「あ……」
ルイズと女王が戦っている間、ギーシュは茨の蔓の陰から彼女達の様子を眺めていた。
彼が森の奥に隠れていたのは、他の生徒達による暴行を避けるためであり、女王から逃れるためではなかった。
他の生徒達に見つけられないように身を潜めながら、彼は女王の前に飛び出す頃合いを見計らっていた。
これ以上誰かに殴られることなく、大人しく鉄の像にされる――それは満身創痍の身で絶望に打ちひしがれていた彼が最も簡単に楽になれる方法であった。
その時、彼は他の生徒達が鉄化されるまでは体の痛みに耐えるつもりでいた。
しかし、彼の考えは女王と戦うルイズの姿を見るにつれて段々と変わっていった。
貴族としての誇り、それは彼にとっても大切なものであった。
彼が今日の昼頃にサイトと決闘をしたのも彼なりのプライドを貫き通すためだった。
ところが、女王の横暴とルイズの戦い様を見て、彼の心には今まで自分が貴族としての誇りと思っていたものに対する疑念が漠然と生じていた。
逆らう平民を力でを従わせること、それは女王が自分達にしたことと同じではないのか。
そして、目の前の敵から逃げ続け、逃げ切れないと分かれば楽に死ねる方法を探そうとする――そのような貴族にどんな誇りがあるというのか。
ぼんやりと感じられるそのような思いに彼が悩んでいると、彼の目の前が突然真っ白になった。
そして数秒後に視界が開けると、彼の目の前には茨の森ではなく乾き切った荒野が広がっていた。
ルイズと女王が戦っている間、ギーシュは茨の蔓の陰から彼女達の様子を眺めていた。
彼が森の奥に隠れていたのは、他の生徒達による暴行を避けるためであり、女王から逃れるためではなかった。
他の生徒達に見つけられないように身を潜めながら、彼は女王の前に飛び出す頃合いを見計らっていた。
これ以上誰かに殴られることなく、大人しく鉄の像にされる――それは満身創痍の身で絶望に打ちひしがれていた彼が最も簡単に楽になれる方法であった。
その時、彼は他の生徒達が鉄化されるまでは体の痛みに耐えるつもりでいた。
しかし、彼の考えは女王と戦うルイズの姿を見るにつれて段々と変わっていった。
貴族としての誇り、それは彼にとっても大切なものであった。
彼が今日の昼頃にサイトと決闘をしたのも彼なりのプライドを貫き通すためだった。
ところが、女王の横暴とルイズの戦い様を見て、彼の心には今まで自分が貴族としての誇りと思っていたものに対する疑念が漠然と生じていた。
逆らう平民を力でを従わせること、それは女王が自分達にしたことと同じではないのか。
そして、目の前の敵から逃げ続け、逃げ切れないと分かれば楽に死ねる方法を探そうとする――そのような貴族にどんな誇りがあるというのか。
ぼんやりと感じられるそのような思いに彼が悩んでいると、彼の目の前が突然真っ白になった。
そして数秒後に視界が開けると、彼の目の前には茨の森ではなく乾き切った荒野が広がっていた。
天を衝く女王の巨大な姿は消えていた。
半径10リーグの範囲にあった茨の蔓もまた跡形も無く消えていた。
ギーシュの周りに残っていたものは鉄化した人間と草花、そしてルイズだけだった。
「ル、ルイズ……?」
意識を失ったルイズはアンリエッタの像の正面に背中をもたれ掛けていた。
足を伸ばし、地面に座るようにして倒れている彼女の体は鉄化していない。
ギーシュは彼女の元に駆け寄った。
その時の彼には、ルイズがどのような魔法を使い、どのようにして女王を倒したかは気にならなかった。
誇りある貴族としての在り方、その一つを見せてくれたルイズの安否だけがただギーシュには気掛かりだった。
「大丈夫かーい! ルイズ!」
足を踏み出す度に、ギーシュの体には鈍い痛みが走った。
だが、彼はその痛みに耐えながら走り続けた。
ルイズとギーシュとの間の距離は段々と縮んでいく。
彼は彼女まで後一歩の位置まで近づいた。
――ところが……
「ルイ……!? うわあああ!!」
今まで女王の姿が見えなかったために、ギーシュは油断をしていた。
彼の目前にいたルイズに黒い稲妻が直撃したのだ。
彼はその衝撃で勢いよく後ろに吹き飛ばされた。
「あ……そ、そんな……」
尻餅をついた彼が見たのは、鉄像と化したルイズではなかった。
彼の目の前では、黒い紫色の炎が激しく燃えていた。
「いやああああああああああああ!!!」
凄まじい悲鳴を上げながら、炎の中に浮かぶルイズの黒い影が踊り狂った。
長い髪を振り乱しながら全身をくねらせる彼女の体からは、何かが割れるような不気味な音が発せられていた。
「ひ……」
炎が勢いを増すと、中にいるルイズの影は次第に薄れていった。
そして、彼女の姿が完全に見えなくなったときにはもう彼女は声を出さなくなっていた。
「うぅ……あぅ」
ギーシュは慌てて上空を見上げた。
しかし、そこには女王の姿は無い。
赤黒い空には灰色の雲が漂うばかりだった。
半径10リーグの範囲にあった茨の蔓もまた跡形も無く消えていた。
ギーシュの周りに残っていたものは鉄化した人間と草花、そしてルイズだけだった。
「ル、ルイズ……?」
意識を失ったルイズはアンリエッタの像の正面に背中をもたれ掛けていた。
足を伸ばし、地面に座るようにして倒れている彼女の体は鉄化していない。
ギーシュは彼女の元に駆け寄った。
その時の彼には、ルイズがどのような魔法を使い、どのようにして女王を倒したかは気にならなかった。
誇りある貴族としての在り方、その一つを見せてくれたルイズの安否だけがただギーシュには気掛かりだった。
「大丈夫かーい! ルイズ!」
足を踏み出す度に、ギーシュの体には鈍い痛みが走った。
だが、彼はその痛みに耐えながら走り続けた。
ルイズとギーシュとの間の距離は段々と縮んでいく。
彼は彼女まで後一歩の位置まで近づいた。
――ところが……
「ルイ……!? うわあああ!!」
今まで女王の姿が見えなかったために、ギーシュは油断をしていた。
彼の目前にいたルイズに黒い稲妻が直撃したのだ。
彼はその衝撃で勢いよく後ろに吹き飛ばされた。
「あ……そ、そんな……」
尻餅をついた彼が見たのは、鉄像と化したルイズではなかった。
彼の目の前では、黒い紫色の炎が激しく燃えていた。
「いやああああああああああああ!!!」
凄まじい悲鳴を上げながら、炎の中に浮かぶルイズの黒い影が踊り狂った。
長い髪を振り乱しながら全身をくねらせる彼女の体からは、何かが割れるような不気味な音が発せられていた。
「ひ……」
炎が勢いを増すと、中にいるルイズの影は次第に薄れていった。
そして、彼女の姿が完全に見えなくなったときにはもう彼女は声を出さなくなっていた。
「うぅ……あぅ」
ギーシュは慌てて上空を見上げた。
しかし、そこには女王の姿は無い。
赤黒い空には灰色の雲が漂うばかりだった。
「ほーっほっほっほっほ!」
「ルイズ!?」
突如ルイズの高笑いが聞こえ、ギーシュは彼女の方を向いた。
彼は一瞬、彼女が無事だったと思い安堵した。
ところが、そこにはまだ黒い炎が燃え盛っていた。
怪訝そうに炎を眺める彼の脳裏に悪い予感が過ぎった。
「ま、まさか……君は……」
ギーシュは後退りながら呟いた。
すると、黒い炎が四方に弾け飛んだ。
「ほーっほっほっほっほ! そうさ、私は黒バラ女王さぁ!!」
両腕を広げ、炎を振り払って現れたルイズの体は異形のものとなったいた。
関節が外れ、筋肉が伸びきった異常に長い手足と首。
死人のような灰色がかった青白い肌に、足元まで届くウェーブの黒髪。
そして、見下すようにギーシュを見つめる真っ赤な瞳がそこにはあった。
「ルイズ!?」
突如ルイズの高笑いが聞こえ、ギーシュは彼女の方を向いた。
彼は一瞬、彼女が無事だったと思い安堵した。
ところが、そこにはまだ黒い炎が燃え盛っていた。
怪訝そうに炎を眺める彼の脳裏に悪い予感が過ぎった。
「ま、まさか……君は……」
ギーシュは後退りながら呟いた。
すると、黒い炎が四方に弾け飛んだ。
「ほーっほっほっほっほ! そうさ、私は黒バラ女王さぁ!!」
両腕を広げ、炎を振り払って現れたルイズの体は異形のものとなったいた。
関節が外れ、筋肉が伸びきった異常に長い手足と首。
死人のような灰色がかった青白い肌に、足元まで届くウェーブの黒髪。
そして、見下すようにギーシュを見つめる真っ赤な瞳がそこにはあった。
---
ルイズが最後に唱えた魔法、"虚無"の魔法は女王を完全には倒していなかった。
その時の虚無の魔法は、敵が唱えた魔法による力を強制的に解除する魔法――ディスペルの魔法であった。
そのために、闇の力によって模られた女王の身体と女王の魔力によって生み出された茨の蔓は消え去った。
しかし、ディスペルには精神力や魂まで消し去る効力は無かった。
闇の力を実体化させているにすぎない女王の肉体を消し去っても、女王の魂が意識を残している限り、それだけでは女王を倒したことにはならなかったのだ。
(ふ~ん、私じゃ繋がらないようだねぇ……)
女王には漠然と、ルイズの身体を乗っ取っても自分には大魔法を使うことができないということが理解できた。
「それじゃあね、ギーシュ」
優しげなルイズの声色で、女王はギーシュに別れを告げた。
ルイズの体は彼に背を向けると、ゆっくりと宙に浮かんでいった。
女王にはもうギーシュのことなどどうでもよかった。
彼女は早く他の国を襲って、人々から集めた恐怖や絶望で自分の体を再生させたいと思っていた。
このまま女王が立ち去れば、ギーシュは助かることができた。
「ま……待てぇ!」
ところが、ギーシュは自ら女王を呼び止めると、両手で地面を押して倒れている体を起き上がらせた。
「みぃーーー!」
すると、女王はルイズの甲高い声を上げながらギーシュの前に急降下した。
元々153サントだったルイズの身長は180サント程に伸びており、彼の身長を上回っていた。
「私に命令するな!!」
赤い瞳を輝かせながら八重歯を覗かせるルイズの顔がギーシュの顔に突き合わされた。
「僕は、き、君に……っ!」
ギーシュは後退し、歩み寄ってくる女王との間合いを取る。
そして、ギーシュは胸元から薔薇の造花を取り出すと、その花冠の部分を女王に向けた。
「下らないこと言ったら……ただじゃおかないよ」
奇怪な肢体には不釣合いな、可愛らしいルイズの笑顔が彼を睨み付ける。
「僕は……君に、君に決闘を申し込む!!」
ギーシュは造花の杖を握る力を強めると、勇気を振り絞って自分の思いを叫んだ。
彼はルイズと同じように、最後まで女王と戦う道を選んでいた。
その時の虚無の魔法は、敵が唱えた魔法による力を強制的に解除する魔法――ディスペルの魔法であった。
そのために、闇の力によって模られた女王の身体と女王の魔力によって生み出された茨の蔓は消え去った。
しかし、ディスペルには精神力や魂まで消し去る効力は無かった。
闇の力を実体化させているにすぎない女王の肉体を消し去っても、女王の魂が意識を残している限り、それだけでは女王を倒したことにはならなかったのだ。
(ふ~ん、私じゃ繋がらないようだねぇ……)
女王には漠然と、ルイズの身体を乗っ取っても自分には大魔法を使うことができないということが理解できた。
「それじゃあね、ギーシュ」
優しげなルイズの声色で、女王はギーシュに別れを告げた。
ルイズの体は彼に背を向けると、ゆっくりと宙に浮かんでいった。
女王にはもうギーシュのことなどどうでもよかった。
彼女は早く他の国を襲って、人々から集めた恐怖や絶望で自分の体を再生させたいと思っていた。
このまま女王が立ち去れば、ギーシュは助かることができた。
「ま……待てぇ!」
ところが、ギーシュは自ら女王を呼び止めると、両手で地面を押して倒れている体を起き上がらせた。
「みぃーーー!」
すると、女王はルイズの甲高い声を上げながらギーシュの前に急降下した。
元々153サントだったルイズの身長は180サント程に伸びており、彼の身長を上回っていた。
「私に命令するな!!」
赤い瞳を輝かせながら八重歯を覗かせるルイズの顔がギーシュの顔に突き合わされた。
「僕は、き、君に……っ!」
ギーシュは後退し、歩み寄ってくる女王との間合いを取る。
そして、ギーシュは胸元から薔薇の造花を取り出すと、その花冠の部分を女王に向けた。
「下らないこと言ったら……ただじゃおかないよ」
奇怪な肢体には不釣合いな、可愛らしいルイズの笑顔が彼を睨み付ける。
「僕は……君に、君に決闘を申し込む!!」
ギーシュは造花の杖を握る力を強めると、勇気を振り絞って自分の思いを叫んだ。
彼はルイズと同じように、最後まで女王と戦う道を選んでいた。