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虚無と最後の希望 Level20


level-20「脱出」


 奪う、戦争ではごく当たり前のことだ。
 武器に食料、乗り物など、技術すらも奪うし命も奪う。
 マスターチーフからしてみれば敵歩兵は歩く武器庫、この世界でもそれはあまり変わらないのだが……。

「マスターチーフ、考え直さないか? 君は魔法を使えない、失敗すれば落ちれば死んでしまうぞ?」
「問題無い」
「何故そう言い切れるんだ?」
「失敗はしない、それにこの高さから落ちても死にはしない」
「……君がタフなのはわかった、だが落ちて死ななくても下の兵に包囲されるだろう?」
「その為に子爵が居る」
「まさか失敗して落ちたときは魔法で蹴散らせ、等と言わぬよな?」
「レビテーションで重量の軽減を頼む」

 狙って飛んだとしても、相手は常に動いている。
 不意に速度を早めたり緩めたり、生き物故の不規則。
 魔法を持たぬチーフに落下中任意で方向を変えることは難しい、500キログラム近くあるからこそ風圧に因る軌道変化も難しい。
 無論そんな重さの物体が落ちれば、その下にあるものは大きなダメージを受けることは間違いなし。
 そこで子爵の魔法で重さを軽減しつつ、風圧に頼った軌道修正より確実であろうレビテーションでズレを減らす。

「まだ上か」

 唖然とするワルドを横切り、チーフは廊下の窓の外を覗く。

「ちょっと待ってくれ、それは幾ら何でも……」
「出来ないのならそれでいい、別の手段を探す」

 挑発めいた、実際挑発なのだろう言葉にワルドは噛み付く。

「その位瞼を瞑ってでもやってみせよう!」

 そう言った時にチーフは振り向き、ワルドは自分の失言に気が付いた。
 大きな自信を持って出来ると宣言してしまった事、その一言が作戦の遂行可能かを決めてしまった事に。

「なら任せる」

 ワルドは呻きながらもまだ口を開く。

「……この作戦を行えることはわかっている、君の度胸と僕の魔法が加われば無理ではないと思う。 だが成功するかどうかとは違う、もっと確実な作戦を考えた方が合理的ではないのか?」
「子爵は任務の失敗を念頭に置いているのか」
「その可能性もあると言っているだけだ!」
「任務を達成する、しないの話ではない。 我々は任務を『達成させるしか無い』」
「それは……、確かにそうだが……」
「ならば考える事ではない、やるだけだ」
「………」

 考えるだけで任務を遂行できるならいくらでも考えよう、だが現実はそうではない。
 考える暇があるなら動け、動いて任務を達成させるためだけに動け。
 それ以外の思考は必要ない、不要なものにリソースを配分するなどただ失敗への確率を増やすだけ。

「……本当に、出来るんだな?」

 その問に頷き、歩き出す。
 目指す場所はニューカッスル城にある一番高い部屋、ウェールズの居室だった部屋。
 降りるはずだった階段を登り、上へ上へと上る。
 その途中もやはり敵は居ない、降りてくると思い恐らくは下の階に兵を揃えていた可能性が高い。
 予定通り下の階へと向かっていれば、激しい戦闘になっていたかもしれない。

「……しかし、君の行動は突拍子も無いな。 下から行けないからと言って上から飛び込む、なんて普通に思い付かないと思うのだが」
「やれる事は全てやる、それだけだ」

 階段を駆け上がりながら、ワルドはチーフの奇怪な考え方に声を漏らす。
 マスターチーフと言う存在を生み出したスパルタン計画の真髄、超兵士育成による状況の打破。
 なんとしても作戦を遂行する事を求められる存在、故にあらゆる方向からのアプローチを掛けなければいけない。
 不可能を可能にすると言うことがこの計画の最大の命題、ならばマスターチーフは最大の成功作と言われるだろう。
 そう言われ、思われて当然の戦功をいくつも残しているのだから。

「……そうか、やはり僕とは違うのだな」
「………」

 軍人と言う括りは同じでも、与えられた役割は全く違う。
 ワルドの役割りは『王族の護衛』、対するチーフの役割りは『最前線で戦う歩兵』。
 最も前に出る軍人と、最も後方に居る軍人、比べ差異を語るなど意味はない。

「子爵の考えは分かり難い、だが国の安否を思うのは理解出来る」
「………」

 結局はどちらも守るために動くと言うこと、思惑は理解できないが行動は理解出来る。
 それを機に会話は途切れ、二人は階上を目指す。





「ここだ」

 子爵の記憶頼りに廊下を進んでとある部屋へと入る。
 そこはニューカッスル城で一番高い天守の一角にある部屋、ウェールズの居室であった。
 室内には木で出来たベッドや机と椅子、壁には戦いを記したタペストリーや、1メイルほどの窓位しかない質素な部屋。
 ドアを潜り室内に入る、最短で窓まで歩み寄り、外を確認する。
 上下左右、室内から見える景色を確かめ、窓を開いた。

「すぐに後を追えば良いのだな?」

 ワルドのその問に頷き、もう一度外を見る。
 城の上空にはフネが浮かび、その周囲には騎士が乗った竜を飛び交っている。
 城の周囲にも竜が飛び交い、おそらく場外に出るだろう存在を警戒している。

「下しか狙えないだろう、タイミングは全てチーフに任せる」

 万有引力、全ての物は重力に引かれて下へと落ちる。
 チーフが単身で飛べない以上落ちるしかあり得ないため、チーフより下に居る竜しか狙えない。

「……行こう」

 僅かばかり顔を出してこちらに気がつく位置に敵が居ないことを確かめ、窓から外へ出る。
 バルコニーなど無く、何かに掴まっていないと確実に転げ落ちる傾斜。
 窓枠がチーフの重量に耐えられるか確かめ、右手にハンドガンを持つ。

「ひえー、高けぇーな。 落ちたら相棒でも死ぬんじゃないかね?」
「やはりインテリジェンスソードか……、確かにここから落ちたら頑丈なオーク鬼等でも即死するだろう」

 高いゆえに風が吹く、風切り音が耳元でうるさく聞こえるほど。
 高所恐怖症の者なら失神してもおかしくない、そうでなくとも足が震えたりするだろう高さ。
 それを目前としてチーフは淡々と答えた。

「問題無い、2リーグの高さから落ちた事がある」
「「……は?」」

 デルフリンガーとワルドの声が重なる、それを切っ掛けにチーフは窓枠を手放した。
 踏ん張り体を傾け、天守の傾斜に沿って駆け出す。
 5メイルほどの、もう落ちていると言って良い傾斜を駆けて飛び出した。

「冗談だろぉぉーーーーー!?」

 自殺紛いに飛び出した事か、あるいは2リーグの高さから落ちた事か。
 短い助走で傾斜を蹴って横への距離を一気に稼ぐ。
 空を飛べないチーフが空へと舞う、2メイル越えの巨体、1000リーブル近い物体が速度を上げながら落ちて行く。
 その落下地点は地面、では無く空を飛び飛竜。
 落ちならがも他の飛竜との位置を確かめ、できるだけ位置を調整する。

 頭を上に向ければ続いて飛び降りて風を切るワルド。
 下に向ければ上に気付かず飛び続ける飛竜。
 後十秒も無い、そうして飛竜の上に降りれるだろう。
 ……順調に行けば、だったが。

 元より人間より優れた感覚を持つ飛竜が、上から落ちてくるチーフ達に気が付き大きく鳴き声を上げる。
 その声、警告だったのだろう鳴き声に反応して竜騎士が手綱を引き、飛ぶ速度を上げる。
 それは飛竜の上に落ちるはずだった予定を狂わせるに十分、このズレは修正出来ない、チーフは間違いなく地面に叩きつけられる。
 チーフが一人だったならの話だが。

 飛竜ではなく地面の上に落ちるはずだったチーフが突如大きく曲がる。
 チーフが小さな閃光を放ち、エネルギーシールドが反応するほどの威力を持った風に煽られて曲がる。
 真っ直ぐ下に落ちる軌道が、斜め下に落ちる軌道へと変化、その調整は神掛かっていたと言って良い。
 バランスが崩れて縦横問わず回りながらも見事、速度を上げた飛竜の上へと四つん這いに近い状態でチーフは落下する。

「ギャォッ!」
「なッ!?」

 無理やりな軌道修正で僅かばかり落下速度が鈍ったとは言え、1000リーブル近い重さを持つチーフが落ちれば人より強靭な飛竜とは言え痛い。
 むしろそれで墜落しない竜を褒めるべきか。
 飛竜の悲鳴と、竜騎士の驚きと、落下時の一瞬の硬直が重なるが、竜騎士へ迫るに十分な時間が生まれている。
 飛竜の背を蹴って駆け出し、低い姿勢からの強襲。
 チーフの太い腕が竜騎士へと伸び捉える。

「ぎざばッ!」

 背中から抱え上げられ、杖が握れぬよう腕を拘束。
 ミシリと竜騎士の背中が軋み、濁った声が上がる。

「一つ言っておく」

 飛竜の上と言う不安定な足場で、竜騎士の腰に指していた杖を引き抜いてチーフは竜騎士に向かって一言。

「杖を手放すな」

 そう言って強引に竜騎士に杖を握らせ、腕一本で竜騎士を空へと放り投げた。
 悲鳴を上げながら竜騎士は落ちて行く、そうして全長10メイルを超える飛竜に付けられた手綱を握る。
 それを引っ張り、鳴いていた飛竜の速度を緩める。
 ざっと周囲を見渡し、異常に気が付いて向かってくる他の飛竜を視界に収める。
 飛竜のブレスや竜騎士の魔法が届くまで後数十メイルだが……。

「本当に無茶をする!」

 ワルドが飛竜の背に降りてきて、手綱を奪うように握る。

「しっかり掴まっていてくれよ!」

 手綱を操り、その先の飛竜まで操る。
 飛竜が吠え、その大きな翼を羽ばたかせ速度を上げる。

「あれは片付けるか!?」

 速度を上げて、クロムウェルが居るだろう天幕を目指すのだが。
 他の飛竜が追撃を掛けてきている、間違いなく邪魔に成るだろう一団。
 500キログラム、1000リーブルほども有るチーフを乗せていれば、間違いなく速度の差が出来上がって追いつかれる。

「ああ」

 ワルドへと背中を向け飛竜の背びれを掴み、出来るだけ飛竜の揺れと体の揺れを合わせる。
 左手で背びれを掴み、その左手の上にハンドガンを持った右手を乗せる。
 飛竜が羽ばたく際の上下の揺れと、敵飛竜の軌道を予測する。

「………」

 より正確に急所へ、一撃必殺を意識したハンドガンでの狙撃。
 銃爪に少しずつ力が込められ、後数ミリ引けば弾丸が飛び出す。
 狙う、追撃を掛けてきている飛竜の頭を。

「片付ける」

 上下に揺れる敵飛竜の頭部、それが一瞬止まる位置。
 そうして引き金を引いた、『M6G ピストル』の銃口からマグナム弾が吐き出される。
 同時に排莢、僅かばかりに銃口から排煙、衝撃を逃がすためのスライドブローバック、そして弾頭は敵へと一直線。
 高威力高機能化が進んだ地球人類が使う拳銃、ハルケギニアの物と数倍から数十倍もの威力や射程距離を誇るそれ。
 比較的威力の低いものと認識されるハンドガンでも、飛竜の鱗を持ってしても止められるものではなかった。

 硬い鱗を突き抜け、頭蓋骨を砕き、脳を蹂躙して、飛竜を絶命させる。
 そうして二度三度と間髪入れずに発射音。
 そのどれもが追撃を掛けてきている飛竜へと吸い込まれるように当たる。
 突如頭に赤い花を咲かせて死に至る飛竜に驚愕し、墜落する飛竜から飛び降りる竜騎士達。

「これで!」

 邪魔者はいなくなったと、ワルドが声を上げて手綱を操る。
 翼を羽ばたかせながら滑空して行く、半ば落ちているために速度も加速して行く。
 どんどん大きく、近づいて天幕の詳細が分かる距離まで迫る。
 下では飛竜の落下と、下降してくる飛竜に慌て驚き走り回るレコン・キスタ軍。

「誘き出す」
「僕に討たせてくれ!!」
「任せる」

 なんとしてでも自分の手でクロムウェルを打ち取りたいのか、ワルドが声を荒らげてチーフに言った。
 それを聞き任せながらも腰のフラググレネード一個とプラズマグレネード二個に手を掛ける。

「爆音で気を引く、出てきたら魔法で討ち、出てこなければ天幕ごと討て。 これに関しては成功しても失敗してもすぐ離れよう」

 任務の内容は神聖アルビオン共和国皇帝、クロムウェルの捕獲か暗殺。
 だが大前提の二人とも生きて帰ることを達成しなければならない、クロムウェルに構い過ぎて討つことも逃げることも出来なくなるのは避けなければならない。
 たった一度の一撃離脱しか許されない状況、軍艦も浮いているし、遠くだが飛竜もまだ飛んでいる。
 もたもたしてるとどうにも出来なくなる状況、その状況へと至る泥沼に片足を突っ込んでいるために一度だけの攻撃。

「……行くぞ」
「ああ!」

 青色の球体に緑色の線で構成されたプラズマグレネードを右手に取り、起爆用のスイッチを押す。
 同時に甲高い音が鳴り、球体から青白い炎のような物が溢れ出す。
 それを飛竜の尻尾に当たらないよう上へと放り投げて落とす。
 青白い尾を引きながら落下して行くプラズマグレネード、数秒掛けて落ちたそれは地面へと到達し。

「グオ?」

 高さ5メイルほどもある一匹のオグル鬼の頭に落ちた。
 音を出しながら炎のような青白い光を放っているそれを手に取ろうとする。

「……?」

 だが手に触れれば手もくっついて離れない、力任せに引っ張るも異常な吸着力に引き剥がせない。
 それを見ていた周囲のオグル鬼も興味本位で近づき、それに触れようとした時閃光が走った。
 プラズマ爆発、プラズマグレネードがくっついていたオグル鬼の上半身が吹き飛び、そのオグル鬼に近寄っていた他のオグル鬼も爆風で致命傷を負いながら吹き飛んだ。
 一瞬で起こった惨状、何が起こったのか分からないまま肉片となったオグル鬼。
 ざわめきが起きて、少々慌て始める周囲、それを加速させるようにもう一度爆音が鳴った。

「な、何が起こっている!?」

 吹き飛んだオグル鬼と、別のところでもう一度起こった爆発に驚き状況を確認しようと一部隊の指揮官が声を荒げる。

「わかりません、青い光が爆発したとしか……」
「さっさと調べろ!」

 そう怒鳴り終えると同時に、さらに爆発音。
 慌てふためき、言ってはならない一言がついに飛び出した。

「敵襲! 敵襲ッ!!」
「敵!? どこだ!」
「竜騎士達は何をしていた!!」
「南から来ているらしい! 戦闘準備!!」
「違う! 東だ!」

 錯綜する情報、正しいのか間違っているのか、それを確認出来ずに慌ただしく動く。
 まるで大砲のような轟音、それだけで戦況が有利に発展する。
 落ちてくる飛竜の死骸と、たった三つの爆発、一つのフラググレネードと二つのプラズマグレネードでレコン・キスタ軍に混乱が広がっていく。
 ただでさえ数が少ないグレネード類を全て使い切ったのだ、多少なりとも混乱してくれなければ困る。
 それを尻目に飛竜とそれに乗った二人は一際大きな天幕へと迫る。

「やはりあれだったか!」

 手綱を握ったままワルドは立ち上がり、右手に持った杖を天へと向ける。
 爆音と騒ぎが気になったのか、大きな天幕からメイジの一団を引き連れているクロムウェルらしき男が出てきた。
 それを確認すると同時に風が大きく鳴る、ワルドの杖先に風が渦巻いて轟音を立てる。
 高速で空を飛び、耳に入る大きな風切り音に負けぬ音を立てて、風が渦巻く。

「傾けるぞ、落ちてくれるな!」

 その警告に飛竜の背びれを掴み直し、落ちぬよう体を固定する。

「何が虚無か! あのような外道を認めてなるものか!!」

 バレルロール、螺旋に飛竜を回りながらも魔法で狙い澄ます。
 それは『エア・スピアー』、風で出来た投擲槍。
 薄い鉄板でも容易く抉り貫き通す威力を持った風が、逆さまになった飛竜の鞍乗から放たれる。

「……見事だ」

 高速、流石に音速には届かないが放たれた矢より速い速度で空を裂き、メイジの壁に守られていた男を斜め上から胸を串刺しにした。
 目算距離で200メイルもないだろうが、この距離で当てられるメイジはそれこそ数が少ないだろう。
 王族を守る魔法衛士隊の隊長と、スクウェアと言う肩書きは伊達ではない。

「これで……良い」

 手綱を引き、下降気味だった飛竜は舞い上がり始める。
 顔を見知っているワルドがクロムウェルだと言うなら、風の投擲槍で串刺しにした男はクロムウェルなのだろう。
 とりあえずだが殺害には成功したが、まだ脱出は終わっていない。
 無事に帰還して報告するまでが任務の内になる、気を抜くにはまだ早すぎる状況。

「どこでも良い、まずはアルビオンから降りなければ」

 この飛竜に乗るものがクロムウェルを殺したことなど、多くの将兵が見ただろう。
 混乱が広がっているとは言え、すぐに追っ手を掛けられるのは目に見えて居る。
 ぐずぐずしていれば包囲される。

「わかっている」

 前を向いたままワルドは頷き、飛竜に速度を上げさせる。
 チーフは背後の警戒のため、ワルドに背を向けていた。





「ああ、陛下!」

 一人の将軍が胸に大穴を開けて横たわるクロムウェルを見た。
 間違いなく死んでいる、胸に大穴を開けて生きている人間など居ない。
 これが陛下でなければ陛下が虚無の魔法で生き返せただろうが……。

「おのれ……ッ!」

 強い怒りを瞳に映し、振り返りながら立ち上がる。

「親衛隊は何をしていた! 竜騎士どもも一体何をしている! 早く賊に追っ手を掛けぬか!」

 喚くように大声を上げる、彼からしてみれば許しがたい出来事。
 空から侵入してきた賊を艦隊は見過ごし、竜騎士達は止められず、あまつさえ皇帝陛下を討たれてしまった。
 大失態にも程がある、責任者と竜騎士達を処分したとしても収められぬ怒り。

「バカ者共が! 何をつっ立って居る!? さっさと動かんか!」

 その怒鳴り声にも反応せず、周囲の将兵はざわめくばかりで一歩も動こうとはしない。

「貴様ら!!」
「……ご、ぞのひづようばな……ゴホッ」

 怒り狂う将官は背後から聞こえてきた声に、驚きを顕に振り返る。
 胸に大穴を開けたクロムウェルがゆっくりと、吐血をしながらも立ち上がっていた。

「へ、陛下ッ!?」
「んん……、ゴホ。 流石にしてやられた」

 口周りの血を拭きながら、クロムウェルは平然と立ち上がっていた。
 その旨に開いた大穴はゆっくりとだが、見て分かる速度で塞がっている。

「少々侮りすぎていたか」
「お、おお……。 なんと……まるで奇跡……」
「奇跡ではない、虚無の力だ」

 そう言ってのけたときには胸の大穴は塞がり、何事も無かったかのようにクロムウェルは振舞っていた。
 予想外も良いところだ、死者を生き返らせるだけでも奇跡に等しいのに、まして自身にもそれを行えると言うのは想像だに出来ない。

「追っ手は掛ける必要はない、私を殺せたとぬか喜びしているだろうからね」
「しかし……」
「良い、死んだと思われていた者が実は生きていた、なんて面白い話ではないかね?」
「た、確かに」
「うむ、流石に穴開きのままではいかんな。 着替えが終われば会議の続きを始めよう」
「は、仰せのままに……」

 間違いなく勝てる、虚無の力を扱うクロムウェルに付いていけば、間違いなくハルケギニアはクロムウェルの手中に収められるだろう。
 そう考えながらも翻って歩き出すクロムウェルを、将軍の男は畏まって後ろ姿を眺めていた。


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