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不思議な大晦日

 大晦日の夜でした。
 ユカはもう明かりを消して、ベッドの中で目を閉じていました。
 静かです。
 ユカはふっと息をつきました。
 何だか眠れません。1年の最後の晩だと思うからでしょうか。
 でも大晦日といっても、普通の冬の夜とちっとも変わりはありません。
 いったいどうして今日が大晦日なのでしょう。どうして1年は365日なのでしょう。誰がそれを決めたのでしょう?
(あたしなら、もっとわかりやすい数にするな)
 とユカは思いました。例えば1年は300日の方がよっぽど感情が楽です。
 いや、いっそ1000日にしたらどうでしょう。そうすれば、小学2年生のユカはまだ2歳半というわけです。30歳のママはやっと10歳。そして禿げ頭の校長先生だって18か19なのです。
(あの校長先生が18歳)
 そこまでユカが空想した時、変な事に気が付きました。廊下の方が電気も無いのにぼんやりと明るいのです。
 鈍いもやのような明るさが漂っているのです。
 その明るさが漏れている向かいの部屋から密やかな話し声がしました。
 ユカは部屋の中を覗き込みました。
 何という光景だったでしょう。
 11人の少年少女達が円の形に並び、会議でも開いているようなのです。
 少年少女達は、めいめい色違いの洋服と靴ととんがり帽子を被っていました。
 そしてよく見ると、その円陣の真ん中に1人の老人が座っていました。それは髪も眉毛も髭も真っ白な老人でした。
 少年少女達は老人が何か喋るのを一生懸命聞いているようです。
 ユカも耳を澄ませました。
 すると、木の葉の擦れ合うようなさやさやという音が、だんだんはっきりした声になって聞こえ始めました。

「大変な事になった」
 と、老人は年取ったいかめしい声で11人の少年少女に言いました。
「よいかな、心を落ち着けて聞いてもらいたい。今から10時間前、我がジョゼフ1世様が突然どこかへ行ってしまわれたのじゃ。つまり家出をなすったのじゃ」
 少年少女達は驚きのあまり、その体ほどにも跳ね上がったりぶっ倒れたりしました。
「王様がいなくなれば我がガリア王国がどんな風になるかは、みなもよく承知のはずじゃ。王様は太陽じゃ。光じゃ。王様を失えば我々はだんだん色を失って、つまり世界は白黒写真のように形と影だけになってしまう。赤いリンゴも緑の葉も青い空ももう2度と見る事ができないのじゃ。そうなればもう悪魔の国じゃ。人間も滅びてしまう。ハルケギニアも死んでしまう。もしこの1年のうちに王様を連れ戻さなければ、そういう恐ろしい事になる。そこでわしは総理大臣として、イザベラ王女にすぐ王様を探しにお出かけになるようにお願いした。つまり王様は逃げ出された。王女様は王様を連れ戻しに旅立たれる。これは長くて難しい旅になる。というわけは、ジョゼフ1世様はイザベラ王女に宛てた書き置きの中で、王女様が12の悪い癖を直さない限り絶対に戻ってこないと仰っておられるのじゃ」
 やっとユカには、それがガリア王国の閣議だという事がわかりました。老人が総理大臣、11人の少年少女はそれぞれの大臣というわけです。
 老人は両手を広げて、賞状でも読むように王様の家出の書き置きを読み上げます。
「『イザベラよ。私は貴女が12の悪い癖を改めてその位に相応しい女になるまでは、断じてお城には戻らぬぞ。その12の欠点とは、1.散らかし癖 2.お寝坊 3.嘘吐き 4.自慢屋 5.欲しがり癖 6.偏食 7.意地っ張り 8.げらげら笑いのすぐ怒り 9.けちんぼ 10.人のせいにする 11.疑い癖 12.お洒落3時間』」
 ユカは老人が1つ1つ読み上げる度にひやりとしました。というのは王女様の悪い癖はどれもこれも身に覚えがあって、まるで自分の事のような気がしたのです。
 老人は唇でも舐めているのか、髭をもぞもぞ動かしてから続けます。
「このお言葉から察すると王様のご決心はなかなか固い。王様を見つける事も大変なら、見つけた王様を連れ戻す事はなおさら大変である。そこでわしは総理大臣として諸君が治めている12の地方にお願いしたい。イザベラ王女の旅を守り1日も早く王様を探し出すよう、みんなが心を合わせてくれ。もし王様をかくまったりすればその者は重く罰するぞ。それにつけてもじゃ、王女様の長い道中を守り、ご退屈の時には話し相手となり、あの気まぐれなお方の心をいつも励ますお供の者が是非必要である。その者は知恵も勇気もあってとんちも利く者でなければならん。誰かそういう者を知らないか」
『さあ……』
 と11人の大臣達は、首を捻ったり腕を組んだりおでこを押さえたりして考え込んでしまいました。
 話の様子では、イザベラ王女はよほどわがままで気難しい人のようです。

 小太りの少年が溜め息混じりに言います。
「王様が逃げ出すのももっともだよ。あの方の散らかしようときたら!」
 金髪縦ロールの少女が言います。
「何しろあの方はおやつの頃に朝ごはんをお食べになるのよ」
 髪の毛が残念な事になっている男性が言います。
「そのうえ嘘吐きですし」
 羽飾りが付いた帽子の若者が言います。
「いくら器量自慢でも、ああ威張られちゃかなわないな」
 金髪で耳の長い少女が言います。
「あの人はまったく欲張りですよ」
 胸に青銅製のバラの造花を挿した少年が言います。
「あの人はお菓子しか召し上がらないのさ」
 青い髪の小柄で眼鏡をかけた少女が言います。
「……あんな意地っ張りな女は見た事もない……」
 同じ青い髪でも背の高い少女が言います。
「今げらげら笑ってるかと思ったら、もうかんかんに湯気を立てて怒ってるのね」
 赤い髪に日焼けした肌の少女が言います。
「けちもあそこまでいけば国宝よ」
 剣を背負った黒髪黒目の少年が言います。
「悪い事はみんな人のせいにするしな」
 その少年が背負っている剣が言います。
「おまけに疑い深いこと! 俺ほんとおでれーたぜ!」
 最後に桃髪の少女が言います。
「そんな欠点はみんな可愛らしいものじゃないの。あのお洒落3時間でいつも待たされてる王様のお気の毒な姿を見なさいよ」
 女の粗探しをするのは、どうやら地球もハルケギニアもちっとも変わらないようです。
 ユカはついくすくすと忍び笑いを漏らしました。
 大臣達は驚きのあまり、カチンカチンに凍ったように突き立っていました。
 ユカは部屋に入って言ってやりました。
「そんなに王女様の悪口ばかり言っていいものかしら?」

 その時です。すーっと背後の扉が開いて銀色の月の光が差し込むように見えたのですが、その光が急に強くなってくると、目の前に美しい女の人が現れました。その人は(銀の冠)を頂き(銀の髪を長く垂らし)、(銀ギツネのコートを着て)(銀の)ハイヒールを履き、(銀の)トランクを提げていました。
 じっと見つめられるのが怖いほど綺麗な人です。
「ありがとう、ユカ。私がイザベラ王女よ」
 とその人は鈴を振るような声で言いました。
「大臣達もお父さまも、私の事なんかなんにも知らないのよ」
 ユカが振り向くと、部屋の中の大臣達はひざまずいて王女にお辞儀をしていました。
「あなただけが私の味方だわ。お願いだから私についてきて。聞いたでしょうけど、私はこの1年のうちにどうしてもお父さまをお連れしなければいけないの。オスマン首相! トランクに12色のドレスを入れたかしら」
「はい」
 と老人はひれ伏したまま答えました。
「ユカの分を早く早く!」
「はいはい」
 大臣達は飛び上がって廊下へと出ていきましたが、やがてそれぞれのドレスと靴と帽子とをささげ持って戻ってきました。桃髪の少女はピンクのを、黒髪黒目の少年は黒いのを、赤い髪の少女は赤という具合で、12枚のドレスと靴と帽子をユカの前に積み上げました。
「これで支度はできたわ。さあユカ、行くわよ」
「待って、王女様」
 とユカは叫びました。
「その前に聞きたいわ。王様はいい人なの?」
「そうよ。お父様はハルケギニア一いい人よ」
「では、王女様は12のお願いを聞いてあげるんですね?」
「そうはいかないわ」
 とイザベラ王女は鼻先でふふんと笑いました。
「それじゃ私が悪い人になるじゃないの」

「だって、散らかし癖は悪いわ」
 とユカは勇気を出して言いました。
「あれもしよう、これもしようって人は散らかすのが当たり前よ。いつもカタツムリみたいに1つの事をしてる人と違ってね」
「じゃ、お寝坊は?」
「そのかわり、夜は2時前には寝ないわよ」
「じゃ、嘘吐きは?」
「さあ」
 と王女は目を細めて言いました。
「何と答えようかしら。嘘にもいろんな種類があるわ」
「じゃ、自慢なさるのは?」
「自慢する事が無い人にとっては、さぞ悔しい事でしょうよ」
「でも何でも欲しがるのは?」
「何にも欲しがらない人よりましでしょ。始祖ブリミルは助手が欲しいから人間を使い魔にしたのよ」
「じゃ、お菓子しか食べないのは?」
「嫌いな物をどうして食べなくちゃいけないのよ? 風竜だってリンゴは食べないわ」
「意地っ張りなのは?」
「自己主張が強いと言ってちょうだい」
「げらげら笑いのすぐ怒りは?」
「神経が鋭敏で打てば響くものでね」
「でも王女様はけちなんでしょう?」
「訳も無いのにやりすぎるのは、だらしない事よ」
「じゃ、人のせいにするのは?」
「よくよく考えると、どうしてもそうなるのよ」
「でも疑い深いのは?」
「馬鹿でない証拠」
「じゃ、お洒落に3時間も王様を待たせるのは?」
「そのおかげでこんなに綺麗なのよ。どうかしら?」
 ユカはやりこめられて黙りました。

 イザベラ王女は満足そうに言いました。
「私、人から注意されて自分を直す事なんかまったく気にいらないわ。自分で悪いと思えば自分で直すわよ。でもまだそう思ってないんだから。さあユカ、トランクを持って」
 ユカは銀のトランクを持ちました。するとその軽い事といったら、ひよこの羽1枚ほどにしか感じられませんでした。
「ガリア王国は12人の大臣が12の地方を治めているのよ。私達はまず白の地方から旅を始める事になるわ。それで私達は白いドレスに着替えないといけないのよ。そうしないと白の地方の雪白門をいくら叩いても開けてくれないわ。さあ、着替えるわよ」
 イザベラ王女は銀狐のコートを脱ぎ、白テンのコートと替えました。そして帽子も白なら靴も白になりました。
 ユカも同じ姿になりました。
 王女は言いました。
「私は姉であなたは妹って事にするわよ。あたしは『ユカ』って呼ぶから、あなたは『マリー姉さん』って呼びなさい。そうすれば私が王女とはわからないでしょ。それから、私達が探すお父様は背の高い素敵な人よ。金色の髪に金色の目、金の爪を目印にしなさい。――出発するわよ!」
 ユカとイザベラ王女は庭へ出ました。
 するといつの間にか外は粉雪が激しく降り出していました。
 白馬が2頭、美しい橇に繋いであります。
 イザベラ王女とユカは乗り込みました。
「いってらっしゃい、イザベラ様」
「お早いお帰りを!」
 オスマン総理と11人と1本の大臣は、雪の庭まで降り手を振り回して2人の門出を見送りました。



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