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ゼロの黒魔道士-70


「ワタシとー、やり合うおつもりですかー?おつもりですねー?それでは~……」

ガレキの塔の上、ワルドの手が光った。

「狂宴のはじまりはじまりぃ~!!」

切り裂くような風の渦。
風が千と万の刃となって襲ってくる。


「くっ!」
「きゃっ!?」

避けるのが、精一杯……
ワルド、何でこんなに強くなってるの!?


ゼロの黒魔道士
~第七十幕~  かぜはやみ



石畳の床が、どんどん削られていく。
カケラの一個一個が、まるで刃のようだ。
一つ一つが鋭く尖り、急所を確実に狙ってくる

「ほらほらーっ!コォオオッ!!」

ワルドの掛け声が、別の場所からも聞こえる。
風の遍在。
別の方向から竜巻みたいな風が、ボク達を襲う。

「ハァアアッ!」
「ダッ!!」

デルフでも止めることができない、空気の剣、
それが、2か所から。
僕の身体が、引き裂かれそうになる……

「どう、すごい?すごいでしょ、ぼくちん!昔の俺様と全然違うでしょォ?」

「くっ……」
遍在のワルドに向かって、斬りかかる。
切り裂かれそうになりながら、こっちから出る。
デルフが本調子じゃなくても、遍在ぐらいなら……
そう思ったボクが甘かったみたいだ。

ワルドは、あっさりと自分の遍在を『消した』。
ボクの攻撃が当たる直前に、消して、また『出した』。
ボクの、背後に……

「あーくび出ちゃいそー……っとぉ、危ないデスヨー」
「うわぁっ!?」
「ビビッ!?」

遍在をいくつも出したりひっこめたり……
魔力が増えると、こんなこともできるの!?


「あー、もう『閃光』って二つ名も古臭くてビミョーな感じーィ?」
「じゃーあぁ……“光速の異名を持ち重力を自在に操る高貴なる騎士”~ッなんてー、どう?どぅー?」
「ん、いいかもー♪ 重力も操っちゃう~?操っちゃおうか~?」

遍在の自分と、会話しながら、ワルド達がケタケタ笑った。
戦いながら笑うなんて、どうかしてる。
その声が、ぐわんぐわんと空気の中に広がる。
ボクの頭までおかしくなってしまいそう……

「……狂ってる……!」

これが、一番しっくりくる。
ワルドは、『狂っている』。
どういう理由か知らないけど、今のワルドは強力な魔力をその体の中に宿している。
無理矢理、大きな魔力を取りこんで、使って……だから、頭がおかしくなっているんだ、きっと。
まるで……黒のワルツ3号みたいに。
過ぎた魔力が、脳を侵して、狂ってしまっているんだ。

そんなことを考えていると、ルイズおねえちゃんが立ち上がった。
全く無防備に、すっと立ち上がったんだ。
額を少し切ってしまったのか、血まで流しながら。

「ワルド!どうしちゃったっていうのよっ!?」

「べっつーにー?なーんにもー?僕は僕だもーんねー!」
「んー?それよりぃ、ルイズちゃぁ~ん!早くぅ、『虚無』の力を見せておくれよぉ♪」
「あ、そうだそうだー!ほらほら、君もぉ、破壊したくて、うずうずしてきちゃってるんでしょぉ?」

2人のワルドが、やかましく笑う。
小馬鹿にするような、イライラするような笑い方。
でも、ルイズおねえちゃんは、それにひるまないでギッとワルドを睨みつけたんだ。

「ワルド!もうやめて!私達は、この先へ進まなければならないの!みんなの、ためにっ!」

「ふーん、みんなのー?」
「へー、あっそー……」

2人のワルドが、1人になる。
また遍在を消した……

「……イイ子ぶりやがって」
いや、違う!
速すぎて見えなかっただけだ!
いつの間にかルイズおねえちゃんの目の前にワルドが立っている!

「ひぁっ!?」
「ルイズおねえちゃんっ!!」

ギリギリ。本当にギリギリだった。
ルイズおねえちゃんとワルドの間に体をねじこんだ。
……ただのパンチが、ものすごく重い。
デルフで受け止めるのがやっとだっ……

「『みんなのため』?『誰かのため』?ケーッ!気色ワルくて反吐が出る!!!!!」
「っ!?」

ワルドの声に合わせて、景色が歪む。
みんなの記憶を見た、さっきと同じように。
だけど、変だ。
空の色がチグハグ。
影の方向もバラバラ。
地面は、目がチカチカするようなグチャグチャの色のタイルがしきつめられている。
いくつもの額縁が浮いていて、ステンドグラスの中を魚が泳いでいて、
太陽が3つで、月が紫色の1個きり……
……記憶まで、狂ってしまったっていうの?

「そんなもんはイイ子ぶりっ子の押しつけだァッ!ィ役立たず以下なのだ!!」
「っ!?」
変わった景色に目を囚われていると、額縁の1つ大きな口を開けた。
ワルドごと、ボク達を飲み込む。
まるで虫取り網のように、額縁が上から覆いかぶさってボク達を包んだんだ。

額縁の中……
ここは……アルビオンの教会?
真っ白な壁に、キラキラのステンドグラス……
変わっていく景色に目がチカチカしてくる……
「結局みんな、自分が満足したいだけのワガママッ子なのさーっ!もっと素直になってェ、僕と破壊しよぉーよーっ!」
「っ!?ぅぁあっ!?」

しまった。
目が慣れていない間に、やられた。
遍在のワルド、その足が、ボクを蹴飛ばす。
ズシンとした衝撃。
歪む視界。
自分の足が、床から浮いて……
ダメだ、飛ばされるッ……

「『フライ』ッ!!」

ふっ飛ばされている間、ルイズおねえちゃんの呪文が聞こえた。
でも、ワルドには避けられたみたいだ。

「ほらほらー!虚無だとかなんだとか言ってぇー!結局はブッ壊すための爆発呪文じゃぁないかー!」
「だったらー、いっそ僕と一緒にィ、何もかも破壊しよーよっ!あブッ壊そぉ~♪」

ワルド達の、狂った笑いが教会の中にこだまする。
変幻自在……まるで捕え所のない、本当に、風のような相手……
「くっ……」

大理石の床の上、なんとか立ち上がるけど、勝機が見えない……

『風』相手に、どうやって戦ったらいいの!?



ピコン
ATE ~うみはあれ~


「ふんっ!!」
「GRWOO!?」

鉄の葉一片閃いて、
また一体、トリスタニアの脅威が取り除かれる。
銀の鱗の奥底まで、深く突き刺さった鋼の一振り。
アニエスは確実に相手の命を奪った感触を確かめてから、
血飛沫を振りまきながらその剣を引き抜いた。

事態は収束に向かいつつある。
それは間違いない。
一体一体、着実にアニエス自身が屠ってきたのだ。
それでも、なお、障害は多い。
空に目を向ければ、未だ多くの銀の竜。
血と炎の忌まわしき臭気は止むことなく辺りに漂っている。

「息をつく間も無いな――っ!?」
剣の血糊をぬぐいながら、アニエスは確かに聞いた。
救護を求める微かな悲鳴、喘ぎ。
本当に、息つく暇もあったものではない。

「こっちかっ!!」

足が一歩でも進む限り、
剣が振ることができる限り、
例え息がどれだけあがろうとも、アニエスは駆ける。

しかし、そこに横たわっていたのは信じがたい事実であった。

「たい……ちょ……」
「ミシェル!?どうした!?しっかりしろっ!?」

路地に討ち捨てられていた身体は、自分の部下のもの。
銃士隊副長、ミシェル。武ではアニエスにも匹敵する剛の者。
それが剣すら持たず、やっとのことでその身をひきずっているという有り様だ。
幸いなことに、まだ暖かい。
いや、それが幸いかどうか……
全身をぬらぬらとした粘着質のある液体に浸されている。それが生温い熱を放っているのだ。
猛獣の涎を頭からかぶったにしても、このように全身を覆われることはあるまい。
それに、怪我も大してしてないようなのに疲労の色が濃い。
やはりミシェルを包む粘液が原因か。
まさか、毒か。

「に……げて……くださ……い……」
「たわけっ!手負いの部下を放って逃げれるものかっ!!」

ぐったりとした部下の身体をその肩に担ぐ。
ぬるり、とした粘液が自分にかかっても気にしない。
例え、それが毒だったとしてもアニエスは躊躇しなかっただろう。
それが上官としての、いや人としての当然の行いであるのだから。

だが、ミシェルを担いでの退却は、為されることは無かった。

『そいつ』は、ぬらりと現れた。

「――もう、焦らし上手なんやから~!ミシェルた~ん、どこ行きはった……おろ?」
「っ!?」

まず驚くべきはその大きさ。
かつてトリステイン魔法学院をも襲ったフーケとかいう泥棒がいたそうだが、
そのゴーレムをはるかにしのぐ。
今までその巨体をどこに隠していたというのだろうか、
紫色の球体が、ぬぅんと家屋を見下ろして、その全容を露わにしてゆく。

色で言えばブルーベリー。
それを何百万倍も大きく膨らませればこのようになるだろうか。
ククリ刀のように湾曲した両目が、その端の方からだらりと垂れ下がり、
鮫や鰐といった水棲系の猛獣のごとき牙が球体の下部から上歯だけ何本も突き出している。
そして、それが何よりもこの球体を特徴づけるものであるが、
ぬらり、と艶めかしく濡れ光る太い触手。それが、8本。
その内の1本が赤瓦の屋根を思いっきり踏みつぶした。

「たいちょ……あい……つやば……い……」

肩に担いだミシェルの肢体がビクンと反応する。
ミシェル。
武の上ではアニエスも認めた女騎士をここまで怯えさせるとは。

「うひょひょひょ! さっすがトリステインやで、しかし~!
 かわいい女の子ぎょうさん……
 うっひょひょー!わいの好みやでー!惚れてまうやろーっ! ゲルマニアから出てきて良かったーっ!」
「貴様が、ミシェルをっ――」

アニエスも、噂程度には聞いたことがある。
ゲルマニア海軍が捕えたクラーケンとかいうしゃべるタコの仲間。
それが見世物小屋から逃げだし、いずこかに消えたと。
それがこいつなのだろう。

こいつが、この下劣極まりない嬌声をあげてミシェルをなぶり者にでもしたというのか。
アニエスは自身の血が、ふつふつと湧き立つのを感じた。

「お?お?そんな目ぇで見つめられると照れてまうや~ん!
 うんもー、オルちゃんモテ期到来?この世の春が来てもうた?もう、オルちゃん感激ーっ!」
「ペラペラしゃべるタコがっ……わたしの部下をっ!!」
「た……ちょ……ダ……め……」

ミシェルの身体を、ゆっくりと下ろす。
頑丈そうな商店の壁。
柱がしっかりしている場所だから、しばらくは持つだろう。
少なくとも、このタコ野郎を刺身にする間は持つはずだ。

「タコちゃいますー!オルトロスですぅーっ!知ってる人は知っているー!知らない人は覚えてねー!
 お姉ちゃんも名前教ぇてーなー?
 何て言うお名前なーん?
 彼氏とかいてるー?
 紫のタコって好みー?           ってタコちゃうわー!」
「貴様に名乗る名など、無いっ!」

怒声と共に閃かせるは、鋼の一振り。
最初っから抜き身。
なめた口を聞く下衆なケダモノ相手に、手加減をするつもりは一切ない。

何より、自分の部下を傷つけられたのだ。
許せるわけがあろうか?

「あ、今 ムカつくタコ野郎だと思わなかった?しつこい?しつこい?
 ゴメンねゴメンね~♪ほな、お詫び言うたらなんやねんけど……
 わいの女にしてあ~げるっ!!」
「ほざけっ!!」
「ダメ……たい……ちょ……!」

巨大なる化け物に立ち向かう女騎士。
さながら英雄劇のワンシーンのようなその場面を、
かすれていく意識の中ミシェルは、こう思いながら見ているしかなかった。
『隊長では、こいつに勝てない』、と。


ピコン
ATE ~だいちはくさっていく~

「間違いないか?」
「うん、すっごくにおう!くっさーいのっ!こっち!」

ガリアの大通りを広場へ、さらにそこから下り、街の外へ。
エルフと吸血鬼、大小2つの影が疾風のごとく駆け抜ける。
かかる死体の群れどもを、驚嘆すべき先住魔法で討ち払い、
迷うことなく進み行く。

彼らの任は『此度の襲撃の司令官を始末する』こと。

司令官の存在、イザベラは襲撃の最中これを推察し、2人に指示を出した。
一見、本能のままに暴れているように見えたゾンビだが、イザベラは看破したのだ。
氾濫する死人の群れ、それが確実に王宮を目指している様を。
また、その流れを誘導している死人が、その群れの中に何匹か紛れていたことを。
群れの部隊長共とでも言うべきそいつらが、昨日今日腐ったばかりというような見た目では無かったことを。

そして――

「『モスフングス』の、焼けつくようなにおい……ほらっ!やっぱり!!」

むせかえるほどの、モスフングスの胞子。
リーダー格の死体共にこびりついた、墓場キノコの香り。
それを辿った先が、ここだった。

「吸血鬼の嗅覚とは、大したものだな……」

レイスウォール共同墓地。
リュティス郊外にひっそりと広がる終の寝所。
身より無き兵士が、家が滅びた貴族が眠る場所。

予想通り、と言うべきか。
墓土が掘り返され、引きずるような足跡までがついている。
あとは、肝心の『誰が掘り返し、誰が動かしたか』だが……

「――気付かれた、か」
「っ!?」
「えっ!?」

こちらはモスフングスよりも早く見つかった。
というよりも、見つけられた、と言った方が正しいか。

墓標達を見守る菩提樹の上より、ふわりと姿が舞い降りた。
流れる金髪、美しい肌、涼やかな碧眼。
そして、尖った、耳。

「ビダおにいちゃん!?え、双子っ!?」
「――なるほど。我が写し身か」
「やはり、お前か。我の――」

ビダーシャルは薄々気付いていた。相手の正体に。
かさぶたが既に取れた頬をなぜる。
ロマリアにおいて血を流してしまった。
一滴で十分だ。血は記憶と肉体をつなぐ鍵。

「『我の偽者』、とでも? どちらが偽者か、本物かなど、些細な相違では無いか」

おそらくは蛮人の古の法具、『スキルニル』であろう。
血の一滴さえあれば、偽者を拵えるなど単純な作業にしかならない。
しかしながら、偽者の自分自身の挙動を、ビダーシャルは首をかしげて見ていた。
違和感。
その動き、その仕草。
まるで、熱にうかされているかのような……

「――肝要なのは、どう生き、どう死に、どう操るか、だ……このように」

呼応するように、墓土が盛り上がる。
冬眠後の蛙共が目覚めるかのごとく、死体共が、
いや、それだけでは無い。
掘り起こされた墓土がまた、ビダーシャルの姿を象っていく。
何体も、何体も。
モスフングスの肺胞をかきむしるような臭いのする土を飲み込んで。

「我が写し身とて、容赦はせんぞ? まだ約束を果たす途中なのでな」
「うわ、不味そうなのがいっぱい……どれも土だったり腐ってたり……」
「貴様っ……禁忌の術を!」

『己自身を象ること無かれ』、『死者を操ること無かれ』。
これらは、道義的な理由はもちろん、
その危うさからエルフの間で暗黙の内に禁忌とされてきた事柄である。

己自身の強さや力は、己自身では御することはできない。
死に生を模させるのもまた、多大な魔力を要する。

精霊の力を借りる先住魔法の術者が、禁忌の力を御することはまず不可能で、
やがて借りうけた魔力を返済しきれなくなってしまえば、
精霊達は容赦なく貸しを回収しようとし、術者の精神も肉体も奪い尽くすことになるだろう。
それを、いとも簡単に、躊躇も無く為し得たこの偽者――

「我が名はネフテスが使者、ビダーシャル。
 滅びと腐りの禁呪、ゆっくり味わいながら死ぬが良い」
「くっ……」

ビダーシャルは感じていた。
この偽者は、自身の血より生まれた己自身であるが、
いかなる理由か、その強さも力も、はるかに自身を越えているということを。
冷静沈着を常とするエルフの心に、珍しく焦燥の感情が芽生えた。



ピコン
ATE ~ほのおがすべてをやきつくす~

勝者と、敗者。
戦においてそれらは常に表裏一体。
薄紙一枚で隔てられた差でしかない。
たやすくそれらは入れ替わり、覆る。

「はぁ、はぁ……」

コルベールは、自分が勝者の側に立っていることを感謝した。
過去の亡霊、かつての部下は黒焦げになって横たわっている。
あるいは、自分がそうなっていたやもしれないと考えると、冷や汗しか出ない。


『爆炎』。
コルベールが長年の経験から編み出した、必殺の魔法。
土魔法による錬金で空気の組成を変える。
しかる後に点火。爆散する炎は敵を一息で狩る。
また、同時に周囲の空気を奪い取ることで窒息させる。
確実な二の太刀を用意した、まさに必殺の魔法であると言えよう。

だが、相応にリスクは伴う。
集中力を要する魔法は、精神的疲労を加速させる。
長年、戦闘行為から遠ざかっていたコルベールにとってはなおさらだ。
ブランクという枷。
おもりの付いた衣服のような疲労が、全身を覆っていた。

コルベールは、その感覚を振り払うように踵を返し歩き始めた。
長々と感傷に浸るわけにもいくまい。
自分は教師なのだ。
生徒の安全を確認せねばなるまい。

『ドクン』

だが、どうしたことだろう。
かつての軍人としての本能が、
いや、もっと原初からの本能、生物としての本能が告げている。
『終わっていない』、と……

『ドクン』

自身の心音に導かれるように、振り返る。
理性が告げる、『見るな、見てはいけない。逃げるべきだ』と。
充血した眼球が、それに反し、横たわる死体を捕えてしまった。

『ドクン』

炭と化したメンヌヴィルの身体が、わずかに震えた。
それは……そう、歓喜の渦を自ら湧き起こすかのように。

「――ダーハハハハハ……さっすが隊長殿だぜぇ……」

『ドクン』

コルベールの血が一気に冷える。
ありえない。
自分の魔法を直撃を受け、生きていることなどありえない。
し損じたか?ならばトドメを。
だが、それができない。
血が凍る。理性の指示に、身体が反応しない。
見ていることしかできない。

『ドクン』

「『人間』の武の極み、確かに見させてもらったぞ、隊長殿ぉ……」

爛れた黒焦げのシルエットが、ゆっくりと持ち上がる。
卵から孵る毒虫。
脱皮を終えたばかりの蛇。
忌まわしき嫌悪感を振りまきながら、メンヌヴィルの身体が、鎌首をもたげた。
腕は折れているのか、ダラリと垂れ下がり、それがまた蛇を思わせる。

『ドクン』

「――感謝するぞ、えぇ?……『人間』やめる決心がついたことになぁ!!」
メキリメキリと、メンヌヴィルの身体が膨らむ。
小さい身体に押し込められていたエネルギーが、出口を求めるように、ボコボコと膨れ上がる。
血管が浮き上がり、発光する。
『生まれる』。コルベールはそう感じた。
人間という殻を捨てて、『何か』が生まれようとしている。

「――な……」
「う、うごゥぅウうぅうゥウぉぉォォォォォオオオおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

叫びが途切れた時、彼はもう、『人には非ず』という存在になっていた。

「ハァ……この姿になんのは初めてでな、えぇ?少々やりすぎちまうかもしれないのは勘弁してくれよ?」

深紅の鱗、血染めの瞳、朱に染まった牙。
炎そのものをたて髪とし、大木を思わせる太い胴体がとぐろを巻いている。
蛇。“炎蛇”。かつてコルベールの二つ名であった存在。
いや、そんな生っちょろい物じゃない。

コルベールは、こうつぶやくのがやっとであった。
「――化け物……」

はるか東方に住む幻獣に、名称の起源こそはハルケギニアと同じくするものの、全く異なる存在があると言う。
圧倒的な力を誇り、半ば伝説上と化した生命種。
『龍』。
ハルケギニアの『竜』が天空を駆ける覇者とするならば、
東方における『龍』は神そのもの。


「お疲れのようだな隊長殿、えぇ?『さあ、回復してやろう』とでも言いたいトコだが、俺は回復魔法は使えないんでな。
 まぁ、俺様も腕が折れてるんだ……イーブンってことで、問題無いな?それじゃ……」

コルベールが感じたのは、畏怖。
まさしく神に抱くような、畏怖の念。
それが、いかなる死神や悪神であれ、人はその壁を越えられない。

「『全力でかかってくるがよい!』なーんてなっ!!ダハハハハハハ!楽しもうや、隊長殿ぉお!!」

勝者と、敗者。
戦においてそれらは常に表裏一体。
薄紙一枚で隔てられた差でしかない。
たやすくそれらは入れ替わり、覆る。

だがコルベールは、疲弊した脳で感じてしまう。
自分が、今はどちらの側に立ってしまったのかを。



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