あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

PERSONA-ZERO -04 前篇

「断る」

番長の返事は膠も無かった。
この騒動に注目していた生徒達全員の目が点になる。
少し離れたテーブルで、ルイズが宙を掴むように脱力していた。
「な……ちょ、ちょっとまて!」
騒ぎの張本人であるところのギーシュ本人が一番目を丸くしている。
なんなんだ、ここは雄々しく受けて立つ場面ではないのか。
でなければ先ほどの怒りに充ち満ちた目はなんだったのというのか、と。
「悪いけど、なんでもかんでも力で解決しようとするやりかたは好きじゃない」
「……!」
自分が聞き分けのない子供だと言われたようで、自然とギーシュの顔の表面が熱くなる。

事実、ある一面だけを言えばその通りだ。
同時に2人の女性に振られ―――自業自得ではあるが―――衆目の真中で恥をかき、
たかが平民の男に好き放題に言われて、恥をかかされた。
結果、冷静な大人の思考はなりをひそめ、頭に血の上った彼は子供の痴態を衆目に晒した。
いや、メイドの少女の前で怒声を上げていた時点で、それはすでに手遅れだったろうか。
いつもはいい奴なんだけど。そう言われたとしても、今のギーシュの姿には説得力がない。

「ふ、ふん……ああ、そうか。アレだな君は、何だかんだ言って僕との決闘が怖いんだろう。
 小賢しいこと言った割には、いざこうなったら理由を付けて逃げるのか君は。臆病者」
「なんとでも言えばいいさ」
 ギーシュの言葉を軽視するでもなく、しかしムキになるでもなく番長は続ける。
「正直、頭にきている。できるならお前を叩きのめしたいとも思う」
 「叩きのめしたい」の部分で、ギーシュが薄ら笑いを浮かべた。
 しかしそれを無視して番長はさらに続ける。
「だけど……シエスタに対するお前の行動についての是非は、周囲がつけてくれるだろう」
 そう言われてギーシュが周りを見渡すと、生徒達のほとんどがギーシュを白い目で見ていた。
 先ほど、呆れたようにこの場を去った男子生徒もその中に入っている。
 平民を軽く見る一部の生徒達は、どうでも良さげだった。
「……く」
「ルイズへの侮辱については、ルイズ自身が答えを出してくれるさ」
「その通りよ」
 いつのまにか近くまで来ていたルイズが間を割った。
「私の力は、近いうちに私自身の手で証明してみせるわ。アンタが何を言ったところで痛くも痒くもないもの」
 そう言って、ルイズは不敵に笑った。

 ―――この先、ルイズが相対する『敵』に対して、もっとも多く見せることになる顔である。

「はっ、明日から本気出すって? 怠け者の常套句だよそれは」
「違うわね」
 ギーシュの皮肉にもルイズは動じない。
「私はいつだって本気だった。いつでも真剣だった。そしてそれはこれからも同じよ」
「……!」
 それは、シュヴルーズがそう言っていたように、ギーシュのみならず誰もが認めるところだ。
「ということだ。もう、俺からお前に対してすることは何もないよ」
「まあ、バンチョーがアンタをコテンパンにするところを見られないのがチョット残念だけど」
 煽らないでくれよと番長が頭を抱えるが、ルイズは気にも留めない。
 番長の予想通り、ルイズのその言葉はギーシュのプライドを大いに逆撫でした。
「うん? これは僕の聞き間違いかな? まさかルイズ、君は僕がそこの平民如きに負けるとでも……」
「思ってるわよ。バンチョーは私の使い魔よ。その主が自分の使い魔を信用できなくてどうしようっていうのよ」
 ルイズの目は、どこまでも真っすぐで揺らぎがない。
「……っ……この……」
 言い返せない。
 元々が、頭に血が上った自分の言動が端を発した騒動であるし、やりすぎたこともギーシュは自覚していた。
 これ以上食い下がれば、周囲の自分への評価がどうなるか馬鹿でもわかる。
「もういいよルイズ。行こう。シエスタも一度着替えてきた方が良い。いいですよねマルトーさん」
 番長が厨房のマルトーに声をかける。中から「おうよ」と声がした。
 シエスタは何度も礼を言いながら、奥に歩いて行った。
「……くそっ」
 ギーシュが悔しさに顔を歪めながら駆け出す。
 番長とルイズを押しのけて、逃げるようにその場を後にした。

「なにもう終わり? つまんないわね」
 キュルケとタバサもこっちに来ていたようだ。
 キュルケは心底つまらなそうな顔をしている。
「余計な争い事は避けるに越したことはないよ」
 番長が苦笑混じりにそう答えると、キュルケは艶めかしく歩きながら番長の首に手を回した。
「ふ~ん? でも、そういうトコロも素敵よダーリン」
 わかっていてキュルケはやっているんだろうか。いや、わかっているんだろう。
 そ~いうことをするとだ。
「ちょ、キュルケ! アンタどさくさに紛れてなにやってるのよっ!」
 こうなる。もう、お約束であった。
 この一件に注目していた生徒達が、あきれ顔と苦笑交じりに散開していく。
「…………」
 そんな中、タバサが番長を見つめていた。心中を覗き込むように。
「……? どうしたの?」
「……なんでもない」
 番長には、やはりタバサの表情は読み取れない。
 だが、一つだけ見てとれるものがあった。
「お弁当、ついてるよ」
 タバサの左頬に、『草』がついていた。
 親指でふき取るように拭い取ってやる。
「…………」
 顔を隠すように本を持ち上げた。わざとらしくページを捲っている。
 その顔は―――やはり表情は変わらないが―――照れているように見えた。



 ※※※



 その夜、ギーシュは悔しさに布団を抱いていた。
(くそ……なんなんだ、あの男は!)
 語るまでもなく、夕食時の一件が原因である。
 あの時、ギーシュは番長との決闘でその欝憤を晴らすつもりでいた。
 我ながら大人気なかったと思う。だが、それはあの男も同じだったはずだ。
 振り向きざまに見せた番長の瞳の色、相当頭に血が上っていたのは間違いない。
 そして、かなりの修羅場を潜ってきたであろうことも想像できた。
 それでもメイジである自分に敵うはずはない、とギーシュは思っていたが、
 戦いには相当の自信を持っているだろう、戦えば本当に勝てるつもりでいるかもしれない。そう考える。
 だのにあの男は、あの平民の男は。あっさりと決闘を断った。
 わからない、ギーシュにとって初めて接するタイプの人間だった。
(……散歩でもしてくるか)
 このままでは寝付けそうもない。
 時間は既に深夜を過ぎていた。今頃なら双月が美しい輝きを見せてくれるだろう。
 その清廉なる光明は、今の気分をキレイに洗い清めてくれるに違いない。
 そう考えて、ギーシュは寝巻を着替え部屋を後にした。
 どこまでも気障な男であった。

 同じ頃。学生寮から少し離れた庭で動く影があった。
「ほらまた、アンタは力みすぎなんだってば」
「う、うるさいわね。わかってるわよ」
 ルイズとキュルケだ。番長とタバサもいる。
「アンタ、今まで魔法使えなかったせいか、力任せにやろうとしすぎなのよ。
 そんなんじゃ、また『止めきれなく』なるわよ」
「わかってるって……っていうか、なんでアンタが口出ししてんのよ! っていうかなんでいるのよ!」
「なによ今更、アンタが魔法の特訓したいって言うから付き合ってあげてるんじゃないのよ」
「余計なお世話よ! なにを企んでるのかわかったものじゃない……それに、バンチョーがいれば十分よ」
 その声に答えたのはキュルケではなく番長だ。
「ルイズ。確かに俺はある程度魔力の流れをつかむことができるし、俺の力と魔法は同じものだとは言ったけど……
 魔法そのものについては素人だし、やっぱり専門家に教えてもらった方がいいよ」
「それはそうかもしれないけど……」
 そう言われてもルイズは納得できない。理屈ではなく、主に感情の部分がだ。
「それにキュルケとタバサはトライアングルメイジだそうじゃないか。実力は問題ないだろう?」
 そういう問題ではないのだ。というか問題ならありすぎる。特にキュルケとかキュルケとかキュルケとか。
 犬猿の仲というのもそうだが、なにせキュルケのことだ、事ある毎に番長にせまっていくから集中できない。
 そう、集中できないから困るだけだ。集中できないだけ。

(アイツら……こんな時間まで……)
 それを見ていたのはギーシュである。
 散歩中、何の気なしに庭へ出て何の気なしに少し遠くへ足をのばした。
 そこでルイズ達を発見し、自分への意趣返しでも画策しているのかと覗いてみると。
(特訓……だと……?)
 ギーシュの頭に、夕食の時のルイズの言葉が蘇った。
 『私はいつだって本気だった。いつでも真剣だった。そしてそれはこれからも同じよ』
 自分はどうだったろう。
 もちろん努力はしてきたつもりだ。
 兄達のように華麗に魔法を行使する姿を夢見て、一人部屋で勉学に励む日もあった。
 それについてきた結果は、元帥を父に持つ名門グラモン伯爵家の四男にしてドットというメイジ最下級の実力。
 まわりのクラスメイトたちが次々にラインへ昇格していく中、自分は取り残されていった。
 いつからだろう、諦めてしまったのは。
 今も努力は続けているつもりだ。ドットという位置に留まるつもりもない。
 いつからだろう、夢を見なくなったのは。
 いつかはスクウェアに。そしていつかは、それに相応しい貴族に。
 いつかは、いつかは。それを言い訳にしていたかもしれない。
 『明日から本気出すって? 怠け者の常套句だよそれは』
 違う。そんなつもりは毛頭ない。だが自分は、あれほどまでに自分を信じられたか。
 そうギーシュが思い悩んでいる時、彼の目端を人影が通り過ぎた。
(あれは……?)
 双月高き星雲の深夜。関係者であることは考えにくい。
 ギーシュの頭に不審者の3文字が浮かぶ。しかも人影の向った方向は、宝物庫のある本塔だ。
(盗賊……?)
 そう言えば、噂で聞いたことがある。最近、貴族を中心に狙う盗賊が出没しているらしいことを。
 確か、『土くれ』のフーケとかいったか。
 誰かを呼びに行っている暇はない。その間に不審者を見失ってはまずい。
 宝物庫を荒らされ、逃げられてしまうかもしれない。
「ル……」
 ルイズ達に声をかけようとして、ギーシュは躊躇した。
 夕食時の一件もあって顔を合わせるのは気まずい。自分ここにいる理由を変に勘繰られるのも嫌だった。
 少し迷った後、ギーシュは一人で不審者らしき影を追いかけた。

「やっぱり、やっかいだねコレは……」
 『彼女』は宝物庫の壁の前で首を捻っていた。
 予定を早めようと決めたのは、つい先ほどだ。本来はもっと時間をかける予定だった。
 なにせトリステイン王国随一の魔法学院へ盗みに入ろうというのだ。慎重に慎重を重ねてなお万全ということはない。
 『貯え』にはまだ余裕がある筈だ。それに『アイツ』もいる。いまいち頼りになるんだかならないんだかわからない奴だが
 たいていの事からは『あの子たち』を守ってくれるだろう。時間をかけるに見合う見返りもあった。
 ただ、流石にオールド・オスマンは只者ではなかった。それとなく情報を引き出そうとしてものらりくらりとかわされる。
 噂では齢200だか300だかを超える化けものだ。色好きと聞いていたが、少し邪険にしすぎただろうか。
 だが、あれが本質でないことも伺えた。スケベジジイであることは正真正銘罷り間違いなく事実だが。
 他の教員達も一筋縄ではいかない強兵揃いだ。
 特にあのコルベールという教師。あの男が見せた炎の蛇は感嘆に値する。
 その時の光景を思い出し、『彼女』は脳裏に流れる冷汗を拭った。
 深くかぶったフードから一瞬覗き見えるその顔は―――トリステイン魔法学院・学院長秘書、ミス・ロングビルその人だった。
「まあ、厳しいのは覚悟してたけどさ」
 不確定要素も多くなった。特にあの使い魔の少年。異質な能力を持っていたが、それだけに得体が知れない。まだ底がありそうだ。
 そして、その主たる女子生徒。あの魔力量ははっきりいって脅威だ。
 まだ制御ができないようだが、もたもたして時間を与えていたら案外あっさりと化けるかもしれない。
 そうなれば、あの『めぎどーらうんちゃらー』をマトモに使われたら、自分の得意魔法で生み出す『ゴーレム』などひとたまりもないだろう。
 引き返すという選択肢はなかった。これだけ時間をかけて、それを無駄にするなどということは彼女の矜持に触れる。
 それらの事実と、盗賊―――『土くれ』のフーケ―――としての経験からくる、言わば『勘』が彼女の行動を早めさせたのだった。
「……ま、なにがなんでも今すぐどうこうってワケでもないけどね」
 外側からの調査は既に何度も済ませてあった。今夜ここを訪れたのは、再確認のためだ。
 本塔の外壁には物体の損傷・劣化・変化を阻害する『固定化』の魔法がかけられている。これでは外壁の破壊も難しい。
 自慢の『ゴーレム』を試してみたくもあるが、その時生じる騒音を考えれば危険な賭けであることは間違いない。
「やっぱり、もう少し探りを入れてからにするか」
 そう結論を出し、ロングビル改め『土くれ』のフーケが踵を返した時、それは起こった。
 まず最初に聞こえたのは爆発音、そして地鳴り。
「……はっ、私の『勘』もまだまだ捨てたもんじゃないね!」
 フーケが見たものは爆煙、そして爆光の残滓と思われる『紫』色の燐光。
 その中から、決して破壊されないはずの壁に亀裂が入っているのが見えた。

「……あちゃ」
「あちゃ、じゃないわよ……」
 ルイズの特訓に付き合っていたキュルケが頭を抱える。
「『小出し』にできるようになったのはいいけど、どんだけノーコンなのよ。
 射線と距離を意識しなさいって言ったじゃない。漠然とイメージしてるだけじゃ駄目なのよ」
「わかってるわよ!」
「わかってない! アレどーすんのよ!」
 キュルケが指差す学院本塔の壁には、明らかにルイズの魔法が原因と思われる亀裂が走っていた。
 タバサが不思議そうな―――しつこいようだが表情は変わらない―――顔でそれを見つめている。
「……?」
 『固定化』がかかっている以上、単純な破壊力では亀裂など入らないはずだ。
 だというのに、アレはどういうことか。常識を覆すほどの破壊力―――例えば先日の教室破壊のような―――があれば話は別だが
 今の半失敗魔法にそれだけの威力があるとは思えない。
 番長も額に巨大な汗マークが見えそうな表情をしていた。流石に昨日の今日でコレはまずい。
 しかし、さらに『まずい』ことが起ころうとしていた。
「な……なにアレ」
 最初に気付いたのはルイズだ。次いでキュルケ・タバサ・番長が同時にそれを見る。
 3人が一様に、本塔の斜め下方の位置に巨大な人影を見た。
「……ゴーレム」
 目検討で高さがおよそ30メイルはあるだろうか。
 タバサによって正体が明らかになったゴーレムは、巨大な腕を振り上げると壁の亀裂に拳を叩きつけた。
 壁に人一人通れるくらいの穴ができる。その穴に人影が飛び込むのが見えた。
「ちょ、あれって……もしかして……」
 今日の授業の前に、生徒達はシュヴルーズからある警告を受けていた。
 風邪をひいたらしいシュヴルーズの少々枯れた声は、それでも真実味を帯びたものだった。
「『土くれ』のフーケ……?」
 キュルケがそう呟いたとほぼ同時に、ルイズが番長を振り返る。
「いくわよ!」
 ルイズの考えを読み取り、番長が腰を上げる。
「いくってどこによ!」
「現場に決まってるでしょ!」
 言いながら、ルイズと番長は駆け出した。
「現場って……行ってどーすんのよ! それより誰か読んだ方が……」
「ちんたら人呼びに行ってたら逃げられちゃうわよ!」
「だからってアレ相手にただ突っ込んだって……! ああもう! 少しは考えなさいって言うのよ!」
 そう言いながらもルイズに続くあたり人付き合いの良いキュルケである。

「……来たわね」
 フーケは穴の中から、走り来る4人を見ていた。
 もとより爆発が起こった時に、その犯人を確認している。
 学院の生徒3人にその使い魔が1人。その中にルイズと番長がいることに内心舌打ちをしたが、
 ゴーレムがいれば時間稼ぎくらいはできるだろう。
 残りの2人はキュルケとタバサと言ったか。2人共トライアングルの実力者だそうだが所詮は学生、
 経験においてコチラに一日の長がある。フーケはそう思っている。
 それに飛べるのはあの2人だけのはず。万一ゴーレムを瞬破されても学生2人ならなんとでもなるはずだ。
 そう考え、フーケは搭の中に姿を消した。

「これでもくらいなさいっ!」
「って、だからアンタはイキナリ!」
 ルイズが杖を振るう。キュルケの足元で爆発が起きた。器用に避けるキュルケ。
「だからっ! なんでアンタはそんなノーコンなのよ!」
「……ちっ」
「ち……ちって言った? ちって言った? ねぇ! 今ちって言ったよこの子!」
「うるさいわね! 魔力が暴れるから制御が難しいのよ!」
「嘘だっっっ!」
 緊張感がないんだか余裕があるんだか。
 番長が再び大玉の汗を浮かべた。
「2人とも、賑やかしはそれくらいでいいよ。ゴーレムがコッチに気付いた」
 ゴーレムがゆっくりとこちらを向き、番長たちに立ちふさがる。
「見てなさい、お手本を見せてあげる! 【ファイアーボール】!」
 キュルケの杖から、火球が灼熱を僕に宙を飛ぶ。
 ゴーレムに火球が当たると、激しい爆発とともに肩の部分がえぐり取られた。
「どうよ!」
 しかし、それをキュルケが確認する間もなく、えぐれた肩はみるみる修復されていく。
「うそ!」
「自己修復するのか? ……やっかいだな」
 再生能力を持つ敵とは番長も以前戦ったことがある。
 赤子のような本体が、どこかできいたことのある呪文(?)を唱えると、外装が修復されるタイプだ。
 そのシャドウは、本体である赤子が再生を行っていた。
 このゴーレムが自己修復するにせよ術者が修復しているにせよ、単体の生き物でない限り
 近くに再生のための魔力を供給している術者がいるはずだ。
(塔の中か……?)
 『エネミーサーチ』もどきには何の反応もない。
 どうやらコレは、自分かルイズ周辺のごく限られた範囲にしか効果がないようだ。
「バンチョー! 危ない!」
 ルイズの声に思考を切り離す。眼前にゴーレムの拳が迫っていた。
(しまった……!)
 この番長、戦いの中で戦いを忘れていた。
 どんなに強力な能力を持っていようと、使いこなせなければ無いものと同じだ。
 その点で言えば、今の番長はルイズとなんら変わりがない。
「くっ!」
 まだギリギリかわせる。
 そう考え飛びのこうとした直後、番長は自らの反射神経に急ブレーキをかけた。

 ルイズがゴーレムの拳の進行範囲内にいる!

「バンチョー!」
 しくじった。
 八十稲羽町の事件が終わって安堵し過ぎたか? ここへ来て皆に持て囃され増長したか?
 いずれにせよ、番長は油断した。油断して相手を『見る』ことを怠った。『準備』を怠った。
 ペルソナを悠長に選んでいる暇はない。番長は咄嗟に意識の『眼』についたペルソナを『選択』した。
 ゴーレムの巨大な拳
 衝撃、そして重圧。かろうじて防御したが、ミシミシと腕の骨が悲鳴を上げている。
 クー・フー・リン。物理攻撃に耐性を持つペルソナだが、流石にこの巨体と重量からくる打ち下ろしには限度があった。
「ぐうっ!」
 はたして、番長は吹き飛ばされた。なんとか力の方向を逸らすことには成功し、ルイズは無事だ。
 だがその代償も安くはなかった。右足首に激しい痛み。負荷に耐えきれなかったようだ。
 そして二激目―――かわそうとして右足の激痛が邪魔をした。迫り来る巨拳。
 いかに物理耐性を持っているとはいえ、大地とサンドイッチにされればミンチよりひでぇ。
 なんとか足掻こうと、番長が手を伸ばす。しかしその手は芝生を毟るだけだった。

 絶体絶命。ルイズがこの先の惨劇を想像し目を瞑った瞬間―――

 その手は何者かに体ごとさらわれた。番長の体が空高く舞い上がる。
「キュイ!」
(……ドラゴン!?)
 番長は、その手をさらった、命を救ってくれた者を見てそう驚いた。
 番長の想像よりいくらか細見だが、大まかなシルエットは幻想に住まうドラゴンそのものだった。
「君が……助けてくれたのかい?」
「キュイキュイ!」
 そのドラゴン(仮)は、その通りだと言わんばかりに自慢げに胸を張って鳴いた。
「そっか……ありがとう」
「……バンチョー! 今!」
 再び鳴こうとしたドラゴン(仮)の声を、珍しいタバサの大声が邪魔をする。
 下ではタバサの『風』が激しい竜巻が巻き起こしていた。
 風圧と、その衝撃がゴーレムの体を削っていく。順次再生されていくが破壊と再生の速さは完全に同等。
 なによりその荒れ狂う暴風により、ゴーレムは身動きがとれずにいる。
「そうか……よし!」
 番長は瞬時に『3人』の意図を理解した。
 ルイズ・タバサ・キュルケはゴーレムから少し離れた位置で取り囲んでいる。
 その距離はおよそ15メイル。ゴーレムを中心とした直径で『30メイル』だ。
「ペルソナ……ルシフェル!」
 青白い閃光とともに現れたる大天使。その光景にドラゴン(仮)が驚いて番長を放した。
「キュイ! しまったのね!」
 番長の体が重力に捕らわれる。だがかまわない。
「『メギドラオン』!」
 爆光・爆音・爆風。荒れ狂う力の奔流が、全てを無に帰さんと咆哮をあげる。
 後に残ったのは、番長が前言した通りの30メイルのクレーターであった。

 [BGM : Reach Out To The Truth -First Battle- / 目黒将司 / Persona4 Original soundtrackより]

「ありがとうみんな、助かった」
「……キュルケの指示」
 そう言ってタバサがキュルケを指差した。
 あの竜巻は物凄かったが、どうやらチームプレイは苦手らしい。
「あのドラゴンは、タバサの?」
 尋ねながら番長は自分を救ってくれたドラゴン(仮)を見上げる。
 ペルソナ召喚に驚き、一度ドラゴン(仮)は手を離してしまったが、番長が地面に激突する直前
 器用に落下スピードを殺しながら再び番長をくわえ上げてくれた。
 ルイズには自分、キュルケには火トカゲ、ならば『彼』はタバサの使い魔ということだろう。
「……シルフィード」
 タバサはコクンと頷きながら、『彼女』を紹介した。
 なんでも『竜』の名は冠するが『風竜』というドラゴンとは別の生き物らしい。
 あと、彼女はメスらしい。これは失礼と頭を下げると、シルフィードは気にするなとばかりに「キュイ」と鳴いた。
「でもさっき、なんか喋ってた気がするんだけど……」
 その言葉にハッとしたように―――(略)―――タバサは振り向いたが、暫く考えたような様子の後、
 自分の唇に人差し指をあてた。内緒にしてという意味だろう。
 秘密にする理由が気になったが、なにせ命の恩人のことだ。番長は黙って頷いた。

「まあ、私にかかればこんなものよ」
「ああ、ありがとう。流石の機転だったよ」
 その言葉にキュルケが胸を張る。たわわな胸が、慣性に、負けて、揺れた。
「その前の【ファイアーボール】は役に立たなかったけどね」
 ルイズが何故か自分の胸を隠しながら悪態づいた。
「あら、勢いだけのノーコン『めぎどらほにゃらら』よりましよ」
「なによ!」
「なにさ!」
 こんな時でもいつものノリなあたり、実は仲が良いんじゃないかと番長は思う。
 だけど、とりあえず『メギドラオン』の名前くらい、いい加減に憶えてくれ。
「2人とも、そんなことやってる場合じゃない。フーケ……と決まったわけじゃないけど、盗賊を追わないと」
 番長が傷の痛みに耐えながら、2人を制止する。
「あ、そ、そうだった!」
 ルイズは本気で忘れていたようだ。
「でも、バンチョー、怪我は?」
「ん? ああ、これくらいなら……」
 いつもの様に青白い光を握りしめると、番長の体の擦り傷や切り傷が瞬く間に塞がっていく。
 右足に僅かな痛みが残っているが、残痛というやつだろう。問題はない。
 番長の背中で僧衣を着た骸骨の姿が浮かんで消えた。
「……本当に瞬時に治るのね」
 ルイズが感心したような、改めて驚いたような、そんな顔で息をのんだ。
「……準備おーけー」
 タバサがシルフィードの傍で手招きをしていた。
 本塔の『穴』は、通常の階層でいうと三階から四階の高さにある。
 どうやら本来は、飛べないルイズと番長のために『彼女』を呼んでくれていたようだ。
 番長はシルフィードの背に乗ると、優しく首筋を撫でた。
「ありがとう。よろしく頼むよ」
 シルフィードはうっとりしたように顔を上げると、まかせておいてとばかりに「キュイ」と鳴き、その大きな翼をはためかせた。




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