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mission 15 「Dance With The Drunkard」


 二週間前に終結した戦争は連合軍側の勝利に終わっていた。
 だが、その決戦に割り込んだのがガリア王国だった。連合側の部隊が帝都まで目と鼻の先まで迫ったところで、ガリアの両用艦隊がロサイスを強襲、占拠してしまったのだ。
 トリステインやゲルマニアにしてみれば鳶に油揚げをかっさらわれた格好となり、この戦争によって得るはずだった領地や諸々は大幅に減ってしまい、自然それらに付いていた傭兵達への払いも相応に低下してしまっていた。
 そしてトリスタニアの安酒場に置いては、そんな割を食った傭兵達が酒を飲みながら愚痴をこぼしていた。
「ったく、ガリアの無能王もほんっと無能だぜ!」
「あいつのせいで俺たちゃ大損だ」
「とっとと死んでくれねえかねぇ……」
 恨み辛みを吐きだしている連中から一人抜けて、スコールの隣に座るのはいつかの斧使いだ。
「おう、レオンハート。どうやらお前達の方が正解だったようだぜ。こんな事なら余所に行ってた方が余程儲けられた」
「災難だったな。だが、こればかりは仕方ないだろう。誰もあそこでガリアが加勢するなど予測していなかった」
「ああ、そのガリアよ。腹が立つぜ……簒奪王には、俺たちの稼ぎを横取りするのもお手の物ってか?」
(簒奪王……無能王……ジョゼフ……擬似魔法を広めた原因……)
 大本の理由は判らないが、奴の目的は『もう一度泣く』事だという。自らの心を追い込むための一環として擬似魔法も広げた。では、今回のこともその一環か?
「って……おい、アニエスはどうしたんだ?」
 スコールの隣、カウンター席で酔っているアニエスを指さす。ただその酔い方というのが、何というか尋常ではない。
「んん……?何だ?」
 座った目をこちらに向けてくる。
「おい、レオンハート……話ばっかりしてないで少しは私に付き合え!」
 酒の入ったコップをずい、と突き出してくる。
「だから、さっきも言っただろう。ガーデン規約三条四項『ガーデン生はその心身の健常な成長を促すためにアルコール類の接種は厳しくこれを戒める』。規約に従って俺は飲まない」
 何度目かになる断りをきっぱりと告げて、コップを押す。
「ふん、私と酒は飲めないか。あーあー、私は信頼していたんだがなぁ?」
 変わらず座った目で睨み付けながら、戻ってきたコップをぐいっと煽る。
「ま、アニエスさん。俺がお相手しますって」
 と、空になったコップにまた酒を注ぎながらジョーカーが赤ら顔で応じる。
「お前は良い奴だなぁ、ジョーカー。お前の上官は強いが人付き合いの悪い人情味に欠けた奴だ」
「まぁ今はもう別に上官でも何でもないけどね」
 アニエスの酒にジョーカーが付き合おうとした時に委員長であるスコールはもちろんいい顔をしなかったが
『あ、実は俺先月二十歳になったから書類上ガーデン卒業してるんだよ。……ここにいるけど大丈夫かなぁ。キングが上手く処理してくれてると良いんだけど』
 と、思ったよりも年上であったらしい元SeeDはあっさりと返してきた。まぁ、卒業については時折『接続』されてくるキスティスにでも任せるとして……
 酔っぱらいは苦手だ……とため息を付く。
(……こいつこんなに酔ったか?)
 斧使いがひそひそと小声でそう尋ねてくる。
(ここのところ酒を飲む度にこうでな……今日は特にひどいが)
 スコールも何処か心配そうにアニエスに目を向ける。
(あん?お前らも何か嫌なことでもあったのか?)
(心当たりは無いんだが……)
(おいおい、気をつけろよ?男にはどーでも良いことでも、女には重要な意味を持つこともあるんだ。お前も旦那ならそれぐらい気を回せ)
 とりあえず、勘違いしているらしい男に突っ込みを入れておく。
(別に俺とアニエスは夫婦じゃない)
 名字で呼ばれる夫など突っ込みどころが多すぎる。
(関係ないさ。やることやってるんだろ?)
(やってない)
 額に手を当てつつ苦虫を噛み潰したような表情ではっきりと返す。
(ホントかよ?まぁどっちにしろ相棒なんだ。その不調ぐらいは気付かなきゃいけねぇぜ)
 それだけ言い残し、手を振りながら去っていった。
(確かに……アニエスの異変に気付けなかったのは間違いない)
 その点については不明を恥じる。改めてアニエスの顔を見つつ記憶を探る。
(酒量が増えたのは、アルビオンから帰ってきてから、か?)
 確信とまでは行かないが、おおよその当たりをつけておく。
(酒に頼るのは、精神的な疲労がたたった時だと言う。あの前後にアニエスの精神に作用する出来事……)
 強いて言うなら、彼女が仇を討った事か。だが尚のこと意味がわからない。
(それで精神的焦燥感が取れるというのなら判るが……アニエスは逆に精神的に不安定となって飲酒に逃げた……)
 いや、或いは精神的にたがが外れて心ゆくまで酒を楽しもうという気になったか。
(……とてもそんな顔には見えないな)
 軽く眉間に皺を寄せた顔を見てこの推測を破棄。
 となれば、もう考えられるのは一つだけだ。というかこれでなかったらもう本当に見当が付かない。
(アニエスが仇を討ったことを、コルベールを殺したことを後悔している、ということか……?)
 仇を討つことに意味など無い。やり通しても空しさが残るだけ。
 物語の上ではよく聞く台詞だ。
 スコールそれを信じていないタイプだった。何であれやり遂げることに意味はあるとそう信じていたし、その上で後悔するかは心の強さ次第だと思っていた。それともアニエスはその心の弱い人間だったと?
(まさかな……)
 どちらにしろ、確認するのはきっちり酒が抜けた後にすべきだろう。


 すっかり長居してしまったな、とスコールは三人分の荷物を持ちながら、空に浮かんだ三日月を見上げる。
 人通りもまばらになり、少なくとも今はスコール達以外の人影は見あたらない。路地脇ではリバース真っ最中のアニエスの背中をジョーカーがさすってやっていた。
「大丈夫かな?」
「う……ああ……大分マシになった」
 ジョーカーの呼びかけにそう答えながらふらふらと立ち上がる。
 その危なっかしい足取りを見かねて、ジョーカーが背中を貸した。
「結局本当に一杯も飲まなかったな、お前は……」
 ジョーカーの背から、恨みがましそうな声の言葉はスコールに充てられたものか。
「悪かったな、杓子定規で」
 こちらも口を尖らせる。
「ふん……良いさ」
 それだけ言葉を交わした後、しばし無言のまま歩く。
 辺りに立つ建造物もまばらになって、街の範囲から外れたところでまたアニエスが口を開いた。
「……お前達は……仇討ちを、したことがあるか?」
「いいや、ない」
「ないね」
 まさにこちらの聞きたかった核心であることは運が良かったのか?
「そうか……その方が、良いぞ」
 ちらとこちらを向いたアニエスの目には覇気がなかった。
 あの日、コルベールをメテオで殺害したすぐ後。職員や生徒達が彼の遺骸の元にやってきて、手遅れであると知り悲嘆にくれていた。
 空から降ってくる隕石。まさかそれが、自分の仕業であるなどと殺されたコルベールとて気付きはしなかっただろう。
 アニエスは誰からも責められなかった。ただ、ただ、彼女の目の前では悲しみに暮れる人々の涙が流される。
 自分は何をしているのだろう。
『これも、天罰というやつなのかも知れんな……』
 何も知らない銃士隊の隊長が、自分の隣でそう呟いた。
 天罰などではない。これは、私の――
「今更、こんな事をした私が言うのも何だが……いや、ここまでやったバカな女からの忠告だ」
 魘されて、飛び起きるようなことはない。これまでの戦場でそんなものは越えてきている。だが、アニエスの裡にはっきりとした痼りとして、悲嘆に暮れる者達の顔が残っている。
「誰か大切な者を殺されても、怨恨だけでは、人を殺めない方が、良い」
 リッシュモンは、あのようなものは別に良かった。二十年前と相も変わらぬ金の亡者だった。
 だがコルベールは、あの男は悔いていたのではないか。だからこそ自分に討たれそうになった時にも抵抗をしていなかったのだとすれば――
 後悔はしていないつもりだ。でなければ、スコールに分けてもらっているフェニックスの尾でコルベールを回復させていた。だが、未練は残った。一度、彼とはきちんと話をしても良かったかも知れない。
「……あんたの言葉、覚えておく」
 スコールは短くそれだけを返した。


 恐れていた事態が発生したのは、それから二ヶ月後のことだった。



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