰囲気――になる。
「ということは、オレたちは学生の授業の一環で今ここにいるわけか」
「笑えねー……」
 微妙な声を出すムジュラの仮面と才人に対し、タバサが俯きがちに言葉を発する。
「ごめんなさい」
「あ、いや、わざとじゃないんだろ? 仕方ないよ」
 哀し気に言うタバサに対して、慌てて才人はフォローした。

「それよりさ、もう少し使い魔ってののこと説明してくれるか? まださっぱり判らない
からさ」
「ええ。だから公欠頼んだんだもの」
「とりあえず、学院に戻る」
 言って、学院の方を向くキュルケとタバサ。才人もそちらを見やると、途端顔をしかめる。
「あそこまで歩いてくのかよ……」
 最低でも1㎞は向こうに建つ城のような外観の建物を見て、ぼやきが漏れた。他の4名は
皆飛べるが、自分は徒歩で行くしかない。
 憂鬱な気分で頭を掻いていると、ムジュラの仮面が声を掛けてくる。
「なら、オレの力を使うか?」
「え?」
 聞き返す内に、ムジュラの仮面は裏側を才人の顔に向けた。
「オレを被ってみろ、俺の力を貸してやれる」
「お前の力を?」

 その裏側を見ながら、才人は躊躇した。言葉をしゃべり、自らの意思で動き、裏側から
不気味な触手を生やしてうごめかす――そんな仮面を被るというのは、正直かなり遠慮したい。
 しかし、同時に興味もあった。魔法の力を操る仮面、その力を貸してもらえる、それは
どんな感覚なのだろうか、自分は何を得られるのだろうか。

 警戒と好奇心、2つの感情のせめぎ合いは、やがて決着を見た。即ち、好奇心の勝利で。
ちなみに逡巡の時間5秒ジャスト。好奇心のせいでこの状況にあるというのに、懲りない
男であった。

 才人はムジュラの仮面に手を伸ばすと、おもむろに自らの顔に押し付ける。
 刹那、何かが変わっていった。自分が、それまでの自分とは違っていくことを感じた。
全身を熱いものが駆け巡っていく。血液の流れが、そのまま力の奔流へ変わったような
感覚に、心がどんどん昂っていく。
 今なら、普通なら不可能といえることができる気がした。この力なら、様々なことを
なしえる気がした。

「どんな感じだ?」
 経験したことのない高揚感に酔いしれていると、不意にムジュラの仮面が聞いてくる。
顔に直接つけたものから声を掛けられるのは、少し変な感覚だった。
「ああ、なんかすげえよ。今なら、色んなことができそうな気がする」
「色んなこと、か。なんでも、とはいかないか?」
 言われてみて、才人は少し考えてみる。
「いや、そこまで自信は持てないな」
「そうか……どうやら想像以上にパワーダウンしているな」
 やや沈んだ声でムジュラの仮面が言うが、すぐに気を取り直した声を上げた。
「だが、宙を舞うくらいならできるだろう」
「あ、うん。それくらいなら」
 答えながら、空中へと浮かび上がる。今までの常識ではありえないはずのそれは、
とても自然に行うことができた。まるで、足を前に出すような感覚で。
「へえ、すごいじゃない」
 キュルケが感心したように言うと、タバサが続く。
「それじゃあ、行く」
 その言葉に全員が肯き、5名は魔法学院へと飛んでいくのだった。

「きゅるきゅる……」
 最初から最後まで忘れられていた、サラマンダー1匹を置き去りにして。

~続く~



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