あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

赤目の使い魔-11


静まり返った廊下に、足音が反響する。
昼休みにもかかわらず、誰も居ない。その事実が、走るルイズの不安を煽る。

――なんで……なんで……
――貴族に、喧嘩を売るなんて……!

焦燥、動揺、様々な意図を含んだ疑問が、彼女の思考を支配する。
その脳裏には、先程告げられた言葉が反芻されていた。

 ・・・

あの後、キュルケは部屋の惨状を見て、静かに言った。

――貴方たちに何があったのかは、詮索するつもりは無いわ。
――だから、私はただ報告だけをしに来たのよ。
――……貴方の使い魔が、生徒の一人に喧嘩を売ったわ。
――彼、殺されるかもしれないわよ。
――場所は、ヴェストリの広場。
――行くか行かないかは、貴方が決めなさい。
――そうそう、喧嘩の原因だけどね。
――1つは、相手の生徒が彼の友達を怒鳴りつけたから。
――もう1つは、貴方を侮辱したからよ。

そして表情を変えぬまま戸を引き、去っていく。
ルイズは、暫く逡巡していたが――
やがて、ベッドから飛び降り、外へと飛び出した。

 ・・・

確かに、彼に会うのは恐い。出来る限り関わりたくないと言うのが本音だ。
だが、足は止まらない。床を蹴り風を切り、彼女を広場へと運ぶ。

彼の言葉が、彼女を慮ってのモノだという事は理解してないわけではない。
去り際に心無い言葉放ったことも、少し後悔している。
一端とはいえ、決闘の原因に自分の事があったという話に、心が動いたのも事実。
だが、彼の言う事に従うかは、また別の話だ。
別の話なのだが――

「あぁ、もう!」

ピンク色の髪の毛を掻き毟り、ルイズはしかと前を見据える。

――細かいことはもういい。
――後は、着いてから考える!

そう心で呟いたときの、彼女の目――
その中に、いつもの強気な光が少しながらも戻っていた。

足に伝わる固い石の感触が、土を踏むやわらかい衝撃へと変わる。広場に集まる群衆が、すぐに目に入った。
人が密集する中を、押しやりかき分け前に進む。やがて、目の前が開けてきた。

そこで、彼女が見たものは――

数分前 ヴェストリの広場


「ば、馬鹿な……」

驚愕が、言葉となって現れる。
幾らドットの魔法とは言え、ワルキューレは並の人間よりも優れた身体能力を有している。
更に、その身体を形作るのは二つ名の通り青銅だ。能力強度共に平民が太刀打ち出来る訳が無い。
だが、現実では首を失い地面へ無様に転がっている。

――一体、どうやって……?

単純に説明すると、クリストファーは頭を抱えると同時に膝を首に差し込み、強度の弱い繋ぎ目を狙って、思い切り両手を引きワルキューレの首をへし折ったのだが――
ギーシュの視点ではワルキューレとクリストファーの姿は重なり、それらの間は死角となるため、
その場面を見ることが出来なかった彼は、クリストファーが純粋な腕力でワルキューレを破壊したのだと思い込んでいた。
頭が疑問と恐怖で掻き乱される中、クリストファーの声が彼の耳に届く。

「どうしたの? 随分と静かになっちゃって。怖いんなら無理しないほうがいいと思うよ?」

「……ッ! 舐めるな!」

冷静な思考をなんとか取り戻し、ギーシュは再び薔薇を振るう。花弁が二枚地面へ舞い、新たなワルキューレが同数生まれた。
そうだ。何を恐れることがある。まだこちらにはワルキューレのストックが四体もある。対するクリストファーはその身一つ。万に一つも負ける目など無い。

「ハハ、そう来なくっちゃね」

犬歯をガチリと噛み合わせ、クリストファーは楽しげに笑った。
二対のワルキューレと相対し、体勢を整えた次の瞬間――
背後に居たワルキューレが、勢い良く跳ね起きた。 

「なッ……」

――よし!

ギーシュは内心でほくそ笑む。
ワルキューレは人間ではない。ゴーレム――つまりは動く石像だ。
首を破壊したと言っても、それは人間にとっての急所と言うだけであり、移動手段を破壊しない限り動きを止めることはできない。
目の前の衝撃のせいで思考が硬直し、ワルキューレも停止していたが、逆にそれが吉と出たようだ。
首の無い歪なワルキューレは、一切の容赦なく片腕をクリストファーの頭部に向かって薙いだ。

しかし――それは再び空を切る。

「よっ……と」

 攻撃にいち早く反応したクリストファーは、その場にしゃがむ事でやり過ごしていた。
 明らかな凶器が頭上を通り過ぎたのに、彼の顔には更に楽しげな笑いが広がっている。

「まぁ、確かにあれじゃあ止まらないか」

そう言ってクリストファーは持っていたワルキューレの頭に手を突っ込み、限界まで体勢を低くしてワルキューレの足元へと潜る。
そして、奇妙なグローブと化した首でワルキューレの膝を思いっきり殴りつけた。
ガゴン、と重い衝突音が響き、ワルキューレの膝が砕け、首もひび割れて崩れる。
衝撃と破壊でバランスを崩したワルキューレは再び地面に伏す。起き上がろうともがくが、砕けた足ではそれすらままならない。

「おぉイテテ、まずは一体……っとォ!」

首の残骸を振り払い、痛みが響く拳をさすりながら話すクリストファーに向かって、二体のワルキューレが駆ける。
まずは一体。強烈な右フックが迫るが、クリストファーは身体を引いて難なくそれを避ける。
ワルキューレも隙は見せない。続け様に左、再び右と拳が唸る。先の出来事で学んだのだろうか、懐に潜る暇を与えない。
クリストファーも迂闊に飛び込むことは出来ず、ひたすら引いて逃げ続ける。
その間に、二体目のワルキューレが横から迫った。防戦一方のクリストファーを重い青銅の拳が襲う。
しかし、クリストファーはその腕を上から取り、押し込んで軌道をずらすと、自らも跳んでその腕へと平均台の要領で乗る。
同時に、別のワルキューレの顔面を足で捉え、蹴るのではなく思い切り押す。
よろけるワルキューレを尻目に、クリストファーは勢いに乗って腕の上で倒立する。彼の全体重が腕にかかり、もう一体のワルキューレもバランスを崩した。
その隙を見逃さず、彼は足をその頭部へと振り下ろし、両足で挟み込む。そして手を離すと同時に、その足を勢いよく前に引く。
ただでさえバランスを崩されていたワルキューレは、抵抗も出来ず地面へ倒れ伏した。
その間にクリストファーは無事着地し、ワルキューレの上に乗る。足の付け根を踏みつけ、両手で足を取り思い切り引いた。
再び、金属の砕ける音が響いた。
いくら青銅とはいえ、首の例の通り、関節の強度は他の場所と比べて格段と低くなる。本来曲がらない方向へ強制的に曲げられた足は根元からへし折れ、クリストファーの手中へと収まった。
それを手に、クリストファーは残りのワルキューレへと駆けた。ようやく体勢を取り戻したワルキューレは慌てて防御体勢を取る。

――……?

ふと、クリストファーは体に違和感を覚えた。思わず動きを止めそうになるが、身体に悪影響を及ぼす物ではないと判断し、そのまま足をワルキューレへと振り下ろす。
本人としては、防御の腕を壊せば十分、その後は同じ様に足を破壊し動きを止めようと考えていたのだが――

――足はワルキューレの体ごと、防御を粉々に砕いた。

――え……!?

今度は、クリストファーの頭が驚きに満たされる。
足を振りかぶった瞬間、いつもよりも段違いの力が腕に込められたのだ。違和感の正体はこれだったのか。
しかし、今はその感触は消えている。彼は、一層困惑した。

だが、一番困惑していたのはギーシュだ。
一度ならず、二度三度までもワルキューレが倒された。それなのに、目の前の男は怪我をするどころか息一つ上がっていない。
薔薇を握る手に汗が滲む。最早、手を抜いてなどいられない。
我武者羅に造花を振るう。四枚、残り全ての花弁が舞った。
新たに四体が練成された。今度は剣、斧、槍と思い思いの獲物を手にしており、残りの一体は盾を構えギーシュを守るように陣取っている。
地面を蹴り、剣を手にした一体が最初に駆けた。斧を持った二体目もそれに続く。
クリストファーも、困惑を振り払いワルキューレに向き直った。剣が、その眼前に振り下ろされる。

そして、その場に居合わせた生徒たちは、信じられない物を見た。
迫る剣に対し、クリストファーはその剣背に手を添え、無理やり軌道を変えたのだ。
聞くだけならば、頭の周りを飛び回る虫を打ち払ったかのように思える動き。
だが、それはあまりにも速く、周囲に素手で剣を弾いたかのような錯覚を周囲に覚えさせる。
剣は彼の頭めがけ垂直に振り下ろされていた。横から力を加えれば、軌道を変えることは確かに造作も無い。
その代わり、剣を追う動体視力、その速さに反応する反射神経が、共に尋常じゃなく必要とされる。
そんな人間離れした行為を軽々とやってのけたクリストファーは、休む暇を与えず、片手で剣の柄を、もう一方でワルキューレの腕を取り、手首を膝へと落とす。
繋ぎ目を的確に狙った膝蹴りはたやすく青銅の手を砕き、剣がワルキューレの手を残したままクリストファーの手中に納まる。

――……まただ。

再び、違和感が体中を支配した。体が羽のように軽くなり、力が溢れ出す。
どうやら、武器を手にした時のみこの感触は現れるようだ。
しかし、その原因はいまだ見当も付かない。

――だけどまぁ、

クリストファーはニヤリと笑って、剣を握る手に力を込める。

――手助けしてくれるってんなら……使わない道理は無い!

そして、ワルキューレに向かって薙いだ。
剣は青銅の身体を切り裂き、いとも簡単に両断する。上半身が宙を舞い、どしゃり、と音を立てて落ちた。
さらに、もう一体のワルキューレへと駆ける。あまりに爆発的な加速に地面が爆ぜた。
斧を構えたワルキューレは横一線に振り抜くが、クリストファーはそれをかいくぐり、相手の股下から剣を跳ね上げる。
一閃、ワルキューレは真っ二つに割れた。
槍を持ったワルキューレが動いた。体を捻り、槍を勢いよく投擲する。
迫り来る凶器を見て、クリストファーは剣をほうった。体を回転させて、紙一重で避けると同時に槍の柄を掴む。
そしてそのまま体を百八十度回転させ、更に勢いを上乗せしてワルキューレに投げ返した。
刃先が煌いたのは一瞬。瞬きを終える頃には、槍はワルキューレの胸を突き破り、余波で上半身も粉々に砕け散っていた。
投擲と同時に、クリストファーは地を蹴る。放っていた剣を拾い、最後の一体へと駆けた。

「ひッ……!」

ギーシュの頭が恐怖に満たされる。本能、理性が共に危険だと叫ぶ。
だが、最早手元には盾を持ったワルキューレしか残っていない。
形は盾でも、材質は青銅だ。当然、既にワルキューレを二体も切り飛ばしているクリストファーに通用するはずも無く――

気が付けば、ワルキューレは盾ごと両断され、彼とギーシュの間を阻むものは何も存在していなかった。

「あ……ぁ……」

静かに歩み寄るクリストファーを見て、恐怖に締め付けられた声帯が、言葉にならない音を発する。
今でも、彼は笑みを浮かべていた。一目で微笑みとわかる、優しい優しい笑顔。
だが目が、あの禍々しい赤眼がギーシュの心臓を射竦める。
そんなギーシュの心情を愉しむかのように、クリストファーが軽やかに声を掛けた。

「さて……、君はさっき、僕の提案にこう言ったよね?」

クリストファーの赤目が、ギーシュをじっと見つめる。その瞳孔に、恐怖に震える自分が映った。

「――『勝手にすればいい』ってさ」

「…………ッ!」

その一言が、少年の頭から矜持と良識を吹き飛ばした。
相手に背を向け、足がもつれるのにも構わず一目散に逃げ去ろうとする。

「だから、まぁ――勝手に死になよ」

無論、クリストファーがそのままギーシュを見送る筈も無く――

重い衝撃が、彼の首筋を貫いた。




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