あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロのロリカード-52

 敢えて例えるなら――――――陽光届かぬ、深海のそれに似ている。
上下左右の感覚は無く、ただただ無限に広がるかのような暗黒の空間。星の無い宇宙。
それでも踏みしめる地はあるし、終わりの見えない空もあった。

 息を潜める獣達の気配を感じる、自我を失った獣達。
隙を見せれば、瞬く間に襲い掛かって来るだろう。
油断すれば、喰い尽くされるやも知れぬ。

 そんな黒い地平を進む者がいた。
もう一体どれほど、ここへ足を運んだのだろう。
そしてどれほど歩き、どれほど走り、どれほど飛んだのだろう。

 そこは地獄。亡者の国。憎悪と怨恨に塗れた死の世界。
常人ならば容易に狂ってしまう。正気を保ってなどいられない。
すぐにでも自己を見失い飲み込まれそうな・・・・・・在り方が滅してしまいそうなその地を。
何度も赴き、何度でも疾駆し続ける。それでも絶対の自己を確立する。

 たった一つの願望を・・・・・・否、渇望とも言うべきか。
そのたった一つを拠り所に・・・・・・闘争を続ける。

 そうだ・・・・・・己のエゴを通すのだから――――――。
――――――だからせめて己がこの手で殺してやるのだ。
狂気に魅入られながら・・・・・・それすらも楽しむ。


 何対もの目が、私を捉える。
何本もの腕が、私を捕らえようとする。
何本もの武器が、柄まで突き刺さんとばかりに私に差し出される。
かつてその者がされたことを、この私へと仕返すように。
私を串刺しにせんと、殺意が津波のように押し寄せる。

 無数の剣戟が。壁のように迫る槍衾が。驟雨の如き矢が。
銃弾は暴風雨のように舞い続ける。砲による爆発が視界を埋め尽くす。
滴り落ちる血の雫を払い、全身に巡る呪詛を祓い、眼前の全てを掃う。

 終わらない鬼ごっこ。
永劫に続くとも錯覚する、長き長き殺し合い。
だがそれでも終焉は訪れる。途方も無い殺戮の果てに。
祈り続け、果てるまで祈り続けても・・・・・・降りてこなかった神とは違う。

 化物に化物は倒せない。
化物を打ち倒すのは、いつだって人間でなくてはならない。
だから自分は死に切れなかった。倒し切られなかったからここにいる。

 そして帰還しよう。
今も待ってくれているだろう、もう一人の主人の為に。
意地っ張りだけど寂しがりな、私だけの主の為に。

 そう、今の私が信じているもの――――――。




「やっほ」
神出鬼没のシュレディンガーが、いつの間にかルイズの部屋に現れていた。
アーカードは瞑っていた眼をゆっくりと開ける。
そして椅子に座ったまま、特段驚いた風もなく目線だけを移した。

「えーリアクションなし~?つまんない」
「何用だ」
「何用でしょう」
「・・・・・・」
シュレディンガーはマイペースにキョロキョロと見回す。
「ルイズは?」
「・・・・・・外だ」
「何してんの?」
「鍛錬だ」

 「ふゥ~ん」とシュレディンガーは、ルイズのベッドに座る。
そのまま足を交互に動かしながら、部屋の中を観察していた。
自分勝手なペースを維持するシュレディンガーへの対応は、非常に面倒なものであった。
だがあまりに邪険に扱うのも憚られた。いずれ・・・・・・来るべき時の為に。


「まっもうすぐ戦争始まるだろうしねぇ~」
シュレディンガーはフフンッと笑う。
「今日ここに来た理由ってのはさ、ロマリアに来て欲しいんだ」
その連絡の為によこされた猫耳の少年。
「ルイズがいなかったのは丁度良かった。ヴィットーリオがさ、内々の話がしたいんだって」
体のいい使いっ走りにされているシュレディンガーを少し哀れに思う。

「・・・・・・この私一人にか?」
「うん」
「内容は?」
シュレディンガーは少しだけ沈黙し、肩を竦めながら腕を広げて「さぁ?」と答える。
同時にアーカードは考える。
(・・・・・・面倒だ喃)
心でそう結論付けた瞬間に口に出す。
「面倒だ、そも概要も言わずにただ来いとは・・・・・・聞きに戻れ」
「内々の話なんだもん、僕がそれを聞いて来れるわけないじゃん」
「なればここへ直接来いと伝えよ、そうすれば話くらいは聞いてやろう」

 相も変わらずの傍若無人っぷり。アーカードのアーカードたる所以の一つ。
仮にもロマリア教皇、ハルケギニアに於いて最も神聖視される象徴。
その召喚にまるで応じようせず、逆に来いという始末。
主人の命令には絶対遵守な忠犬っぷりとは対照的に、それ以外は高圧的の一言である。


「ていうか、暇でしょ」
「暇ではない」
自分にある暇な時間は全て"作業"に費やしている。
「暇そうじゃん、寝てたし」
シュレディンガーの言葉に、アーカードは「さっさと出て行け」と言わんばかりに、シッシッと手を振る。
傍からは何もしてないように見えていても、やることはやっている。

「でもさぁ、メリットもあると思うよ。ほら、いつだったか弾倉を持ってきてあげたじゃん。
 倉庫には他にも武器があるし、多分言えばくれると思うよ?基本的にガンダールヴ用らしいし」

(・・・・・・ふむ)
それは食指が動く話。来るべき戦の為に、何かしら使えるものがあるかも知れない。
流石にそればっかりは、実際に出張って見なければならぬだろう。

「あぁそれと・・・・・・これ」
シュレディンガーはポケットをゴソゴソと漁ると、何かを取り出した。
それは少し古びた書であった。見覚えのある"それ"は――――――。

「・・・・・・何故お前が、"それ"を持っている?」
「所用でガリアに行ったんだけど、そしたらなんか無造作に置いてあったからさぁ、つい手が・・・・・・」

 ――――――"それ"は、"始祖の祈祷書"であった。
ルイズが攫われた時に奪われ、そのままジョゼフの手に渡った筈である。

「他のやつも置いてあったけど、一応監視の目もあったし。何より嵩張るんで盗れなかった。
 あと、指輪は二つともジョゼフが嵌めてたし、それを頂いてくるってのは流石にちょっと無理だった」

「・・・・・・それで、私がロマリアへ行けばそれをよこすと?」
シュレディンガーはうんうんと頷いた。


「仕方あるまいな」
即断する。行く見返りが主人にとって大事な秘宝である始祖の祈祷書では、拒否の選択はない。
アーカードが立ち上がると、シュレディンガーは祈祷書を投げてよこす。
難なく受け取ったアーカードは、手の中の祈祷書を眺めた。

(ふむ、だが指輪が無いのでは・・・・・・)
――――――読めないのではないのか?
(・・・・・・そういえば)
指輪と言えば、一つ思い出した。ウォルターから受け取ったアンドバリの指輪。
何かとバタバタしていて、まだ水の精霊に返却していなかった。
トリステイン-ロマリア間であれば、ラグドリアン湖も道中に組み込める。

「それじゃ、先に行って待ってるから」
シュレディンガーはそう言うと、アーカードの制止の声よりも先に、忽然とその姿を消していた。
移動手段はおろかロマリア教皇への取り次ぎなど、あまりにも無責任であった。  
 しかし祈祷書を受け取ってしまった以上、既に約束は約束。
どんな形であれ、顔を出さないわけにはいかない。
アーカードは嘆息をつくと、窓から外へと躍り出た。


 学院にいる人間はまばらであった。
ガリアから正式に宣戦布告があり、それに伴って兵も集められている。
授業は戦争が終結するまで、無期限の停止。
高まった戦争の気運は、男子生徒を駆り立てた。
二度に渡った学院襲撃の危惧から、女子生徒は実家に帰る者が多かった。

 キュルケも少し用があると実家に帰った。
コルベール先生はいつの間にか学院にいなかった。
そしてトリステインの切り札たる自分達は、来るべき時までじっくりと準備をしている。
タバサもそれに伴う形であり、シルフィードのおかげで国内どこへでも速やかに赴ける。
連絡があり次第、どこにでも飛んで行ける遊撃の意味も兼ねていた。

 特にアンリエッタづてにロマリアから、ガリアがヨルムンガントを新たに製造したという情報を得ていた。
それに対抗できるのは虚無のみであり、両用艦隊の大部分はロマリア艦隊との衝突が予想される。
よって虚無の担い手たるルイズの役割は、ヨルムンガントへの対応こそが最も肝要であるとされた。
故に言ってみれば今は待機状態でもある。すぐにでも出撃せねばならぬ事態も考えられた。


「ふぅ・・・・・・」
ルイズは一息ついた。
今自分がしているのは、メンタルトレーニング。
だがどうにも上手くいかなかった。

 ――――――『無想』。
一切の執着を捨て去り、何も欲さず、何も求めず、心を空として、世界と同化する。
空は全に通ず、全てを得んと欲する者、全てを捨つるべし。
色即是空、空即是色。世に万物あれど、執着すべき物はなし。

 『無念無想』の境地。『明鏡止水』の境地。
それが自己の意思で自由に可能となれば、虚無をもっと上手く安定して扱える。
初めて虚無を使った時・・・・・・タルブでエクスプロージョンを放った時。
いわゆる『無想』の概念と似たような感覚だった。それを思い出しながら、もう一度集中する。

 しかしなかなか成らない。勿論、一朝一夕で身につくものでないことはわかっている。
それでも・・・・・・少しでも扱えるようになれば、今より僅かにでも強くなれる。

 虚無の担い手たる自分は、他のメイジと違って魔法を使って練習することは出来ない。
魔力を使い切っても休めば全快する普通のメイジとは、その許容量が桁違いなのだ。
基本的に燃費の悪い虚無は、使えば使うほどに魔力を消費し、同時にすぐには回復しない。
タルブでのエクスプロージョン一発で、それまで生きてきて溜めてきた全てを使ってしまうほどである。
故に魔法の無駄撃ちは出来ない。精度や威力を高める練習をすることが出来ない。

 よって、いざ使わねばならない時に至って、それを扱う精神を修得する必要があった。


 ルイズは再度一息つく。
もう何度も繰り返し、流石に集中することにも疲れてきた。
休みがてら、タバサへと目を向ける。
タバサはタバサで、自分と同じようにひたすらに集中を高めていた。

 タバサのそれは、二つの呪文を扱う為の修練。
"かけ捨て"でない魔法を、別々に同時行使することは不可能ではない。
がしかし、その為には多大な修練と高度な精神集中が必要であった。

 既に精度や威力が極まっているタバサは、戦術の幅を広げる為に会得しようとしていた。
当然これも一朝一夕で修得出来るものではなく、自分と同じようにそれが成るとは限らない。
が、今はそれが必要なのだとタバサは一心不乱に集中し、詠唱し続ける。

(本当に凄いわ・・・・・・)
タバサはアーカードから訓練を受けるも、飽くまで自分のスタイルを貫いた。
そしてルイズはそんなタバサに感嘆した。
既にスクウェアクラスとなったメイジであるタバサのそれは、一つの昇華された美しさを持っていた。

 一言で言えば無駄がない。
行動の一つ一つが布石となり、巧妙に巡らされる駆け引き。
伊達に幼き頃から幾つもの死線を潜っていない。
その経験だけは絶対に真似出来るものではなかった。
そして同年代で、これほどまでに洗練された戦士がいるとは思わなかった。

 さらにタバサの詠唱は非常に唇が読み辛く、かなり距離が近くない限りまるで聞こえない。
これみよがしに大きい杖でなく、携行しやすい杖だったならば、メイジと気付かぬまま倒されてしまうかも知れない。
ルイズもそんな詠唱のコツを教わり、少しだけ出来るようになっていた。

 大きい杖はメリットもある。
それがそのまま武器になるし、杖術が使えるのであれば白兵戦もこなせる。
軍人であれば何かしら武器と杖を一体にするのが常である。

 だがタバサは暗殺タイプの戦闘スタイル。
詠唱はおろか口唇の動きすらも悟らせない技術もある。
だからあからさまに「杖だ」と、一目でわかってしまう杖は、デメリットの方が大きそうであった。

 それでもタバサはその節くれだった杖を使ってきたし、これからも使っていく。
その杖は今となっては父の形見であり、その杖以上に相性の良い杖が見つかる筈はないという確信があった。
そして・・・・・・タバサが討つべき相手は、既にタバサがメイジであることを知っている。
故に今の杖で構わなかったし、何よりもその杖を以て復讐を為すことにも大きな意義があると感じていた。

 ストッという軽やかな音が鳴る。
タバサへと向けてた視線を背後へ移すと、アーカードが立っていた。
「出掛けてくる」
ルイズは少し首を傾げると、「わかった」と返事をした。

「少し遅くなるやも知れん。襲撃への備えは、ゆめゆめ忘れぬこと」
可能性はかなり低いが"ゼロ"ではない。
ウォルターとヨルムンガント襲撃の一件から、国境付近などの警備も厳重になってる。
が、それでも備えあれば憂いなしである。

「襲撃の備えって・・・・・・そんなに時間を空けるの?どこに行く気?」
いつガリア軍が・・・・・・ヨルムンガントが、国に侵攻してくるかわからない。
すぐにでも召集され、出撃せねばならぬ状況になるやも知れない。
その時にアーカードがいないとあっては、不都合が多過ぎる。

「・・・・・・アンドバリの指輪を返しに、ラグドリアン湖へ」
アーカードはロマリアへ行くということは伏せた。
一応は内々の話ということで呼ばれている。

 「あ~・・・・・・」とルイズは声を漏らした。
正直あまり思い出したくない記憶の一つ。惚れ薬の一件で訪れた地。
もう大分前の話かと思うと、なんだか少し感慨深いものがあった。

「機会がなくて少し忘れていたが、約束した以上はきちんと返してやらんと」
億が一の確率でアーカードに何かあった場合、指輪は返されないままになってしまうかも知れない。
そうなればまたいずれ水の精霊がまた、水かさを増やして土地を沈め始めてしまうだろう。
それを防ぐ為に、今の内に返しに行くという。

  「わかった、確かに返してあげないとまずいものね。あの精霊には一応お世話になったし」
惚れ薬の解除ポーションに必要な、水の精霊の涙を前借りさせてもらった。
もし貰えなければ、もっと醜態を晒していたことだろう。
「ん・・・・・・?でも、モンモランシーがいないとコンタクト取れないんじゃ・・・・・・」
「むっ・・・・・・それは確かに」
「・・・・・・多分、指輪を投げ込むだけで向こうはわかると思う」
いつの間にか集中を終えていたタバサが答える。
ラグドリアン湖そのものが、水の精霊と一体。
直接コンタクトを取らずとも、水の精霊は理解してくれるだろうということだった。

 タバサの説明によって、仔細承知したアーカードは「んむ」と頷く。
「・・・・・・では、鍛錬はサボらぬように」
「わかってるわよ、いざって時に力不足に泣きたくないしね」

 アーカードは背を向け歩き出すと、すぐさま踵を返した。
そしてポイッと何かを投げる。それは咄嗟に出したルイズの手の中に綺麗に納まった。

「・・・・・・えっ?これって始祖の祈祷書!?どうしてっ!??」
「あー・・・・・・、ウォルターから返してもらったのを忘れてた」
少し言葉が濁ったような雰囲気で、アーカードは言う。
一応シュレディンガーから受け取ったことは伏せておいた。

「そっか・・・・・・、指輪は?」
「指輪は無い」

   ルイズは沈黙する。
「じゃあ意味無いじゃないの」
毒づくように言った、指輪がないと読めないのに。
と、気付いたタバサが極々当たり前のように口を開く。
「他の指輪で代替は?」
「えっ?」
「む・・・・・・」

 土のルビーと水のルビーはジョゼフが持っている。
でも炎のルビーならば、同盟国のロマリアにあるだろう。それを少し借りれば良い。
風のルビーならば、トリステインとゲルマニアの領国となったアルビオン王家にある。
至極当然の思考と帰結。

「そっか!!姫さまが風のルビーを持ってる!」
トリステイン王家の血筋だから、水のルビーという固定観念。
それゆえにその発想に思い至らなかった。他のルビーでも試してみる価値はある。

「んむ、ウェールズの形見だが言えば貸してくれるだろう」
国の大事だ、ルイズが覚える新たな虚無が戦局を左右するかも知れない。
尤もルイズ相手ならば、そんなこと関係なしに貸与してくれるだろう。


 問題が落着したところで、アーカードは言う。
「では行ってくる」
「いってらっしゃい」
アーカードはトンッと軽く地を蹴り、そのまま飛び上がった。

(ロマリアの炎のルビー。事のついでに聞いておくか・・・・・・)


新着情報

取得中です。