あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

memory-02 「郷に入らば」



「随分と広いな、それに立派な建物だ」

 魔法学院の校舎を見上げながらエツィオが感心したように呟く、広大な敷地に立派な建造物。
もしかしたらモンテリジョーニ地方にある、アウディトーレ・ヴィラよりも広いかもしれない。

「ここは他の国からも留学生が訪れる伝統ある魔法学院なのよ、立派なのは当然じゃない」

 ルイズは誇らしげにそう言うと、一番高い本塔を見上げているエツィオに振り向いた。

「それじゃあ、わたしは一度教室に行かないといけないんだけど、あんたはどうするの?」
「あぁ、ちょっと見て回りたいかな、あとで合流しよう、終わるまでどのくらいだ?」
「そ、なら好きにすればいいわ、……そうね、20分後に本塔の入口で待ってなさい、
使い魔についての説明だからすぐに終わるわ、あまり時間はとってあげられないわよ」
「本塔……というと、この一番大きい建物か、わかった、20分後にそこの入口だな」
「いいこと? わたしより先にその場所にいること、ご主人様を待たせるなんてこと絶対にしないでよね? わかった?」
「わかってるよ、女の子を待たせるわけにはいかないさ、男としてね」

 エツィオは小さく笑うと再びルイズの顎に手を添えようとする、
だがその手はすぐさま彼女に叩き落されてしまった。

「使い魔として! でしょ!」
「はいはい、使い魔として、ね」
「本当なんなのアイツ……!」

 肩をすくめ苦笑しながらエツィオが踵を返す。
その背中を睨みつけながらルイズが憎々しげに呟くと彼女もまた教室に向かうべく歩き始めた。



「では、次に使い魔とのコミュニケーションの取り方ですが……」
「はぁ……」

 教室にて、召喚の儀に付き添っていた教師、コルベールの説明を聞きながら嘆息する。
教室に入った途端、彼女を待っていたのは、クラスメイトの嘲笑だった。
人間を、メイジではない元貴族を名乗る妙な男を召喚した、だのさんざんにからかわれてしまった。

「はぁ……なんであんな奴が……」

 そう小さく呟き、ふと窓の外へと視線を送る、そして、盛大に噴き出した。

「ど、どうかしたかね? ミス・ヴァリエール?」
「え? ぅええええ!? あ、い、いえっ! な、なんでもありません!」
「む、ならいいが……?」

 コルベールが驚いたようにルイズに声をかける。
ルイズはしどろもどろになりながらもなんとか誤魔化す、そして落ち着くために深呼吸を何度もする、
何かの見間違いだ、そうに決まっている。呼吸を整え、もう一度窓の外を見た。

「(あ、あ、あの馬鹿っ……なにやってんの……!?)」

 見間違いじゃなかった……、頭を抱え机に突っ伏す。
なんとなしに視線を移した窓の外、その視線の先でエツィオが本塔の壁をよじ登っていたのだ。
僅かな出っ張りに手をかけ、窓のへりを足場に驚くほど身軽によじ登っている。
本来ならばその身体能力に目を見張るところだが、今のルイズにとっては気が気ではなかった。
あの高さ、落ちたら間違いなく即死である、メイジではない彼ならなおさらだ。
それに、これが最も重要なことだが……誰かに見られたら大騒ぎだ、これ以上ない恥をかくことになってしまう。

「(お願いだから! 本当お願いだから! 誰も窓の外を見ませんように!)」

 ルイズは始祖に祈りをささげながら、せっせと本塔の壁を登り続けるエツィオを恨みのこもった眼つきで見守り続けた。

 そんな恨みのこもった視線を受けていることを知ってか知らずか、ついにエツィオが本塔の屋根に手をかける。
そうやって屋根の最先端まで上り詰めたエツィオは、眼を凝らし学院周辺の地形を頭の中に叩きこみ始めた。

「(……やはり知らない土地だ、周囲は森と山、か、他に街は……ない、だが街道らしきものが見えるということは、遠すぎて見えないだけか)」

 次に自分の足元へ視線を落とす、なるほど、この学院とやらは本塔とその周囲を囲む壁、それと一体化した5つの塔からなっているようだった。
そうやって大体地形を把握したエツィオは、ふと夕暮れの空に浮かぶ月へと視線を送る、そして驚きのあまり塔の頂から転げ落ちそうになった。

「月が……二つだって?」

 思わず口に出す、何かの見間違いかと思い何度も目をこする、しかし何度見ても空に浮かぶ月は二つだった。
彼の知る限り月は一つしかないが、地域によっては月が二つになったりするのだろうか?
親友のレオナルドならば天体の知恵も有しているだろうが、あいにくここにはいない。

「きゅいーっ!」
「――っ!?」

 聞きなれない何かの鳴き声が聞こえ、今度はそちらのほうを向く、
その先には驚くべきことに、蒼い鱗をもった一匹の巨大なドラゴンが悠然と大空を飛んでいるではないか!

「そんな……一体ここはっ……」

 あまりに現実離れした光景に軽い眩暈すら感じる、このままでは本当に落下しかねない。
なんとか気を取り直したエツィオは、視線を落とした先に荷車に積まれた家畜用の藁山を見つけた、この距離なら余裕で飛べる。
自分の立っている塔の先端から力強く跳躍する、鳥のように大きく腕を広げそのまま藁山へと急降下した。
高く積み上げられた藁山が、背中から飛び込んだエツィオの身体を優しく包み込み落下の衝撃を大きく和らげる。
どうやら前回とは違い気を失わずに済んだようだ。いや、この場合気を失ったほうがフィレンツェに戻れたかもしれない、そう考えると少々複雑な気分だった。

「(ここから出ればフィレンツェ……なんてことはないよな)」

 ぼやきながら藁山の外へと飛び出す。

「きゃっ!」
「おっと……」

 聞こえてきた小さな悲鳴にエツィオが振り向く。
そこにはメイドの格好をした素朴な感じの少女がこちらを見つめていた、どうやら近くを通りかかったらしい。
出る前に周囲の状況を確認すべきだった、内心舌を打ちながら、とりあえずその少女に話しかけることにした。

「やあ、どうも」
「あっ……、こ、こんにちは」

 戸惑いながらもメイドの少女は会釈をする。
フィレンツェでも珍しい、黒い髪をしたかわいらしい少女だ。

「君は……もしかしてここのメイドかい?」
「は、はい、えと……あなたは……」

 少女は不審者を見るような目でエツィオを見つめた。
藁山から突然飛び出てきたのだ、当然の反応である。

「これは失礼、俺はエツィオ、エツィオ・アウディトーレ、君の名前は?」
「あ、私はここで奉公させていだたいてます、シエスタといいます」
「なるほど……シエスタか、よろしく」

 だがエツィオはそんな視線を物ともせずににこやかに自己紹介をする。

「よ、よろしくおねがいします、あの……失礼ですがどうして藁山から?」
「塔の上で景色を眺めてたら偶然君を見つけてね、あまりに可愛かったから急いで降りてきたんだ」
「かっ……可愛いだなんてそんなっ……」

 頬に手を当て照れていたシエスタだったが、エツィオの身につけている質素なマントに気がついたのかすぐに取り直す。

「あっ、し、失礼しました、ミスタ・アウディトーレ」
「エツィオでいいよ、そんなかしこまらないでくれ、ミスタもいらない」
「そ、そんなわけには参りませんわ、貴族の方に無礼な真似を……」
「気にするな、元貴族さ、それに君らの言う魔法とやらも使えない」
「メイジ……ではないんですか?」
「あぁ、君は……魔法を使えるのか?」
「い、いえっ、私は魔法は使えません、ただの平民です」
「へぇ驚いたな! 俺はてっきり君も魔法使いだと思っていたよ! だってさっきから俺の心を魅了して離してくれないからな!」
「えっ……そっ、そんなっ! ごっ、ご冗談がお上手なんですのね!」

 その言葉にシエスタの顔が耳まで真っ赤になる。
あぁ、この子は免疫ないんだな、エツィオは内心ニヤつきながら話を続けた。

「冗談でも何でもないさ、ということは立場は一緒だ、仲良くしよう」

 エツィオが優しく頬笑みながら握手を求める、シエスタもおずおずとそれを返した。

「えと、それでミスタ・アウディ――」
「エツィオ」
「あ、エツィオさんは、何の御用があってここに?」
「あぁそれは……」
「エツィオーーーーッ!!!」

 エツィオがその質問に答えようとしたとき、教室と思われる窓の一つが勢い良く開き、怒り心頭といった様子のルイズが顔を出した。

「やぁルイズ、君はまだ授業中だろう? そんな大声出していると叱られるぞ」
「うるっさいわね! そんなこと言ってる場合じゃないでしょうがこの馬鹿ぁ! いきなり何してんのよあんたはぁぁぁ!!」
「見てのとおりさ! 女の子とお話してるんだ」
「そっちじゃなくて! なんでいきなり――」
「ミス・ヴァリエール!」
「あぁっ、ご、ごめんなさい!」

 中からコルベールの怒鳴り声が聞こえると、すぐさまルイズが教室の中に引っ込む、数拍おいてから中から生徒たちの笑い声が聞こえてきた。

「というわけで、どうやらあの子に召喚されてしまったらしくてね、今の俺は彼女の使い魔、そういうことらしい」

 その様子を見ていたエツィオが半ば他人事のように肩をすくめる。

「は、はぁ、つ、使い魔ですか、ミス・ヴァリエールの……」
「やっぱり、珍しいのか?」
「はい、人間が召喚されたというお話は聞かないですね、普通だとやはり動物や幻獣……フクロウやグリフォン、他には滅多にありませんがドラゴンとかですね」
「ドラゴン……さっきのか……」 

 シエスタの答えに小さく呟く、ドラゴンなど伝承の中にしか存在しないものだ、今までそう思っていた。
フィレンツェやその他の大都市でもドラゴンがいるなどという話は聞かなかったし、ましてや見たこともなかった。
しかしつい先ほど自分はそれを目にしてしまっている。
魔法にしろ、ドラゴンにしろ、二つの月にしろ、まさか自分はおとぎ話の世界にでも迷い込んでしまったのだろうか?

「あの、どうかなさいましたか?」

 突如、深刻な表情で考え込み始めたエツィオの顔をシエスタが覗き込む。

「あ、いや、なんでもない、……おっと、そろそろ時間かな?」

 我に返ったエツィオは、思い出したかのように先ほどルイズが顔を出した教室を見た、そろそろ授業が終わるころだろう。

「さて、名残惜しいがそろそろ行かなくちゃ、もっとお話したいけど、それは次の機会に取っておくよ、それじゃシエスタ、また会おう」
「は、はい」

 ぽん、とシエスタの肩に手を置きその場を立ち去る、
そんな彼をしばらく呆然と見送っていたシエスタだったが、はっと我に返ると、仕事に戻るべく彼女も足早にその場を離れた。

「あんた何考えてんのよ! 教室で大声出して恥かいちゃったじゃないの!」

 ドン! とルイズがテーブルを叩く、皿に乗った夜食のパンが宙へと踊った。
二人はテーブルを挟んだ椅子に腰かけていた。ルイズの部屋である。
合流場所である本塔入口でエツィオを待っていたのは、やはりというべきか怒り心頭のルイズだった。
彼女は本塔の入口でエツィオを見つけるや否や、無理やり襟首をつかみ、自室へと引っ張って行ったのだった。

「メイドの子と話してただけじゃないか、何を咎められることがあるんだ?」
「そんなことをきいてるんじゃなーーーーい!」

 まるでからかうかのようなエツィオの態度はさらにルイズの怒りに油を注いだ。

「そうじゃなくて! なんで本塔によじ登った挙句に飛び降りたのかを聞いてるのよ!」
「あぁそれか、ちょっと景色を眺めようとおもってね、飛び降りたのはちまちま降りるのが面倒だっただけさ、
おかげでどこに何があるのかとか大体把握できたよ、……そしてここがどういうところだかもね」
「…………」

 ダメだコイツ、本物の馬鹿だ。
返ってきた答えに頭を掻きむしりながらテーブルに突っ伏す。
今日一日、いや、僅か半日で何度も言ったし何度も思った、しかし何度言っても言い足りない。

「……こんなのが使い魔だなんて……」

 呻くように呟くルイズをよそに、窓の外を見ていたエツィオが話しかける。

「さて、やっと二人きりになれたんだし……そろそろ質問していいかな?」
「いいわよ、わたしもあんたに言いたいことが山ほどあるから」
「よし、それじゃ最初は俺からだ。まずは君の好みのタイプ……は次の機会に取っておくとして」

 エツィオは再び窓の外へと視線を送る、空に煌々と輝く二つの月を見て呟いた。

「俺はどこに来てしまったんだ?」
「は?」

 いきなり何を言い出すんだ? というルイズの視線を無視しエツィオは続ける。

「ありえないんだ、聞き覚えのない土地、ドラゴン、魔法、すべて俺のいた地域にはないことだらけだ」
「あんた、どれだけ辺境に住んでたのよ」
「辺境、か、歩いて帰れる距離じゃないことは確かだな……少なくとも月は一つしかなかった」

 そう言うとエツィオは簡単に自分のいた場所について説明をする、
魔法を使える人間は誰一人としていない、ドラゴン他幻獣と呼ばれるものもいない、月は一つしかない、等である。
文化についても説明したが、メイジが貴族である、ということを抜かせば対して違いは無いようだった。

「……ふーん、つまり要約すると、あんたはその月が一つしかなく、メイジもドラゴンもいないイタリアのフィレンツェ、というところから来た、と」
「簡単に言えばそうなるな」
「信じられないわ」
「そう言うと思ったよ、信じるのも信じないも君次第だ、こちらも無理に信じてもらおうとも思っていないよ」

 未だに胡散臭そうな視線を向けてくるルイズに肩をすくめながらも、質問を続ける。

「それよりこれが最も重要なことなんだが。俺をもといた場所に戻す方法はあるのか? 早くフィレンツェに戻らないとならないんだ」
「ないわよ」
「……どうしてそう言い切れる、呼び寄せる魔法とやらがあるのなら、送り返す魔法だってあるだろう?」

 戻れないのではないかという恐怖、不安を必死に抑えて聞き返す、女の子の手前、取り乱すところを見せるのは死んでもごめんだ。
テンプル騎士団を野放しにしたまま、こんなわけもわからない所にとどまっているわけにはいかない。
だがルイズはそんなエツィオの望みを打ち砕くように言葉を続ける。

「送り返す魔法があるならとっくにあんたなんかフィレンツェとやらに送り返してるわよ! 
それに、あんたはもうわたしの使い魔として契約しちゃってるの、新しい使い魔を召喚することもできないわ」
「それじゃ……」
「あんたがどこから来た人間であれ、一回使い魔として契約したからにはもう動かせないの!」

 びしっと指を突きつけルイズが宣言する。その有無を言わさぬ口調にエツィオは項垂れ、小さく呟いた。

「解除する方法は?」
「ないわ、あるとすれば、使い魔が死んだときね」
「あるいは君が死ぬまで、か……それは困った」
「それはこっちのセリフよ、まったく……」

 大きくため息をつき、左手の甲を見る、そこには契約のときに刻まれたルーンがあった。

「あぁそれね、わたしの使い魔ですっていう、印みたいなものよ」
「なるほど、君と俺をつなぐ鎖、ってわけだ」
「もう、いい加減諦めなさい、あんたは死ぬまでわたしの使い魔。何度も言うけど、これはもうどうあっても覆ることがない決定事項なのよ」
「……」

 その言葉にエツィオが黙りこむ、本来ならば、こんなことやっている場合ではない、
だがここはまったく土地勘のない場所、下手をすれば未知の大陸という可能性もある。
仮にここから逃げ出したとしても、無事にフィレンツェにたどりつけるという保証はない。
先ほど彼女は自分を貴族だと言っていた、とすれば、ここは彼女の庇護の元に活動するのが得策だろう。
それに……、最も重要なことだが、魔法という概念、これははっきり言ってしまえば脅威そのものだ。
もしテンプル騎士たちがこの力を行使したら? 空を飛んで逃げられたりでもしたら厄介なことこの上ない。その逆もまた然りだ。
ならば、せめて魔法に対しての知識を身につけておくべきだ。
そう考えたエツィオは、やがて諦めたように肩をすくめる、

「わかったよ、俺は君の使い魔だ、それでいいんだろ?」
「なによそれ」
「ん? なにか御不満でも?」
「口のきき方がなってないわね、『なんなりとお申し付けください、ご主人様』でしょ?」
「はいはい、なんなりとお申し付けくださいませ、ご主人様」

 そんなエツィオにルイズは得意げに指を立てて言った。
やれやれ、仕草だけはかわいいな……。小さく笑いそんな事を考える。

「その代わり」

 エツィオは急に真顔になるとルイズと同じように指を一本立てた。

「一つだけ条件だ、俺がもといた場所に戻れるように協力してほしい」
「なんでよ?」
「まだ俺にはやるべきことがあってね、このままじゃ伯父上にどやされる、……それに、君も人間じゃない使い魔を召喚したいだろう?」
「……まぁいいわ、そのくらい、わたしもあんたみたいなチャラついた男より犬や猫のほうがいいもの」
「おいおい、せめて比べるならドラゴンにしてくれよ、これでも中身には自信があるんだぜ?」

 人懐っこい笑顔でエツィオが笑う、するとそれにつられルイズもくすくすと笑い始めた。
なんともかわいらしい、花のような笑顔だった。

「確認よ、もといた場所に戻るまで、あんたはわたしの使い魔、これでいいわね?」
「あぁ、それじゃ、改めて契約成立だな」
「えぇ、その間、しっかり働いてもらうわよ」

 エツィオが右手を差し出すとルイズもそれにこたえた。

「で、使い魔って言ったって、具体的にはなにをするんだ?」
「そうね、これから使い魔としての心得を説明してあげるわ」

 ルイズは立ち上がると、エツィオに説明を始めた。

「まず、使い魔は主人の目となり、耳となる能力を与えられるわ。つまり使い魔が見たものは主人も見えるようになるの」
「そいつは便利だな、で? 何が見える?」
「……なにも。あんたじゃ無理みたいね。わたしなにも見えないもん!」
「それは残念だな、こんなに可愛い女の子を見ることができないなんてな」
「鏡見れば済むことよ……それから、使い魔は主人の望むものを見つけてくるのよ。例えば秘薬とかね」
「秘薬?」
「特定の魔法を使うときに使用する触媒よ。硫黄とか、コケとか……」
「……へぇ」
「あんた、そんなの見つけてこれないでしょ? 秘薬の知識もなさそうだし」
「街の医者にでも言えば、薬くらい売ってもらえるだろう?」
「ま、それもそうよね、って使い魔が見つけてこないと意味ないの!」

 ルイズは苛立たしそうに言葉を続けた。

「そして、これが一番なんだけど、使い魔は主人を守る存在であるのよ! その能力で主人を敵から守る! これが一番大事な役目!」
「なるほど、ようは護衛か、やっとらしくなってきたな」
「あんたはどうなの? 傭兵みたいなものだって言ってたけど」

 ルイズはエツィオを見つめる、体格はがっしりとしている、見た感じ腕は立ちそうだ。
彼は元貴族、と言っていた、没落した男の貴族は大抵傭兵か盗賊になる。
彼もまた例にもれず傭兵になったのだろう。そう察しをつけた

「これでも腕っ節には自信がある、ただ、相手がメイジとなると……ちょっとわからないな、なにせ魔法なんて初めてみたからね」
「ま、そうよね、平民がメイジにかなうはずないわ、幻獣とかなら並大抵の敵には負けないけど、あんたじゃ……ねぇ」
「これは手厳しい……」
「というわけで、あんたにできそうなことをやらせてあげる。洗濯。掃除。その他雑用」
「……そっちより、荒事のほうが得意なんだけどな……」
「なんか言った?」
「いや、なんでもないさ」
「そう、ふぁ~あ……、しゃべってたら眠くなっちゃったわ」

 説明を終えたルイズは大きなあくびをする。……実際ルイズは疲れていた、使い魔のせいで。
こいつと話していると、どうにも調子を狂わされる。

「おや、もう寝るのか? 俺はどこで寝ればいいんだ? 添い寝も仕事の一つ……ん?」

 エツィオがそこまで言うと、一枚の毛布が勢いよく飛んできた。

「そんなわけないでしょ! あんたは床!」
「本格的に犬猫扱いだな」
「ベッドが一つしかないんだから仕方ないでしょ! まぁ、その毛布くらいなら恵んであげる」

 ルイズはそう言うや、ブラウスのボタンに手をかける。
一個ずつ、ボタンを外していく。下着があらわになった。

「なぁご主人様」
「なによ」
「俺たちは出会って一日目だろ? いくら運命の出会いだったとしても女の子がそう簡単に男に素肌をみせるものじゃないな」
「は? 運命? 男? 誰が? 使い魔に見られたって、なんとも思わないわ」

 きょとん、とした声でルイズが言った。男として認識していない、その一言は、エツィオのプライドを大きく傷つけた、
イタリアに男として生まれた以上、その一言は決して許されるものではない。

「へぇ、それじゃあこれは役得ってやつか、ならせめてゆっくり見物させてもらおうかな?」
「ふん、なにを言ってるのよ……」

 額に青筋を浮かべながら、床に横になるとルイズの着替える様をこれでもかと眺め始めた。
最初はそれを無視していたルイズだったがやがてその視線に耐えきれなくなったのか、声を上げた。

「な、なによあんた! さっきからじっと見て!」
「何って見物してるのさ、使い魔に見られたってなんとも思わなかったんじゃないのか?」
「ぐっ……! だ、だからってじっと見ていいとっ……!」
「ははっ、冗談さ、実にからかい甲斐があるな君は」
「くっぅぅぅぅぅ、つ、使い魔のくせに……かっ、かっ、からかうなんて!」

 顔を真っ赤にしたルイズを見て溜飲が下ったのか、エツィオがニヤリと笑う。
これからもっとからかってやる、心の中で誓いながら仰向けになると目をつむった。

「それに俺としてはこう、もうちょっと発育がいいほうが……ま、多分5年後には国中の男は君に釘付――あだっ!?」

 その一言はルイズの逆鱗に触れたのか、手元にあった花瓶をエツィオの顔面に投げつけた。

「なっ!? なにもこんなもの投げることはないだろ!」
「うるさいうるさい! あんた明日一日ご飯抜き!」
「わかったわかった、頼むからこれ以上ものを投げないでくれ!」

 怒り心頭のルイズは手当たり次第身の回りにあったものをエツィオに投げつけると、荒い息もそのままにベッドの中にもぐりこんでしまった。
平穏を取り戻した室内でエツィオが大きく息を吐くと再び床に寝転がる。
実のところ、彼もまた疲労困憊していた、一日の間にあまりに多くのことが身におきすぎたのだ。
ハルケギニア大陸、トリステイン、魔法、使い魔、二つの月。
イタリアに戻れる日は来るのだろうか、その間にもテンプル騎士団が次の一手を打ってきたらどうすべきなのか、そんな不安はあるが
今は目の前の状況を打破しなくてはならないことは確かだ。

「早く戻らないと……ロレンツォ殿になにか起こらなければいいが……」

 そう呟き静かに目を閉じる、同時に猛烈な睡魔が襲ってきた。
そのまま睡魔に身をまかせようとした瞬間、エツィオの顔に何か布がかかる。
何かと思いそれを取り上げる、それはレースのついたキャミソールにパンティ、つまりはルイズの下着であった。

「ん……?」 
「それ、明日になったら洗濯、あとちゃんと朝になったら起こすのよ、いいわね」

  エツィオの言葉を待たずにルイズが言うと、ベッドの中でパチンと指を鳴らした。
すると部屋を照らしていたランプの明かりが消え、部屋の中を暗闇と沈黙が支配した。
これも魔法の一つであろうか、なんとも便利なものである。

「本格的に召使、か。クラウディアでももうちょっとマシだったと思うんだけどな……」

 エツィオはそう呟くと、被っていたフードを深く被り直し、深い眠りに落ちて行った。


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