あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロと電流-01

 時間は夜。
 場所は自分の部屋。
 ルイズは、自分の膝の上に抱えた桶のようなものを見つめ、途方に暮れていた。
 色は赤と銀色で。横には何か棒のようなものがついている。
 そして、何故か棒の先端に印されているルーン文字。
 これは一体何なのか。
 桶の癖にそこが丸いので安定しない。使いにくいことこの上ない。もしかして、鍋だろうか。
 だけどルーン文字は気になる。
 そしてさらに気になるのは、この桶と一緒に召喚されたと思しきもの。
 やっぱり赤と銀の二色で塗られたそれは、最初は手押し車だと思ったものだ。
 だけどあるべき所に取っ手がない。荷台もない。
 人の身体のようなものが横たわり、その下に二つの車輪。前と思しき方向には何故かゴーレムの頭のようなもの。因みに耳に当たる部分には刃物がついていてとっても危ない。

「なにこれ」

 サモンサーヴァント終了後のルイズの第一声がそれだった。
 とりあえず、人の形をしたものの上に乗っていた桶にコントラクトサーヴァント。

「本体はこっちなのですか?」

 と、桶の横に浮かび上がったルーンをスケッチしているコルベール先生に聞かれたけれど、正直ただの勘である。
 成功したような感覚はあったような気がするけれど、自信はない。
 手押し車もどきは、何故か前の方についていた取っ手を持つと、車輪付きなので割合楽に運ぶことができた。
 とは言っても重量はとんでもないので、一度転ばせてしまったときは焦ったものだった。
 普段身体を鍛えていたので何とか引き起こすことはできたけれど、昔のままの自分であれば途方に暮れていただろう。

 それにしても、これは一体なんだろう。
 腹這いになった人が二つの車輪の上に乗っかっている。そう見えるこれは、ゴーレムの一種だろうか。ではセットで付いてきた桶は一体?
 ルイズは考える。
 アカデミーなら、エレ姉さまならわかるのかも知れない。だけど、こんな用事で呼びつけるわけにはいかない。そんなことをすればどれほど恐ろしい目に遭う事やら。
 ルイズはまた一つ溜息をつくと窓の外を見て月の位置を確かめる。

「もうこんな時間?」

 寝なければ、朝に差し支える時間である。
 ルイズは素直にベッドに潜り込んだ。
 使い魔の詳細はまた明日、である。


 翌朝。

「おはようございます、ルイズ様」
「おはよう、シエスタ」

 日課となった水場での挨拶を終えると、ルイズは自分の洗濯物をシエスタに渡す。とはいっても今日の所は下着とシャツだけだ。

「お願いね」
「はい。任せてください」

 そのまま、ルイズはランニングを開始する。
 ルイズは魔法が使えない。だから努力した。それでも使えなかった。
 ではどうする。さらに努力を積み重ねるか。それとも諦めるか。
 ルイズはどちらも選ばなかった。
 微かに使えるものを、さらに使えるようにする道を選んだのだ。
 ルイズにできるのは魔法失敗による爆発だけ。
 魔法を失敗して爆発を起こすメイジなど他にはいない。しかし、失敗は失敗である。魔法が自由に使えないという事実に代わりはない。
 なら、失敗を前提にして魔法を使えばどうなるだろう。
 爆発しかできないならば、爆破を使えばいいではないか。
 狙いが定まらない? 近距離で使えばいい。
 近距離でもダメ? では、接触すればいい。
 どうやって接触する? その肉体は何のためにある? 
 だから、ルイズは身体を鍛えていた。
 学園で初めてランニングをした日に出会ったのが、朝早くから洗濯を始めていたシエスタだった。
 毎朝合うたびに声をかけていると、いつの間にか交わす言葉が多くなり、気付くとシエスタはルイズに一番慣れているメイド、専属とまではいかないが好みや行動を一番把握しているメイドとなっていたのだ。
 規定のランニングを終えると、シエスタが冷たい井戸水を準備している。

「どうぞ、ルイズ様」
「ありがとう」
「朝食の準備はできています」

 ルイズの朝食は他の生徒たちとはちょっと違う。
 他の生徒は食堂で、それこそ食べきれないほどの無駄に豪華な朝食なのだが。ルイズは違っていた。
 自分の食べられる量だけ、それだけを用意してもらいたい。そう、厨房に伝えたのだ。

「まずくて食べられないものならまだしも、量が多すぎて食べられないなんて、馬鹿馬鹿しいでしょう?」

 シエスタは頷き、料理長のマルトーはもっと大きく頷いたものだった。
 マルトーに言わせればその通り、なのである。
 贅沢な食事はいい。貴族が贅沢なものを食べることにはいちいち文句を付けていては始まらない。羨ましいとは思ってもさほど腹は立たない。
 しかし、残すとは何事か。それも、食べるより残す方が多い者までいるのだ。
 かといって、量を減らすと「見栄えが悪い」と苦情が出るのだ。
 だったら残さず食え、とマルトーは心の底から思っている。

「じゃあ、行きましょうか」

 そう言われ、そこでシエスタは気付いた。
 洗濯物を入れていた桶。これは……


「あの、ルイズ様」
「なに?」
「その桶なんですけれど」
「あ、これ」

 実のところ、なんとなくな行動なのだが、さすがに召喚したものに下着を入れてきたなどとは言えず、ルイズは少し考えて、

「変わった桶でしょ?」

 とだけ答える。

「似たような物を見たことがあるような」
「え」

 シエスタは記憶をたぐっていた。
 そう。死んだお爺ちゃんが持っていた綺麗な絵。そこに似たようなモノがあったような気がする。
 でも、あれは桶じゃない。
 あれは……

「めっと、です」
「なに?」
「めっと、です」
「めっと……?」
「はい。お爺ちゃんの絵にそっくりなモノが書いてありました」
「お爺ちゃんの絵?」

 シエスタの言葉を繰り返すだけのルイズ。それ以外の言葉がないのだ。

「はい」
「それで……」

 ルイズはめっとをじっと見る。

「めっと、って何なの?」
「頭に被るものだそうです」
「頭に?」

 言われてみれば。
 ひっくり返せば兜のようなものに見えないこともない。いや、この堅さだ。本当に兜なのかも知れない。

「なるほどね」

 ひっくり返して……
 さっきまで自分の下着を入れていた、と考えると少し抵抗があるが。他人の下着ではないのだ。
 ルイズはそれを被った。


(ヘルメット)

 脳裏に浮かぶ名称。
 そして、さらに脳裏に浮かぶ数々の情報。

「え、なに、なに、これ」

 次々と浮かぶ情報は、実はルーンの仕業なのだがルイズにそれがわかるわけもない。

「ルイズ様?」
「ごめん、シエスタ。今は一人にして」

 ルイズは脳に流し込まれる情報を必死で追っていた。
 これは、ルイズだからこそ耐えられるのである。普通の生徒ならばとっくに気絶している。日頃の研鑽、そして持って生まれた優秀さ故の結果である。
 同じ事をやって耐えられる同学年の者は、数人いるかいないかだろう。
 シエスタはしばらく待ち、そして耐えきれずに人を喚びに行こうかと思ったところで、ルイズはヘルメットを脱いだ。

「ふぅ、終わったわ」
「ルイズ様?」
「ああ、御免ね、シエスタ」

 ルイズはもう一度、メットを被る。
 そして自信満々に、耳元の部分から伸びる棒に触れると、それを口元まで伸ばした。

「来なさい! ザボーガー!」

 周りを見回すシエスタ。人の気配はない。

「誰をお呼びになったんですか?」
「私の使い魔よ」
「使い魔、ですか」

 異様な音に気付き、シエスタは生徒寮の方を見た。
 何かがやってくる。
 シエスタは気付いた。
 あれはもしかして、お爺ちゃんの絵の中にあった「おうとばい」というものでは?
 似ている。二つの車輪で地面を走ってくるところは、話に聞いたそのままだ。

「あれが私の使い魔。ザボーガーよ」
「ざぼうがあ、ですか」

 キュイン、とターンして止まるバイク。

「見てなさい、シエスタ」

 不敵に笑うルイズ。

「チェンジ! ザボーガー!」

 呆気にとられるシエスタの前で、一台のバイクが人型に変形していく。
 立ち上がり、タイヤが収納され、入れ替わるように出てくる腕。
 そして、完成するザボーガー。

「どう? 私のザボーガー」
「凄いです、ルイズ様」


「へえ、なかなか面白そうじゃない」

 頭上からの聞き覚えのある声に、ルイズは仰ぎ見ると、そこには何故かキュルケが。

「何してんのよ、そんなところで!」
「それはこっちのセリフよ。昨日の様子だと、なんだかよくわからないものだったけど……」

 着地し、ザボーガーをしげしげと眺めるキュルケ。

「面白いゴーレムね。馬のない馬車みたいに走って、今度は人型? ガリアにもこんなガーゴイルはないんじゃない?」
「人の使い魔が気になってこそこそ見に来たわけ?」
「こそこそって……」

 キュルケは大きな仕草で肩を竦める。

「これ、アンタの部屋にあったのよね?」
「ええ」
「そこから走ってきたのよ? 朝っぱらからけたたましい音立てて」

 しかも、寮内である。

「気付いてない奴がいたらそうとうの大馬鹿よ」

 ぽかん、と口を開くルイズ。
 言われてみれば、その通りだ。

「とにかく、安眠妨害。しかも朝方の一番気持ちいい時を邪魔したんだから、それなりの顰蹙は覚悟しなさいよ?」
「え、えーと」
「私は、まあ貴方のその怯えた顔で勘弁してあげるわ」
「しょ、しょうがないじゃない! 使い魔がこんな大きな声なんて知らなかったんだから!」

 実際のところは、使い魔召喚のあと数日の珍騒動はそれほど珍しいものでもない、大なり小なり計算違いというものは誰にでもあるのだ。
 例えば、韻竜を召喚できたはいいが幼稚だったことに気付いた者とか。
 ルイズのこの騒動も、その一環だとすればそれほど恨みは買わないだろう。
 だけど、キュルケはあえて大袈裟に言うのだ。
 理由は簡単。「面白いから」である。

「そういうことは他の人たちへの言い訳にとっておきなさい。それじゃあシエスタ、朝食に行きましょうか。給仕をお願い」
「は、はい」

 明確にルイズ専門メイドというわけではないシエスタには、当然拒否権はない。
 どうしてミス・ツェルプストーが自分の名前を? という疑問がシエスタの頭に湧いたが、とにかく朝食の準備に慌てて向かう。
 キュルケがシエスタの名前を知っていたのは、ルイズに一番近いメイドだからである。
 ルイズのことはかなりしっかり見ているのだ。ルイズをライバルと決めている彼女としては。
 だからキュルケは喜んでいた。
 使い魔の召喚に成功したルイズは、決して自分がゼロではないと証明したのだ。
 ゼロと呼ばれながらも決して諦めない彼女を、キュルケは心密かに尊敬していた。
 しかも、失敗魔法のその失敗すら利用して自分の技にしようとしていると知ったときは、その念は余計に高まったのである。
 魔法が使えることは、使えない者から見れば確かに凄いことだろう。ならば、魔法が使えないのに同じ土俵に立とうとする者はもっと凄いのではないか。
 それも、名門ヴァリエール家に生まれながら魔法が使えず、それでも家名にもたれず、親に庇護を求めず、自分の持っているもので勝負しようとするルイズ。
 これを立派と見なさず、何が立派なのか。そしてそれが理解できない者など、キュルケにとっては敵ではない、見下ろすべき対象、現実が理解できない愚か者だ。

 シエスタは私の給仕をするのよ、と叫びつつ、ルイズはやや強引にシエスタの手を引いていってしまう。
 それを笑って見送りながら、キュルケは、主に置き去りにされた使い魔を見た。
 赤と銀色のゴーレム。
 確か名前は……

「ザボーガー。貴方、いい主に巡り会えたわよ」

 キュルケはそう言うと、ザボーガーの肩を撫でるのだった。




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