あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

第拾話「野望の仮面」a




明朝。
グリフォンと馬が一頭ずつ魔法学院を立つ。
馬の背に乗るのは、ギーシュ・ド・グラモン。
先行するグリフォンの背に二人して跨っているのが、ゼロ改め南斗爆殺拳のルイズと、現グリフォン隊隊長のワルド子爵である。

そして、出発する一行を見つめる一つの影。
学院長室の窓からアンリエッタが祈りながら見送っていた。

「彼女たちに、加護をお与え下さい。始祖ブリミルよ……」
あの後、一頻り泣いた後にルイズの部屋に行った。
胸の内を全て吐き出して落ち着いたのか、部屋に入る頃には泣いた素振りなど微塵も見せなかったのはさすがと言える。
結局、ルイズとギーシュがアルビオンに行く事になったのだが、やはり学生二人だけでは心もとない。

それで、ふと、記憶の片隅から、花を摘んできてくれた若い貴族の名前が浮かんだ。
その二つ名は『閃光』。
風のスクウェアメイジで、その力量はアルビオンにもそうそういないと言われている程。
ラ・ヴァリエール公爵領近くの領地を持つ、グリフォン隊隊長の名前。
ただそれだけではなく、昔一度だけ、そのワルド子爵がルイズの婚約者だとルイズ本人の口から聞いたことがある。

ルイズの婚約者という事であれば、信頼できるし、自分の護衛で学院に滞在しているのだから今からでも話は通せる。
それに、こういった隠密行動では優秀な風のメイジの力が一番役に立つ。
そんな気持ちでワルドの部屋のドアを叩くと、その申し出はあっさりと快諾され今に至る。

目を閉じて祈る隣では、暢気そうに鼻毛を抜いていたオスマンが盛大にくしゃみをしたところだった。
「見送らないのですか?オールド・オスマン」
「いや、見てのとおり、この老いぼれは鼻毛を抜いておりますのでな」
どこか飄々とした、捕らえどころのない雲のような態度は、この老人にとってはいつもの事だが
そんなオスマンを見て、アンリエッタの脳裏には、あの常に余裕の笑みを浮かべた顔が浮かんだ。

遥か東のロバ・アル・カリイエから来た男。
その地に伝わる南斗聖拳の使い手にして、南斗の頂点に君臨する帝王。
それ程の力を持つ男が、要求する物と引き換えにルイズに力を貸すという契約を結んでいる。
当然、アンリエッタはサウザーもアルビオンに行くものだと思っていたが、出発する一行の中にその姿は無い。

それもそのはず。
当のルイズがサウザーに頼んでいないからだ。
姫様に危害を加え、無礼を働いたというのが大きな理由らしい。
今のアンリエッタには、そんな些細な事は気にしていられないぐらい切羽詰っているが、こればかりはルイズとサウザーの問題なので口を出すわけにもいかなかった。

「……ところで、オールド・オスマンは南斗聖拳というものををご存知ですか?」
「はて、姫はどこでそれをお知りになったのですかな?」
と、聞いてみたが、オスマンもアンリエッタがどこで南斗聖拳をどこで知ったのかは薄々感付いている。
なにせ、その使い手が学院に居る上に、隠し立てもしていないので直接にしろ、人伝にしろ耳に入るのは当然だからだ。
そうであれば、隠し立てし下手に詮索されるよりも、全てを話し納得してもらうのが一番良い。
そう腹を決めると、まるで遠い昔話でも語るかのように話し始めた。

「いや、それは聞きますまい。……南斗聖拳は、系統魔法と対極にある存在。
  我々が代々始祖ブリミルの血によって系統魔法を操るのに対して、彼らは長き年月に渡って研鑽を続け、一世代ごとの伝承によって技を伝えてきたと聞いております」
ハルケギニアの世界は小さい。
強大なエルフが住まう地を挟んでからの地はほとんどが未知の部分に包まれているからだ。
たまに東方の品という名目で荷が運ばれてくるが、それが本当にロバ・アル・カリイエの物なのかはハッキリしていない。

ハルケギニアにおける系統魔法が使えるかどうかのは、まず始祖ブリミルの血を受け継いでいるかどうかと考えられている。
六千年という長い間、その考えで通ってきたため、今では試しに魔法を使ってみようなんて思う平民は皆無だ。
ならば、ロバ・アル・カリイエでは系統魔法を使えるメイジが存在しないとも考えられる。
それ故に、翼人や吸血鬼、そしてエルフなどの先住魔法を使う外敵から身を守る為に、神とも言えるブリミルに頼る事なく、人が人のみの力で練り上げた聖なる拳。
そう考えれば、確かに系統魔法と南斗聖拳は対極の存在とも言えた。
もちろん、南斗聖拳はロバ・アル・カリイエで生み出されたものではないが、少なくともオスマンはそう思っているし、聖帝様もどうでもいいため別に否定はしていない。
むしろ、案外こちらにも南斗聖拳や崋山流、泰山流などの拳法が違う形として伝わってるかもしれないと考えているぐらいだ。

「彼は、その南斗聖拳の中でも最強と呼ばれる……、確か……そう、南斗鳳凰拳を使い、その実力は始祖ブリミルが用いたガンダールヴにも匹敵するでしょうな」
「ガンダールヴに……」
「実は、土くれのフーケも彼が斃しましてな。あのゴーレムを粉砕する様は壮観でしたわい」
アンリエッタの頭に昨夜の出来事が浮かぶ。
窓から離れようとした時、突如として石壁に穴が空き、あっけに取られている間に捕らえられてしまった。
宝物庫程ではないにしろ学院の壁には固定化がかけられていて、ちょっとやそっとの呪文では壊れない造りになっているはずなのに、易々とそれを貫いた。
だから、オスマンが千の軍を滅ぼせられるというガンダールヴに匹敵するなどという突拍子も無いことを言っても、それはすんなり受け入れる事ができた。

――あのガンダールヴに匹敵する力の持ち主ならルイズを護り切ってくれるのに……

いくら、ワルドが風のスクウェアメイジと言えど、孤立無援の状態で混沌のアルビオンからルイズを無事に守りきれるか疑問が残る。
数で押されれば、もしもという事もある。
無二の親友が命をかけて危険な任務をしてくれるのならば、自分に出来る事は何か。
そう考えると、自然と足が動き、いつの間にかサウザーの部屋の前に立ってしまっていた。


「王女が護衛も付けずに何の用だ?」
アンリエッタが聖帝様の居室に近付き、声を掛ける前に、逆に中から声がかかった
姿も見ずに言い当てられた事に戸惑ったものの、気を取り直して部屋の中へと入る。
こんな所で躓いてはいられないのだ。

「是非、貴方にお話したい事があります」
「何を話しに来たかは想像が付くが……かまわぬ。話してみるがいい」
帝王と王女。
名前だけなら立場的にアンリエッタが少し下程度の両者だが、現実には決して超えることの出来ない壁のような物が存在している。
それは、玉座に座ったままのサウザーという形で現れていた。

「貴方は、南斗聖拳の使い手と聞き及んでおります。あの土くれのフーケも貴方が斃したと
  オールド・オスマンから聞きました。無礼を承知で、わたくしに、いえ、ルイズに力をお貸し願えませんでしょうか」
あの老人、随分と口が軽い物だと思ったが、この際それはどうでもいい。
「それは、この俺に手紙の奪還を手伝えという事か?」
「は、はい、その通りです!」
「……くだらんな。帝王たる俺が、何故そのような事をせねばならぬ。そのような雑務は連中に任せておけば事足りる」
一瞬、ハンマーで頭を殴られたかのような衝撃がアンリエッタを襲った。
にべも無く拒絶され、アンリエッタにとっての最後の望みが断たれたような物だ。
思わずその場に座り込みそうになってしまいそうになったが、サウザーはそんなアンリエッタを眺め淡々と告げた。

「……それに、貴様が欲しいのは手紙などではあるまい?」
心の内を見透かされたような感覚に、アンリエッタの心が大きく揺らぐ。
一度、本心を曝け出してしまったのだから、今更、王女の仮面を被っても仕方が無いと悟ったのか、本当の願いを言った。
「仰るとおりです。ウェールズ皇太子を救っては頂けないでしょうか?」
サウザーはと言うと、さっきよりは興味を引かれたのか、ほんの僅かに笑みを浮かべると片手を天に突き出し続けた。

「ふっ……お前には致命的に足りぬ物がある」
そう言うと、突き出した手を握り締める。
「それは、欲望。己の欲しい物を手に入れようとする『執念』だ」
まるで、この世の全てを手に入れようとせんばかりの仕草に、アンリエッタは目を引かれた。

欲望はなにも物だけに限った事ではない。
殉星のように、一つの愛をひたすらに求める者。
義星のように、一人の女のために死のうとする者。
妖星のように、己のために強く、美しく輝こうとする者。
仁星のように、今より輝こうとする光を守ろうとする者。
将星のように、覇を唱え、師のために聖帝十字陵を造ろうとした者。
程度の違いこそあれ、強者と呼ばれる者は目的のために生き、全てにおいて強烈な執念を持っている。
何かを手に入れたい。何かを守りたい。何かを成し遂げたいという想いこそが強さに繋がり、その根源は、全て執念だ。

「執念……」
今まで聞くことも無かった言葉をを呟くと戸惑いと共に、心の奥底に、ある感情が湧き上がる。
羨望、とでも言うのだろうか。

籠の中で飼われた鳥は、羽ばたく事すら出来ず、飼い主の機嫌を損ねぬよう囀りながら、窓の外の空を眺めるだけ。
空に浮かぶ雲のように、自由気ままに生きてみたいと思った事だって一度や二度ではない。
たった一度ですら、太陽の下で愛する人と並んで歩く事もできず、今にも滅びる運命にある人に、表立って亡命を勧める事もできない。
出来る事なら、ルイズとアルビオンに渡り直接、自身の言葉で亡命を勧めたいと思っているぐらいである。

それでも、思う事が出来るだけで、行動に移す事はできない。
ゲルマニアの皇帝との婚姻を控えているし、なにより、王女としての立場がそうさせる事を許しはしない。
幼少の頃から、王族は自らの心の平穏より、国の平穏を考えるものだと教えられてきたし、為政者としてはそれが正しい形だ。

だが、それなりに平穏な時代である事や、生まれを差し引いても、やはりアンリエッタには致命的に執念が足りない。
王族に生まれたから。同盟を結ぶためだから。
そう自分に言い聞かせて、抗おうとはせずに、流れに流されるまま生きている。
それでは執念など生まれるはずもないし、まして、執念に勝る怒りなど生まれる事は絶対に無い。

だからこそ、そんな生き方しかできなかったアンリエッタには、誰にも媚びる事なく
ただ一人頂点という高みに立ち、思うが侭に生きるサウザーの姿に羨望という物を感じたのかもしれない。

「それも、力あってこそ出来る事。わたくしには、何の力もありません……。国を守るための道具にしかなれないわたくしに一体何が出来るのでしょう」
同時に、その場所が自分では、到底たどり着く事の出来ない場所だという事も、痛い程に思い知らされた。
飾りとはいえ、権力の高みに上る事を義務付けられて育ったアンリエッタと、己の力で権力を奪い、掴み取ってきたサウザーとでは歩んできた道の険しさが違う。
サウザーが纏う雰囲気は、為政者の物ではなく、支配者。
軍団を率い、敵を打ち破り、領土を切り取り、新たに得た土地を支配する。
国の為に王が存在するのではなく、王の為に国が存在し、下の者は悉く王の為に尽くす。
宮廷貴族から、同盟を結ぶための道具として見られていると感じているアンリエッタだからこそ、今の自分とサウザーにある差が、天と地程にもあると感じ取れたのだった。

「もう一度、お願いいたします。あの方を……ウェールズ様を救っては頂けないでしょうか」
アンリエッタがいくら頭を下げようともサウザーからの返事は無い。
始祖ブリミルにいくら祈りを捧げても、アルビオンの戦況が好転する事はなかった。
決着が付く前にルイズが自分の書いた手紙を届けても、あの誇り高い皇太子は、名誉のた為に死ぬ事を選ぶかもしれない。
始祖に祈っても無駄というのなら、何に縋ればいい。
半ば絶望していた所に、ガンダールヴに匹敵するという男が現れた。
力は目の前の男が備えている。なら自分は一体どうすればいいかと、恐る恐るアンリエッタが口を開いた。

「……わたくしは、貴方に、どういった形で酬いればいいのでしょう?」
およそ、生半可な対価では力は得られない。
秘宝である水のルビーはルイズに渡してしまったし、そもそも、そう言った類の物で動くような男では無い事はアンリエッタにも分かる。
アンリエッタに残されている物は、王族としての僅かながらの権威と金銀宝石に後は自身の身体ぐらいの物である。

ごくり、とアンリエッタが生唾を飲んだ。
政策一つにしろ、自分で決められる事は無く、その身体すら、ゲルマニアとの同盟を結ぶための道具に使われ自由とは言いがたい。
アンリエッタの中で天秤が揺れ動いている。
一つは、国のために、ゲルマニアとの同盟を結ぶ為に、このまま何もしないか。
そして、もう一つは、愛するウェールズを助けるために、この身を差し出すか。

正直言って、アンリエッタにはどちらも選び難い。
だが、少なくとも行動すればウェールズが助かる可能性は何倍にも大きくなる。
ラ・ポルトやマザリーニは怒るだろう。母は泣くかもしれない。生きてウェールズに会えても、誓いを守れなかった事に幻滅されてしまうかもしれない。
それでも、王女としてではなく、一人の少女として、どんな形であれウェールズに生きて欲しい。
天秤の針が傾くと、自然にアンリエッタの指がドレスにかかる。
するりとドレスが床に落ちると、その肢体が露になった。
トリステインの白百合と評される程の美貌と、木目細やかな肌に、その存在を大きく主張する胸だけでも、世紀末計算では水食料一ヶ月分以上はカタい。
ユダが見れば連れ去られ、肩にUDの紋章が付く事間違い無しだろう。

「これしか……ウェールズ様をお助けする道が無いのなら……」
一度決め、行動に移したとはいえ、やはり人前で肌を晒す事に抵抗があるのか、アンリエッタは顔を赤らめ、両手で身体を隠している。 
アンリエッタの取った行動が少しばかり意外だったのか、サウザーは、ほんの少し一瞥すると目を閉じ含み笑いをした。

「なるほど、それが貴様の執念……という訳か」
温室栽培のお姫様にしては上出来だろう。少しだけだが気に入った。
マントを外すと、投げ捨てるようにしてアンリエッタに被せる。
思わぬ布の感触に、アンリエッタは己の身体すら対価足り得ないのかと、涙が出そうになったが、サウザーは、ほんの少し面白そうな声を混ぜて言う。

「よかろう。お前には、使い道がある。望みが適うか否かは貴様の執念次第だ」
それは、見方によっては、より性質の悪い、悪魔の誘いにも等しい言葉だった。



学院の敷地の中に設けられた仮の厩舎。
十数頭のグリフォンやマンティコアの中に混じって、馬の体を持ち、鳥の前足と嘴を持つ幻獣であるヒポグリフが数頭だけそこに繋がれていた。

全貴族の憧れでもあり、トリステインの精鋭部隊の一つといえるはずの彼らだったが、現状は無残な物だった。
なにせ、モヒカンによる被害で、ヒポグリフの補充のための再編中で部隊としての戦力は無いに等しい。
トリステイン侵攻が可能性としてある以上、魔法衛士隊だけ優先して幻獣を補充できるような状況ではないのだ。
それでも、王女の護衛に隊長と、なんとか数を揃えれた分の隊員は駆り出されている。
そんな彼らの宿舎では、隊長を含む隊員数名が目覚めの悪い朝を迎えていた。

「あの炎の杖さえなければ、遅れを取らなかったものを……」
ぽつりと隊長が小さく呟くと、隊員全員の脳裏にはあの悪夢のような出来事が浮かぶ。
ただの賊と思ってかかったのがそもそもの誤りだったと、今更後悔しても遅い。
分かってはいるが、それでもそう思いたくもなる。

相手は、円形の盾と十字を組み合わせた紋章が印された武器防具を身につけていたが、そんな形の紋章を持つ軍はハルケギニアには存在しない。
仮にあったとしても、戦争でもないのに一つの村を丸々焼き尽くすような略奪を起こすような真似をするはずがない。

今年入隊したばかりの見習いの新入りが魔法を放とうと近付き、悲鳴が聞こえた時には、その新入りがヒポグリフ諸共炎で焼かれているところだった。
辛うじて隊員に死者は出なかったものの、炎の杖やヒポグリフよりも速く小回りの利く鉄の馬。なにより相手の身体能力の高さのせいもあって散々な憂き目にあってしまっている。
今でも「ヒャッハー!」という、あの悪魔のような笑い声が夢に出てくるのだから、悪夢としか言いようがなかった。

「それにしても彼奴ら一体何の目的があって……」
あれだけの略奪を行ったにも関わらず、不思議な事に金銭の類には全く手が付けられていなかったのである。
銅貨、銀貨はおろか、エキュー金貨の一枚すら手付かずで、一体何が奪われたのかというと、襲われた村にあった全ての食料と水。
穀物はもちろん、果物に酒類、果ては家畜まで。
まるでイナゴの群れにでも襲われたかのように奪われていたのだ。

だが、今となっては村を襲った動機も分からない。
何か裏があったにしろ、手加減すればこちらが全滅していたかもしれず全員殺すしかなかった。

そう言えば、聖帝だとか言っていたような気がするな、と考えた所でなんとなく外から獣の鳴き声が聞こえてくる事に気付いた。

それも一つや二つではない……全部だ!!

聞き慣れた幻獣が騒ぐ様子に、隊長が一人の隊員に様子を見てくるように命じ、しばらくすると幻獣の鳴き声に混じって人の悲鳴が聞こえてきた。

これは、ただ事ではない。
そう判断した隊長が、全員に戦闘態勢で向かう事を命ずると自分も杖を手にし外に出る。
急いで厩舎に駆けつけると、実に奇妙な光景を目にする事になった。

一人の男が三頭のピポグリフを引きつれ厩舎から出てきている。
その足元には、先程様子を見させに出した隊員が倒れ、頭を踏まれている。
そして、男が厩舎の中で喚く幻獣に向け、邪魔だと言わんばかりに視線を送ると、一瞬で静かになってしまった。
種類によって形こそ違うものの、幻獣達が取っているポーズは、いわゆる服従の姿勢。
静かになった事に満足したのか、男が一足飛びにヒポグリフの背に乗る。
まるで、伝説のヴィンダールヴでも現れたかのような光景に、さすがのヒポグリフ隊も怯んだ。
なにせ、使い魔でない幻獣を馬のように乗りこなすには、その幻獣に力を認めさせねばならないからだ。

全員が杖を向けると、ヒポグリフに乗った男……まぁこんな事やらかすのは聖帝様ぐらいなものだが
サウザーはそれが何だとお構いなしに歩を進め、取り囲むヒポグリフ隊に挑発的な笑みを向けた。

「俺は一切抵抗はせぬ。かかってくるがいい」
ヒポグリフに乗ったまま、しかも、轡を握ったままで言い放つ。
「お、おのれぇ!」
挑発に激高した隊長が杖を片手に距離を詰める。
勢いに任せてサウザーを刺し貫こうとする直前、無数の拳撃が隊長を襲った。

エア・ハンマーにでも喰らったかのように吹き飛び、地面に叩き付けれた隊長が、辛うじて上半身を起こし苦しそうにサウザーを見ると目を見張った。
「ば、馬鹿な……奴は轡を握ったまま……!」
そう、サウザーは避けるどころか、轡すら放してはいなかったのだ。
「ぅぐ……では、わたしが見たものは一体……?」
見た物は、形容するなら拳の壁。

「くははは、真の奥義を極め、真髄を極めた者はその身に闘気を纏う事ができる」
手を掲げ、笑いながら衛士達を見下す。
今、サウザーがやった事は、分かり易く言えば発勁の法。
ラオウがそれを用い、同じ南斗六聖のレイを近付けもしなかったのはつい最近の事である。
しかし、この星は将星。
所詮、他の五星は将星の衛星にすぎぬ。
闘気とは非情の血によって生まれる物。
愛と情けを捨て去ったが故に、その闘気の強大さは並大抵の物ではない。

「貴様ら風情では、この聖帝サウザーには指一本も触れる事すらできんのだ!ふははははははは!!」
「せ、聖帝だと……!?まさか!」
炎の杖を持ち、鉄の馬を駆る恐怖の軍団。
その中の一人が聖帝様と叫んでいたのを確かに聞いた。

「ほう、その名だけは知っていたか。まぁどこで知ったかなど興味は無いがな」
「その紋章は、やはり……」
サウザーのバックルに印されていた紋章を見て不安が確信に変わった。
あの、部隊を半壊に追いやった軍団を率いていた男なら、その強さはどれ程になるのか。

我々だけでは手に負えない。
瞬時にそう判断した隊長が、部下に向け他の衛士隊にも応援を呼ぶように命ずると、サウザーの姿が馬上から消えた。

「前だ!」
唯一、動きについていけた隊長が叫ぶも、サウザーが隊員の額を軽く突く。
軽い衝撃を受けると、また目の前のサウザーの姿が掻き消えた。
何が起こったのかと、分からないまま走り出そうとすると、視界が揺らぎ、地面が迫る。
自分が倒れたと認識できるようになる頃には、その場に居た全員が倒されてしまった。

「この俺に武器を向けた事を後悔するがいい」
「な、何をするつもりだ?」
人差し指を立て、倒れた隊員のこめかみに指を当てる。
軽く含み笑いをすると、サウザーの指が音を立ててめり込んだ。

頭を貫かれて無事な者などは居ない。
指で貫くなど現実離れしている出来事だが、現にこうして起こっている。

「や、やめて……ゆ、指を止めてくれ!」
恥も外聞も無く命乞いをしても、聖帝様は降伏など許しはしない。
薄笑いを浮かべながらゆっくりと指を差し込む。
「やめてとめてやめてとめてやめてぇ!とめった!!」
第一間接ぐらいまで指が埋まると、わめいていた隊員が白目を剥き、舌を出して地面へ這い蹲った。

ズブズブと、指が頭にめり込んでいくその光景に、隊員が逃げ出そうとしても体がピクリとも動かない。
同時に戦慄と恐怖が奔る。
まるで、目の前に火竜でも舞い降りたかのような威圧感を感じるのは、決して気のせいではない。
さっきまで180サント程だったはずの男の身体が、やけに巨大に見えるのも恐怖による幻覚などではなく、纏う闘気がそう見させている。

魔法衛士という職に就いた以上、いつか相手に殺される事は覚悟していた。
氷のような冷徹さで斃される事も、炎のような怒りで身を焼かれる事すらも覚悟して今日まで臨んできた。
だが、これは違う。
怒りを見せず、かと言って感情を見せない冷徹さを持っているわけでもない。
指を突き入れる瞬間ですらも、面白そうに笑みを浮かべている。

だからこそ、恐ろしい。

そして、気付いてしまった。
これは到底、闘いなどと呼べる代物では無かった事に。

虐殺、蹂躙、処刑、etc……
今の状況に合う言葉はどれもこのぐらいだ。

かの『烈風』を相手にすれば、こう感じるのだろうかと、現実から目を背け始めたところに、聖帝様の指先が、また一人の隊員のこめかみへ突き当てられた。

「た、たすけ……」
「ふはは……聞こえんなぁ?その程度で、この俺の許しを請えるとでも思っているのか?」
「てエブッ!うれえろお!ちにゃ!!」
地の底から聞こえてきそうな悲鳴が、容赦なく現実へと引き戻す。
残された者に唯一許された事は、自分の番が来るのを恐怖と絶望に打ち震えながら待ち、聖帝サウザーに武器を向けた事を後悔する事だけだった。









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