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五月蠅いゼロの五月蠅くない使い魔-01



  第1夜
  使い魔って何?


 草原を、自身の肩まである杖を持った少女が歩いている。
 服装は、肩を露出させる厚く白い無地のワンピースに金のバックルの付いたベルト、手首からの二の腕まである青紫色の腕袋、そして浅葱色のマント。髪は薄紫色で、大雑把に二つ縛りでまとめられて先がブラシのようになっており、額には小さな玉がくくり付けられている。
 加えて少女の後ろを跳ねながら付いてくるのは、人間の頭より一回り小さい『タマゴ』――自らの意思で動く『タマゴ』だ。
 タマゴ鑑定士すら正体のわからぬタマゴであるが、魔物には違いなく、少女に従っている。
 少女は類まれなる魔法の才能を持つ『賢者』であると同時に、『魔物使い(モンスターマスター)』でもあった。後ろのタマゴは、かつて仲間だった三匹の魔物の生まれ変わりだと少女は思っている。
 タマゴの名前は『クリオ』。少女の大切な人と同じ名前。

 そんな少女とタマゴの前に、突然光る鏡のようなものが現れた。
「ピー! ピー!」とタマゴが騒ぎ、少女も思わず杖を向ける。
 しかし、すぐにそれについて『あるもの』が思い当たった。
「旅の扉……?」
 それは異世界への扉。彼女もいくつか通ったことがある。モンスターマスターなれば、誰もが通る、冒険のはじまりの扉。
 少女の旅は、目的はあるが、もともと行く当てもない流浪の旅。いつかまた大切な人と出会うまでの修行の旅。
 タマゴを落ち着かせ、扉を通る決意をする。
「おいで、クリオ」
 タマゴと共に、少女は光る鏡のようなものに入っていく。
 そして、扉をくぐった向こうで待っていたのは――――爆発だった。

 目の前の倒れた少女を見て、ルイズ・ド・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは頭を抱えた。
 二年生に進級する際に必要な春の使い魔召喚の儀式。幾度も『サモン・サーヴァント』の呪文を唱えては失敗し、周りの同級生から嘲笑され、とうとう先生からの「後一回だけ」の言葉を受けて、一段と強く己の使い魔を願った。
 果たして現れたのは、メイジと思しき少女。マントを身に付け杖を持つ、これぞメイジといわんばかりの少女だった。
「おい、ゼロのルイズがメイジの女の子を召喚したぞ!」
「さすがはゼロのルイズだ!」
「自分が魔法使えないからって、何もメイジを誘拐してくることないだろ!」
 生徒の間で爆笑の渦が沸き起こる中、その場で慌ててルイズに駆け寄ったのは、禿頭の中年教師コルベール。
「ミス・ヴァリエール」
 声をかけられてルイズは顔を上げた。
「ミスタ・コルベール! あの! もう一回召喚させてください!」
「それはダメだ。ミス・ヴァリエール」
「どうしてですか!」
 興奮するルイズを抑えようとしながら、コルベールは続ける。
「落ち着きなさい。一度召喚された『使い魔』は変更することができない。何故なら春の使い魔召喚は神聖な儀式だからだ。好むと好まざるにかかわらず、彼女を使い魔にするしかない……」
「そんな!」
 コルベールはなおも続ける。
「けれども、相手がメイジとなれば……事は重大です。もしも彼女がトリステインではない国のメイジだとすれば、最悪の場合外交問題になります。当然、あなたの家は少なからず損害を被るでしょうし、学院も……」
 と、コルベールとルイズが顔をつき合わせている間に、少女が目を覚ました。
「ここは……」
「お気づきになられましたか、ミス」
 コルベールは少女の上半身を起こした。
「ここは一体……?」
 エメラルドグリーンの目に移るのは、正面に立つピンクがかったブロンドの髪の少女と、横にしゃがむ禿頭の中年男。
「ここは、トリステイン魔法学院です」
「トリステイン魔法学院?」
「ご存知ありませんか」
「私、別の世界から来たから……」
「べ、別の世界?」
 コルベールとルイズは混乱した。まさか、ルイズの爆発で頭がおかしくなったのでは。
「ま、まあ、とりあえず大事なことだけ確認しておきましょう。あなたの領地は?」
「領地?」
「家ですな」
「…………ない」
 少女は自分の生みの親を憶えていない。幼い頃別の夫婦に貰われたが、妻が魔法の力を恐れて放逐した。その後は様々な所を旅して、魔法の才能を伸ばし、魔物を仲間にし、そして……。
 コルベールとルイズは、この少女を没落貴族の娘だと考えた。没落貴族の娘の行く末は相場が決まっている。妾か、傭兵か、犯罪者か……。
「あの」
 ルイズが口を開いた。
「もしよかったら、魔法学院に住まない?」
「え?」
「その……行く所がないなら、だけど」
 その言葉は同情と打算だった。大貴族の三女であるルイズは、自分が召喚した以上、おそらく没落したであろう貴族の娘を放ってはおけなかったし、使い魔召喚が失敗したとなれば、進級できなくなる。
 一方、少女にしてみれば、初めて訪れる世界で衣食住が確保できるのはありがたいことだった。
周囲に目を配れば同じような格好の少年少女が百人近く、そして動物や魔物が同じぐらい。学院がそれなりの規模であることは推察できる。
「オホン、失礼」
 コルベールが口を挟んだ。
「ミス、いかがです、貴女さえよければ、ミス・ヴァリエールと契約を……」
 コクンと、少女が頷いた。
 ルイズはほっとした。
「では、ミス・ヴァリエール。契約を」
「はい」
 ルイズは少女の前で小さな杖を振った。
「我が名はルイズ・ド・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンダゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」
 朗々と呪文らしき言葉を唱え終えると、ゆっくりと唇を近づけた。
「ん……!?」
 とまどう少女を抑えて口付けを終えると、ルイズと少女は顔を赤らめた。ルイズは気恥ずかしさから。少女は息苦しさから。
「終わりました」
「『サモン・サーヴァント』は何回も失敗したが、『コントラクト・サーヴァント』はきちんとできたね」
 コルベールが嬉しそうに言った。
「……いきなり――」
 何を、と少女は言おうとしたが、その言葉は額に走る痛みと熱で止められた。それも一瞬のことであったが。
「ふむ、珍しいルーンだな。ちょっと失礼」
 横のコルベールが少女の額に浮かんだルーンを確認し、それをスケッチしていた。
「ではミス・ヴァリエール。本日の授業は免除しますので、彼女に学院を案内してあげてください。夕食を食べ終わった後は、学院長室まで彼女と一緒に来てください。」
「わかりました」
「さてと、じゃあ皆教室に戻るぞ」
 コルベールは踵を返すと宙に浮いた。
 すると、周りの生徒達も一斉に宙に浮いて、城のような石造りの建物へ向かって飛んでいった。
「ルイズ、お前はそのメイジに掴まってこいよ!」
「あいつ『フライ』はおろか、『レビテーション』さえまともにできないんだぜ」
「そのメイジ、あんたより絶対優秀ね!」
 口々にそう言って笑いながら飛び去っていく。残されたのは、ルイズと少女だけになった。
 皆が飛び去った後、ルイズが口を開いた。
「そういえば、あなたの名前は?」
「…………マルモ」
「ふうん。ところで、そろそろ立ったらどう?」
 言われてマルモが立ち上がる。と、
「ピー! ピー!」
「な、何?! 何?!」
「……クリオ」
 今までどこにいたのか、タマゴ=クリオがマルモの足元に寄っていた。
「そのタマゴ、あなたの使い魔?」
 ルイズが訝しげに訊いた。
「使い魔……って、何?」
「へ? あ、あなた、メイジじゃないの?!」
「私は、メイジ……魔法使いじゃない。賢者」
「賢者? 一体何を言ってるの?」
 もしや、自分はメイジになりすました娘を使い魔にしてしまったのではないかとルイズは落ち込んだ。
「賢者は魔法使いと僧侶の両方の呪文が使える。限られた職業」
「わけわかんないこと言わないでよ! ……はあ、わたしひょっとしてとんでもない失敗を…………」
 ぶつぶつと呪いの言葉を吐くルイズ。そこにクリオが慰めに入る。
「ピー」
「……そういえば、このタマゴは何なの? 使い魔じゃないらしいけど」
 ルイズは実技ができない分座学で猛勉強したが、孵化しないまま動くタマゴなんて聞いたことがない。ひょっとしたら新種の幻獣かもしれない。
「私もよくわからない。でも、すごくいい子」
「ピー! ピー!」
 タマゴはルイズの頬に擦り寄っている。
「ああ、せめてこっちを使い魔にできていれば……」
「さっきも言ってたけど、その使い魔って何?」
 使い魔を知らないメイジなんていない。ルイズはマルモが平民だと確信した。
「しょうがないわね! 説明してあげるわよ!
 いい? 使い魔っていうのはね……まず、主人の目となり、耳となる能力を与えられるわ」
「どういうこと?」
「使い魔が見たものは、主人も見ることができるのよ」
「……見えない」
「わたしもよ!」
 ルイズはややヒステリックに言った。
「それから、使い魔は主人の望むものを見つけてくるのよ。例えば秘薬とかね」
「……歩いていれば、拾える」
「そんなので見つかれば秘薬じゃないわよ!」
 マルモが旅してきた世界では体力や魔法力が全回復する薬や死んだ者を生き返らせる葉などが落ちていたのだが、こちらの世界ではそういうことはないのだろうと判断した。
「そして、これが一番なんだけど……、使い魔は、主人を守る存在であるのよ! その能力で、主人を敵から守るのが一番の役目! でも、あんたじゃ無理ね……」
「私は賢者。ほとんどの魔法が使える」
「嘘おっしゃい! ああ! 全くどうしてこんな……」
「嘘じゃない。見てて」
 と、ヒステリーを起こしているルイズの横で、マルモが遠くの地面に向かって杖を構える。
「ヒャダルコ」
 一瞬小さな吹雪が巻き起こり、幾本もの巨大な氷柱が地面に深く突き刺さる。
「嘘……」
 その光景に、ルイズは目を見開いた。
「あ、あんた、やっぱりメイジじゃないの!」
「だから、魔法使いじゃなくて、賢者」
「もう、どっちだっていいわよ!」
 ルイズは悲しくなってきた。同情と打算からマルモを使い魔にしたが、魔法の威力を見るに最低でもトライアングルメイジ。自分はゼロ。ゼロのルイズ。魔法は失敗ばかり。成功したのはさっきの『サモン・サーヴァント』と、『コントラクト・サーヴァント』ぐらい。けれども相手は紛う方なきメイジ。余計に同級生から馬鹿にされるに決まっている。
 悲しみに、悔しさがにじんでくる。
「……泣かないで」
「ピー」
「だ、誰が泣いてるっていうのよ!」
 言葉とは裏腹に、ぽろぽろと涙がこぼれていた。袖で拭っても拭っても、とめどなく涙があふれてくる。
 そんなルイズを、マルモは抱き寄せた。
「え?」
 二人の身長は同じ程度だが、抱き寄せた際にルイズが膝立ちの状態となり、マルモの胸の辺りに顔を埋める形となる。
 マルモの胸は大きい方ではないが、そのふくらみは柔らかくルイズを包んだ。
 マルモが思い出すのは、かつて共に賢者の修行をした少女。自分のせいで他人が悲しむのは、もう嫌だった。
 ルイズが思い出すのは、何度も自分を慰めてくれた姉。姉と一緒にいると、何故か心和むのだった。
 時間を忘れ、二人はずっとくっついていた。
 やがてルイズは泣き止むと、立ち上がって顔を赤らめながら、ぼそぼそと言葉を紡いだ。
「その……ごめんなさい」
「え?」
「えっと……服、汚しちゃって、それに……」
 泣いたのは、とても自分勝手な理由だから。己の才能への失意。使い魔の才能への嫉妬。虚栄心。自尊心。
 それらが入り混じり、膨れ上がり、涙という形であふれた。
 マルモは、そんなルイズに語りかける。
「ルイズ」
「え……?」
「あなたの名前」
「……うん」
「名前があるということは、誰かがあなたを呼ぶ必要があるということ。名前があるかぎり、あなたは必要な存在」
 マルモは、いつも傍にいてくれた仲間を、名前を呼ばなかったばっかりに失ってしまった。
 だがルイズは、マルモの言葉に納得がいかなかった。
「……ゼロよ」
「え?」
「ゼロのルイズ! どんな魔法も、使えて当たり前の魔法でさえ失敗ばかり! 成功確率ゼロのルイズ!!
こんなの、こんな名前、呼んで欲しくないわよ……!」
 ルイズは再び泣きそうになる。
「ルイズ」
「何よ! どうせ、魔法を使えるあんたには……!」
 マルモは再びルイズを抱き寄せた。今度は立ったままだ。
「放せ! 放しなさい!!」
「ルイズ」
 暴れるルイズを、マルモは抱きとめて放さない。
「放しなさいよ! あんたも……」
「私は、呼ばない」
「え?」
「あなたを、『ゼロ』なんて呼ばない。ルイズ。何も付かない、『ルイズ』」
「な、慰めや同情なんて! どうせ心の中で、馬鹿にするんだわ!!」
「信じて、ルイズ。何があろうと、他の皆が『ゼロ』と言おうと、私はあなたを『ルイズ』と呼ぶ」
「うるさい! うるさい! うるさい!!」
「ルイズ」
「……何よ、何よ、どうして、あんたなんか…………」
 どうして、今日あったばっかりなのに、こんなに優しくしてくれるのだろう。どうして、こんなに心安らぐのだろう。
 ルイズは顔が見えないように、深く、深く、マルモに抱きついた。
 やがてルイズは落ち着くと、抱きついたままマルモに声をかけた。
「ねえ、あなたの名前、もう一回言ってくれる?」
「……マルモ」
「マルモ」
 と、ルイズはマルモの名前をいつくしむように呟く。
「ねえマルモ。本当は、使い魔には許さないことなんだけど……私のことを、『ルイズ』って呼び捨てにしていいわ」
「……ルイズ」
「い、言っとくけど、二人っきりの時だけだからね?! 皆の前で言ったら、私の躾が疑われちゃうもの!」
「わかった……ルイズ」
「わ、わかればいいのよ」
 いつまでも抱き合っているわけにもいかないので、ルイズはマルモから離れた。
速くなっている鼓動を悟られたくなかった。
「それじゃあ、学院に向かいましょう」
「ピー!」
「わっ」
 タマゴ=クリオの声にルイズは驚く。
「クリオだっけ? 出たり消えたり、本当に不思議なタマゴね」
「別に消えてない。ずっといた」
「そお? まあいいわ、行きましょう。歩きながら話を聞くわ」
 二人は、お互いのことを話しながら学院へ歩いていった。



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