あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

PERSONA-ZERO -03 前編

    ~錬金授業における爆発事件においての状況及び顛末報告書~

 去る日、土系統魔法錬金術の授業中、一人の女子生徒による魔力の暴走で
 教室が全壊するとい事件があった。
 ここに、その状況と顛末について報告を纏めるものとする。

                    <中略>

 4)事故の原因と、その責任の所在について。
 この事故の直接の原因は、一女子生徒の魔力暴走によるものではあったが、
 監督官たる担当教諭が前任からの引き継ぎを正確に行えていなかった事、
 及び、授業中に他生徒からの助言を無視し錬金術実験を強行、さらに
 その後の対応を誤った責任が強いものとして、女子生徒の責任は不問、
 また、その責を担当教諭に追わせるものとする。

                                      シュヴルーズ




「と、まあこういうわけじゃ」

 あの事件翌日の放課後、ルイズと番長の2人は学院長室に呼び出されていた。
 当然ながら、昨日の事件について本人たちから事情を聞くためである。

「こういうわけって……どういうことですか!」

 ルイズはここに呼ばれた際、相当な厳罰を覚悟していた。
 何しろ教室を全壊、学院の外壁にも大穴を開けたのだ、
 謹慎……最悪、放校も覚悟していた。
 だというのに。

「不満かな?」

「大いに不満です!」

 だというのに、実際には上記の書簡を渡されて「こういうわけ」である。

 ルイズはプライドが高い。だが、そのプライドに見合う責任感も、また持っていた。
 まあ、時折その責任感が斜め上に吶喊していくこともあるのだが。
 そんなルイズがあれだけの事件の責任を、全てシュヴルーズに押し付けてのうのうとしていられる訳がない。

「ふむ……融通のきかん生徒じゃのう」

 トリステイン魔法学院の学院長たるオールド・オスマンことオスマンは
 困ったような、だけど別にそんなことないような、微妙な表情で唸った。

「それで……ミセス・シュヴルーズはどうなったんですか?」

 処罰を撤回するつもりのなさそうなオスマンと、もとより引くことを知らないルイズを前に、
 泥沼化を恐れた番長は話の方向転換を図る。

「彼女か……彼女はのう……残念ながら……」

 オスマンは俯き、沈痛そうな顔をしながら―――

「クビ」

 親指で首を掻っ切るポーズを取った。

「クビって……!」

「な~んてことはなく」

 脱力。右肩が落ちた。

 条件反射的にオスマンにつっかかりそうになったルイズは、勢いを止められず学院長の机にスライディングした。

「ほっほっほ……若い娘は元気があってええのう」

「が~く~い~ん~ちょ~!」

 擦れて赤くなった顔を、更に紅潮させてルイズが睨み上げる。
 秘書席に座るロングビルが溜息をつく。
 同席していたジャン・コルベールも、なんといっていいかわからない顔をしていた。

「まあまあ……ミセス・シュヴルーズだったらホレ、破壊された教室の修復作業に参加しておるわい」

「彼女に対する処罰はそれだけじゃ。満足かの」

「それだけ、ですか」

「うむ」

 なんというか、これがオスマンの指示なのか校風なのかはわからないが、なんとも寛容な処罰である。
 教室一つ吹っ飛んび、一つ間違えば生徒に死人が出たかも知れない事件だったというのに、
 間接的にとは言えその責任を有する者に対する処罰がそれだけどは。

「処罰とは、罪を犯した者に反省を促すために与えるものじゃ。
 見たところ、ミス・ヴァリエールは十分に反省しておるように見える。違うかな?」

「ですが! それとこれとは!」

「はい。ルイズは十分反省しています」

「バンチョー!」

 横から口をはさんだ番長に、ルイズが叱咤を飛ばす。
 その視線を、番長はどこ吹く風と受け流した。

「なあルイズ。確かに反省すればそれで良いっていうのは、程度次第だと思う」

「そうよ! だから私は……!」

「でも、それをルイズが言うのは、ただの自己満足じゃないか?」

「自己満足って……」

「ミセス・シュヴルーズが自ら責任を被ったのは、ルイズにこのことで心を痛めて欲しくないからだと思う。
 もしかしたら、ルイズの将来を考えてのことかもしれない。
 どちらにしても、ミセス・シュヴルーズには監督責任ってものがある。
 そんなミセス・シュヴルーズの気持ちを、ルイズは踏みにじるのかい?」

「そ、それは……」

 ルイズが項垂れる。

「それでも、どうしてもルイズがなにかしたいんなら、時々ミセス・シュヴルーズを手伝ってあげたらいい。その方がきっと喜ぶよ」

「…………バンチョーがそういうなら」

 あの一件以来。番長に対するルイズの態度が一変した。
 いや、普段の基本的な態度は横暴なご主人様のままなのだが、例えばこんな時、番長の言葉には素直に従うようになった。
 2人で歩くときも、これまでより2人の距離が近い。時には触れるか触れないかの距離にルイズの頭があることもあった。
 もっとも、番長がそれに気付いたとたん、そそくさと距離をあけるルイズではあったが。
 吊り橋効果という奴であろうか。まあ、悪い傾向ではない。

「ほっほっほ」

 そんな2人の姿を見て、オスマンが意味ありげに笑う。

「うむうむ、若いということは素晴らしいのう……そうは思わんかね、ミス・ロングビル」

 そう言いながら、オスマンはロングビルにアイコンタクトを送った。
 ハート型したそれを、ロングビルはペイッと叩き落とす。

「……つれないのう」

 ショボンとオスマンが眉を下ろした。
 老いて益々お盛んとは、このことだろうか。

 そんな中、やや真剣味を帯びた顔で番長が一歩前へ出る。

「じゃあ、この話はここまでということで……本題に移りましょうか」

「……バンチョー?」

 オスマンの瞳に鋭い光が灯る。
 ロングビルとコルベールも驚いたように番長に注目した。

「ふ~む……それも君の力、というわけかな? ミスタ・バンチョー」

「いえ……ただの洞察ですよ」

 この学院長室に入った時から違和感はあった。
 今回の一番の当事者はルイズだというのに、3人の意識は番長に向いていたように思える。
 老獪なオスマンの表情からは何も読み取れなかったが、ロングビルとコルベールがチラチラとこちらの様子を伺っていたことを、番長は気付いていた。

 番長は、探偵でも刑事でもない。ただの男子高校生である。
 だが、八十八町での事件を通じてそれくらいの洞察力は身につけていた。

「直接話があるかはわかりませんでしたが……ちょっとカマをかけさせて頂きました」

「なんとも……侮れん少年じゃのう」

 長い眉にやや隠れたオスマンの瞳が、感心したように見開かれた。

「それで……用件は俺……私の持つ力についてですね? それとルイズの……」

「私の?」

「秘められた魔力について」

「!」

 ルイズの表情が一瞬にして固まる。
 まだ、あの破壊のショックを多少引きずっているのだろう。
 あれからルイズは進んで魔法を使おうとしない。今日の授業でも、理由をつけて実践を拒んでいた。

「ふむ……あの教室を破壊した魔力のことじゃの……」

 オスマンはルイズの様子に気づきながら、歯に衣を着せずストレートにそう言い放った。
 顔を強張らせるルイズ。昨日、自ら進む先に僅かながらの光明を得たとしても、
 それは一歩間違えればまた同じ破壊を生み出す結果になりかねないのだ。

「ミス・ヴァリエール、事実から目をそらしてはいかんよ。逃げるという行為は、自らの未来を否定する行為じゃ」

「わかっている……つもりです」

 それは、昨日番長に言われたことと同じことだ。

「あの事件での事実は2つ。1つはあの魔力で教室を全壊させてしまったこと。
 そして、ミス・ヴァリエール。君に素晴らしい魔力が眠っているということじゃ」

「学院長……」

 ルイズが顔を上げる。
 そこには優しげに微笑む学院長の姿があった。

「あとはそれを使いこなすだけじゃの」

 そう言われてルイズが再び俯いた。
 そうなのだ、いくら強大な魔力を持とうとも、それができなければまたあの破壊を生むだけだ。

「そのことなんですが……私に考えていることがあるんです。
 もちろん、私は魔法について何も知りませんから、的外れかもしれませんが」

 そう番長は前置きする。
 番長はルイズの魔法について、昨夜のうちにある程度考えを纏めていた。
 それは魔法を知らない番長にとって推論に近い、いや推論にすら満たないただの勘レベルである。
 番長は、そうも付け加えた。

「かまわんよ。続けなさい」

「ルイズがあの魔力を制御できない理由……それは成長が足りないからだと思います」

「……? それはあたりまえのことではないかね?」

「いえ、私が言っているのは、魔法の熟練度とか技術とかそういうことではなく……人間、生き物としての自然な成長のことです」

 そう言われて、ルイズは自分の体躯を見下ろした。
 矢印がまっすぐ下に伸びている。まっすぐだ。どこまでも。
 自然と目尻がつり上がる、視線が番長を突き刺した。

「ほっほ……使い魔殿は度胸も一級品じゃのう」

「い、いや、俺……私が言っているのはそういうことではなく……」

 発想が斜め上に飛ぶ娘だ。
 誰も体形の成長とは言ってないじゃないか。

「例えば人は誕生の後、喋る知識を得てから喋れるようになります。立つ力をつけてから歩くことができるようになります」

「その自然な成長が、強大な魔力を制御し得るまでに至っていないと……?」

 番長は静かに頷いた。

 さらわれた奈々子を追ってTV世界へ行った時、そこには『天上楽土』という奈々子の世界があった。
 さらった生田目の世界ではなく、奈々子の世界だ。にも関わらず、奈々子はシャドウやペルソナを生み出していない。

 奈々子は優しい子だ。
 人を思いやる心を持っている。時には父に対し不器用ながらも、正しいことは正しいと言える意思を持っている。
 その奈々子がペルソナを呼べない理由を、番長たちは奈々子がまだ子供だからと推測し結論付けた。
 精神が成長しきっていないせいだと。

「私は、私の持つペルソナの力と皆さんの魔法は同質のものだと考えてます」

「ぺるそな……とな?」

「はい、おそらく皆さんが関心を持っている、私の特殊な能力のことです」

 おそらくすでにシュヴルーズから話は行っているだろう。
 番長は包み隠さずそれを話に加えた。

「ぺるそな……報告にあった教室を瞬時に脱出した能力のことですな」

 コルベールが興味深げに質問する。

「はい」

 ルイズがあの強大な魔力を放出した時に感じた、あの力の流れというべきもの。
 そして自分が『トラエスト』を使った時にも感じることができた力の流れ。
 その2つは、全く同じものだと思えた。

「つまりこの2つの力は、魔力と魔法を介して使うか、精神力とペルソナを介して使うかの違いだけで同じものだということです」

「ふむ……興味深いの」

「そして、私の使うペルソナは子供には呼び出すことができません。あ、いや、ルイズが子供だと言っているわけではなく……」

 予防線を張っておく。
 案の定、ルイズは自分の体を見つめていた。そして番長を睨みつける。予防線は無駄だった。

「ふ、普通の魔力ならば。それこそ子供のうちに制御することもできるのでしょうが……」

「ミス・ヴァリエールほどになると、難しい……というわけじゃな?」

 番長が再び頷く。

「心身の成長が必要なのだと思います。―――特に心の成長が」

「ふむ」

「じゃ、じゃあ……」

 ルイズが頼りなげに呟いた。

「私が大人になるまで制御できないってこと? 魔法の使えないメイジのままってこと?」

 不安そうに番長を見つめる。
 その声はかすかに震えていた。

「……そうとも限らない」

 ペルソナを生み出すきっかけは、その試練は、自分の弱い心と戦うことである。立ち向かうことである。
 そしてそのペルソナもまた、心のありようで成長していく。
 番長は、仲間との絆を通じてその半身を大きく成長させていく仲間の姿を思い出していた。
 そして、自分自身もまた―――

「ルイズ、大事なのは心だ」

「心……」

「身体の成長は、時間が経つのを待つしかない。でも心は、自分のありようによっていくらでも大きくなれる」

 そう言って番長は自分の胸を叩いた。

「ルイズならできるさ。誰よりも努力家で、誰よりも責任感が強くて、誰よりも誇り高いルイズなら」

 そんな番長の姿が、ルイズにはどこまでも大きく見える。

 ああ、なんということだろう。
 この使い魔は。この頼もしい私の使い魔は。
 どこまでも私に力をくれる。どこまでも私に勇気をくれる。

 ルイズは、自然と胸を張った。

「わかったわバンチョー。私、やってみせる」

 番長とルイズが頷きあう。
 そんな2人に、微笑ましげな3人の視線が集った。

「うむ、ワシの考えも使い魔殿とほぼ一緒じゃ。いや、今の話でより確信を得た」

「そこでじゃ」

 オスマンは、一つ咳払いをして続けた。

「我々の魔法と同じものという君の力を、今見せてくれんかね?」

 オスマンの視線が、教育者のそれから研究者のそれに変わる。
 番長は深く頷いた。

 はたして、この人たちをそこまで信用していいものだろうか。
 人が未知のものに触れたときに持つ感情は2つ。一つは好奇、もう一つは恐怖。
 番長の世界では遥か昔、魔女狩りというものがあった。
 未知で奇異なるものに対する恐怖。異端に対する理不尽な排除と殺戮。
 それは後に、快楽的暴力の建前として使われることも多くなった。
 科学の発展に伴い、好奇による探究という形に置き換わった部分もある。
 それらが理不尽な牙として、自分とルイズに襲いかかってこない保証はない。

 しかし番長は、その考えを振り払った。
 考えるな、感じるんだ―――そう言って胸を張る、一人の少女の姿を思い出す。
 思い出の中の少女は、愛屋でスペシャル肉丼を瞬く間にたいらげていた。
 得意気にVサインを付きつけるその笑顔が、たまらなく好きだった。

 オスマンのルイズに向けられた温かな微笑みを思い出す。

「ペルソナ……ピクシー!」

 青白い閃光を伴って、30サント程の大きさの少女が現れた。
 背中にある昆虫のような羽根を羽ばたかせながら、番長のまわりにまとわりつくよう宙を舞う。

「おお……」

「……!」

「なんと……これは……」

「……妖精!?」

 その場にいる番長以外の4人が4人とも、驚きに目を見開いていた。

「まさか……本当に妖精がいるだなんて……」

 番長はちょっと得意気になった。
 ピクシーは自分自身のペルソナ以外で初めて手に入れたペルソナである。
 それ以来、どんなに敵が強くなろうと、どんなに苦しい戦いになろうと、
 どんなに仲間から責められようと、常にストックの中に入れていた。
 時には効率よりも趣味を優先させる男、それが番長である。カーシーもまた然り。

「ふぅん……アンタもそんな顔するんだ」

 ルイズが何故か嬉しそうに番長を見ていた。
 普段はあまり感情を表に出さない番長である。特に自慢気な笑みを浮かべるのは、そうあることではなかった。

 コホンと顔を軽く赤らめながら咳払い。
 ルイズがクスクスと……いや、クックックと意地悪そうに笑っていた。

「あ~……え~と、それでは……」

 照れ隠しに番長が、力―――番長たちは"スキル"と呼んでいる―――を振るおうとした時、その表情は戸惑いに変わった。

「……? どうしたのよ。さっさとやんなさいよ」

「いや……」

 ペルソナのスキルは、メイジの魔法のような微妙な出力のコントロールはできない。
 ペルソナの魔力が高ければ高いだけの破壊力を生み出してしまう。
 最初に手に入れたピクシーの『ジオ』でさえ、番長とともに成長した今、低級のシャドウならば一瞬で蒸発させてしまう。
 ここで放てば、最低でも学院長の机くらいなら粉々に吹き飛ばしてしまうだろう。

「……困ったな」

「どうしたんですか?」

 興味津々で注目していたコルベールが、番長に声をかけた。

「いや……一番わかりやすいのは攻撃スキルだと思ったんですが……」

「スキル?」

「ペルソナが持つ特殊能力のことです。私たちはそう呼んでいます」

「ふむ、なるほど"すきる"ですか……」

「これ、出力の調整が難しいんです。一番弱いスキルでも、最低でもその机を吹き飛ばします」

「なんと……」

 オスマンが複雑そうな顔をする。
 その机になにか愛着でもあるのだろうか。

「攻撃……すきると言ったかの。それ以外にはなにができるのかね?」

「そうですね、昨日脱出に使った『トラエスト』もスキルの一つですが……。
 あとは肉体を一時的に強化したり、逆に相手を衰弱させたり、怪我の治療をしたりですか」

 まさか、ここで誰かにわざと怪我をさせるわけにもいかない。

「その治療というのは、どこまでのことができるのかね?」

「そうですね……死にかけの半死人を全快にできます。
 腕がもげようが脚が焼けようが内臓が飛び出していようが、一瞬で元気いっぱいになれますよ」

 さわやかな笑顔で番長が言い放った。
 全員が肩を抱いて悶え転がってていた。

「と、とんでもないのうそれは……」

「あとは老化させたり……」

 ビクッとロングビルの肩が跳ねた。

「眠らせたり、混乱させたり……ああ、相手のスキルや攻撃を反射したりもできますね」

「反射?」

「ええ、先ほども言ったとおり、魔法とスキルは同質なものだと考えられますから……と、そうだ」

 番長が思い出したように、ピクシーを引っ込めた。
 ああ~……とピクシーに興味津々だったルイズが残念そうな声をあげる。

「ルシフェル!」

 再び、青白い閃光とともにペルソナが出現する。
 その姿は、六枚の羽根をもつ大天使。
 先程のピクシーとは打って変わった神々しい姿に、その場にいる全員が息をのんだ。

「……素晴らしい」

「え~っと、誰か火の魔法が得意な方はいますか」

「私ですが……なにか?」

 コルベールが、その声に応え前に出る。

「じゃあ、その火の魔法で私を攻撃して下さい」

「……!」

 驚いたのはコルベールだけではない。

「……『反射』して見せようということかね?」

 オスマンが真剣な眼差しで番長に問いかけた。

「いえ、それではミスタ・コルベールが危険です。とりあえずスキルを見せるのは難しそうなんで、かわりに特性をお見せしようかと」

「特性……とな?」

「はい、ペルソナはそれぞれ得意とする属性の他に、耐性を持っています。
 それは単に耐久力だったり、先ほど言った反射を自身の防御特性として持つ者もいます」

「……ふむ」

「今はわかりやすいように、ペルソナを呼び出した状態でお見せしていますが、その耐性は本来呼び出さなくても……
 なんて説明したらいいのかな……そのペルソナを『選択』しているだけでその特性を発揮します。
 この『ルシフェル』は、火系統のスキルをその強弱に関わらず無効化することができるんです」

「ほう……」

 オスマンが片眉を吊り上げる。

「百聞は一見にしかずということで、見てもらおうと思ったんですが……」

 『火』の使い手として名乗りをあげたコルベールが難しい顔で俯いていた。
 己の杖を、痛いほどに握りしめている。

 ジャン・コルベール。その二つ名を『炎蛇』のコルベールという。
 かつてトリステイン王国魔法研究所実験小隊の小隊長を務め、メイジとしてだけではなく『戦士』としても高い実力を持つ男だった。
 その男の脳裏に「ダングルテールの虐殺」と呼ばれる戦闘とその真相の記憶が蘇る。
 その記憶は、非道と悲劇の色に塗りつぶされていた。

「私は……」

 それ以来、彼は自らの『火』を戦闘に使うことを封じている。
 それを知るのは、コルベール本人とおそらくオスマンの2人だけだ。

「ミスタ・コルベール?」

 ロングビルが怪訝な表情でコルベールに声をかけた。
 オスマンは、ただ黙ってその様子を見守っている。

 自分は教師だ。生徒を導くために教鞭を振るう者だ。
 なにを迷うことがある。わざわざ自身のトラウマと秤にかけるまでもない。
 生徒に手本をみせる目的で火の攻撃魔法を使ったこともある。問題ない、ただの見世物だ。
 彼はあんなに自信たっぷりじゃないか。無効化するというのだから、きっとそうなるのだろう。
 だが―――万一ということもある。

 コルベールは、人に杖を向けられない。

「……なにか事情があるみたいですね。仕方ありません、別の……」

「―――待って下さい」

 コルベールは、番長を呼びとめた。

「いいんですよミスタ・コルベール。別に無理にやっていただく程のことじゃ……」

「いいえ、やります」

 コルベールはルイズを見る。
 この小さな少女は「やってみせる」と胸を張った。
 ここに入室した時、彼女は虚勢を張りながらもその瞳に不安を湛えていた。
 今も彼女の問題が全て解決したわけではない。少女の歩む道のりは、今だ深い霧に包まれたままだ。
 だがどうだろう、この小さく頼りなげな少女は。自分の使い魔に背を押され言ってのけたのだ。
 「やってみせる」と。

 自分は教師だ。生徒を導く者だ。その背を生徒の見本とする者だ。
 彼女が踏み超えた階段の最初の一段を、教師である自分が踏み外すわけにはいかない。

「本気でいきますよ」

「……どうぞ」

 コルベールが呪文の詠唱を始めた。
 杖の先に灯った小さな炎が、たちまち巻いて膨れ上がる。
 大蛇の姿を持つ炎が、炎の姿を持つ大蛇が、けたたましい咆哮を上げる。
 『炎蛇』のコルベール、その本領である。

「……ほぅ」

「スゴイ……バ、バンチョー、本当に大丈夫なの?」

 番長は頷く。
 自信はあった。もとより魔法の強弱は関係ないのである。
 だが同時に戦慄と畏怖を覚える。威力だけなら『マハラギ』いやそれ以上か。
 まともに喰らえばただでは済まない。広範囲に放たれれば学院長室くらい軽く消炭になるだろう。

「いきます!」

 はたして、コルベールの杖は振られた。
 全てを飲み込む炎蛇の顎が、番長に喰らいつかんと襲いかかる。

「バンチョー!」

 しかし。

 番長の頸に炎蛇の牙が突き刺さらんとした瞬間、それはあっさりとかき消えた。何事も無かったかのように。
 炎蛇に収まりきらなかった炎の余波でさえ、何者も焼くことなく瞬時に消滅している。

「むぅ……」

 オスマンが冷汗を浮かべて唸った。

「……はは」

 コルベールが引き攣った笑いを浮かべている。

 ほらみろ、どうってことではなかったではないか。
 これは唯の見世物、ペルソナの実験。こんなことで己のトラウマが払拭されるはずもない。
 だが―――

「……ありがとう、ミスタ・バンチョー」

「……え?」

 番長に握手を求めるコルベールの姿は、ほんの少しだけ胸を張っていた。

「は、はぁ……」

 それに応える番長が、気の抜けた返事を返す。
 学院長の席では、「ほっほっほ」とオスマンがにこやかに笑っていた。

「え、えーと……」

 何を言われたのかわからない番長は、首を傾げながら再び話し始めた。

「ちなみにですが……この『ルシフェル』は昨日のルイズの魔法と同じスキル……『メギドラオン』を使うことができます」

「なんと……」

「まあ、威力は数段落ちますが」

「威力が落ちると言うと……どれくらい?」

 ロングビルが、普段の口調とは微妙に違う声色で尋ねる。
 その額には冷汗と――別のなにかが原因と思われる汗が伝っていた。

「そうですね……」

「30メイルの大穴があくぐらい、だそうです」

 少々蚊帳の外に置かれていたルイズが―――本当はそんなこともなかったのだが―――呆れたように代弁した。

「……本当にとんでもないのう」

 オスマンもまた、驚きを通り越して呆れたような口調で呟いた。

「その……ぺるそーなの特性には、『土』の属性を打ち消す物もあるのですか?」

 普段、あまり話に割り込むようなことをしないロングビルが番長に問いかけた。

「いえ……ペルソナの属性に『土』はないんです。
 ペルソナの持つ属性は『火』『氷』『雷』『風』と『光』『闇』、そして『物理』という直接攻撃です。
 『水』は『氷』で対応できると思いますが、『土』はちょっと難しいですね」

「そう……ですか」

(……?)

 ロングビルの言葉に、安堵の響きがある。
 その声色に番長が疑問符を浮かべたが、特に言及はしなかった。
 コルベールが火の攻撃魔法に悩んだように、ありがとうと握手を求めたように、人それぞれ思うところがあるのだろう。

「そのことから、魔法とスキルは厳密に同じものとは言い切れませんが、
 先ほど火の魔法を打ち消したように、逆説的には同じものと言えると思います」

「ふむ、ようわかった」

 オスマンの表情が真剣味を帯びる。
 椅子から立ち上がり、窓の外を眺めながらオスマンは言った。

「しかし使い魔殿、そのぺるそなとやらはあまり人前で使ってみせるべきではないのう」

「そうですね」

 わかっていますとばかりに番長は頷いた。
 もし悪意を持つ者に目をつけられたら、どんな危険が降りかかるかしれない。
 自分だけならばいい。もしその魔の手がルイズにまでおよんだら―――

「それから、その左手の紋章じゃが」

 オスマンが番長の左手を指でさす。

「名を、ガンダールヴという」

「ガンダールヴ?」

 確か召喚された時に、コルベールの口から似たような単語を聞いた。
 ルイズの顔が「えっ!?」という形で固まる。

「始祖ブリミルに仕えた伝説の使い魔の一つ。『神の左手』『神の盾』とも呼ばれた使い魔の左手に記された紋章じゃ」

「伝説の使い魔……」

 そう言われても番長にはピンとこない。こちらの世界の文化や伝統、伝説にはトンと疎いのだから仕方がない。
 だが『神』の名を冠するというだけで、それがどれ程大きな意味をもつのかは想像できた。

「これもまた然り、ということですか」

「ほっほっほ、話が早くて助かるわい」

 オスマンは番長たちに顔だけを向けて愉快そうに笑った。

「ガ、ガンダールヴ……それは本当なんですか学院長! その、勘違いということは……」

 ガンダールヴの名を聞いてから、一時固まっていたルイズが飛び跳ねたように声を上げた。
 まさか自分が、そんな大それた者を呼んでいたなんて。

「ワシらも最初、半信半疑じゃった。じゃが先ほどのぺるそなを見せてもらったおかげで、ほぼ確信に変わったわい。そして……」

 オスマンがゆっくりと振り向き、番長に手を伸ばす。

「コレを使ってみなさい」

 オスマンの手に握られているのは、一振りの短刀である。
 柄を含めて50サント程はあるだろうか。
 煌びやかな装飾を施されたその短刀は、鉈のように重厚でありながら、剃刀のように鋭利な鋭さを想像させた。

「短刀は得意じゃないんですが……」

「なら、なおさらええわい」

 オスマンが意味あり気に笑う。

 短刀といえば、花村陽介が得意とする武器だった。
 短刀といえば花村、花村といえばジュネスである。
 軽やかに短刀二刀流を振り回す花村を思い出しながら、番長はそれを受け取った。

 鞘から刀身を抜く。透明感のある音を立てながら、刀身の輝きが陽光に翻った。
 その瞬間、番長の左手に刻まれた紋章が淡い光を放つ。

「これは……」

 体温が0.3度加熱される。
 魔力の奔流を感じた『アナライズ』もどきの力が、体中を駆け巡るなにかを正確に感じ取っていた。

「……んっ!」

 斬り上げるように一振り。体が軽い。
 自分では使ったことのない短刀の使い方が、頭ではなく体で理解できる。
 2つ、3つ、4つ5つ6つ!
 横薙ぎ・袈裟斬り・突き・振り下ろし・逆手斬り。流れるように体が動いた。
 その姿は、まるで剣舞を舞っているようでもある。

「どうじゃね?」

 番長が動きを止め、構えをといたのを見計らってオスマンが訪ねた。

「すごいですね……まるで達人にでもなった気分です」

「やはり……か」

 満足したように、それでいてこの先を危惧するようにオスマンが呟く。

「これは、誰にも知られる訳にはいきませんね……悪意を持つ者には特に」

 その危惧を撥ね退けるように番長がそう返す。

「!……ほっほっほ、不思議な男じゃな、使い魔殿は。ワシ『も』惚れそうになるわい」

「ブフォッ!!」

 噴いた、盛大に。
 何故か完二の姿が思い出される。何故か。なんでだよホントに。
 もっといいところで思い出してやれよ。

「な……なにを言っているんですか学院長! 男同志ですよ!」

 ルイズが怒りと、なにやらわからないもので顔を赤く染めて怒鳴る。

「ほっほ……『も』には突っ込まないんじゃな?」

「なっ……」

 さらに赤くなった。

「なにを言っているんですか! コ、コイツはそういうのじゃなくて! その……
 つ、使い魔としては……ごにょごにょ……ですけど! ですけど! それに、私には……!」

「あ~……わかったわかった、スマンスマン」

 オスマンに「どうどう」と制され、ルイズはふくれっ顔でヴ~ッと唸っている。
 番長は大いに笑いたかったが、飛び火するのを恐れて我慢した。

「その短刀は使い魔殿にわたしておこう」

「いいんですか? ずいぶんと高価そうな短刀ですが……」

「なあに、貸すだけじゃ。それを持って左手の紋章を隠しておけば、なにかあっても達人で通るじゃろ」

「……そうですね。ありがたくお借りします」

「うむ」

 そうして一通り話も終わり、オスマンが解散宣言をしたその直後だった。
 ルイズが学院長室の扉に手をかけようとしたのを、番長が制止した。

「なによ、なんかあったの?」

「……2人……か」

 番長が真剣な表情で扉を、いや、扉の奥を見つめている。
 そのただならぬ様子を感じ、ルイズも一歩下がる。

(『アナライズ』もどきの次は、『エネミーサーチ』か……)

 番長は扉の向こう側で息を潜める何物かを、敏感に感じ取っていた。
 殺気や敵意は感じ取れない。それともそれを隠せるほどの達人か。
 まるで、りせがルイズを守るために―――もしかすると番長を守るために―――力を貸してくれているように思えた。
 いや、あの娘なら逆に対抗意識燃やしまくりだろう。あくまで健全に。
 もしかすると、これもガンダールヴの効果なのかもしれない。

「俺が開ける」

「う……うん……」

 部屋全体に、一匙の緊張感が充満した。

 扉に手をかける。
 開くと同時に、番長が短刀を鞘から抜き放った。

 正面に女性らしき影。もう一人は子供か?
 その正体を確認する前に、番長は動いた。
 短刀を持たない手で逆肩を制し、それを支点に背後へ回る。

「きゃっ!」

 その喉に腕をかませる。もう一人の子供の喉元に短刀を突き付た。
 この間0.8秒。正に達人の技である。

「―――何者だ」

 低い静かな声で尋問する。
 腕はいつでも頸動脈を締められるように力を込めた。

「ちょ……ま、まって、私、わタシ、キュルケ、ヘイキ、アンゼン、キケンナイ!」

 赤髪で褐色の肌をした少女が、何故かカタコトで答えた。

「キュ……キュルケ!? タバサまで! なにやってんのよアンタたち!」

 少女はルイズのクラスメイトであった。確かツェルプストーといったろうか。
 もう一人の子供はルイズにタバサと呼ばれていた。
 こちらも教室で番長と目が合った少女である。

 そう確認すると、番長はゆっくりとキュルケから腕を放した。
 短刀から解放されたタバサは、信じられないものを見たような目で番長を見ている。

「なにやってんのって……盗み聞きに決まってるじゃな~い」

 キュルケという少女に悪びれた様子はない。

 ルイズとキュルケは、言わば不倶戴天の敵である。
 トライアングルの実力と豊満かつ官能的な肢体を持ち、自信に充ち溢れたキュルケ。
 魔法を使えずゼロのルイズと蔑まれ、無限平野なルイズ。
 どこまでも正反対のこの2人が顔をあわす度に火花を散らすのは、ある意味当然とも言えた。
 喧嘩するほど仲が良いともいうが、それが言葉通りかどうかは本人たちのみぞ知るというヤツである。

 そしてそれは、互いの家同士も同じだった。
 ヴァリエール家とツェルプストー家は国境を挟んだ隣にあり、トリステインとキュルケの実家があるゲルマニアの戦争ではしばしば杖を交えている。
 さらにはツェルプストー家がヴァリエール家の恋人を先祖代々奪ってきたという因縁があり、それらの事実が両家に大きな溝を作っている。

「決まってるじゃな~い、じゃないわよ! だいたいアンタね……」

「それで……どこから聞いていたのかね?」

 捲くし立てようとしたルイズの声が何者かの声で制される。
 声の方向にはいつのまにかオスマンが、その後ろにはコルベールとロングビルが立っていた。
 部屋奥の窓から差し込む光が影を作り、表情は見えない。

「あ……」

 教員たちのことをすっかり忘れていたのか、キュルケは慌てて佇まいを直す。

「え、え~っと、盗み聞きっていうのは冗談で……その、私はルイズが心配で……」

「心配ぃ~? アンタがどの口でそんなこと言うのよ!」

「……半分は本当」

「……タバサは余計なこと言わなくていいの」

 自分で言っておいて、なにを言っているのだろうか。
 番長が気付かれないようにクスリと漏らす。
 どうやらこの2人、剣幕ほど仲が悪いわけではなさそうだ。

「……どこから聞いていたのかね? と聞いておるんじゃがのう」

 飄々とした口調とは裏腹に、その声には重々しい威圧感が込められている。
 キュルケにとって飄々としたスケベジジイでしかない学院長が見せるその一面は、彼女に冷汗をかかせた。

「え、え~っと」

「……大いに不満です、あたりから」

 タバサが横から答える。

「ほとんど最初からじゃないのよ!」

 そう叫んだ後、ルイズは困ったように天井を仰いだ。
 今回ばかりはいつものように罵り合ってすむ話ではない。

「ふ~……聞いてしまったものはしかたないのう。とりあえず2人とも中に入りなさい。こんなところでできる話でもないでな」




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