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ゼロの黒魔道士-69


砂の海。
水が全て砂に変わってしまった大海原の中に、ボク達は立っていた。

ザザザ、と景色が揺れて流れる。
砂、砂、砂。
淡いクリーム色が毒のように景色を蝕んでいる。
大荒れの砂の嵐。
水平線の向こうまで、ずっと砂の中。

風に舞い上がった砂が、顔をすり抜ける。
幻の砂粒。
目には入らないからいいけど……

「何も、見えないじゃない……」

前も、後ろも、全部クリーム色。
……アントリオンの巣に間違って入ったときだって、外の光が少しは見えたのに、
上から蓋をされたみたいに、何も見えない。

おまけに、聞こえる音といったら
風が、砂を巻き上げる高音のザザザって音と、
ときどきうなるようにゴウンって低い音がこだまするだけ。
からんからんに乾いた、寂しい響き。


……そんな、乾ききった景色を、ボク達は見ていた。



ゼロの黒魔道士
~第六十九幕~ 迷いの剣



≪ミョズ……お前、正気か!?≫

ふと、人の声がした。
砂埃の色が濃いところ、うっすらと人影が見えた。

顔は……見えそうにない。

肖像画の顔を絵具で塗りつぶしちゃったみたいに、
クリーム色の細かいツブツブで肝心なところがべったり隠されている。
まるで……デルフが『思い出したくない』って思ってるような……

≪正気も何も――これしか道はねぇんですよ≫

別な人の声。
知ってるような、知らないような。
若い男の人っていうのは分かる。
『ミョズ』って呼ばれた人、かな……?

≪しかし、何か方法があるはず!≫
≪でも、今は何もねぇんでしょ?≫

『ミョズ』って呼ばれた方の人が、やれやれと首をふって、ボク達の方を見た。
いや、これは幻。記憶が見せる夢みたいなもの。
だから、きっとボク達の後ろにある何かを見たんだ、きっと。

その動きに合わせて、ボク達もゆっくりと後ろを振り向いた。
そこには、黒くて大きな影が、砂嵐の渦の中心となってそびえていた。

「こ、これっ!?さっきのっ!?」
「……バブイル……!」
ちゃんと、4枚の羽が揃った、真っ黒なアレクサンダー、バブイル。
幻の中でも、その魔力をビリビリ感じそうなほど、禍々しい姿でそこにいた。
ゴウン、とバブイルが唸る。
唸るたびに、クリーム色の砂がまぶされた塊が天の高くまで飛びあがる。
大きい。
村が1つすっぽり埋まりそうなぐらい、大きな砂と岩の塊だ。
それがバブイルの目の高さ……飛空挺が飛ぶぐらいの高さまで来たら、花火みたいに弾け飛ぶ。
それを見て、バブイルがまた唸る。笑っているみたいに。
いたずらっ子が、自分の割った風船を見てゲラゲラ笑うみたいに。


≪『こいつ』は、俺らと同じ、使い魔仲間が作っちまった負の遺産。
 なら、俺達でケリつけるのが道理ってぇもんでしょーよ?
 ほっといたらこのデカブツ、てめぇの魔力でアルビオンをそーしたように、
 世界中を空にブチ上げることまでしちまいますぜ?≫

使い魔……?
そう言われて、やっと気付いた。
『ミョズ』……クジャが、そうデルフに呼ばれて無かったっけ……?
確か……ガンダールヴと同じ、『虚無の使い魔』……
幻の砂煙に目をしばたかせながらじぃっと見ると、うっすらと、『ミョズ』の額にルーンが見えた。


≪ならばっ……私がっ!使い魔の責は、主人である私がっ……≫

『ミョズ』のご主人様が、自分の胸を指し示す。
顔が全部はっきり見えるわけじゃない。
でも、その口元から、覚悟のようなものが、はっきりと見て取れた。

それに対して、『ミョズ』は、固く結んだ口を、横にぐっと押し広げた。
悲しいのに、ものすごく悲しくて、怖いのに、
無理矢理、笑おうとするみたいに。

≪――来月、父親になるんしょ?ご主人様≫
≪!≫

砂埃を乗せた風が、ザザザと通り過ぎる。
さっきバブイルが砕いた、土岩のなれのはてだ。

≪生まれた子に、祝福ぐれぇ自分ぇでやってくだせぇよ。ヴィンと俺で、カタはつけてきますから≫

『ミョズ』が、何かを真上に放り投げる。
指輪、みたいだ。4つ……
そのうちの1つは見覚えがある。
この間まで、ルイズおねえちゃんの指にはまっていた、『水のルビー』だ。

自分が投げた指輪を4つとも、右手で一息にキャッチしてそのまま自分を親指で指し示す。
無理矢理横に拡げた口か見える、歯がカタカタと鳴っている。
怖い、怖いけど、誰かがやらなきゃいけない。
だから、自分がやる。でも、怖い……
……『ミョズ』は、何とかしてバブイルを止めようとしているんだ……
自分の、命をかけてでも……

≪ミョズ……いや……デルフィニウム……≫
≪――あぁ、そうそう、俺っちの代わりってぇわけにはいかねぇけど……こいつ、預けておきまさぁね≫

指輪をローブの奥にしまって、代わりに取りだした何かを、『ミョズ』――本当の名前は、デルフィニウム、なのかな?
ともかく、『ミョズ』はは自分のご主人様に放り投げたんだ。
その棒状の何かを、おぼつかない手取りで受け取ると、ご主人様はしげしげとそれを見た。

≪……剣?≫
立派な、剣。
鞘から抜くと、ほんのりと青白く透明に光るそれは、
まるでジタンの持っていた『アルテマウェポン』の輝きを思わせた。

≪銘はそうさなぁ……『デルフリンガー』、でどうよ?この俺様、デルフィニウムの剣だしさぁ!
 頼りないあんたのために、俺っちの知識と記憶、詰め込めるだけ詰め込んどきやしたんで、お役立てくだせぇ≫

デルフ……!!
そっか、なんで気がつかなかったんだろう。
『ミョズ』の声と……デルフの声、同じだってことに……!!

それだけ言い切ると、『ミョズ』はボク達の身体を『すり抜けた』。
いや、幻だから、ありえる話ではあるんだけど……
なんか、ドキリとした。
その幻の『ミョズ』の体が……悲しいぐらい、冷たく感じたから。

≪デルフィニウムっ!……エリアっ!!≫
≪ブリミル様よぉ!生まれてくるお子様方と、奥方様に挨拶もできずにすまねぇですね。
 だからせめて――『無限の可能性』ってぇヤツを、プレゼントさせてもらいまさぁ!
 行くぜ、エリアっ!!悪ぃな、付き合わせて!≫

『ミョズ』がドラゴンに飛び乗った。
そこには、既に、誰かが乗っていたみたいだ。
うすぼんやりと、その姿が見える。

≪――問題皆無。意志、同一≫

女の人、かな……?
その声には、震えも何もない。
淡々と、全てを覚悟した響きを感じた。

≪……ありがとよっ!そんじゃ、いっちょ封印しに行きやすかぁっ!!≫
≪デルフッ、エリアッ行くなぁあああああぁああああ――≫

砂嵐の中、ドラゴンが飛び上がる。
どんな逆風にも負けない、力強い羽ばたきで、飛んでいく。
やがて、それが空の小さな点になっていく……



そこで、また景色が急に変った。
小さくなる『ミョズ』を見送った、その空も、何もかも。
もう、砂埃も何もない。
ただただ、灰色の空。
その真下に広がる、灰色の森。
灰色の森。
白と黒が入り混じって、ボク達のいるところにまで伸びてきている。
砂漠の乾いた大地とはまた違う、無表情な景色が、ボク達のいる場所を取り囲んでいた。
どんよりと湿った、空は雨雲。
日の光すら覆い隠されて、世界が闇に落ちたように感じる。

≪お前が……お前が、全てをっ……!フォルサテぇえええええええええええ!!!≫


……今みたいにさびさびじゃない、輝いてるようなデルフを握っているのは、女の人。
左手のルーンが眩しすぎるぐらいに輝いている。
……この人が、『ガンダールヴ』なんだ……

≪『笛』も、『頭脳』も、神自身すらも消えたというに、まだ『盾』が残ったか……≫

フォルサテ。
声は、違う。ややしゃがれたような、そんな声だ。
教皇様のフリをしていた今のフォルサテとは違うけど、
吐き気がするぐらいのゆっくりとした声が、フォルサテなんだって、そう分からせた。
黒いローブの奥、歯だけが見える。
白く、冷たく、ぎらついていた。

≪本当に……お前がっ!!≫

大昔の『ガンダールヴ』が、デルフを構える。
歯をギリリとかみしめて、フォルサテを睨む。
それに伴って、またルーンが光る。
空に太陽が見えないから、その左手が太陽の代わりになっているみたいだった。

≪ふむ?……そうか、ゲルモニークの奴にでも聞いたか。愚かなる者め……≫
≪お前を……斬るっ!≫
≪無益な。『神の盾』が、新たなる神を破壊できるとでも?
 それよりも……我が盾となれば、お前の子達も庇護してやるぞ?≫
≪断るっっっ!!!≫

フォルサテの言い分を切り捨てて、『ガンダールヴ』が斬りかかる。
速い。
風、ううん、光だ。
一瞬きらめいたかと思うと、次の瞬間もう辿りつく。
光の速さで振りかざされた一撃は……幻をかき消すだけにしかならなかった。

≪……愚昧であることは人の業。それを救うのも、神の責だな!≫

フォルサテの、幻影。
自分の姿を真似した影だけを囮にして、フォルサテは距離をとっていた。
剣は届かない距離。
でも、魔法なら十分すぎるほどに、届く距離。

≪相棒っ!相棒っ!冷静になれって!あんにゃろ、隠し玉持ってるぜっ!?≫
≪うぉおおおおおおおお!!≫

それでも、必死に届こうとする。
『ガンダールヴ』が吠える。
素早く、前へ。ただただ、前へ。
デルフの声が届かないほど、意識は、ただ、前へ。


≪やれ、砂漠の智の民、と聞いていたが……何のことは無い、所詮は飢えた畜生か≫
≪黙れ黙れ黙れ黙れぇえええええええええ!!!≫

デルフを、振り上げる。
デルフを握った、『ガンダールヴ』の血管が浮き上がる。

≪猛れば良いわけでは無いぞ≫
≪なっ!?≫
≪相棒ぉおお!?≫

デルフは……振り下ろされること無く、地面に落ちた。
『ガンダールヴ』の胸が、真っ赤に染まっていく。
曇り空の灰色の世界の中、そこだけやけに色が鮮やかだ。
『ガンダールヴ』の胸を貫いたのは、ナイフ。
背中から、突き刺さる。
それを握っていたのは……小さな鏡から飛び出た手……

≪猛るのは獣の性――人を、さらには神と愚かなる野獣を分かつものは、深き知性≫

黒いローブの左手が、同じような鏡に斬られたみたいに、途中から消えてなくなっていた。
……きっと、『テレポ』とかと同じ魔法の応用なんだと思う。
自分の左手を、『ガンダールヴ』の後ろまで移動させて……刺したんだ。

≪く……はっ……≫
≪あ、相棒、しっかりしろよ!?相棒、相棒っ!?≫
≪その深謀を覗いた者は、それをこう呼ぶのだよ。『奇跡』、あるいは『魔法』とな……
 地を這いつくばるだけの羽虫には、少々高説すぎただろうか?≫

鏡から伸びた腕が、ぐにっと、ひねられる。
抉り取られるように、さらに血が地面に落ちる。
それを満足そうに見ているのか、黒いローブの奥の歯が、またギラリと光った。

≪……ぐ……ぁ……≫
≪嘆くべき日よ、『英雄の下僕』達の物語はここで終焉を迎えるとは。
 幸いなる日よ、『新たなる神話』がここに始まるの――ぐぉっ!?≫

突然、フォルサテが苦しみだした。
鏡から自分の左腕をナイフごと引きずり出そうとする。

でも、『ガンダールヴ』が、その動きを止めた。
左手で、ルーンの輝く左手で、その手をがっしりつかんで離さない。

≪……ぃぃゃ……ぉ前ノ……下らん妄想は……終わらせる……!!≫
≪き、貴様、何をしたっ!?この私の、永遠なる肉体に何をした!?≫
≪……お前に流れる水を……くはっ……『治療』した……だけさ……『元通りに』なぁ……≫
≪俺の……命が……永遠の命がっ!?貴様、貴様ぁああ!!≫

むりやり、引きはがすように、
フォルサテが鏡から手をなんとか引っ張り出した。
支える物がなくなった『ガンダールヴ』が、地面に落ちる。
デルフの隣に、血の雨を撒きながら……

≪あ、相棒?相棒!?あ、あいぼ……≫
≪水精霊の指輪、だとっ……アンドバリ村……ゲルモニーーークッ!!!ヤツかっ!!
 あぁ、愚かなる者はどこまでたっても愚図で愚鈍で愚昧なっ!!!!≫

フォルサテが『ガンダールヴ』の左手を見て驚いている。
よく、理屈は分からないけど……
フォルサテが左手の先からローブごとぐずぐずに、じわじわと腐っていってるってことは……
きっと、ゾンビを白魔法で治療するようなことなんだろうなとは思う……
でも、その代償に……

≪相棒、あい、おい!しっかりしろっ!こ、こんなことのために指輪の使い方教えたんじゃねぇよっ!?おい!?≫
≪……はは……悪いな、デルフ……≫

『ガンダールヴ』は、倒れている。
フェニックスの尾も、もう効果は無さそうなぐらい、弱々しく……
デルフと二人っきりでフォルサテを倒そうとして、
『ガンダールヴ』は倒れている。
……なんか、見ているだけのボクまで泣きそうだった。

≪そうか、この声は……『神の頭脳』かっ!小賢しく記憶だけを剣に封じよったかっ!!
 羽虫ごときがよってたかってこの私の計画を崩しよってっ!!!≫
≪……羽虫は、お前だ……フォルサテ……!≫
≪くそっ!くそくそくそくそぉっ!!羽虫ごときがっ!人間ごときがっ!!
 ――はは、ハハハハハ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!≫

苦しんでいたフォルサテが、突然笑い始めた。
狂ったように、笑った。
腐った左手を引きずりながら、フォルサテは笑っていた。

≪な、何がおかしいんでぇこんちきしょっ!!≫
≪羽虫の知恵も悪くない。いや、畜生も飼いならせば家畜になるということか!
 なるほど、『神の頭脳』はためになる!せいぜい役立たせてもらうぞっ!『神の下僕』共っ!!
 フハハハ、ファーアファファファファファファファファファファファファファファ――≫

残った右手で杖を振って、黒い煙のようなものを作り出し、フォルサテはその中に消えていった。

≪あ、おい、このやっ――消えちまった……≫
≪……≫
≪あい……ぼう……?≫

ポツリ。
雨粒が落ちる音が、小さく、幻の景色の中響いた。

≪デルフ……ごめ……も……ム……リ……≫
≪相棒っ!ま、待ってろ!お、俺っち助けを……≫

ポツ、ポツ、ポツ。
雨粒の音が、どんどん大きくなる。
まるで、思い出したくないものを、覆い隠すかのように。

≪……デ……フ……ニウム……≫
≪っ!!ち、違ぇよ!俺っちは、剣の『デルフリンガー』!お前さんの相棒だよっ!
 だからお前さんがいねぇとどうしようもねぇんだよ!し、しっかりしろよ、おい!おいっ!?≫
≪……あ……≫
≪なんだ、どうしたよ、おいっ!?め、目ぇ開けろよっ!?俺っちと違って、綺麗な目ぇ持ってんじゃねぇかよっ!?なぁ!?≫
≪……――≫

『ガンダールヴ』の声は、もう聞こえない。
もう、息もできなかったんだろうし、雨音が激しくなってきたから。
……でも、口の動きで、何と言っているかは……何となく、分かってしまった……

(――アリガト
   ――デルフィニウム
     ――仲間デイテクレテ……)

スッと、『ガンダールヴ』の目が閉じられる。
ゆっくりと、『虹』の欠片が、体からわきおこって、
左手の指輪に吸い込まれていく。

≪あ、いぼう?あいぼ……なぁ、おい!?嘘……待てよっ!?俺、こんなことのためにっ……
 こんなことのために記憶を残したんじゃ……ざけんなっ!?おい!?なぁ!?なぁっ!?≫

幻の中のデルフが叫んで止めようとするけども、
『ガンダールヴ』の身体は、光に変わっていく。
綺麗だけど、儚い……本当の、『虹』みたいな光に……

≪サーシャっ!?サーシャ!?俺、俺、お前のこと好きだったんだぞ!?
 お前が結婚しても、お前が幸せになんならそれでいいと思ってよぉっ!?それでもお前が好きで、好きで、すっげぇ好きでっ!?
 ブリミルに喚ばれて、お前に会ってから、お前のことが、お前の目が、お前の笑顔が、お前の心が、お前の全てが……≫

デルフ……ううん。『デルフィニウム』の記憶、って言った方がいいのかなぁ?
その叫び声が、雨にかき消されそうになりながら、哀しく響いた。
腕があれば、最後に『ガンダールヴ』――サーシャを抱きしめられたのにって、そう嘆くように……

幻の中の雨粒が、冷たく、ボク達をすり抜けて地面に落ちていく。
誰かの涙みたいに、止まること無く、流れ落ちていく。

≪……ぅ、うぁああああああああああぁぁあぁぁあぁああああああああ!!!!!!≫





幻の雨が止んで、ボク達は、戻ってきた。
デルフの……悲しすぎる記憶から、今という場所に戻ってきた……はずなのに……
まだ、あの雨の感覚が残っていた。

「……」
「――ヘッ、青臭ぇなぁ。どーにも……」
「デルフ……デルフィニウム……さん……?」

ルイズおねえちゃんは、『デルフ』って、呼びにくかったみたいだ。
あんな記憶を見せられた後だから……しょうがない、よね……?

「……思い出すのがよ、怖かったのよ」
「……え?」

あの雨のはじまりみたいに、デルフがポツリと、呟いた。

「いや、分かってんのよ?生きてりゃ、相応に楽しいこともありゃ悲しいこともある……
 だけどよぉ……俺、馬鹿すぎるだろーがよ!いつか、好きな人が先に死んじまうことが分かってたってのによぉっ!?」
「っ!?」

デルフが、叫んだ。
錆だらけの剣身が、ビリビリと震える。

「あぁ、畜生、畜生!ブリミルにゃカッコいいこと言おうとしたけどよっ!結局ぁ俺っち、怖かっただけなんだよ!
 好きな人に、皆に、忘れられたまんま犬死にしちまうのがさっ!!だから、せめて記憶と意志だけでも残そうと……」
「デルフ、あんた……」
「それがどうよっ!?何もかんも忘れたくなるほど悲しいことばっかで……畜生っ!
 馬鹿だったんだよっ!命や想いなんかを弄ぼうとした、フォルサテも、俺もっ!!」

デルフの気持ちは、分かる気がする。
死にたくない。生きていたい。忘れられたくない。
その気持ちが、痛いほどによく分かる。
……でも、その後悔を慰められる言葉は、見つけられそうにも無かったんだ……

「俺は……『神の頭脳』なんかじゃねぇ……ただの……臆病者さぁ……」
「デルフ……」

沈黙が、『記憶の場所』を支配する。
先に進まなきゃいけないのに、その元気も無くなってしまうほどに。
……あの雨は、それだけ、冷たくて、悲しかったんだ……



沈黙を切り裂いたのは……
切り裂かれるような突風だったんだ。

「――……あ、終わり?もう終わったの?
 うーん!すっごくカンドウテキー。感動しすぎちゃって……反吐が出るわぁッ!!」
「っ!?」
「きゃっ!?」

声と同時に、その姿がボクとルイズおねえちゃんの間に割って入る。

異様、としか言えない姿だったんだ。

「あれれぇ~?どーこかで見た顔でーすねぇ?んー?」

ちぐはぐな色や模様の布をつなぎ合わせた服から、ギンギラに輝く義手が伸びていて、
まるでお芝居の道化師の役みたいな格好。
でも、その上に乗っている顔は、楽しげで華やかなものなんかじゃなくて……
痩せこけて、何かに取り憑かれたになっているけど、間違いなく……

「わ、わる……」
「――ワルドッ!」

ワルド。あのハゲタカのような鋭い目は忘れようにも忘れられない。
ルイズおねえちゃんを、裏切ったワルド。
あのワルドが……なんでこんなところにっ!?

「はい、ピンポンピンポ~ン♪ ワルド様のぉご登場でっす!
 正解者にはァ……ご褒美ィっ!!イイィッ!」
「うわぁっ!?」
「っ!!!!」

ワルドが腕をふっただけで、風が巻き起こる。
以前うけた『ウィンド・カッター』よりも、
ずっと研ぎ澄まされた風の刃だ。
前のがカミソリみたいって言うなら、
今度のこれは、斧の一撃。
ズンっていう重さが加わっていた。

「ワァアア~……シェィッ!!」
「くっ!!」

しかもそれが、何発も同時に巻き起こる。
何をしたのかは分からないけども……
ワルド、すっごく強くなってしまっている……!
避けるのが精いっぱいだ……!

「わ、ワルド、あなたどうしてっ!?」
「ルイズ、知りたいのかい?知りたい?じゃーあぁ

                       ……教えな~い♪」


おどけた調子で、ワルドがルイズおねえちゃんの質問に答える。
一々、腹が立つようなそんな言い方だ。

「ふ、ふざけないでっ!!」
「ゴメンナサーイ。まぁ、君達の力を、確かめにィ来たんだけどねぇ~」

自分のお尻を、ペンペンって叩きながら、ワルドは自分から距離を取った。
さっきの風で切り崩された壁や石畳の床が、いつの間にか一ヶ所に集まっていて、
ちょっとした尖塔のような格好になっている。
まるで、ガレキの塔。
ワルドは、そのてっぺんまで、スキップをしながら駆けあがった。

「――私達の?」
「力……?」
「さて、それではー!んー、ゴホンゴホンゲホーンっ!
 あーあー、本日ハー晴天ナーリー……コホン……
 死ぬ準備は、いいですか?」

ガレキの塔のてっぺんで、ワルドがポーズをとりながらそう聞く。

「できてないなら、お気の毒♪」

合わせるように、ワルドの声が真後ろから響く。
『風の遍在』……!
ワルドの得意魔法だ!

「っ!」
「ワルド……」

「悪い子には――」
「お仕置きィっ!!」

死ぬ準備なんて、できているわけがない。
悲しみに震えたままのデルフを、ボクはぎゅっと握りしめた。
……記憶の中の『ガンダールヴ』と同じように、ルーンを輝かせて……


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