あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの使い魔~我は魔を断つ双剣なり~-22


「これが……破壊の杖?」
「確かに杖、みたいだけど……」
「…………」
それは、奇妙な杖だった。材質は金属のように見えるが、何かが違った。酷くズれていた。
しかし、その光沢は確かに金属だった。だから、彼らが理解しうる常識の中ではその杖は金属で
できていると定義付けるしかなかった。
その杖は捻れていた。螺旋の形状だった。それだけならば、杖としてはさしておかしくはなかった。
杖はメイジによって様々である。ギーシュのように薔薇が杖であったり、タバサのように節くれ
立った背丈ほどのオーソドックスなものを杖とするもある。中には、大きな鉄の棒を杖とする
メイジもいると言う。
だが、これは、そういったものから【外れている】、【はぐれている】としか言いようがない。
傍目に見ても、【これ】は【そう】なのだ。
何故、そう思ったのだろうか。何故、そのような事を考えてしまったのだろうか。
ルイズ達には、理解できなかった。だが、そう思わざるを得ない何かが、目の前にある『破壊の杖』
からは発せられていた。
「まあ…………これでお役御免、かしらね」
腰に手を当てキュルケが大きく息をつく。その声には緊張から解き放たれたものが混じる。
「フーケは見つからなかったけど、とにかくこれだけでも持って帰らなきゃ」
ルイズが、チェストに収められた杖を持ち上げ――

RRRRrUUUUOOOOOOOOOOOOOOOhhh―――!!

地鳴りのような咆吼が廃屋を揺るがした。
「な、なぁぁぁぁぁああああ――――っっっ!?」
ギーシュの叫び声に、ルイズ達は外に飛び出した。
「どうしたのよ!? っていうか、今のなに!?」
「あ、ああああ……あれ! あれぇ!」
「あれじゃ分かんないわよ! あれじゃ!」
「だ、だからっ! あ…………あれなんだって! あれっ!」
「はぁ? あれって何言って――――え」
ギーシュが指さした先を見て、キュルケは絶句した。それは同じくその先を見たルイズとタバサも
同様に。
「な――――なによ、あれっっ!?」
それは、途方もなく大きなゴーレムだった。10メイルどころの話ではない。目測、大雑把に見ても
30メイルはある。だが、驚愕はそれだけではない。
「やだ…………なによ、あれ」
「腐っている……」
口を押さえるルイズに、タバサの強張った声が重なる。
腐肉と岩石が入り混じるゴーレム、それが彼女らの眼の前にいた。その腐臭はこの小屋にまで届き、
全員がその臭いに顔をしかめる。
「なんだこの臭い……うぅ、吐きそうだ」
「ほんとね……でも、それより今はあのゴーレムから距離を取らないと。気づかれたら、こっちが
 危険だわ」
「退却」
「ああ、そうした方が賢明だろうね」
全員が首是し、ゴーレムから離れようとする――が。
「待って!」
突然立ち止まったルイズに、全員の足は直ぐに止まった。
「ヴァリエール……? ちょっと、どうしたのよ?」
「アイツ……」
「なに?」
「クザクが、まだ帰ってきてない!」


**


SSSSSSSYYYYYYYYYAAAAAAAAAHHHHHHHHH―――!


腐肉の巨人が吼えた。明確な敵意、殺意、悪意を込めて吼えた。
地鳴りと共に木々が薙ぎ倒され、巨人の身体から溢れ出た腐肉の波が大地を引き裂いて九朔へと
襲い掛かってきた。
「な、なんじゃありゃああああああああああああ!?」
「――ちぃっ!」
跳躍、ルーンによって引き出された身体強化魔術【ブースト・スペル】によって通常の人間では
到達できない距離を九朔は跳ぶ。その距離、凡そ20メートル。
だが、腐肉の津波はその塊から触手を伸ばして追尾ミサイルの如く九朔を追ってきた。
「相棒ッ!」
「刃ァァ――ッッ!」
デルフの叫びに呼応して、刀身を振りぬく。一閃、二閃、三閃、追いすがる触手を空中で切り刻む。
そして着地、刻んだ触手がただの腐った肉の塊になって大地に落ちた。
しかし、触手はそれで終わりではない。腐肉は触手と共に、更にこちらを追ってくる。
数が多い。切り刻むだけでは到底間に合わない。敵を背に振向き、九朔は駆け出した。
「どうする……!?」
思考する。思考する。全脳細胞を総動員して思考速度を最大まで引き上げる。一秒を分割して、
壱百程に分割して思考する。
思考を疾走(はし)らせて、あらゆる手段を検討する。

ケース1:剣閃による、撃退

(却下だ、きりがない)

ケース2:剣聖銃神騎行曲

(これも却下だ。同上、剣撃の効果は極めて薄い)

ケース3:血は灼け、爆ぜる【Blast Blood Warcry】

(…………無理だ。我の全血液を持ってしても、あの巨体は焼き尽くせぬ)

ケース4:ルイズ達と合流、然る後に反撃

(…………それは、できぬ)

あの巨人は、ルイズ達の魔法でどうにかできるものではない。
確信がある。瞳に映る魔力の流れ、それは今は大渦巻き(メイルシュトロム)のように強大。
大渦に小石を投げたところで意味はない。つまり、そういう事だ。
結論、打つ手なし。万事休す。
救いがあるとすれば、あの肉塊の進む速度が遅いというだけ。それだけしかなかった。
「……くそっ!」
吐き捨てる。後ろから追いすがる波をどうにかする手段はない。あの巨人を討つ術はない。


ならば、どうすれば良い?
どうにもならない。
どうしようもない。
だが、それだけで諦めて良いものではない。
では、どうする?

「――クザクッッ!!」

そこにいるはずのない少女の声が、九朔の耳を打った。振向くと、そこにはルイズだけでなく
ギーシュやキュルケ、タバサまでもがいた。
「汝等…………何をしている!?」
「それはこっちの台詞よ!」
「その通りだ。さっきからやたらめったら爆音やらが響いているのに、君は一体何をだな……」
最悪のパターンが、今、目の前に現れようとしていた。
このメンツが揃ったところで、あの肉塊をどうにもできないのは明白だというのに、何故。
「あら、ダーリン? 追いかけてきたのは、正解だったみたいね」
全員が急いでこちらへやってくる。
だが、それは余りにも不味い。今この時にも、あの腐肉の塊がこちらへやってきているのだ。
「来るなっ!」
「え?」
「逃げるんだ!」
それしか言えなかった。だが、それだけで充分だった。

RRRRrUUUUOOOOOOOOOOOOOOOhhh―――!!

巨人の咆吼が、大気を振るわせた。その悪意に満ち満ちたそれに、全員が表情を変える。
「退却」
タバサの呟きに、キュルケも頷く。
「……本当に不味いみたいね。分かったわ、ダーリン」
「え、えっと……」
「アンタも来るのよ、ギーシュ」
「いだっ! 耳を引っ張らないでくれミス・ツェプルストー!」
状況を飲み込めていないギーシュを引きずってキュルケ達が逃げ出し始める。
「クザクッ!」
「ルイズ、汝も早く逃げろ」
「――――嫌よ」
「なっ!?」
その瞳は真剣だった。強情にも見えた。
「やっつけるの、あのゴーレムを」
「な……っ! 何を言っているか、汝! あれはそんな生半可ではない!」
「ウソよ! 昨日は勝てたじゃない! あの怪物を倒せたじゃない!」
「あれとは違う! あの巨人には、その論理は通用せぬ!」
「だから何よ! やってみなくちゃ分からないじゃない! 勝てるかもしれないじゃない!」
「その意味の分からぬ自身は何処からやってくるのだ!?」
「煩いのよ! アンタだって言ったじゃない! 無意味でも足掻かないでいられるかって!」
「……? 何を言って……」
「わたしは……逃げないッッ!」
「――ッ! 待て、ルイズ!」
ルイズが腐肉の巨人へと駆け出す。その背を九朔は追った。
それは九朔の大きな失態だった。九朔は、まだ、ルイズという少女を知らなさ過ぎた。


ルイズは無力だった。
途方もなく無力だった。
昔から、今まで、ずっと、そうだった。
父の失望があった。
母の失望があった。
姉の怒りがあった。
召使の嘲笑があった。
クラスメイトの侮蔑があった。
皆の目が、自分を嘲る。
皆の目も、自分を見下す。
誰一人として、自分を認めてくれない。
誰一人として、自分をゼロだと罵る。
一人の姉の優しさと、友と呼んでくれる姫の優しさだけでそれは癒される事はなかった。
それは、ルイズ・ヴァリエールという少女の魂に刻まれた大きな傷だ。
癒える事のない、深い、深すぎる傷だ。
今までは、ただ傷の痛みに耐えればよかった。
辛くても、悔しくても、知識を得る事で紛らわせた。
別の事象に目を向けることで、ルイズは傷を忘れられた。
だが、今は違う。
大十字九朔という少年の召喚に成功してしまった。
妖蛆を――彼の手を借りたとはいえ――倒してしまった。
無力という傷のかさぶたは剥がれ落ち、再び疼きだしてしまった。
無力である事を恐れる。
無意味である事を恐れる。
自分がただの無力な少女である事に耐える事が出来ない。
認めてしまえば、もう、立ち上がる事が出来ない。
そんなのは嫌だった。
そんな惨めな思いはしたくなかった。
それは恐れであると同時に焦りだった。
そう、焦っていた。
焦りすぎていた。
ルイズ・ヴァリエールは焦っていた。


九朔はすぐにルイズへ追いついた。
「ルイズッ!」
肩を引き寄せ、こちらへ向かせる。その鳶色の瞳は敵意を持って九朔を見すえる。
「離してよ!」
「ド阿呆がッ! 何を考えておる! 汝には荷が勝ちすぎていると言っているのだ!」
「だから何よッ! 離してよ!」
「ええい! 汝は子供か!」
駄々をこねる子供のようにルイズは体をよじり、手を引き剥がそうと躍起になる。
「離してよ! ここで……ここでフーケを倒したら、皆がわたしを認めてくれる! 皆がわたしを 
 ゼロって呼ばなくなる!」
「だからと言って死んでは元も子もなかろうが!」
「うるさいうるさいうるさい!」

「――相棒ッッ!」


デルフの声に、戦慄した。
いけなかった。まったくもって、問題外だった。
反応がほんの僅か遅れた。ルーンによって強化された身体強化では一秒にも満たないはずの隙が
九朔に生まれていた。
「――――――」
眼の前に、道化師がいた。それは、フーケが着ていた道化師の衣装。
だが、それはフーケではなかった。
もっとおぞましい何かだった。
「…………フーケ!」
ルイズが杖を抜く。その先はフーケに突きつけられている。ルーンを紡ぐ声が九朔の耳にも聞こえた。
「止めろッッ! ルイズ――ッッ!」
途方もなく嫌な予感が全身を襲う。止めようとルイズの杖へ腕を伸ばすが、しかし、遅かった。

轟ォ――ッ!

道化師を中心に爆発が起きる。小規模とはいえ、あれを喰らってはひとたまりもない筈。
爆煙が立ち込め、道化師の姿は視認できない。
「や、やった……?」
ルイズの呟きが聞こえるが、九朔の翡翠は道化師がいた地点へと向けられたままだ。
そして――
「うそ……」
煙の中から、道化師はその姿を現した。道化師は健在だった。傷一つなかった。現れた時と
全く変わらず、そこにいた。
「――――」
眼前の道化師が声ない声で哂った。仮面に隠れ素顔は見えないはずなのに哂うのが理解できた。
果たして何度目かの、全身を氷水でもぶちまけられたような悪寒が襲った。
「ひっ……!」
道化師の身体が、奇妙に膨らむ。見る間に身体は腐った肉汁でまみれ、ローブが汚濁した色で
染まる。そして、身体が膨張の限界を超えて弾けた。
「しまっ――」
九朔は言葉を最後まで続ける事は出来なかった。道化師から溢れ出た、質量を超えた腐肉の津波に
その身体が呑まれる。
「ルイ……っ……!」
押し流される肉体。その中でルイズの手を掴もうともがいたが、かすった指先の感覚だけが
全てだった。
「うぐっ……!」
腐肉の悪臭が脳を突く。全身を蠢く肉塊が覆っていく。皮膚に張り付く粘液質の感触が身体の奥へと
侵入するおぞましい感覚が肉体を襲う。
(いかん……ッ!)
この腐肉は、自分を喰らおうとしていた。一つになろうとしていた。同じ肉と成る事を求めていた。
(まずい……これは不味い……ッ!)
剣を握り締める手の感覚はまだある。だが、超重量で押さえつけられては、剣を振ろうにも
拘束されていては、それはまったく意味はない。脱出の手段が封じられた。
(く……そぉ……)
沈んでいく。
腐肉の大海の奥へと沈んでいく。
あの巨人に嚥下されている。
抵抗は無意味、無慈悲に自分の内側へ陵辱者は突き進んできた。
開いた耳の穴から、鼻腔から、眼窩の隙間から、腐肉が流れ込んでくる。
侵入され、意識がどんどんと食い千切られていく。
(ルイ……ズ…………)
意識が断裂、理性的思考が失われる。
穴という穴にしみこむ腐肉が、おぞましいとも思わないほどに。
(――――)
脳内で、音ならない音が鳴っていた。
それはまるで、弔鐘(ちょうしょう)のよう。
今生との別れを告げる音。
(――――)
不意に、意識が、途切れた。


**


――【残酷無惨少女玩弄唄(ざんこくむざんしょうじょがんろううた)】



――ギ………イアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!

――イヤァァァ! ヤメテヤメテ! ヤメテエエエエエエエエエエエエエエエ!!


嗚呼、嗚呼。少女が叫ぶ。
叫ぶ。叫ぶ。燃える生家を背景に。
命の消える叫びが響いている。
ごおごおと。
ぼおぼおと。


――ヤダ……ヤダ、ヤダ………イヤァァアアアアア!!

――イタイタイイタイタイタイ……ウゴカ、ナイデェ!!

――アア……ハァァ……ンアアアアアア!!

――クルシイ、ノ……イタイ、ノ……イヤ、イヤアアアアアアアアアアアアアアッッ!!


見ろ。見ろ。悪徳を見ろ。
聞け。聞け。悪意を聞け。
踊っている。踊っている。
歌っている。歌っている。
皆踊っている。
皆歌っている。


――イヤァ……イヤァァ……

――ユルシテゴメンナサイモウヤメテユルシテユルシテ……

――アァァァァァ! イヤアアアアアアアア!! ヤダアア! ヤダアアアアアアア!!


嗚呼、嗚呼。
男は踊る。少女と踊る。
少女は踊る。男と踊る。
男は踊る。少女と踊る。
少女は踊る。
延々踊る。
踊る。
踊る。
踊る。
踊る。


――ユルシテタスケテタスケテタスケテタスケテクルシイイタイイタイィィ!!!!

――イァァァ……ヤァァ……ヒィッ……イギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!

――ウァァ……アアァァ……イヤァァ……

――ヒュー……ヒュゥ……ハァ……アァ……

――タス……

――ケテ……

――ダレ……

――カ……


「っ…………! ぐぅ…………!」
それは、陳腐ながらも極上におぞましい舞台だった。
それは、たった一人の女を玩ぶ舞台だった。
我はそれを見ていた。
観客席に縛り付けられ、目を見開かされて。
逸らそうにも逸らせず、見せ付けられる。
悲劇。いや、いっそ喜劇だ。
女は陵辱されていた。
女は拷問されていた。
女は奪われていた。
人が思いつく悪意の全てが女に行なわれていた。
吐き気がする。品性下劣にも程がある。陳腐ゆえに何の迷いもない、幼稚な悪だ、これは。
それは、ただ、悪意と悪辣と悪徳を無邪気に詰め込んだ――――
「…………?」
デジャヴ。それをこれ程までないほどに感じる。
そして、これ程までにない怒りを覚える。
何故だ? 何故、我は、怒る?
ただの怒りではない。
普通の怒りではない。
これは胸の奥底が灼けるような怒りだ。
そうだ。これは憎悪だ。
全てを灼く憎悪だ。
だが、何を憎む?
誰を憎む?
ダレ?
そんなものだったか?
そんな存在だったか?
否。
そうじゃない。
そうじゃない。
この憎悪はそうじゃない。
そうだ、これは。
そうだ、これは。
これは……

――正しき、怒り

「ッッ!?」
声、脳に溢れかえる許容量を超える文字とも声ともつかぬ何か。声が喪われ、感覚が喪われ、
ありとあらゆる万物が白失【ホワイトアウト】した。

視界は流転――記憶が逆転――溢れて/零れて/注がれる
痛覚は消失――視覚は亡失――赤/白/黒/藍/鮮烈な虹の色

歯車は/噛み合い/機巧は廻る
廻る機構/押し出す/記憶の瓦落多【ガラクタ】
瓦落多は/成型され/インゴット

復元された記憶はインゴットのカタチで喪失れたそこへとはめ込まれて機構は再起動。
唸る機構はインゴットを取り込み再び一つの紙片と成り書の中に収められる。
そのぺヱジを取り戻し書はその項を開く。

紙片名→【記憶/アーカムシティ/アメージングショー】


「――――がッッ!!」
世界が急速に広がった。
感情が溢れ出した。
記憶が溢れ出した。
その全てが閃光【フラッシュバック】した。

――閃光。それは覇道を往く女性(覇道瑠璃)
――閃光。それは拳の師(ウィンフィールド)
――閃光。それは剛き兄(ジョージ)
――閃光。それは賢き兄(コリン)
――閃光。それは優しき姉(アリスン)
――閃光。それは慈母の如き人(ライカ)
――閃光。それは支える者(チアキ、ソーニャ、マコト)
――閃光。それは学び舎の三銃士(アーミティッジ教授、モーガン教授、ライス教授)
――閃光。それは父(大十字九郎)
――閃光。それは母(アル・アジフ)
――閃光。それは半身(大十字九朔)

そして――魔を断つ刃【デモンベイン】が、閃光の内に見えた。



「…………はは」
嗚呼。なんと、情けない。
嗚呼。なんと、不甲斐ない。
こんな大事な記憶を忘れるなんて。
こんな大事な人達を忘れるなんて。
「まったく―――これでは騎士失格ではないかッッ!」




そして、世界が光を取り戻す。
「エルダー…………サインッッッ!!」
肉体を拘束していた腐肉が、弾け跳んだ。そして、着地。
「相棒!? おめえ、生きてたのか!?」
手に握り締めていたデルフが叫んだ。
「勝手に殺すな」
全身はなんだか得体の知れないものまみれになったが。
「……はぁ。とにかく、ルイズと『フーケ』を助け出すぞ、デルフ」
肩に張り付いた肉片を叩き落として九朔は言う。
「へ? いや、あの」
「なんだ?」
「いやよ…………あの二人、生きてんの?」
「生きている、急がなくてはならんが」
九朔の言葉には、瞳には、一切の揺らぎがなかった。
「相棒が言うんならそうなんだろけど……分かるのか?」
「ああ」
腐肉の通路を見渡す。まるで人の内臓器官のよう――いや、本当に内臓なのかもしれない。
「――――」
瞳を閉じ、血液に刻んだ智識を検索する。チューニング、視覚を調整し、魔力の流れ、霊的な
場のゆがみを知覚できるようにする。
本来、これはマギウススタイルによって獲得できる状態である事を思い出すが、元より半人半書。
これ位は朝飯前である。
「忘れていたがな」
「ん? どした?」
「いや、別に」
しかし、これでとにかくルイズ達の魔力の流れは読めるようになった。見渡すと、血流の
ように全体を巡る不快な魔力とは別に、微かに漏れ出す微弱な魔力が見える。
これは恐らくルイズの魔力だろう。
「近くにおるな」
「そうなのか?」
「ああ」
デルフを鞘に収め、親指を噛み千切る。
「血こそ我が存在。我が魔力の証明。我が魔術の源泉……」
二重螺旋に刻んだ情報を引き出す。
それは、二挺の暴威。劫火と極寒の威を紡ぐ破壊の象徴。
それはネクロノミコンに記された中でも抜群の威力を誇る呪法兵装。
存在力(リアリティ)を極限まで高め、零の可能性をそこに存在せしめる。
流れ出す血液を魔術文字が包み込む。曖昧な魔力の渦が、確固たる質量を得、存在を得る。
そして、九朔は口訣を唱えた。
「血は灼け、爆ぜる」

―――――――――。
―――――――――。
―――――――――――何も、起きなかった。


「ば、馬鹿な…………!?」
もう一度、集中する。記述を選択、式を再構築、魔力を込める。
零れだす血液を魔術文字で包み込み、存在力を極限にまで圧縮、そして顕現せしめるのだ。
「――血は灼け、爆ぜる!」
だが、やはり何も起きなかった。
「我の魔術が……制限を受けている」
ありえない話ではない。ルイズとの契約は身体にルーンを刻むもの。それが何らかの介入となって
自身の魔術を改竄、もしくは制限(プロテクト)をかけてしまったのかもしれない。
「くっ……」
左手に刻まれたルーンを曝け出す。
「解呪(ディスペル)」
そして、九朔は右手を左手に重ねた。
瞬間、
「――ぐぅ!?」
左腕から魔力が逆流した。手が裂け、血が飛び散る。
「解呪も不可ときたか……クソッ!」
こうなっては、使える手段が大幅に狭まる。魔導書でありながら外道の智識が使えないのでは
只の便所紙ほどの価値もなくなってしまう。
「いや……待てよ」
九朔はもう一度デルフを鞘から抜き、左手に握り締めた。
「相棒? どした?」
「――――」
血液に記された記述をもう一度検索する。今度は先程より慎重に、プロテクトを見逃さぬように。
そして、九朔は発見した。
二重螺旋内の厖大な外道の智識は、意味不明なプロテクトと改竄によって使用不可どころか破損と
言って良い状況だった。しかし、ルーンが輝く間――特に、左手に武器を握っていると顕著だ――
幾つかの術式のプロテクトが解除されていたのだ。
これまでも、左手のルーンが輝く時に強化術式【ブースト・スペル】が発動していたが、それも
これが原因だったのかもしれない。
「不幸中の幸いか……」
諦めて、今現在使える呪法兵装を選択する。血を三度(みたび)魔術文字にて編む。
「――吹き荒べ」
音声認識によって反応する魔術文字。流れる血液が血風と化した。
二つに分かれる血風は極めて近い属性を持つ双子(ジェミニ)の魔力。
血風は凶風である。
魔力は禍々しい気配を孕む。
しかし、それは外道の智識によって制御され、呪法兵装として存在を確固たるものにする。
「――顕れ、出でよ」
血風が魔術文字によって、今度こそ質量を持った。
二つの魔力を編んで存在を許されたそれは金属の華、十字剣。
顕現したそれを右手で九朔は掴む。魔力と威力を最大限に溜めて、投擲(スローイング)した。
「飛翔【はし】れッッ!」
言葉は魔術である。
意に従い、威は空を疾走(はし)る。腐肉の臓壁を引き裂き、術者に道を切り開く。
その十字剣の名はロイガーとツァール。
ネクロノミコンに記される、双子の卑猥なるものを冠した双剣であった。




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