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たった一人の監視者-02


chapter6

 “ロールシャッハ記 十二月五日”
 “鳥の骨の葬儀が終わってもアンリエッタは嘗ての王宮に居座っている”
 “あれの気が変わらない内に話を進めてしまわなければならない”
 “鳥の骨に手紙を通した連中を探した”
 “ここ数年で無様に膨れ上がった外国人居留街。屯するごろつき共が口を割った。ガリア商館で鳥の骨と使者が会っている”
 “商館の荷役夫は指を三本折るまで我慢していた。口止めされていたと見ていいだろう”
 “使者はトリスタニアの司教館で受け取ったと言っている”
 “この裏に居るのはガリアか? それともロマリア?”
 “あるいは両方かもしれない。私はやるべきことをやるだけだ”



 夜の帳が落ちて夜灯りがまばらに町を浮かびあげる。
 その中でぽっかりと暗い区画があった。
 ジュノー管区。トリスタニアの信仰を守るここは聖堂寺院、修道棟、司教館が立ち並ぶ場所。
 そこはゲルマニアに国が呑まれても尚以前と変わらぬ自治性に守られていた。
 ゲルマニアとて信仰と戦う程馬鹿ではない。だが、信仰から戦いを挑まれた時、否やと言うことは出来るだろうか?

 マスクとローブに身を包むルイズは音無く司教館に近づく。
 裏口の鍵は閉まっていたが、片手を鍵穴に添えてそっと一言呟く。
 錠前は泡の弾ける音を立てて抉れた。
 館の中を進み、ロビーに出た。暗がりの中、天井のステンドグラスをルイズは透かし見る。
 聖人が少年を抱き、後光を背負って立っていた。

 “ブリミルは人を救ったかもしれない”
 “だが、弟子は人を餌に育つ豚だ”

 司教の部屋へと続く廊下を歩く。侍従や丁稚坊主が起き出すような気配はまるでない。
 階段を昇り、部屋から灯りが漏れているのが見えた。
 手首の具合を確かめて、ドアに手をかける。一気に開いて中に飛び込んだ。
 背を丸めた二人の男が卓を挟んで椅子に乗っているのがルイズには見える。
「司教カレンドボー、並びに司教ストレハン。お前等に答えてもらうことがある」
 二人の司教は振り向くことなく、身じろぎもしない。
「鳥の骨を手紙や使者で懐柔したかったらしいが、何をするつもりでいるのか口を割ってもらう」
 と、ルイズは一人の肩に手をかけて、一度身体を硬直させた。

 司教の身体は冷たくなっている。
 床の影には酒瓶が転がり、その匂いはマザリーニ宅跡で嗅ぎ取ったそれと同じだった。
「鳥の骨と同じ……!?」
 突如、窓から刺すような烈光が飛び込む。
〈マスク・ゼロ!〉
 外から拡声の魔法で誰かが呼びかけていた。
〈ストレハン司教、並びにカレンドボー司教殺害の容疑でお前を捕縛する! 抵抗は無駄だ。館は既に包囲している。六十秒以内に出てこなければ我々は〉
 外部者の口はその時謎の爆発が起きて顎骨共に砕けた。
 続けて発光の魔法で館を照らしていた者たちが立て続けに爆発を起こして倒れていく。
 館は再び夜陰に落ちた。

 窓から外を打ち抜き、廊下へとルイズは足を運ぶ。
「ふん。衛士崩れが……?」
 足元で空瓶が転がってきてルイズの足に絡む。
 拾い上げた瓶のラベルが目に入った。
 それを見てこの事件の裏が誰か、ルイズの脳裏に確信が走った……。

 廊下を多数の足音が近づく。金属の擦りあう不気味な音が伴った。
 マスクの文様が刻一刻と変化する。廊下からは鬨の声すら上がっていた。
「準備はいいか、皆の者!」
 それに合わせてルイズが呟く。
「来なさい。相手をしてやる」

 犯人の立て籠る部屋に近づいた瞬間、市衛士達の前で部屋の壁が吹き飛んだ。その欠片の大なるものが隣の首を千切ったのを、一人の市衛は生涯忘れなかった。
 次に飛んできたのは人間の体だ。砂袋のように重い死体が人垣となぎ倒し、最後にローブを纏った影が倒れた者を固い靴で踏み潰す。
 顔を上げたローブの表情は不気味に蠢動していた。
 マスク・ゼロが近くにいた衛士の胸倉を掴む。その者は風船を割るように乾いた音を立てて弾けた。
 血と肉と骨の雨が廊下に溢れる。
 砕けた人垣の間をマスク・ゼロが走り抜け、突きあたりの窓を破って道路に落ちた。
 石畳を転がるマスク・ゼロを待機していた衛士達は取り囲む。
 抵抗が激しかった。腕が飛ぶ者、首が折れた者が多数出てしまった。
 だが、マスク・ゼロは捕まった。ひどく汚れたマスクとローブをひき剥がし、四肢を縛り上げ、その顔を覆うマスクを剥ぎ取った。
 素顔は、可憐だった。混じりのない桃色の髪、形のいい輪郭に、大きくて綺麗な目を持っていた。だが、その場にいた全員がそれと等しく恐れを抱く。
 マスクを取られた怪人が叫ぶ。

「私の、『顔』を返せぇぇぇ!」

 それはマンティコアの咆哮のように市衛達の心を凍らせるのだった。



 捕らえた怪人を鉄馬車に乗せ、市衛の長はあるある一団に敬礼した。
「今回の通報、並びに協力を感謝します」
「これも始祖の導きと試練でありましょうや。我々は偶々この管区に居りましたので」
 答えた者らは衛士達と同じか、それ以上の武装を纏っている。
「ロマリア聖堂騎士団の皆様には、追って感謝状と喜捨を行うよう取り図らせていただきましょう」
「それはそれは。お心遣い痛み入ります」
 聖堂騎士達は神妙に答えるだけだった。


chapter7

 子供時代を過ごした部屋を今見て、何度目か知れない過去へ旅立っていたアンリエッタは、扉を打つ音で現実へ帰った。
「アニエスです」
「入りなさい」
 主を訪ねる従僕は手に一枚の紙を持っている。
「御所望の物が手に入りました」
 それは二十サント四方程の紙にびっしりと固い自体で文字が刷られている。
「トリステインにもありましたか。『印刷』の流行は凄まじいですね」
 何年か前にゲルマニアで発明された廉価な印刷機が、トリステインにもある事にアンリエッタは今更驚かなかった。
 手渡された印刷文章……市井では『新聞』というらしいそれには大きな文字でこうある。

  “怪人、司教殺害でついに投獄へ”
  “『マスク・ゼロ』と呼ばれた通り魔が先日、司教館にて二人の司教を毒殺した罪で、市衛達がこれを捕らえる事に成功した”
  “マスク・ゼロは数日間チェルノボーグで監察後、聖職者殺害の定刑である四肢引裂き刑が適用されると思われる”

 虚実定かならぬ文句が続く文章を眺めてアンリエッタは顔を上げた。
「衛士館に手紙を出します。マスク・ゼロと面会させて欲しい旨を伝えます」
「意が通るものでしょうか」
「やってみなければ分からないでしょう」
 ペンと紙を取り出す傍らでアンリエッタは何か抑えた言い方をする。
 手早く書かれた手紙を持ってアニエスが出た後、一人アンリエッタは己を不思議に思っていた。
(面会した所で私は何をしたいのだろう)
 自分が何をしているつもりなのか、アンリエッタは訳が分からない。
 それは久しくなかった衝動が行った行動だった。
(仮に、ルイズが本当に司教を殺したのだとしても、『毒殺』ではないと思う。それはルイズのやり方ではない……と思う)
 遠くで柱時計が鈍い時を告げた。
(ルイズはもしかしたら誰かに罪を着せられたのかも知れない)
 不意に上げた視線の先、窓の向こうの空が晴れ始めている。

 アニエスの帰宅はやや遅れた。アンリエッタは軽い食事を済ませ、静かに奥まった一室で待っている。
 報告一番、アニエスは客人を入れる許しを求めた。
「ラ・ヴァリエール公をお連れしました。衛士館の前で、こちらと同じ用向きでおられましたので」
 従僕の手回しに主は快く許す。
 別室にいた客人が部屋に招かれた。
 ラ・ヴァリエール公爵家、現当主エレオノール。
 妹によく似た凛と放つ眼差しが伏しがちにアンリエッタへ向けられていた。
「帰郷に際し目通りに参らず、この様な形になりました事を恥じている次第です」
「恥を晒しているのはお互い様ですよ。石持て追われないだけ私は幸運だと考えていますから」
 トリステインの現状を作った遠因を背負わねばならない身として、それは互いを傷つけるものだった。
「ルイズに会われに行ったそうですね」
「はい。……謝絶を受けました」
「では私の手紙も通らなかったのでしょうね」
 傍に控えたアニエスは答える。
「法務官は上意によって何人の面会も受け付けられないと」
「高等法院が押さえているということですね」
 エレオノールが苛立ちを僅かに薫らせていた。
「ヴァリエール公。今の法院長はどなたですか?」
「リッシュモンが未だ座を占めております」
「そうですか……まだ、あの者なのですね」
 旧臣の中で、今なおトリステイン中枢にいる者が良心に恥じぬ者などと、アンリエッタも流石に思ってはいない。。
「あれは国法を金で切り売りする輩です。そうやって今回も手を回しているのでしょう」
 伏せたままエレオノールがそう言うのを聞いて、アンリエッタは返した。
「貴方はルイズの罪を認めてはいないのですね」
「これでもまだ市中に口を聞く者がおります。殺された司教には黒い噂が着いていました。……あくまで噂ですが」
 ルイズなら噂から真実に変えて堂々と曝しただろう、とアンリエッタは思う。
「ヴァリエール公は何故ルイズに会いに?」
「陛下、あれは私の妹です」
 声が必死に、燃えるように震えていた。
「十年前、何故失踪したのか私は知りません。
十年間、何処で何をしていたのかも。あれが本当に通り魔として罪を重ねていたのかなど、私にはどうでもよいのです。私は」
 毀垂れるものが、寄せた襟を濡らしている。
「私はあの子に一目会いたかったのです」
 気丈な女公爵の激情に皇妃は報いたくなった。しかしそれは友人との約束を破る事になる。
 暫しの沈黙が脳裏を逡巡させ、やがて彼女は口を開いた。
「……私は貴方に謝らねばなりません」
 ルイズと数年前から秘密の交際をしていた事を明かし、こう続けた。
「連絡はしないようにと止められていました。いずれ自分で始末をつけると言って」
 その告白をエレオノールは呆然と聞いて、開かれた目がアンリエッタに注がれている。
「恨んでくれて構いません。ですが後悔もしません。彼女の友情に報いたかったのです」
 ルイズの姉は瞼をぬぐって一度、深く頭を下げた。
 吐き出したい幾百の言葉を押しつぶす。彼女とてルイズとアンリエッタの友誼は知っていたから。
「無力です。私は」
 アンリエッタは瞠目する。面会を止めた者と司教を殺した者には繋がりがあると感じる。それはマザリーニにも同様だろう。
 背後で時計が新たな時を告げた。
「ならば我々は無力なりに力を尽くさねばなりません」
 そうエレオノールに言ってアニエスを呼び寄せる。
「何でしょうか」
「私の名前と現有の資産を担保に、ゲルマニアの商館から引き出せるだけの金子を調べなさい」
 アニエスとエレオノールが戦慄した。
「但し、あくまでも秘密裏に。出来るだけ早く頼みますよ」
「陛下、それは」
 困惑するエレオノールに、アンリエッタは力強く言い放つ。
「沈黙だけで友を遇する時期が過ぎたと思っただけの事です」
 それにただエレオノールは首垂れた。

 金子を集めるのと口利き役を選ぶのに三日、それを使ってルイズの面会に辿り着くのに四日、アンリエッタとエレオノールは費やした。

 ルイズとの面会日は十二月十二日。
 処刑日の二日前だった。


chapter8

 魔法で強化された硝子越しで見るルイズの素顔は、以前の面影とそれ以後の疵跡が混ざって酷く崩れている。それへの憐憫を制してアンリエッタは口火を切った。
「エレオノール殿が来ていたわ」
「そう」
 木枷と幌で身を包んでいるルイズはしかし、興味を払う素振りを見せなかった。
「この事件についてじっくり考えたわ。寄り付く犬を蹴りながら」
 長く見て居られない程ルイズの目は美しかった。
「司教を殺した毒は酒に入っていた。鳥の骨のもね。司教の側には空き瓶が残っていて、ラベルが読めたわ」
「それが何か?」
 二人しかいない面会室に声が響く。
「司教達は祝杯を挙げて居たんだろうと思う。あの連中は自分を特別だと思っているから、ただの酒は飲まない。……ラベルには聖別印があったわ」
 それはロマリア宗教庁が厳格な管理の元で作っている酒であることを示す。手に入れる為には教皇の裁可が必要な代物だった。
 アンリエッタは気付いた。体温が一気に下がった気がした。
 ルイズは続けた。
「ガリアの連中が協力しているのが妙ね。ガリアの中にも“あいつら”の手が入っているわ」
 “あいつら”が何を表わしているかアンリエッタは気付いていた。ルイズが取り上げた道具立ての仕上がりは、一つの組織の長を示す。

 それはこの世で最も尊き者の代理人のはずだ。

「ルイズ……貴方は」
「教皇の思惑は知らない。それはじかに聞くしかないかわ」
 狂いそうな程、ルイズの瞳は美しい。
「ここを出たいの。アンリエッタ」
 最後にそれだけ言ってルイズは口を閉ざした。

 夜、私室へ下がったアンリエッタはアニエスを呼び出して尋ねる。
「彼女を逃がす事が出来るか、と聞いたら、貴方はどう思うのかしら」
 アニエスは答えなかった。
「差し出がましい口を聞くことをお許しください」
 寡黙な従僕は主を凝視している。その目は侍従ではなかった。
 嘗て修羅場を駆けた戦士がそこにいた。
「陛下はあの者を解き放って何としますか」
 アンリエッタもまたそれを受け止めようとしていた。
 脳裏にはいつの頃か、ルイズに再会した日を思い出せる。
 泥と血で汚れ、声を涸らせた姿がその時、私には雲刺す光に見えた。
 ありきたりの貴族観を打ち捨てて尚、そこに誇り高い貴族のルイズが居る。その事に、当時も今も、アンリエッタは助けられている。
「彼女がハルケギニアに降り立っている事が私と、そしてトリステインの為になるものと私が信じているからです」
 そこに一人の王が立っていた。
 下僕は伏して命を受けた。

 十二月十四日。野原におかれた処刑場へ向けて鉄馬車が進んでいた。四方を何人かの護衛が囲んでいる。
 蹄が土を掘る音だけが聞こえ、誰もが無言である。馬を操る衛士はこの後見るだろう処刑の惨状に憂鬱とするばかりだった。
 だから、林から撃たれた銃砲音で六人のうち三人が落馬するまで、一団は襲撃者を認める事が出来なかった。林から抜刀して飛び出してきた襲撃者が護衛を切り伏せるまで、十五分とかからなかった。
「命までは取らん。馬車は戴いていく」
 短く言って馬車に乗り込むと、襲撃者は道を外れた林の奥へと消える。
 倒れた衛士だけが残された。



 夜を通してアニエスは馬車を飛ばし、ゲルマニアとの国境を越える。そこでようやく馬車の中を覗いた。
 中は不思議な程に静まっている。
「アニエスね」
 覗き窓の影からルイズは言った。
「扉を開けてくれる?臭くてたまらないわ」
 応えてアニエスは鉄馬車の扉をこじ開けてやった。
 ぎしぎしと蝶番が鳴り、奥の影から黒い塊がこぼれて馬車から落ちる。
 両目を見開いたまま固まっている二人の男が横たわっていた。
「減刑したければ言うことを聞けと言っていたわ」
 最後にゆっくりとルイズが降りて来た。
「アンリエッタはどこ?」
「……この先でお待ちになられている」
「そう」
 軽い足取りでルイズはぺたぺたと径成りに歩いて行った。
 アニエスは再度男達を見て、跡を追う。

 男達の骸は奇妙そのものだった。両手の十指が全てあらぬ方向を向き、首筋を縒られた桃色の紙で飾っている。
 何よりも開ききった目が、彼らに降りかかったものを語ろうとしていたが、それは今やわからない。
 前を歩く女性に、アニエスは人生で初めて味わう型の恐怖を知った。



chapter9

 国境付近に点在する廃墟の一つが、アニエスの案内先だった。
 中は閑散として、数える程度の部屋の一つでアンリエッタは待っていた。
「無事のようね」
「仔細滞りなく」
 主従が言葉を交わすと、アンリエッタはルイズに向かった。
「貴方の持ち物です。取り返しておきました」
 手ずから渡す木箱には確かに、ルイズが捕まる直前までの所持品が詰まっていた。
「……マントとローブが無いわね」
「その二つは持ち出す時には処分されていましたから、代わりの物を用意させました。アニエス」
 下僕は答え、部屋を出てどこかへと消えた。
「私にできることは後何かしらね」
 皮肉気にアンリエッタは言う。
「自分の国を取り戻すことね」
 ルイズは荷を漁りながら答えた。
「トリステインに異変が起こった時、ゲルマニアが真剣に手を貸すとは考えられないわ」
 改めた品物をルイズは一つずつ身につける。革のズボン、鉄で裏打ちされた靴、幌を脱ぎ捨てると、引き締まった上体がアンリエッタには見えた。
「私にそんな大事が出来ると思って?」
「やれないと思う事は歩くことすらできなくするのよ」
 鎖網のベストとシャツを着る。最後に腕当てをつけると、ルイズはそこから杖を抜いて見せた。
 手首の曲げ伸ばしに応じて杖先が手首の元から覗くようになっているらしい。
「貴方はどうするつもり」
「リュティスが今年の降臨祭に教皇を呼ぶと聞いている。そこよ」
 即答だった。ルイズの行動は淀みがなく、アンリエッタは反って不安すら感じた。
 アニエスが戻り、その腕にはなめし皮のコートがあった。
「ガリアで流行っているコートよ。これで少しは目立たないでしょうね」
「陛下、御待ちの方が中に入れろと先程から」
 待ち人はアニエスの言葉を切って入ってくる。壮年に入った位の金髪の女性。
「……エレオノール」
 コートに腕を通した格好でルイズは彼女を認めた。
「ルイズ……ルイズ!」
 無表情な妹に姉は飛びつく。
 口からはとめどなく言葉が漏れていた。
「……帰りましょうルイズ。そんな姿にならなくても貴方にはする事があるでしょう」
 くすんだコート姿、顔はすり切れているルイズを見てエレオノールは言った。
 妹はそんな姉の腕を振りほどく。
「……ルイズ?」
 ルイズは荷の中から折りたたみナイフを出し、伸ばし放題の髪を一房切り取った。
「これをカトレアの……ちい姉さまの墓に供えてあげて」
 姉の手に髪房を渡してやると、ルイズはアンリエッタにも荷物の一部を渡した。
 エレオノールは何が起きているのか理解できない。
「……苦労かけるわね」
「……行くのね?」
 うなずき、ルイズは荷の中に残していた頭を覆う黒い紋様のマスクと、コートに付いていたつば付き帽を被った。
 廃墟を出て行こうとする姿をアンリエッタは呼びとめる。
「『ロールシャッハ』」
 彼女は足を止めた。
「また会いましょう」
 片手を振って、その姿はやがて見えなくなった。




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