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ルイズと夜闇の魔法使い-10a


「……はあ」
 魔法学院本塔にある図書室の一角、ほどよく陽のあたるテーブルに頬杖を付いてエリスは物憂げな溜息を吐き出した。
 ルイズの使い魔として負った仕事と給仕達の手伝いをあらかた終えた彼女は、ここでハルケギニアについての勉強をするのが日課だった。
 本来ならここで勉強をするのは彼女一人だけではなく柊も一緒のはずだったのだが、彼は今この学院にはいない。
 エリスの主人――という事になる――ルイズと共に王都トリスタニアに赴いているのだ。
 しかもその用向きは買物なのだそうで、柊は勿論としてルイズも"その類"の心持ちはないのだろうが……一人取り残されたエリスとしては暗澹とした気持ちになるしかなかった。
 昼を過ぎた暖かな日差しがどこか恨めしい。
 エリスは手にしていたペンを中空でさまよわせると、もう一度溜息をついた。
「……何回溜息をつく気だい?」
「! あっ……ロングビル先生」
 不意に声をかけられてエリスは大袈裟に肩を震わせると、声の主――ロングビルを振り返った。
 彼女はエリスの言葉に軽く眉を歪めると、眼鏡を軽く押し上げて口を開いた。
「先生ってのは……まあいいか」
 ロングビルは言いながらエリスの対面に座ると、テーブルに広げられている何冊かの本と紙を覗き込んだ。
「で、ちゃんと終わったのかい?」
「あ、はい。それはもう」
 エリスから手渡された紙をしばし見つめた後、ロングビルは満足そうに小さな笑みを浮かべた。
「上等。あんたはヒイラギと違って優等生だね。座学だけならここの生徒に混じっても問題ないぐらいだよ」
「あはは……ありがとうございます」

 柊とエリスがハルケギニアの事を学ぶにあたってまず必要になったのが、教わる教師である。
 何しろこの世界の知識が皆無な上に文字を学ぶ事から始めなければならないのだ、口語で翻訳ができるにしても誰かに教わった方が遥かに効率がいい。
 だが、それにもっとも適任であるルイズは学生の身分であるため時間をそうそう作ることはできなかった。
 学院に務める教師達は総じて柊達には否定的――厳密に言うなら平民に教えるのが嫌なのだろう――で、好意的といっていいのはコルベールとシュヴルーズくらいのものである。
 殊にコルベールは自ら協力を願い出たのだが……とある事情で柊達は彼を避けていた。
 そんな訳で実質候補はシュヴルーズ一人だけとなった訳だが、一人だけに任せるのも申し訳ないし彼女も教師である以上ルイズと同様に時間を取り辛い……という事で白羽の矢がたったのがロングビルだった。
 教師などしたこともない、と当初ロングビルは渋ったのだが、その次の日に何を思ったのか唐突にエリス達の教師役を引き受けたのである。
 「秘書の仕事は、暇がないといえるほどに忙しい訳ではないので」とロングビルは語ったが、真の理由は別にあった。
 エリス達の相手をしていれば、隙があれば(なくても)セクハラを仕掛けてくるオスマンと日がな一日同じ部屋で過ごす必要がないからだ。

「ロングビル先生って、本当に先生やったことないんですか?」
「ないよ。はっきり言って柄じゃないしね……ここの秘書ができてるのも、学院長があんなだからさ」
 尋ねてきたエリスにロングビルは苦笑を漏らしながら返した。
 ルーンの確認の際にバレてしまった事もあって、ロングビルはエリスといる時だけは本来の砕けた口調で話している。
 柊がいる時は固い口調と取り澄ました態度であるため、彼は彼女の事を典型的な堅物教師と思っていて少し苦手のようだ。
 しかしこうやって普通に喋っているロングビルを見ると、表情自体は秘書の時のそれより険が入っているが空気が柔らかくなっているのがわかる。
 凛とした大人の女性、というよりは気風のいいお姉さん、といった印象だ。
 エリスはなんとなく、柊の姉である柊 京子を思い出した。
「でも、なんだか慣れてる感じがしました」
「ん……字を教えたりってのは初めてって訳じゃないしね」
 言ってからロングビルははっと気付き、僅かに眉根を寄せて顔を背けた。
 首を傾げて見つめるエリスに、彼女は僅かに視線をさまよわせてから言葉を継ぐ。
「……。ここに来る前に世話になってた村でね、その……そういうのをやった事があるんだよ」
「村の子供達に教えてたり、とかですか?」
「まあ……そんな感じかな」
 ロングビルはどことなく奥歯に物が挟まった感じで曖昧に頷き、軽く頭を掻いた。
(何やってるんだ、あたしは……)
 久しぶりに素の口調で会話をしているので気が緩んでいるのだろう、どうにも迂闊な事を口走ってしまう。
 そもそもが目先の厄払いでこんな役を引き受けてしまったのが迂闊の始まりなのかもしれない。
 ロングビルは一つ大きく息を吐いて気を引き締めると、改めてエリスに顔を向けた。
 それを勉強の再開と受け取ったエリスが僅かに身体を揺らしてかしこまる。
「もう文字は大体読めるだろうから、後は知識を広げるだけだよ。幸いここは本には事欠かないからね、好きなのを読んどきな」
「はい」
 勘違いにかこつけてロングビルはエリスに読解が容易な本の区画を教えると、早々に退散しようと席を立った。
 と、そこに。
「おや、ミス・ロングビルにエリスさんではありませんか」
「あ……」
 教師専用の区画である『フェニアのライブラリィ』から本を抱えたコルベールが現れた。
 彼はきょろきょろと辺りを見回すと、本を小脇に抱えて二人の下に歩み寄ってくる。
「ヒイラギくんはいないようですな。どうにも私は彼に避けられているようで……今は空いているので?」
「……はあ、まあ」
 退出しようとしていた手前勉強中です、とは言えずロングビルは諦めたように言った。
 するとコルベールは目を輝かせて、複雑な表情を浮かべているエリスに一歩詰め寄る。
「そうですか! ならばちょっとお話を伺ってもよろしいですかな?」
「うぅ……はい、私にわかる事なら……」
「ありがたい! 以前から是非とも貴女達とじっくり話し合ってみたいと思っていたのですよ! 何しろかのロバ・アル・カリイエからの来訪者ですからな!」
 困っている、としか表現できない顔で渋々と答えたエリスには気にも留めず、コルベールは嬉々として二人に椅子を勧めるのだった。

 柊とエリスがコルベールを避けていたのはまさにこの一点なのである。
 二人に好意的であった事から見ても彼個人は悪い人物ではない、というのは理解していた。
 が、彼は研究者気質があるらしく、未知の文化を持つというロバ・アル・カリイエの事に関して興味津々だったのだ。
 無論そんな場所の事を知っているはずもない二人としては下手に誤魔化すわけにもいかず避け続けていたのだ。
 柊はなりふり構わずあれこれと適当にはぐらかして逃げたし、エリスは自分の仕事にかこつけて距離を保ち続けた。
 しかし、今回ばかりはもう逃げられそうになかった。

「何しろ彼の地はサハラを挟んでおりますゆえ、ヒトもモノもとかく流れてきませんでな。文献なども諸々あって実態が掴みづらいのです。
 一体彼の地は如何なる所なのか……是非とも教えていただきたいのです」
「うぅっ……」
 禿げ上がった頭をつるりと撫でてコルベールが深々と頭を垂れるが、エリスは小さく呻くことしか出来ない。
 柊やルイズに助けを求めようにも彼等は今学院には居らず、唯一の味方かもしれないロングビルは諦めたように息を漏らすばかり。
 出身を偽った事は自分が異世界の人間である事を隠すためなので仕方ないにしても、そこから更に嘘を重ねる事はなるべくしたくなかった。
 だからこそ二人はコルベールから距離を置いていたのだが、最悪の状況で捕まってしまった。
「いやいや、難しく考える必要はないんですぞ? 何でも良いのです。どんな場所に住んでいたとか、どんなものがあったとか。
 エリスさんはヒイラギくんを先輩と呼んでおりましたが、あなた方はこの学院のような場所に通っておったのですかな?
 平民でも通える学校のようなものがロバ・アル・カリイエにはあるのですか?」
「そ、それは……っ」
 矢継ぎ早に飛んでくる質問にエリスは追い詰められた。
 下手な事を言えばボロがでて怪しまれるかもしれない。かと言って沈黙を保っていても、やはり怪しまれるだろう。
 孤立無援の状況にエリスは耐えられず――
「ご、ごめんなさいっ!」
 小さく叫んでテーブルにぶつける勢いで頭を下げた。
 唐突といえば唐突な謝罪にコルベールは首を傾げる。
 エリスは顔を上げると、泣きそうな顔で小さく漏らした。
「私……私と柊先輩はロバ・アル・カリイエから来たんじゃないんです」
「……なんですと?」
 エリスの告白にコルベールは目を丸めた。
 エリスの脇でロングビルが、彼女を見つめたまま僅かに眉を寄せる。
「いや、しかし……ではあなた方は何処からこの学院に召喚されたと……?」
 コルベールが怪訝そうな表情で顎に手を添える。
 ロバ・アル・カリイエでないとすればハルケギニアの四国のいずれかだろうか。
 だがそれなら使い魔や文字を読めないのはともかく、一般常識やメイジなどを知らないという事はありえない。
 もっとも、よくよく考えれば交流が密でないとはいえ絶無でもないロバ・アル・カリイエの人間だとしてもハルケギニアの事を全く知らないというのもおかしい話なのだが。
 覗き込むように見やるコルベールの視線を受けてエリスは僅かに怖気付いたが、彼女は少しの沈黙の後搾り出すように声を出した。
「……私達はファー・ジ・アースっていう所から来たんです」
「……ファー・ジ・アース?」
 小さく漏らしたロングビルに、エリスはしおらしく頷く。
 コルベールは首を捻ってしばし黙考すると、力なく首を左右に振った。
「そのような地名は聞いた事がありませんが……よもや貴女方はロバ・アル・カリイエをそう呼んでいるのでは?」
「違います、そうじゃなくって……」
 言ってしまうか一瞬迷いはしたが、エリスは意を決して打ち明ける事にした。
 紆余曲折はあったもののルイズだって信用してくれたのだ、この二人も信じてくれるかもしれない。
 一縷の望みを託して、エリスはコルベールを真っ直ぐに見据えて口を開いた。
「トリステインとかガリアとかの場所の名前じゃないんです。この『ハルケギニア』とは別の世界――『ファー・ジ・アース』っていう世界から来たんです」
「べ、別の世界……!?」
 コルベールとロングビルの表情が凍りつく。両者は絶句してエリスを凝視し、彼女は視線に耐えられず顔を俯けてしまった。
 握り締めた自分の両手をじっと見つめたまま、エリスは二人の言葉を待った。
 ……が、いつまで経っても声をかけられることはない。
 彼女が恐る恐る顔を上げると、それまでの興味本位ではない真剣な表情でコルベールが口の中でぶつぶつと何事かを呟いていた。
「あ、あの……?」
 おずおずとエリスが声をかけると、コルベールははたと気付いてエリスを見やった。

「別の世界……異世界。ふむ……興味深い」
「……え?」
 予想しない反応にエリスは思わず呆けた声を上げてしまった。
 そんな事を意にも介さず、コルベールは眼鏡をぐいと押し上げて、まるで生徒に講釈するように語り始めた。
「伝承の上ならば異世界はハルケギニアでも語られておりますな。最たるものは死後の天上世界と呼ばれるヴァルハラですが……他にも咎人の堕ちるニブルヘイム、理想郷アスガルド、妖精郷や影の国などもあります。
 しかしながらハルケギニアのように人間が生活し社会を築く『現実的』な異世界というものは寡聞にして聞きません」
「えっと、あの……」
「ふむ……異世界! その発想はなかった! ですがそう考えれば確かに腑に落ちる事もあるのです!」
 コルベールは力強く言いながらびしりとエリスを指差した。
 思わずびくりと震える彼女を他所に彼は更にまくし立てる。
「貴女方の服装を始めとした諸々の言動、これは別の地方などといった『異境』というよりは根本的に『異質』と言ったほうがしっくりとくるのです。
 なるほど、異世界ですか……我々の世界とは異なった理が支配する世界が存在すると。実に興味深い……!」
「……」
 なにやら自分の世界に入り込んでしまったコルベールにエリスは何も言えなくなってしまった。
 とにかく、信じてくれた……という事でいいのだろうか。
 エリスは一方で黙りこくったままのロングビルに眼を向けた。
 個人的にはコルベールよりも親交が深かった彼女の反応の方がある意味では気になる。
 ロングビルと目が合った瞬間、何故か彼女は派手に肩を揺らした。
 ロングビルは世話しなく視線を左右させると、珍しく焦った風な挙動を見せて取り繕うように言った。
「い、異世界ね……夢があっていいんじゃないかな……?」
「……?」
 ルイズのように頭ごなしに全否定する訳でもなく、コルベールのように簡単に信じる訳でもない。
 何とも奇妙なロングビルの反応にエリスは首を傾げてしまった。
「エリスさん!」
「は、はいっ!?」
 唐突に声をかけられてエリスは反射的に席から立ち上がってしまった。
 すると同じように席を立っていたコルベールがテーブル越しに身を乗り出し、爛々と輝く眼でエリスを見つめていた。
「貴女やヒイラギくんがロバ・アル・カリイエの人間でないことはわかりました。しかし異世界の住人とやらならば尚更詳しく話を伺いたい!」
「えぇっ!?」
 どうやら信じてくれたのは確かだが、今度は別の方向でやぶ蛇だったようだ。
 むしろより強い好奇の目線でもってエリスを捉え、テーブルに乗り上げるような勢いで詰め寄ってくる。
「ファー・ジ・アースというのはどのような世界なのですか? どんな社会や国家があってどんな生活をしているのでしょう?
 魔法はあるのですか? そういえばヒイラギくんはミスタ・グラモンとの決闘の時に奇妙な光を出しておりましたが、アレはファー・ジ・アースの魔法なのですか?」
「あ、あの……っ」
 興味の矛先が変わっただけで内容はまったく変わらない詰問にエリスは仰け反るように後ずさる。
 そして彼女はコルベールの意気込みに耐えられず、
「……わ、私よりも柊先輩の方が詳しいですから、先輩に聞いたほうがいいと思います!」
 丸投げしてしてしまった。
「ふむ、そうですか!」
 コルベールは大きく頷くと、ようやく乗り出した身体を引いて席に落ち着き、夢心地に息を吐いた。
 解放されたエリスも安堵の溜息をついて椅子に座りなおし、心の中で「ごめんなさい、先輩……」と謝った。
 トリスタニアから帰ってきた後に柊がこうむるだろうコルベールからの質問攻めを思うと罪悪感が絶えないが、今現在の辛苦を耐え抜くことはできそうもない。
「そうだ、決闘で思い出しました。一つだけ聞いてもよろしいですかな?」
「はい?」
 いくらか落ち着きを取り戻したコルベールの声にエリスは現実に引き戻され、首を傾げながら彼を見やる。
 そしてエリス……と、話題についていけずどこか冷めた表情のロングビルの視線を受けながら、コルベールは言った。
「……エリスさんは、『破壊の杖』というものをご存知ですか?」

「……はい?」「!?」
 謎の単語にエリスは頭に疑問符を浮かべ、ロングビルは眼を見開いてコルベールを凝視した。
「先日のヒイラギくんとミスタ・グラモンの決闘の折、学院長が『破壊の杖』がどうのと言っておられたのですよ。
 なるほど確かにアレはこちらでは見られぬ奇妙な代物ですし、もしやロバ・アル・カリイエ……いや、ファー・ジ・アースでしたかな。そちらに関わりのあるものではないかと」
「……いえ、聞いたことないです」
 午前中のシエスタさんからも似たような感じの質問をされたな、と思い出しながらエリスは答えた。
 コルベールは残念そうに「そうですか」と呟くと、ふと何かに気付いたように視線をエリスからそらした。
 つられて視線を追ってみれば、今まで全く話に加わっていなかったロングビルが興味深そうな視線を二人に向けていたのだ。
「ロングビル先生?」
「ど、どうかなさいましたか、ミス・ロングビル?」
 視線の意味を勘違いしたのか、コルベールが僅かに上ずった声で尋ねるとロングビルは彼に向かって小さく微笑む。
「いえ。わたくし、マジックアイテムに少々興味がありまして……よろしければ詳しくお話を伺いたいのですわ」
 いつもの『秘書』の顔に戻してロングビルがそう言うと、コルベールは年甲斐もなく頬を染めて照れくさそうに頭をかく。
「そんな事なら喜んで! ……とはいえ、なんともこう口で説明するのが難しい代物でして、奇妙としか……」
「それなら絵でも描いてみたらいかが? もしかしたらエリスさんも思い当たるかもしれませんわ。ファー……ファー・ジ・アース? では別の名前なのかもしれませんし」
「む……それはそうかもしれませんな! では失礼して……」
 コルベールは何故か嬉しそうにテーブルに広げられていた書き取り用の紙を取ると、羽ペンで何やら書き始めた。
 覗きこむようにロングビルが席をコルベールの隣へ移すと、彼は雷に打たれたように大きく震えて顔を赤らめる。
 エリスはそんな風に顔を使い分けているロングビルを、やっぱり大人の人なんだなと半ば感心する思いで眺めやっていた。
「それにしても、『破壊の杖』などが納められているだけあって宝物庫は頑丈ですのね。外からしか見ておりませんがわたくし感心しましたわ」
「それはもう、スクエア・メイジが何人も寄り集まって徹底的に処理を施しましたからな!」
 ロングビルの興味を引けて嬉しさ極まっているのか、コルベールは絵を描きながら立て板に水のごとく知識を披露し始める。
 宝物庫は魔法に関しては万全だが、物理的な衝撃にはほとんど対抗策が練られていないとか。
 なのでトライアングル以上のメイジが創るような強大なゴーレムならば理論的には破壊可能だとか。
 いやはやこれだから魔法のことにしか眼を向けないメイジは視野が狭いのだとか、何とか。
(いいのかなぁ……)
 これは機密漏えいとかいう奴なのではないのだろうか。
 教師同士なので問題はないのだろうが……。
 口を挟めずにエリスはぼんやりと見守ることしかできなかった。
「できましたぞ。大体こんな感じですな」
 ややあって絵を完成させたらしいコルベールが満足そうに息を吐き出した。
 ロングビルは身を乗り出してその絵を覗き込むと、眉を潜めて首を捻った。
「これは……杖、なのですか?」

 コルベールの言う通り、それは奇妙としか言いようのないものだった。
 見ようによっては杖に見えない事もないだろうが、直線的な造形は『杖』と呼ぶよりも『棒』と呼んだほうが正しいような気がする。
 それにやけに太い。石突だろう先端部分もそうだが、上に行くにしたがって次第に更に太くなっている。
 コルベールはロングビルの反応をさもあらんと頷いて返し、学者が知識を披露する時特有の得意げな顔で口を開いた。
「形もそうですが、大きさも奇妙ですぞ。絵だけではわかりませんが、目算で2メイル以上はありますからな」
「……2メイル以上?」
 大きな杖、で真っ先に思いつくのは先日の決闘の際に闖入した青髪の生徒が持っていた杖だ。
 身の丈を越える大きな杖であるが、彼女が小柄なこともあるので精々は1.7~1.8メイルといった所だろう。
 2メイル以上では大男が持ったとしても余りある上、この絵のような造形では取り回すのも一苦労な代物だ。
 いわば鉄塊を振り回すに等しい。およそ『杖』として使えるようなものとは思えなかった。
「秘宝ゆえ詳しく検分することはできませんが、材質も奇妙なのです。おそらくは金属なのでしょうが、見た目よりも遥かに軽い!
 まあ大きさが大きさだけにそれなりの重さはありますが、それでも鉄や銅のそれとは比べ物になりません!」
「はあ……」
 ますます訳がわからなくなってロングビルは曖昧に頷くことしかできなかった。
 確かにハルケギニアでは見られないものなので、コルベールがロバ・アル・カリイエやら異世界とやらのものと疑うのも納得というものだ。
「細かい所はともかく、大方はこのような感じなのですが……どうですかな、エリスさん。これに見覚えがありますか?」
 コルベールは満を持してといった風に絵をエリスに向かって差し出した。
 彼女は手にとってその絵を見やり――眼を見張った。
「……え? これって……」
 驚きと共に食い入るように絵を凝視する。
 エリスの反応に見守っていた二人が僅かに身を乗り出したが、当のエリスはそれを気にする余裕もなくコルベールの描いた『破壊の杖』に見入っていた。
「な、なんで……」
 呻くように小さく漏らす。
 この絵からでは細かいディテールまでは窺えないが、全体的なフォルムは彼女の知るあるモノに似ていたのだ。
 それは彼女の親友であり、仲間でもあった緋室 灯が使っていた――

 ※ ※ ※

「流石に三時間はきついわ……」
 トリスタニアから学院へと戻った柊はルイズと共に彼女の部屋に赴き、買い込んでいた衣装箱の山を月衣から取り出していた。
 月衣に納められた物品は大きさは問わないものの重量はそのままであり、要するに柊は衣装箱を抱えたまま三時間馬に乗っていたに等しい。
 ラース=フェリアで何度か経験はあるものの乗馬になれない柊にとってはかなりの重労働だった。
「流石にクローゼットにしまうのはそっちでやってくれよな」
「わかってるわよ」
 肩を回しながら柊が言うと、ルイズはしばし衣装箱の山を観察したあと、その中から箱を三つ引き出した。
「これはあんたのね。あと……この二つは月衣の方に入れといて」
「?」
 乱雑に投げ渡された比較的小さめの箱を受け取りながら柊は首を捻る。
 ルイズが指し示した残る二つの衣装箱は、よくよく見てみると他のものより大きめで包装も過剰だ。
 何か特別なものなのだろうか。
「早くしてよ。エリスが戻ってきちゃうじゃない」
「あぁ、別にいいけど……」
 訳のわからないまま柊はその二つの衣装箱を月衣に納める。
 流石に二着では重さは全く大した事はなかった。
「その二つは明日使うから、そうね……昼食の後に部屋に来て」
「……明日使うんなら置いといていいんじゃねえのか?」
「いいの! ゲボクはつべこべ言わずに黙って言うとおりにしてなさい!」
「へいへい……」
 嘆息交じりに答えながら柊は改めてルイズの部屋を見回した。
 最初に部屋に泊まってから三日程で(決闘の褒章で)ギーシュの部屋に居候する事になったのでルイズの部屋に来るのはおおよそ一週間ぶりになる。
 流石にそれぐらいで何が変わるというものでもなかったが――強いて変化を上げるなら、彼女が勉強に使っているだろう机だ。
「……なんか本が増えてねえか?」
「……!」
 脇にある本棚に空きはほとんどないので、図書館あたりから持ってきたのだろう。
 題名を覗き込もうとしたが、未だ習得したとは言いがたい柊の読解能力ではいまいち読み取れない。
 興味本位で手を伸ばして見たが、それを遮る形でルイズが立ち塞がった。
「……わ、わたしはあんたと違って学生なんだから、勉強してて当たり前でしょ!」
 そう言われると柊としては納得せざるを得ない。
 柊は小さく息を吐くと、腕組みして肩を怒らせているルイズを見やった。
「勉強はいいんだけどさ……ちょっとはこっちの方も手伝ってくれよ。何しろ俺等は文字を覚えることから始めないといけないんだしさ」
「……」
 ルイズはぐっと言葉を詰まらせると、柊と同じように腕を組んでそっぽを向いてしまった。
「図書館使う許可は取ってあげたじゃない。使い魔でもない平民のあんたをここに置いてあげて、情報の場を提供してるだけでも破格の扱いなのよ?」
「……」
 視線を合わせようともしないで吐き捨てるルイズに柊は溜息をつき、肩を落とした。
 彼女の態度はどうにも埒があかない。学院長のオスマンの前で責任をとると言い切った時の彼女とは大違いだった。
 本格的に彼女からの協力は諦めた方がいいのかもしれない……とそんな事を考えていると、
「柊先輩っ!」
 普段の彼女らしからぬ、乱暴な勢いでドアが開かれてエリスが駆け込んできた。



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