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第四話 謎の少女タバサ 前編


第四話 謎の少女タバサ 前編


「…これでよし、と。」
魔法学院の救護室…そこにクラース達の姿があった
決闘で疲れた才人を手当てしてベッドに寝かせ、ひと段落した所である
「グミが効いているから傷もそれ程酷くはない…2、3日休めばすぐに全快するだろう。」
クラースは振り返って、後ろにいるルイズとシエスタにそう伝える
それを聞いたシエスタの表情が、ぱあっと明るくなった
「そうですか…良かった、本当に。」
「それにしても…クラースって器用よね、サイトの手当て殆ど一人でやっちゃうし。」
ルイズの言うとおり、これまでの才人の処置をしたのはクラースだった
シエスタは必要な道具を集め、ルイズは見ているだけだった
「簡単なものならな…旅をしていた頃は、生傷が絶えなかったからな。」
ふーん、とルイズはそれで納得すると、才人へと近づいた
そして、その寝顔を覗き込んでみると…
「すー、すー……。」
ベッドに眠らされた才人は、今は静かな寝息をたてて眠っている
「ぐっすり寝ちゃって…あれだけ心配させておいて、何だか腹立つわ。」
ルイズは手を才人の顔へと伸ばし、その頬を抓った
ほんの少しだったが、才人は痛がる素振りも見せずに眠り続ける
「才人は精神力を使い切った状態だからな…ちょっとやそっとじゃ起きないぞ。」
クラースの言葉を聞いても、ルイズは止めずに才人の頬を引っ張り続ける
そんな彼女の行動に、クラースとシエスタは呆れた視線を送る
「慣れない事をやって疲れているんだ…静かに眠らせてやれ。」
「ミス・ヴァリエール、子どもじゃないんですから…。」
「うっ…わ、解ってるわよ、それくらい!!」
二人の言葉に、ルイズは少し怒鳴る口調で返すと、才人の頬から手を離した
しばらく黙っていたルイズだったが、今度はクラースの方を向く
「ねぇ、クラース…聞いても良い?」
「ん、何だ?」
先程とは違った真面目な顔に、クラースはルイズの質問を受け付ける
「さっきの決闘でサイトが見せたあれ…一体何なの?何か剣から出してたし…」
「あれか…あれは私の仲間だった青年が使っていた剣術でな、アルベイン流剣術と言うんだ。」
「アルベイン流剣術?」
鸚鵡返しで尋ねるルイズに、クラースは頷いて答える
「ああ、とても強力な剣術で…魔法にも引けをとらない程の力を持っているんだ。」
「嘘、魔法にも負けないなんて…そんな馬鹿な話、あるわけ…。」
ルイズの常識から考えれば信じられない事だが、あれを見ては納得するしかない
ドットとはいえ、ギーシュをその剣技で倒してしまったのだから
「(あれってアルベイン流剣術って言うんだ…あの人と同じだから、何か関係があると思ったけど。)」
隣で話を聞いていたシエスタは別に驚く様子もなく、昔の事との関係について考えていた
「しかし…私には解らんな、何故才人がアルベイン流剣術を使えたのか…。」
呟くように自身の疑問を告げるクラースに、ルイズとシエスタは疑問を浮かべる
それに答えるように、クラースはそのまま話を続ける
「才人が剣を持ったのはあれが二度目…一回目は、重さから満足に振る事も出来なかったんだ。」
なのに、才人は剣を持った途端、まるで使い慣れたかのように剣を巧みに使っていた
それに、彼は別世界の人間…アルベイン流剣術に触れる機会も無かった
「でも、現に才人は剣を使って、ギーシュを…。」
「そうなんだが…一体才人に何が…。」
考え込むクラース…ふと、自分の左手に刻まれたルーンを見た
同時に、図書館前でコルベールが言っていた事を思い出す
「(そう言えば、コルベール教授はこれが伝説の使い魔のルーンだと言っていたな。)」
それに、最初に此処へ来た時、メイジが使い魔と契約すると特殊な力が使い魔に宿ると言っていた
なら、自分と同じルーンが刻まれている才人がアルベイン流剣術を使えたのは、このルーンが力を与えたのでは…
「ルイズ、実は……」
クラースがこの事を話そうとした時、ぐぅっとお腹のなる音が救護室に響いた


最初それが何なのか気づかず、クラースは首を傾げた
数秒後、突然ルイズが顔を真っ赤にしてお腹を抑える
「もしかして…ミス・ヴァリエール、お腹が空いているんですか?」
最初に気づいたシエスタの指摘に、更に赤くなるルイズ…当たりらしい
もう、時刻は夕方…そろそろ、夕食の時間が来る頃だ
「なら、何か食べる物を持ってきますね…皆さん、今日は大変でしたから。」
シエスタはそう言うと、扉を開けて救護室から出て行った
扉が閉じられた後、しばしの沈黙が続く
「……それでルイズ、実は…。」
「ねえ、クラース…。」
やがて、再度クラースが口を開くが、その前にルイズが割り込んだ
二度目の彼女からの問いかけにどうした、と言って先に話すよう進める
「サイトが決闘の時に言ってたんだけど…私、魔法が上手く使えるかもしれないって本当?」
才人の奴、あの事を話したのか…ルイズの言葉にクラースはゆっくりと頷く
「ああ、私の推測だがな…君は多分、力を上手くコントロール出来ないだけなんじゃないか?」
「そう、なの?私はよく解らないんだけど…。」
呪文を唱えれば、魔法は発動せずに爆発ばかり…周囲も、自分でさえもその理由は解らなかった
だが、クラースの言葉が正しいのなら…
「じゃあ、その力をコントロールする方法って?どうすれば私魔法が使えるようになるの?」
期待の眼差しを向けながら尋ねるルイズだが、クラースは首を横に振る
「すまないが、その方法が何なのか今の私には解らん…此処の魔法の原理については知らないからな。」
「何よ、それ…期待するような事言って…。」
クラースの返答に、期待を持っていたルイズは落ち込んだ
結局、私なんて…と、ルイズは俯いて自身を自嘲するように呟く
「ルイズ…そんなに自分を自嘲するもんじゃないぞ。」
クラースはそんなルイズに歩み寄ると、その肩に手を置いた
「君はまだ良い…失敗しているとはいえ、魔法を扱える素質はあるのだから。」
「クラース?」
クラースの口調に疑問を感じたルイズは、顔を上げて彼の顔を見る
今、目の前にいるクラースの表情は、優しさと憂いを帯びていた
「ルイズ、私はな…昔、魔術に憧れていたんだ…限られた者のみが使える力を、何時か私もと思って…。」
そして、自身の過去をゆっくりと語って聞かせる…ルイズはそんなクラースの言葉を、黙って聞く
「そして、色々あって辿り着いたのが召喚術だった…私は召喚術を扱える事に誇りを持っている…。」
しかしな…とそこで少し区切った後、クラースは言葉を続けた
「結局、その力は契約した者の力であって私の力ではない…私は所詮、彼女達の力を借りているだけなんだ…。」
それが、召還術と魔術の違い…クラースが授業の時に、才人に言いたかった事だった
「…っと、これは君にとっては贅沢な悩みだと思われるかな?」
「…本当にそうよ、贅沢すぎる悩みだわ。」
ルイズはクラースの気持ちを察してか、敢えて普段どおりの口調で返した
そうだな…と、クラースは憂いを帯びた笑みを浮かべる
「……ねぇ、クラース、私に魔法をコントロールする方法を教えてくれない?」
少しの間をおいて、ルイズはクラースに頼み込んだ
「いや、だから私は此方の魔法の事は詳しくは…。」
「それは解ってるわよ、こっちの魔法の事とかあんたが知りたい事を色々教えてあげるわ。」
だから、私にも教えて…と、ルイズは必死にクラースに頼み込む
誰もが自分の魔法について諦めた、自分自身も…
だけど、この人なら…と、彼女はクラースに一筋の希望の光を見ていた
「ルイズ……解った、必ずとはいかないが、出来る限りの事はしよう。」
彼女に希望を持たせてしまった以上、断るわけにはいかない
寄り道になってしまうが、ミラルドならきっと許してくれるだろう
「なら、まずは文字を教えてくれないか…此処の文字は私の所とは違うようだからな。」
「文字、ね…良いわ、だったら明日からバシバシ教えてあげるから。」
ルイズの言い方に、お手柔らかに頼むよ、と言ってクラースは笑った
それに釣られて、ルイズも笑う…これで、話はひと段落がついた
「さて、話は纏まった所で…ルイズ、実は…。」
ようやくクラースが本題に入ろうとした時…直前でクラースは言葉を止めた


「何、どうしたの…そう言えば、さっきから話したい事があるみたいだったけど?」
ルイズが尋ねるが、クラースは黙ったまま何も言わない
そんな彼の顔を覗き込むと、表情が固まっている
「クラース?」
「ん…あ、すまない…急に外の空気が吸いたくなったからな、話は後にしよう。」
今気付いたという感じに答えると、クラースはルイズの横を通って扉に手を掛ける
「少ししたら帰る…それまで才人の事を見ていてくれ。」
「あっ…ねぇ、ちょっと!!」
ルイズが呼び止めようとするが、それより早くクラースは出て行ってしまった
残されたルイズは呆然と、彼が出て行った扉を見つめるだけだった
「…もう、あんな切り方されたら気になるじゃない!!」
クラースの行動に憤慨したルイズは、腕を組んで一人文句を言った
その直後、突然ノックも無しに扉が開いた
クラースが戻ってきたのか、と思ったのだが…

「はぁい、ダーリン♪」

入ってきたのは、褐色の肌に赤い髪をした少女…キュルケだった
突然の訪問者に、ルイズは呆気に取られた顔になる
「キュルケ、どうして此処に…それより、ダーリンって誰よ!!」
「ダーリンはダーリンよ。私、ダーリンに会いに来たの…ねぇ、ダーリンは何処?」
ルイズの問いかけに対し、キュルケはそう答えて再度尋ねてくる
だから…と、ルイズが怒ろうとすると、キュルケは眠っている才人を発見した
「あっ、もう一人のダーリンは此処にいたのね。ねぇ、ダーリン♪」
そう言うや否や、キュルケは眠っている才人へと駆け寄る
「もう一人って…まさかキュルケ、あんた…。」
ルイズは嫌な予感がした…この女がこんな態度をするという事は…
「そうよ、私恋しちゃったのよ…ミスタ・レスターとサイトに!!」
やっぱり…それを聞いて、ルイズは頭が痛くなってきた
「あの決闘の場に私もいたんだけど…ミスタ・レスターの魔法とサイトの剣技…二人とも、本当に格好良かったわ。」
まるで、イーヴァルディの勇者のように…と、手を組んで目を輝かせる
「私の内にあるこの想いは恋よ、これが恋じゃなければ何だと言うのかしら?」
「何時もの色ボケでしょ、まったくあんたは見境も無く…。」
ルイズの言葉に対しても、キュルケは気にせずに言葉を続ける
色々と自分の想いを告げているようだが、ルイズはそれを無視した
「あのねぇ、クラースは今出かけてて、サイトは寝てるの。解ったらさっさと…って、ちょっと!!」
ルイズが気付いた時、キュルケは自身の唇を才人に近づけていた
あと少しという所で、ルイズは彼女の襟首を掴んで才人から引き離す
「あん…ちょっと、何するのよルイズ!?」
「それはこっちの台詞よ、私の使い魔に何する気!?」
「勿論、目覚めのキスよ。眠れる王子はお姫様のキスで目覚めるって相場が決まってるのよ。」
「普通逆でしょ、それ!!」
それでも諦めないキュルケは、再度才人へのキスを決行しようとする
それを引っ張って止めるルイズ…何時しか二人は取っ組み合いになった
「邪魔しないでよ!!」 
「この色ボケ女!!」
そんなこんなで取っ組み合いが続き…上を制したのはキュルケだった
にやりと勝ち誇るキュルケ…と、その時またもや扉が開いた
「失礼、ミスタ・レスターが此処にいると聞いたのだ…が?」
入ってきたのは、コルベールだった
ガンダールヴの説明の為、クラースを呼びに来たのだが…

「「あっ…」」

ルイズもキュルケも、二人は同じタイミングでコルベールと目があった
乱闘で乱れた髪、肌蹴た衣類、ルイズを抑えつけるキュルケ…
三人の間の時間が、少し止まった


「ミ…ミス・ヴァリエール、ミス・ツェルプストー…怪我人の前で、何て破廉恥な事を…。」
「ち、違います、これは…ってあんたもどきなさいよ。」
何時までも上に乗っかっているキュルケを押しのけ、ルイズは何とか弁明しようとする
だが、コルベールは誤解したまま、ルイズに説教を始める
「良いですか、二人とも…人と人が愛し合う事には様々な形があるのは解ります。ですが、此処は学院の、怪我人がいる救護室であって…。」
「ですから、違うんですミスタ・コルベール。ツェルプストーが私の使い魔を…。」
「あら、別に私はこういうのも悪くないわよ。」
「話をややこしくしないで!!」
この状況を楽しんでいるのか、余計な事を言い出すキュルケにルイズは叫ぶ
そんな時、またもや救護室の扉が開いた
「すいません、遅くなりました。マルトーさんが沢山持たせてくれたから…。」
三人目の来訪者は、大き目のバスケットに沢山の食べ物を入れたシエスタだった
ルイズとキュルケを説教するコルベールを見て、目をパチクリさせる
「あれ、ミスタ・コルベールにミス・ツェルプストー…サイトさんのお見舞いに来たんですか?」
「え…ええ、そうよ、そんな感じで。」
「私は学院長にミスタ・レスターを呼ぶよう言われたのだが…所で、彼は今何処に?」
学院長の用事を思い出したコルベールは、説教を置いてルイズに尋ねる
「え、えっと…ですから、クラースなら外に…。」
「失礼するよ。」
ルイズが説明しようとすると、キザったらしい声と共にまた扉が開いた
4人目の訪問者は、才人・クラースと決闘をしたギーシュだった
手には、薔薇の花束が掴まれている
「ギーシュ、あんた何しに此処へ…。」
「此処に君達がいると聞いてね…これを彼に…。」
そう言うと、ギーシュはルイズに薔薇の花束を渡す
そして今度は、隣にいるシエスタの方を振り向いた
「君、シエスタと言ったね…昼間は失礼な事をして本当にすまなかった、許してくれ…。」
ギーシュは床に片膝をつくと、頭を下げてシエスタに謝罪した
「えっ、そんな…困ります、貴族様に謝られるなんて…。」
貴族が平民に頭を下げて謝罪する…絶対に有得ない事だ
そんなギーシュの謝罪に、シエスタはおろおろとするばかりだった
その様子を、ルイズは呆然となって見つめていた
「ギーシュ、確かにあんたにサイトからの伝言は伝えたけど…意外と素直に謝るのね。」
「ふっ、僕だって貴族の端くれだ…約束くらいは守るさ。」
そう言うと、一本の薔薇を取り出してポーズを決める
良いところあるじゃない、とルイズは思った…相変わらずキザだが
「所で、ミスタ・レスターは?彼にも一言お詫びをと思ったんだが…」
ギーシュがクラースの行方を尋ねると、他の三人も一斉にルイズを見た
ルイズは一度息を吐くと、彼らに聞こえるように告げる

「だから、クラースは……。」

……………

一方、その頃…話題となっているクラースは決闘の舞台となったヴェストリの広場にやってきていた
決闘の名残であるワルキューレの残骸や、魔神剣の後などがそのまま残されている
「(シエスタの話だと、此処はあまり人気がないらしいからな…。)」
だから、何があっても大丈夫だろう…そう思いながら、クラースは空を見上げた
もうすぐ夜になる…空の上には、この世界特有の二つの月が輝こうとしているのが見える
クラースは二つの月を見つめながら息を吸い…そして吐いた
「……それで、何時までそうしているつもりなんだ?」
そう言いながら、クラースは後ろを振り返る…そこには、一本の木が生えていた
「隠れてないで出てきたらどうだ?私に用があるのだろう?」
クラースが再度呼びかけると、ゆっくりと木の後ろから誰かが姿を現した
出てきたのは、長い杖を持った青髪の少女…タバサだった


「…どうして気づいた?気配は消していたのに…。」
ある程度近づき、間合いを取った上でゆっくりとタバサは口を開く
「伊達に32年は生きてないさ…最も、途中までは解らなかったな。」
救護室で、クラースは自分を誰かが見ている事を悟った…それが彼女だろうという事も
その真意を確かめる為に、この人気のない場所までやってきたのだが…
「で、用件は…話は一応終わったと思うのだが…。」
クラースの問いかけに対し、タバサは沈黙を保ったままだった
そして、返答の変わりに杖先をクラースに向ける
「おいおい、穏やかじゃないな…私の返答が気に入らなかったのか?」
「確認する…貴方は人間?それともエルフ?」
クラースの言葉を無視して、タバサは問いかける
彼女の言葉に内心驚くが、心の内を見せないように平静を保つ
「私はエルフではないな…ほら、耳だって尖ってないだろ?」
そう言いながら、自身の耳を指差す…が、タバサは杖を下ろさない
「なら、何故先住の魔法が使える?昼間の決闘のあれは先住の魔法…精霊の力だった。」
「ほぅ…驚いたな、シルフが風の精霊だと解ったのか?」
最初から知っていた才人とルイズ以外は気づかなかったのに…この少女は侮れない
相変わらず杖を突きつけ続ける彼女に、クラースは答える事にした
「質問に答えるとするなら…長年の研究の成果だな、わが師にして友である男が追い求め…私が完成させた、な。」
そう言って、帽子のつばをギュっと握り締める…まるで何かを忘れないように
それを聞いたタバサは少し黙った後、話を続けた
「…では、貴方はエルフではない?」
「そうだ…だが、何故エルフに拘るんだ?」
このハルケギニアでは、人間とエルフは宿敵同士だという事はルイズから聞いている
だが、彼女が自分に対して接触を行ったのは、それが理由ではないように思えた
クラースの問いに対し、話すべきか迷う素振りを見せたが、やがて口を開く
「昼間の話…私の大切な人の心を奪った秘薬は、エルフによって作られたと聞いている。」
「成る程…だから、私が知っているかもしれないとつけていたのか。」
こくん、とタバサは頷いた
「それで…貴方は知っている?」
「そうだな…エルフが作った秘薬か…そうなると、心当たりは幾つかあるにはあるが…。」
エルフ関係の知り合いは何人かいるが、異世界の知識が通用するかどうかは解らない
その他の可能性についてももう一度考えてみるが、それらを試すには…
「まず、私の故郷に帰る方法を探さないといけなくなるからな…悪いが、君の役に立てそうにない。」
「そう…なら、別に気にしなくて良い。これは私の問題だから…貴方は故郷に帰るつもり?」
「ああ、私には待っている人がいるし…何より、才人を彼の家に帰してやりたい。」
クラースは自身が才人を手違いで召喚した事、送還中にルイズに召喚された事をタバサに話した
送還術を使えると聞いて、タバサは少しだけ驚いた表情を見せた
「召喚した使い魔を、元の場所に戻す…そんな方法を編み出すなんて…。」
「色々と特殊な手順を踏んでだがな…あれを編み出すのにも、色々と苦労したが…。」
それを聞いたタバサは、杖を下ろして手を唇に当てて無表情のまま考える
しばらく考えた後、自身が選んだ選択をクラースに告げた
「なら…貴方が故郷に帰れる方法を探すのに、私も協力する。」
「良いのか?随分と時間が掛かるだろうし、無駄足を踏む可能性だってあるんだぞ。」
「私の大切な人の心を取り戻す可能性があるのなら、試してみる価値はある。」
そう答えたタバサの瞳には、普段とは違う感情の色が感じられた
クラースとしては、彼女の助力を得られるのは有難いと思った
彼女なら、優秀な助手として期待できそうだ
「そうか…なら、協力をお願いしよう。よろしく頼む。」
クラースはタバサに手を差し伸べる…タバサもゆっくりと、自身のその手をクラースに伸ばした
二人が握手を交わそうとしたその時、二人を巨大な影が覆った
「何だ、急に暗く……。」
「駄目なのねちびすけ、その人と戦っちゃ駄目なのね!!」
影が差したかと思えば、今度は女の子の声が聞こえてくる
クラースが上を見上げると、すぐ真上に青い竜が浮遊していた


「なっ…竜か、何故こんな所に!?」
即座に本を取って構えるクラースは、シルフを呼び出そうとする
だが、タバサが杖を差し出して止めた
「心配しなくて良い…この竜は私の使い魔。」
「使い魔だって?」
タバサの言葉にクラースがよく見ると、足の裏に使い魔の証であるルーン文字が刻まれていた
それまで浮遊していた竜はゆっくりと、二人の前へと降り立つ
「この人、人間なのに風の精霊様を使役しているのね。だからあんたでも…きゅい!?」
使い魔の竜が喋っている途中なのに、タバサは持っている杖でポカッと殴った
辺りを見回して自分達以外がいない事を確認すると、竜に向かって口を開いた
「此処で喋るの禁止。」
続いて、竜に向かってタバサはそう言いつけた
でも…と言いたそうな竜を、タバサはじっと見つめる事で黙らせた
「心配しなくても、私はこの人に戦いを挑んだりしない。」
そして、タバサはクラースと戦わない事を伝えて、竜を落ち着かせる
その光景を、クラースは驚いた表情で見ていた
「驚いたな…魔法使いは様々な使い魔を使役しているとは聞いたが、まさか韻竜とはな。」
「貴方の故郷にもいるの?」
「ああ、それなりにな…敵として戦ったり、共に戦ったりした事はある。」
かつての戦いを思い返しながら、クラースは答える
「彼女が貴方の事を教えてくれた…彼女は風の韻竜だから。」
「そうなのね、イルククゥは風韻竜だからすぐに解ったのね。でも、貴方が風の精霊様を呼び出した時は驚いたのね。」
人間なのにすごいのね、と何度も使い魔の竜…イルククゥはクラースを称賛する
それをタバサが再度杖で叩いて、にらみつける事で黙らせた
「それと…このハルケギニアでは、韻竜は絶滅したとされている…だから、この事は秘密にして欲しい。」
「成る程…絶滅種となれば、色々と貴重な存在だろうからな…解った、約束する。」
それを聞いて、納得したタバサは再度イルククゥを見据えた
「それで、私に何の用?」
タバサが尋ねると、イルククゥは何も言わずに何かを口に咥えて彼女に渡した
それは手紙らしく、態々届けに来たらしい…タバサはそれを黙って受け取る
そして、封を開けると中の手紙を黙々と読んでいく
「手紙か…誰からのものなんだ?」
「…任務。」
クラースの問いにぽつりと呟くと、タバサはイルククゥの背中に乗った
そして耳元で何か呟くと、イルククゥは翼を広げる
「私はいかなければならない…話はまた次に。」
「お、おい、ちょっと待て。任務とは一体……。」
クラースが問いかけようとするが、イルククゥはタバサを乗せてゆっくりと上昇していく
どうやら、何か事情が出来たようだが…
「………。」
クラースは空へ飛んでいくイルククゥを見つめていたが、やがて本を取り出した
本を開くと、召喚術の詠唱を始める
「………シルフ!!」
クラースが詠唱を終えると、彼の周囲にシルフ三姉妹が姿を現した
「セフィ、ユーティス、フィアレス…頼む。」
クラースが頼み込むと、彼女達はその言葉の意味を理解して風を吹かせる
風はクラースを包み込むと、彼の体を飛翔させた
そして、宙に浮いていくクラースは、飛んでいこうとするタバサと目をあわせる
「おいおい、ちょっと待て…碌に説明もないまま行かれては困るな。」
流石のタバサもこれには驚いたらしく、目を丸くしていた
そんな彼女の驚きをよそに、クラースはタバサの後ろに降り立つ
「君にも色々あるようだが、これからは協力するんだ…出来れば、話して貰えないか?」
初めて会った時から思っていたが、彼女は唯の女子学生ではない
何も知らずに彼女を助手にしたくはないクラースは、彼女の素性について尋ねた
少しの沈黙を続けるタバサは、クラースに顔を見せずに口を開いた
「時間が惜しい…このまま目的地に向かう、その途中で説明する。」
それでもいい…とタバサに尋ねられ、クラースは黙って頷く事で答える
それに納得したタバサはイルククゥに囁き、更に上へと飛翔する
二人を乗せた風韻竜は、夜になりつつある大空に向かって飛んでいった


「なるほど、そういう事か……。」

ハルケギニア上空…クラースとタバサはイルククゥに乗って移動していた
その途中で、約束通りクラースは彼女から詳しい事情を聞いていた
「辛いな…両親の仇の命令を聞き、無理難題な任務をこなすというのは。」
彼女はこれから行くガリア…トリステインの南にある大国の王族だったという
だった…というのは、後継者争いに敗れた事により、王家の資格を剥奪されたのだ
父親は殺され、母親は心を狂わされた…彼女が助けようとしているのは、母親だった
「でも、やらなければ…母の心を取り戻す事も、父の仇を討つ事も出来ない。」
残った彼女は、仇からの任務をこなすという日々を送っていた
王家で無理難題な出来事が起こると、彼女に押し付けるのだという
成さなければ自分と、母の命の保障はない…
「すまんな、そういう事情があるとも知らず、執拗に君の事を尋ねてしまって…。」
「気にしなくて良い、これは私の問題だから…任務についても貴方は別に協力しなくても良い。」
クラースの同乗を許したのも、自分の事情を話す時間が惜しかったからだ
自身が仕事を終えるまで、何処かで待ってもらうつもりなのだが…
「いや、折角ついてきたんだ…私で良ければ、君の力になろう。」
「でも……。」
「君は私に力を貸してくれるといった…なら、私が君に力を貸したって良いじゃないか。」
そう告げるクラースは、自分がこんなにもお人よしだったかと内心驚いていた
きっと、クレスとミントの影響だろうな…とそう思った
「(あの二人は、本当にお人よしだったからな…迷子の子を送り届けたり、少年に林檎を何個も買ってやったり…。)」
あの頃を思い返していると、タバサが此方をじっと見ているのに気づいた
照れ隠しのつもりで、クラースは軽く咳払いをする
「それに、このハルケギニアがどんな所なのかこの目で見るのも悪くない…私達はまだ此処の事をよく知らないからな。」
そう言って、イルククゥの下に広がるハルケギニアの大地を見つめる
今はすっかり夜の暗闇に包まれているので、下は真っ暗でよく見えないが…
そんな時、クラースの腹の音が鳴った
「おっと、すまない…そう言えば、夕食はまだ食べてなかったな。」
確か、ライスといたのりがあったな…と呟いて、道具袋からごそごそと何かを取り出す
そして、手元で何かしらの動作を行い…
「…よし、出来た。」
「それは?」
タバサが振り返ると、クラースの手には三角をした何かがのっていた
どうやら食べ物らしいが、タバサは見た事がないものだった
「これか?これはおにぎりといってな、ライスを握ったものだが…ハルケギニアにはないのか?」
タバサはこくんと頷く、するとクラースは作ったおにぎりを彼女に差し出した
「なら、食べてみるか?簡単なものだが、美味いぞ。」
クラースから差し出されたそれを、タバサは黙って受け取る
少し匂いをかいでみると、ほんのりと塩の匂いがした
「大丈夫だ、毒は入ってない…それに、手だってちゃんと綺麗だぞ。」
笑いながらそう答えるクラース…やがてタバサはおにぎりを一口食べた
初めての食感と共に、塩の味がする…これは…
「……美味しい。」
「そうか、それは良かった。」
ぽつりと呟いた感想に、クラースは笑みを浮かべると自身もおにぎりを食べた
いつの間にか、何個もおにぎりを作っている
「……もう一つ、貰っても良い?」
「ああ、別に良いぞ。」
本を読む事の次に食べる事が好きなタバサは、おにぎりをもう一つ貰った
「わたしもわたしも、それ頂戴なのね。」
今度はイルククゥが、おにぎりを求めて首を伸ばしてきた
彼女にもおにぎりを渡すと、それは一口で食べられてしまった
そして二人と一匹の竜はガリアへと向かっていくのだった


『ガリア王国』
クラース「そう言えば、これから行くのはガリア王国…という国だったな。」
タバサ「そう…トリステインの南に位置する、ハルケギニア最大の国…現王ジョゼフ一世が治めている。」
クラース「君の父上の兄君…つまり、伯父上が統治しているわけだな。」
タバサ「彼等にとって、私は肉親関係じゃない…ただの使い捨ての駒にすぎない。」
クラース「そうか…それで、君に与えられた任務とは?」
タバサ「それは解らない…会って話を聞かないと。」
クラース「まずはガリアへ…というわけだな、今は到着するのを待つか。」
『召喚術の使い方 シルフの場合』
クラース「あっ、しまったな。」
タバサ「どうしたの?」
クラース「ルイズや才人に出かけてくるのを言うのを忘れていたな。」
クラース「才人は良いとして,ルイズが黙ってはいないだろうな…迂闊だった。」
タバサ「悪いけど、トリステインに戻れない…時間が惜しい。」
クラース「それは解っている…うーん…シルフに伝言を頼んでみるかなぁ…。」
タバサ「精霊を…伝言板扱い…。」
イルククゥ「きゅい、きゅい…やっぱり只者じゃないのね、この人間。」
『憧れの外の世界』
イルククゥ「きゅいきゅい、人間が風の精霊様を使役するなんて…やはり外の世界は凄いのね。」
クラース「そう言えば、君は絶滅したと言われる韻竜だそうだな…ほかにも仲間はいるのか?」
イルククゥ「いるのね、人目のつかない場所でひっそりと暮らしているのね。」
イルククゥ「でも、ずっと退屈な生活だったのね…だから、何時か独り立ちしたいと思っていたのね。」
クラース「だから、タバサのサモン・サーヴァントに応えたわけだな。」
イルククゥ「けど、このちびすけは扱いが悪いのね…人前では喋るなだの、ご飯はちゃんとくれないだの、韻竜を何だと思って…。」
タバサ「………。」
クラース「まあ、君も私も召喚されてから間もない…ゆっくりと、信頼関係を築けば良いさ。」
イルククゥ「このちびすけと信頼関係を…つくれるのか、不安なのね。」
『鳴子の音』
タバサ「貴方がつけているそれ…それは何?」
クラース「これか?これは鳴子と言ってな、風を受けるとカチャカチャと音が鳴るんだ。」
タバサ「何故…そんな物を?」
クラース「私の研究の成果によると、精霊はこの音が好きらしい…シルフからの評価も良かったぞ。」
タバサ「本当に?」
クラース「本当だとも。なら証拠を見せよう………シルフ!!」
セフィー『何用ですか、マスター?』
クラース「すまないな、シルフ…この私の鳴子だが、どう思う?」
セフィー『鳴子、ですか?風に吹かれた時に鳴るその音は、とても心地良いものです。』
ユーティス『うん、聞いていて気分が落ち着くよ。』
クラース「な?」
タバサ「何も、わざわざ呼んで証明しなくても…。」
フィアレス『こうして風を吹かすと、いい音が出るんだよ…それ!!』
クラース「どわあああああああああ!!!!!!」
セフィー『ああ、マスターが…。』
ユーティス『フィアレス、強すぎだよ、マスターを飛ばしてどうするのさ』
フィアレス『ご、ごめんなさ~い、マスター、大丈夫ですか~~~。』
タバサ「………精霊と付き合うのも、大変。」



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