あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの使い魔×相棒 ~トリステイン魔法学院特命係~-03a

プロローグ

 突然の右京消失事件は、目撃者である尊(と角田)の耳を疑うような証言によって、警視庁内で耳目の的になっていた。
以下の会話は、警視庁捜査一課に所属する通称「トリオ・ザ・捜一」の伊丹憲一、三浦信輔、芹沢慶二らが
今回の事件について話しているところを記録したものである。

芹沢:先輩、大変ですよ!
伊丹:なんだ? 事件か!?
芹沢:事件も事件、大事件っすよ! 杉下警部がいなくなったんです!
伊丹:はぁ? それの何が大事件なんだよ?
三浦:警部殿が勝手にいなくなるなんて、いつものことじゃないか。
伊丹:ったく、血相変えて何事かと思えば、くだらねえ…。
芹沢:それが違うんですよ! 警部が部屋から出ようとしたら、突然姿が消えちゃったんですって。
三浦:どういうことだ?
芹沢:なんか、鏡のようなものが警部の前に現れて、それに入って消えたっていう話なんですけど…。
伊丹:お前、なに言ってんだ? わけがわかんねえ。
芹沢:俺も又聞きなんでよく知らないですけど、目撃者がそう証言してるんですって。
伊丹:誰なんだ、その目撃者ってのは。
芹沢:神戸警部補と角田課長です。
伊丹:おいおい。ソン(尊のこと。括弧内筆者)はともかく、課長までなに寝ぼけたこと言ってやがるんだ…。
   特命なんかと仲良くしてるからだよ。
三浦:正気か…。そんなこと、刑事部長が信じるわけないだろう。
芹沢:案の定、正直に話して大目玉くらったらしいですよ。杉下警部が今日中に見つからなかったら特命係は解散だって。
伊丹:へっ。そいつはいいや。警部殿のいねえ特命なんざ、金棒のねえ鬼みたいなもんだからな。
三浦&芹沢:……。
伊丹:な、なんだよお前ら…。
芹沢:先輩…。鬼は金棒なくても強いじゃないですか。だから婦警さんたちに「ちょっと頭の弱いイタミン、かわいい!」なんて陰で言われるんですよ。
伊丹:う、うるせえ! 一丁前に文句つけてんじゃねえよ!
三浦:そのニュアンスでいうなら、「翼をもがれた鳥」ってところだな。
芹沢:プッ! やめて下さいよ…そんな洒落た表現使ってる伊丹先輩とか、ありえないっすよ…あはははは……。
伊丹:笑ってんじゃねえ!(芹沢を叩く)
三浦:やめろ、お前ら。…まぁしかし、警部殿ならどこに行っても変わらずにやっているだろう。
   なんせ「警視庁随一の変人」だからな…。
芹沢:ああ、あの人はどんな場所でもどっこい生きてそうですもんね。
伊丹:つうか、警部が寿命以外で死ぬなんざ想像できね……へっくしょい!
芹沢:ちょっ…唾飛ばさないでくださいよ! 汚いなぁ、もう…。
三浦:誰かがお前の噂してるんじゃないか?
伊丹:(鼻をすすって)噂か…。こりゃいよいよ俺の結婚も近いか。ふふふふ…。
三浦&芹沢:…………。


第三章

 ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールが、使い魔として杉下右京をハルケギニアに召喚してから、最初の朝が来た。すがすがしい朝の光が部屋に差し込んでくる。
「ミス・ヴァリエール。朝です」
 起床を促す声を聞いて、ルイズはまだ眠たそうに目をこすった。
 そして、自分を見下ろしている男を見て驚き、寝ぼけた声で怒鳴った。
「……って! 誰よあんた!」
「昨日あなたの使い魔として召喚された、杉下右京です。おはようございます」
 右京は相変わらず冷静に、紳士的に応じた。
「そっか、昨日、召喚したんだっけ…おはよう…」
 ルイズは起き上がってあくびをし、体を伸ばした。
「じゃ、服出して」
 そう言ってネグリジェを脱ごうとして、昨日のことを思い出した。
 見たくないなら目を逸らしていればいいから、と注意した。いちいち着替えの度に部屋を出られては面倒くさくてしかたがない。
 下着を右京から受け取り、身につけていく。彼はその間に制服を持ってくる。
 ルイズは、制服が丁寧にたたまれていることを不思議に思った。自分はたたんだ覚えがない。いつも椅子にかけておくだけである。
となると、たたんだのは右京に違いない。そういえば、彼の服も皺や汚れがつかないように細心の注意が払われていることに気づいた。
主人のためというよりは、彼自身が几帳面なのだろう。
「失礼します。確か貴族は、下僕がいる場合は自分で服をお召しにならないはずですから」
「あら、わかってるじゃない」
 本当によく知っている。やっぱり異世界から来たというのは嘘なんじゃないか、と思いたくなるくらいだ。
 着替え終わり、ルイズは朝食をとるため部屋を出た。右京は部屋を確認すると施錠し、後に続く。
 廊下に同じような木の扉が壁に並んでいる。そのうち、ルイズの部屋の隣の扉から出てきた赤い髪の少女を確認するや、ルイズは顔をしかめた。
 右京はその人物に見覚えがあった。昨日、中庭で契約前のルイズに声をかけていた同級生だった。“ゼロのルイズ”といったのも彼女だ。
名前は確か、キュルケといったか。
「おはよう。ルイズ」
 キュルケはルイズを見ると、にやりと笑みを浮かべて挨拶した。
「…おはよう。キュルケ」
 ルイズも挨拶を返す。いかにも不機嫌さを抑えているといった感じだった。
「おはようございます。私、ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールの使い魔をしております、杉下右京と申します。よろしくお願いいたします」
「あら、どうもご丁寧に…キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーよ。よろしくね」
 キュルケは、思わぬところからの丁寧な挨拶にも動じず、ルイズのときとは違うにこやかな笑顔で挨拶を返した。
「もう! そんなやつにいちいちバカ丁寧に挨拶しなくていいの!」
「と、いいますと?」
 なぜ挨拶したことをルイズが怒るのか理由がわからず、右京は尋ねた。
 そんな二人の様子がおかしくて、キュルケは笑い出した。
「あっはっは! ルイズぅ? そこの使い魔さんはただあたしに挨拶しただけじゃない。それを怒るなんてかわいそうよ」
「あんたは黙ってて! ツェルプストー!」
「やだ怖い。下僕より礼儀がなってないなんて、ヴァリエールの名が泣くわよ? あなた、彼にマナーを教えてもらったほうがいいんじゃなくて?」
「余計なお世話よ!」
「『余計なお世話』ってことは、自覚はあるんだぁ。ふふふ」
 二人が他愛もない口論をしている横で、右京はキュルケが連れている大きな赤いトカゲのような生き物に興味を向けていた。好奇心に目を輝かせている。
「これは…かのパラケルススが『妖精の書』の中で提唱した四精霊のうちの火の精霊、サラマンダーに似ていますねえ。体はかなり大きいですが」
 右京のつぶやきを耳聡く聞きつけたキュルケは、ルイズとの口げんかを打ち切って、優越感に浸りながら自慢し始めた。
「その通りよ。しかも見て、この尻尾。ここまで鮮やかで大きい炎の尻尾は、間違いなく火竜山脈のサラマンダーよ。名前はフレイム」
「火竜山脈?」
「ハルケギニアの中で最高品種といわれるサラマンダーが住んでいるところよ。属性的にもこのあたしにぴったり」
「属性?」
「キュルケは『火』属性なのよ」
 右京の疑問に、ルイズがぶすっとした顔で答えた。
「自分で言うのもなんだけど、これほどの幻獣を誰かさんと違って一発で召喚しちゃうなんて、
さすが“微熱”の二つ名は伊達じゃないって感じよねえ。ねぇルイズ?」
 得意絶頂のキュルケは、手を顎にそえて、色っぽく首をかしげて笑った。
 ルイズは答えず、そっぽを向いた。
「いや、不慮の事故とはいえ、こうして想像上の存在を目の当たりにする日がこようとは…素晴らしい!」
 右京は、普段の冷静さもどこへやら、昨日『フライ』を見たときと同じように、感動と興奮がない交ぜになったような声を漏らした。
「ちょっと、なに感動してんのよ! あんたはわたしの使い魔でしょ!」
「うふふ。よくできた、いい使い魔じゃない。あなた、ただでさえ友達が少ないんだから、大切にしてあげなきゃだめよ、“ゼロのルイズ”?」
 右京の反応と、悔しそうに声を荒げたルイズにますます気分をよくしたキュルケは、相手の使い魔を褒める余裕さえ見せた。
そして、扉に施錠のコモン・マジック『ロック』をかける。
「では、お先に失礼」
 そう言い残して去ろうとしたキュルケは、右京に「すみません」と呼び止められた。
「なに? ええと、スゲシタ……」
 『右京』で結構ですよ、と前置きし、キュルケに質問を投げかける。
「今、扉に何かなさっていたようですが、魔法ですか?」
「ええ。コモン・マジック『ロック』よ。扉に鍵をかける魔法なんだけど…」
 まさか知らないのかとキュルケは問おうとして、ルイズを見て合点がいったようだった。
「ああ、しょうがないか。ルイズはいまだに鍵を持ってるんだものねえ」
 意地の悪い笑顔を向けるキュルケを、ルイズは睨みつけた。
「では、この学院の生徒さんは、全員魔法で施錠するのですか?」
「『全員』ではないわね。正しくは『“ゼロのルイズ”以外』」
「そうですか」
「もういいかしら?」
 キュルケはきびすを返して立ち去ろうとした。
「あ、もう一つだけ」
 右京が指を立てて、彼にとって一番肝心な質問をした。
「このハルケギニアと、違う世界を繋ぐことのできる魔法、またはそれを知っていそうな方に心当たりはありませんか?」
「ち、違う世界…?」
 この質問にはさすがのキュルケもたじろいだ。右京が何を言っているのか理解できなかったからだ。
 あと一つだけなんて言うからなにを聞いてくるのかと思ったら、ハルケギニアと違う世界? 
あたし、からかわれてるの? なんの冗談? ここ、笑うところ?
 そんな彼女の思いとはうらはらに、右京も、後ろにいたルイズも真面目だった。
 キュルケは、ルイズに耳打ちした。
「ねえルイズ…この人、ちょっとアレな人…?」
「あんたの気持ちはわかるけど、たぶんほんと。月が一つしかない画を持ってたし…」
「月が一つ!? うそでしょ…?」
 右京に聞こえないように二人はひそひそ話していたが、やがてキュルケが真面目な表情で右京に提案した。
「ウキョウ…」
「はい?」
「あたしにも、証拠を見せて。月が一つしかないっていう画を」
「…わかりました」
 右京は携帯電話を取り出し、例の写真を見せた。
「……!」
 キュルケは写真を見た瞬間目を見開いたが、それ以外は微動だにせず、一言も発しなかった。鋭い目で写真を見ている。
 話を聞いて覚悟を決めていたからなのか、昨夜のルイズのような動揺は見せなかった。
 右京は、キュルケの様子を油断なく見つめていた。
 ルイズは、内心当惑しながら対峙する二人を見比べていた。
 少しして、キュルケはふう、と悩ましげに息を漏らした。
「ウキョウ、ごめんなさい。あたしも知らないわ。ここと違う世界を繋ぐ魔法なんて聞いたことない」
 キュルケは伏し目がちに言った。
「そうですか」
「知ってる人がいるとしたら…学院長のオールド・オスマンとか、ミスタ・コルベールあたりでしょうね…。
あと、もしかしたらタバサも知ってるかもしれない」
「タバサさんというと、昨日、あなたの隣で本を読んでいた方ですね?」
「え? そうだけど…なんでわかったの?」
「昨日、あなたがミス・ヴァリエールに声をかけたときに、『ねぇ、タバサ』とその方を呼んでおられたので」
「ウキョウは頭がよくて、記憶力がすごいの。わたしが忘れてたようなことまで憶えてるんだから」
 驚きを隠せなかったキュルケに、ルイズがここぞとばかりに勝ち誇った。
 それを聞いたキュルケは、手を口元にそえて目を細めた。手で隠れた唇の端がつり上がった。
「なるほどね…でも、あなたじゃタバサから直接話を聞くことはできないわよ。あの子、クラスメイトともほとんどしゃべらないからね。
あたしから聞いておいてあげるわ」
「ありがとうございます。そうしていただけると、非常に助かります」
 感謝を示す右京に、キュルケは「それじゃ、またね。お・じ・さ・ま」と耳元で囁き、意味深な笑みを残して去っていった。
サラマンダーが、その巨体の割にちょこちょことした可愛らしい足取りで彼女の後を追った。

キュルケが去ってから、ルイズはなんとも複雑な気分であった。
 確かに、右京には使い魔の仕事に支障がない範囲で、自由に行動することを許した。
そして、彼は昨日から今朝の時点で――少々自分の心に正直なところは見られたものの――仕事においては手際のよさと微に入り細を穿つ気配りをみせ、ルイズを感心させた。
 だから、彼が元の世界への帰還方法を自分で探すことを止めることはできないし、そのつもりもない。ルイズは右京が帰れる方法など知らないのだから。
しかしながら、なぜ右京はキュルケに「ハルケギニアと異世界を繋ぐ魔法」のことを聞いたりしたのか。
 よりにもよって、犬猿の仲であるツェルプストーの者に聞かなくてもいいだろう。彼女だって知っているわけがない。魔法の知識に関しては、ルイズとキュルケに大した差はないのだ。
 それとも、右京は道行く人全員に聞いて回るつもりなのだろうか。証拠の画があるとはいえ、全員が信じるとは限らないし、余計な混乱を招くだけではないか。
 この頭の回る紳士が、そんなことに気がついていないはずがない。
 ルイズは、心の中に生じたもやもやした気分を抱えたままでいられるほど器用ではなかった。それに相手は使い魔なのだ。遠慮する必要はどこにもない。右京に自分の気持ちをぶつけてやろう。
 ルイズは廊下を歩きながら、首を右京のほうに向けて尋ねた。
「ねえ、ウキョウ」
「はい?」
「どうして、キュルケにあんなこと聞いたの? キュルケが信じなかったらどうするつもりだったの? みんなにああやって聞くつもり?」
 右京もまた、歩みを止めることなく答えた。
「もちろん、全員に言うつもりはありません。僕が見た限り、彼女ならば話しても冷静に受け止め、信じてくれるだろうと思ったからです。実際の反応は予想以上でしたが」
「どういうこと?」
「ミス・ツェルプストーは、あなたと口論しているさなかでも、サラマンダーに興味を示している僕に目を配っていました。お二人の口論にしても、
あなたは終始感情的に怒鳴っていたのに対し、彼女はあなたをからかっているようでした。
 また、異質な存在である僕からのいきなりの挨拶にも、まったく動じることなく対応していました」
 ルイズは言葉に詰まる。頬にさっと朱が差した。
「これらのことから僕は、ミス・ツェルプストーは常に余裕と冷静さを保った強い精神と、
周囲の状況を複眼的な視点で把握し対応できる能力を持った、信頼のおける人物だと判断しました。
その証拠に、例の証拠写真を見せたとき、彼女には少なくとも表向きは、昨夜のあなたのような動揺は見られませんでした」
「あああんた、もしかして、わたしを馬鹿にしてる…?」
 ルイズの声は怒りで震えていた。頬が引きつっている。
「しかし、それは僕が信頼をおけるというだけの話です。仮に彼女と一対一で話をしていたら、あの証拠写真を見せても信じなかったでしょうねえ」
 右京の意外な言葉に、ルイズの怒りはたちまち吹き飛んだ。代わりに心を満たしたのは、大量の疑問符だった。
「で、でも、キュルケはあの画を見て信じたじゃない!」
「では、ミス・ツェルプストーが僕の話を信じた根拠は何か。その根拠こそが、僕が彼女に話をした決定的な理由でもあります」
「だから、あの画を見たからでしょ? 違うの?」
右京の言わんとするところがまるでつかめず、ルイズは狼狽した。
「違います。それは、あなたがおられたからですよ。ミス・ヴァリエール」
「え? わたしが…?」
 右京の口から出てきた答えを聞いたルイズは、呆然となった。
「ええ。ミス・ツェルプストーは、あなたを信じているから、僕の話も信じることができたのです。僕にも、お二人と同じような関係の友人を持った部下がいましたから、すぐにピンときました」
 右京は、穏やかな笑顔をたたえて断言した。
 彼の話の中で出た「同じような関係の友人を持った部下」とは、神戸尊が特命係に入る前の部下で、右京を「相棒」と呼んだ男、亀山薫である。
 右京は、薫と捜査一課の刑事・伊丹憲一のことを思い出していた。
同期でライバル関係にあった彼らは、会うたびに憎まれ口をたたいて、いがみあっていた。それでも、いざというときには長く組んできたようなチームワークを発揮して事件を解決したのだった。
心の底では、互いの刑事としての実力と良心を信頼していたからである。
ルイズとキュルケの様子に、右京は薫と伊丹がダブって見えたのだ。
 だが、ルイズは何回も首を振って、彼の説を完全否定した。
「ば、馬鹿なこと言わないでよ! あいつが、キュルケがわたしを信じてるなんて、絶対、ぜったいありえないわ!」
「そうでしょうか?」
「そうなの! だってわたしとキュルケ…ううん、ヴァリエール家とツェルプストー家は、先祖代々対立してきた、不倶戴天の敵なんだから!」
「不倶戴天の敵とは、穏やかではありませんねえ。理由をお聞かせ願えませんか?」
「いいわよ。よーく聞きなさい!」
 ルイズの話はこうである。
 キュルケの家、フォン・ツェルプストー家は、トリステイン王国の貴族ではなく、隣国ゲルマニアの貴族なのだという。
そして、ツェルプストー家の領地はヴァリエール家とは国境を挟んで隣同士であるため、両国が戦争になれば、真っ先に両家が衝突し、激しい戦闘を繰り広げてきた永きにわたる歴史があった。
そのため、ルイズは両親から「ツェルプストー家の者とは仲良くするな」と教えられて育ってきた。だから彼女はツェルプストーもゲルマニアも大嫌いだった。キュルケもまた同様だという。
「それだけじゃないわ! ツェルプストーの一族は『恋する家系』なんていって、散々ヴァリエールの名を辱めてきたのよ!」
 激しく憤るルイズによれば、二百年前にルイズのひいひいひいおじいさんがキュルケのひいひいひいおじいさんに恋人を奪われ、次の高祖父の代には、ヴァリエールはツェルプストーに婚約者を奪われた。
さらに次の代では、曽祖父のサフラン・ド・ヴァリエールが、やはりキュルケの曽祖父であるマクシミリ・フォン・ツェルプストー(あるいはその実弟のデゥーディッセ男爵)によって、妻を取られたのだという。
「なるほど。つまり、恋愛においてはヴァリエール家はツェルプストー家の後塵を拝してきたわけですね」
「あっさりまとめるな! …とにかく、そういうわけだから、キュルケがわたしを信じてるなんてことは、例え天地がひっくり返ってもありえないことなの!」
 ルイズは反論の余地はないといわんばかりだった。
 しかし、それでもなお右京は自説を曲げなかった。
「確かに、ミス・ツェルプストーもお認めにはならないでしょうが、彼女は心の奥底ではあなたを信頼しておられると思いますよ。そして、あなたも」
「ななな、なによそれ…! あ、あんた、わたしの話聞いてた!?」
 自分の話をあっさり否定された憤りと、右京がここまで自信を持っていうことに、ルイズは不気味さを感じ、慄いた。
「なるほど、両家の長年にわたる因縁もあって、お二人ともお互いに友情を感じたこともなければ、それを育もうなどと考えもしないでしょう。
しかし、僕は先ほどのやりとりから、お二人の間には表には出なくとも、深い信頼と友情があると感じました」
 ルイズは反論をあきらめた。短い時間ではあるが、こういうときの右京に何を言っても無駄だとわかったからである。
「僕がそう感じたのは、先の話の中でのミス・ツェルプストーのあなたに対する二つの発言からです。僕の記憶に間違いがなければ、確かこうおっしゃっていました。
一つめは『使い魔さんはただあたしに挨拶しただけじゃない。それを怒るなんてかわいそう』。そして二つめは『あなた、ただでさえ友達が少ないんだから』と」
「それがどうしたのよ?」
「悪口として聞き流すこともできなくはない表現になってはいますが、『不倶戴天の敵』とまでいう人物に対するものとしては、この二つの言葉はいささか違和感を覚えます」
「違和感?」
 わたしはあんたの話のほうに違和感を覚えるわよ、と言いたい気持ちを抑えて、ルイズは続きを促した。
「そもそも、心の底から憎んでいる相手には、話しかけることすらしないのではないでしょうか。先祖代々戦いを繰り返してきた歴史があるのなら尚更です。
相手の態度をたしなめたり、『友達が少ない』などという言葉を去り際に付け加えたりはしないでしょう。
馬鹿にするのならば、もっとふさわしい言い方がありそうなものですからねえ」
「そうかしら…」
「ですが、ミス・ツェルプストーはあなたにそのような言葉をかけた。僕の印象では、意識してのものではなく、自然に口から出てきたように聞こえました。
発言の意図はどうあれ、彼女があなたのことを普段から気にかけているからこそ、そのような言葉が出たのだと思いませんか?」
問われたルイズは、いい反論が思いつかずに押し黙っていた。
右京は、それを「話を続けろ」という意思だと判断し、説明を再開した。
「それに、お二人の口論は互いに憎しみあっているというよりは、自分の言いたいことや感情を素直にぶつけ合っているように見えました。
そのようなことは、お互いに相手を認め、信頼している者どうしでなければ、できることではありません」
「そんなの…あんたの思い込みじゃない…」
 ルイズは使い魔の考えを否定したものの、いかにも苦し紛れにひねり出したようで、その声は小さく弱々しかった。
「いいえ。お二人が僕に内緒で話をしていたことで確信しました。内容は聞こえませんでしたが、前後の文脈から察するに、ミス・ツェルプストーは僕の頭が正常かどうかを尋ねておられたのではありませんか?」
「え? そんなことまでわかるの…?」
「僕の話だけでは信用できない。だからあなたに相談した。そしてあなたが僕を信用しているとわかって、自身の目で証拠を見極め、信用し協力することを決意した。
 一見反目していても、主張を遠慮なく言い合え、いざという時には肩を寄せ合って相談できる。そのような関係は、まさしく互いを深く信頼する良きライバル、あるいは親友と呼べるのではないでしょうか」
 自分がこれまで思いもかけなかったキュルケとの友情を右京に理詰めで指摘され、ルイズは彼女と仲良く笑いあっている様を想像して眩暈がした。
彼の噛んで含めるような話は、聞いているうちに正しいように感じられ、本当はそうなのかもしれないとさえ思えてくる。
 だが、幼いころから植えつけられ、魂に刻まれたツェルプストーとゲルマニアへの憎悪を捨てることも彼女にはできなかった。
理屈での賛同と感情での拒否。二つの相反する心が、ルイズの中で葛藤していた。
そんな過程を経てルイズが選んだ方法は、主人という優位を利用して使い魔の論理を無理やり否定して、話を打ち切ることであった。
ルイズは顔を右京から逸らすと、怒ったような調子で言い放った。
「へ、平民がわかったようなこと言わないで! 貴族にはねえ、あんたなんかにはわからない、複雑なお付き合いっていうのがたくさんあるの! 
下手なことをすると家まで巻き込む問題になりかねないから、どんなに嫌なやつでも同じクラスで隣同士である以上、無視したり邪険にするわけにはいかないってだけよ」
「なるほど。そういうこともあるかもしれませんねえ」
「そんなことより、気をつけなさいよ」
「なにをでしょう?」
 ルイズは呆気にとられた。今までの経験から、これだけいえば右京なら言いたいことはわかっているだろうと思っていたからだ。
「最後のキュルケの顔、見たでしょ? 新しい獲物を見つけるとああいう顔をするの。あんた、あいつに目をつけられたのよ。
 あんたはわたしの使い魔。わたしのものは、小石一個だってキュルケに取られてたまるもんですか! ご先祖様に申し訳が立たないわ!」
 右京は、口元に手を添えて目を細めたキュルケの顔を思い出した。そういわれれば、獲物を見定めて、狙っていたように見えなくもない。
「そうでしたか。しかし、なぜ僕が目をつけられたのか、皆目見当がつきませんねえ」
「どうせ、あんたに『一目惚れした』なんて言い寄るつもりなのよ。あいつ、惚れっぽいから。誘いに乗ったりなんかしたら、学校中の男子を敵に回すことになるわよ」
 ルイズの話を受けて、右京は考え込んだ。
「ミス・ツェルプストーが、僕に一目惚れをした…? 親子ほども歳の離れた僕に惚れるなどということはいささか考えづらいですが…一応、気をつけておきましょう」
 まるでピンときていないような右京の姿に、ルイズはこのとっつきにくい変わり者の新しい一面を見た気がした。
 どうやら彼の頭脳は、いわゆる恋愛の方面は苦手らしい。ここまで飲み込みの悪い右京は初めてだ。
 主人として一緒にいるにもかかわらず、得体の知れない男の意外な弱点を知ったことで、ルイズとしては少し右京という人間に近づくことができた…はずである。


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