あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

第玖話「愛ゆえに」




「き、来たぞ!」
魔法学院の廊下を、あたかも奇跡を起こすトキの如く人を割る影が進む。
その影を避ける生徒の顔は恐れの一色。
ならば、進むのは修羅か悪魔か死神か。
だが、先を行く赤と青に挟まれるのは桃色がかったブロンドの髪の持ち主、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールその人。

「あ、あれがミスタ・ギトーを一瞬で葬った……」
と、生徒たちが囁くが、噂というのは尾ひれが付くもので、人づてに話が伝わる事に大きくなり気絶させただけなのにGOLANの有様である。

実際問題として、ゼロと呼ばれていた自分がスクウェアメイジを倒したのだから本来ならば誇ってもいい事のはずだ。
ルイズ自身も学院に入って『ゼロ』と呼ばれるようになってから、いつか立派なメイジになって見返してやると思ってた。

「あれが南斗爆殺拳のルイズか……恐ろしい……」
ぽつりと生徒の一人がそう呟いた瞬間、俯き気味だったルイズがぬらりと顔を上げると、その声が聞こえた方を向いて小さく、それでいてはっきりと言った。
「ちょっとあんた。わたしの二つ名を言ってみなさい……」
「ひぃ!?」
まるでショットガンでも取り出さんばかりに自然に杖を取り出し、握る様はかの日の鉄仮面。
その迫力に押され、秘孔を疲れたわけでもないのに身動きの取れなくなってしまった生徒の頭の中ではなぜか

→虚無のルイズ
 南斗爆殺拳のルイズ
 ゼロのルイズ

という三択が浮かんでしまっている。
上の選択肢はありえるはずもなく、中と下はこの状況下で言えるはずがない。
時間的余裕も無いので回答不能。

答えにもならない言葉を出すとそのまま後ずさり背中が廊下の壁に当たる。
もちろんというか、そんな事ぐらいで今のルイズが止まるはずがない。
「……もう一度だけチャンスをあげるわ。わたしの二つ名を言ってみなさい」
ゆっくりと告げながら、弾を込めたショットガンのように杖の先端を額に押し付ける様は間違いなく恐ろしい。
流れる処刑用BGMはお好みで。胸像があればなお世紀末。

「なななな、なんと……」
「わたしは嘘が大っ嫌いなのよ~~~~~!」
どもりながら何とか答えても、選択肢の中に答えなどはありはしない。
正解が用意されているだけ、まだジャギ様の方が救いがある。
パァン、と景気のいい音が鳴ると杖を押し付けられていた生徒の身体が崩れ落ちた。

肝っ玉の小ぇ野郎だ。ショック死しやがった。
……なんて事はなく、聞こえてきた音はキュルケがルイズの頭を軽くはたいた音。

「ほらほら、早く散らないと本当に消毒されちゃうわよー」
手を叩きながらキュルケがそう言うと、蜘蛛の子を散らしたかのように散っていく。
数秒もするとさっきまで生徒で溢れていた廊下は誰も居なくなっていた。その様は世紀末の荒野の如し。

「なにすんのよ!」
「あら、止めない方がよかったかしら?」
はたかれた事に対して怒鳴るも、さすがのルイズもそう言われるとぐぬぬ、としか言えなくなる。
とはいえ、トキィ既に遅し。
もうすっかりルイズの二つ名は固定化でもかけられたかのように南斗爆殺拳に固められてしまっている。
テンパってたとはいえ、自業自得である。

「……それもこれもあんたのせいなのになんで笑ってんの!どうすんのよこれから!南斗爆殺拳だなんて……!姉様や母様が知ったら何て言われるか!」
今まででさえ顔を見せればお説教を受けかねない状況だったのに、これが知れればただでは済まない。
怒りを声に出して吐き出した先には白いマントを靡かせた聖帝様が愉快そうに笑っていた。
「ふははは、気にする事はあるまい」
「するわよ!大体、あんた確か、南斗鳳凰拳っていうやつなのに、勝手に変なのにしないでよ!」
言葉の内には、爆殺拳なんて怪しいやつよりどうせならかっこ良さそうな鳳凰拳の方がよかった、という意味が含まれている。
とはいえ、ルイズが鳳凰拳の修行を百分の一でも体験すれば絶対に辞退するのは目に見えてはいるが。

当のサウザーはというと、ふむ、と小さく呟き少し考え、ルイズに何時もの人を見下したような笑みを向けた。
「正式に伝承者になるには南斗の里へ出向き聖司教の印可を受けねばならんが……ふっ、あの老害より、この俺が印可を与えてやる方が有難かろう。誰に憚る事なく南斗爆殺拳を伝承するがいい」
一子相伝という特殊性から鳳凰拳を除いて、南斗聖拳の伝承者は南斗の里へ赴き印可を受けねばならない。
そして聖帝正規軍に属する南斗聖拳は総派の半数というところで、南斗の実権はほぼサウザーが手中に収めていると言ってもいい。

「あー、そうね。そう言えば南斗の帝王だったわね。……って、ちょっと待ちなさいよ!」
「何だ」
「わたしがそれになるって事は、あんたの配下になるって事!?」
「ふむ、そうなるな」
事も無げにサウザーに短く返されるとルイズの頭に血が一気に上った。
力を貸すとか言ってたくせに、いつの間にか妙なのを伝承させられた上に配下にさせられていたのだから、ルイズが謀られたと思うのも無理は無い。
ただ、サウザーも単純に謀ったというわけでもなく、ルイズのあの力なら今のままでも南斗十人組み手の五人目ぐらいまでならいけると踏んでいるからである。
南斗聖拳の使い手もピンからキリで、正直あの里の男達は実力的にはそう大した事は無い。
六聖拳の一人がその気になれば里が壊滅する程度というところだ。
もちろん、そんな事はルイズの知ったこっちゃあないので持ち前の癇癪が爆発するまでには時間はかからなかった。

「そ、そそそ、そこに座りなさ~~~い!」
平民はおろか、モヒカンでも何もしてないのに謝りそうな剣幕で怒鳴り杖を持った手を振り上げる。
今にも、何だぁその目はぁ!?とバスケ直行しそうな勢いだったが、その先に聖帝様のお姿は影も形も無い。
「~~~~~~っ!」
怒りの矛先と上げた腕を振り下ろす先が消えた事に言葉が出ず立ち竦んでいると、後ろから肩に手を置かれた。

「ねぇ、どんな気持ち?」
歯を食いしばりながらゆっくりと後へ振り向くと、手を置いたままのキュルケは笑いを堪えながらなんとも言えない微妙な口調で続けた。
「こんな事になって、今、どんな気持ち?」
「うっさいわね!!」
何故か骨が脆くなりそうな煽りに耐え切れずに突っかかるが、激流を制する静水のようにルイズは受け流されている。
妙なカツラを被ったコルベールが通りかかる頃には今にもルイズが掴みかからんばかりの状況だったが
アンリエッタ姫殿下が学院に行幸すると聞いて一瞬で頭に上っていた血が降りた。

もちろん、どこかに消えた聖帝様がなにかやらかさないかという意味で。

そのため、生徒が出迎えのために整列をしている最中も一人気が気ではなく、グリフォンに跨った羽帽子をかぶる貴族に気付く事は無かったという。

第九話『愛ゆえに』

それから数時間後。
すっかり暗くなって各々は自分の部屋に引き上げる頃合には、ルイズも自分の部屋のベッドに突っ伏していた。

「よ……よかった。姫様の身に何も起こらなくて……」
こんなに緊張したのは何時以来だろうかと、漠然とした思いで考えても答えは出ない。
なにしろ、相手は自分以外は貴族も人間も、恐らく亜人でさえ同列に見做している。
そう聞くだけなら問題は無いが、困った事にその同列というのが下郎や下僕という意味。
さらに、本人にそうさせるだけの実力があるのだから余計に性質が悪かった。

「こんなはずじゃなかったのになぁ……」
春の頃には立派な使い魔を召喚して、今まで自分をゼロと呼んできたやつらを見返してやるつもりだった。
それがどこで間違えたのか、呼び出された者は傲岸不遜を体現したかのような帝王。
見返す事には成功したけど、おかげで腫れ物にでも触るかのような扱いを受けるハメになってしまっている。

そんな風にしていると、ドアがノックされた。
規則正しく長めに二回、続けて短く三回ドア叩く音が聞こえる。
だが、しばらく経っても部屋のドアが開くことは無い。
ドアを叩く音を全部聞くことが出来れば這い蹲ってでもドアを開けただろうが、精神的な疲れから三回叩かれる前に夢の世界へと逃避してしまっていた。



そのルイズの部屋のドアの裏側の前には黒い頭巾をすっぽりと被った怪しい人影。
修羅の国のボロを彷彿とさせる姿形とは裏腹に、口から紡がれるのはどこか高貴さを持った少女のものだった。

「困ったわ……誰にも見つからないような来たのに……ルイズ、部屋にいないのかしら」
本人は見つからないようにとの配慮なのだろうが、怪しさ丸出しの姿でここまで誰にも気取られなかったのは奇跡にも近い。
辺りを見回して誰もいない事を確認した少女は、小さくため息を吐くと身に纏う漆黒のマントの隙間から杖を取り出す。
アン・ロックで部屋のドアの鍵を開けるという考えは少女の頭には無いらしく、廊下の窓へ身を乗り出すと短くレビテーションの呪文を唱えた。

ゆっくりと中庭へと降りると、巡回をしている衛兵に見つからないようにと茂みに隠れ、また、ため息を吐いた。
「ルイズ……どこに行ったんでしょう。……あら、あれは何かしら」
ふと、空を見上げてみると、部屋の一室の窓の光に映るように人影が入っていくのが見える。
「泥棒……?」
遠目に見てもフードをすっぽり被って全身を隠すようにしているのだから、ここの生徒でない事は一目で分かる。
人の事言えないナリをしている事はさておき、どうにもその人影が気になって落ち着かない。
もっとも、落ち着かない一番の理由は、一人では抱えきれない程の悩みを持っているからだが。

とにかく、こうして隠れているだけでは始まらない。
小さくフライの呪文を唱え、窓から部屋の中を伺う。
まず、少女の目を引いたのは部屋には似合わぬ豪奢な造りの玉座。
窓側とは背面になるため座っている者の顔は見えなかったが、傍らには先程見たフードを被った人物が傅いていた。

「…帝陛下。……アルビ…ンの貴族派が同志……るように…接………きました」
「ふふふふ……ご苦労。それで、連……状況と…的はど…した?」
「戦況…貴族派……利。王党…はニュー…ッスルま…追い……られています。
  組織……境を…えた貴族……盟という名……に優秀なメ…ジを集……地奪還を謳っ……よ…です」
窓越しのため、よく聞き取れないところはあるものの、ところどころに少女が持つ悩みと合致する単語が届く。

「アルビオン……?それに王党派や貴族派って……」
途切れがちな言葉から推察するに部屋の中で交わされている話は、現在のアルビオンの情勢。
陛下と呼ばれている事から、玉座に座る人物はかなりの地位の人物という事も分かる。
そう自分なりに結論を出すと、小さいながらもよく通る声が聞こえてきた。



「……どうやら、ネズミが一匹入り込んできたか」
玉座に座る男が組んだ脚を解き、手にしたワイングラスをテーブルに置く。
魔法学院広しといえど、部屋の中に玉座などを持ち込むのは一人しかいない。
「自ら手を下されずとも、ここは」
フードを被った人物が懐中から杖を取り出すと、それを制するようにサウザーが立ち上がった。
「構わぬ。使えるようであれば捕らえておくのもよかろう」
人の気配はとうに感じていた。
捨て置くかとも思いはしたが、部屋の中を伺うような素振りをしていたので捕らえてみる事に決めた。

いつもと変わりなく、腕を下げたまま壁の前へと立つと深く呼吸をする。
それと同時に何かが潰れたような音が聞こえ、その音がした方向を見たフードの人物が息を飲んだ。
サウザーの足に接している部分の床がめり込むようにへこんでいるからだ。

突如、風を切るような音がすると、壁に穴が開いた。
分厚い壁にひとりでに穴が開くはずはない。
単純に、手刀を突き入れ、引き戻すという動作が見えなかっただけだ。
この純粋な力こそが南斗聖拳の真髄。
必殺の威力を持った無数の連弾が、南斗聖拳最強であるサウザーの手によって放たれた。

   南斗鳳凰拳

『悠 翔 嶽』


巨大なゴーレムですらヒビ一つ入れる事ができなかった壁を容易に、そして大きな音も立てずに突き破る。
外部からの破壊。特に切り裂き、貫くという点では南斗聖拳の右に出る拳法は存在しない。
まして悠翔嶽は、あのラオウが放った北斗輯連打とも五分に打ち合える。
固定化が掛けられてはいるとはいえ、石の壁を突き破れぬ道理など無い。
最後の一撃。
手刀が石壁を突き破ると、中空に浮かんでいる人影の首筋を捕らえ掴んだ。

「ぅ……は、放し……ぁぁ……」
サウザーが掴む首はまるで小枝のようにか細い。
無数に穴を穿たれた壁が音をたてて崩れ去ると、首を掴んだまま引き寄せ頭巾を剥ぎ取った。

「ほう……薄汚いドブネズミかと思っていたが、迷い込んできたのは小鳥だったとはな」
頭巾の下は、すらりとした気品ある顔立ちに、薄いブルーの瞳、そして神々しいばかりの高貴さを放っている少女のもの。
並の男なら見惚れてしまう程の美少女だが、生憎とここに居るのは世紀末の体現。
世紀末での良い女というのは食料何日分で換算されてしまうのだから、サウザーにとっても少女の容姿は特に意味を成さない。


床に足を付けさせ、手の力を緩ると顎を手で持ち上げる。
薄笑いを浮かべ、値踏みするかのように少女の顔を眺めていると、この少女の正体はすぐに分かった。
「聖帝様。その者は、トリステイン王国のアンリエッタ王女にございます」
「ふっはははは。なるほど、こいつが噂に名高い飾り物の王女か」

――トリステインの王家には美貌はあっても杖が無い。杖を握るは枢機卿。灰色帽子の鳥の骨……

これは街で歌われている小唄だが、実によくトリステインの内情を表していた。
先帝が死んで以来、この国の内政は枢機卿であるマザリーニが取り仕切っている。
すなわち、今のトリステインの権力を握っているのは王家の人間ではなく、枢機卿であるという事だ。

「ふん」
一頻り眺めると、お飾りには興味が無いと言わんばかりにサウザーが手を離す。
今まで首を捕まれていたせいか、アンリエッタが床に崩れ落ちると手を付いて二、三回強く咳き込んだ。

「それではわたくしはこれで失礼いたします」
咳き込むアンリエッタをよそに、フードの人物が立ち上がり、サウザーがブチ破った壁へ向かう。
「ああ、よかろう。……一つ忠告しておくが、俺は一度でも裏切った者は決して許さぬ。もし裏切ればお前の命、無い物と思うがいい」
「……それは、十分分かっています」
表面こそ平静を装っている風だったが、注意深く観察すれば、顔は蒼白になり、その身体が震えている事が見て取れる。

世紀末の世を支配せんとした二人の王。
その野望を支えた拳王軍と聖帝軍。
聖帝軍は、正規軍に入れば水と食料には不自由しないという事もあったが、あの無法者達を軍団として纏め上げたのは、絶対的な力を持つ王への恐怖。
それだけに、命すら無いという言葉が、ただの脅しではない事がよく理解できていた。


サウザーのマントが、部屋に吹き込んできた冷たい夜の風で靡く。
その下では、ようやく息を落ち着かせたアンリエッタが見上げるようにサウザーを見ている。

「……何者ですか?トリステインでは見た事がある顔ではありません」
トリステインとゲルマニアの同盟を阻止しようとする、アルビオンの貴族の暗躍があるという事はマザリーニから聞いていた。
アルビオンから送り込まれた貴族。それとも、ガリアかロマリア、まさか同盟を結ぶゲルマニアかとアンリエッタは次々に考えを張り巡らせる。
そうすると、何故学院にこの男が玉座まで構えているのかと、嫌な疑問が過ぎった。
宮廷と一部の貴族の間で起こる不穏な動き。アルビオン貴族の手が魔法学院にまで伸びていたと考えざるを得ない。
考えすぎと、言われればそうだろうが、アンリエッタはそう思い込んでしまいそうになる程の不安材料を抱え込んでいるのだった。

何者かと問われたサウザーはワインを継ぎ足しながら、特に何の感情も込めずに言う。
「運が良かったな。もし、ユダが相手ならば、今頃は捕らえられているところだ」
「こ、答えなさい!アルビオンの反乱勢ですか!?さもなければ……」
「さもなければ、どうするというのだ?」
水晶が付いた杖を握ったアンリエッタを見ても、サウザーの表情は薄笑いを浮かべた余裕そのもの。

「ふっ……まぁいい」
サウザーが手にしたワイングラスを口元に運び赤い液体を飲み干すと、手にしたグラスを床へと叩きつける。
グラスが砕け、辺りにガラスの破片が飛び散ると同時にサウザーがようやく名乗りを上げた。

「俺は聖帝サウザー。南斗六星の……うん?」
ルイズに名乗った時と同じく、宣言するかのように名乗ろうとした最中に、こちらに向かってくる気配に気付いてそれを止める。
もうそろそろ来る頃だろうとは思っていたが、どうやら、部屋に向かっている人物は相当急いでいたらしい。

ドン!と、派手な爆音が部屋に響くと部屋のドアが真ん中から折れたように吹き飛ぶ。
消し飛んだドアの向こうに見える人物は、アンリエッタが探していたルイズ・フランソワーズ、その人だった。

「くははは、思ったより早かったな」
「……ギーシュがアン・ロックまで使って起こしに来たから何事かと思ったけど、今回は最悪も最悪ね。姫殿下に手を出す事は絶対に許さないわよ!」
文字通りに部屋に飛び込んできたルイズがアンリエッタをかばう様にサウザーとの間に割って入る。
「姫殿下ーーーッ!お怪我はありませんかーーーッ!」
遅れて、大声を張り上げながらギーシュが部屋の中に飛び込んできた。

「たわば!」
相当慌てていたのか、足を引っ掛け、盛大に転び、止まった先はよりにもよって聖帝様のお膝元。
くだらない物でも見るかのような視線に晒されたギーシュは、聖帝様を刺した子供のように死を覚悟した。

「……ルイズ。ルイズ・フランソワーズ?」
「話は後です、姫様」
あまりの展開の速さについていけなくなり、きょとんとした表情のアンリエッタとは対照的に、ルイズの顔は緊張の極地というぐらい強張っている。
なにしろ相手が相手なだけに、身を犠牲にしてでもアンリエッタを逃がすとまで考えているぐらいだ。

当のサウザーは余計なオマケの登場は特にどうでもいいらしく、一瞥しただけで歩を進め玉座に座る。
組み脚に頬杖。完全に人を見下している何時ものポーズだ。

「俺は貴様のような飾りには興味が無い。とはいえ、飾りは飾りなりに役には立つがな」
自分の国の王女を公然と飾り呼ばわりされれば、怒りの一つや二つ簡単に沸きそうなものだが、今回ばかりは事情が異なる。
怒りより先に安堵の気持ちの方が先に来てしまって、ルイズとギーシュが同時に安堵の息を吐いたのは仕方の無い事だった。

「ルイズ、彼を知っているようですが何者ですか?先程、聖帝サウザーと名乗っていましたが……」
怪訝そうな顔でアンリエッタに問いかけられると、どこから話したものかと顔を曇らせたルイズが少し考え、憂鬱そうに口を開いた。
「それは……話せば長くなります」
「ああ!ルイズ!あなたとわたくしはお友達じゃないの!
  もう、わたくしには心を許せるお友達はあなただけなのよ。昔馴染みのルイズ・フランソワーズ、隠し事なんてせずに全部話してちょうだい!」
「……分かりました」



「そう、ロバ・アル・カリイエの……」
王女には刺激が強いため、暗殺拳というところは伏せられたが、ルイズが知っている事は一通りアンリエッタに説明した。
さすがに、使い魔の儀式で呼び出したという件は面食らった顔をしていたアンリエッタではあるが
ルイズの話を聞くにつれ、次第に落ち着きを取り戻し、今に至る。
ハルケギニアの政治情勢とは関係の無いロバ・アル・カリイエから呼ばれたというところが一番良かったのかもしれない。

「ルイズ・フランソワーズ、あなたって昔からどこか変わっていたけれど、相変わらずね」
ルイズに向けそう言うと、今度は玉座に座るサウザーの前へと進み、一礼をした。
「先程は失礼を致しました。ご存知とは思いますが、わたくしトリステイン王国王女アンリエッタ・ド・トリステインと申します」
サウザーが南斗の帝王と知っても、淀みなくそういった言葉が出てくるのはさすがに王族というところだ。

「いけません!姫様!そんな、姫様に乱暴を働いたやつに頭を下げるなんて!」
「いいのですよ。この方の部屋を覗き見したわたくしが悪いのですから」
「姫様がそうおっしゃるのなら……」
渋々という風体でルイズが引き下がると、そもそも何故、アンリエッタがこんな夜分に寮塔を訪れたのかと疑問が浮かんだ。

「姫様。わたしに何かご用があったのではありませんか?」
「いえ、なんでもないわ。あなたの顔が見たくなっただけよ……。気にしないで、ね」
ため息を吐きながら、暗い調子で言うという事は、何か悩みがあると言っているようなものだ。
誰にも言えない悩みを持っている人間というのは、得てして誰かに悩みを聞いてもらいたいと思っている事が多い。

「おっしゃって下さい。あんなに明るかった姫様が、そんな風にため息を付くって事は、何かとんでもないお悩みがおありなのでしょう?」
それを察したのか、熱っぽい調子でルイズがせき立てる。
どうやら、この二人はただの知り合いというわけではないらしい。
「いけません!昔はなんでも話し合った仲じゃありませんか!お召し物を汚してしまって
  侍従のラ・ポルト様に叱られても、姫様はわたしをお友達と呼んで下さいました!そのお友達に悩みを話せないのですか?」
「わたくしをお友達と呼んでくれるのね、ルイズ・フランソワーズ。とても嬉しいわ」
ルイズの言葉にアンリエッタが微笑むと、決心したかのように頷くと、語り始めた。

「今から話すことは、誰にも話してはなりません」
そう言われ、ルイズがサウザーを見たが、頬杖を付いたまま続けろと言わんばかりの態度だったので見ただけで諦めた。

「わたくしは、ゲルマニアの皇帝に嫁ぐことになったのですが……」
「ゲルマニアですって!?あんな野蛮な成り上がりどもの国に!」
「そ、そんな……姫殿下がゲルマニアの皇帝と……」
物悲しい調子でアンリエッタが語り始めると、ゲルマニアが嫌いなルイズは嫌悪感を含んだ声で叫び
アンリエッタに惚れているギーシュが絶望の淵に立たされたような表情になって床に崩れ落ちる。

それとは対照的に、サウザーは特に感じ入った様子も無く、淡々と告げた。
「何を驚く事がある。強い者が心置きなく好きな物を手に入れられる。いい時代ではないか」
「……あんたのとこではどうか知らないけど、いちいち話の腰を折らないでくれる?」
力こそ正義の体現者だけに、その言葉には千金の重みがあったが、ルイズはなるべく関わらない事に決めた。
毎日毎日、嫌という程に力の差を見せ付けられているのだから、触らないようにするのが一番だ。

頭を抱えたくなる衝動を我慢してアンリエッタの話を聞くと、ルイズとギーシュにも今のトリステインとアルビオンが置かれている状況が理解できてきた。
アルビオンの貴族が、トリステインとゲルマニアの同盟を望んでおらず、婚姻を妨げる材料を血眼になって探している事や
宮廷と一部の貴族の間で不穏な動きがあり、信頼出来る相手が居らずここに来た事も。

「……つまり、姫殿下の婚姻を妨げる材料のようなものがあるという事ですか?」
事の重大さにギーシュが顔を青白くさせて恐る恐る尋ねると、アンリエッタは悲しそうに頷き、顔を両手で覆うと床に崩れ落ちた。

程よく興奮した様子のルイズとギーシュをよそに、サウザーは、まるで見世物でも見るかのような笑みを携えて、それを眺めている。
トリステンの内情や、アルビオンの戦況などは全て把握している。
なんといったか、アルビオンの貴族派の組織は、国境を問わずに地位、血筋、家柄を問わずに優秀なメイジを集め戦争をしている。
綺麗だ汚いだの言っているようでは、なりふり構わない相手に敗れるのは、サウザーに言わせて見れば、当然の事である。

同盟を妨げる材料は、アンリエッタがアルビオン王家の皇太子であるウェールズにしたためた手紙であるらしいが
ここはアンリエッタの芝居がかった仕草と、それに同調するルイズとギーシュの芝居を楽しむことにした。

「姫様!このルイズ、いつまでも姫様のお友達であり、まったき理解者でございます!永久に誓った忠誠を、忘れる事などありましょうか!」
「姫殿下!その困難な任務、是非ともこのギーシュ・ド・グラモンにもお命じ下さい!」
「ああ、忠誠。これが誠の友情と忠誠です!感激しました。忘れられてた貴族の忠誠と、あなた達の友情を一生忘れません!ルイズ・フランソワーズ!」
どうやら、話が終わったようで、三人とも感極まっている。
本当にこれが劇場で行われる芝居ならば、幕が降り拍手喝采というとこだろうが、ただ一人の観客からは、静かな、それでいてよく通る含み笑いが送られた。

「ふふふ……ただの飾りかと思っていたが、なかなかやるではないか」
「……どういう意味よ」
「俺が貴様に言った、木に実った果実をどうするかという答え。まだ覚えているか?」
あの日、大食堂でサウザーが語った帝王学。
そんな事には興味が無かったので今の今まで忘れていた事を思い出そうとすると、ルイズにもサウザーが言わんとしている事が理解できてきた。
「……果実を取るのは王の仕事じゃない。つまりなに?この場合、果実が手紙って事?」
「その通りだ。口では友だと言いながら、その友を死地へと送り込む。並の者ではこうはいかぬ。ふっはははは」
手を前に翳し、嘲笑混じりの笑みを浮かべながらサウザーが笑う。

嘲笑混じりというが、サウザーはアンリエッタを貶めているつもりはこれっぽっちも無い。
むしろ、褒めているぐらなのだが、これが素である。
それを受けてアンリエッタは、さっきまでの芝居がかった仕草とは違い、全身から力が抜け落ちたような感覚に襲われ床に崩れ落ちた。

「ひ、姫様!」
ルイズが駆け寄って、アンリエッタを抱き起こすと、サウザーに向け思いっきり怒鳴った。
「あ、あんたねぇ!言っていい事と悪い事ぐらい分かりなさいよ!それに、わたしは姫様のお友達でもあり、ヴァリエール公爵家の三女!姫様とトリステインの危機を見過ごすわけないじゃないの!!」
「何を勘違いしている。ただの飾りではないと評価を改めてやったのだ」
「……もういいわ。ギーシュ、話の続きはわたしの部屋でするわよ」
悪びれる様子もなく見下しながら返すサウザーにルイズも、もう話しても無駄だと悟った。

「姫様、大丈夫ですか?」
ルイズが、アンリエッタを支え起こすと、よろけながら立ち上がった。
その顔は病人のように暗く重い。

先にギーシュが部屋から出て行き、次いでルイズがアンリエッタを連れ出そうとすると、アンリエッタの歩みが止まった。
「……姫様?どうかなさいました?」
心配そうにルイズが声をかけると、アンリエッタは俯いたまま、ぽつりと小さく呟いた。
「……ルイズ、先に行ってください。後から必ずわたくしも参ります」

先に行ってと言われ、ルイズは悩んだ。
一人で戻るということは、サウザーとアンリエッタを二人にするという事で、危険極まりない。

「姫様に指一本でも触れたらただじゃ済まさないわよ」
それでもアンリエッタの意に反するわけにもいかず、結局は、押し切られる形でルイズが退いた。


部屋からルイズが離れていくのを見ると、アンリエッタが玉座に座るサウザーの前に立つ。
「どうした。まさか、この俺に聞きたい事でもあるというのか?」
「……その通りです。貴方はロバ・アル・カリイエから来た帝王と聞きましたが、それなら教えてください。
  国を憂いても、わたくしは、自分の気持ちに嘘を付く事ができません……。わたくしはウェールズ皇太子を愛しています。 
 今にも、あの方は殺されてしまうかもしれません。出来る事なら、トリステインに亡命して欲しい。でも……その事を伝えるためにルイズが死んでしまうかもしれない。わたくしはどうすればいいのでしょうか!」
アンリエッタが涙を浮かべながら、先ほどの芝居がかった台詞や仕草とは違う、本心を吐き出す。
トリステインには全く関わりの無いサウザーにだからこそ言えたのだろう。
それを聞いて、サウザーは短く、そして、なんの感情も込めずに答えた。

「帝王に愛も情けもいらぬ」
サウザーが言う意味合いとは違うが、政治に情けが入り込む余地が無いという事は、微妙な状況に置かれているアンリエッタにも分かる。
国を統べる者が私情を挟んではならない。
政治に情が入り込めば国が滅ぶ。
将来起こりうるであろう、アルビオンの侵攻に対抗するために行う、ゲルマニア皇帝との政略結婚の道具としての立場。
それはアンリエッタにも分かっていた。

いや、分かっていたつもりだった。
たった一つの言葉を聞けないまま、永遠の別れになってしまうなど、王女以前に恋に落ちた一七の少女には絶えられない事なのだ。
「わたくしには、あの方への想いを捨てる事など……とても……」
愛を捨てる事もできず、愛の為に自分では戦う事もできない己の無力さにアンリエッタが泣いた。

「どこまでも愛を引き摺っていくつもりか。まぁ、それもよかろう」
齢十五で愛と情けを捨て去った帝王は、ただの少女が泣き止むまで、黙ってそれを退屈そうに眺めていた。








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