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Louise and Little Familiar’s Order-17


トリスタニアにある王宮では一週間ほど前から、天と地がひっくり返った様な騒ぎが連日続いていた。
主要な閣僚達は駐在している周辺諸国の各関係者との対処に追われたし、それは末端の役人に関しても同じだ。特にその様はアルビオンの侵攻が起きて以降、一層苛烈さを増している。
そんな中、会議室ではトリステイン王女アンリエッタの号令によって、十二回目の会議が開かれていたが、当然の事ながら議会は紛糾し、空転するばかりで明確な結論は何一つとして出ない。
課題は山積しているにも拘らず、有力貴族達は今後の方針について、理性的とはいえ口喧しく言い合っているだけだった。

Louise and Little Familiar's Orders「Survivors and Predators」

「やはりここはアルビオンに特使を派遣し、講和に向けて動くべきではないのですか?」
「何を悠長なことを言っておる?!敵は強大な軍事力をもって、今尚何の報せを送ることも無く我が国の地を侵しているのだぞ!早急に軍備を整え迎え撃つべきだ!」
「その通りだ!ここで我らが退くような真似をしたらば、先代の方々や散っていった者達にヴァルハラで顔向け出来ん!
例え事を穏便に済ませようとしても、それに図に乗るであろうあの恥知らず共がそれで納得する訳が無い!仇敵は断固討つべし!」
「しかし先程から申し上げているようにアルビオンの空軍は強大です。現在の士官不足を鑑み人員を補充したとしても、制空権を握られたままでは戦に勝つ事は出来ますまい。」
「左様。行うべきは各国と連携し合い、アルビオンに通じる一切の物流を止めることでしょう。アルビオン自体が干上がり、戦闘続行不可能となった時こそ動くべきなのです。勇み足は余計に国としての命を縮めますぞ。」
「そんな敗北主義者の考え方でどうする!第一、その意見が正論なのは私も認めるが、その案件を口にするのはガリアかゲルマニアから確かな協力を得られる状態になってからにして欲しいものだ!」
「じゃが、わしとしては……かの無能王には期待しとらんが、出来ることならガリアから支援を仰ぎたいものじゃ。ゲルマニアのような……あー、その……成り上がりの野蛮な国にこれ以上弱味を握られるわけにもいくまい。」
「いい加減にして頂きたい!伝統も格式も大事ですが、今我々は選り好み出来る立場にないのですぞ!それとも貴殿は、姫殿下の手紙の件を一種の僥倖とお考えになられておるのですかな?!」

年若い一人の貴族がそれを言った瞬間、上座に座っていたアンリエッタはびくっと小さく体を震わせる。
発言を糾弾された老貴族は、至極むっつりとして反論した。

「そんな訳はあるまい。ましてや僥倖などとんでもない。」
「分かっておられるではありませぬか!宜しいですかな?物資も戦艦も不足している中、国力で力のあるどちらかを味方につけねばならないのですぞ!
背に腹は替えられませぬ。ガリアが駄目なら梃子でもゲルマニアを引き入れなければ!」
「愚か者!!それが如何にしても出来ない故に、こうして会議を開き、状況の打開策を考えておるのではないか!当初の目的さえも貴殿は忘れたか?!」

最早会議は会議の体すらもなさず、ただの怒号が飛び交う場所となる。誰かが纏めようとしても結論は堂々巡りとなった。
そんな身をつまされる様な雰囲気の中、アンリエッタは下を俯きながら、この回の会議における初めての発言を行う。

「皆さん……申し訳ありません。私が……王族として生まれた者の義務と運命を忘れ、無責任な事をしてしまったばかりに……何と、御詫びすれば良いのでしょう……」

その言葉に貴族達は熱く交わしていた議論を止めるが、同時に鼻白んでしまう。
手紙の一件が発覚してから今日に至るまで、アンリエッタのこうした涙交じりの謝罪は何度も行われた。その回数はざっと三桁に上ろうかといった具合であった。
だが、それで起きた事が跡形も無く消えるわけではない。更に本人は意識していなかったとはいえ、どこと無く芝居かかった調子も、自分の身に起きている事がまるで他人の身に起きている様に聞こえさせるのに十分だった。
王家の人間でなければ、徹底的に非難したいと思っている貴族も何人かいる具合である。
そんな状況を察して、王女の横に控えていた枢機卿のマザリーニが彼女を宥めるように告げる。

「姫様。あなた様からの謝意を、我々はこの数日でもう十二分に受け取りました。これからは我が国の今後の方針を考え述べて頂きとう御座います。」

アンリエッタはその言葉を聞いて、取り敢えず目を潤ませるのを止める。しかし今後どうすればいいのか。齢十七の彼女では到底分からない。
先代の王……父にあたるフィリップ三世の頃でもこれほど難しい局面という物は確か存在しなかったはず。
彼女は現在の状況を閣僚達の意見を総合した上で、出来る限り冷静に論理的に精査した。
掻き集められるだけ掻き集めても未だにトリステイン軍全体の力は少ない。今の状態のままアルビオン軍に対してまともに正面からぶつかったところで全滅するのが関の山だろう。
自分が前線に出て指揮をすれば……いや、大将は常に後方で戦局を把握し、全体を動かさねばならない。みすみす出て行って撃たれたら、その後を何とする。
しかし自軍の力を十分に蓄えた後、敵を内地に誘い込んだ後、各方面から一斉に攻撃するというのも、輸送に大事な港を始めとする施設全体と制空権を奪われてしまっている以上、ジリ貧になる結果は見えている。
となると正攻法はやはり、国家の枠を超えたアルビオンの封鎖しかないのだが、今は他国に対しそう気安く援助を頼むわけにはいかない。
そして終に、アンリエッタの心の中で一つの結論が出た。だが、それをただ言っただけでは効力は薄い。年齢からして軽んじられている自分はもっと決然とすべきだとも思った。
彼女は一息吐いて立ち上がった後、全員に聞こえるよう良く通る声で言い放った。

「トリステインはこれより、アルビオン軍の攻撃に対する持久戦を開始します!軍部は直ちに士官の再編成を行い、来たる全面抗戦に向けての用意を!
財務部は国庫を至急開放し、物資類の補給を行うよう!出し惜しみは勿論の事、如何なる特例も認めません!
その他、現在王都にいる官吏は、避難して来た国民を手厚く遇しなさい!貴族平民は問いません!費用が足りないのであれば財務部と協力しなさい!」

それから彼女は全体を見回して反応を窺う。あまりの勢いに呆然としている者もいた。その内の一人、財務卿のデムリが申し訳ない調子でアンリエッタに訊ねる。

「姫様。賢明な判断には恐れ入りますが、それを実行するためには概算要求だけとしましても、現在国庫にある金額の数倍の額が必要となりますが……」

その言葉に会議場が一気にざわめく。今のところ国庫を成り立たせている分の金額だけでも国内総生産数年分はゆうにするというのに、更にその数倍とは一体どれほどになるのだろうか。
しかしアンリエッタは何かを振り切るようにきっぱりと言う。

「これは王女、いえ、女王としての命令です。費用が必要だと言うのであれば私から率先して倹約に努めましょう。そうです。王宮の私財を擲つのです。
そもそも国主たる私が模範たる姿勢を見せなければ、国民はこの非常時に誰一人としてついては来ないものです。
これで事態が少しでも解決しないようであれば、税率の引き上げか身分の貴賎を問わない供出物品の作成、或いはその両方を私は行うつもりです。」

アンリエッタの隣に控えるマザリーニは驚いた表情で彼女の顔を見た。何しろアンリエッタが女王を名乗るなど初めての事だったからだ。
先王が亡くなって以降、王妃であったマリアンヌは「生涯喪に服する」と言い張って聞かなかったし、アンリエッタも自由の束縛と、膨大すぎる重責から、自分が王位につく事を快く思っていなかった。
ただ駄々を捏ねていたそんな昔の頃とは違うあまりの姿勢に対して、マザリーニは純粋に、しかしこっそりと感激した。
だが会議の席にいる者達はお互いの顔を見合わせ、一層喧しく話し出すだけだった。
毎月国から支給されている年金の額を気にする者がいるかと思えば、貴賎を問わず頭を下げる姿勢を見せる事によって、王家が他国に蔑まれるであろう事を心配する者。
地方の事情を大雑把ながらも知っている者に至っては、反乱の起きる恐れがあるとも進言するほどだった。
それでもアンリエッタは臆する事無く、議場の机を叩いて全員を黙らせた後、必死に熱弁する。

「何度も申し上げますが、これは王命です!この会議が終わり次第、関係者は与えられた任務を可及的速やかに履行しなさい!
どうしてあなた方はそうも結論を先送りにしたがるのです?!無辜の民が大勢傷ついているというのに、自分達だけは上手く立ち回って甘い汁を吸おうというのですか?
力を持たず、我々の生活を支える彼らを守ることこそ、我等が一番に果たすべき義務ではないのですか?!その義務が、貴族のあるべき姿に付帯されているからこそ、我々は彼らの上に君臨することを許されているのではないのですか?!
こうしている間にも、敵の手によって多くの血が流れ、焦土が広がりつつあるというのに、それが全て終わるまで座して待てというのですか?!
その時はこのトリステインが誠の意味で死んだ時です!私はそのような姿勢を採り続ける事を断固として拒否します!国土が焼け果て、国民が皆死んだ後に存在する君主とその取り巻きなぞ……一体どこの喜劇ですか!
本当ならば、今このような場所で事の是非をいちいち論議しているまでもないはずです!団結こそが肝心要のこの時に、己が利ばかりを主張して手を取り合おうともしないなど何たる醜態ですか!
分かったのなら急いで自分の持ち場に行きなさい!さもなければ、敵国に恭順した売国者とみなします!」

アンリエッタの厳然たる言葉に、その場にいた者達は尻に火が付いたかの如く、大慌てで議場を去っていく。
それを確認したアンリエッタは、糸の切れた人形のように力無く椅子に座り、黙って頭を抱える。
ただ一人議場に残っていたマザリーニは一頻り感心した面持ちで彼女に声をかけた。

「陛下。素晴らしき姿勢でございました。正に貴族、いえ、王家の鑑です。これで手紙の一件の汚名もいくらかは雪げたというもの。」
「私には過ぎた言葉です。ああ、何も言わないで下さい、マザリーニ。私はそのような器の人間では決してありません。」
「何を仰いますか。あの昂然たる態度は人民を統べる人物の態度そのものです。国民は陛下を支持し、敢然とこの国難に立ち向かうことでしょう。」
「では、お訊きしましょう。その国難の直接的な原因が私にあるとしてもですか?」

震えた声の質問にマザリーニは黙ってしまう。いつの間にかアンリエッタは目から一粒、また一粒と涙を流していた。

「今はまだ一部の人間しか知らぬ手紙の一件。ですが、それがもっと公に知られてしまったならば、国民は私に畏敬の念ではなく石を向けるでしょう。
例え彼らの手によって私の御霊がヴァルハラへ捧げられようとも、この国がこの先ずっと外国から後ろ指を差されてしまうのは必定。
先程の席で私は、王族として出来る限りの事を提案し、また実行に移すようにも命令しました。ですが、心を幾ら尽くしてもそればかりはどうにもならないのではありませんか?」
「姫様。仰られた事を心配する気持ちは私にもよく分かります。ですが過ぎた事にいつまでも拘り、起きてもいない事を不安に思う事は心にも体にも毒です。
また、心を尽くしてどうにもならないと仰いましたが、全く何の行動もとらずにおいて早々に愛想をつかされる方がもっと悲惨な物です。
どうか前を向いてくだされ。現実は尚も酷な事に変わりはありませんが、我々がなすべき事はまだ山積している事に変わりは無いのですから。」

枢機卿の穏やかながらも確かな激励を、アンリエッタは俯きながら聞く。さながら灌漑地に立てられた粗悪な造りの高楼の如く脆い心に、それがどれほどの意味があったかは分からないが。
戦端が開かれる前から彼女の中ではあらゆる感情が渦巻いていた。思いを寄せていたウェールズ皇太子死去への悲しみ。その彼を殺したレコン・キスタへの憎悪。
立場も弁えず恋文などしたためた自分の軽率さへの悔恨。そして迫り来る他国からの攻撃に対する恐怖。
身動きの取れない状況の中、アンリエッタは決断を迫られる事になった。そして出した答えが先程の答えだったのである。果たして上手くいくのかどうか。
アンリエッタはちらと窓の外を眺める。そこに広がる空は彼女の胸中を皮肉るかのように、どこまでも雲一つ無い晴れ模様だった。

シエスタと兄弟達、そしてミーは死に物狂いで森の道を走っていた。
この数日というもの何も飲み食いしていないせいで、体内のどこからも力を振り絞れそうに無い。体のあちこちは痛むし、息も切れかかっている。
それでも走り続けなければならない。何故か?答えはその直ぐ後ろから迫っていた。

「待ちやがれ!大人しくこっちに来い!」
「お前ら逃がさねえぞ!大事な金づるだからなぁ!」

人相の悪い、弓や槍で武装した十人ほどの男達が、シエスタ達の後を追っている。
彼等は盗賊。それもかなり質の悪い方に位置する連中で、これと目をつけた獲物がいたら、物品の強奪は勿論の事、人攫いを利用した人身売買まで平気でやってのける連中だった。
ここ二、三日の間、彼等はまともに食い扶持にありつけていなかった。無論、アルビオンの侵攻に際して王宮から戒厳令が出されたからである。
侵攻の混乱にかこつけて火事場泥棒をしても良かったのだが、手に入れられる額は雀の涙ほどだろうし、その量では全員の腹を満たしてやる事は出来ない。
そんな時ある話が舞い込んで来た。なんでも、十人近い戦災孤児が方々で宿泊を乞い願っているという。それも全員平民との事。
賊の頭目は、孤児全員を攫い、どこかの好事家な貴族に売り払ってやろうという算段をあっという間にたてた。
売り払われた孤児の運命は、年齢に係わらず男の子か女の子かで大きく二分される。男の子ならば、日がな一日鞭で叩かれながら屋外で畑仕事をする事になるだろう。
そして女の子は、貴族の世話を甲斐甲斐しくしなければならない。特にいかがわしい意味合いで。
どっちにしてもそこそこの額で取引されるであろう事は間違いない。これは只の商売ではないのだから。

「お姉ちゃん!」
「しぃっ!喋っちゃ駄目!もっと速く走って!!」

シエスタ達は縺れそうになる足を懸命に動かして逃げ続ける。
心臓が破裂しそうに鼓動を打っていたが、構っている余裕は無い。喉が新鮮な空気を十分取り込めないために噎せ返ってしまうが、ちょっとでも休めば命取りになる。
ともかく遠くへ。それが出来ないのなら何所かに身を隠すだけでも良い。ほとぼりが冷めたなら、またトリスタニアに向かっていけば良いだけの事。
だが、出来るだけ森の地形を生かして一時的に引き離すように走っていても、相手はやはり大人。追っている盗賊達との距離はだんだん短くなっていく。
その時……

「きゃああっ!!」

終に最後尾を走っていたミーが、小石に足をすくわれてその場に転げてしまった。

「ミーちゃん!!」

シエスタは足の方向を急旋回させ、ミーの転げた場所、森の中でも少し開けた広場のような場所に向かう。しかし、盗賊達の方が一歩早かった。
盗賊の中でも一番野卑そうな面構えをした小太りの男がミーの髪だけをむんずと捕まえて宙に浮かせる。

「そォらっ!!やっと一人目か!」
「いぃっ!痛い痛いっっ!!痛いィッッ!!!やあぁっ、いやぁぁっ!はっ、放してぇっっ!!!」
「喚くんじゃねぇっ!おらっ、静かにしろ!!」

痛さに耐えかねてミーが絶叫するが、男はその声も打ち消さんばかりの大声で怒鳴りつける。

「おい、オメェら!全員大人しくこっちに来い!さもねえとこの場でこいつの首、この剣で刎ね飛ばすぞ!!」

遅れて駆けつけた賊の中でも副将らしき輩が、ミーの身長と同じ位の長さをした段平を陽光に煌かせる。
錆も欠けも一つも見えない事から、かなり手入れのされている業物と言える。切れ味は相当のものだろう。
そこへ賊の頭目がバスのかかった低い声で諌めるように声をかける。

「落ち着け。血の気は上がるだろうが間違っても傷モノにするな。小さいやつ一つ付けただけでも買い取り価格が著しく下がるからな。」
「分かってまさぁ。脅しッスよ、脅し。これで全員手に入りやすって。」

副将は小さい声で気軽に答える。とても人一人の命を預かっているようには思えない口ぶりだった。
一方、シエスタ達はどうする事も出来ないでいる。抵抗のしようが無いからだ。大体、故郷の森から離れ、数日の間村を転々としながらここまで生きてこれただけでも僥倖というもの。
だが、もうどうにも出来ない。考えられる手はとっくに相手によって詰まれている。シエスタは俯き、声を押し殺して号泣する。
ふと頭の中に様々な思い出が蘇ってくる。別世界の言葉で言えばそれは『走馬灯』とも言える物。
これで何もかも終わりだと言う時はこのような事を考えてしまうのだろうか。
―お父さん、お母さん、それからミス・ヴァリエール、ごめんなさい。私はこれで精一杯です。もう何も出来ません。―
心の中でそう思い、賊達に歩み寄ろうとした時だった。

「ヒメグマ……お願い。お願いだから、助けてぇ……」

ミーが蚊の鳴く様な小さい声で懇願する。するとシエスタ達の側に逃れていたヒメグマがいきなり音も無く飛び出した。
そしてあっという間に、ミーへ剣を突きつけていた盗賊の顔面に向かって体当たりをかましたのである。

「あべしっ!!」

実に奇妙な悲鳴を上げつつ、副将は持っていた剣もろとも軽く後方に吹っ飛ばされ、ミーは副将の手から逃れた。
そしてヒメグマは臆する事無く、小さい体を上手く活かしながら賊に対して次々と色々な攻撃を素早く仕掛ける。
その間にミーはシエスタ達の方に逃げようとするが、すっかり腰が抜けてしまっていたがために、匍匐前進をするようにしか前に進めない。
シエスタとその兄弟達も、起こっている事に対して上手く体が反応出来ないでいた。
すると、どこか遠くから、自分達が逃げていた方向とも、賊達が追って来ていた方向とも違う方から、馬車が猛烈な勢いでやって来る音が聞こえてくる。
程無くして二頭立ての馬車が広場に現れたのだが、その御者台に乗っている人物を見てシエスタは驚愕のあまり大きな声を上げてしまった。

「ミス・ヴァリエール?!!」

そう。方々の村を回って、この辺りにいるかもしれないと勘繰っていたルイズがちょうど通りかかったのである。
場は色々と混乱していたが、状況を一瞬で把握したルイズは、馬車を一気に止めた後、御者代から飛び降り、ミーの元へ駆け寄る。

「ミー!!」

絶叫に対しての返事は無い。シエスタが叫んだ時点で、ミーは積もり積もった虚脱のため既に気を失っていたからだった。ルイズは何とかミーを抱えシエスタ達の所まで戻る。
その時、ミーの服からある物が転げ落ちた。タルブの村に昔いたポケモントレーナーが残していたモンスターボールの一つだ。
シエスタがいち早くそれに反応する。

「それ……曾お祖母さんが残した、モンスターボール……」
「何?これが何だっていうの?教えて!」

ルイズは息せき切って訊ねる。シエスタは縺れる舌を何とか動かしながら説明をした。

「それに、それにポケモンが……あそこにいるミーちゃんの熊みたいな生き物が、入っているんです。」

それを聞いたルイズの頭は、それまでに持ち合わせた知識と記憶を用いて驚異的な勢いで回転しだした。
殆んどミーしか知りえないポケモンという存在……そしてその能力……獣を自在に操る伝説の使い魔ヴィンダールブ……
直ぐに一つの答えに辿りついたルイズはミーの体を揺さぶって起こそうとした。

「ミー!起きなさい、ミー!」

静かにうっすらと目を開けたミーは、何が何やら分からない調子で答える。

「ご主人様……私、ええっと……」
「ミー、命令よ!この!モンスターボールを開けなさい!今直ぐ開けなさい!あんたの手で!!」
「駄目、ご主人様……それ、開かなかっ……」
「これは命令よ!簡単に諦めるんじゃないわよ!いい?!この中にいる生き物はあんたしか手懐けられないの!ヴィンダールブであるあんたが一番上手くそいつを操れるのよ!!
言い訳は聞かないわ。絶対に開けなさい!!」

ミーはそれ以上言葉が出なかった。壊れている事も、自分がポケモンを持って良い年齢である事も何もかも。
しかしルイズの命令は絶対である。仕方無しにミーは弱弱しく何回もボールの開閉スイッチを押してみた。それでもボールは開かず何も出て来ない。
シエスタの曾祖母さんは六匹のポケモンを従えていた。ポケモンは手持ちの数が六匹を超えたら自動的にパソコンへ転送されるので、この中にも何かが必ずいるはず。
その時。遂にボールが開いた。眩い光と共に出て来たそれは……
その場にそぐわない実に平和そうな顔立ち、そして全長8メイル近くはありそうな扁平な菱形をした体躯をした、どう表現していいのか分からない生き物であった。
だが鰭らしき部分をばたばたと動かしている事から、水棲生物であろう事は何とはなしに分かる。
ミーは驚いた。空想の世界で自分が欲していたポケモンだったから。そして、自分の目の前に現れたその個体は、一般的に知られている同種の生き物より明らかに大きかったから。




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