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萌え萌えゼロ大戦(略)-16


 トリステイン魔法学院は、その日、その時、厳かな空気に包まれていた。
 学院長を筆頭に教師、生徒が揃って盛装し物音すら立てることなく直立不動で迎える様は、
そうそう見られるものではない。彼らが待っているのは、正門の外に見えている1台の豪奢な
藤色の馬車。
 やがて馬車はゆっくりと正門をくぐり、学院長オスマンが待つ学院本塔入り口から伸びる
深紅の絨毯にその扉をぴったりと合わせて停止する。それはお召しの馬車を御する御者の
腕の見せ所。そして彼はその責務を完璧にこなして見せた。

「トリステイン王国アンリエッタ姫殿下!!
 ならびにマザリーニ枢機卿!」

 先だって幻獣グリフォンから降りた、立派な羽飾りのついた緑の帽子をかぶり同色の
マントを身につけた立派なあごひげを生やしたメイジが馬車の前でそう宣言すると、馬車の
扉がゆっくりと開かれる。扉から姿を現した、純白のドレスに身を包み、藍色の短いマントを
身につけたアンリエッタ姫を、羽飾りの帽子のメイジがエスコートする。件のメイジが手にした
タクト様の杖を優雅に振るうと、姫の可憐さを引き立たせるようにピンク色の花びらが
舞い降りた。

「アンリエッタ様ー!」
「姫殿下ー!」
「トリステイン万歳ー!」
「アンリエッタ姫殿下万歳ー!」

 教師や生徒たちが一斉に歓喜に包まれる。舞い降りる花びらと臣民の歓喜の声に
包まれながら、アンリエッタ姫は羽飾りの帽子のメイジにエスコートされたまま、歓喜の
声に向かって女神のような微笑みを向けて優雅に手を振った。

 その様子を見るキュルケは、アンリエッタ姫が通り過ぎてからその姿勢を崩す。その横で
タバサもまた本を取り出してその世界に埋没していた。不敬というかも知れないが、
国外からの留学生である二人にとっては義理は果たした、というところだった。
「あれがトリステイン王国の王女、か……」
「そうだ!あのお方が我らトリステインの美しき王女!」
 キュルケのつぶやきにギーシュが口を挟む。その姿は熱狂的で何かに浮かされたような、
とキュルケは感じたが……あえて口にはしない。
「すらりとした気品あるお顔立ち、優雅なお姿……!
 バラのような笑顔と神々しい気高さ!
 ああ、まさに!トリステインの可憐な花!」
 いつの間にか自身のバラの造花の杖まで取り出しているギーシュ。横でモンモランシーが
渋い表情のまま人差し指を額に当てている。なるほど、トリステイン王国ではそう称えられて
いるのか……とキュルケは思う。だが――
「外っ面のことだけなのねぇ?」
「な!?」
 キュルケのつぶやきにギーシュが向き直る。その顔には信じられないものを見るような
表情が張り付いている。キュルケはギーシュだけでなくタバサやモンモランシー、そして
視線をアンリエッタ姫、というよりエスコート役の羽飾りの帽子のメイジに向けたままの
ルイズと、彼女の横にいるふがくにも聞こえるように言う。
「あたしはゲルマニアの人間だから気になるのよ。美しい姫だって、内心は『ゲルマニアの
貴族は成り上がり』とか思ってるんじゃない?」
「まさかそんなこと!
 トリステインとゲルマニアは同盟を結ぶのよ!」
 キュルケの言葉に反対の意を真っ先に示したのはモンモランシー。そこにふがくが口を挟む。
「……私には全然その辺りが見えないんだけど、いったいどうなってるの?聞いてる限りじゃ
姫殿下がそのゲルマニアって国に政略結婚で嫁ぎそうにも聞こえるんだけど」
「だいたい当たってるわよ。
 アルビオンの内戦で勢力を増している貴族派の同盟『レコン・キスタ』に対抗するために
ゲルマニアとトリステインが軍事同盟を結ぶの。そのためにアンリエッタ姫殿下が、あたしの国、
帝政ゲルマニア皇帝アルブレヒト3世陛下にお輿入れすることになったのよ」
「へぇ。そうなんだ。でも、皇族や大貴族の結婚って、たいていそんなものじゃないの?」
 それは精神的に上位に置かれる皇族から実質的に国を支配する将軍家に皇女が降嫁する
ことすらあった国に生まれたふがくにとってみれば珍しいことではなかったが、こっちでは
そうとは言い切れないらしい。
「そんなもの、じゃ済まされないわよ!
 自分の気持ちは無視されて周りが勝手に決めるのよ?それで知らない男と結婚するなんて
冗談じゃないわよ!」
 キュルケはそう言ってハンカチを食いしばる。
「……な、何かあったの?キュルケ……」
 そう言ったふがくは爆発するキュルケにどう声をかけていいものか困惑する。そのとき――
「……そうよね。お国のためとはいえ、おかわいそうな姫殿下。
 姫殿下は今もあの笑顔の下で、お悩みになっているのかも知れないわね……」
「ルイズ……」
 ルイズが羽飾りの帽子のメイジから視線を離さずつぶやいた言葉を聞いたのは、
図らずもふがくだけだった――


 熱烈な歓迎を受けたアンリエッタ姫は、そのまま学院長室へ案内される。秘書のロングビルが
折悪しく不在のため、歓迎の用意はすべてコルベールが取り仕切っている。テーブルの
上には東方から取り寄せた最高級の紅茶の香りが立ち上り、クリスタルの高坏に盛られた
アンリエッタ姫の好物、タルブ産の最高級ドロップが色とりどりの宝石のように窓から差し込む
光を受けて輝いていた。
「トリステイン魔法学院へようこそ。アンリエッタ姫殿下!」
「お久しぶりです。オールド・オスマン。
 突然訪問してしまいすみませんでした……」
「いえいえ。こちらこそさしたるおもてなしもできず恐縮しております」
 オスマンとアンリエッタ姫の社交辞令。しかし、アンリエッタ姫が紅茶のカップに口をつけた後の
一言はオスマンとその後ろに侍するコルベールを内心驚愕させた。
「……『土くれのフーケ』という盗賊を懲らしめたという貴族たちがこちらの生徒と耳にし、
叙勲はできずともせめて感状だけでも……と思って立ち寄ったのですが……今のわたくしには、
感状どころか感謝の意を述べることくらいしかできないということですの……
 わたくしの知らないところで、いろんなことが決まっているみたいですわ……」
「姫……」
 アンリエッタ姫の置かれた状況に同情するような言葉とは裏腹に、オスマンはどこで
その情報がアンリエッタ姫に漏れたのかを考える。『土くれのフーケ』の一件は学院内だけで
完結したはず。生徒はもちろん学院で働く平民にも外部に漏らさぬよう言い渡してあったはず
……と、そこまで考えてオスマンはあることに思い当たる。
 アンリエッタ姫の事実上の私兵として設立された銃士隊――多くの貴族からは『姫殿下の
騎士団ごっこ』と揶揄されるそれは、隊長であるアニエス・シュヴァリエ・ド・ミランこそ
平民から特例でシュヴァリエの爵位が与えられているものの、おそらくマザリーニ枢機卿が
送り込んだと思われる副長を除くすべての隊員が『平民の』若い女性。面の割れていない
隊員が学院内にメイドとして入り込んでいるか、もしくは出入りの商人に付き添って情報を
入手されたか……いや、それ以外の、そう、表に出ている銃士隊以外の、情報収集や
汚れ仕事を受け持つ平民が手駒としている可能性もある。市井に流行る小唄のように
権威だけで実権がないと思いきや――

 ――何も知らない小娘と油断しておれば……その純白のスカートの中に何本金毛の尻尾を隠しておるのやら……――

 オスマンの心境を知ってか知らずか、アンリエッタ姫は紅茶をもう一口口にする。
「トリステインの王家には、美貌はあっても杖がない――民がそう唄うのも無理はありませんわ。
本当にその通りですもの……」
「あ……あの~~~~~~
 ゲルマニアご訪問でさぞやお疲れでしょう?歓迎の宴は取りやめに致しましょうか?」
 オスマンとアンリエッタ姫の間に張り詰めた重苦しい空気に音を上げたコルベールが
そう提案する。その言葉を聞いて、学院長室の空気がが少しゆるむ。
「いいえ……まったく疲れてませんわ。
 すべて枢機卿が事を進めたので……わたくしは黙っていただけでしたから」
 そう言ってアンリエッタ姫は困ったような笑みを浮かべ、カップを手にした皿の上に置く。
それを見計らってオスマンが言葉をかける。
「同盟以外に……道はないのですかのぅ?」
「――ええ……そのようですわ」
 アンリエッタ姫がティーセットをテーブルの上に置き、祈るように両手をその胸の前で
組んだ。
「『白の国』アルビオンの叛乱軍が、このところ力を増しているようなのです。
 そう……アルビオン王家は、明日にも倒れてしまう危機に直面しています」
 そう言ってアンリエッタ姫は立ち上がり、オスマンたちに背を向けて窓に向かう。
「この小国トリステインが生き残るためには、先を読み先に手を打つ――
 かつて王家に従っていた貴族が信用ならない今、いつ成立してもおかしくない新政府に
対抗できるよう同盟を結ばなければなりません……」
 アンリエッタ姫が窓に向かったまま目を閉じる。閉じられた目に映るのは、風になびく
金色の髪と、澄み切った青空のような碧い瞳。
「……悲しい時代になったものです」
「アンリエッタ姫殿下……――」
 オスマンはそう呼びかけて、一度言葉を切る。そして背を向けるアンリエッタ姫が振り返るのを
確認してから言葉を続けた。
「お優しき姫殿下には、始祖ブリミルのご加護がございます。
 それと……忠誠を誓う貴族を信じることも、姫の力となりましょう」
 我ながら偽善な……とオスマンは内心思いつつその言葉を口にした。しかし、最後の
言葉に偽りはない。そう、たとえば……
「そうですね。その通りですわ。
 感謝します。オールド・オスマン」
 そう言ってアンリエッタ姫は微笑む。オスマンが思い浮かべた貴族のことは承知の上だと
言葉にせずとも分かっているような……そんな笑みだった。


 夜空に双月が昇る頃――ルイズとふがくはルイズの部屋にこもったままだった。
 すでにアンリエッタ姫の歓迎の宴もたけなわ。参加していれば王家の庶子の家系に
連なるヴァリエール公爵家の代表として、主賓に負けず劣らぬ宴の主役の一人となって
いただろうルイズは、昼間のアンリエッタ姫歓迎の後から部屋にこもってただテーブルに
肘をつき心ここにあらずなまま。そしてふがくもそんなルイズの様子を背中の翼を降ろし
壁にもたれかかったまま ずっと見つめていた。
「…………」
 ルイズはアンリエッタ姫の供として学院に現れた羽飾りの帽子のメイジのことをずっと
考えていた。
 ルイズは彼を知っている。王宮直属の三つの魔法衛士隊の中でも特に選ばれた貴族
のみで構成されるグリフォン隊の隊長、『閃光』の二つ名を持つ風のスクウェア・メイジ、
ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド子爵。そして、彼は親同士が決めたルイズの婚約者でも
あった。
「……はぁ……」
 最後に逢ったのはいつの頃だろう。まだ自分が何も知らない子供で、アンリエッタ姫の
遊び相手として、魔法が使えず叱られてばかりだったけれど毎日をそれなりに送っていた
頃――あの頃、確かにワルド子爵は自分の『理想の王子様』だった。けれど……
「……もう、覚えていらっしゃらないわよね……わたしのことなんか……」
 そう。ルイズはワルド子爵とはもう10年から顔を合わせていない。10年前にワルド子爵の
お父上が戦死し、それからは領地を家臣に任せて魔法衛士隊に入隊された――ルイズは
そう記憶している。尋常ならざる苦労をして今の地位に上り詰めたのは、公爵家の婿として
ふさわしい地位を得るため……だったのだろうか。便りの一つもないまま年月が過ぎて、
もう自分のことなんか覚えてはいないだろう。まして『ゼロ』でしかない自分のことなど――
 ルイズがそんなことを考えているとき、ふがくが突然寄りかかっていた壁から身を起こす。
そして普段は懐に入れたままのデルフリンガーを抜き放ち、扉に意識を集中する。
「……ふがく?」
「お?出番か?」
「黙って」

 ――コッコンコンコン……コンココン――

 奇妙なリズムのノックの音。ふがくはいっそう警戒を強めるが、ルイズははっと顔を
上げた。
「ま……ッ、まさか!このノックの叩き方は……」
「ルイズ!」
 ふがくが止めるのも聞かず、ルイズは飛びつくように扉を開ける。
「あ……あぁ、やっぱり!」
 喜びの声を上げるルイズ。扉の向こうに立っていたのは、純白のドレスの上から墨色の
フードをかぶった女性。その姿を確認したふがくは、扉の脇に下がってデルフリンガーを
後ろ手にして片膝をつき頭を垂れる。
 部屋に入りルイズが扉を閉めるのを確認した後で、女性はフードを降ろす。フードの
下から現れる藤色の髪と大きな宝石をあしらった銀のティアラ――そこにいるのは
アンリエッタ姫その人。ルイズの喜びと驚きの入り交じった顔をまっすぐ見つめ、
アンリエッタ姫は柔らかに微笑んでいた。

「お久しぶりね。ルイズ・フランソワーズ!」
 その姿、その声。ルイズには見間違えようもない。幻でも何でもない、本物のトリステイン王国
第一王女、アンリエッタ・ド・トリステイン姫が、そこにいた――



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