あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの黒魔道士-67


ワイヤーの上、ルイズおねえちゃんを抱えたまま、滑る。
火花が散る靴の裏が、焼けつくように熱い。

でも、そんなことも気にならない。
……絶対に許せない。
フォルサテ、待っていろ!!


ゼロの黒魔道士
~第六十七幕~ Dive Into The Heart


「よい……しょっと!」
ワイヤーを伝った先は、バブイルの身体の一部、
尖塔の一番先っぽの部分。

「よーし、行くわよっ!ビビ!」
「うんっ!!」
帽子を、深く、深く被り直す。
ここから、フォルサテのいる場所まで。
決して近くは無い。でも、遠くも無い。

自分のためだけに、みんなの命をもてあそぶ……
フォルサテ、絶対に、許すもんか!

「で、ビビ!どっち行けばいいの?」
「……ぇ」
……そういえば……

 “バブイルの中に、あいつらがいる場所へ繋がる扉があるはずだ。
 『悪魔の門』……言葉そのままだね”

……もしかして……これだけしか、手掛かりが、無い……?

「――と、とにかくここじゃ無さそうだし、降りればいいわけよ、ね!?」
「う、うん……」
いきなり、失敗しちゃったなぁ……

でも、『悪魔の門』って言うぐらいだし……
真っ黒で、大きい。多分、そうだと思う。
思うんだけどなぁ……
だけど、絶対に見つける。見つけてやるんだ。

 ・
 ・
 ・

「これを、降りればいいのよね、きっと!」
「……グルグルしそう」
尖塔の中は、長い長い螺旋階段になっていた。
二重螺旋、って言うのかな?
階段が二重になっていて、同じようにグルグルした長いのが、
ボク達が下っている反対側の壁に寄り添うように伸びている。
それにしても、長い。
これだけの高さの尖塔だから、当たり前といえば当たり前なんだろうけど……

「急ぎましょ!ビビ、あいつ許せないんでしょ?」
「……うん!」
そうだ。
そんなこと考えている場合じゃないんだ。
『悪魔の門』を急いでみつけないと……!

「あ、ちょ、ちょっと!?
 ビビ、焦りすぎないでよ!?なんか危なっかし……
 きゃっ!?だ、大丈夫っ!?」
……焦りすぎは、危険。そう思うんだ。
流石に、二段飛ばしで降りるのは無茶みたい……
『心は熱くても、頭は冷静に』……うん、その通りだ。気を付けなきゃ……

「もー……しっかりしなさいよねっ!
 これから、すっごいヤツと戦わなきゃいけないんだから、怪我されたら……」
そう言って、ルイズおねえちゃんが伸ばした手に捕まろうと、手を伸ばす……

そのときだった。
尖塔の壁が、大砲の弾をぶつけられたように、弾け飛んだ。
「きゃぁっ!?」
「う、うわっ!?」
「GRRRRRRR……GWOOOOOOOOOOOO!!」
折りたたまれた翼を広げて、
銀竜が、その姿を現した。
壁をぶち破って、ボク達を、襲いに?
こんなところで、やられるわけには、いかない!

「デルフっ!!」
「……」
「デルフ?」
デルフを握り締める。でも、なんだろう、いつもと、違う。
確かに、『ガンダールヴ』の力が湧いてはいるけど……
でも、こう……返ってこない、って感じ。
デルフが、応えてくれない。
シェルがかかった相手に、魔法攻撃をしているような、そんな手ごたえの無さ。
どうしたの?デルフ?本当に、どうしたの?

「び、ビビ、前っ!!」
「う、うわっ!?」
ガキンって目の前で、牙むき出しの口が閉じられる。
危ない。帽子の端っこが、銀竜の鼻先に触れて揺れた。

「デルフ、どうしたのっ!変だよっ!?」
「……あ、あぁ……」
「GWOOO!」
「っ!!せいっ!!」
デルフを振り上げて、叩きつける。
ギンッと、金属と金属が触れあうような音。
硬い。こいつの皮、プロテスがかかっているのかって思うほどに、硬い。
……でも、それ以上に、デルフから力が引き出しきれていない。
いつもだったら、金属相手にだって、傷をつけるぐらいの力は出せるはずなのに……

「くっ……」
「GWRAAA!!」
まずい、避けきれない。防ぎきれない。
思わず目をつむってしまいそうになる……

「『錬金』っ!!」
響いたものは、爆音。
「GYAAAAAAAAAAAAAAAAA!?!?」
胴体の大部分を失って、銀竜は苦しみもがいていた。
その体を乗り越えて、ルイズおねえちゃんがこっち側に降りてくる。
「ビビ、大丈夫っ!?」
「る、ルイズおねえちゃん……」
すごい。ルイズおねえちゃんの魔法、本当にすごい。
どんな魔法障壁や皮の厚さも貫いてしまう爆発なんて、聞いたことが無い。
「……わ、悪ぃな、娘っ子……はは……」
それに比べて、デルフの声が本当に弱々しい。
どうしちゃったって言うんだろう、ホント……

「悪ぃな、じゃないわよ!ったく……ビビ、怪我無いわね?」
「う、うん……っ!?ルイズおねえちゃん!!」
「GRRRRR……」「GWOOOO!!」
最初の銀竜の開けた穴から、二体、いやもっと多くの銀竜が入ってきた。
完全に……狙いは、ボク達だ……!

「嘘でしょっ!?」
「ルイズおねえちゃん、急ぐよっ!!」
「あ、当たり前よぉおおっ!!」
二段飛ばしなんて、そんな生易しいものじゃない。
ほとんど、転んでいるのか落ちているのか分からないほどの速さで、
ボク達は螺旋階段を下って行ったんだ……


ピコン
ATE ~セイヴ・ザ・クイーン~

少女が率いるコンツェルト。
手にはナイフを振りかざし。
「いいかい、面で潰すんだよっ!両翼は平民どもの保護っ!」
少女の指揮で、戦局が動く。
王様の馬と王様の家来、全部揃えて大防戦。

「はっ!水メイジ、前へっ!!」
「回復魔法――放てっ!!」
大通りに溢れ満ちるは、ガリアの命脈、シレ川の水。
悪しき者は押し流し、弱き者を救わんとする、護国の大波。
無理矢理、合わぬ魂を与えられ暴走した屍共は、
その狂えし鼓動を『整えられ』、元の死骸へとその身を戻す。

だが、数が多い。
幾重にも重なる陣容は、兵の身体そのものを盾としていた。

盾の後ろより、飛び出す1体。
向かって左翼、屍にしては素早い動き。
タンタンタタンッと足運び、踊り上がるは敵の影。
1人漏らせば速いもの、左翼の戦列が乱れ出し、
抜け出た屍数十人、そろいもそろって醜悪なる面の皮。
元より死人、死など恐れず、一直線に少女の方へ。
衛兵共が留めようとするも、本能のままに動く者と比すれば反応は遅い。
彼らが最も守らねばならぬ人、その場所まで、最初の一人が辿りつく。

「イザベラ様っ!!」
叫んだころにはもう遅く、唱うる呪文が間に合うべくも無し。
間の抜けた面して、君主の名を呼ぶことが精一杯。
イザベラは呆れる。
本当に馬鹿ステルモール、既成概念とやらにとらわれた頑固者である。

第一、だ。
「ふんっ!!」
誰が、助けて欲しいなんざ泣きごとを言った?
守られるべき少女は、自ら短剣を振るう。
水晶の粉、とでも例えるべきか、水魔法と風魔法の生む剣技。
それが襲撃者の身体に触れるか触れないかという刹那の間に、
斬という音すら立てず、ただただ包みこむように、屍を四散させしめた。

「お、おぉ……」
「――意外って顔だねぇ?無能王の娘はやっぱり無能だとでも思ったかい?」
自嘲気味の皮肉。
これぐらいは言わせてもらっても問題あるまい。
事実、今まで魔法を行使する姿など見せたこともなく、
我儘で、怠惰な、能無し王族と思われていたのはまず間違いないのだから。

「い、いえ、そそそんなめっそうもっ!?おそれ多い――」
「ふんっ!あたしは寛大だからね!どう思われたって構わないさねっ!
 あんたはせいぜい無能呼ばわりされないように働きなっ!」

ならば、そのギャップを利用する。
『不良と捨て犬の法則』という奴の変形バージョンだ。
普段無能である者が、緊急時にあり得ない働きをしてみせる。
兵の支持と士気を上げるのに、そこそこ役立つだろう、というわけだ。

「は、はっ!!」
良い返事。相手を信頼しきった完璧な返礼。効果アリ。
普段からこうして良い返事をしてくれりゃぁいいものだが、
我儘勝手な自分の下ではそうもいかないか。
イザベラは自嘲の笑みを浮かべようと――
「――っ」
ぐらり。
水の中に入ったように、視界が揺らぐ。
地に立ってはいるが、それが足で立っているのか腹で立っているのかすら分からない。
目まいや立ちくらみ、それに類してはいるが、
そんなチャチなものでは無いということを、イザベラは歪む景色の中冷静に判断した。

「(少々、ご無理が祟りましたな)」
囁くように、声が響く。
心に直接届く声。
それが、壊れそうになった五感の中で、リンと鈴の音のように響く。

「(あんたは黙ってなっ!ここが踏ん張りどころなんだよっ!!)」

心の中で返答を。
悪態ではあるものの、イザベラは感謝していた。
その声に、しがみついてよりかかる。
そうすることで、呼吸が整い、なんとか視界が戻ってくる。
声の主に、直接触れ、握り締める。
手にした短刀、そのものに。
『地下水』。
裏社会じゃちょっとは名の知られた暗殺者の正体が、
握った者の精神を操ってしまう短剣だなんて知ってるのはそう多くない。
インテリジェンス・ソードならぬインテリジェンス・ナイフといったところだろうか。

「(必死な姿、応援したいのは山々ですがね。ご忠告申し上げたいことが)」
「(何だってのさ?くだらないことだったら聞かないよ)」
「(俺の言うことが下らないわけないでございましょ?
  あんた様の魔力のコトさ。残り良いトコ2,3発ってとこでしょうね)」

こいつの強みはそれだけではない。
持った者のポテンシャル、すなわち潜在魔力を引き出し、
自由自在に四系統全ての魔法を使うことができるのだ。
『親譲りの無能』とさえ評されるイザベラからすらも引き出すのだから、
その力は大した物だと言えるだろう。

だが、それとて無尽蔵に、とはいかない。
所有者の精神力を確実に食い潰し、やがて使い果たす。
無から有を為す、どんな幻想であっても、それはあり得ないことなのだ。


「(……はっ、そんなことかい)」
「(それ以上無理すると……最悪、身体が壊れちまいますよ、ってハナシだ。
  あんたは嫌いだが、操りやすい体が減るのは嫌なんでね。一応警告させてもらいますよ)」

所詮、ナイフ。
操る者がいなければ文字の通りに手も足も出ないということは重々承知している。
だからこその忠告だ。
地下水にとってみれば、今彼を持つ少女は、ほどよい『宿主』というだけで、別段こだわる必要は無い。

「ハッ!上等じゃぁないか!!」
「ど、どうされました!?」
そのイザベラが、突如吠えた。
喉を震わし、声に出し、気を吐いた。
目まいが何だと言うのだ、身体が何だと言うのだ、とばかりに。

「(上等、でございますか?)」
「(馬鹿にされっぱなしってのはね、我慢ならないんだよ!見返して、やりきって死ねるんなら本望さね!)」

イザベラという女性。
彼女の行動原理をシンプルに形容するならば、『理により無理を通す』というところであろうか。
元々、父に似てチェスの腕前も悪くない。
頭そのものは至極真っ当で、有能であるはずなのに、
あえて無能で無謀を振る舞い続けたことには、それなりの理由が存在する。

あらゆる点で従姉妹であるシャルロット、すなわちタバサに劣り、
父であるジョゼフからは無視をされ、
家臣達はそろいもそろって腹に一物を持ってゴマをするおべっか野郎か、
あるいはあからさまに嫌悪し、心で中指立てて厭々つき従うよう輩ばかり。

そんな彼女にとって、我儘は、唯一許された自己主張だったのだ。
簒奪者の娘と蔑まれ、無能の姫と軽んじられ、似合わぬ冠を嘲笑われた彼女は、
ともすればたやすく折れる心を、無理矢理傲慢に振る舞うことで支えていた。
それが、彼女なりの理であり、無理であっても通さねばならぬ道理であった。
王家のものとして、屈することは許されぬ。
折れた膝には、やがて有象無象が群がり、国そのものが蝕まれるからだ。

そのために、従姉妹にも辛く当った。
嫉妬が無かった、とは言うまい。
明らかに、イザベラはシャルロットを羨んでいた。
イザベラ自身、シャルロットを虐めるときにドス黒い優越感が、心の飢えを満たしたことを認める。
だが同時に、襲いかかったのはいつも決まって、虚しいばかりの罪悪感。
悔いることも許されぬ立場であり、役柄を演じてしまった彼女にとって、
それは自ら背負った磔の十字架であった。

埋まることのない罪の意識は、やがて決壊を迎える。
決定的な事由、火竜山脈における『季節外れの不死鳥の卵』捜索依頼である。
腐れ坊主共との会話の端で出た言葉に、何故乗ってしまったのか。
ロマリアの思惑通りに任務を思いつき、それを指示してしまうという愚行を、何故犯してしまったのか。
クジャから通信で事の顛末を聞いた後、イザベラは一人部屋で泣いた。
たまりにたまった感情が、高慢という仮面で押し隠した全てが、雫となって溢れ出た。
許せなかった。
彼女を全てにおいて凌駕するくせに、彼女に忠実に尽くそうとする従姉妹、シャルロットが。
彼女にとって大切な家族であるのに、無視をし続けた父王、ジョゼフが。
そしてもちろん、彼女自身が。
今までタバサを、彼女の大事なシャルロットを、何度となく死地に遣わせながら、
いざ死の危機に瀕したと聞き、狼狽し涙した、自分自身が。

だからこそ、彼女は今一度、無理を通す。
それが彼女の理であり、通すべき道理だからだ。
その傲慢ぶりを、もう一度だけ発揮する。
これが最期だ。
その後は、罪を償うために修道院にでも入ってやってもいいだろう。
その前に、修道院を取り仕切るロマリアのクソッタレどもの大掃除だ。
あぁ畜生。生臭坊主共め!
ことにかいて、このガリア王の娘であるイザベラ様を騙して、
大事な大事なシャルロットを、虚無だかなんだか知らないが餌扱いしやがっただと?
許せるわけが、無い。

「(またご無茶を……)」
「(あら、無茶しすぎたときには、あんたが止めると思ってたんだけど?)」

ロマリアの糞共に一泡食わせるってことならば、何だって利用してやるつもりだった。
自分の身体?安い代償だ!
彼女は、王女である。
王女の所有物は、己の肉体のみにあらず。
国家そのものが彼女の血肉であり、そこに住む人民こそ魂なのだ。

だから、イザベラはもう1度ギュッと地下水を握り締めた。
信頼と、覚悟を伝えるために。

「(……裸踊りでもさせて、ですか?)」
「(ブッ!?それを今言う!?
  ――あのときの辱め、ここで償えなきゃ溶かして鍋にでもしてやるよっ!
  そうならないよう、知恵と魔力をあたしから絞りだしなっ!!)」
「(上等、でございますな)」

ナイフとの会話にケリをつけ、
もう1度、彼女は大通りを見渡した。
守るべき地が、今飲みこまれている。
守るべき、王女の地が。

「馬鹿ステルモール!前に出るよっ!自陣にひきこもってるだけじゃ守れるもんも守れやしないからねぇっ!」
「は、はっ!ま、前とはっ」
「正面から堂々とッ!行くよっ!!」

王女は、王女らしくあるべし。
大臣の小言がふと思い出される。
いいだろう。王女らしく振る舞ってやる。
覇道たる大通りの真ん中を、堂々と。これ以上、王女らしいものはあるまい?
イザベラは、彼女の中の王女を守るため、
王女と王女の血肉を守るため、
威風堂々、立ち向かうのだ。


ピコン
ATE ~フレイムタン~

真っ赤な舌が、廊下を這って襲い来る。
骨をも焼き焦がす炎。

だがコルベールは、臆しない。
唱える呪文は最小限。
力を力で抑えるのではなく、力を技で撃ち払う。

剣を交えるがごとく、炎の波が重なって、
火の粉をふりまき爆ぜて散る。

「ふふ、やるな」
火の粉の向こうに、敵の顔。
かつて己が焼いた、部下の顔。
生徒を焼こうとした、敵の顔。

あのとき、確実に命を奪っていれば……
いや、過去を省みてなんとする。コルベールは自身を諌めた。
見つめるべきは、現在。炎の中の、敵。

メンヌヴィルの次の動きを見て、コルベールは撥ねた。
窓を突き破り、その向こうへ。
刹那、業を焼き尽くす地獄の舌が、廊下を満たす。
壁も天井も焼きつくし、ズ、ズ、ズと学院が崩れる。

窓から逃げたコルベールは、そのまま広場の方へと逃げた。
距離をとらねば。
戦闘を続けていた者と、長年遠ざかっていた者では差があまりある。
コルベールはそれを確かに実感していた。

火の魔法が、他の魔法と圧倒的に違う点。
それはこと戦闘において『小細工が必要ない』ことだ。
振ればそのまま敵を払い、撃てばそのまま敵を穿つ、まさに破壊の象徴。
その意味において、メンヌヴィルは最高クラスの炎の使い手となっていた。
一切の小細工を打ち捨てた力そのもの、
かつてコルベールが持っていた、非情なる力そのものに。

「どうした!隊長殿?逃げ回るばかりではないか、えぇ?
 いつの間にチキンに成り下がってしまったんだ!?」

闇から、声が届く。
学院の壁に反射し、重なる。
輪唱のように、笑い声がこだまする。
どこだ、敵はどこだ。
宵闇の中見渡しても見えぬ。
それは敵も同じ、と言いたいところだが、そうはいかぬ。
相手は盲人。元より闇の中の住人。
暗がりのみを友として、牙を磨き続けた獣。

ジリッと音がする。木の葉が燃える微かな音。
身を、よじる。

焼き焦がす熱。
質量のある炎。
圧倒的な破壊力。
かすっただけで、重心が崩される。

「惜しい!マントが焦げただけか!
 しかし次は体だ! 貴様の燃え尽きる匂いを嗅がせてくれよ、えぇ!?
 この、オレに!オレを!感じさせてくれよ!ははははははははははははは!!」
「くっ……」

逃げる。
逃げる。
闇の中、コルベールは逃げる。

やがて出るのは中庭の1つ。
見通しが効く。これだ。
少しでも、闇の中で盲人相手に勝機を見出すとすれば、
見通しの良い場所に出ねば話にならない。

それでも、中庭を囲むように、植え込みの藪。
隠れる場所は、無くは無い。
ドッドッドッと、心音が上がる。
これからの一足一挙動が、ある意味で賭けなのだ。

「最高の舞台を用意してやったよ、えぇ?隊長殿……
 鬼ごっこはもうお終い。残念だぜ、えぇ?楽しい時間はあっと言う間だな!」
どこから聞こえるのか、皆目検討はつかない。
中庭が、濛々と立ち上るメンヌヴィルの熱気と殺気に満たされたかのようであった。

「なぁ、メンヌヴィルくん。お願いがある」
「悪いんだが、焼き加減はウェルダンに決めているんでね、えぇ?
 焼き始めの場所ぐらいは聞いておいてやるさ。なぁに、昔馴染だろう、えぇ?」

息をするのを、忘れそうになる。
コルベールは、溜息のように短く息を吐き出し、吸い込んだ。

「降参して欲しい。私はもう、魔法で人を殺さぬと決めたのだ」

だからこそ、教師になった。
破壊以外の、炎の使い道を、考え教えるために。

「おいおいおい……学校ってのは生徒だけじゃなく、先生も馬鹿になっちまうものか、えぇ?
 いいか? 俺は、お前が見える。 お前は、俺が見えない。 理解したか、えぇ?
 どう逆立ちしたって、貴様に勝ち目は無いだろうが!」
「そこを曲げてお願い申し上げる。このとおりだ」

見えぬ相手なれど、頭を垂れて願う。
半分は、本気。彼の本心からの願い。
だが、もう半分は、冷静な武人であったころの非情な思惑。
すなわち勝機を誘うための、演技。

「――なぁ、隊長殿?いぃや、もうあんたは俺の憧れた隊長殿じゃねぇや、えぇ!?
 腑抜けだ!あぁ、糞ったれの間抜け野郎だ!脳味噌までとろけ切ったボケ爺だ!
 そんなお前を、二十年間追い続けた俺も同じって言いたいのか、えぇ!?」

案の定、である。メンヌヴィルが吼えた。
相手の激昂。これがコルベールの狙った勝機だ。
怒り狂った獣は、攻撃が単調になりやすい。
コルベールの狙いはそこにあった。

ただ、誤算があるとすれば。

「……決めたぜ。お前が来ないってんならよ、えぇ?
 俺様は好きな物は先に食う方なんだがよ……貴様が腰抜けなせいで優先順位が変わっちまった。
 ガキ共の柔肌の方が燃やし甲斐があるってもんだぜ、えぇ?」
「っ!!」

コルベールは、教師だ。
仮面の演技が、いつしか本物となり、
愛すべき生徒達に、馬鹿にされながらも囲まれて、
コルベールは今や心身共に教師だ。
だから、怒る。
大きな誤算。それは自らの怒りを制御しきれぬこと。
コルベールは、かつての武人としての冷静な頭脳ではなく、
愛すべき生徒を守る教師の魂を、今燃やしていた。

「お?いいねぇ!そうだよ!怒りだ!その怒りを感じさせてくれよ、えぇ!?
 お前の大切な生徒だろ?ほぅら、もっともっとだ!もっと実感させてくれよ!」
「いいえ……あなたには、もう感じることすらできないでしょう」
「だろうなぁ!お前が黒っ焦げの炭になっちまうのはもうすぐだもんな!ははははは!」

小細工無用、力と力が、ぶつかり合う。
魔法学院の中庭で、今また、炎と怒りが交差する。




「……ぜぇ……ぜぇ……や、やめて欲しいわね、ホント……」
尖塔を降り切った先、出口の光が見えたのはいいけど、
その先がまた酷かった。
「……ゾンビと……銀竜……こんなに……」
街の中……ボロボロだから、多分遺跡だと思うけど……
そこら中を、モンスターが埋め尽くしている。
エンカウントしないで、先に進むのは、かなり厳しい。
そもそも、建物の壁を見ても分かるけど、
この街は迷路みたいに入り組んでいる。
これじゃ、どっちに行けば『悪魔の門』かだなんて……

「……右、だな……」
「デルフ?」
デルフが、小さくポツンと呟いた。

「右だ……相棒、多分右、だぜ……そこに例の『門』があらぁ……」
「どーしてあんたに分かるのよ?」
ルイズおねえちゃんが、疑わしそうに聞く。
……そうだよ、ね……?なんで、デルフがそんなこと知ってるの……?

「分かんねぇ……ちくしょ、こう、うまく言えないんだがよぉ……
 頭が割れそうだわ……頭なんざ無ぇけど……はは……」
デルフの声が、苦しそうに聞こえる。

「……右、だったね」
「ビビ!?あぁ、もう!勝手に行かないでよっ!!」
ボクは、デルフの相棒で、
相棒っていうのは、お互いを信用しなくちゃいけない。
だから……行くべき道は、はっきりしていた。

「はぁああっ!!」
「『錬金』っ!『錬金』っ!!『レビテーション』っ!!」
「GROWWWW!?」「GYAAAAM!!」
かき分けて、かき分けて、進む。
ちょっとずつ、それでも、確実に。
その先の道を、信じて。
 ・
 ・
 ・

しばらく進むと、何だか、空気が濃くなったような感じがしたんだ。
「ビビ、あれっ!!」
「……? !! 『虹』!?」
建物の影に隠れて分かりにくかったんだけど、間違いなく、『虹』だった。
歪んだ色が、幾重にも重なって、それが柱みたいに、空の高くまで伸びて……
いや、違う。
空から、伸びてきて、地面に向かっている?
まるで、何かに、吸い込まれるかのように……

「『悪魔の門』って、あの先じゃない!?」
「……うん!!」
確かに、それっぽい。
魂を飲み込むなんて、いかにも『悪魔』って感じがする。
それに、この空気の濃さ……大きな魔力の存在がすぐ傍にあるって感覚。
いかにも、って感じだ。

「行くわよっ!!」
「うんっ!!」
まだまだ襲い掛かるゾンビを振り払って、ボク達は遺跡の奥へ奥へと進んでいった。

 ・
 ・
 ・

「これが……『悪魔の門』っ!?」
『虹』の柱の下の端っこ、それは、思ってたものとは大分様子が違っていた。
まず、その色は真っ黒なんかじゃなく、真っ白に輝いていた。
『虹』のいくつもの光が、赤や緑や青や黄色、そんな色の光がいくつも重なって白く光って見える。
その光が、大きく広がって、扉というか、鏡というか……これだと、まるで……
「『召喚の扉』……?」
そう、ボクがこの世界に呼ばれたときにくぐったような、召喚の扉にそっくりだ。
白く光って……
あ、と思い出したんだ。
この光って、『輝く島』のものに似ているんだってことに、やっと気がついた。
テラから漏れ出た、テラやガイアの魂の光……『輝く島』の光そのものじゃないか。

これが、悪魔の門なら、この先に……!

「――で、どうする、ビビ?」
「……決まってる、でしょ?」
「GWAAAMM!」「GRLLLLLL!!」
背後からは、まだまだ銀竜やゾンビ達がこっちに向かってきているのが分かる。
ボクは、デルフを握りなおして、反対の手で、ルイズおねえちゃんの手を、しっかりと握った。
離れないように、しっかりと。
「……行くよ!」
「えぇ!悪い奴らを倒しに、ね!!」

襲い掛かるモンスター達をボク達は振りきって、
光の中へと、飛び込んだ。
その先に待つ物がなんだろうと、構うことなく……


新着情報

取得中です。