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ギーシュ・ド・グラモンと黒バラ女王-12


 女王はギーシュのことを酷く嫌っていた。
 その理由は昨日のギーシュの行動に起因している。
 彼女は封印されている間、自分が自由になることだけを考えていた。
 そのため、ガラス玉の中に居る内はギーシュに対して怒りや憎しみを感じることはほとんど無かった。
 ところが、一度封印が解かれてしまえばそのようにはいかなかった。
 ギーシュ達が森の中で茨の蔓から逃げていた頃、暇を持て余していた女王はふとあることを思い出していた。
 昨日のギーシュとの会話の内容である。
 彼は女王のことを"使い魔"と言っていた。

「さあどうした? 早くこのゴミを片付けろ」
 一向にギーシュをいたぶろうとしない生徒達に対し、女王は再び命令をした。
 一同を見下ろす女王の瞳は紅色の光を放っている。
 ギラギラと燃える太陽のような瞳から照りつける赤い光が彼らの肌をじわじわと焦がす。
 彼らの居る場所の気温は急激に上昇していった。
 耐え難い暑さは彼らの思考力を段々と奪っていく。
 突如、一人の男子生徒が奇声を発しながらギーシュに向かって走り出した。
「うあああ! きああああああ!」
 その生徒は握り締めた右の拳を時計回りに捻じらせながら斜め上方に打ち出した。
 全身を突き上げるような拳を受けて、ギーシュの鳩尾に鋭い痛みが走る。
 ギーシュは腹部を押さえながら後ろに退いた。
 すると、彼の後ろまで迫っていた別の男子生徒が彼の右上腕に回し蹴りを喰らわせた。
 ギーシュは右上腕三頭筋に痺れを感じた。
 その瞬間、始めに彼に殴り掛かった生徒が彼の背部に右肘を落とした。
 その一撃を喰らうと、前屈みになっていたギーシュはそのまま膝をつき、うつ伏せに倒れてしまった。

「ちょ、ちょっと待ってよ……?」
 ルイズのすぐ傍では凄惨な私刑が行われていた。
 それは女王による理不尽な制裁だった。
 女王の怒りを買うことを恐れた生徒達はギーシュを袋叩きにする。
 体を丸め頭を両腕で隠したギーシュは、横倒しにされないように必死で顔を地面に擦り付けていた。
 彼は顔面をまともに蹴られることだけは避けようとしていた。
「や、やめてよ! やめなさいよ……」
 ルイズには彼らを止めることはできなかった。
 ギーシュを責め立てる彼らの異様な気迫が彼女を足を竦めさせていた。
 仄暗い灼熱の闇の中、溢れ出す汗を飛び散らせながらルイズ以外の生徒達は拳を振り下ろした。
 朦朧とする意識の中で、彼らは蹲るギーシュを一心不乱に踏み続けていた。

「ルイズ!!」
 汗で顔に前髪を張り付かせたキュルケがルイズに抱きついた。
「ツェ、ツェルプストー! な、何よ!」
 身動きを封じられたルイズは乱暴に締め付けられた。
「ルイズ! あ"んたも一緒にやりなさい!」
 キュルケはかすれた声でそう叫ぶと、嫌がるルイズを無理矢理生徒達の輪の中に押し込んだ。
 ルイズが今立っている場所は先ほどまでキュルケが立っていた場所である。
「嫌!!」
 体を左右に激しく揺らし、ルイズはキュルケを振り払った。
「こんな酷いことして! あんた達、それでも貴族だって言えるの!!」
 ルイズの熱が篭った怒号に、一同がギーシュへの攻撃を止めた。
 彼らの視線が砂塗れになっているギーシュからルイズへと変わる。
「邪魔すんのか」
 男子生徒の一人がルイズを睨み付けた。
「あ、当たり前じゃない!」
 ルイズも精一杯の睨みを利かせてその生徒に応えた。
 一触即発の雰囲気の中、無言の時間はしばらくの間続いた。
「ルイズ!!」
 沈黙を破ったのはキュルケだった。
「あのねぇ! これはここにいる全員の命に関わることなの!」
 キュルケはルイズの両肩掴み、彼女を自分の方に向けた。
 そして力の限りルイズの肩を握り締め、彼女を揺さぶった。
「ただ殴るだけ! 殺すわけじゃない! 女王様の言うとおりにしなきゃ駄目なの!!」
 顔をルイズに近づけながらキュルケは絶叫する。
「私もあんたも! ギーシュもみんなも! そうしなきゃ殺される! 死んじゃうのよ!!」
「そんなことはないさ」
 キュルケの叫び終えると、それに答えるかのようにあっけらかんとした声が響いた。
 それは、彼らの様相を楽しげに眺めていた女王の声だった。
「ギーシュが終わったら、次はお前。赤い髪は嫌いだからね」
 足元で蠢く小さな人間達をせせら笑いながら女王は話を続けた。
「でもそれで終わりじゃないよ。最後の一人になるまで続けるんだ」
 にこやかに細められた巨大な目が一同を冷たく見つめた。
「最後に残った子だけは助けてあげるよ。もっとも、もうこの国には食べ物も飲み物も……帰る場所さえ残ってないだろうけどね」
 女王は椅子から身を乗り出し、満面の笑みで自分の真意を彼らに伝えた。
「おーっほっほっほっほっほっほっほ!! あーっはっはっはっはっはっはっは!!」

「そ、そんな……」
 生徒達はそのとき気がついた。
 彼らが最後の希望だと思い込んでいたものは、女王が彼らにより深い絶望感を与えるために用意したものだったということに。
 絶望の淵に落とされた生徒達は支えを失った人形のように地面に崩れ落ちた。
 ある者は呆然と座り込み、またある者は止め処なく泣き続けた。

「ひ……あう……」
 その時、全身を負傷したギーシュは地を這いながら森の奥に進もうとしていた。
 他の生徒達の攻撃の手が止み、女王が空を見上げながら高笑いしている今は、ギーシュにとってこの場から逃げ出す最大のチャンスであった。


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