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萌え萌えゼロ大戦(略)-15


「……はあ……はあ……まずったわね。こりゃ……」
 トリステイン王国の空海の玄関口、港町ラ・ロシェールの裏通りで、一人の若い女が
苦痛に喘いでいた。そこは汚水と埃の臭いが立ちこめ、間違っても若い女がいるような
場所ではない。
 流れ落ちる紅い命の雫とともに薄れゆく意識の中、若い女――マチルダはどうして
こうなったのか考えていた。
「……は……袖にしないで片棒……担いでおけば……良かったのかねぇ……」
 先のトリステイン魔法学院への『土くれのフーケ』襲撃事件の褒賞としてもらった休暇
――彼女にしてみれば自作自演の結果なのだが――を使って義理の妹たちが待つ浮遊
大陸アルビオンへ行った帰りの道中、マチルダは港町ラ・ロシェールで白い仮面を
かぶったメイジの男に声をかけられた。

 夜中を走ることになってもこの町を離れておけば良かったのかもしれない。そうでなくとも
もう少し奮発した宿を取っていれば違ったのかもしれない――けれど、それらはすべて
過ぎたこと。こぼれたミルクはコップには戻らない。結果マチルダは白仮面のメイジと
出会ってしまった――


「……『土くれ』だな……?話が……ある」
 白仮面は平坦な声音でそう言った。マチルダが「人違いじゃありませんか?」と白を
切るものの、白仮面は意に介さない。
「ククク……お前からすべてを奪った王家に……復讐したくはないのか?マチルダ・オブ・
サウスゴータ」
 その言葉にマチルダは驚愕の表情を隠せなかった。そして往来での会話に危険を感じて
人気のない裏通りへと移動する。それが仇になるとはマチルダは思いもしなかった。
「あんた……何者?何故私の名前を?」
「我々は国の将来を憂い国境を越えてつながった貴族の連盟さ……どうだ?復讐したくは
ないのか?マチルダ・オブ・サウスゴータ……」
 マチルダの頬を一筋の薄ら寒いものが伝い落ちる。しかし、それを極力気取られないように
マチルダは言葉を紡ぐ。
「ふざけないでよ。あんた、王家に楯突く気?……まさか……」
 白仮面は笑う。しかし、その表情は一切分からない。
「――そう。革命さ。アルビオンの王家は近いうちに倒れる……
 ハルケギニアは我々の手で一つになり、始祖ブリミルの光臨せし『聖地』を、我らの
手に取り戻すのだ!」
 その言葉にマチルダは言葉を失い――そして不意に笑い出した。
「は!冗談はその奇妙な仮面だけにしておくんだね。私はそんな世迷いごとにつきあえるほど
暇じゃ……」
 マチルダの言葉は最後まで紡がれなかった。なぜなら……白仮面が目にもとまらぬ
速さで間合いを詰め、マチルダの胸を貫いたからだ。
「かはっ!な、何を……」
「……今はまだ機が熟していない……協力しないのであれば……死んでもらうだけだ」
 マチルダの胸を貫いたのは、不可視の鋭く固めた空気をまとわせた杖――『エア・ニードル』の
魔法がかかった杖だ。それがトライアングル・メイジであるマチルダの反撃すら許さず
彼女の胸を貫いていた。そして白仮面のメイジが杖を引き抜き、マチルダのロングビルとしての
仮面でもある伊達眼鏡が地面に落ちた音がしたとき……その姿が幻であったかのように
かき消えた。
 白仮面の姿が消えるとともに、薄汚れた地面に倒れ伏すマチルダ。そしてしばしの間を
置いて地面を紅く染めながらもようやく体を起こし、近くの樽に身を預けたのだった――


「……く……は……。でも、ま、死ぬ前にテファの顔を見られたからねぇ。それにあの娘……
チハ……だっけ?あの娘もいるなら……テファが……ずっと欲しがっていたからねぇ……
『オトモダチ』ってのは……」
 浮遊大陸アルビオンの隠れ里とも言えるウエストウッド村――そこにマチルダの義理の
妹と呼べる少女、テファニアと、内乱で家族を失った戦災孤児たちが暮らしている。
マチルダが若い女の身で危ない橋を渡り続けたのも、ひとえにテファニアと子供たちを
飢えさせないためだ。そんな小さな村に戻ったマチルダを待っていたのは、義妹たちだけでは
なかった。
 さんざん彷徨った末に転がり込んだらしいチハと名乗った少女――それは一言で
言い表せばおびえた小動物、といいたくなるような少女だった。その装いは東方風の
衣装の上から部分的な鎧を身につけたよう……ではあったものの、布部分があちこち
つぎはぎだらけのみすぼらしいもの。ただ、マチルダにはその格好に見覚えがあるような
気がしてはいた。なぜならそれは――ふがくの装いに似ていたから。
「……こんなことに……なるなら……チハに……ふがくのこと、話してやれば……はぁ……
良かったねぇ……」
 そう言ってマチルダは顔を上げる。すでに目はかすみ、そして港町ラ・ロシェールの
裏通りからは空は見えない。アルビオンへ向かうフネも、桟橋はずっと遠く――喉の奥から
こみ上げる熱いものをどうすることもできず、マチルダがそのまま意識を手放さそうとしたとき……
それを邪魔する声が響いた。

「……あーーーーーっ!姉(あね)さんどないしたんやー?えらいケガしとるやんー!大変やー!」

 それは聞き覚えのない訛りの少女の声。そして自分に近づいてくるキュラキュラキュラ
……という鉄帯で床を叩くような音は、先日聞いたばかりの音にそっくり。マチルダが
ゆっくりと顔を動かすと……
「……あかん。あかんって。今動いたらあかん。待っとき。そんなケガ、今すぐ治したるからな!」
 焦ったように言って少女は左手を掲げる。その手には何かが握られているようだったが、
マチルダにはもうそれを確認できるだけの力は残っていなかった。

「ここは愛のパスタ伝道師の出番や!みんなを元気にするんや。アモーレ!アモーレ!」

 少女の言葉に呼応するかのように、手にしたものから緑色の輝きがあふれ出して
マチルダを包み込む――すると、失血死寸前で致命傷だった胸の傷が跡形もなく
消え去ってしまった。

「治ったからって、あんまり無理したらあかん」
 そう言って少女はマチルダに満面の笑顔を向ける。一方、マチルダは自分の身に
起こったことを理解しようとして言葉を失っていた。ぱくぱくと陸揚げされた魚のように
口をしばらく動かして、ようやく言葉を紡ぎ出す。
「……せ、せ、先住魔法?」
「えー?なんやー?うちの『アモーレ!アモーレ!』は、そんな聞いたこともない『魔法』
なんかやないでー?」
 マチルダの言葉に小首をかしげて頭に『?』をいくつも浮かべたような表情をする少女。
よく見ると、少女の姿は猫の耳のようなデザインのピンク色の帽子をかぶった太ももまで
届くストレートのピンクブロンドの可愛らしいもの。格好もおへそが見えるポケットがいくつも
ついたカーキ色の服と同色のホットパンツ、それに赤白緑のトリコロールカラーのマフラーと
ニーソックスに膝まで覆うカーキ色の角張った脚甲を身につけ、顔には絶対合わないような
見慣れない大きな眼鏡が前髪の上まで上げてあり、右手には見たこともない銃身の短い
連装銃、左手にはフォーク――いや、さっき魔法を使うときに掲げていたからこれが彼女の
杖なのだろう――を持っている。さっきの魔法から『水』のメイジなのだろうか、ともマチルダは
思ったが、致命傷から一気に傷跡も残さず全快させるようなとんでもない治癒魔法なんて
聞いたこともなかった。
「でも、間に合って良かったわー。うちがレンティッキア探しにこーへんかったら姉さん
そのまま死んでたでー?」
 そう言って少女はにこやかに笑う。このゆるーい雰囲気はマチルダにとって心地よいもの。
そのため、マチルダはそれまで鉄則のように守り続けていた『警戒心』すら解いてしまっていた。
「そうね。本当にありがとう。貴女、お名前は?」
「んー?うちはイタリアの鋼の乙女、軽戦車L-3のベローチェや。よろしゅーなー。
 ところで姉さん、ここらでうちみたいな格好した猫見ーひんかった?」
 それを聞いてマチルダは得心する。道理で歩くときにチハみたいな音がするわけだ、と。
同じ鋼の乙女でもふがくが空戦型ならチハとベローチェは陸戦型なのだろう。しかし……
「……どうも二人とも強いって感じはしないのよねぇ……」
「んー?何か言うたー?」
「……何でもないわ。助けてくれて本当にありがとう、ベローチェ。私の名前はマチルダ。
残念だけどレンティッキア、だったかしら?とにかく猫は見なかったわ……って、何?」
 何故このとき『ロングビル』ではなく『マチルダ』と名乗ってしまったのか、後になって
考えても分からない。けれど、そう名乗った後のベローチェは心底驚いた顔をしていた。
「ほえー。うちはつくづく『マチルダ』って名前の姉さんに縁があるんやなー。
 うちの知ってるマチルダの姉さんはなー、ほんまに強ーて美人やけど、ものごっつ怖いねん。
けどなー、それ以上に優しいお人やねんでー。うちの作ったパスタ、おいしそうに食べてくれるしー」
 そう言ってベローチェはころころと笑う。自然にマチルダの顔もほころび……ふと視線を
下に移すと、そこにはベローチェと同じカーキ色の服を着た猫が、ベローチェのマフラーと
同じトリコロールの旗を持って立っていた。
「……ね、猫?」
「あーーーーっ。レンティッ……」
 盛大な舌をかんだ音が聞こえた。さっきは言えていたのが嘘のように、ベローチェが
口を押さえてうずくまる。
「あうぅ。さっきは言えたと思たのにー」
 ベローチェが恨めしそうな顔をする。その様子にマチルダが再びくすりと笑った。


 ――一方その頃、トリステイン魔法学院では――

「……はぁっ!」
 緩降下からの気合い一閃。デルフリンガーを抜刀したふがくが、菱形の盾を構え以前と
異なり直線的な構成の鎧に身を包んだ『ワルキューレ』を一刀両断にする。勢いも
そのままに再び高度を取るふがく。その様子にギーシュが嘆息する。
「……こうも簡単に一刀両断にされるようじゃ、ぼくもまだまだだなぁ……」
「何言ってるのよ。前に比べたらかなり進歩したわよ。3回に1回は盾で受け流すじゃない」
 そうギーシュを慰めるのはモンモランシー。
「最初は盾を構える暇もなく斬り飛ばされていた。次は今のように盾ごと。材質を考えると
それだけでもすごい」
 タバサも同じくギーシュをフォローする。
「そうね。『ヒダンケイシ』だっけ?装甲を傾けると攻撃を受け流しやすくなるってアレ。
ふがくにそれを聞いてから貴方の『ワルキューレ』もずいぶん進歩してるわよ……防御に
関しては、ね」
 キュルケも二人と同意見。実際、ふがくにデルフリンガーの試し切りを依頼されてからと
いうもの、ギーシュの『ワルキューレ』は格段の進歩を遂げていた。
「……あれでもうちょっとデルフの見栄えが良ければわたしも文句はないんだけど……」
 ただ一人、ルイズだけが溜息を漏らす。ルイズにとっては『ワルキューレ』の進歩よりも
自分の使い魔が錆びた魔剣を使っていることの方が気がかりだったのだ……

 もとよりギーシュもただの試し切りの麦藁束代わりになるつもりなどなかった。剣ならば
間合いも上等。ならば隙あらば一撃――先の決闘の雪辱を果たすべくその申し出を受けた
ものの、結局はほぼなすすべなく一刀両断の憂き目にあう。一方のふがくも銃撃や爆撃とは
異なる重心移動を試しながらなので、ほぼ姉のレイのまねごとのような機動はどことなく
ぎこちない。
「さすがにレイの『絶刀・主翼切』のようにはいかないか……」
「……いや、俺はさすがに軌跡に花びら飛ばしたりはできねーし」
 ふがくのつぶやきに冷静に突っ込むデルフリンガー。相変わらず錆びた刀身は、傍目には
何を考えているのかうかがい知ることはできない。
「しっかし、あの坊主もやるねぇ。あんまりな有様に見かねた相棒からちょっとヒントもらったら
3日でこうだ。
 相棒、さすがに斬撃弾かれたときには焦ってただろ?」
「ちょっとは、ね。元帥の末っ子って言うだけはあるわ。やっぱり蛙の子は蛙ね」
 ふがくは地上に聞こえないように答える。下手に妙な自信をつけさせたら元も子もない、
というのがその理由だ。それでも被弾経始など概念すらないこのハルケギニアで、
その概略だけ教わって3日で実装してきたギーシュの応用力と努力にはふがくも脱帽もの
だった。
 これで効率的な生成方法と確実な運用まで確立できたらギーシュの『ワルキューレ』の
防御力はそれこそ上位のメイジをもしのぐものになるだろう。それは間違いなく彼の発想と
努力の賜だ。
「とはいえ。対地はギーシュで訓練できるけど、本音は対空の方がやりたいのよね……」
 対艦訓練は最初から諦めているふがくがそう言って視線をタバサに移す。
しかしアイコンタクトで『無理』と返す様子にふがくが軽く溜息を漏らした――


 ――同時刻――

 朝露輝く街道を豪奢な装飾が施された四頭立ての藤色の馬車が多くの護衛に守られて行く。
陸だけではなく、上空にも幻獣グリフォンに騎乗した魔法衛士隊が何人たりとも通さぬ
守りを固めている。馬車に掲げられた百合を象った紋章は、トリステイン王国のもの。
それに並ぶ聖獣ユニコーンと水晶の杖を象った紋章は、この馬車にトリステイン王国の
王女アンリエッタが御座していることを示していた。
「ここは静かなのね。小鳥のさえずりが聞こえてくるわ」
「自然豊かな山の中ですゆえ」
 カーテンを上げた窓から、まだうら若い少女の声が聞こえる。それをたしなめる男の声は、
まだ平静を保っている。
「まぁ!美しい花がたくさん咲いていますわよ!
 川の水もとっても綺麗だわ!」
「姫殿下!」
 窓越しの絶景に思わず身を乗り出す少女。それを男が強くたしなめた。
「カーテンを下ろし、奥へお座りください。
 身を乗り出すことなど王女のすることではありませぬ!」
 法衣を身につけ、帽子をかぶった老年に見える男――トリステイン王国宰相、枢機卿
マザリーニ――が、純白のドレスに身を包み大きな青い宝石で飾られた銀のティアラを
身につけた少女――王女アンリエッタ・ド・トリステインその人――を強くたしなめた。
マザリーニの口調にアンリエッタは小さく溜息をつく。

「いいじゃないの少しくらい……ゲルマニアではおとなしくしていたのですから」
 アンリエッタが小声で愚痴る。その様子は臣民から『トリステインの可憐な花』と称えられる
王族としての威厳と美しさを兼ね備えた姫ではなく、17歳という年頃の少女そのもの。
しかし、それはマザリーニの耳にしっかりと捉えられていた。
「いいえ!
 姫殿下には常に『政治と国』を頭に入れておいていただきたい!そもそも……」
「もうやめて!やめてちょうだい!」
 マザリーニの諫言をアンリエッタはきっぱりと拒絶する。そしてマザリーニが沈黙したのを
見計らって、アンリエッタは窓から外に目を向けたまま言葉を紡ぐ。
「……そのお話はもうしないで欲しいわ!
 ところで枢機卿。魔法学院はまだ遠いのですか?」
「先ほどワルド子爵麾下の衛士を1騎先行させました。到着は前方に見える橋を渡った
先ですので、今しばらく……」
「ワルド子爵といえば、確か『閃光』の二つ名を持つメイジでしたわね。アニエスから聞いた
ことがあります」
 アンリエッタが腹心の銃士隊隊長の名とともに、自分の空の守りを担っているメイジの
ことを思い出す。アニエス――アニエス・シュヴァリエ・ド・ミランは、平民の身でありながら
5年前のアンリエッタに見出されてシュヴァリエの称号とともに彼女が設立したトリステイン
銃士隊の隊長に封じられた女性。『メイジ殺し』として知られるほどの剣と銃の名手でもある。
 今回アニエスがそばにいないことをアンリエッタは不満に思っていたが、平民上がりの
銃士を今回の大事には同行させられないとしたマザリーニの強い意見に封じられていた
のである。それが故に、予定に入っていなかったトリステイン魔法学院行幸は、アンリエッタの
ささやかな意趣返しでもあった。
「はい。王国の杖たりえる忠臣であり、若くしてグリフォン隊の隊長となった逸材にて」
 マザリーニは自身が信頼する男をアンリエッタにそう紹介する。それはやもすればメイジ、
言い換えれば貴族出身者以外の部下を持ちたがるアンリエッタを掣肘する意味合いも
含んでいたのだが……アンリエッタはそれを意に介さなかった。意図的かどうかは
とにかくとして。

「――ああ、待ち遠しいわ。今日は……『懐かしき心の友』に会えるのですから!
 わたくしのおともだち、ルイズ・フランソワーズ!」



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