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疾走する魔術師のパラベラム-01


第一章 召喚の儀式

   1

 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの人生には、不遇がつきものだった。本人がどんなに努力しても、実力とは全く結びつかなかった。どんな勉強も、どんな訓練も報われない。そんな状況が何回も続くと、人間は努力をやめてしまうだろう。
 けれどもルイズは、努力を怠らなかった。
 人より多く杖を振り、人より多く本を読み、そして人より多く失敗した。
 火、水、風、土。知りうる全ての呪文を唱えた。ありとあらゆる本を読み、知識を溜め込んだ。
 しかし、ルイズの魔法が成功することはなかった。

 初めて笑われたのはいつの事だっただろうか。 恐らく魔法学院に入学して、しばらく経った時だ。
 それまでは座学で、魔法の基礎や国の成り立ちについて説明を頭にいれる。
 そう、その時点ではルイズは優秀だった。
 母のようになりたい。
 父のようになりたい。
 姉たちのようになりたい。
 婚約者のようになりたい。
 ただそれだけの想いに突き動かされ、ルイズは必死に努力した。
『さすがはヴァリエール家だな』『ねぇ、アナタはルイズがあの烈風の娘って噂はもう聞いた?』『なんでもお姉さんは、アカデミーに勤めているらしいじゃないか』『ひょっとするとスクエアになったりするんじゃない?』
 そんな風評は瞬く間に広がった。しかし。

 迎えた初めての実技。
 学友が次々と『レビテーション』を唱え、机に置かれた小石を浮かばせる。
 レビテーションは物を浮かせる呪文。ほとんどのメイジが扱える初歩的なスペルである。メイジの力量により浮かせることができる物の数や重さは変わるが、これを使うことのできないメイジなど、そうはいない。
 順番が巡ってきたルイズの唱えたレビテーションは失敗した。浮かせようとした小石は、失敗の際に起きる爆発により砕け散り、教室を爆風が包んだ。
 生徒たちには何が起きたのか理解できなかったが、それは教師も同じだ。理解できたのはただ一人。呪文を唱えた本人であるルイズだけだった。
 混乱する同級生たちの中で、彼女は静かだった。

――まただ。また失敗。どうして私は・・・・・・・

 ルイズの心は静かだったが、それは痛みに慣れてしまっただけだ。もはや彼女の心は擦り切れて、今更失敗したところで波立ちはしない。代わりに生まれるのは闘志にも似た炎のような激情。

――諦めない。諦めたりなんかするもんか。

 この出来事をきっかけに、周囲のルイズに対する評価は変わっていった。
『優秀な白鳥の雛』から『羽を白く染めたアヒルの雛』へと。

 授業の実技の度に、魔法は爆発。成功はただの一度も無く、やがてルイズはこう呼ばれようになった。

『ゼロのルイズ』

 メイジの表す象徴ともいえる二つ名。
『烈風』『閃光』『微熱』『雪風』『土くれ』『炎蛇』『香水』『青銅』
 さまざまな二つ名があるが、そのどれもがそのメイジをよく表している。
 魔法が成功しないルイズに与えられた二つ名は、ルイズを残酷なまでによく表していた。

『ゼロ』、『ゼロのルイズ』。魔法成功率0%のゼロ。

 それが彼女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ラ・ヴァリエールに与えられた現実と才能だった。

 そうして彼女は、友も味方のただの一人もいない孤独な学園生活を送る。けれどルイズは、諦めなかった。唯一、心の内に秘めた一欠片の矜持と常に気高くあろうとする誇りを支えに生きてきた。そしてこれからも。
 そしてルイズは一年生最後にして最大の行事、『使い魔召喚の儀式』を迎えた。

   2

 学院から少し離れた草原。そこで若きメイジたちは、己の生涯のパートナーである使い魔の召喚を執り行う。
 次々と同級生たちが召喚に成功していく。カエルやネコ、鷲など普通だが、主人に見合った使い魔が召喚される。中にはまだ幼いが風竜を呼び出した実力者もいた。
『使い魔には主人に相応しいものが召喚される』
 メイジであれば誰もが知っている常識だ。

――ならば自分は?

 今まで一度の成功もしたことが無い自分には、答えてくれる使い魔がいるのだろうか。
 この儀式は使い魔を召喚するものともう一つ、二年生への進級試験を兼ねている。
 魔法学院に通いながら、使い魔を召喚することに失敗して落第した者など聞いたことがない。
 それだけ使い魔を召喚するということは『当たり前』なのだ。

 また生徒から歓声が上がる。草原の中央に目を向けるとそこには、サラマンダーがいた。
 大きな蜥蜴を思い起こす容姿。しかし大きさは蜥蜴などとは比べ物にならないほど大きく、尻尾の先には炎が揺らめいていた。
 サラマンダー。風竜ほどではないにしろ、かなりのアタリだ。
 召喚したメイジは、褐色の肌に艶のある赤毛。大きく胸元を開けた制服を扇情的に着こなした女生徒。
 キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。
 ルイズの隣の部屋の住民であり、ルイズの敵。
 キュルケのツェルプストー家とルイズのヴァリエール家には浅からぬ因縁がある。
 キュルケはルイズの向ける視線に気づいたのか、こちらにウインクをして見せた。
 奥歯を噛み締める音が脳髄に響く。

――負けられない。

 その後も次々と召喚に成功していく。もちろん、失敗するものはいない。
 やがて、ルイズの番が回ってきた。
 担当教諭のコルベールをアドバイス与える。
「いいですか、ミス・ヴァリエール。落ち着いて、自信を持つのです。あなたは優秀で努力家です。私は応援しています」
「ええ、ありがとうございます。ミスタ・コルベール」
 応援はしてくれても、信じてはくれないのか。

――それでいい。私のことは私が一番信じている。

 杖を取り出し、構える。ルイズの杖は煤だらけで、傷だらけだ。だがこれは、ルイズの扱いが雑というわけではない。これは彼女の努力の証。
「宇宙の果ての、どこかにいる私の使い魔よ・・・・・・私の求めに応じ、我が使い魔となれ」
 呪文を唱え、杖を振る。爆音が響き、熱を孕んだ風がルイズを吹き飛ばす。
 失敗。いつもどおりの爆発。ルイズは地面に叩きつけられ、低く呻いた。
「だ、大丈夫ですか? ミス・ヴァリエール」
 コルベールが慌てて駆け寄り、ルイズを心配そうに覗き込む。
「・・・・・・大丈夫です。もう一度、やらせてください。」
 まだ痛みを残す腕に力を入れ、立ち上げる。
 コルベールは一瞬、止めようとしたがルイズの目に宿るギラつきを見て口を閉じる。

――諦めない。決して、諦めるものか。

「やっぱり、ゼロだ! 見たか、サモン・サーヴァントまで失敗したぞ!」
「ははは、サモン・サーヴァントってどうやったら失敗するんだ? 教科書には載ってなかったぞ」
「いや、ブタか何か召喚したのかもしれないぜ? まぁ、あの爆発じゃ肉屋も引き取ってはくれないだろうけどな」
「おい、賭けしようぜ! 俺は『ルイズが失敗する』に50ドニエ賭けるぜ」
「バカ、賭けになんないわよ。誰がゼロに賭けるのよ。勝率も『ゼロ』じゃない」

――見返してやる。必ず魔法を成功させてやる。

「宇宙の果ての、どこかにいる私の使い魔よ・・・・・・私の求める力強い使い魔よ、我が導きに答え使い魔となれ」
 やはり起きるのは爆発。再びルイズは放り出される。
 今度の爆発はさっきより、規模が大きかった。ところどころ体がヒリヒリする。火傷したかもしれない。
 またコルベールがルイズの元へやってくる。
 止められたくない。ルイズはコルベールが口を開く前に立ち上がった。

「もう一度、お願いします」
 呪文を唱え、杖を振る。
 爆発。爆発。爆発。
 杖を何度振っても、呪文をいくら唱えようとも、起きるのは爆発だけ。その度にルイズの小さな体躯は吹き飛ばされ、宙へ舞い、地面へと叩き付けられる。
 それでもルイズは立ち上がるのをやめない。

――負けたくない。

 誰よりも、自分自身に負けたくなかった。

   3

 そろそろ十回を超えようとした時、見かねたコルベールが止めに入った。
 生徒たちは飽きたのか、哀れんだのか、もはや嘲笑の類をルイズに向けようとすらしない。その中でただ一人、キュルケだけはじっとこちらを見ていた。
「ミス・ヴァリエール、これ以上は危険です。ほかの生徒の召喚の儀式もまだ済んでいません。今日はここまでにしましょう」
「・・・・・・嫌、です。お願いします。あともう一度だけ・・・・・・」
 何度も地面に叩きつけられたルイズの身体は傷だらけだ。息も絶え絶えになっている。
「ミス・ヴァリエール」
「お願いします」
 自分のせいで予定が遅れている。それぐらいはルイズにだってわかる。だけど諦めたくない。
 コルベールの目を真っ直ぐに見つめる。結局、コルベールが折れた。
「・・・・・・わかりました。あともう一度だけ、許可しましょう」
 コルベールはすっと下がった。キュルケは相変わらず、こちらを見つめている。

 これが最後のチャンス。ルイズは目を閉じ、スッと息を吸った。自分の魔法によって焦げた草の匂い。今度は失敗しない。するわけにはいかない。
「・・・・・・宇宙の果ての、どこかにいる私の使い魔よ・・・・・・力強く、誇り高き使い魔よ。私の求めに応じ、我が導きに答えよ!」

 今までにない規模の爆発がおき、ルイズの召喚は成功した。



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